憑依者の特典

憑依者の特典【128話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「憑依者の特典」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【憑依者の特典】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「憑依者の特典」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...

 




 

128話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • お菓子の森

「……」

「何ですか。どうしてそんな目で見るのですか?」

リガレスは、わざと何も分かっていないような表情を浮かべて笑った。

そうだ。

彼は、私の陰湿な本音を何とも思わずに受け流して笑える人だった。

「とにかく、無事に行ってきてください。あなたがどこかで倒れて戻ってくるようなことになったら、私は気分が良くありませんから。」

「……ありがとうございます。」

そして見てみると、プリンツは少し不思議そうな顔をしていた。

なぜこんな悲劇の王子のような人が、私のことを気に入っているのだろう。

だが、平民出身の騎士見習いである自分が軽々しく尋ねていいことではないと思った。

だから、いつものように沈黙を美徳としてやり過ごしてきた。

ところがなぜか今日は、リガレスのほうから先にその理由を口にした。

「分かるか?」

「……え?」

「あなたは、亡くなった私の兄と雰囲気が似ている。」

すっと、リガレスとプリンツの距離が一気に縮まった。

「ちょうどいい代用品、といったところかな。」

「……」

低くささやく声が、氷の欠片のように冷たくプリンツの頭に突き刺さった。

プリンツの心臓は上下することもできず、時間だけが流れていった。

「第三王子殿下、こちらにいらっしゃいましたか!」

王宮の騎士たちがリガレスを探してやって来た。

「何事だ?」

「問題が発生しました。少し前、集結地に到着した魔導軍に関する件です。」

指定された時刻よりも一時間も早く到着したその軍が、騒ぎを起こしたとのことだった。

「何があったのか話せ。」

「キメラ研究者が魔導軍を率いてダンジョンに侵入しました。教国とは共闘できないとして、先に討伐すると言っています。」

「……ふむ。」

リガレスの口元がわずかに歪んだ。

おそらく騎士たちは、報告をする前から結果を予測していたのかもしれない。

「恐怖に怯えているであろう兄上と姉上を、一刻も早く救い出さなければならないな。」

リガレスは王子として命じた。

「行って、ロミナ・レカンドロ公に伝えろ。王国軍も直ちにダンジョンへ進入せよと。」

 



 

