こんにちは、ちゃむです。
「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
113話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 悲しみを知った日
セレモンは言った。
「私はまだ、悲しみが何なのか分からない」
漠然としていて難しい。だが、知りたいと思った。人として大切な何かを失ったまま生きているような、空虚な感覚。イザベルと出会ってから、それまで感じることのなかった感情を知るようになった。まるで薬に酔っているような感覚だった。毎日、胸の内はもやもやし、心は重かった。だから確かめたかった。
「もしあなたを失ったら、私は悲しめるのかな?」
セレモンはイザベルの頬から手を離した。
「うまく想像できない」
そう言って一歩後ろへ下がると、突然イザベルを押した。
バシャン!
イザベルの体はユリ湖へと落ちていった。イザベルは体を動かせなかった。
『何なの!?』
現実感がなかった。
『まさか、私……死ぬの?』
こんな結末は、一度も想像したことがなかった。水面の向こうに、セレモンの顔が見えた。水面が揺れていて、どんな表情をしているのかは分からなかった。
『体が、動かない』
呼吸がだんだん浅くなっていく。胸が苦しくなってめまいがし、視界がぼやけ始めた。
『私、まだ二十歳にもなってないのに』
それでも、少なくとも二十歳までは生きられると思っていた。やっと健康で幸せな人生を手に入れられたのに。
『どうして?』
私が何をしたっていうの。私は何も悪いことなんてしていないのに。
『どうして私が死ななきゃいけないの?』
体はどんどん深く沈んでいった。どれほど深く沈んだのかは分からないが、耳には――息が詰まり、胸が苦しかった。けれど、その苦しみも次第に感じなくなっていった。
『息が……できない……』
—
セレモンは、静かに湖底へ沈んでいくイザベルを見つめていた。彼もぶどうジュースを飲んでいなかったため、体を動かすことができない。湖の水はあまりにも澄んでいて、どれほど深く沈んでも、イザベルの姿ははっきりと見えていた。
『泡が出ていない』
意識を失ったようだ。もうすぐ死ぬだろう。
――ズキッ。
胸が痛んだ。血が速く流れているような感覚だった。
『またこの感覚か』
任務を終えるたびに、いつもこういう感覚になった。その後は心が静まり、何の感情も湧かなくなる。セレモンは知らなかったが、それはブラドク公爵の血術の影響だった。
『今日も同じみたいだ』
今日は何か違うと思っていたのに、結局は変わらなかった。
しばらく時間が過ぎた。ふと、イザベルが水遊びをしていた姿が頭に浮かんだ。何がそんなに面白かったのか、どうしてあんなに幸せそうに笑っていたのか、彼には分からなかった。彼は船室の屋根の上に立っていた。はるか下の深い湖底には、イザベルが眠るように沈んでいた。
「君は下にいて、私は上にいる」
実は、木の上に登って姿を見せていたのも、この出来事を暗示するためだった。今日起こる出来事への前触れだったのだ。
『高いところで危ないことをしたら駄目です! それに、馬車が襲われたらどうするんですか? 乗っている人たちがけがをしたら? 大事故になったらどうするんですか? 本気で怒られたいんですか? 私、本当に怒りますよ! あなたって本当に言うことを聞かないんだから!』
腰に手を当てて本気で怒っていたイザベルの姿が脳裏によみがえった。そのとき、イザベルはこうも言っていた。
『お兄様! 危ないです! 下りてきてください!』
あの時、下りてイザベルの隣に座ったときの気持ちは、何だったのだろう。あの感覚は、不思議と心地よかった。
『悲しみって、何だ?』
なのに、胸の中は空っぽだった。
「危ないことをしたら、また叱ってくれるか?」
ここから飛び降りたら、イザベルはまた私を叱ってくれるだろうか。そんなことを考えた。
『悲しみって何なんだ?』
やはり頭では理解できなかった。
『私は任務を成功させた』
これまで、そのためだけに生きてきた。
『どうして少しも嬉しくないんだ?』
いつも任務を果たしたときに感じていた達成感や喜びは――セレモンの頭の中から、他のことはすべて消えていた。
セレモンの目から涙があふれた。物心がついて以来、初めて流す涙だった。
『これが……泣くということなんだ』
頭の中が混乱した。あまりにも多くの感情が一気にあふれ、胸が苦しくなる。これまで感情を抑え込み、制御してきた術と、心の奥底にある本当の感情が激しくぶつかり合っていた。胸の奥で、何かが弾けるような感覚がした。
ドクン、ドクン、ドクン――。
そして、その瞬間。
『イサベル?』
イザベルの姿が、ぼんやりと見え始めた。
『違う』
血が全身を激しく駆け巡るような感覚だった。何か外からの力が、自己的な体を強引に縛りつけようとしている。
『イサベル!』
もう考えるのはやめた。何かを考えようとするたび、体が思い通りに動かなくなる。まるで体の中に寄生虫がいて、体も感情も好き勝手に支配しているようだった。
『考えちゃ駄目だ』
理性を閉ざし、本能に身を委ねた。彼の体は勝手に動いた。
バシャッ!
