こんにちは、ちゃむです。
「憑依者の特典」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
161話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- ジャンルの壁を越えて
〈まさか……〉
いつの間にかオーラブレードをしまい、私のそばにやって来ていたアグネスも、隣で同じように驚いていた。
それもそのはずだ。今、私の目の前には、金貨が山のように積み上げられていたのだから。
私はごろごろと転がる金貨を一枚拾い上げた。そこには奇妙な模様が刻まれていた。
> **【その他】『悪魔の金貨』**
> 「魔界で使われる貨幣だ。ただし、そのまま使用すると呪いにかかるため、必ず浄化スキルで浄化しなければならない。」
これほど大量の魔界の金が、いったいどこから出てきたのだろう? その答えは、テシリドがノートに残していたメッセージの中にあった。
> ――私が抜け出した場所は、『歓楽の闇競売場』だったようだ。
> とりあえず身を隠しながら移動していたんだが、インベントリの中に光る地図があるのを見つけた。表示された場所へ向かうと、とてつもなく大きな金庫がある部屋にたどり着いた。
> そこにあった金貨は、持てるだけ持ってきた。足りなければ言ってくれ。
ちょうど私が五つ目の関門突破報酬として受け取ったアイテムが、『闇競売場の主の秘密金庫の地図』だったんだ。とてつもない幸運で、そのダンジョンに入り込んだテシリドが、その金庫の地図を使ったらしい。
(よくやったわ、うちのテリ! お金が必要だって、どうして分かったの!?)
【『魂を裁く天秤』が魔法で生計を立てられるようになったことをお祝いします。】
歓声を上げようとしたその時だった。問題があった。時間をおいて書き足されたらしいテシリドの次のメッセージが、私の思考を停止させた。
> ――指名手配犯になった。
「……え? な、何ですって? し、指名手配犯?」
> ――出口のゲートがすべて閉じてしまった。今の私の力では突破できるだろうが、その後に追ってくる連中まで振り切るのは無理だ。もしかすると、これが君に伝える最後の言葉になるかもしれない……。
そこで文章は途切れていた。本当に最後のメッセージだった。
「ひっ!」
〈ひっ!〉
私とアグネスは顔を青ざめさせ、同時に悲鳴を上げた。
〈どうしよう! このままじゃテシリドが死んじゃう!〉
「ああっ、だめです!」
長期離脱によるペナルティで、命の危険にさらされているのは明らかだった。こういう時、テシリドを助ける方法は決まっている。私は浄化スキルを、山積みになった魔界の金貨へ片っ端から浴びせながら叫んだ。
「早く現金化しないと!」
長期離脱のペナルティ解除券を買わなければならないのだから!
その時、アグネスがため息をつきながらぼやいた。
〈だから告白なんてするからよ。私があれだけ止めたのに、一瞬の勢いを抑えられなかったんだから。〉
「……うぅ。」
〈それはそうと、お金は足りるの? 百万ゴールドどころか、数百万ゴールド必要なんじゃなかった?〉
「確認してみます。ちょうど全部浄化し終わりましたからです。」
私は先のことなど考えず、山積みの魔界金貨をそのままキャッシュ決済ページへ放り込んだ。計算はシステムが勝手にやってくれる。
【システム】267億ゴールドのキャッシュ決済が完了しました。なお、請約撤回は1週間以内に……
「……えっ。」
予想をはるかに上回る金額だった。
〈いくらなの!?〉
「大陸通貨に換算すると、267万ゴールドです。」
〈ひゃっ!? そ、それはすごいわね。〉
ジブリル家が富の象徴と呼ばれるだけあって、とんでもない額の現金資産を抱えていたようだ。今となっては感謝の祈りを捧げるべきだろう。
(ご先祖様、金庫の地図を残してくださってありがとうございます。)
【『世界を救う亡霊』が満足そうに微笑みます。】
私がこれまで貯めていたキャッシュは、50億キャッシュを少し超える程度だった。それと合わせれば、300億キャッシュを超える計算になる。私はすぐさまキャッシュショップを開いた。
長い間、私を苦しめてきた縛りを、ついに断ち切る時が来た。
> **【商品】『ジャンル変更券』**
> 物語のジャンルを変更できる究極の商品。
> ※変更後のジャンルは、ファンタジー、ロマンス、R18ロマンス、GL/BLなどの中からランダムで決定されます。
> **価格**:100億キャッシュ
