こんにちは、ちゃむです。
「憑依者の特典」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
141話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 絶望の予言
重く沈んだ声が、わずかに声量を上げただけで空間のすべてをビリビリと震わせ、私の耳の奥へと容赦なく突き刺さった。
極限の危機感が、一瞬にして私の背筋を冷たい速さで駆け上がる。
だが、恐怖に呑み込まれるより先に、大声を張り上げて声を荒らしたのは、他ならぬ私のほうだった。
「――ふざけるな、リード!!」
「フン、ふざけてなどいないさ。これでも私なりの最大の『慈悲』と言ってあげるべきだろう。あいつに対し、これ以上無駄な抵抗(抗い)はよせと……これから訪れる絶対の『真実』を、今ここで優しく教えてやるのだからね」
――真実。
あいつが放ったそのあまりにも不吉な一言だけで、私はこの後に続くであろう、最悪の展開を本能的に直感した。
「……やめて」
自分でも驚くほど、私の喉から絞り出された声は低く、恐怖に細かく震えていた。
リードは私のその怯えるような動揺を心底から楽しむように、その端正な口元を醜く歪めた。そして、あいつの長い指先が、玉座に横たわるテシリドの顎を、乱暴な力で上へと掴み上げたのだ。
視界が、怒りと焦りで激しく揺れ動く。
(だめだ。……それだけは、絶対にだめ――っ!)
やめて。お願いだから、もうやめて……!
けれど、私の心の中の悲痛な願いが、あの狂った100回目の男に届くことなど、最初から万に一つもあり得なかった。
ぐい、と彼の指先にさらに残酷な力が込められ――
「くっ……、……あ……」
リードは、骨が軋むほどの圧倒的な暴力の力で、テシリドの顔を強引に私のいる正面へと向けさせた。
無理やりこちらへと向けさせられた、血に染まった彼の顔。
そして――その限界を迎えた瞳の奥から、微かな光を宿した海のような色の瞳が、真っ直ぐに私の姿を捉えた。
深い海の青と、そこに溶け込む淡い奇跡の光。そして、気高い銀髪と、禍々しい黒髪。
まるで、正反対の属性を持つ二つの存在を映し出した『反転する鏡』そのもののように、二人の男の視線が、暗黒空間の空中で真っ正面から交錯した。
「……」
「……」
同じ絶望の時間の上で、過去の自分と、未来の自分が、ついに真っ正面から向き合う。
――あってはならない最悪の対面が、ついに果たされてしまった。
永遠のようにも思える一瞬の沈黙ののち、リードは自らの言葉に怯えて揺らぐテシリドの瞳に向かって、冷酷に、けれど絶対の真実としてこう告げたのだ。
「――よく見ろ、テシリド・アージェント。……この私こそが、お前の辿り着く、絶対の『未来の姿』だ」
「――やめろ、リード――っ!!」
私は怒りのままに、自らの体内の聖なるオーラを結界へと強引に叩きつけ、無理やり流し込んだ。
私の熱によって溶けかけた魔力の表面に対し、愛剣セレンペスの鋭い刃がガチガチと激しい音を立てて食い込んでいく。
その私の執念の攻撃を前にして、リードの赤い目が見開かれた。
ほんの一瞬の、あいつの驚愕の表情。
だが、次の瞬間、その驚きは――これ以上ないほど楽しげな、狂気の歪みへと変わった。
あいつの瞳が、完全に壊れてしまった100回目の狂気的な光でギラギラと歪み狂う。
「ククッ……そんなに必死な顔をして、私を殺したいかね、アイレット・ロベライン?」
テシリドの頭を鷲掴みにしているリードのその大きな手に、さらにぐっと、頭骨を砕かんばかりの強烈な力が込められた。
「だったら――今すぐここで、私を殺してみせろ!!」
「――っ!?」
次の瞬間――。
信じられないことに、リードは自らの盾にするかのように、私の一撃が迫る剣先へ向かって、テシリドの傷ついた身体を正面から容赦なく投げ出してきたのだ。
反射的に、私は自らの命よりも大切なその身体を貫くまいと、持っていたセレンペスをその場で完全に手放した。
滑り落ちるようにして手元を離れていった愛剣を躊躇なく捨て、私は自らの両腕を真っ直ぐに伸ばし、宙に浮いたテシリドの身体を壊さないようにしっかりと受け止めた。
――だが、あいつが狙っていたのは、まさにその「一瞬の隙」だったのだ。
気づけば、二人の周囲の空間には、すでに数十本もの禍々しい漆黒のオーラブレードが網の目のように展開されていた。
それらのすべてが、四方八方の死角から、テシリドを抱えて体勢の崩れた私の心臓を明確に狙っている。
(――まずい、避けられない……っ!)