これはどういうことだろう。

本来なら第二次討伐軍で埋め尽くされているはずの王宮の裏庭が、妙に静まり返っていた。

システムウィンドウを開いて時間を確認した。

私たちの到着時刻には問題はなかった。

「どうしてダンジョンゲートの前に、私たち以外いないんだ?」

テシリド、イペル、ヘスティオ、アッシュも同じように首をかしげていた。

イペルとヘスティオが意見を口にした。

「飯でも食べに行って、そのまま来てないんじゃないか?」

「いや、ダンジョンシンクがもう一度起きたとか。」

「もう少しまともな意見はないの?」

騎士団員たちが頭を悩ませている最中だった。

「もしかして神聖国の件か?」

声のした方を振り向いた。

青い制服で王室騎士団の所属だと分かる女性が二人立っていた。

一人は橙に近い赤い金髪で、全体的に中性的な魅力が目立つ。

可愛らしさもあるが気の強さを感じさせる顔立ちで、小柄な体に似合わない大きな大剣を背負っていた。

もう一人は、二つに分けた三つ編みをしている栗色の髪の女性だった。

半分閉じられたようにとろんとした目が印象的だった。

この二人、どこかで見た気がするのだが。

記憶をたどっているうちに返事を忘れていると、二人の騎士は顔を寄せて小声で話し始めた。

「違うだろ?神聖国の姫様だぞ。もっとこう、ふんわりしてるはずだろ?」

「うーん、そうだな。あの子、チェルリーの大剣を片手で振れるような腕には見えないし……」

「こんな可愛い子じゃなくて、拳でぶん殴ってきそうなタイプを探そうぜ。」

小声で話しているつもりなのかもしれないが、しっかり聞こえていた。

イペルとヘスティオが笑いをこらえている間に、テシリドが静かに前へ出た。

「神聖国の姫君で間違いありません。」

「あ、失礼!」

「し、失礼……」

続いてテシリドは、右手に聖剣を召喚した。

戦うためではなく身分証明のためだったので、剣先は下げられていた。

「私は聖剣の主、テシリド・アージェントと申します。お二方はどなたですか?」

「王室騎士団所属、チェルリー・レカンドロです。」

「同じく、セズ・リナティです……」

ああ、やはり。

フルネームを聞いて確信した。

橙がかった金髪と栗色の髪の二人の王室騎士。

彼女たちは、レカンドロ侯爵家の末娘とリナティ伯爵家の長女だった。

さらに二人は、士官学校第114期の次席と首席の卒業生でもある。

私も前に出て、自己紹介をした。

「神聖国、アイレット・ローデラインです。」

「ローデライン……?」

赤みがかった金髪、つまりチェルリー・レカンドロが目を大きく見開いた。

114期なら、117期である兄のことを知っていても不思議ではない。

もっとも、今はその話をしている場合ではなかった。

「チェルリー様、セズ様。現状についてご説明いただけますか。」

「それが……」

セズよりもやや口数の多そうなチェルリーのほうが説明を引き受けた。

要するに、こういうことだった。

一時間ほど前、大魔導士モリフィスが魔導軍の討伐隊を率いて先にダンジョンへ突入し、それに続く形でレカンドロ侯爵も第三王子リガレスの命により王国軍を率いて後を追った、というのだ。

