余命わずかな令嬢が黒幕家に偽装就職したら

余命わずかな令嬢が黒幕家に偽装就職したら【48話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「余命わずかな令嬢が黒幕家に偽装就職したら」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【余命わずかな令嬢が黒幕家に偽装就職したら】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「余命わずかな令嬢が黒幕家に偽装就職したら」を紹介させていただきます。 ネタバ...

 




 

48話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 目覚めぬ夢

私は戸惑いを隠せないまま、足元に膝を屈するウィンストンを見下ろしていた。

彼がこれほどまでに取り乱し、ただの家庭教師にすぎない私の前にひざまずくなど、想像すらしていなかった。

『やはり、カーディエンに何かあったのだわ』

チェルシーに「カーディエンのもとへ行く代わりに、ウィンストンに会わせてほしい」と頼んだとき、彼女は「むしろその方が良い」とでも言いたげな、安堵の微笑みを浮かべて部屋を出ていった。彼女がすぐにウィンストンを連れて戻るまでの短い間、私の頭の中はカディエンに起きたであろう異変のことで占められていた。

『ウィンストンが何かを知っているとは思えないけれど……』

カディエンも、そしてレモンも、私の特殊な能力を他人に漏らすような性格ではない。それなのにウィンストンが私を頼ってきたということは、それだけ彼が精神的に追い詰められていた証拠だった。

私なら何か奇跡を起こせるのではないか――そんな、藁にもすがるような漠然とした期待を抱いてここへ来たのだろう。

私は複雑な感情を胸の奥に押し込め、まずはウィンストンを立ち上がらせるために手を差し伸べた。

「さあ、お立ちください」

「……申し訳ありません、先生」

ウィンストンは力なくうつむき、ゆっくりと身を起こした。

そのとき、ようやく彼の顔を正面から見据えた私は、思わず息を呑んで唇をかみ締めた。

『なんて、やつれているの……』

わずか十日ぶりに再会したウィンストンは、まるで数年の歳月を一気に生き抜いたかのように疲れ果て、老け込んで見えた。

痛ましさに胸を締め付けられながら、私が小さくため息をつくと、ウィンストンの肩がびくりと震えた。彼はいつも無表情なため誤解されやすいが、その沈黙の裏で、自らの行動を激しく責め続けているのが痛いほど伝わってきた。