ドォォォォン――ッ!!
鼓膜を完全に破らんばかりの凄まじい轟音とともに、無数のオーラブレードが、先ほどまで私が決死の想いで張っていた神聖結界へと次々に突き刺さった。
その直後、凄まじい魔力の爆発が巻き起こる。
激しい衝撃波が暗黒空間のすべてを縦横に揺らし、結界の破片と禍々しい光の破片が、周囲へと派手に弾け飛んだ。
私はテシリドの身体をその胸にしっかりと抱きかかえたまま、爆発の凄まじい推進力によって、後方へと一気に弾き飛ばされた。
まるで地面の上を滑るかのように――。
衣服と足裏が床と激しく擦れ合い、凄まじい速度で周囲の視界が後ろへと流れていく。
(……止まれ、止まって……っ!)
私は遅れて、自らのブーツのかかとに渾身の力を込めた。
ギリギリ、と硬い床の石を激しく削り取る不快な感触とともに、凄まじい摩擦煙を上げながら、私の身体はようやくその場に停止した。
しかし、その安堵の瞬間。
「くっ……、……がはっ……!」
「テリ――っ!?」
はるか遠くの玉座の前から、リードが指先を動かし、テシリドの胸に深く突き刺さったままだったあの巨大なオーラブレードを、何のためらいもなく乱暴に引き抜いたのだ。
傷口から再び鮮血が噴き出す。私はすぐさま、腕の中のテシリドを床の上へと優しく横たわらせ、その大きく開いた胸の傷口へと、自らの両手を必死に押し当てた。
溢れ出る温かい血を必死に手で止めながら、私は自らが今持てるすべての限界の「神聖治癒力」を、彼の体内へと一気に、濁流のように流し込んだ。
「テリー、お願いだから目を開けて……テリー……っ!」
「あ、……い、……れ……」
――あぁ、まだ息がある。
かろうじて、本当に細い糸一枚のところで、彼の命の灯火はまだこの世界に繋ぎ止まってくれている。
だが、安度できたのは本当に、瞬きをするほどの一瞬の間に過ぎなかった。
私はすぐに、血に染まった自らの顔を真っ正面へと跳ね上げる。
激しい戦闘のせいで荒くなった呼吸を何度も吐き出しながら、高い王座の前に堂々と立ち塞がっているリードの姿を、親の仇のように鋭く睨みつけた。
「……あなたという存在を……」
――私は、何があっても絶対に、二度と許さない。
私の胸の最も深い奥底で、ドロドロと煮えたぎる本物の怒りのマグマは、もはや自らの高度な精神防壁のシステムを以てしても、到底制御することなどできないほどに、巨大に、凶悪に膨れ上がっていた。
しかし、対面するリードは、まるでそんな私の怒りの炎に魅入られたかのような、うっとりとした奇妙な目で、上から私を見下ろしていたのだ。
「――あぁ、実に見事だ、アイレット・ロベライン」
……何を、この期に及んで狂ったことを言っているのよ。
「私を殺したいというその絶対の殺意のままに、私を見つめるお前のその美しい瞳が……聖なる『金色』に染まる、まさにその一瞬の輝きこそが……私は何よりも大好きなのだからね」
「――『神聖降臨』――ッ!!」
そのあいつの不吉な言葉を遮るようにして、私は自らの魂の最深部にある絶対の禁忌の術式を発動した。
世界を書き換えるほどの膨大な高位の神聖力が、私の体内の全魔術回路へと一気に流れ込み、重力から解放されて身体がふわりと宙へと浮き上がるような、万能の感覚が全身を満たす。
だが、私はその神へと至る変革の一瞬の隙すらも決して無駄に逃さず、限界まで溜めた力で、冷たい床を強く蹴り上げた。
