こんにちは、ちゃむです。
「私が主人公(ヒロイン)だと思ってたのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
49話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 茶会に響く拒絶
気がつけばすっかり遅い時間になっていた。私はメイベルではなく、メイの家を訪ねていた。
「まあ、お嬢様。また何かあったのですか?」
「話したいことがあるの。少し時間をもらえる?」
「もちろんです。どうぞ入ってください。」
メイは突然の私の訪問にも温かく迎えてくれ、すぐに台所へ行って温かいココアを淹れ、私の前に差し出してくれた。
「何かあったんですか?」
今日は本当に慌ただしい一日だった。それでも、まだ終わってはいない。重い気持ちのまま、私はデリアから受け取った書類をメイへ差し出した。
「これは、メイに知っておいてほしいことなんだ。」
メイは不思議そうな表情で書類を受け取り、一行目を読んだ瞬間、その顔がこわばった。
「これは……どうして……」
デリアのことは伏せていたものの、誰かに独自に調査させたことくらいは、メイにもすぐに分かったのだろう。
「前にお店が潰れたって話をしてくれた時、何か引っかかるものがあって調べてもらっていたの。黙って調査していたことは、ごめんね。」
「どうして今になって教えてくれるんですか?」
メイは怒っているような目で私を見つめた。
「調査結果が今日ようやく届いたの。それに、まずは資料を読んでから話した方がいいと思って。」
メイは言いたいことを飲み込むように私を見つめ、それから資料へと視線を落とした。読み進めるにつれ、その表情は次第に硬くなっていく。最後まで読み終えると、書類をそっと机に置き、目を閉じた。
しばらく黙っていた後、メイはゆっくりと息を吐いた。
「……これ、本当なんですか?」
「デリアの調査能力は、メイもよく知っているでしょう。」
「どうして、私にこれを見せたんですか?」
できれば知らずにいたかった――そんなメイの気持ちが痛いほど伝わってきた。
「真実たちは知っておくべきだと思ったから。どうするかはメイが決めて。」
メイは恨めしそうな目で私を見つめた。
「忘れたいなら、忘れてもいい。」
でも、メイはきっとそうはしない。その書類には、メイの父の死に関する秘密も記されているのだから。
「復讐したいなら、私が力になる。」
「お嬢様のお力だけでは難しいと思います。」
ウェイド伯爵は、今の時点では簡単に手を出せる相手ではなかった。
「それでも助けるよ。時間がかかっても、最後までやり遂げよう。」
涙をいっぱたたえた目で私を見つめていたメイが、意を決したように口を開いた。
「復讐したいです。」
「分かった。私も力を貸す。」
私は泣きじゃくるメイの手を、しっかりと握り返した。
メイの復讐を決意したからといって、すぐに行動に移せるわけではなかった。ジェームズ・ウェイド伯爵はもともと権力者だったうえ、イザベル皇妃の庇護まで受けている。デリアの調査で、コナーが酒に酔った勢いで漏らした話を魔法の記録道具に保存することには成功していたが、証拠を手に入れたからといって、それだけで全ての罪が認められるわけではなかった。
この世界は、真実だけで物事が決まるような場所ではない。少なくとも、この小説の世界では真実よりも権力者の力の方が強かった。
もちろん、メイもメイベル・プレミアムを経営する中で、多くの貴族たちとの人脈を築いてきた。けれど、それでもイザベル皇妃には到底及ばない。イザベル皇妃が裏で糸を引いて事件を仕組めば、メイは何もできないまま終わってしまうだろう。
以前、ルチの誕生日の件でも、イザベル皇妃はルチを陥れようと周到に準備していたが、結局は失敗した。そして、その計画を実行していたのがウェイド伯爵だった。事件が露見したことでウェイド伯爵はイザベル皇妃から叱責を受けたものの、完全に見放されたわけではない。ウェイド伯爵にはイザベル皇妃の後ろ盾が必要であり、イザベル皇妃にとってもウェイド伯爵はまだ利用価値のある駒だったからだ。
これからやるべきことは、『イザベル皇妃とウェイド伯爵の関係に亀裂を入れること』だった。
実のところ、ウェイド伯爵には弱みが山ほどあった。イザベル皇妃の最側近だったため、以前から継続的に監視しており、様々な情報が蓄積されていたのだ。権力を利用して他人の事業を奪うことは日常茶飯事で、その裏では詐欺や賭博など、あらゆる悪事にも手を染めていた。
問題は、それらはあくまでウェイド伯爵個人の不正であって、イザベル皇妃に直接不利益をもたらすものではないということだった。むしろイザベル皇妃は、ウェイド伯爵の不祥事を隠し続けていた。
『まだ利用価値があると思っているんでしょうね。』
まずは二人を仲違いさせなければ、ウェイド伯爵への復讐は果たせない。その方法を考えて頭を悩ませている最中、ゼルダ・パーカーの件に加え、ネイソン伯爵のことまで重なってしまい――その後、相手との接触を完全に断ち、ひっそりと暮らしているらしい。けれど、どちらの件もまだ解決しておらず、私は気が重かった。
(早く全部片付けて、安心したい……!)
