こんにちは、ちゃむです。
「憑依者の特典」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
133話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 死神の鎌
一方、プリンツ、レイン、ヒルデの三人がいる側も、決して楽な状況ではなかった。
「大丈夫ですか?」
「平気か?」
「は、はい……!」
模範的な騎士らしく、プリンツとレインはまずヒルデの安否を気遣った。
バランスを崩して尻もちをついた彼女に、両側から丁寧に手が差し伸べられた。
「だ、大丈夫です……」
深く頭を下げたヒルデは、その手を取らずに自力で立ち上がる。
彼女にとっては、それが当たり前だった。
プリンツとレインも特に気にする様子はなく手を引っ込めた。
今は周囲の確認が優先だ。
「厄介ですね。かなり上層へ移動したようです。」
「上に行くほど、出てくる魔族は強くなるはずだ。」
三人がいるのは、城の回廊の一角だった。
ロミナたちのように、いきなり中ボス部屋に放り込まれたわけではない。
プリンツが提案する。
「中ボス部屋に無理に入らず、ここで合流を待つのが良いと思います。」
「それで、白魔法使い様はどうお考えですか?」
「それがいいでしょう、プリンツ君。」
「賛成です……」
だが人の思い通りに進まないのが常、とりわけダンジョンではなおさらだった。
ドドドドドン!
鏡の城は、訪問者が通路に長く留まることを許さなかった。
両側の壁が彼らに向かって迫り始める。
このままでは、押し潰されてしまうかもしれない。
レインが焦りをにじませて叫んだ。
「ダンジョンの主が、ここに留まるのを許さないつもりだ!」
「走ってください、白魔法使い様!」
「は、はい!」
プリンツとレインはヒルデを気遣いながら走り出した。
左右から壁が迫り、回廊全体が押し潰されそうな状況だった。
安全な場所を求めて走り続け、やがて三人は通路の突き当たりへと辿り着く。
ドンッ!
待ち構えていたかのように扉が勢いよく開き、三人を中へと飲み込んだ。
「はぁ、はぁ……」
体力の乏しいヒルデは、その場にへたり込む。
激しく脈打つ心臓を押さえながら息を整えていると、ふと頭上に影が差した。
顔を上げると、プリンツとレインが彼女の前に立ち、庇うように前方を見据えていた。
「騎士様たち……?」
いつの間にか剣を抜き、正面を見据えている二人の青年。
その広い背中から緊張が伝わってきた。
そこでようやくヒルデは、自分たちがたどり着いた場所が中ボス部屋であることを思い出す。
「ここまで来るなんて。面倒な連中ね。」
氷の刃のように鼓膜を刺す、女の声。
ヒルデは震えながら、その声の主へと視線を向けた。
黒いレザーに身を包み、妖艶な体つきを強調した、赤髪の女。
頭の両側に生えた山羊の角、背に広がるコウモリの翼、そして悪魔の尾が、その正体を物語っている。
「私はサキュバスの女王、リリト。」
ヒュッ――!
巨大な黒い鎌が空気を切り裂き、重々しい破裂音を響かせた。
リリトは自分の体よりも大きな武器を片手で軽々と持ち上げ、三人に向ける。
そして冷たく言い放った。
「これ以上、アナクシア様に近づかせるわけにはいかないわ。」
その圧倒的な威圧感に、プリンツとレインの額に冷や汗が滲む。
二人は前を見据えたまま、小さく言葉を交わした。
「厳しい戦いになりそうだ。」
「だな。」
勝敗の行方は、正直なところ見えていた。
それでも二人は、弱気な言葉を口にすることはなかった。
ただ一つ、彼らにも後悔があった――。
「こんな大事な戦いになると分かっていたなら、もっと連携を鍛えておくべきでしたね。」
「まったくだ、6年間何をしていたんだか。」
二人は軽く笑い合った。
危機にあっても動じないその態度が、かえって悪魔の機嫌を逆なでする。
リリトは顎をわずかに上げ、冷たい視線を向けた。
「おしゃべりはそこまでよ。」
ドンッ!