「はあ、第三王子……」

あのブラザーコンプレックスの塊みたいな性格破綻者が、ついにやらかしたのか。

実質的に、王国が教国か魔導共和国のどちらかを選んだも同然だ。

後々、外交問題になるのは避けられないだろう。

王室騎士の二人が、私の前で慌てて一方の言葉を遮った。

チェルリーが必死に弁解する。

「申し訳ありません、殿下。第三王子殿下はご兄姉に対する情が深く、つい衝動的に……」

「ふふ。」

「……」

「あれ、今わたくし、声に出してしまいましたか? 失礼しました。」

「あ、いえ……殿下。」

「神聖国……気が強い……魅力的……」

「セズ。」

チェルリーは、天才だが少し抜けている友人の脇腹を軽く小突き、冷や汗を流した。

私は気づかないふりをしつつ、ちらりとテシリドの様子をうかがった。

第三王子リガレスの話が出たことで、テシリドはわずかに神経を尖らせていた。

テシリドは前世で、リガレスによって命を落とした過去がある。

外交使節として王宮を訪れていた際、教団を嫌うリガレスに「聖剣の主」という理由だけで目をつけられ、命を奪われたのだ。

つまり彼は、理不尽で一方的な悪意によって殺されたのである。

それはつい直前の回帰の出来事だが、テシリド本人は特に動揺した様子も関心を示した様子もなかった。

「ひとまず立ってください、チェルリー様、セズ様。」

「殿下にご無礼を……」

「構いません。お二人の責任ではありませんから。」

私の理にかなった判断に納得した様子で、チェルリーとセズは体を起こした。

視線の高さを合わせて話を続ける。

「見たところ、お二人は先に出発した討伐隊と合流するためにここに残っていた、ということでしょうか。」

「はい、殿下。」

「ダンジョンの内部は、すでに三時間ほど経過している状況ですか?」

「はい。合流は難しいかもしれませんが、最善を尽くしてご案内いたします。私とセズは第一次討伐にも参加しておりますので、どうかお任せください。」

彼女たちの実力を疑っているわけではない。

むしろ、王室騎士団の中でも精鋭とされる存在だ。

レカンドロ侯爵家も、こちらに誠意を示していると考えていいだろう。

だが、それはそれとして――。

ここでは私も、エルペハイム教国の神聖女であり、ヒスペル公爵家の代理人として対応しなければならない。

私は二人と順に視線を合わせた後、軽く顎を上げた。

「私が合流するつもりはない、と言ったら?」

チェルリーとセズだけでなく、騎士団の面々までもが目を見開いてこちらを見た。

「殿下?」

「え?団長?」

私はさらに言葉を強めた。

「我々騎士団は、先に出発した討伐隊と合流するつもりはありません。」

「本気……ですか?」

「先に我々を置いて出発したのはあちら側です。それでもなお、共に戦えるとお思いですか?」

「……」

相手が無礼を働いた以上、こちらは大義名分を掲げて状況を利用できる。

だから――

「私たちはダンジョン突入後、独自に行動します。」

ボスを独占する。

私は自分の騎士団の方へ振り返り、答えが決まっている問いを投げた。

「みんな、いい?」

テシリドは黙って頷き、イペルとヘスティオはため息をついてから肩をすくめた。

「団長がそう言うなら従うさ。」

「そうだな。三日間の免除って、なかなか魅力的だしな。」

アッシュも不満はなさそうだった。

「私は魔導軍と鉢合わせしない方が助かります。」

「ああ、そうだったな。お前、幻像酔いが……うん、そうだな。」

「はい、殴って治そうとするのはやめてください、兄様。」

「しません。」

チェルリーとセズはあ然とした様子でつぶやいた。

「この人数で……?」

「神聖国……本気……?」

私は二人の王室騎士に向かって、落ち着いた声で告げた。

「そういうことですので、チェルリー様とセズ様のご案内は辞退させていただきます。ダンジョンには我々の騎士団のみで入ります。」

[『万象の混沌を監視する瞳』が決定されました。早急にダンジョンへ入場してください。]

[『天機石の監察官』が『万象の混沌を監視する瞳』を注視します。]

[『万象の混沌を監視する瞳』は視線を伏せ、目を細めます。]

チェルリーとセズが何か言い返そうとしたのを手で制し、私は右手を軽く上げて合図した。

「行こう。」

私を含めた五人は、渦巻くゲートの中へと足を踏み入れた。

[〈システム〉難易度SS級ダンジョン『勇者たちの遺した童話の地』に入場しました。]

目の前に広がったのは、月明かりに照らされたお菓子の森だった。

「もう出てきてるのか。」

カラカラカラカラカラ……!

 



 