無重力に近いその神速の身体感覚が、そのまま前へと突き進むための絶対的な爆発的推進力へと変換される。
現世の物理法則の限界を遥かに超えた、神の領域の速度が、今の私の肉体に対して特別に許される。
「神聖不可侵」――、そして「神聖賛歌」――。
自らが持つ、あらゆる最高位のバフ(支援スキル)を瞬時に幾重にも重ねがけし、私は一直線に、光の矢となって空間を駆けた。
高い王座の前に立つリードとの間の物理的な距離など、ただの一瞬の瞬きをするほどの間のうちに、完全にゼロになって消え去る。
「リード――っ!!」
さっきテシリドを救うために手放してしまったあの愛剣セレンペスの代わりに、私は空間インベントリの奥から、もう一振りの絶対の剣――私がこの世界で最初に手にした始まりの相棒、神剣「エウロペ」を力強く掴み取っていた。
刃からあふれ出た凄まじい神聖オーラの光が、暗黒空間の空を縦に真っ二つに引き裂く。
対するリードは、驚異的な反応速度で自らの身体を不気味にひねり、私の突進の勢いを利用して、一瞬にして私の背後(死角)を取ろうと回り込んできた。
――だが、そんな教科書通りの回り込みなど、今の私の超感覚ならすべて『読めている』。
私は即座に、振り下ろそうとしていたエウロペの絶対的な斬撃の軌道を、常識を無視して途中で強引にねじ曲げた。
高位の「女王の権能」の力は、物理法則すらも歪め、このような常識外れの超変則的な軌道変更をも容易く可能にするのだ。
聖なるオーラを幾重にも纏った純白の刃が、空間に水平の美しい弧を描き――リードの無防備な胴体を真横から一文字に薙ぎ払う。
――だが。
リードは、ただ軽く数センチだけ後方へと自らの身を引くという、神業のような最小限の動作だけで、その致命的な刃をあっさりと躱してみせた。
しかし、私はあいつに一息の呼吸の間合いすらも与えない。
返す刀で、続けざまに嵐のような怒涛の斬撃を重ねていく。
息つく暇すらも与えない、空間を埋め尽くすほどの極限の連撃。
それにもかかわらず――。
リードは、武器すらも抜かず、ただ素手のままで、終始余裕を崩さないままひらりと私の剣を躱し続けていた。
「ククッ……素晴らしいな。以前に顔を合わせた時よりも、体内の神性がさらに一段と増しているではないか。……『神』という存在は、本当に残酷なくらい、お前という一人の少女をどこまでも美しく仕立て上げるものだな、アイレット・ロベライン」
「……黙りなさい」
「だが、アイレット。私は――お前がその綺麗な姿のまま、絶望してこの泥沼の『混沌』へと堕ちるところを……この目で、心底から見てみたいのだよ」
「……っ!?」
「だから、早く――私のいる、この暗闇の場所まで降りて来い」
「……――ッ!?」
突如として、私の全身に、惑星の重力がすべて集中したかのような強烈な不可視の『超重力』が襲いかかった。地面を離れて空中を滑るように動いていた私の両足が、強引に、抗えない力で真下へと引き寄せられる。
次の瞬間、私の両足はドォンと音を立てて冷たい床の石へと完全に叩きつけられ――私は、あいつの張り巡らせた空間の罠によって、強制的に、彼と全く同じ高さの目線へと引きずり上げられていたのだ。
自らの思い通りになった現状に満足そうに不敵に微笑み、リードがわずかにその顎を上へと上げる。
――そして、それこそが、あいつの犯した一瞬の『隙』だった。
(――ヒュンッ――!!)