水の中へ飛び込む。しかし息が詰まり、体は再び硬直してしまった。血術を拒絶した代償だった。十数年にわたり彼の体内に注ぎ込まれてきたブラドック公爵の血が、セレモンの身体 and 精神を蝕み、全身を麻痺させていた。
彼の身体は石のように硬직し、そのまま湖の底へ沈んでいった。はるか下には、イザベルの姿が見えた。
『イサベルが死ぬところなんて見たくない』
誰かの死を、これほど恐れたことは一度もなかった。だが、何もできなかった。人を殺すことには自信があった。だが、人を救うことには自信がなかった。
『怖い』
迫り来る未来が、どうしようもなく恐ろしかった。生まれて初めて味わう感情だった。
『そして、悲しい』
ようやく分かった。これが悲しみだった。
彼の視界は霞み、意識が遠のいていく。ぼやけた視界の中に、何かが見えた。
『あれは……何だ?』
イザベルの足元に魔法陣が現れた。そこまで確認したセレモンは、意識を失った。
—
湖の底から、金色の稲妻が飛び出した。
【勇者、登場。】
金色の稲妻は困惑していた。自分で魔法陣を開き、空間を跳躍したという自覚がなかった。
『ここはどこだ?』
『私は誰だ?』
よく分からないが、イザベルに危険が迫っていることだけは分かった。そう思った。だから私はとりあえず叫んだ。
【勇者様、登場。】
しかし、勇者様といってもできることは大してなかった。ギムボルはいつも自信満々だったが、その自信とは裏腹に泳ぎはまるで下手だった。息もできない。それでも必死にイザベルの髪をつかんだ。
泳げなくても、イザベルを引っ張って水面へ出ようと懸命にもがいた。手足をばたつかせたが、少しも前へ進めなかった。
【窒息】
息ができなかった。頭はくらくらし、体に力が入らない。それでも構わなかった。だが、イザベルが死ぬのは大問題だった。
【約束した!】
ずっと昔、イザベルと約束した。「イザベルより長生きする」と。でも、このままではその約束を守れそうになかった。
――お願いだから、私の言うことを聞いて。
突然、頭の中に奇妙な声が響いた。何度も会話を交わした、あの妖精のような奴だった。間違いなかった。
――誰だ!
――お前、泳げないだろ。そのままじゃイサベルは助けられない。
――ミツバチにできないことなんてない。
――意地を張るな。イサベルを失いたいのか?
その言葉でギムボルは我に返った。彼は誰よりも勇敢で、何一つ恐れるものはなかった。だが、イサベルを失うことだけは恐れていた。
――どうすればいい?
――私に任せろ。
――どうやるんだ?
――自分の本来の姿を思い出せ。この場所ならお前は呼吸できる。お前は竜なんだ。思い出せ。この水はアロンだ。
――アロン?
何度か耳にしたことはあったが、聞くたびに忘れてしまう名前だった。しかし今回は、思い出そうとした。
『アルン』
何度もその名前を心の中で繰り返した。
『アルン?』
金色の稲妻の体から黄金の光があふれ始めた。
『アルン……そうだ。私の名前はアルンだ』
それを思い出した瞬間、呼吸が楽になった。金色の稲妻の姿は、人間の姿へと変わった。
「イサベル」
水の中にいたが、言葉を発することができた。本能的に竜言語を使った。
「息」
すると、その言葉に魔力が反応した。薄い空気の膜が押し寄せ、イザベルの体を包み込んだ。慌ててイザベルを抱き上げ、水面へ向かって泳いだ。その途中、ぬるぬるとした海藻のようなもの――セレモンも一緒に巻き込んだ。
彼の周囲に魔力が集まり、進行方向に魔法陣が一つ現れる。その魔法陣をくぐり抜けた瞬間、イザベルを抱えた彼の身体は、いつの間にか陸地へとたどり着いていた。
「イサベル、お願いだ……」
アルンは絡みついていた海藻を適当に放り捨てると、イザベルを地面に横たえた。陽光を浴びてきらめく白い砂浜の美しさなど、目に入らなかった。
『息をしていない』
だめだ。何としてでも助けなければならない。
アルンはイザベルの口を開け、その唇に自分の唇を重ねた。ふぅ――と息を吹き込む。
『お願い、目を覚まして』
生命力を宿した魔力が、イザベルの体内へ流れ込み始めた。
—
ビアトン卿は船の上で、自分の油断を悔いていた。
『くそっ』
実際のところ、ビアトンを油断させる要因は多くはなかった。一つはイザベルの愛らしさ。もう一つは、愛らしいイザベルと共に過ごした思い出。そして最後は、イザベルが幸せそうに笑う姿だった。よりによって、その三人が同時に押し寄せてきたせいで、私まで思わず気が緩んでしまった。
『解毒しなきゃ』
彼は必死に魔力を巡らせ、身体を蝕む麻痺毒を取り除こうとした。セレモンは「6時間はかかる」と言っていた。しかしビアトンは、わずか30分も経たないうちに、ある程度まで身体を回復させることができた。
『あと少しで身体を動かせる』
彼は必死に解毒へ集中した。解毒がほぼ終わりかけたその時、不気味な風が吹き抜けた。人の血の匂いを運ぶ風だった。その風には禍々しい気配が満ちていた。ビアトンは、その気配の正体を知っていた。
『ブラドック公爵だ』