相変わらず、良心のかけらもない価格設定の確率商品だった。私はそれを、もはや執念とも言えるほど追い求めてきた。ふと、戦争でトラックにはねられて死んだ直後、憑依審査を受けた時のことを思い出した。ロマンス育児物の主人公に憑依させてほしいと願ったにもかかわらず、私の憑依審査結果はこうだった。
> **原作**:世界を救うまで回帰
> **ジャンル**:ファンタジーレイド無限回帰もの
> 三大勢力が存在する世界を舞台に、主人公が何度もダンジョンボスを攻略しながら、果てしない回帰を繰り返す物語。
――そろそろ、ここから脱出する時だ。
【『世界を救う亡霊』が「気負わず、BLだけは避けられるよう祈っている」と応援しています。】
【『魂を裁く天秤』が「主人公に執着する男たちが群がる展開を見たくないなら、その方がいい」と同意しています。】
【『幻想の混沌を見守る瞳』が、主人公を治療した後でジャンル変更券をもう一枚買い、今度はGLを引こうと目を輝かせています。】
【『均衡を調律する読書家』が、あなたの3連続ガチャ運の悪さを計算し、BLしか出ない可能性もあると分析しています。】
【『創造経済の管理者』が、万が一に備えて性別変更券の発売を企画しています。】
【『試練の迷宮建築家』が、マイナージャンルをこっそり追加しようとしています。】
【『天機を観測する監察官』が、任務を終えて戻り、3連続ガチャの結果を見守っています。】
ジャンル変更券の購入を前に、神々まで興奮しているのか、メッセージ欄は大騒ぎになっていた。本来なら、決戦を前に気力を温存するため、BLだのGLだのというくだらない話題には首を突っ込まないつもりだった。
だが、『3連続ガチャ』という言葉だけは聞き捨てならなかった。
「3回も引くつもりはありません。100億キャッシュですから。一発で終わらせます。」
自信があったので、胸を張って言い切った。
【『幻想の混沌を見守る瞳』が興味津々に目を輝かせています。】
【『魂を裁く天秤』が大きな期待に胸を膨らませています。】
【『創造経済の管理者』が少し残念そうにしています。】
【『均衡を調律する読書家』が非常に惜しそうな顔をしています。】
【『天機を観測する監察官』が目を細めて見守っています。】
私には、この日のために取っておいた切り札があった。それは、先日の教会創立記念式典で、建築家神から支援として受け取った『虹色のポーション』だ。私はそれをインベントリから取り出した。
〈ずいぶん派手な色の液体ね。それ、何なの?〉
「幸運のポーションです。」
〈幸運のポーション? なんだか怪しい色だけど、飲むものなの?〉
「はい。」
私はアグネスに詳しく説明するため、システムの鑑定結果を読み上げた。
> **【消費アイテム】『人生は一発勝負! 勝負師の幸運ポーション』**
> 人生の勝負どころは、時に実力だけでなく運にも左右される。
> このポーションを飲むと、あなたの幸運ステータスが一時的に限界値まで上昇する。
> 一生に一度しか飲めない。使う時は慎重に!
> ※なお、『試練の迷宮建築家』は名前を貸しただけであり、実際に支援してくれた神は別に存在する。※
実際に支援してくれた神が誰なのかは、すぐに分かった。さっき私が「一発勝負で決める」と宣言した後、建築家神を除けば、静かだった神はただ一柱だけだったからだ。
(讃えよ、アンテルア。信じています、アンベル。)
【『世界を救う亡霊』が親指を立てています。】
さあ、いよいよその時だ! 私は大きく息を吸い込み、肺いっぱいに空気を満たしてから、ゆっくりと吐き出した。そして幸運ポーションを一気に飲み干した。
なんとも言えない奇妙な味が、舌先から喉の奥まで広がり、そのまま胃の中へと落ちていった。
「……ふぅ。」
体感できるような変化は特になかった。だが、外から見れば違っていたらしい。
〈アイレット、目がキラキラしてるわよ。〉
「よかったです。これで今すぐガチャを回せますね。」
そう言った直後、なぜか心臓が高鳴り、呼吸も少し浅くなった。最初はポーションの副作用かと思ったが、すぐに違うと気づく。これは単純に――私自身が緊張しているのだ。
【『魂を裁く天秤』が興奮と期待で目を大きく見開いています。】
そして、ついに――チャリーン!
キャッシュが引き落とされる音が、耳だけでなく頭の中にまで鮮明に響き渡った。
「よし、買った!」
まばたきするのも忘れていた私の視界に、新たなシステムメッセージが現れた。
【システム】
『ジャンル変更券』を使用します。
結果を確認しますか?