レザーに包まれた彼女の両脚が、床を爆発的に踏み抜く。
あの速度で鎌を片手で振るえる敵など、そうはいない。
――並の騎士では、一撃も受けきれない。
同時に判断したレインとプリンツは、即座に散開した。
「危ない、私が前に出る!」
「いえ、私が!」
「私がやると言っている!」
「こういうのは主席がやるべきです!」
「……」
レインが一瞬ためらったその隙に、プリンツの剣がリリトの鎌を受け止めた。
「ぐっ!」
凄まじい衝撃が、手首から肩へと突き抜ける。
剣と巨大な鎌がぶつかり合う中、リリトはゆっくりと首を傾けた。
その瞳は、戦いへの興奮と狂気で赤く輝いている。
「私に構ってほしいの?なら、好きなだけ相手してあげるわ!」
リリトは鎌を容赦なく振り下ろした。
プリンツの動体視力でも、かろうじて捉えられるほどの速さだった。
速度だけでなく、力の差も歴然としている。
プリンツは徐々に押し込まれ、攻撃を受け止めるだけで精一杯だった。
「これで私を楽しませられると思っているの?ねえ?」
悔しさに、プリンツは歯を食いしばる。
「つまらないわ。あなたの相手はやめて、そっちの仲間で遊んであげる。」
「……っ!」
大きく振り抜かれた鎌に弾かれ、プリンツは後方へと吹き飛ばされた。
その瞬間、リリトの体が素早く向きを変える。
タッ――!
床を蹴る鋭い音とともに、彼女は一気に距離を詰めた。
狙われたのは――
「レイン卿!」
プリンツが焦って叫んだ、その瞬間――
「くっ……!」
レインは間一髪でリリトの一撃を受け止めることに成功した。
しかし、腕にかかった衝撃は凄まじく、筋肉が裂けそうなほどで、小刻みに震えている。
「き、騎士様!」
ヒルデがすぐに神聖力を流し込んだが、剣先の震えは止まらない。
「何?これも耐えられないの?それでも剣士なの?」
リリトは愉快そうに笑った。
「その腕じゃ剣を握る資格もないわね。切り落としてあげる!」
「……っ!」
巨大な鎌に込められた力が、さらに増していく。
押し潰されるような圧力が、レインにのしかかった。
ギギギッ、と彼が踏みしめる床が大きくひび割れ始めた。
生身でリリトの力を受け止めるのは無理がある。
――このままでは……!
その時だった。
鈍い衝突音とともに、圧し潰されるような重圧がふっと消える。
「大丈夫ですか、レイン卿?」
気づけばレインのすぐそばに立っていたプリンツ。
彼がリリトの鎌を弾き返してくれたのだ。
「た、助かった……プリンツ君。」
ヒルデの治癒を受けながら、レインは剣を握り直す。
「二人で行くか?私は構わないぞ。」
その視線の先では、リリトが巨大な鎌を頭上で軽々と振り回していた。
プリンツとレインは小声でやり取りを交わした。
「連携を合わせましょう。」
「ああ、あの化け物の力を一人で受けるのは無理だ。」
リリトが鼻で笑う。
「来ないの?なら、こっちから行くわよ?」
次の瞬間、彼女の姿が消えた。
――速い!
気づいた時には、すでに二人の目の前。
プリンツとレインは同時に剣を振り上げ、リリトの鎌を受け止める。
凄まじい衝撃が二人に分散されても、なお手首に痺れが残った。
リリトはそのまま、暴風のような速度で鎌を振るい続ける。
火花が散り、金属音が絶え間なく響いた。
息つく暇もない連続攻撃。
だがプリンツとレインは、まるで長年連携してきた戦友のように動き、互いを補いながらその猛攻を受け流していった。
攻撃を受け止めた。
互いの動きを読み合い、期待通りに連携しているからこそ成り立つ防御だった。
その連携は、リリトでさえ内心で舌を巻くほどのもの。
だが――それでも限界はある。
リリトは狂気を帯びた笑みを浮かべる。
「ははは!2対1でそれ?反撃は?ずっと守ってるだけ?」
「くっ……」
「はぁ……っ」
「二人がかりでもそれだけ?いつまで耐えるつもり?」
言い返す余裕すらなかった。
プリンツとレインの顔には、明らかな疲労の色が浮かんでいる。
一方的な猛攻に、リリトの高揚はさらに増していく。
振るわれる鎌の軌道はより大きく、より鋭く。
そこに込められる力も、確実に増していった。
一撃、一撃が重くなっていく。
押し込まれ続ける二人は、限界が近いことを悟った。
プリンツがヒルデにちらりと視線を送る。
――あ。
ヒルデがその意図を読み取った、その瞬間だった。
「くだらない連中ね、消えなさい!」
リリトの鎌が、真っ直ぐ振り下ろされる。
すべてを断ち割るかのような、圧倒的な一撃。
カァン!!
