憑依者の特典

憑依者の特典【130話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「憑依者の特典」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【憑依者の特典】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「憑依者の特典」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...

 




 

130話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 鏡の城

「ここが次のエリアみたいですね。」

アッシュの言葉通りだ。

いつの間にかトゲだらけの道は終わり、生け垣の迷路の庭園が私たちの前に現れた。

アッシュが驚いた。

「うわ、これ下手したらしばらく閉じ込められて日が暮れそうですね?」

「これも植物でできてるみたいだし、燃やして道を作れないかな?」

「イペル、このバカ。ダンジョンのルールを知らないのか?この迷路エリアは、ルールを守らないと入口に戻されるぞ。」

「え、じゃあ壁をよじ登るのもダメってこと?」

「そうだ。」

その恐ろしい右手を生け垣の壁に当てながら、アッシュが実用的な知識を披露した。

「それなら、ここでは右手法(右手ルール)を使って進むしかありませんね。」

迷路では、右手で壁に触れたまま進み続ければ、いつか出口にたどり着く。

右手法とは、そういう迷路の脱出方法のことだ。

私は励ますようにアッシュの肩を叩いた。

「さすがアッシュ、頭がいいわね。」

「ありがとうございます、主様。それでは私が先頭を歩きます。」

「いや、その必要はない。」

「え?」

「ちょっと待ってて。」

一行に軽食を渡して休ませたあと、筆記用具を取り出した。

私は別にやることがあった。

カリカリ。

「主様、何を……うわ。」

「なんで驚いてるんですか……おお。」

「あなたたち、どうして……え?」

私はシステムマップに表示されている迷路の構造を紙に書き写していた。

[『バランスを司る独裁者』のマップ機能は、まさにチート級の特性だと評されている。]

[『創造経済の管理者』がこれを課金アイテムとして販売していたら、さぞ儲かっただろうに。]

完成した地図を、私は四人に見せた。

「さあ、この通りに進めばいい。」

「うわ、これはまさに聖女様の啓示……!」

「奇跡だ。本当に奇跡だよ。」

「主様、かっこいいです。」

アッシュ、イペル、ヘステリオが頭を寄せ合い、紙の地図を見ながら入口から出口までの道を探すことに集中した。

テシリドはあまり興味がないのか、私の隣に立って飲み物を差し出してきた。

それを受け取りながら、私は彼に話しかけた。

「あなたは一緒に道を探さないの?」

「探さなきゃいけないのか?」

返事はすぐには返ってこなかった。

正直、わざわざ地図を描いたのはテシリドのためでもあった。

いつか私がいなくてもこのダンジョンに来ることがあるなら、道を覚えておいたほうが楽だろうと思って。

テシリドは私の本心を知っているのかいないのか、じっと視線を合わせたまま返事を待っていた。

この瞬間を無駄にしたくないと思った。

だから私は言った。

「いいえ、やらなくていい。私が暇だから、ここにいるだけ。」

「うん。」

休憩を終え、私たちは地図に従って迷路を抜けた。

すると、漆黒の城が私たちを迎えた。

当然のことながら城門は固く閉ざされていた。

普通なら戦闘は避けられない状況だ。

だが一行は、戦うつもりなど微塵もない様子で、私の方を見て一言ずつ口にした。

「我らがアイレット団長なら、きっと何か策があるだろう。」

「信じています、団長。」

「城門を開けてください、主様。」

「はい、お願いします。」

〈こいつら、もう完全に頼りきりだな。〉

アグネスの言葉に同意した。

どうやら騎士団の連中は、すっかり悪い癖がついてしまったらしい。

とはいえ方法があるのも事実なので、私は黙って前に出た。

城門の上には、叫んでいる顔の形をした小さな青銅の装置があった。そこに向かって声を張り上げた。

「アナシア・ペルヘステイン様の公爵位継承、おめでとうございます!」

〈確認、通過。〉

ゴゴゴゴ……!