鋭く空気を裂く、一筋の閃光。
私の手の中のエウロペの刃が、あいつの油断を突いて、一直線にその白い喉元へと向かって音速で走った。
「……」
「……」
二人の間で、周囲の時間の流れが、奇妙に歪み始める。
永遠にも思えるような、極限の一瞬の静寂の中で、私とリードの視線が、至近距離で真っ正面からぶつかり合った。
完全なる、力の拮抗。
リードは、本当に刃が一枚の皮膚の皮をかすめるかのような、紙一重の差でその致命的な刃を横へと躱した。
あいつのその俊敏な動きに合わせて、私の視界のすぐ正面で、あいつの長い美しい黒髪が、フワリと優雅に揺れ動く。
リードの身体は、私の突きに圧されて、わずかに数歩後ろへと下がっている。
――それなのに。これだけ攻め立てているというのに、私の胸の中には、あいつを本気で追い詰められているという確信めいた感覚が……不思議なほど、ただの一寸も湧いてはこなかったのだ。
〈――チッ、このクソ野郎……! どこまでふざけた身のこなしをしてやがるんだ……っ!〉
脳内で、アグネスが悔しそうに激しく歯噛みするのが聞こえた。
それは、私自身も全く同じ想いだった。目の前にいる男からは、攻撃の予備動作や、次に動くための気配というものが、まるで最初から存在しないかのように一寸も読めないのだ。
――それどころか。
あいつは、この戦いが始まってから今日に至るまで、自らの腰にある強力な武器(魔剣)を、ただの一度だって本気で引き抜いて振るってすらいない。
この極限の対峙の瞬間において、彼にとって最も恐ろしく、強力な武器となっているのは――手に持つ剣などではなく、その口から放たれる、人の心を破壊するための不吉な“言葉”そのものだったのだ。
「――おい、よく聞くがいい、可哀想な【第17回目】の私(テシリド)よ」
リードが、冷酷な笑みを浮かべながら、後方で横たわる過去の自分自身の存在を呼び出す。
(――来る、あいつの精神攻撃が始まる……っ!)
私はそれを何としてでも阻止するため、迷うことなくエウロペをさらに真っ直ぐに突き出した。
一直線に、あいつの端正な顔面を真ん中から貫き通すための、絶対の必殺の軌道。
だが。
リードは、ただほんの数ミリだけ自らの首を横にお気楽に傾けるという、ただそれだけの動作だけで――その私の必死の一撃を、またしても紙一重の差でひらりと躱してみせた。
「よく頭に叩き込んでおくんだな」
あいつのその言葉が室内に響いた瞬間、私の視線は、自分の意志とは無関係に、反射的に後方のテシリドのほうへと向いてしまった。
はるか遠くの床の上で、彼は先ほど私が施した治癒のおかげで、ふらつきながらもどうにかその身体を自力で起こしかけていたのだが――そのリードの言葉の刃を聞いた瞬間、ピキリと、石像のようにその動きを止めてしまったのだ。
彼の全身から、生きるためのすべての力が、スーッと抜けて消えていくかのような、見ていて絶望的な感覚。
(……だめよ、テリー。お願いだからあいつの言うことを聞かないで……!)
たとえ、これからあいつの口から明かされるであろうその未来の預言の内容が、この世界の歪みのない本物の『真実』であったとしても……。
こんな、相手を絶望の底へと叩き落として徹底的に精神を壊すためだけに紡がれる悪意に満ちた言葉の形で、あなたに聞かせるべきものじゃない。こんな、大切な人をただ壊すためだけに用意された呪いの言葉なんて――!