骨の芯まで響く衝突音。
その衝撃が刃を通じて、二人の腕を痺れさせる。
リリトは、さらに力を込めて押し潰そうとする。
だが次の瞬間、彼女の目が見開かれた。
「なにっ!?」
彼女の鎌を受け止めていたのは、ただの刃ではなかった。
もう一つは――鞘ごとの剣。
そしてそれを握る腕の主は、剣の持ち主と同一人物。
プリンツが、たった一人で剣と鞘を使い分け、リリトの一撃を受け止めていたのだ。
その瞬間を、リリトは見逃さなかった。
「レイン!」
プリンツが叫ぶ。
呼応するように、レインは即座に動いた。
床を滑るように低く潜り込み、一気に距離を詰める。
「あなた……!」
今、リリトはプリンツと鍔迫り合いの最中。
防御は――手薄。
次の瞬間。
レインの剣が、一直線に振り抜かれた。
ガキィン!!
衝撃音とともに、リリトの体が大きく吹き飛ばされた。
そのまま壁へ叩きつけられ、崩れた瓦礫が舞い上がる。
巻き上がった砂煙が、部屋の半分を覆い隠した。
プリンツとレインは肩で息をしながら、前方を見据える。
――決まったか?
渾身の一撃だった。
プリンツとレインの連携に加え、ヒルデの支援まで重なった一撃。
普通なら、立っていられるはずがない。
だが。
「……どうしよう」
不安が、静かに広がる。
砂煙がゆっくりと晴れていく。
その向こうに現れたのは――鎌を杖代わりに、ゆっくりと立ち上がるリリトの姿だった。
彼女は長い赤髪をゆるやかにかき上げ、余裕の笑みを浮かべた。
その仕草ひとつで、圧倒的な格の違いを見せつける。
「――私、無傷だけど?」
「まさか……」
三人の渾身の連携は、リリトにまったく通じていなかった。
その事実に、誰もが言葉を失う。
――その瞬間。
ジャラリ、と金属音が響いた。
リリトの手首に巻かれていた拘束具の鎖が、突如として弾けるように伸びる。
それは拘束のためのものではなかった。
鋭く、しなやかな“武器”として三人へと襲いかかる。
「ぐっ……!」
「ぐっ……!」
「くっ……!」
鎖が三人の首元に絡みつき、そのまま上へと引き上げられる。
足先が床をかすめるだけで、完全に宙吊りの状態。
呼吸が徐々に奪われていく。
リリトがゆっくりと口を開いた。
「もう飽きたわ。遊びはここまでにしましょうか」
沈黙。
そして、冷たい宣告。
「ねえ、人間。誰から首を落としてほしい?」
答えはない。
答えられる余裕など、もう残っていなかった。
「ふーん、助けは来ないのね。じゃあ仕方ないか」
赤い瞳が、一人へと向けられる。
――選ばれたのは。
「やっぱりヒーラーよね」
その一言で、空気が凍りついた。
色褪せた白金の髪を持つ少女――ヒルデの顔から、血の気が引いた。
リリトはわざと見せつけるように、ゆっくりと鎌を持ち上げる。
「い、いや……」
視界が滲む。
頭上に迫る刃が、ぼやけて揺れて見えた。
(助けて……助けて、お願い……)
死にたくない。
誰でもいい。
どうか、自分を――そのとき、彼女の口からこぼれたのは、たった一人の名前だった。
「オデリットお姉ちゃん……!」
――振り下ろされる刃。
「白魔法使い殿!!」
「ヒルデお嬢さん!」
その瞬間だった。
キィィン――!
