こんにちは、ちゃむです。
「憑依者の特典」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
162話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- アグネスを超えて
[『均衡を操る独裁者』が、この近くに崖があるから飛び降りれば何かのきっかけを得られるかもしれないと言います。]
[『世界を救う英雄』が、みんなくだらないことを言うなと叱りつけます。]
私はぼんやりと目を開いた。
「はい、もう一回やります」
〈よし、その意気だ。〉
「才能がないなら、せめて努力くらいはしないとですからね」
〈本気で言っているのか?〉
ついにアグネスにも、私の真剣さが伝わったようだった。深刻な表情で私を見つめた彼女は、やがて静かに口を開いた。
〈その考え方は感心しないな、アイレット。オーラマスターの境地に至るには、謙虚さよりも、むしろ傲慢と紙一重の自信の方が役に立つ。〉
「え?」
アグネスは私の正面に腰を下ろした。そして軽く顎を上げると同時に、その意志によって七つのオーラブレードを呼び出した。
……確かに、少し前に見た時もかなり自信満々で格好よかった。もしかして真似すればいいのだろうかと思い、私もこっそり同じようにやってみたが、何の反応もない。
落ち込んでいると、アグネスが説明を続けた。
〈それぞれのオーラブレードは、あなたに従う兵士のようなものよ。あなたなら、自信のない指揮官についていきたいと思う?〉
「いいえ……」
〈でしょう? だから指揮し、支配し、統率するという意識で、あなただけの剣を思い描きなさい。〉
「……」
考えすぎていたのかもしれない。もしかすると、憧れの気持ちで飛剣を見ていたこと自体が間違いだったのだろうか。疑問は湧いたが、深く考え込んでいる余裕はなかった。師匠はすでに剣を抜き、こちらを待っている。弟子として、これ以上時間を取らせるわけにはいかなかった。
ストロング――私の愛剣は相変わらず、明るく凛々しい笑みで私を励まし続けてくれていた。
ふと、「自分だけの剣を思い描け」というアグネスの言葉が頭をよぎる。
――私の剣、セレペンス……。
鏡のように磨き上げられた私塾剣の刀身に、自分の顔がぼんやりと映った。その瞬間、剣が私を見つめ返しているような気がした。まるでセレペンスと視線が交わったかのような、不思議な感覚。
私は深く息を吸い、構えを取る。
「それでは、よろしくお願いします!」
叫ぶと同時に地面を蹴った。四十日間に及ぶ極限の体力訓練は、私の身体をさらに鍛え上げていた。以前よりも速くなった身体が、アグネスへ向かって駆け出す。九歩あった間合いが、みるみるうちに縮まっていった。
八歩、七歩、六歩……。
そしてついに五歩の間合いへ踏み込んだ瞬間。
ヒュン!
アグネスが七振りのオーラブレードを私めがけて放った。剣が回転しながら飛来する。その鋭い風圧が耳を切り裂くような音を立てた。一振りが目の前をかすめたのを合図に、四方八方から猛攻が始まる。
私は気配を広げた。極限まで研ぎ澄まされた感覚の中で、すべてのオーラブレードの位置を把握する。感じることはできる。問題は、それに対応できるかどうかだ。
今回はエウロペを抜かなかった。七振りを相手にするのに、二本の剣では足りない。敵が複数だと認識した瞬間、私の思考は切り替わった。
――剣が足りないなら、身体で補えばいい。
タッ!
私の足首が、滑らかな回転力を乗せたステップを刻み始める。山頂の武道場で舞うように身体を動 While ながら、私は飛来する剣群に対処した。発動したのは、一対多数を相手取る際に真価を発揮する剣術――《物殺流》の歩法。
〈見事ね〉
私は舞うように身を翻し、四方から迫るオーラブレードをかわし、時には弾いた。剣光が絶え間なく閃き、火花が散る。
ヒュンッ!
鋭い風切り音が左耳のそばをかすめた。避けたはずだったが、その圧力だけでも凄まじい。左頬に熱が走り、細い血の線が刻まれる。
だが――そんなものは気にしない。私はそのまま前へ進んだ。
そうして激しい攻防の末、私はあと四歩の距離まで迫った。
ヒュンッ!