まるで待ち構えていたかのように、無数のスケルトンが四方から私たちを取り囲んでいた。

眼窩で不気味に明滅する赤い光は凄まじく、誇張抜きで地平線の果てまで続いているようにすら見えた。

まさにアンデッドの大軍。

それを前に、私たちの騎士団員たちは慌てて陣形を整え、動揺を隠せずにいた。

「いや、なんでこんなに多いんだ?討伐隊が二度も通った場所なんだろ?」

「うーん、そうだな……もしかして、その間に増殖でもしたのか?」

「おい、イペル。スケルトンがそんなことできるわけないだろ?」

「そうだな、ダンジョン産のモンスターがそこまで器用なはずがないしな!」

幸い、冷静な人間が一人いた。

テシリドは地面の土をひとつまみ取って観察しながら言った。

「骨の粉が混じっている。おそらく魔導軍が通過する際に細工したんだろう。」

「なるほど……」

改めて見れば、目の前のスケルトンたちの様子はどこかおかしかった。

身体が骨ではなく砂のように崩れ、ぽろぽろとこぼれ落ちている。

弱体化しているアンデッドたちの姿を見て、理解した。

「骨粉を広範囲に撒いて、アンデッドの数を増やしたのか。」

この墓地は、いわばアンデッドの培養装置のような場所だ。

撒かれた骨粉が死霊術の力を吸収し、スケルトンとして再生しているのだろう。

「耐久力は低そうですね、兄さん。」

「それでも数が多すぎるな。消耗戦は避けられないか……」

「よし、イペル。分かったなら前に出ろ。末っ子と私は後ろに回る。」

全員が戦闘態勢に入った。

イペルは剣にオーラをまとわせながら私に尋ねる。

「団長、どの方向に突破する?」

「北東よ。」

「了解。ここは強いのを一掃して、そのまま突破だ――って、あれ?」

イペルの言葉が途中で止まった。

包囲していたはずのアンデッドたちが、じりじりと後退し始めていたのだ。

私が前に出て歩みを進めると、それに合わせてアンデッドたちはさらに距離を取った。

私の持つパッシブスキル――『アンデッド界に広がる悪名』の効果である。

私は後ろを振り返って言った。

「突破しよう。歩いて。」

「……あ、うん。了解、団長。」

私が先頭に立つと、アンデッドたちは左右に割れて道を開けた。

まるで奇跡の一場面のような光景に、団員たちは感嘆の声を上げた。

「さすが聖女様だな……」

「何もしてないのに進めるの、めっちゃ楽だな。」

「姉様、格好いいです。」

その中で、私はただ一人、淡々としているテシリドに向かって声をかけた。

「昔を思い出すわね。」

「昔?」

「覚えてない?おもちゃの家でかくれんぼしたとき。ピエロの人形が襲ってきて、あなた、私を盾にしたでしょ。」

「……」

意外にも彼は、その遠い過去をはっきり覚えているようだった。

少し気まずそうに、視線を逸らした。

彼は視線をそらしたまま、横を向いた。

私たちはやがて共同墓地を抜け、谷間へとたどり着いた。

ここは次のエリアである「怪物の森」へと続く関門だった。

両側を断崖に挟まれた細い道を進んでいると、再び魔導軍の妨害に遭遇した。

「おい、見ろよ。今度は氷で道を塞いでやがる。」

「この規模の魔法……モリフィスの仕業だな。」

「おい、テシリド兄さん。そろそろ出番じゃないのか?」

「あなたに言ったわけではありません。」

どうも、テシリドの敬語は少しずつ崩れ始めているようだ。

当然のことながら、私たちは難なくこの障害を突破した。

私が動くまでもなく、テシリドの強力な浄化の力が氷を溶かし、道を切り開いたのだ。

それもすぐのことだった。

怪物の森に入ってからも、私たちはモリフィスの嫌がらせのような妨害を何度も受けた。

「うわ、ひどいな。ここ、本来なら森を横断する橋があったはずなのに、爆破されてるじゃないか。遠回りするしかないな。みんな、こっちだ。」

「おいおい、幻影魔法まで仕込んでるのか?サキュバスでも連れてるのかよ。最近のやつら、ほんと油断ならねえな……おい、イペル!しっかりしろ!」

「アッシュ、嫌な予感がする。前方の谷に罠が仕掛けられていないか確認してくれ。」

そんな具合だった。

[『世界を構築する叡智』は、塔に閉じこもって研究ばかりしている連中は人格に問題があるとぼやいています。]

[『試練の魔塔の建築家』は、それは偏見だと小さく反論しました。]

イペルが苛立たしげに前髪をかき上げた。

整った額があらわになり、先ほど私に叩かれた跡がほんのり赤く残っていた。

「はあ、これじゃ味方どころか敵も関係ないな。」

「魔法使いってそんなもんですよ、イペル兄さん。」

「それはそうだが……。魔導軍はともかく、王国軍は何してるんだ?」

「モリフィスを止められる人がいませんからね。あの人、完全にいかれてますし。」

「は?そこまでか?」

「はい。」

その言葉に、アッシュが珍しくはっきりと頷いた。

「200年以上生きて研究ばかりしてる人間が、まともな精神でいられる方が難しいでしょう。人間実験をしているという噂もありますし。」

「実験体にされる可能性もあります。気をつけてください。」

「なるほどな、ヘスティオ。お前が一番弱いし、真っ先に狙われそうだな。気をつけろよ。」

「おい、コラ。」

軽口を叩き合いながら進んでいると、不意に首元でひそひそと囁くような声が聞こえた。

〈本当なの?200年以上も生きてるって〉

アグネスに向けて、テシリドが静かに答える。

「モリフィスは寿命を延ばす禁忌の魔法を扱うことで知られています。聖教庁に知られれば即座に裁かれるべき人物ですが、家門の権威と自身の魔力の高さゆえに、誰も手出しできないのです。」

