こんにちは、ちゃむです。
「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
89話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 断ち切られた禁制
皇帝ジェステラドの劇的な治療を終えた後、エノク皇太子が真っ先に取り掛かったのは、皇宮を揺るがした皇帝暗殺未遂事件の全容解明だった。
だが、表向きの状況だけを見て、実行犯の騎士による単独の「自爆テロ」だと断定するには、揃えられた証拠があまりにも出来すぎていた。そもそも、その騎士には皇帝を狙うだけの明確な動機が見当たらない。皇族への反感から皇宮騎士になったというには、彼はあまりにも長く皇室に忠誠を尽くしてきた男だったからだ。それに、一介の騎士が爆発物を容易に持ち込めるほど、皇宮の警備は甘くはなかった。
「……本人の意思ではなかった可能性もあるのでは?」
問題は、そもそもあの爆発がどうやって引き起こされたのか、という点だった。あれは爆弾の類ではない。実行犯の肉体に植え付けられていた“呪術”によるものなのだ。
「我々の警護に落ち度がありました! どうか厳罰を……!」
近衛兵たちが青ざめて跪く中、皇帝ジェステラドは寝台から冷ややかに一蹴した。
「そこにいた騎士全員を罰せよと?」
警備が甘かったわけではない。それほどまでに、敵の手際が常識外れに鮮やかだったのだ。皇宮へ入る際の厳重な検問、付き従う護衛騎士、さらには騎士団の閲兵式。混乱の中であったとはいえ、結果としてそこにいた超一流の騎士たち全員の目を欺いたということになる。
『……そうか。魔力ではないんだな』
エノクは以前から、ユリアと共に紅河一族の術について深く調べていた。今回、爆発の直前に彼だけが違和感を察知できたのも、呪術の不穏な“流れ”を読み取るために学んでいたからに他ならない。あれほど大勢の猛者がいた中で、異様な不快感を本能的に覚えたのは、エノクただ一人だったのだから。
『世間には知られていない、少数民族の呪術かもしれない』
その瞬間、今日ここへ来なくてもいいと周囲に言われながらも、無理を押して現れたリリカの不自然な行動を、エノクは思い出した。そして、リリカを疑っていたのはエノクだけではなかった。
事件後、徹底調査の協力のために駆けつけたユリアは、はっきりと言い放った。
「紅河一族の呪術なら、世間には知られていない異質な力です。皇帝陛下を狙うなら、成功率はかなり高いでしょう」
リリカは、“世に知られていない呪術”を密かに扱う紅河一族の血を引く生き残りだった。
「皇族と神殿は以前から激しく対立していましたし、リリカ様自身も、お兄様の足を治せなかったことで聖女としての資質を疑われています。そんな中で、皇帝陛下が神殿を拒絶している状態で重傷を負い、彼女がそれを劇的に治療できれば――すべてが解決します」
帝国に対する神殿の影響力も、リリカの能力への疑念も、すべて一気に解決できてしまう。それこそが彼女の狙いだったのだ。
エノクがユリアの鋭い言葉を聞きながら考え込んでいた、その時だった。部屋に新たな衝撃の報告が届く。
「皇宮近くの別荘にて、複数の変死体が発見されました!」
しかも、その死体は皇宮騎士と同じように、身体が内側から爆発した状態だったという。顔の判別もできないほど、原形を留めていなかった。爆発した騎士も、身元がはっきりしていて、死ぬ直前の姿を見た者がいたからこそ皇宮騎士だと分かっただけで、そうでなければ誰にも判別できなかったはずだ。
「普通、暗殺未遂の直後に周辺で死体が見つかれば、“口封じの自殺”を疑われるものですが……今回は少し違います」
「別荘を詳細に調べたところ、彼らが死ぬ前に強く拘束されていた痕跡がありました」
やはり、他殺だったのだ。自殺にしてはあまりにも不自然だった。
なぜ、わざわざ拘束した状態で殺す必要があったのか。なぜ、あの寂れた別荘でなければならなかったのか。もし自害ではないのなら――彼らの命を奪ったのは誰だ?