何か良い方法はないかと思い、私はルチのもとを訪ねた。
「どうした?」
ルチはソファにもたれ、本を読んでいた。私はこんなに気が気じゃないのに!
「あなた、ずいぶん落ち着いてるように見えるけど?」
「そう?」
「婚約の件は解決したの?」
「いや。」
そんなにあっさり答えないでよ。
「私だけを信じろなんて言っておいて、ずいぶん余裕だね。」
腹が立って皮肉を言うと、ルチはくすっと笑った。
「その顔、何?」
「私の婚約話が早く片付いてほしいって思ってる?」
ルチはさらに余裕そうにソファへもたれ、楽しそうに笑っている。どうしてそんなに落ち着いていられるのか、まるで分からなかった。
「もちろん早く終わってほしいよ。本当に婚約なんてことになったらどうするの。」
「そんなことにはならない。」
そこまで言い切るということは、本当に何か確かな考えがあるのだろうか。
「ハリソン。ルチは何か計画があるの?」
ルチは話すつもりがなさそうだったので、私はハリソンに視線を向けた。
「皇子様を信じてください。」
ハリソンは苦笑いを浮かべた。
(それって、何の作戦もないってことじゃない?)
私がじろりと睨むと、ルチは私の髪をくしゃっと撫でて、からかうように笑った。
「それより、明日は気分転換に出かけないか?」
「急に?」
「最近、ずっと元気がないみたいだから。気分転換しよう。」
ルチは私をなだめるように、優しくそう言った。
(そんなに顔に出てたのかな?)
私は自分の頬にそっと触れた。その瞬間、ルチの目つきが変わった。一瞬で表情が引き締まり、冷たいほど真剣な眼差しになった。
その時だった。コンコン――とノックの音が響いた。
ハリソンが自然な動作で扉へ向かい、来客を確認して戻ってくる。
「イザベル皇妃殿下の侍従がお見えです。」
どうしますか、と視線で尋ねるハリソンに、ルチは落ち着いた様子で答えた。
「通して。」
許可が下りると、イザベル皇妃の侍従が部屋へ入ってきた。彼は私をちらりと見たあと、ルチへ向かって恭しく頭を下げた。
「お呼びの方がお見えです。」
その言葉を聞くたびに、私は思わず笑ってしまいそうになる。以前のルチに対して、この侍従は皇族への礼儀などまったく払っていなかった。私も幼く、世間知らずなふりをしていた頃は――当時の私は、イザベル皇妃に真正面から反論することはできなかった。あの頃は、賢いふりをするわけにもいかなかったからだ。
けれど、年齢を重ね、もう「幼い子どもだから」で済まされなくなった頃。私はにこやかに微笑みながら、こんな言葉を残した。
「侍女が皇族への礼儀を知らないなんて……。イザベル皇妃様は、ずいぶん寛大なお方なのですね。」
「このことを皇妃様ご本人にお伝えしたら、どんな反応をなさるでしょうか?」
そんな含みを持たせた言い方だった。もし私からそんな話を聞けば、イザベル皇妃は侍女を好いていようと嫌っていようと、処罰せざるを得ない。部下の教育すらできない無能な主と思われないためだ。それ以来、その侍女はルチに会うたび、きちんと礼を尽くして挨拶するようになった。
「どうしたんだ?」
「イザベル皇妃殿下からのご伝言です。お時間がございましたら、お茶をご一緒したいとのことです。」
急に、今度は何の用だろう?