その瞬間、アグネスが操る光翼の剣群が陣形を変える。純白のオーラブレードが私を取り囲むように地面へ突き刺さった。さらに刀身が伸長し、円筒状の檻となって私を閉じ込める。
まずい。
空気が震え、爆発の前兆を肌で感じ取った。この状況では神聖力を使うしかない。
「神聖不可侵!」
次の瞬間――オーラの嵐が山頂を飲み込んだ。
ドォォォォン!!
大地が激しく揺れる。爆風によって地面が抉れ、周囲の木々までもが根こそぎ吹き飛ばされた。
『なんて無茶なオーラの使い方なの……!』
私は思わず息を呑んだ。その場に踏みとどまることはできなかった。私は爆風に身体をさらしながら、後方へ弾き飛ばされる。それでも反撃だけは諦めなかった。吹き飛ばされる最中、私は遠距離から一撃を放つ。
《秩序》の力を纏わせた剣先にオーラを流し込むと、セレペンスはしなやかな曲線を描いて伸びた。まるで獲物に食らいつこうとする蛇のように。その刃は一直線にアグネスの喉元へ迫る。
だが――
〈アイレット、あなたの剣術は誰に学んだの?〉
アグネスは私のわずかな手首の動きだけで、軌道も威力も見抜いてしまった。しかも攻撃は遠距離から放たれている。普通なら反応できる時間は十分にあったはずだ。しかし彼女は迷いなく対応する。
私のセレペンスが迫る軌道上へ、複数のオーラブレードを垂直に並べて立てたのだ。蛇を捕らえる檻のように。阻まれた刃先を見て、私は即座にセレペンスを引き戻した。
「はぁ、はぁ……」
私は呼吸を整えながら態勢を立て直した。
〈さて、ここからが本番ね〉
「――っ!」
アグネスの紫水晶のような瞳が、鋭く光を帯びる。先ほどまでの余裕とは違う。圧倒的な格の差を見せつけるような視線だった。――今までのは、まだ序章。本当の勝負はここからだ。
「ふぅ……!」
私は気合いを入れ直し、セレペンスを両手で握り締めた。散らばっていたオーラブレードが、アグネスの意志に応じて一斉に動き出す。剣群は彼女の背後へ整列し、次の瞬間――流れるような軌跡を描きながら長く伸びた。
やがてその姿は、まるで巨大な蛇腹剣のような形状へと変化する。幾重にも連なった刃が空中でうねり、周囲一帯を覆い尽くすように回転を始めた。
「くっ!」
まるで巨大な鞭のようだった。いや――九尾の狐が尾を振り回していると言った方が近いかもしれない。凄まじい破壊力の前に、山頂の岩や木々が次々と粉砕されていく。
私は直感した。『受けるのは無理だ』
両足に力を込め、一面を駆け回りながら回避に専念する。身を低くして一本をかわす。滑り込むように地面を滑走し、続く一撃をやり過ごす。さらに手を地面につき、身体をひねって軌道を変え、二本同時の攻撃を辛우じて避けた。
だが、その隙を突くように、別のオーラブレードが変則的な軌道で襲いかかる。鋭い一撃が私の肩口を狙った。避け切れない。私は反射的にセレペンスを掲げる。
キィン!!
「くっ!」
〈ええ……これも防ぐのね?〉
確かに軌道は逸らせた。だが代償は大きい。オーラブレードはそのままセレペンスの刀身を深く擦り抜け、火花を散らしながら通過した。
対峙する時間が長引くにつれ、私の動きは少しずつ鈍っていった。『まずい……!』
そして次の瞬間――
ドゴォッ!!
「ぐっ……!」
背中に重い衝撃が突き刺さった。肺の空気が押し出され、口から鮮血が噴き出す。そのとき、視界の端にシステムメッセージが現れた。
【『世界を構築する恩寵』が、その場で立ち上がります。】
【『試練の魔天柱建築家』が『世界を構築する恩寵』を再び獲得しました。】
どうやら失っていた恩寵を取り戻したらしい。それでも《神聖不可侵》が発動していたおかげで、被害は致命傷には至らなかった。アグネスは追撃を仕掛けず、オーラブレードを静かに引き戻す。おかげで、私は傷を癒やすためのわずかな時間を確保できた。
〈ふむ、このくらい積み重ねれば、そろそろ何か掴めてもおかしくない頃じゃない?〉
「……」
相変わらず気軽な口調だった。だが反論する余裕はない。アグネスの背後では、黄金色に輝くオーラブレードが不気味に揺れている。いつでも私を貫けるよう、照準を合わせたまま。
長い訓練の中で、私は一つの結論に至っていた。――避けられない。
だから私は奥歯を噛み締め、自分を守るための術を発動する。
「神聖不可侵。《水晶の障壁》」
透明な防護膜が私の身体を包み込んだ。その直後、七本のオーラブレードが時間差で襲来する。
ドン! ガン! ギィィン!