〈どんな家門なの?〉

「モリフィスはマルセリオン家の出身です。かつてヘルカイオン討伐戦で第一魔導軍を率いたオデリット公女を輩出した名門ですね。」

〈ああ、あの部下を平気で捨て駒にする指揮官の家系ね?あの家、まともな人間いないんじゃない?本当に人体実験とかしてそう……〉

「人体実験に関しては噂に過ぎません。モリフィスは人間嫌いが極端なだけで、実験対象は動物や魔獣に限られているとされています。しかも動物は死体のみを使用しているとか。」

テシリドの説明が終わると、アッシュはどこか感心したように何度も頷いた。

「なるほど。丁寧な説明、ありがとうございます、テシリド兄さん。」

「……」

敬語で話している以上、こういう誤解は避けられない。

私たちはやがて谷の出口に差しかかった。

〈ギャアアアアッ!〉

突如として、獣の咆哮が谷間に反響した。

「これは……」

普通なら、前方に魔獣がいると判断して警戒する程度で済んだはずだ。

だが、その咆哮に込められた感情が、私たちの神経を逆撫でした。

種族を超えて伝わってくる感情――それは怒りと悲しみだった。

〈グルルルル……!〉

足を止めた先には、馬車ほどもある巨大な狼が木に繋がれていた。

半身は黒く侵食されているが、まだ青い光を宿す毛並みが残っているのを見て、正体に気づく。

「堕ちた森の精霊、か……」

首輪と鎖で拘束され、明らかに何者かに支配されている様子だった。

黒く染まった部分がじわじわと広がっているのを見るに、何かをきっかけに急速に堕落が進行しているらしい。

血のように赤く染まった目から涙を流し、荒い息を吐く狼。

首輪から逃れようともがきながら、必死に暴れている。

その理由はすぐに分かった。

「姉さん、あの狼の前に……」

「……」

鎖の長さのせいで、狼の前脚がぎりぎり届かない位置。

そこには、無残に積み重ねられた五匹の子狼の死体があった。

[『万象の混沌を監視する瞳』は、その残酷さに目を覆います。]

子狼たちの体には、ひと目で分かるほどの黒い腐食の痕が広がっていた。

テシリドが低い声で呟いた。

「母親を狂わせやがったか……」

せいぜい子犬ほどの大きさの、小さな仔たちだった。

イペイルは笑顔を消し、ヘスティオは歯を食いしばった。

「仔たちは、まだ堕ちていないみたいですね」

「俺たちを襲わせるために、こんなことまでしたって?本当にろくでもない連中だな」

怒りをあらわにする仲間たちを後ろに、私は仔狼の亡骸が積まれた場所へと歩み寄った。

そこは、母狼の鼻先のすぐ目の前でもあった。

〈クォォォォ!〉

堕ちた狼が再び咆哮し、私へと殺気を叩きつける。

だが私は動じず、静かに身を低くして、仔狼たちの亡骸に手を触れた。

私の手から白い光があふれ出した。

それに反応して、母狼はさらに狂ったように吠えながら暴れ回った。

ドン!

巨大な体が鎖を引き絞り、地面が揺れるほどの衝撃が走る。

私は黙々とやるべきことを続けた。

そして――しばらく後。

「一匹は助かった」

〈……〉

まだ目もまともに開かない仔狼が一匹、ふらつく足取りで母親のもとへと戻っていった。

たった一匹でも生き残った我が子を抱いたことで、母狼の目から狂気の光が薄れていく。

わずかに落ち着きを取り戻したかに見えたが、それも長くは続かなかった。

〈ク、クルルッ〉

直後、母狼が前足で私の胸を押さえつけ、苦しめてきた。

心臓があるはずのあたりを、まるで叩き潰そうとするかのように激しく打ちつけてくる。

「あなた……アナシアの命令に背いたのね」

 



 

 

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