私たちはあっさりと入城に成功した。

「王国軍も魔導軍も、まだ城には入れていないみたいだな。」

「どうしてそう思うんだ?」

テシリドの判断に、イペルが理由を尋ねた。

すると、具体的な説明はアッシュの口から語られた。

「向こうは攻城戦をしているはずですし、そうなら爆発や振動の一つくらい感じるはずです。でも何もないってことは、まだ迷路で足止めされているんでしょう。そうですよね、テシリド兄さん?」

「その通りだ。」

イペルが「なるほど」とうなずく間に、ヘステリオがくすっと笑った。

「先に出発して、私たちが追いつけないように邪魔までしておいて、自分たちの方が遅れてるなんてね。笑えると思わない?」

「ほんとだよ。団長と一緒に来ていれば、こんなに楽にここまで来られたのに。」

「迷路で消耗して、城門を突破するのにもまた消耗して……。踏んだり蹴ったりだな。」

我が騎士団の士気が上がった。

この勢いでボス部屋まで進めそうだ。

ガシャン!

私を含めた五人が城内に足を踏み入れると、背後で鉄門が閉まった。

[〈システム〉『鏡の城』に進入しました。]

ボッ……!

松明が近くから遠くへと順に灯っていった。

豪華な廊下の内部を見回したヘステリオは、うんざりした表情を浮かべた。

「なんだこれ、壁一面が鏡張りか?」

まるで鏡の博物館のように、城の壁にはさまざまな形や大きさの鏡がずらりと掛けられていた。

とはいえ、鏡だけが飾られているわけではなかった。

私は鏡の間に挟まれている小さな油絵を何気なく触った。

「へえ、簡単な美術品も飾ってあるんだな。」

「え?」

私の言葉に、特に考えもせず絵の方へ視線を向けた連中が騒ぎ出した。

「うわ、これ何の美術品だよ!」

「おい、目やられたぞ!こういうのは先に言えって!」

まったく、聖騎士ってのは見た目に騙されやすい連中だな。

ふとテシリドを見ると、やはり片手で顔をぬぐっていた。

なんだかからかいたくなった。

「お気に召さなかったようですね、テシリド様。」

「いや……。」

「そうだな。成熟ってのは経験の量じゃなくて、質で決まるものだ。いい言葉だろう?」

「……もうやめてくれ。」

テシリドはとうとう私から視線を逸らした。

やっぱり第17回目はからかいがいがある。

86回目以降だったら、こうはいかなかっただろうけど。

「兄貴たち、一体何の話ですか?」

アッシュが興味を持って首をかしげたので、私は彼の目を手で覆った。

「青少年には刺激が強い。」

「え?」

「ほら行こう。道は遠いぞ。」

軽く背を押しながら、アッシュの手首をつかんでその場を離れた。

[〈システム〉警告:『鏡の城』の構造が変化します。]

嫌な予感が走った。私はすぐに叫んだ。

「みんな、固まれ!」

さすがに私が選んだ人材だ。

四人は文句ひとつ言わず、即座に指示に従った。

極寒に耐えるペンギンの群れのように、ぎゅっと固まった私たちの足元から振動が伝わってくる。

ドドドド……!

壁だった場所に道が生まれ、道だった場所が壁に変わる。

システムの警告通り、城の構造が変化したのだ。

「よし、終わったな。」

「なんだよ、これ?」

ヘステリオの質問に、私は答えた。

「『鏡の城』は1時間ごとに構造が変わるの。一行と離れないように気をつけてね。突然、頭上から壁が降ってくることもあるから。」

「なるほど、1時間ごとってわけか。」

「そうだ、イペル。」

イペルだけでなく、他の三人もそれぞれ懐中時計を取り出して時間を確認した。

〈よし、これは全員で合わせる必要があるな。ずれてない、いいぞ。〉

私は再び先頭に立って歩きながら口を開いた。

一行に『鏡の城』について説明する必要があった。

「いい、一度しか言わないからよく聞いて。ボス部屋までの行き方はシンプルよ。見えている道をそのまま進めば、中ボスの待つ部屋にたどり着く。そこで中ボスを倒してギミックを解除すれば、次の部屋への道が開く。これを繰り返すんだ。そうしていけば、いずれアナシアが待っている部屋にたどり着く。」

