こんにちは、ちゃむです。
「転生令嬢は治療スキルで異世界のみんなを救おうと思います」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
21話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 最初の客
患者を連れて来いとしか説明しなかった私が悪かったのだろうか。
少し考えてみたが、やはり双子のほうが悪いという結論に至った。
普通、いくら具合の悪い人だからって、縄で縛り上げて連れてきたりするだろうか。もっと慎重に扱うものではないだろうか。
ため息をぐっと飲み込み、私はなんとか自分を宥めた。けれど、足枷まではめられた目の前の女性を見ていると、呆れて言葉も出ない。
私の代わりにマリアが口を開いた。
「まずは治療をしたほうがいいんじゃないですか?」
「うん……そうだね」
今は双子の説教をしている場合じゃない。
私が一歩近づくと、女性は激しく身をよじらせた。衰弱しきった体からは想像もつかないほど、必死の抵抗だった。
「んーっ、ん! んーーっ!」
ガシャン、と重苦しい音を立てて鉄製のベッドが揺れた。
手足を縛られ、口を塞がれたまま暴れる姿は、まるで拷問器具にかけられているかのようだ。
――うわぁ、ひどい光景。
車輪付きのこの鉄製ベッドは、前世の記憶を頼りに特注したものだった。正直なところ、病院の開院準備が終わったら、このベッドに乗って廊下を走り回ろうかと一瞬本気で考えたこともある。レオンに押してもらおうか、それともイアンに頼もうか。レイヴンに頼んだら絶対嫌そうな顔をされるだろうな、なんて呑気な悩みを抱いていたのだ。
七歳で開業なんて早すぎるんじゃないかとか、最初から三階建ての建物を丸ごと使うなんて大げさすぎるんじゃないか――そんな私の考えは、この惨状を前にして完全に吹き飛んでしまった。
「ねえ、そんなに驚かないで……」
「うわああああっ!」
私が手をほどくと同時に、女性は弾かれたように後ずさった。双子のほうへ視線を向けると、二人は「ほら、私たちの言った通りだろ? 誘拐するしかなかったんだ」とでも言いたげな顔をしている。
「得意げな顔をしないで! 全部あなたたちのせいなんだから!」
「俺たちが何をしたっていうんだ?」
レオンは悪びれる様子もなく肩をすくめた。
「ただでさえ精神的に不安定な人を誘拐したのよ!」
「頑固さがなくなるまで放っておいたら、死んでいたかもしれないだろ?」
「だからって、ちゃんと説得するべきだったの!」
イアンとレオンはきょとんとした表情で私を見つめ返してきた。二人の顔には「説得? どうして?」という素朴な疑問が浮かんでいる。
イアンは不満そうな私の視線に耐えかねたのか、気まずそうに付け加えた。
「分かったよ。次からは、せめて一言くらい声をかける」
「…………」
それを妥協案だと思っているらしい。
マリアが私の耳元で小声でささやいた。
「双子にとっては、シャナ様以外の人類はみんな同じなんです。どうかご理解ください」
「何を理解しろっていうの……」
もうすでにどっと疲れが押し寄せていた。そうでなくても、今日は師匠から散々なことを言われた日なのだ。
「早く治療して、休ませてあげないと」
私は思考を切り替え、応急処置を優先することにした。慎重に気を込め、治癒魔法を発動して少女の体へ流し込む。相当症状が重いのか、私の手から漏れた光が、皮膚の上で咲くように広がっていった。
「……ん?」
違和感があった。治癒の力が体内へ浸透していく速度が、異常に遅い。
(な、何これ……?)
「サナ様、どうされたのですか?」
「おかしい。ただの感染症じゃない気がする」
私の魔法を受けているにもかかわらず、少女が楽になった様子は微塵もなかった。
うめき声を上げ、赤く火照った顔を歪ませる。そして、頬骨のあたりから、私をじっと見つめる視線が戻ってきた。どうやら意識ははっきりしてきたらしい。
最初は私の胸と頭に向いていた視線が、今では一点――私の左足だけに注がれている。
(そこだ!)
