残された余命を楽しんでいただけなのに

残された余命を楽しんでいただけなのに【106話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【残された余命を楽しんでいただけなのに】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。 ネタバレ満...

 




 

106話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 3つの宿題

私と兄のセレモンの間には、どうやっても埋められない溝のようなものがあった。

それでもセレモンはとても裏表のない人で、「お互い考え方が違うのだ」と割り切ってしまえば、それなりに普通に会話を交わすことができた。

「今度遊びに来いよ。ブラドック公爵領の“ガラスの湖”は、この世で一番美しいって噂なんだ。」

「ブラドック公爵領自体、秘密に包まれた場所なのに、どうして“世界一美しい”なんて噂になるの?」

「だから“噂”なんだって言っただろ?」

「……」

呆れる私をよそに笑う兄。けれど、いつか絶対にそのガラスの湖へ行ってみたいと心から思った。

その湖は非常に深く、底までまるでガラス玉のように透き通っている神秘的な場所なのだという。夜になれば満天の星を映し出し、まるで湖そのものが星々を呑み込んでいるかのように見えるらしい。

「分かりました。今度ぜひ招待してください。」

「もちろんだ。約束する。」

私は満足そうに頷くセレモンに、分厚い本を1冊手渡した。

「私が出した宿題は必ずやること。あとで確認するからね。一ページ目に宿題一覧を書いておいたから。」

私はセレモンにいくつかの宿題を出していた。

① ブラドック公爵の細かな命令を、一度断ってみること。

話を聞く限り、セレモンは公爵の教育方針をどこまでも忠実に守っているようだった。けれど、言われるがまま従い続けていれば、いずれ「第一皇女」という冷たい肩書だけが残り、本当の自分など何も残らなくなってしまう気がした。だからこそ「小さなことでも断ってみる」という課題を与えたのだ。それが、彼が自分自身を見つける最初の一歩になると信じて。

(こんなことになると分かっていたなら、心理学や精神学ももっと勉強しておけばよかった……)

② 泣いている人を慰めてみる。

どこか感覚のズレているセレモン兄様。泣いている人を慰める経験を通せば、他人の悲しみや苦しみに少しは共感できるようになるかもしれない――そう考えて与えた課題だった。

『泣き止ませればいいの?』

『そうだ。』

『すごく簡単ですね。――殺せばいいんだろ。』

以前、そんな恐ろしい思考回路が透けて見えそうになり、思わず両耳を塞いだことがあった。幸か不幸か、「頭では」私がそういう残虐な言葉を嫌うと理解してくれた兄は、それ以上恐ろしいことを口にはしなかったけれど。