「はい。」
極度の緊張で頭が真っ白になりそうだった。それなのに、返事だけは不思議なほど落ち着いていた。私は両手を組み、ぎゅっと目を閉じて、真剣に祈る。
お願い。お願い。お願い。ロマンスをください。ただのロマンスじゃなくて――平和で、安全で、健全なロマンスを。私は被害者が嫌いです。誘拐、拉致、監禁、ハードコアのような犯罪は嫌いです。
「私がどうしてうちのテリーにそんなことをするんですか? そうでしょう?」
[『魂を裁く天秤』は、なぜそんな役割が与えられているのか疑問に思います。]
[『試練の魔天楼建築家』は、たいてい主人公側が被害を受ける立場だからではないかという意見を述べます。]
[『均衡を操る独裁者』は、性格的にもその考えはもっともだと頷きます。]
神々が緊張感もなく会話を交わしている間に、私は目を覚ました。人生で一度しか使えない幸運を使い果たして得た結果。
それは――……。
[〈システム〉あなたのジャンルは『ファンタジー・レイド物』です。]
「……」
その瞬間、私の思考回路は停止した。しばらくして、ようやく口が震えながら結果を繰り返した。
「ファ……ンタジー・レイド?」
元々の世界のジャンルから、キーワードを一つ抜いただけで同じだった。遅れて現実を理解する。
「え、なんで……?」
どうしてこんな結果なの? ロマンスは? ジャンル名にどうしてロマンスが入ってないの?
「ダメ! 私のロマンス! 私のロマンスを返して!」
100億キャッシュと勝負師ポーションを、こんなことに使ったっていうの? 世界が崩れ落ちるような衝撃に襲われた。心臓が止まり、呼吸が途絶え、精神が崩壊しそうだ。
〈あ、アイレット! しっかりして!〉
「……無理です、アグネス。もう気絶します」
だが、その時だった。ピリン!
予想もしない衝撃的なメッセージが次々と表示された。『結果発表』で終わりではなかった。むしろ、ここからが始まりだった。
[〈システム〉『ジャンル変更券』の使用により、世界の因果律が変化します。]
「……?」
え? 因果律?
[〈システム〉主人公が変更されます。]
……は?
[〈システム〉『アイレット・ロテライン』が主人公の地位を獲得します。]
「はい?」
[〈システム〉原作『世界を救うその日まで』の影響から解放されます。]
[〈システム〉ジャンル逸脱ペナルティが終了します。]
「……」
今、何が起きたの? 私が呆然と瞬きを繰り返していると、神々からのメッセージが届いた。
[『万象の混沌を監視する瞳』が、オプションとして付属する主人公変更機能こそが実質的なメイン商品だと説明します。]
[『創造経済の管理者』が、ジャンル変更券の価格が100億キャッシュなのは伊達ではないと言います。]
[『世界を救う英雄』が、だからBLさえ避ければいいと言ったではないかと、のんびり笑います。]
[『魂を裁く天秤』が、これで原作そのものがなくなったため、「原作に存在しない恋愛をすると死ぬ」という条件も消滅したと告げ、祝福します。]
「……あ」
停止しかけていた思考回路が、ようやく再び動き始めた。私は今、とてつもない可能性を手に入れたのだと、ようやく理解した。澄み渡る青空から吹き込む爽やかな風が、頭の先からつま先まで吹き抜けていった。
[〈システム〉おめでとうございます、アイレット・ロテライン。あなたは世界を救うことができる主人公です。]
新しい世界からの最初の挨拶のような風だった。
—
夜空には二つの月が浮かんでいた。血を流しているかのような赤い満月と、欠け崩れた青い半月。どちらも完全な天体の姿ではなかった。歪んだ形の二つの月が、黒い天幕を抽象画のキャンバスのように染め上げていた。
この場所は、空だけでなく地上もまた奇怪そのものだった。原色の青と黄色の縞模様で彩られたテント状の建物。サーカス小屋を思わせるその場所には、ピエロやマリオネット、人形たちの死体が無数に転がっていた。数え切れないほどの数だった。サーカス団は、そのまま魔族たちの共同墓地と化していたと言っても過言ではなかった。
その悪魔たちの死骸を踏みしめながら、一人の男が立っていた。長く引き締まった脚を包む革のズボンに、真っ白なシャツをまとった男だった。派手な装飾や小道具が散乱するこの場所には似つかわしくない、禁欲的な装い。だが、長い戦いで裂けたシャツの隙間からは、革製のベルトのようなものがちらりとのぞいていた。
死体の山の頂に立つ彼は、征服者の旗の代わりに、手にした剣を突き立てた。男を思わせる純白の聖剣からは青い聖火が噴き出し、魔族たちの死体を焼き尽くしていた。