「え?城の中で迷う必要はないってこと?」

「そうよ、イペル。勝手に正しい道が開かれるから、迷わなくていい。」

「じゃあ、1時間ごとに構造が変わるのは何の意味があるんだ?」

「いい質問ね、ヘステリオ。構造が変わるたびに道が途切れて、より多くの中ボス部屋を通るようにされるんだ。たとえば本来なら部屋を一つ攻略すれば次の階に進めたのに、1時間経って道が変われば、さらに三つも部屋を突破しなきゃいけなくなる。かなり面倒でしょう?そういう意味がある。」

「さっき言ってた“ギミック”って何ですか?」

「アッシュ、それは……」

ゴゴゴゴ……!

廊下の突き当たりにたどり着くと、扉がひとりでに開いた。中ボス部屋だった。

私は言葉を途中で切った。

「それは、中ボスを倒したあとで実際に見れば分かるだろう。」

[〈システム〉魔界序列3031位『サキュバス・ハネシナ』が出現しました。]

[〈システム〉魔界序列3054位『インキュバス・ハインシオ』が出現しました。]

夢魔が二体。

序盤だからか、軽い相手だ。

A級ボスにかろうじて届く程度の実力だろう。

「さあ来い、ハァン。」

「来いよ、フフン。」

メイド服の女夢魔と、執事服の男夢魔が挑発するようにこちらを迎えた。

 



 

彼らの手首と足首には鎖付きの足かせがはめられており、その先は背後の鏡の中へと繋がっていた。

アナシアに隷属している証のようなものだ。

「一緒に遊ぼう?ね?」

夢魔たちがウインクする。

誘惑を放ち、相手の精神を乱そうとしているのだ。

もちろん、私はあっさり弾いた。

「二体いるなら、分担した方がいいわね。」

夢魔の精神攻撃は、異性に対してより強く作用する。

格下の相手とはいえ、わざわざ敵に有利な状況を作る必要はない。

私は極めて合理的に役割を振り分けた。

「アッシュ、ヘステリオ、イペル。あなたたちはインキュバスの方を頼む。」

「はい、主様。」

「まあ、そうだな。」

「サキュバスじゃないのか……。」

すると、不満そうなテシリドが聖剣を呼び出しながら言った。

「じゃあ俺はサキュバスの方を……。」

「いや、あなたは休んでていい。」

「え?」

私はセレペンスを抜き、きっぱりと言い放った。

「サキュバスは私が一人で相手する。」

テシリドをサキュバスに当てる?そんなこと、正気でやるわけないだろう。

――誰が好き好んでそんなことを。

[『魂を審判する天秤』が激しく共感し、あなたを応援しています。]

[『均衡を司る独裁者』が、主人公のハーレム形成を阻止するのに苦労していると語っています。]

[『試練の魔城建築家』が満足げに頷いています。]

私は剣に力を込め、地面を蹴った。

「行くぞ!」

「きゃっ!」

当然だが、サキュバスの女は一撃で吹き飛ばされた。

「た、助けて……。」

「うん。じゃあね。」

苦しませることなく送ってやった。

剣に感情が乗っていたのかもしれない。

横で見ていたテシリドが、どこか気まずそうに口を開いた。

「サキュバス、相当嫌いなんだな。」

「うん。」

私は剣を鞘に収め、残りの三人の様子を確認した。

「ちっ、なんだよこれ!俺のイケメン補正が効かないじゃないか!」

反対側では、インキュバスのハインシオが隅に追い詰められていた。

軽口もすぐに悲鳴へと変わる。

「お疲れ。」

「夢魔っていう割に、大したことなかったな。」

イペルは何か期待していたのか、少し残念そうに肩をすくめた。

私は優しい団長なので、きちんと説明してやることにした。

「下級の夢魔だからね。催眠や誘惑くらいしか取り柄がないんだ。」

「じゃあ上位のやつらは何が違うんだ?」

「サキュバスの女王クラスになると、お前の理想の相手に化けて、10秒以内に堕とすこともできるよ。」

「おお……!」

「何を感心してるんだ。魔族の“芸術作品”すらまともに見られないくせに。」

夢魔たちは粉々に砕け散り、その場にはメイド服と執事服だけが残った。

私は何かドロップしていないかと思い、衣服をあさった。

すると、それぞれの服の内側からアイテムが一つずつ出てきた。

[『魂を審判する天秤』が、課金ショップでも手に入らないレアコスチュームを獲得したと祝福しています。]