「言葉だけですよ。脅したり暴力を振るったりするのも駄目です。その人がどうして泣いているのか、自分なりに考えてみてくださいね。」

③ 日記を書くこと。

毎日自分自身と向き合い、言葉を書き続けていれば、何か心に芽生えるものがあるかもしれない。

セレモンは首をかしげながらも、おとなしく私の渡したノートを受け取った。

「約束したんだから、ちゃんと守るのよ?」

「約束は守るためにあるからな。」

本当に裏表のない、どこまでも誠実な人だった。一度約束したことは、何があっても必ず守る。

正直なところ、これらの課題が彼の自己探求にどれほど役立つのかは分からなかった。本人に自分探しの熱意があるようにも見えなかったし。

けれど、それでよかったのだ。宿題など、ただの口実に過ぎない。

「宿題をやらなかったら、すごく怒られる?」

「当たり前でしょ。」

……叱られるのが好きな(?)セレモン兄様への、私なりのささやかなプレゼントだった。

セレモン兄様は一瞬いつものように見下すような表情を浮かべたあと、小さく吹き出して言った。

「ミハエルが突然、俺に決闘を申し込んできたんだ。」

「……理由が分かった気がするわ。」

「ミハエルお兄様ですか?」

「うん。カマンにはよく絡んでいたけれど、お前にはあまりそういうことはなかったからな。」

「どうしてですか?」

「本当に死んじゃうかもしれなかったから?」

あまり余計なことを聞くものではなかったかもしれない。

「私は途中で止まれないの。」

詳しく話を聞くと、ミハエル兄様はブラドック公爵家まで押しかけ、大げんかを繰り広げたらしい。「どうしても妹に会わせろ」と聞き入れなかったのだという。

「カマンがお前に会ってから変わったみたいだった。だから俺も絶対にお前に会うって聞き出さなくてね。だが、俺が嫌だと言ったら、あいつは剣まで持ち出してきたんだ。」

「……それで?」

「もう少しで死ぬところだった。運よく助かったがな。」

「もしかして、お怪我は……?」

「俺は無傷だ。怪我をしたのはミハエルのほうだ。」

「大怪我だったんですか?」

「少なくとも八週間は療養が必要らしい。俺よりひどい怪我だった。父上は木剣だったが、俺のときは真剣だったからな。」

私は大きな衝撃を受けた。

思い返せば、あの日私を迎えに来て以来、セレモン兄様は一度も姿を見せていなかった。お父様とセレモン兄様が模擬戦ではない本当の決闘をしたときも現れなかった。

またどこかで問題でも起こしているのかと思っていたけれど、彼は単に重傷を負って療養中だったのだ。

(えっ、じゃあ私を迎えに来たときはどうやって……?)

あのとき、確かに激しい砂嵐が起きていたはずだ。それなのに見た目は怪我人など微塵も感じさせないほど元気そうだった。私と話しているときも、ただ楽しそうに笑っていただけだったのに。

一体どうしてそんな真似ができたのだろう。

『嬉しさのあまり、一瞬だけ痛みを忘れていた』――なんて。

まさか、そんなドラマみたいなことがあるはずもない。いくらなんでも、そこまで都合よく頭がおかしくなるわけがないのだから。だって、彼だって同じ人間なのだ。

……うん、絶対に気のせいに違いない。多分。

ジルデル国王・バルキオは爽やかに笑みを浮かべた。

「交渉は成立したな。ナルモル……いや、ナルモル代表。これからよろしく頼むぞ。」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」

ジルデルとビロティアンの間で、テイサベルへの移動に関する歴史的な条約が締結された。アルフェアに続き、二つ目の正式な条約だ。

私たちがナルモルガへ戻った後、バルキオはアルフェアのラヘラと密かに極秘会談を行った。

「思ったより早く条約がまとまりましたね。細かい条件の調整でもっと時間がかかると思っていましたが。」

ラヘラが尋ねると、バルキオは愉快そうに肩をすくめた。

「本来はそのつもりだった。だが、皇后陛下が自らお動きになったのだ。」

「えっ? あの温和で知られる皇后陛下がですか?」

「ああ。ジルデル・ベースキャンプで皇子を二人も失い大騒ぎになった件も、実はすべて仕組まれた演出だったらしい。」

そう考えるのが一番自然だった。そうでなければ、皇帝ロンのあの不可解な動向に説明がつかない。

「皇后陛下が直々におっしゃっていたよ。テイサベルが世界中に移動ゲートを普及させる予定みたいだとね。これまで以上に積極的に、な。イヒヒヒッ!」

「……」

「イヒヒヒッ? 面白くないか? 私の首席補佐官のガブリエルなら面白いって大笑いしてくれるんだがな。」

「見見透かされた嘘はやめてください。」

「ちぇっ。」

ラヘラはバルキオのおどけた態度に振り回されることなく、冷静に本題へと戻した。

「これまではイサベル様だけを表に立たせていましたよね? 急にどうしてそこまで積極的に動かれるのですか? もともとそういうお方ではありませんでしたが。」

「それだけ準備が整ったということだ。あの方は決断するまでに時間をかけるが、一度腹を決めれば誰よりも素早く動く。そして決めたことは絶対にやり遂げるお方だ。」

「皇后陛下が自ら動かれたということは、しばらくは私たちだけの秘密にしておきましょう。」

「当然だ。そうでなければ、わざわざ皇子を犠牲にするフリまでして私に内密で会いに来るはずがないだろう? イヒヒヒッ!」

「……」

「これでも笑わないのか? イヒヒヒッ? ねえラヘラ、何か反応してくれよ!」

ラヘラは何も答えず、そのまま静かに部屋を出て廊下を歩いていった。

けれど、彼女の胸の奥は激しく高鳴っていた。

(五百年もの間うずくまっていた獅子が、ついに牙をむき始めた……!)

ビロティアン帝国は急速に変わり始めている。これまでにないスピードと積極性を持って。

そう遠くないうちに、これまで保たれてきた世界の均衡は跡形もなく崩れ去るだろう。

(その変革の中心には、常にイサベル皇女がいる。)

イサベルという存在だけは、決して見失ってはならない。どうにかして、もう一つくらい確固たるパイプを作っておくべきだ。

(イサベルと友達になる予定だった子の名前は……アセリアだったかしら。)

ちょうどアルフェア王国領カルポア村の子だという。

(あの子とも早いうちに仲良くなっておかなくては。)

そして、時間はあっという間に過ぎ去っていった。

過酷な冬が過ぎ、季節は巡り、やがて春が訪れて凍てついていた大地を優しく溶かし始める。

イサベルは自室のカレンダーをじっと眺めていた。

(時間が経つのって、本当に早い……!)