私はベッドの上へ跳び乗り、女性の足首を掴んだ。
両足は縛られていたものの固定されていたわけではなかったため、女性が足を振り払うと、私は細い足首を掴んだまま体勢を崩し――あっ!
「お気をつけください、シャナ様」
「エブリン、ありがとう」
いつの間に近づいていたのだろう。エブリンが、女性に蹴られそうになった私を絶妙なタイミングで支えてくれた。
痙攣する少女は私の背中に倒れ込み、片手で私の足首をぎゅっと掴んできた。
(どこを触ってるの、この痴女……!)
「レオン、イアン、押さえて!」
「言われなくても」
「そのつもりだったよ」
エブリンが女王のように命じると、待っていましたと言わんばかりにレオンとイアンが少女の肩を押さえつけた。
「押さえつけないで! 優しくして!」
「うちの主人は注文が多いな」
レオンは軽口を叩いたが、その言葉を聞いた少女は何かのスイッチが入ったかのように、さらに激しくもがき始めた。
口を塞ぐ布を噛みしめながら、私に噛みつこうとするかのように身をよじる。その瞳孔は鋭く収縮し、殺気立った目でこちらを睨みつけていた。
(……正直、少し感動しちゃうな)
ここまで誰かに執着されたことなんて、前世を含めても一度もなかった。同情なら嫌というほど買ってきたけれど、こんな力強い感情を向けられたことはない。
「エブリン、足首をしっかり押さえていて」
「お任せください」
エブリンの手が添えられると、少女の足首はぴくりとも動かなくなった。
私はぼろぼろになった女性のズボンをめくり上げ、禍々しい気配を放つ痣が広がっている部分を確認する。
「これは……?」
「『奴隷の烙印』ですね」
マリアがちらりと一瞥して言った。エブリンもすぐにピンと来たようだ。
「その痣みたいなの……火傷なの?」
「魔法契約の証です。普通は首輪を使いますが、抵抗の激しい奴隷には刻印を施すこともあります」
マリアは小さくため息をつきながら付け加えた。
「こんな物騒なこと、知ってほしくはなかったんですけどね」
もし私が本当の七歳の子どもだったなら、ショックを受けて泣き出していたかもしれない。
けれど、私は違う。もっと長く生き、多くの知識を蓄えてきた。その中には、不合理な身分制度や人種差別、そして奴隷制度という理不尽な現実も含まれている。
私が息をのんでいる間にも、奴隷の烙印は周囲の痣を貪るように吸収し続けていた。
「この奴隷の烙印には、逃亡防止の制約も含まれているの?」
「個体によって違いますね。アナイス様をお呼びしましょうか?」
母は七級魔法使いだ。呪いの解除についても何か知っているかもしれない。けれど、私は首を横に振った。
「奴隷の烙印が、消え始めているわ」
「まあ、本当ですね!」
マリアが明るい声を上げる。
(うん、私もこういう魔法は初めて見るんだけど……)
マリアはいい子なのだが、時々決定的に空気が読めない。
「さすがサナ様です!」
「マリア、少しは空気を読んで」
一言余計なのだ。静かに見守っていればうまくごまかせたかもしれないのに。
「サナ様、まだ何か残っています」
エブリンが低く呟いた。
マリアの能天気な発言にも動じることなく(珍しいことだ。普段なら一緒になって私をからかうのに)、冷静な目で少女に掴まれた私の足首を見つめている。
「なんだか、様子がおかしいです」
エブリンは私の前では、たまにネジが飛んだように楽しそうに笑うだけだったから、こんな冷徹な表情を見るのは新鮮だった。
「これはどういうこと……?」
「うっ、ううっ……!」
「どうしてこんなに力が強いんだよ!?」
レオンが信じられないといった様子で呟いた。
相手を傷つけないように配慮しながら押さえつけるのは、熟練の剣士にとっても至難の業だ。イアンの表情も余裕を失っている。
私はひとまず女性の治療を優先することにした。
残った痣を霧へと変え、女性の全身を優しく包み込む。ついでに、必死で押さえていたレオンとイアンの疲労もついでに回復させてあげた。
幸い、激しく抵抗していた少女も体力を使い果たしたのか、ほどなくして深い眠りに落ちた。
おかげで、私の足首に残された「痕」を観察する余裕ができた。
親指の爪ほどの大きさの円の中に、小さな花のつぼみのような繊細な模様が刻まれている。
(……何、これ)
「これは何でしょう?」
「分からない。初めて見るけど……」
思わず手を伸ばして触れた瞬間――すっと自分の何かを吸い取られるような感覚が走り、慌てて手を引っ込めた。
(うわっ、頭のてっぺんをぐいっと引っ張られたみたい……!)