「今はお客様と一緒なので、後ほど伺うとお伝えしてください。」
ルチは落ち着いた口調で断った。成長した今のルチに対しては、イザベル皇妃も以前のように強引に振る舞うことはできない。だが、イザベル皇妃も簡単には引き下がらなかった。
「エスピンお嬢様もご一緒にいらっしゃるのでしたら、ぜひお二人ともお越しください、とのことです。」
結局、私まで一緒に招待されることになってしまった。ルチならイザベル皇妃の誘いを断ることもできるが、私はそうはいかない。それを分かっているルチの表情が曇る。
「ご案内いたします。」
ハリソンは招待されていないため、同行したのは私とルチだけだった。侍従の後についてたどり着いた先は、イザベル皇妃の後庭だった。
「どうぞ、お入りください。」
侍女は入口まで案内すると、その場で一礼した。後庭のテーブルにはすでに客が座っており、私とルチは同時に足を止める。見覚えのあるデミアンと、見知らぬ女性の姿を見た瞬間、嫌な予感が背筋を走った。
「お待ちしておりました。」
「お目にかかれて光栄です。お招きいただきありがとうございます、イザベル皇妃様。」
「ようこそ、お二人とも。ちょうど良いお茶が手に入ったので、ご一緒できればと思ってお呼びしたのです。ご迷惑ではありませんでしたよね?」
(十分迷惑よ、このおばさん。)
もちろん、そんな本音を口に出すことはできなかった。
「お招きいただき、光栄です。」
私はスカートの裾を軽くつまみ、優雅に礼をした。すっかり貴族らしい振る舞いが身についてしまったものだ。
「紹介したい方がいるのです。」
イザベル皇妃は意味ありげに微笑んだ。
「こちらはクェイド公爵家のご子息、デミアンです。」
「またお会いしましたね。ルチアーノ皇子殿下、エスピン嬢。」
「まあ、お知り合いだったのですか?」
イザベル皇妃が意外そうに尋ねた。
「はい。以前、ご招待いただいた席でご一緒に食事をしたことがあります。」
「そうでしたか。」
デミアンは、私の誕生日パーティーに招かれていたことを当然知っているはずなのに、初対面ののように振る舞っている。どうやら、こちらに話を合わせるつもりらしい。
(まるで芝居を見せられているようだ。)
「まさか、ここで会うとは思いませんでした。」
「そうですか? 私は予想していましたけど。」
ルチの冷ややかな返事に、デミアンは意味ありげに微笑んだ。二人の視線が空中で鋭くぶつかり合う。
「私にも紹介していただけませんか?」
隅で静かに座っていた女性が、遠慮がちに口を開いた。柔らかく波打つ青い髪と、輝く金色の瞳が印象的なその女性は、私と目が合うと穏やかに微笑んだ。相手の正体に気づきかけたところで、イザベル皇妃が口を開く。
「ええ、もちろん紹介するつもりでした。ルチアーノ皇子、以前お話ししましたよね? こちらはパーカー伯爵家のご令嬢です。こちらが作家のゼルダです。」
「ゼルダ・パーカーと申します。ルチアーノ皇子殿下にお目にかかれて光栄です。」
紹介されると、彼女は恥ずかしそうにはにかんだ。大きな瞳をぱちぱちと瞬かせ、清楚に微笑む姿は、純朴な田舎娘そのものに見える。だが、彼女の過去を知っている私には、その笑顔さえもどこか白々しく映った。――油断できない相手だ。下手をすれば、ルチが利用されてしまう。
そう思ってルチを見ると、彼はすでに表情を完全に消していた。その冷たい眼差しは、この場そのものを不快に感じていることを隠そうともしていなかった。
(居心地が悪い……。)
私はただ、この気まずい空気から早く逃げ出したいと思うばかりだった。
「まずは、お掛けになりませんか?」
イザベル皇妃の言葉に従い、私はルチの様子をうかがいながら席に着いた。気づけば私はデミアンの隣に座り、ルチは不満そうな視線を私へ向けながら、向かい側の席へ腰を下ろした。重苦しい沈黙が流れる。誰が先に口を開くかを競う、にらみ合いのような空気だった。