しかし、今の私には彼の誤解を解いて慰めてあげるだけの心の余裕はなかった。ウィンストンの衰弱ぶりこそが、カディエンの置かれた危機の深刻さを物語っていたからだ。

「申し訳ありません。先生もお休みになるところでしたのに、このような無体なお願いを……。先ほどの私の狼狽は、どうか忘れてください」

我に返ったウィンストンは、慌てて先ほどの懇願を取り消そうとした。だが、私はその言葉を遮るように静かに告げた。

「何か、よほど深刻なことが起きたのですね?」

分不相応な立ち入り方だとは分かっていた。それでも、この不穏な胸騒ぎを無視することはできなかった。

ウィンストンは躊躇うように口ごもったが、やがて覚悟を決めたように真剣な眼差しを私に向けた。

「……実際にご覧いただいた方が、早いでしょう」

私は黙って頷いた。

チェルシーに引き止められるのではないかという懸念もあったが、彼女は何も言わず、ただ静かに私たちを送り出してくれた。

ウィンストンに伴われてカディエンの寝室へ入ると、中にいたシグモンが驚愕の表情でこちらを振り返った。

その驚きはウィンストンも同じだったようで、彼は眉をひそめた。

「シグモン様、すでにお帰りになられたのではなかったのですか?」

「あ、いや……。どうしても閣下のご様子が気になって、もう一度確認しに戻ってきたんだ。それより……」

シグモンの視線が私へと移る。その目は明らかに「なぜ家庭教師がここに?」と不審がっていた。

すかさずウィンストンが間に入り、毅然とした声で言った。

「先生に、ご主人様のご様子を見ていただきたいのです」

「……はい?」

シグモンはさらに困惑を深めた。当然の反応だ。私は医師でも何でもないのだから。

けれど、それをいちいち説明している時間はなかった。私は混乱するシグモンの脇をすり抜け、まっすぐにベッドへと歩み寄った。

ベッドの傍らで足を止める。

馬車の中で見た最期の姿と同じように、カディエンは仰向けのまま、静かに横たわっていた。

いつの間にか私の隣に立っていたウィンストンが、重苦しい声を絞り出す。

「もう十日間も、目を覚まされていないのです」

「……」

「シグモン様の見立てでは、魔力自体は安定しているものの、魂にあまりにも大きな衝撃を受けたため、意識が戻らない状態だそうで……」

「衝撃……」

「先生、あの日……いったい何があったのですか?」

ウィンストンの痛切な問いかけに、私は視線を伏せた。少しの躊躇いの後、静かに真実を告げた。

「魔力暴走を……起こされたのです」

「魔力暴走、ですか……?」

ウィンストンが目を見開いた。その会話を聞きつけたシグモンも、慌ててベッドサイドへと近づいてくる。

「魔力暴走の後、そのまま意識を失われました。おそらく、それが原因かと思います」

「なるほど……。しかし、閣下はこれまでにも何度か暴走を起こされていますが、医師の治療によって意識を取り戻されていました。これほど長く目覚めないことは、かつて一度も……」

「そのことですが……私には、その理由が分かる気がします」

「えっ!?」

ウィンストンが息を呑み、シグモンも驚愕の眼差しを私に注いだ。

「ど、どういうことですか? いや、それよりも理由とは何なのですか!?」

「まずは……」

私はカディエンの青白い寝顔を見つめ、静かに、しかし断固とした口調で言った。

「……少し、席を外していただけますか?」

「え……?」

突然の要求にウィンストンは一瞬戸惑ったが、すぐに私の意図を察したのか、深く頷いた。

「承知しました」

「は、しかし執事長……!」

メルチェデスから戻ったばかりのシグモンは、頑なに不信感を募らせていた。彼にとって、私は得体の知れない素人医師にしか見えないのだろう。そんな私に公爵の命を委ねようとするウィンストンの判断が信じられないようだった。

