こんにちは、ちゃむです。
「監禁王子のメイドとして生き残る方法」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
66話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 消えゆく魂
ロゼは必要な荷物をすべてまとめ終えると、屋根裏部屋から降りていった。
そして、暗闇の中で待っていた招かれざる客と鉢合わせになった。
私はロゼを見つめた。
突然の鉢合わせに驚いたロゼを見て、その女性はにっこりと微笑んだ。
「お姉さん、塔には何の用ですか? そこは私も知らなかった場所なんですけど」
ロゼは目を見開いた。相手の親しげな態度から、アルベルトが自分の存在を他の人たちに知らせていないのだと思ったようだ。
だが、そう考えた次の瞬間――。
メルシーは一気にロゼとの距離を詰め、杖の先端を彼女の喉元に押し当てた。
「バッグの中身は、素直に全部出していただけますか?」
メルシーは冷たく微笑んだ。私が今まで見たこともないほど鋭い殺気をまとっている。私に接していた時の彼女とは、とても同じ人物とは思えないほどだった。
彼女が先ほどロゼに対して私と同じように接したのは、アルベルトが事情を話していなかったからではない。一瞬でもロゼを油断させるためだったのだ。
その時、少し前にアルベルトが言っていた言葉を思い出した。
彼は彼女を裁くために、黒魔法使いである証拠を探すようメルシーにも頼んでいたのだった。アルベルトはロゼが塔へ戻ってくることを見越していたらしい。もしかすると、ロゼをあえて一人にしたのも、証拠を確実に掴むための計画だったのかもしれない。
首元に突きつけられた杖の先は鋭かった。皮膚に食い込む感触など気持ちのいいものではないはずなのに、ロゼはかえって笑みを浮かべた。
「私を殺してはいけないって、聞いていないの?」
「殺さなければ、それ以外なら何をしても構わないでしょう? 殿下と契約できる程度に生かしておけばいいんだから」
……メルシーって、私が思っていた以上にずっと恐ろしい人だったんだ。
「私は人に幻覚を見せられるの。生涯、苦しみ続ける幻の中で生きることもできるわよ?」
そう言った瞬間、メルシーの杖の先が赤く光った。それまで余裕を見せていたロゼの表情に、初めて焦りが浮かんだ。
驚いたのはメルシーも同じだった。彼女は杖を握る手の力をゆっくりと緩め、唇をわずかに開いた。
どうやらメルシーはロゼに幻覚を見せたようだったが、それが何なのかは私には分からない。
「あなた……エフネン侯爵家の……」
「私に触らないで!」
反射的に叫んだロゼが手を振るった。彼女の指先から黒い炎のような光が噴き出し、一瞬でメルシーを吹き飛ばした。
メルシーの体は壁へと激しく叩きつけられる。
「がはっ……!」
メルシーを見つめながら唇を強く噛みしめたロゼは、まるで寒さに震えるように体を震わせていた。その表情は、恐怖に支配されきった顔そのものだった。
メルシーの魔法は、以前アレクサンダーがロストラトに見せた悪夢とよく似たもののようだったが……。
ロゼが何を見たのかは分からない。だが、それが彼女を完全なパニック状態へ追い込んだことだけは確かだった。メルシーが見せた幻影が、彼女の心の傷を刺激したのだ。
ロゼは強く唇を噛みしめ、滲んだ血が口元を伝う。
震える声で呪文を唱えた。
「ラン!」
呪文を唱え終えると、ロゼは慌てて駆け出した。
私はどうすべきか迷ったが、とりあえず彼女の後を追うことにした。今は彼女が何をしようとしているのかを知るほうが先だったからだ。メルシーのことも気になったが、命に関わるほどではなさそうだし、すぐに回復するだろう。
夜空を飛ぶロゼの顔は真っ赤に染まり、冷や汗が額を流れていた。その姿はまるで重い病に苦しむ人のようだった。
そういえば、さっきメルシーは「エフネン侯爵」と口にしていた。あの名前がロゼの恐怖を呼び起こしたように思える。だが、何がそこまで彼女を怯えさせているのかは分からず、私はもどかしさを覚えた。
「殺してしまう。殺してしまうわ。意識すらない亡霊のような存在にしてしまうのよ」
「…………」
「あなたばかりが愛されるなんて許せない。私はあんなに捨てられたのに……。そうよ、私が愛されないなら、いっそ殺してしまったほうがいい。どうせ私は……」
陰鬱につぶやき続けるロゼの瞳は焦点を失っていた。その言葉が私に向けられていることに、背筋が寒くなる。
……それでも、今はロゼの行き先を確認することが先だ。今は話せなくても、魔法さえ使えればアルベルトにロゼの居場所を伝えられる。
ロゼは開けた場所で足を止めた。そこは、私とアルベルトが北部地方へ瞬間移動するために立ち寄った森だった。
茂みの前に膝をついたロゼは、狂ったようにバッグをあさり、次々と道具を取り出していく。そして地面に巨大な魔法陣を描き始めた。
(――いったい何をするつもりなの?)