「さて、これをコスチュームって呼べるのか微妙だな……。」

手に入れたのは、黒い革でできたベスト型のハーネスだった。

[〈アイテム〉『夢魔のレザーハーネス』服の下に装備すると、夢魔に擬態できるコスチュームアイテム。※装備時:魅力+200%、ただし品格・威厳・カリスマ-100%]

私は少し考え込んだ。

……潜入用としてなら使える?

「なんか妙なベルトだな。」

「ほんとだ。これ、何に使うんだ?」

純真な聖騎士たちの前で出すには、さすがに気まずい代物だった。

私は二つのハーネスをさっとインベントリに放り込んだ。

[『魂を審判する天秤』が、レア衣装アイテムを迷いなく回収したあなたを称賛しています。]

[『妄想の混沌を観測する瞳』が、男性用は不要だから捨てろと言っています。]

[『世界を構築する人形』が、過度な露出は控えるよう厳重に警告しています。]

私は一行の注意を引いた。

「さあ、お待ちかねのギミックの時間だ。みんな、こっちに来て。」

私は、ただの装飾に見える壁の鏡を指差した。

さっき倒した夢魔たちを鎖で縛っていた、あの鏡だった。

「鎖で繋がれている鏡には、それぞれ名前がある。その名前を当てないと次の通路は開かない。」

名前のヒントの出し方は単純だ。

私は鏡の正面に立った。

スゥゥ……

鏡に映った自分の姿が揺らぐ。

そして、まったく別のものが映し出された。

イペルとアッシュがすぐに反応した。

「おい、これ……」

「かわいい女の子ですね?」

鏡の中には、淡いピンク色の髪をツインテールにした幼い少女が映っていた。

ヘステリオがすぐに気づいて口にした。

「何だこれ、アイレット。お前の子供の頃じゃないか。」

「本当ですか、主様!?こんなに可愛かったんですか?」

アッシュが幼い私の頬をつつこうと指を伸ばすと、すぐ目の前でぴたりと止めた。

鏡の中の幼い私は、別個に動いていた。

アッシュの指がある位置に、自分の指を合わせてきた。

「うわ、本当に可愛いですね。」

「そうだな。うちの団長にもこんな時期があったんだな。」

「こんな可愛い顔で、頭に花でもつけてさ。」

ヘステリオがにやにやしながら、幼い私の額を軽くつついた。

すると鏡の中の幼い私は、まるで「だから何?」と言わんばかりの表情で舌を出した。

ヘステリオが一瞬固まると同時に、鏡の様子が変化した。

ちょうど正面に立っていたヘステリオの幼い頃の姿が映し出された。

不機嫌そうな顔をした黒髪の少年を見て、私は口を開いた。

「ほら、ヘステリオにもこんな可愛い時期があったんだな。イペルがサンドイッチ二つ食べたってだけで拗ねて泣いてたっけ……」

「おい、やめろ!」

ヘステリオもなかなかからかいがいがある。

皆それぞれ、自分の幼い頃の姿を映しては、その可愛さを確認する時間になった。

こうして鏡の名前は確定した。私は告げる。

「正解は――幼少期の鏡。」

ゴゴゴゴ……!

壁の一部に通路が現れた。

「分かった?ボス部屋まで、こういう仕掛けが続く。」

魔族を倒し、鏡の名前を当てる作業を繰り返した。

一階のボスたちは、せいぜいAランク程度の強さだったため、戦闘よりもギミックの方が時間を取られた。

「幼少期の鏡」はかなり簡単な部類だった。

中には人ではなく花が映り、「栽培スキル」で“植物言語”を使わなければならないものもあった。

「正解――誕生の鏡。」

ゴゴゴゴ……!