ビアトンは元首席の剣士であり、ブラドク公爵のライバルだった。二人の縁はアカデミー時代に始まった。ブラドク公爵はビアトンより二学年下だった(純粋な剣術だけならルーンが圧倒的な首席だったが、総合成績ではビアトンが常に一位だった)。
『でも、いつもと様子が違う』
どこか異様な気配がした。それは、外なる存在を相手にした時や、ランサーの死体と対峙した時に感じた気配とよく似ていた。実際の匂いではなく、魔力の波動が生み出す独特の感覚であり、魔力に長けた者だけが感じ取れる奇妙な特徴だった。
『ビルヘルムの気配だ!』
もしブラドク公爵がビルヘルムと手を組んでいたとしたら……? またイサベルを狙ったのだということは、十分理解できた。ビルヘルムは執拗にイサベルを狙い続けていたのだから。
『あと1分。あと1分あれば体を動かせる』
その時、声が聞こえた。
「夢ではなかったようだな、ビアトン。毒に侵されて倒れているとは」
ブラドック公爵の赤い髪が目に入った。
「どうせ去るのなら、帝国第二位の実力者の命も奪っていけば、なおさら良いだろう」
「…………」
いつの間にかブラドック公爵はビアトンの前に立ち、彼を見下ろしていた。
「主も大いに喜ばれるだろう。お前のことをひどく嫌っておられるからな」
「…………」
ブラドック公爵はビアトンの胸の上に足を乗せた。
初めて、ビアトンは自分の足で立った。頼む、動いてくれ、私の体。ビアトンは呼吸を整えることに集中した。
「アカデミーで一緒に学んだことを覚えているか?」
ブラドク公爵がビアトンへゆっくりと近づいてきた。その手には、鋭い刃の短剣が握られていた。
「人に最大の恐怖を与える方法は、目の前でゆっくり刺すことだ。敵を始末する時は、そうしろと教わったな」
「……」
「私は教えを実践する」
彼は短剣を振り上げた。
「さようなら」
彼がビアトンの死を確信した、その瞬間だった。それこそがブラドック公爵にとって最大の隙であり、ビアトンにとって唯一の好機だった。
地面から無数の短剣が一斉に突き上がる。ビアトンの奥義――武器召喚魔法だった。
「なっ、どうして……!?」
ビアトンは、ブラドック公爵が把握し予想していたよりも、はるかに強くなっていた。それは予想を大きく上回るものだった。彼は最期まで、帝国最強の実力者を超えることはできなかった。
ドボンッ!
傾いたブラドック公爵の身体は、そのままガラスの湖へ落ちていった。だがビアトンは、彼に目もくれなかった。彼にとって何より大切なのは、イサベルだったからだ。
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セレモンの実験とイサベルの転落
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「悲しみ」という感情を知りたいと思ったセレモンは、「もしあなたを失ったら悲しめるのか」を確かめるため、イサベルをユリ湖へと突き落として沈めてしまう。
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セレモンの覚醒と初めての涙
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沈んでいくイサベルを見つめるうち、セレモンの胸に初めて激しい痛みと恐怖が込み上げる。
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それが自分が初めて知る「悲しみ」だと気づいた瞬間、血術の呪縛を振り切って自らも水中へ飛び込み、イサベルを救うために必死にもがく。
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竜の覚醒とイサベルの救出
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危機に陥った湖の底に金色の稲妻(ギムボル/アルン)が召喚される。
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記憶を取り戻した竜アルンは、竜言語を使ってイサベルを水面へ引き上げ、人工呼吸によって命を救う。
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ビアトンの死闘と勝利
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一方、麻痺毒に倒れていたビアトン卿の前に、ビルヘルムと手を組んだブラドック公爵が現れ、とどめを刺そうとする。
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しかし、ビアトンは予想を超えた執念と奥義(武器召喚魔法)で反撃し、ブラドック公爵を湖へと突き落として勝利を収めるのだった。
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