それだけではなかった。ロゼは自らの体に傷をつけ、滴る血を地面へ落としていた。
黒魔法を発動するための儀式なのだろうか。私は黒魔法について詳しくはないが、今目の前で行われているそれが、普通の魔法とはまったく違うものであることだけは分かった。
知らせなきゃ。ロゼの居場所も、何をしようとしているのかも分かった以上、宮殿へ戻って何としてでも伝える方法を探さなければ。
宮殿の方へ向き直った私は、自分の手が先ほどよりもさらに透けていることに気づいた。人の形と色を保っていたはずの体の向こうに、夜空が透けて見え始めている。まるで、私の魂が今にも消えてしまいそうだった。
「……まさか」
振り返った私は、けたたましく笑うロゼと目が合った。私の姿は見えないはずなのに、それでも彼女はまるで私を見つめているかのような、狂気じみた表情を浮かべていた。
得体の知れない恐怖が、私を飲み込んだ。
感じる。私の魂が薄れていく。少しずつ意識が消えていく。ロゼの力が、私の魂をほとんど消滅させようとしているのだと理解した。
このまま私は消えてしまうの?
……いや、違う。
彼女はアルベルトと契約し、彼を手に入れたいと思っている。そして私は、その契約に欠かせない存在だった。だからアルベルトも、一時的にロゼを一人にしたのだ。彼女は私に危害を加えられないと思っていたから。
別の方法でアルベルトを騙すことはできても、私を消すことはできないはずだった。アルベルトと契約するには、ロゼは私を殺せない。
なのに、私の体は確かに消え始めていた。
どうすればいいの?
私は消えたくない。
生きたい。
お願い、誰か……どうしたらいいの?
『……私の声が聞こえる?』
頭の中にハヤンの声が響いた。まったく予想もしなかった出来事だった。
「は、ハヤン?」
私は驚いて言葉を失った。
そうだ。ハヤンとはテレパシーで会話できるんだった。ハヤンから話しかけられることは何度もあったのに、私からハヤンへ話しかけたことはほとんどなく、そのことをすっかり忘れていた。パニックになると何も思いつかなくなるというのは本当なんだ。こんな方法を今まで思いつかなかった自分が情けない。
どうやらハヤンも、魂の状態にある私へ言葉が届くとは知らなかったらしい。それでも、こうして話せるようになって本当に良かった。
一度コツをつかむと、テレパシーを送るのは簡単だった。私は歯を食いしばり、意識を集中させて念を送った。
【ハヤン、ちょうどよかった。今、私はロゼの後を追っているの】
しかし、ハヤンは慌てたように私の言葉を遮った。
【どこにいるの? 宮殿? 私たちと一緒にいるの? 早く答えて! 塔へ戻って!】
はっきりと響くハヤンの声は、いつもののんびりした口調とはまるで違っていた。それだけ彼女が動揺しているのが伝わってくる。
けれど、その意味が分からなかった。どうして塔へ戻らなければならないの?
【魂は、自分の肉体を失った場所から離れれば離れるほど消滅していくの! ロゼ・アティオスがあんなに長く生き延びられたのは、塔から離れなかったからなんだよ!】
ハヤンの言葉を聞くにつれ、私を襲う苦痛はどんどん激しくなっていった。本当に、このままロゼに殺されてしまうのではないかと思うほどだった。
私は歯を食いしばって動き出した。少しでも塔へ近づかなければならない。ここで終わるわけにはいかない。できることは、何でもやるしかない。
私は私に呪いをかけ続けるロゼから距離を取り、塔へ向かって必死に走り出した。
【ロゼ・アティオスが今、王宮の外れの空き地にいるの、ハヤン。正確な場所は――】
現在地を伝えようとした、その瞬間。
私は意識を失った。
—
一方、倒れていた体をようやく起こしたメルシーは、先ほどロゼ・アティアスの幻覚の中で見た光景を思い返していた。
ロゼにかける魔法は、その者が最も恐れるものを見せる幻覚魔法であり、メルシーが扱える魔法の中でも高度なものだった。ロゼが黒魔法使いである証拠を掴むため、幻覚にかけている間に鞄だけでも奪うつもりだったが……。
そこで見た人物に、メルシーは驚愕した。
(――間違いなく、エフネン侯爵だった)
ロストラトによって殺されたはずの侯爵である。
魔法使いになりたいという執着が異常なほど強く、自宅に黒魔法の祭壇まで作っていたエフネン侯爵。メルシーが見せた幻の中で、ロゼはそのエフネン侯爵と一緒にいた。
(あれが、ロゼ・アティオスが最も恐れている記憶なのか)
「そこで、一体何があったんだろう……」
ロゼ・アティオスとエフネン侯爵。まったく予想もしていなかった繋がりだった。
