憑依者の特典

憑依者の特典【160話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「憑依者の特典」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【憑依者の特典】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「憑依者の特典」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...

 




 

160話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 終着点の再会

原作ではミュエリナスは、リードが世界の敵として認定された後にようやく動き出した。だから今はまだ警戒する必要はないと思っていた。

だが、その考えは改めた方がよさそうだ。

私は深呼吸ともため息ともつかない息を吐いた。白い吐息が空気に溶けていくのを見ながら肩をすくめる。

「これから先は、ますます波乱の連続になりそうですね」

そして再び歩き出した。
残る関門は、あと一つだけ。あと三日ほど、これまでと同じ苦労をすれば終わるのだと自分に言い聞かせた。

――だが、その時。

「……あれは何ですか?」

最後の試練は、階段だった。

「はぁ……」

平坦だった道は、いつの間にか険しい岩山へと続いていた。現実を否定したかったが、どう見てもその岩山の頂上が終着点らしい。しかも頂上は雲に隠れていて見えない。

私は思わず目頭を押さえた。

「世界を救う存在さん……少しやりすぎではありませんか?」

すると、神の声が返ってきた。

【『世界を救う存在』からの伝言です。『これが試練のすべてです。なお、“試練の魔天楼建築家”の終着点は高い場所が好きらしいです』とのことです。】
【『試練の魔天楼建築家』がくしゃみをしました。拍手をお願いします。】
【『均衡を司る独裁者』はヘルモードの難易度に満足しています。】

どうしようもない。
私はぶつぶつ文句を言いながら山を登った。幸い、山の途中にはベースキャンプが設置されていたので、そこで食事を取り、眠り、休憩を挟みながら進み続けた。

そして――ついに山頂へたどり着いた。

「はぁ……はぁ……っ……もう無理……死ぬ……」

吹き荒れていた吹雪は消え去り、空はどこまでも青く澄み渡っていた。足元には鮮やかな緑の草原が広がり、爽やかな風が頬を撫でる。

私は湿った草の上に大の字になって倒れ込み、しばらく休息を取った。ようやく呼吸が落ち着き、横へ顔を向ける。

すると、少し離れた場所に――最後の試練と思われる存在が、堂々とした姿で立っていた。

関門が見えた。
……そして、その傍らには門番もいた。

〈こちらへ来なさい。〉

「……!」

聞き覚えのある声だった。聖騎士の制服をまとった女性の霊体が、腕を組みながら関門にもたれかかっている。高く結い上げた金髪に、すみれ色の瞳。見慣れた顔だが、どこか雰囲気が違った。

普段私が見ていた彼女は、風が吹けば消えてしまいそうなほど淡く透明な存在だった。だが今の彼女は違う。確かな存在感を放ちながら、そこに立っていた。

私はゆっくりと立ち上がる。カチャリ、カチャリ。
長い巡礼の旅が、ついに終わりを迎えた。手首と足首を縛っていた手錠と足枷が、音を立てて自然に外れ落ちる。

自由の身となった私は、まっすぐ彼女へ向かって歩み寄った。目の前にいるのは、四十日ぶりに再会した私の教官であり、師であり、友人でもある人。

「お久しぶりです、アグネス」

〈……〉

美女の口元が、わずかに優しい弧を描く。これまで透けて見えていた曖昧な表情ではなく、はっきりとした感情が初めて私の目に映った。私は少し見とれてしまう。

――次の瞬間。

「っ!?」

アグネスの姿が視界から消えた。ほんの一度まばたきをしただけ。だが気づけば、彼女は私の目の前に立っていた。

(まったく動きが見えなかった……!)

その驚きも束の間――次の瞬間には、さらに大きな問題が待っていた。
喉の奥が締めつけられた。甘い香りが鼻をくすぐり、耳元で優しい声が囁く。

〈一度くらい抱きしめてあげたかったの。やっと叶ったわね〉

「……」

私は言葉を失った。汗と砂埃にまみれた身体。こんな汚れた姿でアグネスに触れていいのかさえ分からない。指先をもじもじと動かしながら戸惑っていると――

〈よく頑張ったわ。偉かったわ、私たちのアイルレット〉

その一言が胸を貫いた。私はとうとう堪えきれなくなる。

「アグネス……!」

そして私もまた、力いっぱいアグネスを抱きしめ返した。

感動的な再会の余韻に浸る間もなく、アグネスは突然私の肩を掴んで引き離した。

「……え?」

すると彼女は満面の笑みで言い放つ。

〈さあ! ここまで本当によく頑張ったわ! だからこれからはもっと頑張りましょうね、アイルレット!〉

「……はい?」

嫌な予感しかしない。

バサッ!