なんの変哲もない食卓が映ることもあった。

「昨日の朝食か?」

ゴゴゴゴ……!

意味不明で不気味な映像が流れることもあった。

「うーん……悪夢の鏡……か?」

ゴゴゴゴ……!

時には、映像ではなくテキストが表示されることもあった。

――彼は闇へと引きずり込まれながら思った。この世界は自分を嫌い、死を望んでいるのだと。

「いや、なんでここで鬱展開の小説が出てくるんだ……。」

[『天機を読み取る監察官』が目を輝かせています。]

あ、すみません。

「えっと……読んでて一番しんどかった小説の鏡……かな?」

ゴゴゴゴ……!

「うん、やっぱりそうだよな。」

[『均衡を司る独裁者』が、あなたの性格でどうやって原作を最後まで読んだのか改めて驚いています。]

[『妄想の混沌を観測する瞳』が、ビンジ視聴でコメントまで熱心に残していたと語っています。]

[『均衡を司る独裁者』が、もしかしてバッドエンド厨なのではと疑っています。]

[『魂を審判する天秤』が「うちの主人公はただ成長が遅いだけなんですよ?」と返して、くすっと笑っています。]

……なんだか聞いているだけでしんどい。

耳を塞ぎたくなる衝動をこらえつつ、私は足早に先へ進んだ。

今度は廊下ではなく、階段が現れた。

二階へ上がると、ボスの強さもSランクへと引き上げられていた。

とはいえ、うちの騎士団の戦力からすれば大した問題ではなく、あっさりと片付けていった。

問題は、またしても鏡だった。

「何これ?何も映らないんだけど?」

「だよね?」

ヘスティオとイペイルがしばらく鏡の前ではしゃいでいたが、鏡は白紙のように真っ白なままだった。

どうやら、この二人には映すべきものがないらしい。

だが、私とテシリドが立っても同じだった。

つまり、この謎の答えを持っているのは、四人の中にいないということだ。

〈四人とも該当なし?これはちょっと厄介だな〉

となると、頼みの綱はアッシュだけ。

「行け、末っ子」

「お前が希望だ」

幸いにもアッシュは期待に応えてくれた。

鏡がついに“ヒント”となる像を映し出したのだ。

吊り上がった目つきでこちらを睨む、赤毛の少女が映し出された。

その瞬間、アッシュの表情が一気に歪む。

「……は?」

「え、末っ子、やらかした?」

「あ、いや、その……兄貴たちすみません。いや、でも……はぁ、マジで……」

なかなかに重たい空気だった。

「で、何だよそれ?」

と皆が首をかしげると、アシが深いため息をついて答えた。

「……元カノです」

ドロロロロッ!

その一言で、思わぬ形で全員がお互いの過去を知ることになった。

兄貴たちは揃いも揃って恋愛経験ゼロ。

一方で、まだ成人式も迎えていない末っ子は――

「恋愛経験、あり……?」

「イペイル兄さん?」

「アッシュ、お前……急に遠い存在に感じるんだけど」

「……え?」

イペイルは、じりっとアッシュから距離を取った。

私とテシリドは思わず顔を見合わせる。

[『魂を裁く天秤』が、17回目の回帰者でありながら清廉な過去を保つ主人公を称賛する一方で、初心者ゆえの経験不足を惜しんでいます。]

[『世界を構築する言語』が、それは何の冗談だと呆れています。]

[『天機を読む監察官』が、疑い深い目で主人公を見つめ、思索に沈んでいます。]

そのとき、アッシュがこちらを振り返り、ぼそりと呟いた。

「姉さん、すみません」

「何が?」

「この前、かなりやらかしました」

「だから何を?」

「“殺しの依頼、安く請けますよ”って営業する前に、相手に元彼がいるかどうか確認すべきでした……怒ります?」

「いいえ」

 



 

 

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