息が詰まりそうになった、その時――。
「遅くなりました。」
背後から声が聞こえた。驚いて振り返ると、この場をさらに気まずくする人物が現れた。
「構わないわ。さあ、座ってちょうだい。」
イザベル皇妃に軽く一礼するスティーブン皇子。
「皇妃様、ご機嫌よう。このような席にお招きいただき、ありがとうございます。」
「お招きいただき、光栄です。」
その隣には、ベティがぴったりと寄り添って立っていた。
「ベティもこちらへ。お二人は本当にお似合いですね。あら、そういえば初対面の方もいましたね?」
イザベル皇妃はデミアンとゼルダ・パーカーを簡単に紹介した。控えていた侍女が、すぐに新しいお茶を用意して運んできた。
「我が帝国の未来を担う若者たちが、今日はここに勢ぞろいしました。これから何度も顔を合わせることになるでしょうから、この機会に親睦を深めてください。」
「皇妃殿下のお心遣いに感謝いたします。」
デミアンが礼儀正しく答える。それを見たイザベル皇妃は満足そうに微笑んだ。
「ここに集まった皆さんが、仲良くなってくれると嬉しいですね。」
スティーブン皇子は、小さく独り言のようにつぶやいた。
「スティーブン皇子。」
イザベル皇妃が低い声でたしなめる。しかしスティーブン皇子は、何も言っていないという顔でお茶を一口飲んだ。
(二人の関係、思っていた以上にぎくしゃくしてるみたい。いったい何を考えているんだろう?)
私はスティーブン皇子の様子をそっとうかがった。
「エスピン。」
静かな呼びかけに、私ははっとして視線を向けた。
「君の好きな生クリームケーキだ。食べなさい。」
ルチがわざわざ私のために取り分けてくれた。その瞬間、全員の視線が私へ集まる。じっとこちらを見るスティーブン皇子。口元に笑みを浮かべるベティ。何を考えているのか分からないデミアン。そして、少しずつ警戒心をあらわにし始めたゼルダ。
視線だけでお腹いっぱいになりそうな空気だった。
「お気遣いありがとうございます。」
私はルチに軽く微笑みかけて礼を言い、フォークを手に取った。ちなみに、イザベル皇妃が主催する席では、毒を盛られる心配なく食事ができる。もし何かあれば、主催者である皇妃自身の責任になるからだ。だから、こういう場ではむしろ安心して食べられる。ルチも、この時ばかりは警戒せずに食事をしていた。
「ところで、その噂は本当なのですか?」
ベティが重苦しい沈黙を破った。
「噂?」
イザベル皇妃が穏やかに聞き返す。ベティは好奇心いっぱいの目で、ルチとゼルダを交互に見つめながら――
「お二人が婚約するという話を聞いたのですが。本当ですか?」
まさか、こんな場で聞いてくるとは思わなかった。ベティは、自分が投げかけた言葉の重さをまるで分かっていないような無邪気な表情をしていた。天然なのか、それとも高度な駆け引きなのか、私には判断がつかなかった。
(この子、本当にすごい……。だからいつも私に突っかかったきたのだろうか。)
「ふふ、そのような噂が広まっているのですか?」
イザベル皇妃は少し困ったように笑いながら答えた。だが、その表情は「まったくのデマではない」と思わせるような含みを帯びていた。
「ああ、もう噂になっているのね……。」
ゼルダはベティに困惑したような表情を向けた。しかし、ルチへ視線を移した瞬間、その表情は――。
ベティは頬を赤らめ、照れくさそうに微笑んだ。どうやら恋をしている人の目だった。
「……」
ルチは冷たい空気を漂わせていた。
(すごい空気だ……。)
今日は気配を消して静かにしていよう。こんな日に目立てば、クジラのけんかに巻き込まれるエビみたいなものだ。大事な自分の身を守るため、息をするのも控えめにしていた。
「そんな面白い噂が広มาっていたのですね。」
笑みを含んだデミアンの声が響いた。ルチとデミアンの視線が空中で鋭くぶつかり合う。デミアンはさらに意味ありげに微笑み、挑発するような態度を見せた。それを見たルチの目つきは一段と鋭くなり、まるで冷気の魔法が発動したかのような雰囲気だった。