連続する衝撃に障壁が大きく軋んだ。一撃ごとに表面へ亀裂が走り、淡い光が飛び散る。だが攻撃は終わらない。まるで試すように、次々と剣が降り注ぎ、空中へと放り投げた。障壁を貫いたオーラブレードが、私の体を切り刻もうと迫る。
「くっ……!」
黙って受けるつもりはなかった。剣を持っていない左手で地面を突いて身を翻し、回避した。
ドォン! ドォン! ドォン!
地面に突き刺さったオーラブレードが爆発を起こした。私は続けざまに後方へ飛び退き、距離を取った。アグネスにはまだ一本のオーラブレードが残っていたが、すぐには放たず、余裕を見せていた。その理由は――。
カラカラ。
私のかかとに当たった小石が転がり落ちる音がした。背後は深い虚空――絶壁だった。
私は奥歯を強く噛み締めた。(……これで何度目だ)
ずっとこの繰り返しだった。追い立てられ、崖際まで追い詰められる状況が何度も続いていた。
「はぁ……」
模擬戦のたびに味わう無力感に、思わずため息が漏れる。アグネスは再び七本のオーラブレードを展開しながら言った。
〈言っただろう。避けることや防ぐことばかり考えるのはやめなさい。受け身で動いている限り、オーラマスターには決して勝てない。――剣を抜きなさい。〉
「……」
剣を抜け、と。その言葉がセレペンスを抜けという意味ではないことは分かっていた。
「どうやるんですか、それ……」
思わず口に出た。どうしてできないんだ。剣をどうやって作れというのだ。
自己嫌悪に沈みかけた私は、深呼吸をして気持ちを立て直した。アグネスはむしろ呆れたような様子だった。その時、アグネスが再び同じ攻撃をゆっくりと準備するのが見えた。そして彼女は穏やかな声で私を導いた。
〈オーラを引き上げなさい、アイレット。〉
「……」
〈あなたの内なる剣を具現化するの。〉
「……」
彼女のすべてのオーラブレードが、私を狙って一斉に照準を定める。私は静かに目を閉じた。
『剣を具現化する……。剣を指揮し、支配しろと……』
その時、ふと脳裏をよぎる考えがあった。(剣?)
何かが違う気がした。言われているのは、ただの剣のことではない。剣を作るのは鍛冶師の仕事だ。私は剣士だ。ならば、私が具現化し、指揮し、支配すべきものは剣ではなく――。
(剣術だ。砂漠剣術だ)
そうかけた瞬間、自分自身に問いかけた。(では、私の中にある砂漠剣術とは何だ?)
「……あ」
私は無意識のうちに目を開いていた。その瞬間、正面から強烈な風が吹きつけた。七本の剣が私へ向かってうなりを上げていた。その余波で生じた竜巻のような剣風が、先に私へ襲いかかる。
私は目を見開いた。美しい螺旋を描きながら迫るオーラブレードを、一つ残らず網膜に焼き付けるように見つめた。だが体は動かなかった。
〈アイレット?〉
怪訝そうなアグネスの声が耳をかすめた。だが私には聞こえていなかった。ただ一つの考えに没頭していたからだ。――私にとっての砂漠剣術。その本質とは何か。
(捕食することだ)
ドォォォン!