「どうしたの?」
イアンとレオンが不思議そうに私を見つめていた。マリアとエブリンも同様だ。
私はさっき感じた強烈な違和感を、とっさに隠すことにした。無用な心配をかけたくなかったし、話したところで「この患者に関わるのは諦めたほうがいい」と止められるのが目に見えていたからだ。
「シャナ?」
「うん、問題なく治癒が通ったわ」
要領を得ない誤魔化しだったせいか、イアンが疑わしそうな目を向けてくる。私はしれっと知らないふりを貫いた。
「マリア、お母様を呼んできて」
このまま治癒魔法を流し続ければ、この謎の痕も消せる気はした。けれど、その前に正体を確認しておいたほうが安全だろう。
「サナ様を一人にはできません。忘れたんですか? 私が同行することが、ここに来る条件だったでしょう」
「緊急事態だったんだから仕方ないでしょ? 分かってくれるよね?」
「イアンが同じことを言ったときは呆れた目で見ていたくせに、自分は同じ手を使うんですか?」
「私が言うほうが説得力があるでしょ?」
イアンとレオン、そしてマリアまで、三人そろって「何言ってるんだこの子は」という全く同じ呆れ顔を向けてきた。私は平然と胸を張る。
「分かりました。でも、絶対に病院の外へは出ないでくださいね」
「もちろん。私だって自分の安全が一番大事なんだから」
「……って?」
私は顎に手を当て、レイヴンの特徴的なしかめっ面を真似してみせた。
こんなことを本人の前でやったら、本気で首を絞められそうだ。もう少し大きくなったら本気で殴られるんじゃないかと本気で心配になる。
だが、マリアには私の渾身のモノマネは通じなかったようだ。
彼女はまるで孫の成長を見守る祖母のような、温かい笑みを浮かべて言った。
「エブリン、シャナ様のそばを離れてはいけませんよ」
「はい」
「命に代えてでもお守りするのです。いいですね?」
「お任せください!」
(……物騒なこと言わないでよ)
「それに、工事が終わればアナイス様が院長室に転移陣を設置してくださるそうですから、すぐにお呼びできますしね」
そう言い残すと、マリアは迷いなく窓から外へ飛び降りていった。
もう今となっては、人が三階の高さから飛び降りても驚かなくなってしまった。はは。
レオンもイアンもエブリンも、暇さえあれば窓から飛び降りる。できないのは私だけだ。
「あ、そうだ。レオン、イアン。二人は隣の部屋へ行って、ロンを呼んできて」
「レオン、お前が行け」
「イアン、お前が行け」
双子らしく、実に息の合った譲り合いだった。
私は実に公平な人間である。どちらか一方を選ぶくらいなら、二人まとめて使役することにした。
「二人とも一緒に行ってきて」
さっきまで「主人だ」「主君だ」と威張っていた二人は、揃って不満そうに私を見た。
「シャナ様に二度も言わせるつもりですか?」
エブリンが冷ややかに言い放つと、二人は観念したように肩を落として歩き出した。
(……ねえ、エブリンのほうが主君みたいじゃない?)