重く鋭い衝撃音が空気を震わせる。
「なっ……!?」
リリトは、吹き飛ばされかけた鎌を咄嗟に握り直した。
傲慢に満ちていたサキュバスの女王の顔が、驚愕に染まる。
「お前……!」
震えた声が漏れる。
「どうやって……」
プリンツとレイワンも、目を見開いて言葉を失った。
「……あ?」
ヒルデの瞳を覆っていた涙の膜が、音を立てて弾け散る。
はっきりと開けた彼女の視界に、誰かの後ろ姿が映った。
長い背に、桃色の髪がさらりと流れている。
ヒルデの前に立ちはだかったその救援者は、静かな威圧感を漂わせながら口を開いた。
「ヒーラー?少しは分かってるみたいね」
「……」
「私もヒーラーだから、まずは私から相手してもらうわ」
巨大な死神の鎌と、鞭のようにしなる一撃が激しくぶつかり合う。
彼女は“裁き”を下し、私は“狩る”。
そんな意志をぶつけ合う戦いが始まった。
「断罪の執行官……!」
「うん、どうしたの?お姉ちゃん」
「久しぶりに私に血を流させるなんてね!アナシア以来は初めてよ!」
「それ、みんな言ってたよ。で、そのまま死んでった」
感情のない声で返しながら、私は両手に持つセラフィムへ力を込めた。
鎌を大きく振り抜く。その瞬間、わざと隙を作るように動きを大きく見せる――案の定、反撃の気配が走り、手首から肩にかけて浅く斬り裂かれた。
(やっぱり、力は本物……)
だが同時に、動きが大きい。
私は一歩踏み込み、がら空きになったリリトの腹部へ左手を突き出した。
掌に宿した力が、一瞬だけ形を変える。
雷光のような衝撃が走った。
「――神罰」
直撃。
「がっ……!」
リリトの身体が大きく吹き飛び、鎌ごと壁へと叩きつけられた。
視界の砂埃が収まるのを待つ間、ペンダントから声が響いた。
〈ほとんど爆発と変わらないじゃないか?〉
「神罰は私の主力スキルですから。使い慣れてますよ」
私は淡々と答えた。
前回のヘルカイオンとの戦い以降、接近戦の中で神聖力を織り込む感覚を、何度も反復してきた。
――その成果は、十分に出ている。
しなやかに伸びたサブソードを鞭のようにしならせ、リリトへと歩み寄る。
「お姉ちゃん、ひとつ聞いていい?」
「何よ、“断罪の執行官”」
瓦礫の中から身を起こしながら、リリトが皮肉めいた声で返した。
時間稼ぎのつもりだろうが、問題ない。
力の差は、もうはっきりしている。
私は一歩踏み込み、静かに問いを投げた。
「サキュバスなのに、どうしてそんなに愛嬌がないの?」
「サキュバスは誰にでも媚びる存在だと思ってるの?ずいぶん偏った見方ね」
「じゃあ違うの?女王様は特別?」
「……気になる?」
「うん」
リリトの目が妖しく細められる。
「甘えるのはアナシア様の前だけで十分なのよ」
――ドンッ!
言い終わるや否や、床を蹴る爆音。
一瞬で間合いを詰め、リリトがこちらへ飛び込んできた。
私はその一撃を軽く受け流す。
(重いけど、見える)
そのまま反撃に移ろうとした、その瞬間――
「っ……!」
〈っ……!〉
私とアグネスは同時に、喉元まで出かかった呻きを押し殺した。
[システム:警告。致命的な催眠・魅了効果を検知]
「ははっ!どうした、“断罪の執行官”。これでも私を斬れるのか?」
リリトが愉快そうに笑う。
――姿が、変わっている。
サキュバスの女王の力で、私の認識を書き換えたのだ。
目の前にいるのは、敵ではない。
守るべき存在へと――。
「……厄介だな」
そして今、リリトが“なりすましている”のは――
「ビ、ビアンカ嬢……!?」
後方でプリンツが取り乱した声を上げる。
そうだ。
かつての――幼い頃に別れた、あの人。
姿は、完全に別人へと変わっていた。
しかもそれは、幼い頃の面影ではない。――成長した姿だ。
最悪の状況だった。
剣を握る腕から、はっきりと力が抜けていく。
「わあ……うちのビアンカ、こんなに綺麗になるんだ……」
〈さすがレイの娘……〉
サキュバスの“認識改変”能力――聞いてはいたが、ここまでとは。
しかも成長後の姿まで再現してくるとは、完全に想定外だ。
(どうして……私も知らないはずの姿を……)
驚きと動揺が混ざる中、さらに追い打ちのようにシステムメッセージが浮かぶ。