「――黙りなさい、リード――ッ!!」
当然、私のそんな必死の制止の声などで、あの狂った男の口が止まるはずもなかった。
「お前という哀れな男は、これから先の気の遠くなるような輪廻の旅路の果て、……【第85回目】の世界線になって、ようやく初めて、この世界を滅びから救うことに成功するのだよ」
「――聞いちゃだめよ、テリー!! 耳を塞ぎなさい――っ!!」
――だめだ、私の声が間に合わない。
もう一人の、未来から来た残酷な“彼”もまた、私と同じように、自らの放つ言葉の暴力を一瞬たりとも止めようとはしなかった。
テシリドは、壁の向こうで、そのリードが放つ絶望の予言のすべてを、遮るものもないまま真っ正面から受け止めてしまっていた。
逃げるための場所も、どこにもなく。
それに対して、自らの力で抗うことすらもできず。
彼はただ、静かに――自分のこれからの凄まじい絶望の未来のすべてを、その耳で聞き続けている。
底暗い悪意によってこれ以上ないほど醜く歪められた、その未来の“予言(真実)”が、
彼の、今まで必死に保ってきた純粋な精神の壁に、ピキピキと、修復不可能な決定的なひびを入れていく。
(何としてでも、今すぐあいつの言葉を止めなきゃいけない……!)
私はすぐに、エウロペを構えたまま片手を後ろの空間へと伸ばし、テシリドの精神を悪意から守るための、強力な神聖「保護の加護(プロテクション)」の術式を大急ぎで展開した。
「ククッ……無駄なことを。そんな小細工など、今の私の前では一切通用しないよ」
リードは、迫り来る私の剣を躱しながら、空いた片手を軽く一振りした。たったそれだけの動作で、私が今展開したばかりの保護の加護の光は、まるでガラス細工のようにあっさりと虚空へとかき消されてしまった。
そしてあいつは、一寸の容赦もなく、さらに残酷な言葉のナイフを、テシリドの脳内へと直接叩き込み続けた。
「――だがな、テシリド。世界を救うことにようやく成功したからといって、その先に『永遠の安息』なんていう都合の良い報酬は、神からは一寸も与えられないのだよ。……『世界を救うその日まで、何度でも諦めずにやり直せばいい』だと? ……ハハハ、違うな! それは真っ赤な嘘だ。……お前はただ、あの狡猾な神の連中に都合よく騙され、利用されていただけなのだから。……そうして、世界を一度救った後、お前はさらなる絶望のまま、あの最悪な【第86回目】の世界線を新しく迎えることになるのだよ」
「――やめろと言っているでしょうが――ッ!!」
私は怒りで奥歯をガチガチと激しく食いしばり、その凄まじい神聖のオーラのまま、リードの首めがけてエウロペを全力で振り下ろした。
だが。
私の放ったエウロペの純白の刃は、どうしても、あと数センチのところでリードの身体に届かない。
まるで、この世界の因果律そのものが、最初から私の剣はあいつには「絶対に当たらない」と冷酷に決定しているかのように、空間の歪みに弾かれてしまうのだ。
――なら。通常の剣撃がどうしても届かないというのなら、私に残された神の手段は、もうこれしか残されていない。
「――神の怒りを知りなさい、――『神罰』――ッ!!」
次の瞬間、暗黒空間の上空が、バリバリと激しい音を立てて真っ二つに引き裂かれた。
この魔界の分厚い天の天井を強引に突き破るようにして、神の怒りを具現化したような、一本の巨大な青白い神聖雷の柱が虚空から引きずり出され――そのまま、私とリードの身体が激しく交差するその中心地点へと、凄まじい光とともに叩き落とされたのだ。
(――バリバリバリバリッ――!!)