「皇帝陛下襲撃事件と深く関係している可能性は極めて高いでしょう。少なくとも、誰かが意図的に仕組んだ大規模な術式の一部だったのでは……」
「そういえば、紅河一族の調査中に、妙な証言がありましたね」
ユリアが思い出したように口を開いた。それは紅河一族の居場所を探る中で、彼女の協力者たちから得られた最新の報告だった。
――最近、一族の居住地に出入りする人間がやけに増えている。
――莫大な借金を抱えた者。不治の病を患った者。過酷な家庭内暴力に苦しむ者。
事情は違えど、社会の底辺で“精神的に切羽詰まった人間”ばかりが大量に集められていたという、不気味な報告だった。紅河一族は、意図的に多くの“人間”を囲い込もうとしていたのだ。
「呪術については文献でも諸説ありますが、唯一共通しているのは、“人間の生命力を媒介にする”という禁忌の点です」
だからこそ、正統な魔法とは異なる異端の力として扱われ、神殿からも忌避されてきたのだ。
「もし皇帝陛下襲撃がその呪術によるものなら、あの別荘の死者たちは、その莫大なエネルギーを爆発させるための『生贄』だった可能性があります」
つまり――リリカの裏で動いている、明確な共犯者がいるということだ。
「……リリカと共謀している者が、一族の中にいるのでしょうか?」
「ですが、もし彼女が本当に治癒能力を持たない“偽りの聖女”なら……自ら呪術を使って一族を支配していても不思議はありません」
リリカは一人の時は治癒の力を使えない。あるいは、いつも傍にいる“ジャコブ”という使用人がそばにいる時だけ奇跡を発動できる――そんな可能性が浮上してきた。呪術を扱える者は大陸でも極めて少なく、その紅河一族の血を引き、力を悪用している張本人が、リリカだったのだ。
状況証拠は十分に揃っている。だが、それだけでリリカを“偽りの聖女”だと公式に断定し、さらには皇帝襲撃の主犯と決めつけるには、裁判でひっくり返されないための「決定的な証拠」がまだ足りなかった。
ただ、一つだけ確かなことがある。
「……リリカに味方していない、他の紅河一族の生き残りを見つける必要がありますね」
これまでの網羅的な調査で、エノクたちは紅河一族の隠れ家をいくつか把握していた。さらに、何人かはすでに身元まで特定済みだ。そして調査の過程で、予想外の情報も掴んでいた。
それほど時間をかけることなく、エノクとユリアは、皇宮の地下へ紅河一族の関係者を数人見つけ出して連行することに成功した。そして彼らが連れて来たのは、生き残った一族の中でも、外界との連絡係を担う最も重要な人物だった。
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「……なぜ、私をこんな不気味な場所へ呼んだのですか?」
尋問室の椅子に腰掛けた男の顔色は、つい最近まで普通に動き回っていたとは思えないほど青白く、完全に生気がなかった。彼が怯える理由は、おおよそ察しがついた。
エノクは冷徹な眼差しで男を見下ろし、淡々と事実を告げた。
「少し前、皇宮近くの別荘で複数の変死体が発見された。その中の一人が、君の従兄弟だったそうだな?」
「……はい? それは、どういう意味ですか!?」
さっきまで虚ろだった男は、弾かれたように椅子から立ち上がった。拘束されているせいですぐによろめき、再び座り込んだものの、その瞳には明らかな動揺と恐怖が浮かんでいた。
「君の従兄弟――過去の戦いで左腕を失ったと言われていた男だ。さらに、戦いに巻き込まれて前歯が何本か欠けていた特徴を持つ男の肉片もあった」
別荘で発見された変死体は、確かに身元の判別が難しいほどに損壊していた。だが、だからといって手掛かりが全く無かったわけではない。爆発したとはいえ、人の死体だと判別できる程度には肉片が残っていたのだ。その中から個人を特定できる身体的特徴が見つかったことは、痛ましい現実であると同時に、彼らを追い詰めるための不幸中の幸いでもあった。