問題は、エフネン侯爵本人に直接聞くことができないことだ。彼はすでに死んでおり、その家の人々も皆、粛清されたかのように姿を消していた。侯爵について尋ねられる相手は、もう誰も残っていない。
今は、まずアルベルトに報告するのが先だった。
「ロゼ・アティオスと遭遇した瞬間、すぐこちらへ連絡はしましたけど……」
メルシーはその場で身を起こしながら、小さくうめいた。壁に叩きつけられたせいで、手首にひびが入ったのか、骨まで痛むようだった。
「早く王宮へ戻らないと……」
そのとき、塔の扉が勢いよく開いた。
突然の音に驚いて目を細めたメルシーの視界に、アルベルトの姿が映る。
「殿下? どうしてここに……」
乱れた髪の隙間から覗く彼の顔は、疲れ切っていた。だが、問題は疲れ果てたアルベルトではなかった。
彼の腕の中には、悲鳴のような鳴き声を上げるホワイトドラゴンが抱かれていた。苦しそうに全身をよじるその姿には、見覚えがあった。そして、それが何を意味するのかも。
メルシーもアルベルトも、その現象の意味を知っていたからだ。
「キィィィッ!」
幼いドラゴンが、このように泣き叫ぶ時は一つしかない。
(――自らの死が近づいた時だ)
「……このホワイトドラゴンは、もうすぐ命を落とすということですか?」
思いもよらない泣き声に、メルシーは驚いた表情でアルベルトを見つめた。アルベルトは静かにうつむく。
「いや、まだ間に合う。ドラゴンとの契約よりも、契約者の魂のほうが危険なんだな?」
「……泣き出すほどに、です」
アルベルトとメルシーは目を合わせると、すぐに塔の外へ飛び出し、そのまま空へ舞い上がった。
「メルシー、ロゼ・アティオスはどこへ向かった?」
メルシーの表情が曇る。
「申し訳ありません。私の幻を見たあと、怒って攻撃してきて……その後しばらく気を失っていたので……」
「いや、それは分かっている」
メルシーとの会話を聞いていたハヤンが口を開いた。
「ねえ、アルベルトと一緒に瞬間移動した場所にいるって」
「……聖人の声が聞こえるんだな」
ハヤンは全身を震わせながら、こくりと頷いた。アルベルトは痛みに耐えようと必死に歯を食いしばるハヤンの頭を優しく撫でると、さらに速度を上げた。
「よく頑張ったな、子竜」
何気なく口にしたその言葉には、心からの労いが込められていた。メルシーは心配そうにハヤンを見つめ、尋ねた。
「聖人様も、こんなに苦しむのでしょうか?」
「……せめてもの救いは、魂の状態になれば、死以外の苦しみは何も感じなくなるということだ。今、この子竜が苦しんでいるのは、死の淵に近づいているからなんだ」
アルベルトは光のような速さで飛んだ。腕に抱えたまま魔法陣の中へ降り立つと、その場に座り込んでいたロゼ・アティオスと向かい合った。
焦点の合っていなかったロゼの瞳は、少しずつ光を取り戻していく。静かに降り立ったアルベルトは、心配そうな微笑みを浮かべた。
「落ち着くんだ、ロゼ。君が何を見たとしても――」
「こうしているの」
「……」
アルベルトの低い声での言葉にも、彼女は何も答えなかった。
彼女の周囲では、魔法陣がなおも光を放ち続けていた。アルベルトは、それが何なのかを正確に理解していた。
血のように赤く輝くそれは、黒魔法使いの魔法陣だった。術者が自ら解除しない限り、誰にも消すことのできない、命と魂を代償に描かれた禁忌の魔法陣。
「きゃあっ!」
アルベルトの腕の中に抱かれていたハヤンが、再び泣き声を上げた。
ロゼを説得できなければ、ヒロインもハヤンも二人とも死んでしまう。
アルベルトは、ロゼ・アティオスの魔法を止めなければならなかった。
――今すぐに。
-
ロゼの暴走とトラウマの露呈塔でロゼを待ち伏せていたメルシーが幻覚魔法をかけると、ロゼは死んだ「エフネン侯爵」のトラウマからパニックに陥り、メルシーを吹き飛ばして逃亡。森で自らの血を使った危険な黒魔法陣を描き始めました。
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ヒロインの消滅危機とハヤンの警告ロゼの後を追ったヒロインは魂が急速に透け始めます。危機一髪でハヤンとのテレパシーが繋がり、「魂は肉体を失った場所(塔)から離れるほど消滅する」と知らされるものの、ロゼの居場所を伝えかけたところで意識を失ってしまいました。
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アルベルトたちの猛追と最終局面契約者(ヒロイン)の死の危機を察知して泣き叫ぶハヤンを抱え、アルベルトとメルシーはハヤンが得た情報を頼りにロゼの元へ急行。命と魂を代償にした禁忌の魔法陣を敷くロゼを止めるため、対峙しました。