九歳の誕生日まで、あとほんの一か月。

この間に『テイサベル転移門』の安全性は十分に証明され、アルフェア王国とジルデル王国の多くの国民がその恩恵を存分に受けていた。

物流の速度が劇的に上がったことで多様な産業が発展し、両国の経済規模は瞬く間に拡大していった。その波に乗って著しい成長を見せたのが、観光業である。

「もともと旅行なんて貴族だけの特権だったんだ。でも今では平民だって自由に旅行できる。これが誰のおかげだと思う?」

ナルモルガが胸を張ると、周囲から声が上がる。

「それは皇女様のおかげですよね? 違いますか?」

「そ、そうだね……。」

今度はユリの番だった。

「ラーメンは今や大陸中で有名な名物料理になったわ。これを作り出したのは誰だと思う?」

「それも皇女様ですよね? 違いますか?」

「そ、それは……!」

「もともと無から有を生み出すのが一番難しいの。皇女殿下がアイデアを全部出してくれたのに、そこへスプーン一杯分の工夫を加えただけで、今さら偉そうに語るつもり?」

「偉そうって、ナルモルが言うの?」

「ナルモルはタメ口だろ。しかも年下だし。」

「年上でよかったですねーだ!」

ナルモルとユリは互いに「ふんっ!」とそっぽを向いた。

喧嘩ばかりの二人ではあったが、共同経営する「ユリモル製菓」の名声は今や天を衝く勢いだった。世界中から貴族たちが極上のスイーツを求めて列をなし、その店舗の周辺には大陸で三番目に大きな商業地区が形成されるほどだった。

「これも全部、私のマーケティングと流通戦略のおかげよ。それに、周辺へ最高級の宿泊施設を誘致したのも私のアイデアなんだから。」

「でも、最高のデザートがなかったらそれだって成り立たなかったじゃないか!」

「だから? それで自分が一番だって言いたいの?」

「私は一番になりたいわけじゃないよ。ただ、ナルモルガがうまくいけばそれでいいの。」

「私より成功するのは難しいと思うけど?」

ナルモルガは、いまや平民の中で最も成功した実業家の一人として数えられていた。ジルデルとアルフェアを行き来しながら、王国規模の巨大な事業を築き上げたのだ。

ユリはくすっと優越感に満ちた笑みを浮かべた。

「勝負あったね。」

「え?」

ユリが勝ち誇ったように目を細める。この二人の勝負の勝者は、いつも決まってユリだった。

「私は今日も皇女様と買い物に行って、一緒にデザートを食べる予定なの。お兄ちゃんは?」

「わ、私は……!」

四十分後にはミラクル・コーポレーション代表との会談。その後はイサベルチェーン技術に関する業務提携の調印式、さらにその次はジルデル国王バルキオとの会談が詰まっていた。

「お兄ちゃんはいつもそう。忙しいって言い訳して、皇女様を後回しにするんだから。」

「おい、私がいつもどれだけ皇女様のために頑張ってると思ってるんだ……!」

「皇女様が一番喜ぶのは、一緒に過ごす時間だよ。それこそが皇女様を愛する一番の方法なんだから。」

「それだって、お金がないとできないだろ!」

「うんうん、お仕事頑張ってね!」

ナルモルの体が屈辱でぷるぷると震えた。

「……子ども相手に言い合っても仕方ない。私はもう行く。」

「うん、私は皇女様と楽しくお買い物に行ってくるね。」

ナルモルガは己の敗北を悟り、悔しさに唇を噛んだ。

こんなことになると分かっていたなら、商売などではなくお菓子作りを学んでおけばよかったのだ。

「余計な事業なんて始めるんじゃなかった……!」

廊下の向こうから、ドタドタと勢いよく走る足音が響いてきた。

「見つけたぞ!」

声の主はすぐに分かった。テイスロンおじい様だ。

(また鬼ごっこでもしているのかな。)

テイスロンおじい様は、歳に似合わずかくれんぼや鬼ごっこが大好きな人だった。

ベルクルは「カァッ! カァッ!」と悲鳴のような鳴き声を上げながら逃げ回っていたが、テイスロンおじい様は恐ろしく優秀な魔法使いである。

(あと十秒もあれば捕まるな……。)

おじい様はベルクルを力いっぱい抱きしめて頬ずりすることを至上の生きがいにしていた。ベルクルはそれを心底嫌がっていたけれど、私から見ればどこか本気で拒絶しきれていないようにも見えた。