「それに、一族でも珍しい『青髪』の男の死体もあった。あれは君の……」
「……兄です」
男は苦しげに目を閉じ、吐き出すように言った。
「なぜ私をここへ連れて来たのか、よく分かりました。つまり――知っていることを全部話せ、そういうことですよね?」
「君は紅河の一族の中でも、かなり重要な役割を担っていたようだからな」
「……」
「一族の居住地と外界を行き来しながら、リリカのために『生贄となる犠牲者』を集めていたのは君だろう? かなりの成果を上げていたそうじゃないか」
男の目に鋭い敵意が宿った。
「……へえ、そこまで調べているんですか。なら、そんな万能な皇太子殿下が、どうして僕の協力なんか必要とするんです?」
エノクは怯むことなく、真っ直ぐに彼を見つめ返した。重苦しい緊張感の中、尋問室で互いの思惑が複雑に交錯していく。
「いいでしょう」
結局、先に折れて口を開いたのは、拘束された男の方だった。ある程度すべての事情を把握された上で、自分を使って裁判の裏を取ろうとしているのは明らかだったし、見下すようなエノクの態度も気に入らなかった。
だが、それ以上に彼の腹の虫が収まらなかったのが、リリカという女の存在だ。
『そもそも、あんな化け物女と関わるつもりなんて無かったのに』
特に大それた望みもなく、事件や事故が起きてもそこそこ平穏に隠れて過ぎていく――それこそが紅河の一族のささやかな暮らしだった。だが、リリカと出会ったことで全てが狂った。公爵令嬢であり聖女であるリリカとの強力な繋がりができれば、一族はもっと安定して富を築ける、そう期待していたのだ。
しかし、リリカは“気弱そうなお嬢様”という最初の第一印象とは違い、妙に頭が切れ、冷酷だった。自分一人で何でも残虐なことを考えて動き、彼女が進む先には、常に人々の嘲笑と血の噂ばかりが積み上がっていった。その結果、リリカは紅河の一族に便宜を図るどころか、むしろ「従わなければ殺す」と無茶な要求ばかり突きつけてきたのだ。一族が与えたものは山ほどあるのに、見返りは何も無い。そんな理不尽な搾取の状況だった。
結局、耐えかねた紅河の一族は、リリカが“聖女”を演じるために必要不可不可欠だった最大の存在――使用人のジャコブを攫った。今思えば、それが最悪の一手だった。公爵家へジャコブを連れ戻されたリリカは、自ら外国人の傭兵を率いて紅河の一族を脅迫した。これまで愚かで弱々しく見えていた人物とは思えないほど、苛烈に、凶暴に。
……そして、一族の数人を呼び出し、今回の皇帝を襲う術式の生贄として容赦なく差し出し、処刑したのだ。その残酷な事実を知ったのは、皇帝暗殺が失敗したという報せを聞いた後だった。
『もう、リリカには未来なんて無い。聖女としての権威を完全に失えば、結局は中途半端な貴族令嬢に過ぎない。実家とも完全に縁を切られているわけじゃないし、偽聖女だった頃の因縁だけが一生付きまい続けるだろう』
しかも今の話を聞く限り、エノク皇太子は自分たち一族のすべての居場所まで完璧に把握しているらしい。その上、自分が紅河の一族でどんな裏の役目を担っていたかまで正確に掴まれていた。
『このまま破滅するリリカに使われ続けるか、そうでなければ皇室から逃げ回る人生か……』
そう考え始めた一方で、リリカが彼に掛けた強力な“禁制”の呪術は、今もなお彼の身体を縛り付けていた。命だけでなく、一族の秘密を「舌」すら封じて喋らせない呪い。
『帝国の皇太子なら……この化け物なら、何か方法を知っているかもしれない。リリカという鎖さえ断ち切れれば、別の生き残る道が……なら、今度はこの男に乗り換えるしかないな』
考えをまとめた男は、わざとらしく肩をすくめながらエノクの様子を窺った。
「ええ、家族の仇は討ちたいですよ。でもね殿下、どうしても口にできない事情があるんです。喋ろうとしても、物理的に言葉が喉で詰まって出てこない。どれだけ自分で望んでも無理なんですよ」
もし皇太子との取引が成立すれば、この禁制を解く方法も見つかるかもしれない。家族の仇であるリリカを売る代わりに恩赦を得て、国外へ逃げる資金すら手に入る可能性もある。