閃光が炸裂し、轟音が響き渡った。七本のオーラブレードが一点に集中して突き刺さり、その衝撃が大地を震わせる。舞い上がった土煙が、しばらくしてようやく静まり始めた。
私はアグネスの剣撃を真正面から受け止めたにもかかわらず、信じられないほど無傷だった。顔を上げて周囲を見回す。すると、二本のオーラブレードが私の周囲を衛星のように旋回していた。まるで私に使役される存在のようだった。
「……あ」
どこか遠い場所から戻ってきたような感覚がした。意識の焦点が合い、少しずつ現実感が戻ってくる。状況を説明したのはアグネスだった。
〈おめでとう、アイレット。〉
メッセージウィンドウが次々と更新された。そして《氷の管理局》の神々からの祝福メッセージが、私のもとへ雪崩れ込んできた。他人の境地を見抜く眼力に優れたアグネスは、私の気配がエキスパート最上位の域を超えたことをすぐに察していた。
(何を隠そう、誰の弟子だと思っているの)
幼い頃から愛情をたっぷり注ぎ、徹底的に鍛え上げてきた教え子だ。筋力、瞬発力、体力、視力、反射神経、速度、そして洞察力に至るまで――どれ一つ欠けることなく磨き上げ、バランスの取れた剣士へと育て上げた。
アグネスが師として大きな満足感に浸っていた、その時だった。
「戦闘、続けましょう」
(……何です処って?)
だが当の私は、感激に浸る様子などまるでなかった。ペリドット色の瞳に闘志が宿る。その意志に呼応するかのように、私の二本のオーラブレードが低く震えながら、旋回する範囲を広げていった。
アグネスがくすりと笑い、再び戦意を高めた。まさに戦闘再開――というその時だった。
「……あ、でもちょっと待ってください」
〈ん?〉
私はインベントリに手を突っ込み、一冊の本を取り出した。以前、アナクシアを討伐した際に手に入れたスキルブックだ。
> **【スキル『満開する剣』(パッシブ)】**
> オーラマスター専用パッシブスキル。
> 空間把握能力とオーラ運用能力が向上し、戦闘中に使用可能なオーラブレードの数が増加する。
本はさらさらと光の粒になって消え、私の体へ吸収された。その瞬間、広がった感知領域の中に、新たなオーラブレードが五本生み出された。二本だったオーラブレードは、あっという間に七本になった。
オーラマスターになったばかりの私は、スキルのおかげでアグネスと同じ条件に立つことができた。
〈はっ、そんな反則みたいなものまであるのね〉
私のオーラブレードは、背後に扇状に広がった。そのうち頭上に突き出た三本の刃は、まるで王冠のようにも見える。
「行きます」
私のオーラブレードがアグネスへ向かって放たれた。高速回転する刃が鋭い風切り音を響かせながらアグネスの周囲を駆け巡り、彼女のオーラブレードと激しく衝突しては弾け飛ぶ。
「あ、できる」
消滅したオーラブレードは、再び私の背後に生成された。七本すべてを回復した私は、続けて次の攻撃を仕掛けた。それぞれの飛剣が大きく弧を描きながら四方へ広がり、周囲の地形や障害物を次々と切り裂いていった。
アグネスの剣群も素早く動き、迎撃しながら反撃を繰り出す。
「これもできるんですね」
今の私は、アグネスの技を見よう見まねで取り込み、そのまま再現してみせていた。だが、それだけでは終わらない。新たに召喚された私のオーラブレードが横向きに並び、その鋭い切っ先をアグネスへ向けた。
オーラブレードを動かすのに必要なのは、強い意志だけ。本来なら技名を叫ぶ必要などない。それでも私はあえて口にした。
「神罰」
バチバチッ!
強力な電流が七本のオーラブレードへと流れ込んだ。青白い稲妻を散らしながら、雷をまとった飛剣がアグネスへ向かって殺到する。アグネスもまた、自身のオーラブレードを操って迎撃した。
二人の間で、飛剣同士による空中戦が激しく繰り広げられる。私のオーラブレードには、「九柱の神々」の神聖力という新たな力が加わっていた。その影響で、私の剣群はアグネスの剣群を徐々に押し込み始める。
ドォォン!
