こんにちは、ちゃむです。
「私が主人公(ヒロイン)だと思ってたのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
38話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 莫大な利益を生み出す薬
可愛くて賢いキンちゃんは、瞬く間に人々から大人気となった。
「まあ、エスピン。その子、エスピンが飼っているの?」
「はい、私がお世話しています」
ピンク色のふわふわしたひよこ。よほどへそ曲がりな人でなければ、その愛らしさに心を奪われずにはいられない存在だった。
「ピヨッ!」
愛らしく首をかしげて鳴き声まであげると、誰もがその可愛さにメロメロになってしまう。
「かわいいですね。私も一羽飼ってみたいです」
「うちのキンちゃんのほうが、もっと可愛くてすごいですよ」
そんなふうに自慢していると、相手は餌でも分けてあげたいという意味を込めて尋ねてきた。
「名前はキンちゃんっていうんですか?」
「はい」
「名前までかわいいですね。キンちゃんは何が好きなんですか?」
「うちのキンちゃんは、菊の花が大好きなんです!」
「えっ、菊ですか?」
「本当ですよ。一輪あげてみてください」
相手は半信半疑ながらも、手元にあった菊の花を一本取り出した。
「ピヨッ! ピヨッ! ピヨッ!」
案の定、菊の花を見つけたキンちゃんは嬉しそうに小さな翼をぱたぱたと羽ばたかせた。
「まあ、本当なんですね。かわいい」
「二輪あげると、もっと喜びますよ」
「本当ですか?」
その様子があまりにも可愛くて、人々は次々と菊の花を投げてくれた。そしてキンちゃんは、そのうち一本だけをくわえていき、残りは私がすべて回収した。キンちゃんは、残った花を私が持っていってもまったく気にする様子はなかった。
こうして、キンちゃんはさりげなく私のお小遣い稼ぎまでしてくれる、なんとも不思議で孝行な子だった。キンちゃんはそんな稼ぎ頭だから、菊の花くらいなら一輪分けても平気だった。
「その代わり、また後でしっかり稼いできてね?」
「ピヨッ!」
「本当に飼い主に似た鳥ですね……」
私たちのやり取りを見ていた乳母が、呆れたように首を振った。
『あっ、いつまでもこうして花を眺めている場合じゃなかった』
しばらく菊の花を眺めていた私は、今日の予定を思い出して勢いよく立ち上がった。
「キンちゃん、ルチアノのところへ遊びに行こうか?」
「ピヨーッ!」
「お前も嬉しいんだね?」
「ピヨッ!」
そうして私はキンちゃんを肩に乗せたまま、皇宮へ向かった。
皇宮への道中、キンちゃんが初めて飛べるようになったときのことを思い出していた。あのときは、このままどこかへ飛んで行ってしまうんじゃないかと心配したけれど、キンちゃんは私のそばを絶対に離れなかった。こうして連れ歩いても問題ないくらい、私にべったりだった。
今日ここを訪れたのは、ルチアノから頼まれたことがあったからだ。
「来たよ!」
部屋に入ると、ルチアノはハリソンと一緒にいた。今ではすっかり仲の良い二人になっている。
「ルチアノ、ハリソン、こんにちは!」
「来たの?」
「いらっしゃいましたか、エスピン嬢」
うーん、でも今日は二人の様子が少しおかしかった。先にわざわざ手紙を送ってきたこともそうだし、どこか浮かないような、複雑そうな表情をしていることも気になった。
「何かあったの?」
何かあったのは間違いない――そう言っているように、ルチアノの表情が曇った。それも、あまり良くない知らせのようだった。
「どうしたの? 何があったのか話してくれないと、助けようがないよ」
私も表情を引き締め、ルチアノの向かいに腰を下ろした。すると、彼は大きくため息をついた。
「悪いことじゃない。……たぶん」
「悪いことじゃないなら、それでいいじゃない。『たぶん』って何?」
「皇帝陛下が贈り物を送ってきたんだ」
「えっ!?」
私は思わず勢いよく立ち上がった。
「急に何の贈り物?」
「誕生日プレゼントだよ。あの時、くれるって言っていただろう?」
「えっ、それいつの話?」
「そうだよね。ずいぶん早くくれたよね?」
もう半年近く前の話だ。だから私は正直、皇帝のことを文句まで言っていた。「くれる」と言っておいて、そのまま何も音沙汰がないなんて、口だけのずるい人だと。それなのに今さらプレゼントだなんて。
「それで、何をもらったの?」
「見に行く?」
見に行かなきゃいけないような物なのだろうか。しかも皇帝陛下からの贈り物なのに。
