こんにちは、ちゃむです。
「監禁王子のメイドとして生き残る方法」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
60話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 完璧な君の、完璧ではない傷痕
ドレス選びは、思っていたよりもずっと時間がかかった。けれど、疲れ切った体を何よりも癒やしてくれたのは、ハヤンの愛らしい存在だった。
「僕、これ好き!」
自分にぴったりの小さな帽子をかぶったハヤンは、嬉しそうに肩をすくめながら歩いている。気に入った帽子を何度も小さな前足で触る姿がたまらなく愛らしい。
「それじゃあ、殿下への贈り物はそれに決まりですか?」
階段を上りながら、メルシーが尋ねてきた。私は先ほどデザイナーのクロエルに教えてもらった住所を思い出す。彼女の店の隣にある建物の3階だと言っていた。
「正直、殿下はお姉様からの贈り物なら、何でも喜ばれると思いますよ」
メルシーの言う通りだ。私が何を用意したとしても、アルバートが受け取って嫌な顔をする姿なんて想像すらできなかった。それでも、せっかく贈るなら本当に役に立って、長く使ってもらえるものを選びたかった。
「いずれにしても、きっと素敵な贈り物になりますよ」
「やっぱりね」
メルシーがつぶやきながら、目的の店の扉を開けた。
先ほどクロエルさんに尋ねたのは、彼女がデザイン画を描く際に愛用していた万年筆を扱う店の場所だった。一日中スケッチを描き続けるほどの仕事人が愛用している万年筆なら、品質も間違いないはずだ。見た目も上品で、高い高級感があった。アルバートが普段から使えて、実用的でありながら品格もある贈り物――そんな条件にぴったりだったのが、その万年筆だった。
私とメルシーは店に入り、アルバートへの特注の万年筆を注文した。完成までにはおよそ二週間かかるという。
そして、せっかく街へ出たのだから、もう一つ気軽に渡せるものも用意したくなり、万年筆店の隣にある宝石店へも足を延ばした。
そこで私は、一目で気に入った白金のブレスレットを購入した。
この世界に憑依する前の私なら、とても手が出せないような値段だった。でも、今は違う。
(やっぱり、お金を使うのって気持ちいい……!)
こんな金額を気兼ねなく使えるなんて、これまで苦労してきた甲斐があったというものだ。値札を気にせず、本当に欲しいものを選べる暮らしが、これほど幸せなものだとは思わなかった。
満足のいく買い物を終えた後は、市場のにぎやかな喧騒が響く街をのんびりと散策した。
通りにはアルバートの肖像を掲げた店があちこちにあり、人々は彼の功績を称えていた。本当に久しぶりに、たくさんの人と行き交い、言葉を交わす。塔での静かな暮らしが恋しい気持ちもあるけれど、それとは別に、人はやはり他人と関わり、交流しながら生きていくものなのだと改めて実感させられた。やっぱり、人は人とともに生きるものなのだ。
さらに道を歩いていると、あちこちから人々の話し声が聞こえてきた。先ほどの宝石店でもそうだったが、聞こえてくる話題のほとんどはアルバートのことだった。ロストラトゥを支持していた貴族たちの粛清も滞りなく終わり、人々はアルバートが王になったことを心から受け入れ始めていた。彼が魔塔主や貴族たちを完璧にまとめ上げたことも、国中に広まっている。
自分の役職(魔塔主)が話題に上るたび、メルシーは照れくさそうに笑っていた。もちろん、周囲の人々は目の前の少女が魔塔主本人だとは夢にも気づいていない。
アルバートを褒める声を聞いていると、なぜか私まで誇らしい気持ちになり、歩きながら人々の会話にそっと耳を傾けた。
「ええ、本当に立派なお方ですよ。あれほどの短期間でここまで成し遂げるなんて……」
――あれほど短期間で、か。
幼い頃のアルバートの境遇を思えば、人々がそう称賛するのも無理はなかった。
「今回、志願して討伐隊に参加したうちの息子も言っていましたよ。本当に立派な、王となるべきお方だった、と」
ロストラトゥが最初に流した彼への悪評は、今や完全に覆されつつあった。ここに至るまで、決して簡単な道のりではなかったはずだ。それでも、やはりアルバートは王になるべき人なのだ。自分が褒められるよりもずっと嬉しい気持ちで、私は心の中で何度もうなずいた。
しかし、次に聞こえてきた言葉に、私は思わず足を止めた。