やがて扉が静かに開き、ベルクルがよろよろと歩いて入ってきた。鳥でありながら二本足で歩くその姿は、まるでこの世の終わりを迎えたかのように打ちひしがれている。

ベルクルはふらふらと私へ歩み寄ると、膝の上に登って小さく体を丸めた。背中を優しく撫でてやると、「ブンブン」と喉を鳴らして甘えてくる。

続いて、落ち着いた足取りでビアトン卿が部屋に入ってきた。

「皇女様。お誕生日パーティーの準備を始めようと思うのですが、何かご希望のテーマはございますか?」

「誕生日パーティーですか?」

ビロティアン皇室では、誕生日を盛大に祝う習慣はなかった。ましてやパーティーなど開かれるはずもない。皇子たちは幼い頃から各地へ派遣され、そんな余裕すらなかったからだ。

「はい、パーティーです。お嫌ですか?」

「いいえ! 嫌なわけがありません!」

他の誰もやってこなかったからといって、私が諦める理由にはならない。私は少し首をひねってから口を開いた。

「でも、あまり大がかりなパーティーにはしたくありません。」

「私の気持ちとしては、世界で一番盛大で華やかなパーティーを開いて差し上げたいのですが。」

「ふふ、それはまた今度にしましょう。」

最初からあまりに豪華すぎると、次に困ってしまう。人間は贅沢に慣れてしまう生き物だから。

「大切な人たちと一緒に、温かく過ごしたいんです。まだ13回……いえ、12回も残っていますから。」

私は21歳の誕生日を迎えると死ぬ運命にある。だから十三回目の誕生日は迎えられても、それを楽しめるのは十二回だけなのだ。

「皇女様、お隣に座ってもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。」

許可を得て、ビアトン卿が静かに椅子に腰掛けた。

「私は帝国首席補佐官として、毎年皇女様のお誕生日会を企画いたします。そして私の定年までは、まだ二十年以上ございます。ですから、最低でも二十回分は趣向を凝らして準備するつもりです。」

「ですが……」

私に残された時間は、そんなに多くない。

――喉まで出かかったその言葉を、私は必死で呑み込んだ。

ビアトン卿だって、私の余命を知っているはずなのだ。だからこそ、その優しさと覚悟だけで胸がいっぱいになり、嬉しかった。

私はそっと微笑みを浮かべた。

「そう言ってくださって、本当にありがとうございます。」

「その言葉ではなく。」

ビアトン卿は深く頭を下げた。

「はい?」

「『楽しみにしています』とおっしゃってください。」

「どういうことですか……?」

「私が準備する、少なくとも二十回分の誕生日パーティーを楽しみにしている、とおっしゃってください。」

「……」

ビアトン卿のお気持ちは、本当に、心から嬉しかった。

けれど、どうしても言葉が声にならなかった。

ビアトン卿は私にとってもかけがえのない、大好きな人だ。だからこそ、叶わないと分かっている嘘の約束で縛りたくなかった。

「……私は諦めません。」

真っ直ぐな瞳で告げられたその言葉に、私は胸を詰まらせながら絞り出した。

「……ありがとうございます。」

ビアトン卿は満足そうに微笑み、静かに立ち上がった。

「もうお帰りになるのですか?」

「はい。カリン卿と少々打ち合わせがございまして。」

いつものように、ビアトン卿は穏やかで温かな笑みを浮かべていた。

「今年のお誕生日は、心から温まるものにできるよう準備いたしますね。」

そう言って彼が部屋を去った後も、その温かな余韻だけが私の心に優しく残り続けていた。

 



 

 

  • 世界を動かす変革とイサベルの存在感

    皇后の素早い決断で「テイサベル転移門」が普及し、両国の経済や観光・商業(ユリモル製菓等)が急速に発展。周囲の権力者たちは、この世界的な変革の中心にいるイサベルの重要性を再認識します。

  • 兄セレモンとの交流と不穏な影

    セレモンに自分を見つけるための「宿題」を出して交流を深める一方、彼がミハエルとの過酷な決闘で負った重傷を隠して自分に会いに来ていた事実を知り、その異質さに一抹の割り切れなさを抱きます。

  • 余命を知るビアトン卿の「20回分の約束」

    21歳で命を落とす運命のイサベルに対し、補佐官のビアトン卿はあきらめずに「定年までの20年分、毎年誕生日を準備する」と宣言。イサベルは叶わないかもしれない約束に言葉を詰まらせつつも、彼の深い愛と覚悟に感謝を深めます。

 

 

 

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