不吉な風が吹き抜ける。刃物のように冷たい気流が彼の身体をなで、銀髪を揺라した。風に髪を乱されても、職人が彫り上げた彫刻のように整った顔立ちは、ただ無表情を保っていた。
男が虚空へと意味もなく視線を投げていた、その時だった。沈んでいた彼の海のような青い瞳に、ふいに異彩が宿る。
「あ……」
彼は左腕を持ち上げた。袖をまくると、前腕の内側があらわになる。そこでは、白い聖痕を取り巻いていた黒い枷が、錆びた鉄くずのように砕け散っていた。
「ついに……」
彼を縛り続けていた力の束縛が、ついに完全に消え去ったのだ。どうやら、魔族を大量に討伐した行為が大きな善行として認められたらしい。
全身の血が勢いよく巡り始める。身体の奥深くで固く閉ざされていた水門が、一気に開かれるような感覚だった。堕落する前、99回分の力が押し寄せるように彼の全身を満たした。彼は長く息を吐き出し、その力を静かに落ち着かせた。
その時、地平線の向こうから第三の月が姿を現した。溶け落ちるような紫色の三日月だった。アビシニスの象徴であるその月が南中する時、バルフルギスの夜が始まる。
三つの月が一つの夜空に揃っただけで、魔界の大地には異変が起こった。地面から緑色の霧が湧き上がり始める。毒霧だった。
魔界の異変は人間界にも影響を及ぼす。間もなく各国では、ダンジョンゲートを通じて魔物が溢れ出す現象――「ダンジョンドレイン」が発生するだろう。この暗緑色の毒は、人間の呼吸器を蝕む。バルフルギスの夜が始まる頃には、恐るべき疫病が猛威を振るうことになるだろう。
いつの間にか魔族たちの死体はすべて焼き尽くされていた。青い火葬を終えたテシリドは聖剣を収める。
「そろそろ脱出するとしよう」
—
美しいステンドグラスに彩られた聖皇庁の大礼拝堂。年齢差のある二人の女性が、それぞれ護衛騎士を従えたまま向かい合っていた。
「お呼びでしょうか、セネディクト教皇聖下」
「よく来てくださいました、ミュリエル聖女」
病床から起き上がった教皇は、自ら呼び出した相手へと視線を向けた。長い黒髪に、青と金が混ざり合う神秘的な瞳を持つ若い女性。彼女は最近、聖皇庁内で急速に頭角を現している聖女だった。気品ある立ち居振る舞いと穏やかな微笑みは実に美しかった。その姿は、まるで童話の挿絵から抜け出してきた聖女そのものだった。
――あのような女性が農夫の娘だとは。
生まれつき聖女のような雰囲気をまとっていたとはいえ、ミュリエル・フィリジェはエルティオ山脈の麓にある田舎村の出身だった。村人たちにミュリエルについて尋ねれば、住民たちは口を揃えて、正気ではない老夫婦を献身的に世話していた心優しい娘だと称賛した。
その善良な心に神が感銘を受けたのだろうか。ミュリエルは第8階位の神聖力に覚醒し、クロービスによって聖皇庁へ招かれた。良く言えば神秘的。悪く言えば、どこか胡散臭さのある女性だった。
セネディクトは余計な考えを振り払い、口を開いた。
「お伝えしたいことがあり、お呼びしました。ミュリエル聖女」
「お聞かせください、聖下」
「近いうちに、この世界へ災厄が訪れるという神託が下されました」
ミュリエルの瞳が大きく見開かれる。驚きを隠せない様子で、彼女は問い返した。
「神託ですか? 聖下が直接お受けになったのですか?」
「いいえ。神に近しい存在から伝えられたものです」
「神に近しい存在? それは一体どなたなのですか?」
ミュリエルの目がわずかに細められた。彼女にとって、その言葉は看過できないものだった。なぜなら、この世界でミュリエル自身ほど“秩序”と“善”に近しい存在はいないはずだったからだ。
その時、セネディクトが静かに口を開いた。
「詳しくはお話しできません。ただ一つだけ……」
「……」
「その方は『光を宿した闇』と呼ばれています。それだけ覚えておいてください」
「……光を宿した闇、ですか?」
非常に含みのある呼び名だった。だが、今回のセネディクトはそれ以上の説明をしなかった。代わりに、本来の目的へと話を戻す。セネディクトはゆったりとした袖口の中へ手を差し入れた。衣の奥は亜空間の倉庫と繋がっているらしく、かなり長い物体を引き抜いてようやく先端が姿を現す。
「お受け取りください、ミュリエル聖女」
「これは……?」
セネディクトがミュリエルへ差し出したのは、十字架の旗が取り付けられた旗竿だった。それは以前、アイレットがヘルカイオンを討伐した後に手に入れたアーティファクトでもあった。アイレットはこのアーティファクトを教皇庁へ返還する代わりに、三日間の労役免除を約束されていた。
セネディクトが説明する。