だが、ウィンストンはシグモンを真っ直ぐに見据えて言った。

「先生にお任せします」

「……」

この館のすべてを取り仕切る執事長であり、カディエンの懐刀でもあるウィンストンにそこまで言われては、シグモンもそれ以上抗うことはできなかった。

「ありがとうございます」

「何か必要なものがございましたら、いつでもお呼びください。扉の前で控えております」

私が小さく頷くのを見届けると、ウィンストンは不承不承のシグモンを促し、静かに部屋を出ていった。

パタン、と重厚な扉が閉まる。

静寂が戻った部屋で、私は再びカディエンへと視線を戻した。

その寝顔はあまりにも安らかで、まるで起こすことさえ罪悪感を抱かせるほどだった。

「いったい、どんな夢を見ているのですか。どうして、まだ戻ってきてくれないのですか……?」

目覚めたくないほど、幸せな夢の中にいるのだろうか。

――そうであってほしい。もしも悪夢に囚われているのだとしたら、あまりにも残酷すぎる。

私はゆっくりと身をかがめ、カディエンの傍らに寄り添った。その整った顔立ちをしばらく見つめた後、意を決して手を伸ばし、彼の額にそっと触れる。

「もう目を覚ます時間ですよ、閣下」

小さく呟いた瞬間、私の手のひらから銀色の眩い光が溢れ出し、一気に世界を包み込んだ。

「うっ……」

激しい眩暈に襲われ、視界が白くかすむ。

やがて恐る恐る目を開けると、周囲の景色は一変していた。

どんよりとした、灰色の薄暗い路地裏。

ここは――カディエンの精神世界、彼の夢の中だ。

ガサッ。

不意に背後で物音が響き、私は勢いよく振り返った。

暗がりの奥、そこに「彼」がいることに気づく。当然だ、ここはカディエンの夢なのだから。

私は物音のした方へと泥を踏みしめて急いだ。そして、路地の吹き溜まりで、しゃがみ込んでいる人影を見つけた。

だが、その姿を目にした瞬間、私は凍りついた。

ガツガツ、と貪るような音が響く。

ようやく見つけたカディエン――いや、幼い頃の彼は、何かに取り憑かれたように、狂った様子で何かを口に運んでいた。

ピチャッ。ブシュッ――。

短い肉の裂ける音とともに、幼いカディエンの口元から鮮血が飛び散る。

彼は表情一つ変えず、両手で「それ」を握りしめたまま、獣のようにむさぼり、噛み砕き、飲み込んでいた。

「……っ」

あまりにも凄惨な光景に、私はそれ以上一歩も近づくことができなかった。ただただ、彼がその手を血に染めて“捕食”する姿を、呆然と見守るしかなかった。

しばらくして、手の中のものをすべて平らげたカディエンは、ふらふらと立ち上がった。

一度だけ、私のいる方へ視線を向けたような気がしたが、彼はすぐに背を向け、路地の奥へと歩き出した。

私は彼が座っていた場所に残された赤黒い血痕を見つめ、血の気が引くのを感じながらも、慌ててその後を追った。

ふらり、ふらり。

前を行く小さな背中は、今にも倒れそうなほど危うい。

「はぁ……はぁ……」

荒く乱れた呼吸が、冷たい空気に白く混ざる。

やがて足がもつれたカディエンは、壁にずるずると寄りかかるようにして、その場に崩れ落ちた。

「はっ……、ゴホッ、ゴホッ!」

苦しげに胸を押さえ、激しくせき込む。

小さな手のひらを受け皿にするようにして吐き出されたのは、どす黒い血の塊だった。喀血だった。

しばらく呆然と自分の血塗られた手を見つめていたカディエンの唇が、ゆっくりと震えながら開く。

「は、はは……」

自嘲するような、乾いた笑い。

「はは、ははは……っ!」

まるで、何か心の底から愉快なことでもあったかのように、彼は声を上げて笑い転げた。

だが、それも長くは続かなかった。

どさっ。

笑い声が途切れ、カディエンの身体から一気に力が抜ける。

そのまま、冷たい石畳の上へと激しく倒れ込んだ。

「カディエン!」

私はなりふり構わず駆け寄り、手を伸ばした。しかし、私の指先は虚しく彼の身体をすり抜ける。

ここは現実ではなく、彼の過去の記憶なのだから、触れられるはずがないのだ。

「はぁっ……はぁっ……」

自力で起き上がることもできず、カディエンはただ、弱々しく呼吸を繰り返している。

このままでは、本当にこの夢の中で彼が死んでしまうのではないかという錯覚に囚われる。

これは過去の記憶であり、彼はここで死なない。頭では分かっているのに、胸のざわつきが止まらない。

この頃のカディエンは、私が大切に育てているビンセントと同じくらいの年齢に見えた。

あまりにも幼く、か弱く、ガラス細工のように壊れやすい存在。

『どうすればいいの? 私には何もできないの?』

ただ傍観するしかないもどかしさに、私は足踏みをした。

当時のカディエンが暮らしていたのは、第4区域の貧民街だ。人通りもなく、もし誰かが通りかかったとしても、行き倒れた子供を助けてくれるような奇特な人間がいるとは思えなかった。