『何か月もかかって届いたプレゼントなんだから、ちゃんと確かめてみないとね』
「行こう」
ルチアノは私の手を引いて外へ出た。皇宮を横切って進み、たどり着いたのは馬小屋だった。入口に着くや否や、私はその贈り物が何なのか、何となく察しがついた。
「まさか……?」
「そのまさかだ」
何も言っていないのに肯定された。中へ入ると、私たちに気づいた厩舎番が駆け寄ってきた。
「ようこそお越しくださいました、皇子殿下」
「例の件は……」
「もちろん、大切に管理しております。こちらへどうぞ」
皇宮の厩舎だからだろうか、並んでいる馬はどれも見事な名馬ばかりで、毛並みは艶やかに輝いていた。そして私たちは、その中でもほかの馬より一回り小柄な一頭の前で足を止めた。
だが、小さいからといって侮れる馬ではなかった。黒い毛並みは艶やかに輝き、引き締まった筋肉がしなやかに体を覆っている。馬のことがよくわからない私が見ても、ただ者ではないとわかるほど立派な馬だった。
「すごい……」
思わず感嘆の声が漏れた。さすが皇帝陛下からの贈り物だ。でも、こんな立派な贈り物をもらったというのに、ルチアノの表情はあまり晴れなかった。
「すごいね。とても良い馬みたい」
「ただの良い馬じゃありません。最高の血統を受け継いだ名馬です」
隣で厩舎番が誇らしげに胸を張った。するとルチアノは、どこか冷めた様子でその場を離れようとした。
「えっ、もう帰るの?」
これ以上ここにいたくないという態度で立ち去るルチアノの後を、私とハリソンは慌てて追いかけた。部屋に戻っても、ルチアノはなかなか口を開かなかった。
「プレゼント、気に入らなかったの?」
「……気に入ってる」
ルチアノは皇族でありながら、これまで自分の馬を持つことができなかった。イザベル皇妃が陰でことごとく妨害していたからだ。つまり、この馬はルチアノが生まれて初めて手にした、自分だけの馬だった。気に入らないはずがなかった。
「じゃあ、どうしてそんな顔をしてるの?」
「なんだか嫌な予感がするんだ。あの人が、僕にまともな贈り物をするとは思えない」
そんな言葉を聞いて、私は思わずため息をついた。父親からの贈り物ですら、こんなふうに裏を疑わなければならないなんて。
『この子も本当に苦労ばかりしてきたんだな……』
「何か企みがあったとしても、それはそれでいいじゃない。今は素直に喜べばいいのよ」
ルチアノの眉がぴくりと動いた。
「実際、お前は最高に良い馬を手に入れたんだから」
「それで?」
「だから、そのことを今は喜べって言ってるの!」
ルチアノは戸惑ったような表情を浮かべた。私が何を言いたいのか理解できない、そんな顔だった。
「何か企みがあるなら、その時に対処すればいいでしょ?」
相手は皇帝陛下だ。もし皇帝が本気で何かを仕掛けるつもりなら、今のルチアノにできることなどほとんどない。それはルチアノもわかっているからこそ、不満そうに再び口を閉ざした。
「前にも言ったでしょう? 今は相手を油断させる時期だって。それに、この前も教えたじゃない」
ルチアノは眉間にしわを寄せた。
「助けるって約束しただろ」
その約束を思い出したのか、ルチアノの瞳がわずかに揺れた。
「あなたが危険な目に遭うようなことは、私が絶対にさせない。だから私を信じて待っていて」
そう言って私は手を差し出した。ルチアノの視線は、じっと私の手に注がれていた。
勢いで口にした励ましの言葉ではあったけれど、今の皇帝がルチアノに危害を加えることはないという確信があった。正確に言えば、今の皇帝にはルチアノに手を出す理由がない。だからこそ、私は迷いなくそう言えたのだ。
「不思議だ」
ルチアノはそうつぶやくと、私の手の上に自分の手を重ね、そっと握り返した。
「何が?」
「なんとなく、お前がそう言うと、本当に全部うまくいく気がするんだ」
そう言って、ルチアノは私の手をぎゅっと握った。ハリソンも同意するように、隣でこくりとうなずく。うーん、ここまで全幅の信頼を寄せられると、さすがに少しプレッシャーだ。
「だから、私だけを信じて」
二人の小さな子が安心できるように、私は力強くそう言った。
「ピヨーッ!」
キンちゃんも「自分のことも信じろ」と言わんばかりに力強く鳴いた。そんな私たちを見て、ルチアノのこわばっていた表情がふっと和らいだ。
だが、それもほんの一瞬。ルチアノはすぐに、今度は別の意味で表情を引き締めた。
「私も」
「え?」