次の瞬間、アグネスの背中から七対十四枚の純白の翼が広がった。先ほどまでの優しい抱擁はどこへやら。その顔から慈愛の色は消え、鬼教官の表情が戻っている。

私は思わず後ずさった。そして冷徹な教官は、容赦なく宣告した。

〈時間がないの。だから次は“地獄モード”でいくわ。理解した?〉

「……えええええっ!?」

「はい?」

返事をした瞬間――

ガガガガガン!

巨大な刃が一本、勢いよく伸びてきて私の足元を突き刺した。

〈返答は短く。「はい」だけでよい。質問は受け付けない。恩人様がお作りになった貴重なお時間を無駄にはできないため。〉

恩人様がお作りになった時間?
脳を激しく刺激する言葉だった。不意に、このイベントダンジョンに関する説明が頭に浮かぶ。

――『世界を構築する恩人』が、あなたの宿願を叶えるため、膨大な概念と神性を注ぎ込んで創造した。

恩人様が叶えようとしている私の宿願。それはまさに……。

〈これよりオリジンマスター属性教育を開始する。〉

ベンフは第一地獄教官の目を見て、ようやく悟った。
最初から、このダンジョンの難易度はヘルモードだったのだと。

その時、魔界のとある場所――

夜空には、溶け出したような紫色の三日月が妖しく輝いていた。抽象画を無理やり押し込めたような奇妙な月は、この領土の主が誰なのかを示している。

ここは、人界のエルペンハイム帝国を模して造られた混沌帝国。すなわち、混沌の黙示官アビシニスが支配する魔王領だった。

全体が黒曜石で造られたかのような黒い神殿は、殺伐として陰鬱な空気に満ちていた。張り詰めた気配が、この場所では呼吸さえ慎重にしなければならないと警告している。床一面には薄く水が張られていた。それが、歩くたびに水音が響くのを避けられない理由だった。

「……」

その場所を裸足で静かに横切る存在がいた。毛先にいくほどミント色へと変わる金髪を持つ美しい少女だった。彼女は灰色の祭服をまとい、黒い肩章を首元から肩にかけて長く垂らしている。

黙示官だけが身につけることを許された最高位の装束が、彼女の正体を物語っていた。この少女こそ、序列第一位の魔王――アビシニスだった。

神殿の中央で立ち止まった彼女は、服が濡れることも気にせず、静かにひざまずいた。杖にはめ込まれた法珠の装飾が揺れ、澄んだ音を響かせる。誰もいない場所で捧げられる、厳かな礼。だが、それは決して無意味なものではなかった。

ズズズッ!

空間が渦を巻き、ゲートが開かれる。その中から、濃密な威圧感があふれ出した。

やがて、一人の男が重々しくも堂々とした足取りで神殿へ足を踏み入れる。長い黒髪をなびかせた、黒い礼装の美丈夫。リードだった。

「ご無事のお戻りで、混沌の君よ」

「うむ」

短い返答が、関心のすべてだった。リードは無表情のままアビシニスの傍らを通り過ぎ、歩みを進めた。それは、魔族たちを熱狂させるに十分な、崇高なる威容だった。

しかもアビシニスは、混沌の君主にして狂信的な使徒。その姿を前にして心を揺さぶられないはずがない。魔族としては珍しい鮮やかな青い瞳の縦長の瞳孔が、満足げに細められた。

だが、彼女は決して浮かれることはなかった。

「ふぅ……」

深く息を吐くと、胸の内は静かに落ち着きを取り戻す。長きにわたり混沌の君主の再臨だけを待ち望み、欲望と節制によって心を鍛え続けてきた甲斐があった。

立ち上がったアビシニスは、すぐにリードの後を追った。

「寝所へご案内いたします」

魔王領全体が混沌の君主を奉ずる帝国であるだけに、その力はこの地で最も安定して発現していた。この利点ゆえに、リードは主にアビシニスの領地に滞在していた。

並んで歩きながら、アビシニスがリードに尋ねた。

「どちらへ行かれていたのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「砂の国と最後の審判場へ行ってきた」