「人には“しがらみ”ってものがあるでしょう? 何でもかんでも話せば済むって話じゃないんです。だから、望まないことをさせられる時だってあるんですよ」
男は暗に、自分にはリリカによる禁制の呪いが掛けられているのだとエノク皇太子へ匂わせた。
『俺は直接、皇帝暗殺を企てたわけじゃない。全部リリカのせいにすれば済む話だ』
そんな浅ましい打算が透けて見えるようだった。
だがエノク皇太子は、男の発したその“合図”を完全に理解したように、冷たく口を開いた。
「禁制のようなものが掛かっているなら、今ここで解いてやれる」
「……へあ? いや殿下、これは目に見えない類のもので、そう簡単には解除できないんですがね」
エノクの言葉は、ただのハッタリや慰めではなかった。彼はここ数日、睡眠時間まで削りながら呪術の研究を続けてきたのだ。そして、爆発直前のあの護衛騎士から感じ取った“異質な生命の気配”。
――やはり、繋がった。彼には確信めいた独自のロジックがあった。
「紅河の一族に関わってから、ずっとその呪いに苦しめられてきた……そんなところですか?」
エノクは低く呟く。
「少なくとも、長い歴史を持ち、強い痕跡を残す類のものなら……集中すればその魔力の流れを感じ取れる」
「私は、お前の前で呪術を使うつもりはない。……その身を縛る“枷”を、ただ力任せに壊すだけだ」
そう言って、エノク皇太子は男の目前へと静かに歩み寄った。彼には、常人には見えない“何か”がはっきりと見えていた。この男の喉から身体全体に、確かに毒蛇のように絡みついている異物のような呪いの線が。
ならば――。
「この程度なら、今すぐ壊せそうだ」
「……は? 殿下、何を――」
次の瞬間、エノクは男の首元へ無造作に手を伸ばすと、その細い首を掴み、自身の体内から膨大な魔力を一気に流し込んだ。
――ゴォォォッ!!
尋問室の空気が激しく軋む。空間を腐食させるかのような、圧倒的な密度の魔力の奔流。
「う、ぐあ、っ……!?」
男は恐怖で目を見開いた。口では禁制と言ってみたものの、本当にその術そのものへ直接干術しようとする人間など、彼の人生において想定すらしていなかったからだ。……それは本来、誰にも触れられないはずの一族独自の秘術。他人には感知すらできず、解除も不可能。それどころか、あの最強の皇帝すら致命傷へ追い込んだ“紅河の呪術”なのだ。
なのに、この目の前のエノク皇太子は平然とした顔で、その不可視の禁制を鷲掴みにし――力任せにその傲慢な魔力でねじ伏せ、握り潰していた。
――ギィィィン!!
目に見える光など何一つない。それでも、空間そのものが悲鳴を上げて引き裂かれるような凄まじい轟音が室内に響き渡る。
そして、数瞬の後。
「……は、はは……嘘だろ……大したものだ……」
男は首を解放され、呆然としたまま、心の底から湧き上がる恐怖と感嘆の声を漏らした。
「前例なんて、一族の歴史にありませんよ。紅河の一族は何百年もの間、この“族長の禁制”を解こうとしてきたんです。皆、支配する族長の本心を知りたかった。だから命懸けで解除を試み続けた。……けれど、歴史上誰一人として成功できなかった術なんですよ」
他人どころか、紅河の血を引く一族の天才たちでさえ、禁制を“壊す方法”には永遠に辿り着けなかったのだ。当時名を轟かせた大魔法使いも、伝説の剣聖も、そもそもこの術の存在そのものを認識することすらできなかったのだから。
だがエノクは、まるでガラス細工でも壊したかのように当然の口調で言い放つ。
「俺が“掛ける側”なら無理だな。高度な構築が必要だからな」
「い、いや……! 解除じゃなくて、外側から力任せに“破壊”してる時点で、脳の構造が十分おかしいんですよ!?」
男は半ば恐怖の悲鳴のように返した。
「……まあいい。これでリリカの呪いは消えた。話せるようにはなっただろ」
「あ、はい。そうですね……話せます……」