ルチアノが手を伸ばし、不意に私の頬を両手で優しく包み込んだ。私は一瞬、驚きで固まってしまった。ルチアノはそんな私をまっすぐ見つめながら言った。
「私も。あなたが危険な目に遭うようなことは、絶対にさせない」
そう誓うように、ルチアノの赤い瞳には強い決意が宿っていた。
『ほんの少しの間に、この子もこんなに成長したんだな……』
そう思うと、胸の奥がじんわりと熱くなった。
それから私たちは、時間を忘れて乗馬を楽しんだ。
ルチアノの愛馬・エンゾは、名馬の名に恥じないほど非常に賢かった。キンちゃんのように主人をきちんと見分け、言葉まで理解しているようだった。エンゾが時々私をからかうような仕草をするので、「本当に頭のいい馬なんだな」と実感した。
そのくらいエンゾはルチアノの指示に忠実で、広い草原を自由自在に駆け回った。大人になれば、まるでロマンスファンタジーの主人公の愛馬のように、一頭で戦場を縦横無尽に駆け抜けそうな勢いだった。
実のところ、それまではルチアノには自分の馬がなかったので、乗馬をする機会はあまりなかった。私の馬に二人乗りすることもあったけれど、ルチアノはどこか遠慮しているようで、思い切り楽しめるわけではなかったのだ。
『でも、今はルチアノにも自分の馬ができた』
だから最近は、ほとんど毎日のように一緒に乗馬を楽しんでいた。ルチアノも、自分に与えられた馬をとても気に入っているようだった。その後も、私が乗馬に誘うとルチアノが断ることはなかった。気づけば計画どおり、毎日のように仲良く遊ぶ姿を周囲に見せつけることになっていた。
そして、私が待ち望んでいた「あの知らせ」がついに届いた。
「お嬢様! お嬢様! あの知らせをお聞きになりましたか!?」
シオンが息を切らしながら部屋へ駆け込んできた。まるで禁断症状に苦しむ人のように手をブルブルと震わせ、何度も唾を飲み込んでいる。
「シオン、いらっしゃい」
私は優雅にティーカップを口元へ運びながら、シオンを迎えた。
「来ましたよ! ……じゃなくて、そんなことを言ってる場合じゃありません! あの知らせを聞きましたか!?」
私のあまりの落ち着きぶりに、シオンは思わず声を荒げた。
「ピヨピヨッ!」
シオンが大声を出したことが気に入らなかったのか、キンちゃんはシオンの頭上へ飛んでいき、くちばしで頭をポカポカとつついた。
「うわっ! 痛い! やめてくれ!」
キンちゃんの急襲に、シオンは慌てて頭を両手でかばった。だがキンちゃんはその手を器用によけると、今度はシオンの手の甲を激しくつついた。
「いたっ! いたたっ! この悪魔の鳥め!」
「キンちゃん、もうやめなさい」
私が声をかけると、ようやくキンちゃんは私の膝の上へ戻り、おとなしく座った。キンちゃんはまだ怒っていることを示すように羽毛をふくらませたまま、じっとシオンをにらみつけていた。私が指先で頭を優しくなでてやると、キンちゃんの機嫌も少しずつ落ち着いていった。
「まるで凶暴な肉食獣ですね……」
シオンは頭と手の甲をさすりながら、ぶつぶつと文句を言っていた。
「ピヨーッ!」
キンちゃんはシオンをじろりとにらみつけた。このままだと第二ラウンドが始まりそうだったので、私はシオンに向かって言った。
「私が思っている知らせのことなら、その通りですよ。もう聞いています」
私がにっこり笑うと、シオンはようやく力が抜けたように、その場へどさりと腰を下ろした。
「じゃ、じゃあ……あの薬が本当に開発されるってことも、最初からご存じだったんですか!?」
「いい投資先があるって、前に言ったでしょう?」
私の言葉に、シオンは衝撃を受けたような顔をした。初めて会ったときの会話を思い出したのだろう。あのときはただの冗談だと思っていたのに、本当に実現してしまったのだから、信じられないのも無理はなかった。
ちなみに、シオンが血相を変えて言っている「あの薬」とは――育毛剤のことだった。
『ロマンスファンタジーの世界では、男性はハゲない』なんて、前世の小説の作者が無駄に付け加えていた設定だった。原作を読んでいた頃は、「そんな設定、物語の何の役にも立たないじゃない。育毛剤なんて必要ないでしょ」と思っていた。それなのに、そのおかげでこんなふうに大儲けすることになるなんて。
この世には、開発できれば莫大な利益を生み出せる薬が三つある。
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一つ目は、万能治療薬。(病気の人は治るとわかれば、いくらでもお金を払う。だから当然だ)