だが、目の前のリードは、その神の雷撃に対し、避けようとする素振りすら一切見せなかった。
まるで、自らの圧倒的な不滅の肉体を私に見せつけて誇示するかのように、真っ正面からその直撃をその身に浴び、彼の漆黒の身体の上で、青白い強烈な電流が激しく火花を散らして弾け飛ぶ。
しかし、次の瞬間。あいつの体内からあふれ出た強大な混沌の魔力が、その神聖の残滓を一瞬にして内側から呑み込み、何事もなかったかのように綺麗にかき消してしまったのだ。
その、絶望的な結果については、実は攻撃を放った私自身、最初から分かりきっていたことだった。
私は雷撃の爆風を利用して一歩後退しながら、リードに対して完全に背を向けた。
「テリ――っ!!」
私は、その場に石像のように硬直して動かなくなってしまっていたテシリドの元へと、全力で駆け寄った。
突進してきた私を、本能的な反射だけでしっかりと両腕で受け止めてくれた彼の身体と、その勢いのまま、私たちは二人一緒に冷たい床の上へと激しく倒れ込んだ。
リードは、そんな床の上で無様に重なり合って倒れ込んでいる私たちの惨めな姿を、感情の消え失せた、冷え切った蛇のような視線で上から見下ろしていた。
「……私の目の前で、そのような弱者同士の無様な真似をするのは金頭やめろ、アイレット・ロベライン」
「……」
「そこから今すぐどくんだ。――そして、私はまだ、過去の私への話の続きを終えていないのだからね」
一段と低く、禍々しくなったあいつの声が、隔離された空間全体の隅々にまで不気味に響き渡る。
「……よく聞きなさい、17回目の私よ。あなたはその後も、神の操り人形として何度も、何度も健気に世界を救い続けることになる。……そして、あの地獄のような【第99回目】の世界線になって、ようやく……ようやく、本当の意味での“世界を救う”という言葉の持つ、あまりにも残酷な真理を、身を以て理解することになるのだからね」
(やめて、テリー……! もうこれ以上、あいつの言う最悪な言葉なんて一言も聞かないで……っ!)
私は、腕の中のテシリドの耳を、自らの両手で強く塞ごうとした。
けれど――。何故だろう、私が必死に伸ばしたその指先は、彼の耳ではなく、何故か、彼のその綺麗な『両目』を優しく覆い隠す方へと、無意識のうちに向かっていたのだ。
「――『永眠の賛歌(レクイエム)』――」
この地獄のような戦場にはあまりにも場違いなほど、どこまでも穏やかで優しい、聖なる神聖力の光が私の手のひらから溢れ出し、テシリドの傷ついた意識のすべてを、そっと優しく、深い眠りのベールで覆い隠していった。
その私の行動を見て、リードの冷たい口元から、クスリと軽いあざけるような笑い声が耳元で弾けた。
「ハハハ……無駄なことを。もう一度あいつが目を覚ましたら、その瞬間にすべては終わりだというのに。……これからの先の見通しも何一つ立っていないくせに、お前は本当に、いつもそのように無意味で無駄なことばかりをするのだな、アイレット」
その言葉の終わりと同時に――リードの白い指先が、まるで獲物の息の根を止めるための正確な照準でも定めるかのように、眠りについたテシリドの心臓へと向けて真っ直ぐに突き出された。
だが、私はその絶体絶命の瞬間、あいつの顔を真っ正面から見据え、こう言い放ったのだ。
「――これが、ただの『無意味な無駄行動』だって? ……いいえ、リード。それは違うわ。……私にとっては、ほんの一瞬……ほんのコンマ数秒の時間さえ稼げれば、それで『すべてが十分』なのよ」
それまでの、恐怖に怯えていた少女のものとはまるで違う、どこまでも冷徹で、勝利を確信したかのような大人の聲音。