「本当においたわしいお方でした。ようやくご自分の居場所を見つけられたのですね。……昔、ご自分で命を絶とうとなさったことがあったなんて、誰が想像できたでしょう」
心臓がどくりと跳ねた。最後の言葉が心に深く引っかかり、このまま聞き流してはいけないような気がした。
「あの苦しい頃があったからこそ、今の殿下がおられるのでしょう。一生お仕えしたい方です」
「あれほど完璧な方にも、そんなつらい時期があったと思うと、恐れ多いですが親近感が湧きますね」
「一度や二度のことではなかったそうですよ……」
……初めて聞く話だった。
私は目を瞬かせ、信じられない思いでメルシーのほうを振り向いた。アルバートの過去が不幸に満ちていたことは知っている。だけど……彼が自ら命を絶とうとしたことなんて、原作の小説でも読んだことがなければ、想像したことさえなかった。
「……どういうことですか?」
「ご存じなかったんですか?」
メルシーは驚いたように目を丸くした。むしろ、側にいた私が知らないことのほうが不思議だと言いたげな様子だった。詳しく聞きたくてじっと見つめると、メルシーはあごに手を当て、小さく息をついた。
「陛下ご自身が流された噂なんです。ロストラトゥが広めた嘘の悪評を打ち消すための、一つの手段でした」
アルバート自身が流した噂――。
そう聞いて、私はリーム城で彼が自信に満ちた眼差しで語っていた言葉を思い出した。
『私は彼らの同情を買うつもりだ』
あの時、彼の瞳は力強く輝き、声もはっきりとしていた。さすが、この物語の主人公だと感心したものだ。
私は、アルバートが自分の不幸な生い立ちを語ることで、人々の同情や好意を集めようとしているのだとばかり思っていた。殺し合う家族の中でたった一人生き残ったという事実は、人々の心を動かすには十分すぎる話だ。アルバートは変えられない過去すらも武器にする、冷徹で賢い人物なのだと。
私は、それがすべてだと思っていた。だから、その傷もとっくに乗り越えているものだと信じ込んでいた。今のアルバートを見ている限り、過去の出来事に苦しめられているようにはとても見えなかったからだ。彼は幼い頃の傷を乗り越えた主人公。そんな過去は、主人公なら誰もが一つは背負っている設定なのだと、どこかで割り切っていた。
だからこそ、誰も彼のことを本当の意味で理解できなかったのだ。するたびに激しく痛む、本物の過去の傷。それは、この物語の中で何度も隠されてきた真実だった。私はアルバートを間近で見て、彼の体温を感じるようになってから、彼の凄惨な過去をどこか遠い出来事のように追いやってしまっていた。
『人は高みにいる者が、自分たちと何も変わらない人間なのだと知ると、ずいぶん親近感を抱くものなんだ』
壮絶な家庭環境を経験したアルバートが、当時どんな思いでそれを生き延び、どんな覚悟でロストラトゥのもとへ向かったのか――私は、その本質を深く考えたことがなかった。今のアルバートにとって、それらはもう重要ではない過去の土台に過ぎないのだと、勝手に解釈していた。
もちろん、それさえもアルバートが世論を動かすために用意した周到な演出、作り話だった可能性はある。
けれど、自分の命をもてあそぶような、そんなおぞましい嘘を広めることなど、彼の性格からしてあり得ないことだった。だからこそ、私はその話が「嘘であってほしい」と強く願ってしまった。だって、もし本当なら、あまりにも cruel(残酷)な話ではないか。
――『君にとって、もう少し長く完璧な人間でありたいという、私のわがままだ』
彼の切ない言葉が脳裏によみがえり、急激に顔が熱くなった。恥ずかしくて、情けなくてたまらなかった。
私はアルバートを好きだと言いながら、知らないうちに彼を「理想の完璧な主人公」という型にはめて見ていたのかもしれない。いつも完璧な彼の姿ばかりを求め、泥臭く傷ついた本当の彼を知ろうとはしてこなかった。まだ彼に愛されていないかもしれないという不安のせいで、彼の深淵に触れることさえ怖がっていたのだ。
他人から期待されることに慣れきっているアルバートにとっても、きっと――胸の内を打ち明けるよりも、人の話を聞くことのほうがずっと慣れている彼にとっても、すべてを投げ出したくなる瞬間が、きっと何度もあったはずだ。
その傷がどれほど深いものだったのか、私には想像もつかなかった。私もかつて、前世で家族をすべて失ったことがある。それでも私は、命を絶とうとは思えなかった。死ぬことが、ただ怖かったからだ。世界中の憂鬱や悲しみを一身に背負ったような苦しみの中でもがき続けても、それでも私は命を捨てることはできなかった。それほどまでに、死は恐ろしいものだった。