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二つ目は、老化を防ぐ薬。(ある程度の年齢になれば、誰だって喉から手が出るほど欲しくなる)
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そして三つ目が、育毛剤だった。
薄毛に悩む人たちは、髪の毛一本でも死守するためなら、お金も手間も惜しまない覚悟ができているのだから。薄毛に悩む人たちの苦しみやストレスは、想像をはるかに超えるものだ。
そんな人々を救う希望の光ともいえる新薬が開発されたのだから、爆発的な反響になるのも当然だった。少しでも薄毛を気にしている人たちは、我先にと薬を買い求めようと大騒ぎになり、開発者は殺到する注文をさばききれないほどだった。
そして、この育毛剤と私にどんな関係があるのかというと――。
「じゃあ、ポティックの実の値段が跳ね上がるって、どうして予想できたんですか? あれはごくありふれた実ですよ!? 裏山にいくらでもなっていたじゃないですか!」
ポティックの実。シオンの言うとおり、森でよく見かけるポティックの木になる実で、食べることはできるものの、特別おいしいわけでも効能があるわけでもなく、ただ見向きもされずに捨てられていたような実だった。
そして、その画期的な育毛剤の主原料こそが、まさにポティックの実だったのだ。
数か月前、私はシオンを雇い、二つの指示を出していた。
『大きな倉庫を借りてください。かなり大量の実を保管することになるので、それ専用の倉庫を探してください』
『わかりました』
その程度のことは簡単だと言わんばかりに、シオンはすぐに倉庫を借りてきた。生活のためにさまざまな仕事を転々としてきたおかげで、無駄に顔が広かったらしい。だから私は、すぐに次の指示を出した。
『ポティックの実を、市場にあるだけ、できる限りたくさん買い集めてください』
『ぼ、僕が知っている、あのポティックの実のことですか?』
シオンは目を丸くし、自分の聞き間違いではないかと何度も聞き返してきた。
『はい、そのポティックの実です』
『それをわざわざお金を出して買う必要があるんですか? その辺にいくらでも落ちていますよ』
シオンはひどく困惑した表情を浮かべた。どうしてそんなゴミみたいなものを集めるのか理解できない、という気持ちがありありと伝わってきた。
『言われたとおりにやればいいんです』
『でも、それをわざわざ売っている人なんていませんよ』
山へ行けばそこら中に落ちているものだから、シオンの言うとおり、売る人など誰もいなかった。
『だったら、シオンが人を雇って集めればいいでしょう』
『え?』
『山の近くの村へ行って人を雇ってください。ポティックの実を採ってきたら報酬を払うと言えば、山ほど集めてきてくれますよ』
特別な技術も必要ない仕事だった。しかも、ポティックの木は危険な場所に生えているわけでもない。危険な仕事でもなかったし、子どもでもできる作業だったので、生活に困っている村人たちがこぞって集まってきた。
『どれくらい集めればいいんですか?』
『できるだけたくさんです。集められるだけ集めて、倉庫に保管してください。乾燥させて保存すれば傷みませんから』
シオンは何か言いたげな表情で私を見つめた。
『私は、本当にお嬢様の言うとおりにするだけでいいんですか?』
『ええ。言われたとおりにしてください。それが私たちの契約でしょう?』
私の意思が固いとわかると、シオンは素直に従った。『どうせ報酬をもらってやる仕事だ。ゴミを集めようが、お金を無駄遣いしようが、自分が気にすることじゃない』そんなふうに割り切ったようだった。
『今でも十分な量が集まっていますけど、それでもまだ集めるんですか?』
『はい。まだ集め続けてください』
『これ、あとで捨てることになっても僕は知りませんからね』
『とにかく集めてください』
そんなやり取りを何度も繰り返しながら、ポティックの実をひたすら集め続けた。
そして、この数か月の間に状況は一変した。ポティックの実の収穫期が終わり、残っていた実もすべて地面に落ちて消えた。そんな絶妙なタイミングで、育毛剤が開発されたという知らせが世間を駆け巡ったのだ。
「主原料なんですから、多少は値上がりすると思っていましたけど……」
「多少ですって!? 今じゃものすごい勢いで暴騰しているんですよ! 以前は一かごでも銅貨一枚にすらならなかった実が、今では一かごで金貨一枚の値が付くって噂になっているんです!」