興奮しかけた男を、エノクはあっさりと冷たく切り捨てる。むしろ男の方が、当人以上に目の前の現実に衝撃を受けている様子だった。自分が今目の当たりにしたものが、どれほど世界の常識から逸脱した異常な光景なのか、それを誰よりも理解しているからこそ。本当ならもっと驚き騒ぎたかったが、今のエノクの眼光は、それを許すような甘い空気ではなかった。
それでも男は本能で理解した。
――目の前にいるこの男は、ただの皇太子ではない。常識の枠に収まらない、本物の“化け物側”の人間だ。
だからこそ、彼の絶望の胸の奥に、ある暗い期待が芽生えてしまった。
『……この圧倒的な化け物なら、あの憎きリリカに完璧な復讐をしてくれる』
もう、リリカへ義理立てする理由など何一つない。あの傲慢な女は、自分の大切な家族を都合の良い生贄にして殺したのだから。しかも近いうちに、彼女が“偽聖女”であるという動かぬ事実も完全に暴かれる。ならば、今さらあの落ち目の女への忠誠などドブに捨てるべきだ。切り捨てて、確実に生き残る側へ回るべきだった。
「……そういえば殿下、フィオステ帝国って“証言協力者への大幅な減刑制度”があるんでしたっけ?」
男は命乞いをするように、媚びるような卑しい笑みを浮かべた。本当は今すぐにでも床に頭を下げて忠誠を誓いたいが、手錠で拘束されていてそれすらできない。男は、何が何でも生き延びる気でいた。すべての証言を皇室に売る引き換えに減刑を受け、そのまま他国へ高飛びする。できれば、リリカから毟り取った隠し金も欲しい。そんな浅ましい計算を早くも脳内で始めていたのだ。
「またリリカの奴が、俺たち一族を術の“材料”として生贄にするかもしれませんし……。俺だけじゃなく、捕らえた一族全員の禁制を殿下の力で解いたほうが、安全じゃありません? へへ……」
下卑た媚び笑い。それを見つめるエノク皇太子の視線は、どこまでも軽蔑に満ち、冷え切っていた。
確かにこの男は、家族を犠牲にされ、リリカへ強い恨みを抱く被害者の側面もある。だが同時に、この男自身もまた、私利私欲のために“他人の大切な家族”を平然と騙し、生贄の材料としてリリカへ差し出してきた加害者側の人間なのだ。皇帝暗殺未遂にも間接的に加担している以上、到底、無罪で許される罪ではない。
だからエノクは、突き放すように淡々と答えた。
「――ああ。お前の望み通り、全員の枷を壊してやる」
「……! あ、ありがとうございます殿下!」
男は露骨に救われたと顔を明るくした。だがエノク皇太子は、そこで氷のような声で言葉を続ける。
「その代わり――明日の国家反逆罪の裁判では、リリカのすべての罪を、逃げ隠れせず最後まで大衆の前で証言してもらう」
それは生き残るための甘い餌。だが同時に、リリカと共に地獄へ落ちるための、決して逃げ道を許さない皇室の鉄の鎖であった。
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皇帝暗殺未遂事件の真相解明と裏に潜む「生贄」の存在
皇帝襲撃が紅河一族の呪術によるものと見抜いたエノク皇太子とユリアは、事件の背景に聖女リリカの思惑と、呪術のエネルギー源(生贄)として拘束・殺害された人々(一族の者たち)が存在していた真相に辿り着く。
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一族の連絡係の拘束と、エノクによる「禁制の破断」
捕らえられた一族の連絡係は、リリカへの恨みから証言に前向きになるも、口封じの呪術(禁制)に縛られていた。しかし、エノクはその呪いを圧倒的な魔力と力任せの操作で破壊・解除してみせた。
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リリカ告発に向けた裁判への布石
呪いを解かれた男は生き残りと減刑をかけて協力を申し出る。エノクは男の加害者としての罪を軽蔑しつつも、翌日の国家反逆罪の裁判でリリカの罪をすべて証言させることを決定づけた。