「……カールフェイオスとインフェリノスにお会いになったのですね」

「ああ」

この尊き君主が、自分ではなく他の魔王たちと会ってきたという事実に、アビシニスの左目に赤い光が宿った。

『私よりも、他の魔王たちの方を重用なさっているのだろうか。真意をお聞きしたい。そしてこの“目”で真実を見抜いて……』

だが、その不穏な思考は長くは続かなかった。長年鍛え上げた精神力が独占欲を抑え込み、彼女は即座に平静を取り戻した。

「混沌の君主様が壮大な計画を巡らせておられることは承知しております。では、砂の国の主と規則の制定者を、どのようなお役目にお使いになるおつもりでしょうか?」

しばしの沈黙の後、リードが口を開いた。

「一人は滅亡に、もう一人は救済に使うつもりだ」

「……」

まるで意味を測りかねる言葉だった。やはり信奉者である彼女には、偉大なる悪の計略を推し量ることはできなかった。

やがて回廊の奥に巨大な扉が姿を現す。目的地を目前にして、リードが何気なく尋ねた。

「祭りの準備は順調か?」

「あ……『ヴァルプルギスの夜』のことでございましょうか?」

不意を突かれたように戸惑うその様子は、序列第一位の魔王らしからぬものだった。リードの細められた目に、アビシニスは降参した。

「多少の問題はございましたが、ご心配いただくほどではございません」

「本当に気にする必要がないのなら、そんな言い方はしないだろう」

結局、アビシニスは事の顛末を正直に打ち明けた。

「今回の祭典を後援しているジブリルテ侯爵が、破産の危機に瀕しております。どこぞの平民に化けた人間の農夫に、全財産を根こそぎ奪われたとのことです」

最終ボスとしてアグネスが登場することは、ある程度予想していた。

そもそも『巡礼者の道』は、恩人様が私のために作ってくださったイベントダンジョンだ。本来なら、私のために可愛いスライムや、恩人様を信仰する聖女アグネスを、適切な場所に配置しておいてくださったのだろう。

しかし難易度の上昇により、アグネス以外のスライムたちは、秩序教の聖職者たちへと置き換わってしまった。どうやらこのダンジョンは、特定の宗教だけが占有する空間として設計されていなかったらしい。

いずれにせよ、アグネスとの遭遇が予定されていたことは分かったいた。だが、まさか恩人様の狙いが私をオリジンマスターへ覚醒させることだとは思わなかった。

「いや、目標が高すぎませんか!? 自由大連合を率いたくらいで、いきなりマスターの境地に到達できるわけないじゃないですか!」

私の切実な訴えに返ってきたのは、オリジンブレードだった。

〈うるさい。よく見ろ。〉

アグネスの背後に、まるで孔雀の羽のように広がっていた七枚の翼。それらが一斉に左右へ大きく広がった。飛翔するために純白の翼を広げる天使のような姿。そのうち左翼の三枚の羽が宙へ舞い上がると、私めがけて飛来した。

剣は流星のように長い尾を引きながら襲いかかってくる。

(やばい! かっこよすぎる!)

感嘆する間にも、鍛え上げられた身体は即座に反応した。

キィン!

鋭い音を響かせながら、セレペスが一振りのオリジンブレードを受け止める。踏み込みの勢いを乗せ、一枚の羽剣を力強く弾き飛ばした。その隙に、残る二本の羽剣が左右から鋭く迫る。

私は素早く後方へ跳び退いた。直前まで立っていた場所で轟音が炸裂する。二本のオリジンブレードが激突して生じた爆発だった。急激に吹き荒れた爆風によって、髪がなびく方向が一瞬で逆転した。

視界が遮られた隙を突き、オーラブレードが再び私の背後を狙う。私は剣を逆手に構え、かろうじてそれを受け止めた。だが視線は正面から外さない。その先には、依然として微動だにせず立つアグネスの姿があった。

〈己の意志で剣を具現化する。それこそがマスターの境地だ。〉

彼女は、なおも残る四本の剣を動かしていない。その余裕に満ちた態度が、実力差を雄弁に物語っていた。

そうだ。相手は一対一の戦いにおいて最強クラスのオーラマスター。エキスパート最高位であるナロセンオーラだけでは、とても太刀打ちできる相手ではない。

そして――ついにアグネスが口を開いた。

〈あなたの言う通り、自由大連合を率いたからといってオーラマスターの境地に至れる保証はないわ。けれど、少なくともあなたの持つ力でオーラマスターと戦う術くらいは学べるでしょう。〉