「私は確かに……」
ルチが口を開こうとした、その瞬間――
「ベティ。」
イザベル皇妃が低く、しかしはっきりとベティの名を呼んだ。
「当事者が目の前にいるのですから、発言には気をつけなさい。」
その口調は注意を促すものだったが、強く叱責するようなものではなかった。ベティを本気でたしなめるというより、ルチの言葉を遮るためだったのは明らかだった。
「申し訳ありません。ちょうど噂の当事者の皆さんが集まっていたので、気になって聞いてしまいました。」
そう言いながら謝罪はしたものの、ベティには悪びれた様子はまったくなかった。
「きっと、誰かが気になっていると思ったんです。」
ベティはそう言うと、私へ意味深な視線を送ってきた。
(なんで今、私を見るの?)
「この騒ぎに私を巻き込まないで」と目で訴えると、ベティは意味ありげに微笑んだ。
「うーん、どこから広まった噂かは分かりませんけど、実際にそんな話は聞いたことがあります。」
「まあ、本当ですか?」
ベティは目を丸くして、ルチとゼルダを見比べた。
「イザベル皇妃様から、私にももったいないほど素敵なお話をいただいたんです。」
ゼルダは恥ずかしそうに視線を逸らした。さっきから彼女の様子を見ていると、まるでルチとの間に何かあるような雰囲気だった。イザベル皇妃がゼルダを選んだ理由は、ルチの弱点にするためだった。むしろ、手助けをするためというより、こういう場を作ること自体が目的だったのではないかと思えるほど、意味深な行動だった。
「スティーブン皇子もベティさんと楽しくお話しされていますし、私もルチアーノ皇子のお相手をしなくてはいけませんよね?」
イザベル皇妃はあえてベティとスティーブン皇子の関係に触れた。その言葉に、ベティの表情には照れくささと満足げな色が浮かぶ。権力を好むベティにとって、未来の皇太子妃という立場はこの上なく魅力的なのだろう。
「そうですね。ルチアーノ皇子にも、良いご縁があるといいですね。」
そう言うと、ベティは私に向かって意味ありげに微笑んだ。
(どうしてさっきから、みんな私を巻き込もうとするのよ……。)
今日は静かに過ごして、そのまま何事もなく帰りたかったのに。
「これはベティを信頼してお話しすることなので、どうか秘密にしてください。まだ公にできる段階ではありません。」
イザベル皇妃の言葉に、ベティは感激したような表情を浮かべた。
「私を信じてくださるなんてありがとうございます。もちろん秘密は守ります。」
ベティの性格なら、誰にも口外せずきちんと秘密を守るだろう。今この話をしたのは、噂を広めてほしいという意味とは正反対だった。
「ところで、ゼルダ様とは初めてお会いしますね。」
ベティの視線が興味深そうにゼルダへ向けられた。ゼルダはイザベル皇妃の様子をうかがいながら、慎重に答えた。
「はい。私はずっと領地で暮らしていました。家はあまり裕福ではなかったので、王都へ来る機会はほとんどありませんでした。」
「ああ、そうなんですね……」
ベティの好意に満ちていた表情は、一瞬で冷めた。ベティは相手の家柄や地位を重視して人を判断するタイプで、そんな彼女の目にはゼルダは釣り合わない相手に映っていた。
(こんな人が、どうして皇族の伴侶に選ばれたのだろう)
そんな疑問が、その表情にありありと浮かぶ。それにゼルダが気づく前に、イザベル皇妃が口を開いた。
「ゼルダの家は名門とは言えません。でも私は彼女を高く評価していました。だから、この婚約は私から提案したのです。」
「皇妃様ご自身がお選びになったのですね。ゼルダ様は素晴らしい方なのですね。人柄だけを見て家族になる相手を選ばれた皇妃様も、本当に立派です。」
しかし、イザベル皇妃の一言でベティの態度は一変した。
(形勢が変わるのは本当に早いな。)