それでも、私は叫ばずにはいられなかった。

「……誰か! 誰か助けてください!」

叫びながら、私は路地の外へと飛び出した。

声が届かないことも、この行動が無意味なことも分かっている。それでも、黙って彼が死にかけているのを見ていることなどできなかった。

そして、私には一つの確信があった。

初めてカディエンの夢に入ったあの時――古代神殿の祭壇で薬を打たれていたカディエンは、確かに私の姿を見て、私の声を聞いていた。

泣きじゃくる私に、「泣かないで、私は大丈夫だったから」と答えてくれたのだ。

夢の中の幼いカディエンに私の声が届くなら、この世界の他の誰かにだって、届くかもしれない。

「誰か! 誰かいませんか!? 子供が倒れているんです、助けて!」

冷え切った路地を走り抜けながら、喉がちぎれんばかりに叫び続けた。

だが、どれだけ走っても人影はなく、世界は静まり返ったままだ。人々はみな、寒さを避けて家の中に閉じこもっているのだろう。

「ちくしょう……っ!」

口汚い悪態がこぼれ落ちる。

どうして誰も来ない。どうして誰も助けようとしないのか。これが彼の生きてきた過酷な現実だというなら、あまりにも残酷すぎる。

ここはまさに、救いのない生き地獄だった。

その時だった。

「ん?」

不意に、すぐ近くで幼い声が聞こえた。

私は弾かれたように振り返った。

暗闇の向こうから、小さな人影がぴょんと飛び出してくるのが見えた。

「この辺りから、誰かの声が聞こえた気がするんだけど……?」

奇妙なことに、その人影は輪郭がどこかぼやけており、はっきりとは見えなかった。

辛うじて、長いくせ毛と、冬物のワンピースを着た小さな少女であることだけが判別できる。

『どうして、こんな小さな子がここに……?』

困惑する私をよそに、少女はきょろきょろと辺りを見回した。

「確かに、助けを呼ぶ声がしたと思ったんだけどな。聞き間違いかな……」

――いや、聞き間違いなんかじゃない!

この子は、私の声を聞き取ってここへ来たのだ。

「こっちよ! こっちに来て!」

「え?」

私が声を張り上げて先導するように歩き出すと、少女は首をかしげながらも、私の後をぴったりとついてきた。

やはり私の姿は見えていないようだが、私の「声」だけは彼女に届いている。

「こっちに、倒れている子がいるの! 助けて!」

必死に叫び続ける私を、少女はどんぐりを追いかけるリスのように、無邪気な足取りで追ってくる。

そしてついに、カディエンが倒れているあの薄暗い路地裏へとたどり着いた。

「ここ……えっ!?」

辺りを見回した少女は、冷たい石畳の上に横たわるカディエンを見つけるや否や、目を見開いて駆け寄った。

「きゃっ、この子! 大丈夫!?」

少女はその場にしゃがみ込み、カディエンの様子を窺う。

カディエンは、重い瞼を辛うじて持ち上げ、かすんだ瞳で少女を見上げた。

「け……」

カディエンの割れた唇が小さく動いたが、狼狽する少女の耳には届かなかった。

「どうしよう、どうしよう……。私の声、聞こえる? すごく痛いの?」

カディエンはもう返事をする気力も残っていないのか、再び静かに目を閉じてしまった。

少女はオロオロと足踏みをした後、小さな身体で必死に彼を抱き起こそうとした。

幸い、少女の方が少し背が高く体格もしっかりしていたため、立たせること自体は何とかできそうに見えた。

しかし、一歩、二歩と進んだところで、二人はもつれ合うように前のめりに倒れ込んでしまった。

このまま少女が諦めて、彼を置いていってしまうのではないか――私の胸に最悪の予感がよぎる。

けれど少女は諦めず、泥だらけになりながら、何度も何度もカディエンを起こそうと奮闘していた。

「どうしよう……重たいよ……」

少女が困り果ててカディエンを見下ろしたとき、私は思わず、独り言のように呟いていた。

「いっそ、背負って行った方がいいんじゃ……」

その瞬間、少女の瞳にパッと光が宿った。まるで名案を思いついたかのように、彼女はパタパタとカディエンの前にしゃがみ込んだ。

かろうじて意識の端を保っていたカディエンが、不思議そうにその小さな背中を見つめる。

少女は振り返り、はにかむように微笑んだ。

「ねえ、私におんぶさせて」

 



 

 

 

  • カーディエンの危機と「私」の決意

    10日間も昏睡状態が続くカーディエンを救うため、私は周囲の制止を振り払い、彼の精神世界(夢の中)へと潜入したこと。

  • 過酷な過去の追体験

    夢の中で、幼いカーディエンが飢えから「捕食」を行い、喀血して倒れるという、貧民街時代のあまりにも凄惨で残酷な過去を目撃したこと。

  • 夢の中での「介入」と謎の少女

    現実には干渉できないはずの世界で、私の必死の呼びかけに応じた「謎の少女」が現れ、瀕死の幼いカーディエンを救うために手を差し伸べたこと。

 

 

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