「……」

〈神聖力も使いなさい、アイレット。〉

断る理由はなかった。

「神罰!」

最も発動の速い神聖スキルを行使する。澄み渡る空から、三筋の雷が同時に私の呼びかけへ応えた。神聖力が第九位階に達したことで、その威力は目に見えて増している。青白い輝きを帯びた三条の雷撃が、アグネスへ向かって一斉に突き刺さるように降り注ぐ。

すると――彼女のオーラブレードが素早く動き出した。

三本の剣光が真下から雷撃を斬り裂くと、周囲へ散った電流は砕け散るように霧散した。それだけで一帯の地面が大きく抉られる。

私はなおも詠唱を続けた。

「蒼き聖火」

神聖なる炎が矢の形を取り、目にも留まらぬ速さでアグネスへ降り注ぐ。すると彼女は再びオーラブレードを操った。剣光が閃くたび、炎の矢は次々と軌道を乱される。最後の一本は剣撃によって真っ二つに断たれ、虚空へと消えた。

落胆することはなかった。最初から直撃させられるとは思っていない。そのわずかな時間を稼ぐ間に、私は神聖不可侵や神聖讃歌をはじめとする各種強化スキルを自身へ重ね掛けしていた。

そして地面を蹴る。

〈賢明な判断ね。〉

オーラ使いを相手に、詠唱時間の長いスキルは通用しない。しかもアグネスは霊体であり、神聖力に対してある程度の耐性まで備えている。神聖力は気力の補助や牽制に使う程度に留め、オーラを前面に出して接近戦へ持ち込むしかなかった。

だが――アグネスはそれを許さない。

〈実のところ、オーラマスターの戦いは近接戦だけに限られるものではないわ。攻撃範囲が目に見えて広がるのだから。〉

彼女の操るすべてのオーラブレードが、放物線を描きながら私へ襲いかかってきた。私が地面を蹴って軌道を変えると、それらは一度地面へ突き刺さり、すぐさま向きを変えて再び追撃してくる。まるで獲物を追う猟犬の群れだ。

捕食者に狙われる獲物の気分になりながら、私は歯を食いしばった。このまま逃げ続けるわけにはいかない。

私はインベントリからもう一本の剣――エウロペを取り出し、左手に握った。双剣を構えたまま身をひるがえし、反撃を試みる。視界に映る七つの光が、殺気立った螺旋を描いて迫ってきた。

それを見た瞬間、私の瞳孔は興奮で大きく開いた。

(ああ、本当に格好いい……!)

だからといって見とれていたわけではない。私は最高の状態に達した動体視力で、攻撃の軌道を読み取った。二本のオーラブレードを左右へかわした瞬間、双剣を振るう。

キィィン!

一度の長い金属音。だが実際には、幾度もの斬撃が重なり合った音だった。正面から飛来した一本のオーラブレードを叩き落とした直後、セレンスの柄頭と剣身で続く二つの攻撃を防いだ。同時に、エウロペの剣身を盾代わりにして、左側から迫るオーラブレードを受け止める。

すべては一瞬の出来事だった。完璧な軌道で、一寸の狂いも許さなかったからこそ、同時攻撃を防ぎ切ることができたのだ。

【『試練の魔塔建築家』が感嘆しています。】

並外れた動体視力、反射神経、瞬発力、そして洞察力――そのどれか一つでも欠けていれば不可能な対応だった。

〈さすがは私の弟子だ。〉

アグネスでさえ称賛する。

だが――

(剣が足りない!)

まだ一本のオーラブレードが残っていた。結局、物理的な限界によって私は攻撃を許してしまった。

「……っ!」

青白い輝きを放つ剣が大きく回り込み、私の右肩を深く切り裂く。全身を覆っていた神聖不可侵の結界に亀裂が走った。これはまずい。とっさにオーラを押し返そうとした。体外へ放出されたオーラがアグネスのオーラブレードと衝突した瞬間、爆発が起こる。

ドォォォン!