あまりにも露骨だった。さっきまでスティーブン皇子に夢中だったベティは、今度は満面の笑みを浮かべる。
「ゼルダにとって王都はまだ慣れない場所でしょう。ベティ、いろいろ気にかけてあげて。」
「お任せください。」
「仲良くしてくださるなんて、私のほうこそ感謝します。」
まるで三人が家族になることがすでに決まっているかのように、和やかな雰囲気が流れた。私はルチの様子をうかがった。彼は冷ややかな表情のまま、三人のやり取りを見つめているだけだった。
(よかった。まだ理性は保っているみたい。)
……とはいえ、この状況は私にとってもあまり気分のいいものではなかった。
しかし、すぐに口を挟んだからといって解決する話ではなかった。スティーブン皇子は腕を組み、この成り行きを静かに見守っている。デミアンは面白がるように口元をゆがめ、ルチを見つめていた。あからさまな嘲笑だった。
それに気づいたルチの瞳に怒りの火が宿る。さっきまでの落ち着いた雰囲気は消え、一瞬で理性を失いかけたような表情へと変わった。本能的に危険を感じ、私は止めようとした――その時。
「私ははっきりと、婚約するつもりはないと言いました。」
「……!」
ルチのほうが一歩早かった。張りつめていた空気は、一瞬で凍りつく。
「ルチアーノ皇子!」
イザベル皇妃は鋭い眼差しでルチをにらみつけた。
「わあ、皇子様……」
ゼルダは傷ついたような表情を浮かべる。
「まあ、皇子様は婚約するお気持ちがないのですか?」
ベティが興味津々に目を輝かせると、ゼルダはとうとう涙を流し始めた。
「うっ……私はそんなにお気に召しませんか? どうしてこんなにはっきりと……」
あまりにも率直な拒絶に傷ついたのか、ゼルダの頬を涙が伝い落ちる。
(演技?)
ゼルダは見ているこちらまで胸が痛くなるほど悲しげに泣いていた。すると、イザベル皇妃は眉をひそめた。
「ルチアーノ皇子、どういうことですか? 相手を目の前にして――皆の前でそんなことを言うなんて失礼です。ゼルダ、泣かないで。」
ルチをたしなめ、ゼルダを慰めると、彼女はさらに激しく泣き出した。
「うっ、うっ……皇妃様。皇子様がお望みでないなら、私は婚約しなくても大丈夫です。きっと私が至らないからですよね……うぅ……」
そう言うと、ゼルダはついに声を上げて泣き崩れた。
(うわ、この性格……。)
一見するとルチの意思を尊重しているように見えるが、実際には「ルチがひどい人だ」という印象を周囲に与えていた。
「ゼルダ、落ち着きなさい。ルチアーノ皇子、以前私が、もう一度よく考えてみるようにと申し上げましたよね?」
イザベル皇妃が私の言葉を代弁するように諭したが、それでもルチは最後まで黙ったままだった。
「私もその時、可能性はないとはっきりお伝えしました。」
(前にもはっきり言っていたんだ!)
だからこそ、ルチは私に「婚約しない」と自信を持って言っていたのだ。彼がどういう意図でここまではっきり言ったのかは分からないが、彼の意志が揺らぐことはなさそうだった。
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メイの復讐を決意
主人公はデリアの調査結果からメイの父の死に関する真実を知り、メイと共にジェームズ・ウェイド伯爵への復讐を決意する。
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イザベル皇妃主催のお茶会への出席
ルチと結婚させようとするイザベル皇妃の思惑により、主人公はルチと共に皇妃の後庭で開かれた気まずいお茶会に同席させられる。
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ルチの婚約拒絶宣言
お茶会の場で、ゼルダと婚約させようとする皇妃や周囲の思惑に対し、ルチが「婚約するつもりはない」ときっぱり拒絶して場を凍りつかせる。