[“幻惑の混濁を見抜く瞳”は高精度で再現されていますが、実在のビアンカの方がより美しいと判定されます。]
[“均衡を司る毒舌家”が敵の術に呑まれそうになり、呆れたように舌打ちする。]
剣筋が鈍ったのを見て、リリトがくすりと笑う。
――ビアンカの顔のままで。
「どう?あなたが一番守りたい存在にしてあげたわ。これでも斬れる?」
「……っ」
振り下ろされる鎌。
私は反射的に防ぐことしかできなかった。
「ははっ!やっぱり無理ね。優しい剣は、誰も殺せないもの」
――そのとき。
[“魂を裁く天秤”が、典型的な誘惑パターンとして強制介入を開始します。]
[「万象の混沌を監視する観測者」が、やはりあなたの想い人でありヒロインはビアンカであることに満足しています。]
[「均衡を司る毒舌家」が、シリアスな場面なのに突然雰囲気を壊す展開に困惑しています。]
[「試練の魔導建築家」が、だからヒロインになる前に排除すべきだと物騒な結論を出しています。]
[「千機関測の監察官」が、あなたらしくない迷いに呆れています。]
「ははは!断罪の執行官!やっぱりあなたも弱さを持つ“人間”だったのね!」
「……ふっ」
「目に映る姿に惑わされる愚か者め!ならば証明しなさい!その情が本物なら、手にかけてみせなさい!」
[「万象の混沌を監視する観測者」が、それは友情ではなく“愛”ではないかと静かに見守っています。]
リリトが私を叩き潰すかのように、空中から身体を落としてきた。
「アイレット!」
「きゃっ!」
レイウンとプリンツの焦った声の中で、私は剣を構えた。
ドォンッ、と爆発のような衝撃が全身に走る。
どうにか受け止めたが、私は地面に倒れたまま、リリトの斧を必死に受け止めていた。
上からふわりと降りてきた、青みがかった黒髪が頬に触れる。
「小賢しいわね、断罪の執行官」
リリトが首を傾け、私を嘲笑った。
「いいわ、ここで終わりにしましょう」
「……何?」
「うちのビアの姿を見せてくれてありがとう。あなたには特別に、私が“騎士道”を見せてあげる」
「は?」
私は全身にオーラを巡らせながら、静かに告げた。
「リリト。目を閉じて相手してあげる」
「……っ!」
リリトは言い返す暇もなく――
ドォォンッ!
私はオーラを爆発させ、身体に乗っていたリリトを吹き飛ばした。
目を閉じたまま、周囲の気配を受け取る。
呼吸を整え、剣先が自然と一方向へ定まる。
「見つけた」
その瞬間、私はリリトの位置へ一直線に踏み込んだ。
ガキンッ!
鈍い衝突音と、腕に伝わる確かな手応え。
視界を閉ざしていても、状況ははっきりと頭の中に描かれていた。
セレネスの剣先は、リリトの斧に阻まれている。
私はすぐに呟いた。
「神聖強化」
聖なる力が四肢に満ち、身体能力が一段と引き上げられる。
加速した身体で体勢を捻り、次の一撃へと繋げる。
狙いは――リリトの首。
「くっ……!」
彼女は間一髪でそれを回避した。
だが、その一瞬で十分だった。
私は踏み込み、背後へ回り込む。
そのまま耳元で低く囁いた。
「……その声で、ビアの真似はやめてくれない?」
「……っ!」
リリトは一瞬、顔を歪めると、すぐに距離を取った。
逃がすつもりはない。
私は間髪入れず、もう一度“神罰”をその腹へ叩き込む。
「ぐっ……!」
よろめいたその隙を逃さず、リリトは逆に踏み込んできた。
一気に間合いを詰め、喉元を狙って鎌のように変形した黒剣を振り下ろす。
だが――私はすでに“そこ”を見ていた。
「くっ!」
わずかに身体をずらし、刃を紙一重で避ける。
同時に、その軌道をなぞるように剣を走らせた。
手応え。
だが致命傷には届かない。
ならば――追撃。
オーラを剣身へと集中させ、リリトが回避した“先”へと一閃を放つ。
蛇のようにしなるその斬撃が、逃げ場を失った彼女を絡め取る。
「くっ、な、なんで……!」
目を閉じていても、リリトの表情が手に取るように分かった。
「どうして……こんなことが……!」
「……」
「目を閉じてるのに、見えてるのと同じじゃない!」
理由は単純だ。
「――だって、あなたが弱すぎるから」