爆発はアグネス側により近い位置で起こった。そのわずかな距離の差が、どちらが優勢かを物語っている。花火の燃え残りのような火花が、アグネスの足元へぱらぱらと降り注いだ。
アグネスは思わず吹き出した。〈才能がない、ですって? 冗談もいいところだ。〉
私は再び神聖力を引き出し、オーラブレードへまとわせた。試しに使った先ほどとは違い、今度は明確な意思をもって力を流し込む。翠の瞳に闘志を宿し、私はアグネスへ告げた。
「申し訳ありません。でも、全力でいきます。圧倒的に勝ちたいんです」
アグネスもまたオーラを高めながら応じた。
〈まったく……生意気な弟子ね。〉
アグネスの右手に集まった青い光が、やがて一振りの剣へと姿を変えた。彼女はもはやオーラブレードではなく、本物の剣を手にとっている。――近接戦へ移行するつもりだ。
私とアグネスは、それぞれ愛剣にオーラをまとわせた。準備が整うと、アグネスは袖口から銀色のボタンをひとつ外し、空へ向かって放り投げる。
ヒュッ――。
青空へ吸い込まれるように高く舞い上がったボタンは、やがて落下を始めた。その落下地点は、私とアグネスのちょうど中間。寸分の狂いもなく目標地点へ落ちてきたボタンが地面に触れた瞬間――
バァン!
私の砂漠剣が鞭のようにしなりながら一直線に走った。アグネスは高く跳び上がって攻撃を回避した。空振りした一撃が地面をえぐり、轟音を響かせる。土煙を突き抜けたアグネスは、すぐさま右方向へ駆け出した。背後に一直線に並んだオーラブレードが彼女の動きに追従する。そして、その一本一本を私へ向けて射出した。
私もまた右へ走りながら、自身のオーラブレードで迎撃する。二人は反時計回りに円を描くように移動しながら、中心を挟んで激しい攻防を繰り広げた。
――七回。
互いのオーラブレードをすべて使い切った、その瞬間。私は《女王の怪力》を脚へ集中させた。圧倒的な筋力が、常識外れの軌道変更を可能にする。
ドンッ!
進行方向を直角に変えた私は、一気にアグネスへと突進した。セレペンスが斜めの軌跡を描きながら、上段からアグネスへ斬り下ろされた。
キィィン!
刃と刃がぶつかり合い、甲高い金属音が響く。交差した剣の上越しに、二人は互いの顔を見据えた。
「……!」
〈……!〉
まつ毛の本数さえ数えられそうな距離。戦いへの高揚で二人の瞳孔は大きく開き、その黒い瞳には鏡のように相手の姿が映っていた。
その時、私の視線がふと別のものを捉える。アグネスの背後で、オーラブレードが再び生成され始めていた。おそらく、スキルで本数を増やした私に比べ、アグネスの方がオーラブレードの回復速度が速いのだろう。生成されたアグネスのオーラブレードが不穏な光を放ちながら震えた。――爆発の前兆だ。
「……」
私は一瞬のうちに対策を巡らせる。神聖不可侵を展開して耐えるという選択肢もあった。だが、私はそれを選ばなかった。
私が手首をひねる。それに合わせて、鍔迫り合いをしていた二人の剣が半回転した。力の軸をずらされたアグネスの剣は、その変化に対応しきれず滑った。その隙を逃さず、私は《女王の怪力》を乗せた一撃でアグネスを大きく弾き飛ばす。
ドォォン!
アグネスが放とうとしていた至近距離のオーラブレードは、砲弾のようにあらぬ方向へ飛び、遠くで爆発した。
「このままじゃ駄目ですね。速戦即決で終わらせます」
少し低くなった声でそう告げると同時に、私はアグネスへ向かって地面を蹴った。二つのオーラブレード群が互いを牽制し合う。空中では飛剣が直線と曲線を織り交ぜた複雑な軌道を描きながら激突した。閃光が次々と弾け、激しい突風を巻き起こす。
私の桃色の髪と、アグネスの金髪が乱れ飛んだ。二振りの砂漠剣もまた、長さや軌道を自在に変化させながらぶつかり合う。近距離では研ぎ澄まされた直線的な剣筋が絶え間なく交錯し、距離が開けば、しなやかな曲線を描く刃が鞭のように唸りを上げる。
そうして山頂が削り取られるほどの激戦が続いた末――ついに勝敗の天秤が傾いた。
飛剣戦を制した私のオーラブレード群が消滅せずに生き残り、そのままアグネスへと襲いかかった。生き残ったオーラブレード群がアグネスを包囲した。逃げ場を失ったアグネスの頭上に、その影が落ちる。
「アグネス!」
〈……!〉
私は逆手に握ったセレペンスを振り下ろした。アグネスも息を止め、剣を構えて迎え撃つ。
ドォォォォン!