私のあまりにも落ち着いた態度が理解できないというように、シオンは興奮した様子で叫んだ。
『予想以上に、ずっと値上がりしたわね』
「私も、ここまで値上がりするとは思いませんでした」
ある程度は上がると思っていたけれど、ここまで手に入りづらくなるとは思わなかった。どうやら、私も薄毛に悩む人たちの執念を甘く見ていたようだ。
実は、その重要な薬の原料が明らかになった経緯も、なかなか笑える話だった。育毛剤が手に入らず待ちきれなくなった開発者の友人である薄毛の貴族が、開発者の胸ぐらをつかんで激高したのだ。
『お前だけ髪が生えて終わりか!? それでも友達か!』
『違う! 君にも使わせてあげたいんだ! でも材料がないんだよ!』
『その材料って何だ!? 俺が手に入れてやる! 俺だって髪を生やしたいんだ!』
『ポティックの実だ! もう収穫の時期が終わってしまって、どこにも手に入らないんだ……!』
『手に入らないんだ。だから一年待ってくれ』
『だったら、お前の分を俺によこせ! お前が一年待てばいいだろ!』
『それはダメだ!』
こうして、ポティックの実がないために薬を作れないという事実が、貴族社会に一気に知れ渡った。それ以来、人々はポティックの実を求めて血眼の大騒ぎになったのだ。
『そして私は、そんなポティックの実を大量に乾燥保存しておいたのよ』
乾燥させたポティックの実でも効能がまったく変わらなかったのは、本当に幸運だった。もちろん、最初から育毛剤の開発を支援するという方法もあった。しかし、その開発者は資金力も権力も十分に持っていたため、わざわざ私から投資を受ける理由はなかった。そんな彼が育毛剤を開発した理由は、とても単純だった。
自分がハゲだったからだ。
「せめて一人息子だけはハゲにならないでほしい」という、親としての切実な願いから始まった研究だった。
「さあ、ぼんやりしている暇はありません。保管していたポティックの実をすべて売り払いましょう」
「その件で来ました。私がポティックの実を大量に買い集めていたという噂が、すでに広まっています」
あれだけ大量に集めていたのだから、隠し通せるはずもなかった。
「できるだけ大きな利益が出るように売ってください」
「もちろんです。こんな美味しい機会は二度とありませんからね」
今年はすでにポティックの実の収穫期が終わっているので手に入らないが、来年になればまた簡単に手に入る。つまり、今だけの相場の高騰を利用して大きく稼げる、一度きりの好機だった。
私の許可も下りたので、シオンは慌ただしくポティックの実の販売準備に取りかかった。
ポティックの実を売るため、シオンは町へ向かった。しばらくして、すべての在庫を売り終えたシオンが、莫大な売上金を抱えて私のもとへ戻ってきた。
「うわ……すごい。純利益がとんでもないことになっています。僕が一生かかって稼ぐお金を、一瞬で稼いじゃいました……」
自分で売ってきたというのに、まだ現実が信じられない様子で、シオンは興奮気味に何度もつぶやいた。
「もったいなかったな……」
名残惜しそうにしていたシオンは、やがて遠慮がちに尋ねてきた。
「あの、お嬢様……その時の契約、まだ有効ですよね?」
「契約?」
私が首をかしげると、シオンは少し自信なさそうに視線を落とした。
「その……一緒に商会を経営するっていう話です……。……やっぱり、僕とはしたくないですか?」
わざと素っ気なく尋ねてみる。
「いいえ! やりたいです! アカデミーなんて、いつでも辞めてみせます!」
かつて私を「悪魔」と呼んで警戒していたシオンはどこへやら、今では「何でも言ってください」という従順な態度だった。目をキラキラと輝かせている。
「いいでしょう。今回の件を見事にやり遂げたので、一度だけチャンスをあげます。ただし、最初に提案したときより条件は少し厳しくなりますよ」
シオンは一瞬ためらったが、今回の莫大な利益を計算し、これから自分が得られるであろう利益を思い浮かべると、きっぱりとうなずいた。
「もちろんです。そのくらい当然ですよ!」
今回の一件だけでも、自分に入る利益が十分すぎるほどになることを計算し終えていたのだ。こうして私たちは、正式に雇用契約書へ署名することになった。
最初に提示していた条件よりも少し報酬を引き下げて契約を結んだ。それでも、私にとっては十分すぎるほど満足のいく雇用だった。
そして――。
流れるように、5年の歳月が瞬く間に過ぎ去っていった。