だけど、彼は違った。あの頃の彼は、本当に、何度も自ら命を絶とうとしたのだ。
私は、自分がひどく罪深い人間に思えた。好きだと言い、愛していると言いながら、本当に知るべきだった「彼の物語」から、私は都合よく目を背けていた。彼を理解し、寄り添っていく機会を、自ら遠ざけてしまっていたのだ。
それでも、私は激しく迷っていた。
……このことを、私から本人に聞いてもいいのだろうか。もし彼が話したくないのであれば、無理に話させたいとは思わない。あの時、アルバートは私には知られたくないというように話していたのだ。私には、もう少し長く「完璧な人」でいたい、と。それなら、私は何も知らないふりをするべきなのだろうか。でも、この重い真実を、いつまでも胸の奥にしまっておけるだろうか。
「ロゼ、殿下がどうしてあれほど強い魔法使いになられたのか、ご存じですか?」
私の表情の深刻な変化に気づいたメルシーが、不意に尋ねてきた。私は小さく首を横に振った。
「魔法使いは魔法を使いすぎて、短時間で魔力を使い果たすと、死の淵をさまようことがあります。それは、さらに強大な魔力を手に入れるきっかけにもなるんです。でも、その過程で命を落とす人も大勢います。幼ければ幼いほど、その確率は高くなるんですよ」
メルシーは、自分の首筋をそっとなぞるようなしぐさをした。
彼女の言葉を聞きながら、私の脳裏にはアルバートの美しい顔がぼんやりと浮かんだ。かなりの魔力を使って塔から私を脱出させ、そのうえ私にかけられた恐ろしい黒魔法まで治療してくれたことも思い出す。アルバートは「痛むだろう」とは言っていたけれど、自分の命が危険にさらされるほどの自殺行為だったなんて、一度も話してくれなかった。
胸の奥から、アルバートへの怒りにも似た、ひどく切ない感情が込み上げた。私がこんなにも自分を責めると分かっていたから、あの人は黙っていたのだろう。メルシーも、自分が今話したことが私にどれほど大きな衝撃を与えるかまでは分かっていないはずだ。
もし、もっと早く知っていたなら、私はどんな苦しみだって耐えられた。私がどれほど痛い思いをしたとしても、彼が命を懸けることに比べれば、何でもなかったのに。
「でも、この事実を知っている魔法使いは多くありません。普通は、自分の魔力が尽きるまで使い続けることは、ただの自殺行為だと考えられていますから」
「……つまり、そのことを知っていたということは……」
「はい。陛下は幼い頃から、死んでしまったほうがましだと思うほどの苦しみの中で、自ら命を絶とうとし、そして生き延びてきた方です。だからこそ、その『死の淵の超克』をご存じだったのでしょう。……あの方には、何一つ、努力や犠牲なしに手に入れたものなどないのです」
アルバートが本当に強大な魔法使いになれた理由が、そんな血を吐くような絶望の歴史だったなんて、本当は思いたくなかった。生まれながらにすべてを持った、きらびやかな主人公のような物語が彼にあってほしかった。たとえアルバートのすべてが生まれ持った天才的な才能によるものだったとしても、それでよかったのに。
私はぎゅっと唇を噛んだ。それでも、メルシーの話をもっと聞きたかった。彼女の知っている彼のことを、何でも。
しかし、メルシーは小さく首を振った。
「これは同じ魔法使いだからこそ分かったことです。これ以上、私からお話しできることはありません」
「……メルシー、少し寄り道をしてもいい?」
これ以上、無理に聞き出したくはなかった。この衝撃的な過去を知ったからといって、彼の価値や完璧さが損なわれるわけではない。それでも、彼が私に隠したいと望むのなら、その気持ちを何よりも尊重したかった。
「はい、もちろんです」
メルシーは私の意図を察すると、優しくうなずいた。
私は彼への贈り物の入った鞄をしっかりと肩に掛け、再びゆっくりと歩き始めた。歩きながら、なおも周囲の人々の声に耳を傾ける。
「湖に身を投げたこともあったそうだよ。本当に死にかけたらしい」
「……立ち直って城へ戻ってから、間もなく先王に仕えるようになったんだってね」
「それなのに利用されたんだ。あの腐ったロストラトゥの野郎どもめ」
人々は口々に語っていた。街のあちこちには、誇らしくアルバートの肖像が掲げられている。ロストラトゥの悪行が明らかになればなるほど、アルバートが広めた「自虐的な噂」は恐ろしいほどの説得力を増していった。もしアルバートの話が単なる誇張された噂話にすぎなかったなら、人々がここまで真実味を持って詳しく知ることはなかっただろう。しかし、彼には本物の傷跡という証拠があり、それが噂の信憑性をさらに高めていた。