運動量と重量を乗せた一撃が地面を砕き、無数の岩片を巻き上げた。その衝撃は深い溝を刻みながら広がり、二人の体を大きく引き離す。
ゴォン!
ようやく二人の動きが止まったのは、巨大なアルムドリの幹を大きくへこませた後だった。破壊された大地のあちこちから、土煙がもうもうと立ち上っていた。
静寂の中で時間だけが流れていった。やがて立ち込めていた土煙が晴れ、視界がようやく開ける。
「……」
〈……〉
アルムドリの巨木まで吹き飛ばされ、その根元に倒れ込んだアグネス。彼女が背を預けている幹は、もはや壁と変わらなかった。セレペンスの刃が陽光を受けて白く輝く。その鋭い切っ先は、まっすぐアグネスの喉元へ向けられていた。
――だが、それだけでは終わらない。
ヒュンッ。
私の呼びかけに応じるように、オーラブレードが次々と飛来し、アグネスを取り囲んだ。これで合計八本の剣がアグネスへ向けられていた。
荒い呼吸を必死に抑え込みながら、私は言った。
「負けを認めてください。アグネスを傷つけたくないんです」
〈ああ……〉
アグネスは何かを悟ったような表情を浮かべた。
〈私の霊体を傷つけないようにしているのね〉
ようやく私の意図を理解したらしい。そうだ。実力が拮抗している相手を倒すには、本来なら命を奪う覚悟が必要だ。私が九柱の神聖力まで総動員していたのも、確実に勝つためだった。それでもアグネスは強かった。未熟な私の力でアグネスを深く傷つけないよう加減しながら戦う――そんなことを意識したのは、今回が初めてだった。
それが初めてであり――おそらく最後でもあった。
アグネスはしばらく黙り込んだ。八本の剣に囲まれ、完全に追い詰められた状況。少しでも抵抗すれば、即座に決着がつく。やがて彼女は肩の力を抜き、ふっと笑った。
〈負けね。〉
その一言とともに、周囲に展開されていたオーラが霧のように消えていく。私も安堵の息を吐いた。緊張が解けた途端、全身から力が抜ける。
「はぁ……」
その場に座り込みそうになる私を見て、アグネスは呆れたように言った。
〈まったく。勝った本人の方が先に倒れそうじゃない。〉
「だって、本気で強かったんですから……」
〈当然でしょ。誰の師匠だと思っているの。〉
そう言いながらも、アグネスの口元には誇らしげな笑みが浮かんでいた。
もしかすると、これが最後かもしれない。アグネスはまだ、私の問いに答えてくれなかった。ただ静かな眼差しで私を見つめているだけ。その沈黙が、かえって私を焦らせた。私は思わず半ば脅しのような言葉を口にする。
「認めてくれないなら、今すぐ神聖降臨を使いますよ。アグネスと長く離れることになるのは、私だって嫌なんです」
もちろん本気だった。ようやく、私を緊張させていたアグネスの沈黙が破られる。
〈はっ……私があと十年長く生きていたとしても。〉
「……」
これ以上修行を積めなかったことへの、短い悔恨をにじませたあと――
〈……負けたわ。〉
カラン。
金属が地面に落ちる乾いた音が響いた。アグネスの右手から剣が離れ、地面へと落ちた。
-
アグネスとの激闘と境地の覚醒: オーラマスターを目指すアイレットは、アグネスとの死闘の最中に「自分にとっての砂漠剣術の本質は捕食することだ」と悟り、エキスパート最上位の壁を越えてオーラブレードを具現化させることに成功する。
-
互角以上の戦いで師匠を下す: スキル『満開する剣』の力も得てアグネスと対等以上に渡り合ったアイレットは、アグネスの霊体を傷つけないよう加減しつつも全力を尽くし、ついにアグネスから「負け」の言葉を引き出す。
-
勝利の代償と別れの気配: 激しい訓練の末に勝利を収めたアイレットが、神聖降臨をちらつかせてアグネスに敗北を認めさせると、アグネスの右手から剣が落ち、どこか名残惜しさを残した師弟の勝負が決着する。