私の立場は一体どこへ行ったのだろう。
私には生まれつきカリスマなんてものが存在しない。その現実はとっくの昔に受け入れて諦めているけれど、両親があれほどカリスマ性に溢れているのに、なぜ娘の私には「カ」の字すらないのか、本当に世界の不条理を感じる。
はあ……。
「サナ様、お降ろししましょうか?」
「一人で降りられるよ」
私の意思など突っぱねて、エブリンは私の脇の下に手を回すと、軽々と持ち上げてベッドから降ろしてくれた。
力持ちな私の友達……。これからも仲良くしていこうね……。
「ぐっすり眠ったようですね。ではサナ様、お茶を一杯――」
「持ってきますので、少々お待ちください」
「うん、ありがとう」
エブリンはベッドの横に椅子を運んでくれた。
私はいったん腰掛けたものの、すぐに立ち上がった。女性の手足を縛っている縄をほどいてあげるためだ。
(眠ってしまったなら、もう暴れないわよね)
足の縄は簡単に解けたが、手首のほうはどれほど強く縛られていたのか、固く結ばれていた。
私は椅子を踏み台にしてベッドに上がり、指先にぐっと力を込める。幼い頃から自らの力を扱ってきたおかげで、体格のわりに握力には自信があったのだ。ふふっ。
きっとレオンとイアンは、絶対に逃げられないようにガチガチに縛ったのだろう。それに少女が暴れたせいで、縄が食い込んで解けなくなっていたのだ。
私が治療したおかげで手首の腫れや傷は消えていたけれど、骨ばって細くなった手首を見ていると、胸が痛んで思わずそっと撫でてしまった。
口を塞いでいた布を外し、もつれた髪を整えてあげる。
どれほど長い間、まともな食事を与えられていなかったのだろう。少女の体は痛々しいほど削ぎ落とされていた。鎖骨が皮膚を突き破りそうなほど浮き出ている。
「手首が折れてしまいそう……」
こんな姿になるまで、どれほど辛い思いをしてきたのだろうか。
細い手首にそっと触れていた、その時だった。
突然、眠っていたはずの少女が――私の手をぎゅっと強く掴んだ。
眠っている無意識の力だというのに、私に負けず劣らず強い握力だった。
(うっ、ちょっと痛い……結構痛い、うぅ……!)
「うっ、ううっ、う……」
「悪夢でも見ているのかな……」
攻撃しようとしているわけではなく、恐怖に震える拍子に無意識に力が入ってしまっているようだった。
こういうことはよくある。私も昔、長いこと悪夢にうなされた時期があったから気持ちは痛いほど分かる。ミナだって、両親を亡くした直後は毎晩のようにうなされていた。
「よしよし、大丈夫。ここは安全だからね……」
私は手を握られたまま椅子に座り直し、空いた手で頬杖をついた。
エブリンがお茶を持って戻ってきてくれたけれど、とても手を離せるような状況ではない。優雅にお茶を飲んでいる雰囲気でもなかった。
仕方ない。
「……ふぅ」
じんと痺れるような痛みを抱えながら、私は少女が落ち着くのを待つことにした。幸いにも、その痛みは十分に耐えられる程度だった。
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強引な患者の連行と治療の開始
双子(レオンとイアン)が衰弱しきった女性患者を縄で縛り上げて「誘拐」してきたことに主人公は呆れ果てますが、気を取り直してすぐに治癒魔法による応急処置を始めます。
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奴隷の烙印と「謎の痕」の発見
患者の体に刻まれた「奴隷の烙印」を治療する過程で、主人公は触れると自分の力を吸い取るような「花のつぼみのような未知の模様」を発見し、強い違和感を覚えます。
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周囲への隠蔽と患者への深い思いやり
「治療を諦めるべきだ」と周囲に止められることを危惧した主人公は、謎の痕について仲間たちには隠し通します。そして、悪夢にうなされて強く手を握ってくる患者に対し、自らの痛みを堪えながら優しく寄り添い続けました。