「このアーティファクトの名は『聖地構築』。ダンジョン内に味方を安全に保護する領域を作り出すことができます」
「そんな貴重な物を、なぜ私に?」
「予言を授けてくださったお方が、近いうちに必要になるだろうとおっしゃいました。現在、教皇庁で最も強い神聖力を持つのはミュリエル聖女です。ですから、あなたにこれを託したいのです」
この人選は必然だった。『聖地構築』を発動するには、莫大な神聖力あるいは魔力が必要だったからだ。その重大な責任に見合うように、アーティファクトの重みもまたずっしりとしていた。
ミュリエルは両手で抱えた『聖地構築』を見下ろしながら、しばし考え込んだ。やがて、彼女は慎重に口を開く。
「教皇聖下」
「何でしょう、ミュリエル聖女」
「私も、その『光を宿した闇』様にお会いすることはできますでしょうか?」
「そのお方が望まれるなら、お呼びがかかるでしょう」
それは遠回しな拒絶だった。
「それだけでも十分です。ミュリエル聖女」
「……はい、聖下」
ミュリエルはアーティファクトを抱えたまま、礼拝堂の出口へと向かった。巨大なアーチ型の木製扉が閉まり、大礼拝堂は再び静寂に包まれる。
セネディクトは沈痛な面持ちで口を開いた。
「まもなく災厄が訪れる。各国が夜空を見上げることになるだろう」
彼女は立ち上がり、祈祷室へと向かった。真実を確かめなければならなかった。
—
「現象の追跡者になった」という最後のメッセージを残したまま、テシリドからの便りは途絶えた状態が続いていた。ジャンル変更券を購入したものの、なぜかノートには短い生存報告すら追加されない。
私は心配ではあったが、不安に飲み込まれないよう努めた。ジャンル逸脱ペナルティは確実に消滅したのだ。少なくとも彼は無事なはずだった。今は再会のために、私にできることへ全力を注가なければならなかった。
バルプルギスの夜が訪れるまで、ダンジョン時間でおよそ十日の猶予がある。その時間を利用して、私はアグネスから本格的にオーラマスターの特訓を受けることにした。そして、ダンジョン最上階で食べて、寝て、訓練する日々を繰り返して五日目。
今の私は――。
「やっぱり私には才能がないみたいです……」
地面に向かってうなだれていた。アグネスの私塾剣術とオーラブレードに関する書き込みがぎっしり詰まった紙。それを眺めれば理解できそうな気もするのに、肝心の“気づき”だけがどうしても訪れない。境地への壁は高く、そして厚く、わずかなひびすら見えなかった。
いや、正直なところ、私はその境地に至る壁の前に立てているのかどうかすら怪しかった。そもそも、その壁にたどり着くまでにはまだまだ距離があるのに、勝手に足踏みしているだけではないだろうか。
考えてみれば、オーラを習得できたこと自体も、結局はオーラマスターパッケージのおかげではないか。システムから与えられた主人公特典のおかげであって、自分の才能で勝ち取りた成果とは言えない。
――ここまでが私の限界なのだろうか。
〈何言ってるの、この子。〉
アグネスは、まるで冗談でも聞いたかのように呆れた笑みを浮かべた。ひどい。私は少し拗ねながら、心の中で神々に愚痴をこぼした。
『ジャンルが武侠ものだったらよかったのに。そうしたら師匠から百年分の内功を譲り受けたり、偶然見つけた万年霊芝を食べて一気に覚醒したりして、あっという間に強くなれるのに……』
[『創造経済の管理者』が、もう一枚ジャンル変更券を買わないかと目を輝かせます。]
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魔界の金貨による大金を手に入れた主人公: テシリドが持ち帰った「悪魔の金貨」を浄化・換算して267万ゴールド(300億キャッシュ超)を手に入れた主人公は、長年の悲願である高額な『ジャンル変更券』を購入する。
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因果律の変化と主人公の獲得: ガチャの結果は「ファンタジー・レイド物」と変わらなかったものの、その隠されたオプション機能により『アイレット・ロテライン』が正式に主人公の地位を獲得し、原作の束縛とペナルティから完全に解放される。
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迫り来る「バルプルギスの夜」と特訓の日々: 魔界ではテシリドが束縛から解き放たれて脱出の準備を進め、人間界では聖皇庁が災厄の予兆に揺れる中、主人公は残り十日間の猶予を利用してアグネスの下でオーラマスターの特訓に励む。