私の体は宙へと吹き飛ばされた。片膝を地面につきながら着地したが、衝撃の余波がなおも私の体を後方へ押し続けた。地面に二本の剣を突き立て、どうにか勢いを殺した。ようやく停止したとき、かかとのすぐ後ろには断崖が迫っていた。

「……っ、はぁ」

無理やりオーラを引き出した反動で、全身の血管が軋む。アグネスは追撃してくることなく、冷静に見据えながら評価を下した。

〈神性降臨状態でなければ、対処できないか。〉

「そうですね」

ここまで来ると認めるしかない。

私がシステムから与えられたクエスト『解答を求める巡礼』は、40日間の行程とされている。だが、一つ大きな落とし穴があった。失敗ペナルティが「ダンジョンからの退出不可」なのだ。つまり、最終関門の番人であるアグネスを倒すまでは、このダンジョンから出ることができない。

「早く外に行って金を稼ぎ、クラス変更券を手に入れなきゃ」

クラス離脱ペナルティをそのまま受けているテシリドを救わなければならない。だからこそ、焦るしかなかった。

そのとき、アグネスがきっぱりと言い放つ。

〈残念だが、私はわざと負けてやるつもりはないぞ、アイレット卿。〉

さすが名誉を重んじる騎士だ。戦いに手加減や情けを持ち込むことはしない。

「結局、自分の力でアグネスを倒すしかありませんね」

そうなると、私に残された手段は一つだけだ。

(神性降臨を使って、一気に決着をつける)

アグネスを倒すことだけが目的なら、それが最善の選択だろう。だが――アグネスを守るように空中へ浮かぶ七本のオーラブレードが、私の視線を引きつけた。

(私も……私もオーラマスターになりたい)

見ているだけで胸が高鳴った。何度深呼吸をしても、心の奥に燃え上がる憧れは消えない。あの輝く剣を手にしたい。アグネスに教えを請いたい。

「ふぅ……」

私はもう一度大きく息を吐き、目を閉じた。そしてテシリドのことを思い浮かべる。たとえオーラマスターになれたとしても、守るべき人を失ってしまえば何の意味があるだろうか。

それに、今のように焦りに駆られた心では、境地の壁を越えられる気がしない。自分自身を納得させ、心を落ち着かせることにほぼ成功した、その時――

キィン!

決断を前にした張り詰めた空気にはまるで似つかわしくない通知音が、耳に響いた。

【〈システム〉警告。あなたの亜空間倉庫が満杯になりました。整理を推奨します。】

……は?

なんで今、このタイミングで亜空間倉庫が満杯になるんだ?

〈どうした?〉

私の気配の変化に気づいたアグネスが問いかける。私は慌てて弁解した。

「ア、アグネス、悪いんだけど少し待ってください!」

〈え? あ、ああ……そうか。〉

戸惑いながらも許可が下りると同時に、戦闘の緊張感は一気にしぼんだ。私の表情は、先ほどまでよりもさらに深刻になっていた。

今やインベントリは、私とテシリドをつなぐ唯一の連絡手段のようなものだった。私が一切手を付けていないのにインベントリが満杯になったということは、テシリドが何かを詰め込んだという意味である。

(いったい何を入れたら、十五坪もある空間が埋まるんだ……?)

【『世界を構築する運営』がインベントリの中を覗き込み、驚愕しています。】
【『倉庫経済管理者』が目を見開いています。】
【『魂を裁く天秤』が歓喜のあまり言葉を失っています。】

三人の部長たちの反応が、私の疑問をさらに膨らませた。インベントリを整理するため、私は肩に掛けていた透明化のマントを外した。すると、久しぶりにサッチェルバッグが両手の中へと収まった。

私はそれをひっくり返し、中身を勢いよくぶちまけた。

ガラガラガラガラ――ッ!

「……っ!?」

轟音とともに、まばゆい光が私を包み込む。

 



 

  • アグネスとの再会と“地獄モード”の試練: 巡礼の終着点で待ち受けていた教官アグネスから、「オリジンマスター属性教育」と称した過酷な戦闘(地獄モード)が突きつけられる。
  • リードと黙示官アビシニスの動向: 一方、魔界の混沌帝国では、序列第一位の魔王アビシニスが帰還したリードを迎え入れ、計画や「ヴァルプルギスの夜」を巡る不穏なやり取りが描かれる。
  • インベントリの異常事態: アグネスとの激闘の最中、テシリドが送り込んだ荷物によって亜空間倉庫(インベントリ)が突如満杯になり、大量の戦利品が外へ放り出される。

 

【憑依者の特典】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「憑依者の特典」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...