本の中で読んで知っていたはずの出来事が、生々しい現実として目の前に広がっていた。ほんの一部を知っただけなのに、その話を聞くだけで胸が引き裂かれそうに苦しかった。私ですらこんな気持ちになるのだから、事情を知った周の人たちがアルバートを深く慕い、尊敬するようになるのも当然のことなのかもしれない。
『私だけには知られたくない』
そう語った彼の切実な表情が、何度も何度も頭に浮かんだ。
古い傷は、やがて傷跡になる。時間は多くのことを癒してくれるけれど、傷跡そのものを消し去ってくれるわけではない。もし彼が本当に過去を乗り越えていたのなら、私に「知られたくない」なんて言うはずがない。あんなに消え入りそうな表情で話すこともなかっただろう。
アルバートは、自分の最も深い傷をあえて世間にさらけ出し、敵の悪意ある噂を断ち切るという、最も痛烈な方法を選んだのだ。そんな壮絶な過去を背負いながら、それでも冷徹に前へ進み続けようと決めたアルバートは、本当に、気が遠くなるほど強い人だと思った。
「この道をまっすぐ行けば、良いレストランがありますよ」
メルシーが私の隣に寄り添い、小声でそう言った。彼女は前方を見つめている。気がつけば、街は夕暮れに染まり、もう夕食の時間になっていた。
美味しいものでも食べて、少しだけでもこの憂鬱な気持ちを忘れよう。そう思い、少し軽くなった足取りで歩き出そうとした――そのときだった。
「陛下が、ロゼ様をお待ちです」
メルシーのその一言を聞くまでは。
考えてみれば、アルバートが私を迎えに来ること自体、何も不思議なことではなかった。約束でもしていたかのように、彼は毎日のように私を訪ねてきていたのだから。
だけど、今はだめだ。今の私は、彼の顔を見ても、何事もなかったようにいつも通り振る舞える自信がこれっぽっちもなかった。
メルシーからアルバートの壮絶な過去を聞いて、まだそれほど時間も経っていないのだ。彼の姿を見た瞬間、
『私の黒魔法を治すとき、自分の命を懸けることになるって、どうして教えてくれなかったの!?』
と、激しく問い詰めてしまうかもしれない。もちろん、そんなことを彼に責める資格など、私にはないのだけれど。
「ああ……頭が痛い……」
私は額を押さえ、大きくため息をついた。そして少ししてから、自分に深く言い聞かせるように、小さくつぶやいた。
「私は……何の噂も聞かなかったことにします」
アルバートが私に知られたくないと望むなら、私は一生、何も知らないロゼでいよう。
私の言葉を聞いたメルシーは、すべてを包み込むようににっこりと微笑んだ。
「もちろんです、お姉様」
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アルバートへの贈り物選びと、街での幸せなひと時
ドレス選びを終えたロゼは、愛らしいハヤンに癒やされながらメルシーと共に高級万年筆店を訪れ、アルバートのために特注の万年筆を注文します。さらに隣の宝石店で白金のブレスレットを気兼ねなく購入し、値札を気にせず買い物ができる貴族としての豊かな暮らしに幸せを実感します。
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街に広がるアルバートの「悲劇の過去」
活気あふれる市場を散策する中、ロゼは街の人々が「アルバートは幼い頃に何度も自ら命を絶とうとした」と噂しているのを耳にします。それはアルバート自身が敵の悪評を覆すために流した「同情を買うための戦略」でしたが、ロゼは彼が背負ってきた本物の傷の深さを知り、自分が彼を「完璧な主人公」という理想の型にはめて見ていたことに気づいて猛省します。
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強大すぎる魔力の秘密と、ロゼの決意
メルシーから、魔法使いが短時間で魔力を使い果たすと死の淵をさまようが、それを生き延びることで強大な魔力を手に入れられること、そしてアルバートが命がけでロゼの黒魔法を治療した事実を知らされます。衝撃を受けつつも、アルバートが自分にだけは「完璧な人間」でありたがっていたことを思い出したロゼは、彼のプライドと優しさを尊重し、「一生何も知らないふりをしよう」と心に決めて彼のもとへ向かいます。