その私のあまりにも劇的な態度の変化に対し、リードの完璧だったはずの動きが、わずかに驚きでピタリと停止した。
私は、目の前で戸惑いを見せる彼に向けて、これ以上ないほど余裕を含んだ、不敵な笑みをその面に浮かべてみせた。
そう――すべては、最初から私の『計算通り』だったのだ。
この目の前にいる愚かで哀れなテシリド自身すら、今の今まで全く気づくはずもなかっただろう。
私がこの場所でリードと激しい死闘を繰り広げている間中、私の左手は、ずっと彼と自らの命を繋ぐための、あの固有のスキル「貴族の加護(守護)」のリンクを、裏で絶え間なく維持し続けていたという事実に。
――だが、たった今。
私が「永眠の賛歌」の術式をあえて発動し、彼の意識をほんの一瞬だけ、強制的に断ち切らせた。
そのテシリドの意識が途切れたまさにその刹那、彼と私の間に結ばれていたあの強固な「貴族の加護」のリンクは、システムの仕様上、一瞬だけ完全に途切れたはずなのだ。
これで、私が裏でずっと狙っていた、すべての絶対の条件は揃った。
私は即座に、持っていた神剣エウロペの柄を、逆手へと素早く握り直した。
「……お前、一体何をする気だ……?」
リードの周囲の空間に、再び不穏な漆黒のオーラブレードがいくつも浮かび上がる。
(――フフ、ようやく、自分の身にこれから起きる決定的な異常に気づいたようね、リード)
私は、今まさに再び目をうっすらと開けかけたテシリドの顔を真っ正面から見据えると、持っていたエウロペの純白の刃を、あろうことか、自らの手で彼の胸の傷口へと向けて、一切のためらいもなく深く突き立てたのだ。
(――ドスッ――!!)
「――ぐっ、……あ、……っ!?」
「……っ……!?」
その瞬間、エウロペの冷たい刃の皮膚越しから、私の体内へとダイレクトに伝わってきたのは――信じがたいことに、同時に悲鳴を上げた『二人分』の凄まじい精神的衝撃の重さだった。
そして――。
「……う、……く……っ」
私の自らの腹の奥底を、内側からゴリゴリと抉り取るかのような、身体が焼き切れるほどの凄まじい激痛が私を襲った。
〈――ア、アイレット……!? あなた、一体何を考えて――っ!?〉
[――システム:世界を構築する大いなる存在が、あなたのその狂気の行動に、あり得ないほどの凄まじい驚愕に身を震わせておられます!]
[――システム:魂の正当性を裁く天秤の存在が、あまりの異常事態に、言葉を失って驚愕しておられます!]
[――システム:世界の天機を司る絶対の監察者が、因果律の崩壊を前にして、狂ったように驚愕しておられます!]
私は激しい劇痛のあまりに口から溢れ出そうになる悲鳴を、奥歯が砕けるほどの力で必死に食いしばり、その場に片膝を突きながら――ただ、自らの肉体に訪れる『ある決定的な反応』の瞬間を、じっと耐えて待った。
そして、ついに――私がずっと待ち望んでいた、因果の裏返しの反応が、目の前の壇上から返ってきたのだ。
「――がはっ! あ、アイレット・ロベライン……貴様、一体……ぐっ、はあぁっ!?」
高い玉座のすぐ目の前で、それまで無敵を誇っていたあのリードの口から、大量のどす黒い鮮血が豪快に吹き荒れた。
あいつの引き締まった腹のあたりから、そしてその美しい口元から、信じられないほどの量の血がドバドバと溢れ出ていく。
私は、痛みに耐えながら肩越しにゆっくりと後ろを振り返り、壇上で血を吐いてよろめくリードの姿を冷酷に見据えた。
自らの口元に、勝利の微笑を浮かべたまま、私はテシリドの胸に突き刺さっているエウロペの刃の角度を、さらにダメージを移すためにわずかに横へとずらそうとした――まさにその時だった。
「……ああ、もういい。そこまでだ、アイレット」