こんにちは、ちゃむです。
「残された余命を楽しんでいただけなのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

63話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 母親の憂慮
アルンが言った。
行ってきました、お母さん。」
「ずいぶん遅かったのね。どれほど心配したか分からないわ。」
「心配してたんですか?」
竜たちは他の生き物たちの人生の経験を無意識に保存する。
蜂蜜に変わったら、本物の蜂蜜として生きなければならない。
蜂蜜の音は臆せず無鉄砲で、危険にさらされることが多かった。
蜂蜜の音の姿で死を迎えると、実際にアロンも死ぬ。
龍たちは簡単には死なないが、中でも最も高い確率で龍を死に至らせるのが、まさに「蜂蜜の音」への変身だった。
「私は蜂蜜の音でよかったです。」
「良い記憶でいっぱいのようだな。何がそんなに良いの?」
アロンは一瞬、カデルリーナの目が光るのを見逃さなかった。
『ここで何かを漏らせば、母は私の記憶を全部消してしまうだろう。』
蜂蜜の音だった頃の記憶がぼんやりと残っていた。
実はこの記憶は消すべきだった。
龍としてのアイデンティティが揺らぐ可能性があるからだ。
もし記憶が残るなら、保護者がその記憶を消してくれることが関係していた。
『約束してくれてありがとう。私のそばに必ずいてね。わかった?』
全部ではないけれど、少しずつ記憶がよみがえった。
蜂蜜にとってはとても大切な人だった。
私がいないととても怖くて、布団の中に隠れてしまう人。
私がそばにいてあげなければならない人。
だからアルンは記憶を失いたくなかった。
『ごめんなさい、お母さん。』
嘘をついた。
「記憶はありません。ただ、すっきりして爽やかな気分が心の中に満ちています。」
「そう?」
カデルリーナは安心したように、軽やかに笑った。
アロンが順調に成長しているようで、嬉しく感じた。
「記憶の力よりも感情の力の方が強いから、そうなのよ。」
アロンは何も分かっていないように目を丸くした。
「本当ですか? 記憶の力より感情の力の方が強いんですか?」
「うん。君が経験する全てのことは、感情の形で君の無意識に記憶されるの。君が正しい龍になれるような源泉になってくれるんだよ。アロンはとても良い経験をしていると思う。」
そう言って黒炎龍カデルリナは穏やかに笑った。
そして少し悲しげな表情で言葉を続けた。
「それじゃあ、私の息子がどんな経験をしてきたのか、ママが少し見てみてもいい?」
「はい!」
アロンは何も分かっていないように、ただ首をかしげていた。
アルンはすでにわかっていた、母がまだ自分を疑っていることを。
少しの違和感さえ察知すれば、すぐに記憶を探ろうとすることを。
カデルリナの手がアルンの頭の上に置かれた。
『まだお母さんの魔力には勝てないけれど。』
正面から戦って母に勝つことはできない。
だけど、こっそり隠すことはできた。
『お母さんは私を敵視していないから。』
カデルリナが本気でアルンの記憶を最後まで解いて調べようとしたら話は別だが、カデルリナは軽い気持ちでアルンの経験を覗こうとしただけだった。
アルンは自分の記憶の一部に龍力をかぶせ、心の奥深くに隠しておいた。
少しの時間が過ぎた後、カデリナが話した。
「龍としてはできない、さまざまな経験をしているんだね。」
何も問題がないように見えた。
少し安堵したアロンはぱっと笑った。
「はい、僕も絶対に大きくなったら母のように立派な龍になります。」
カデリナの試験(?)を無事に通過したアロンは、自分の寝床に戻った。
『僕はキムボルクルを覚えておかなくちゃ。イサベルのために。』
イサベルのそばにはキムボルクルがいなくちゃならない。
アロンは拳をぎゅっと握った。
『龍としての自我が揺らがないようにしなくちゃ。』
アロンは心を引き締めた。
キムボルクルが生き続け、龍としての自我も確かに存在するように。
蜂蜜としてはイサベルを助けるのに限界があった。
龍であってこそ、イサベルを大きく助けることができるだろう。
『私はラーちゃんであり、アルンとして、イサベルのそばを守ってあげる。』
アルンが眠りに落ちている間、カデルリナはそっと身体を起こした。
「うちの子がもうお母さんに策略を仕掛けるなんて?」
アルンは床に頭を下げているようだったが、実際はこれら全てカデルリナ自身も経験したことだった。
カデルリナは息子の心を誰よりもよく理解できた。
「血は争えないわね。」
彼女もまた幼い頃、まさに同じだったのだから。
彼女は人間としての経験があまりにも深かった龍であり、それがまさに「どうしても黒炎龍」が誕生した背景だった。
彼女の目にはアロンの行動がすべてはっきりと見えた。
「理解はしているけれど、同意はできない。」
どういうわけか、黒炎龍の瞳の奥が破片のようなそれで満たされていた。
少し調べなければならないことがあった。
「移動。」
カデリナはどこかへワープした。
知恵の龍、ラビナ。
彼女は巨大なマナが動いているのを感じた。
そして同時に深いため息をついた。
「ふう。」
『黒炎竜』のカデリナと『知恵の竜』ラビナは対照的だった。
「また何か大それた、でたらめな政策みたいなことを言い出したら、私の領域からすぐに追い出すからね。」
「そんなことないよ、姉さん。」
「そいつの姉さんの声ももう少し静かにしてよ!」
「姉さんでしょ。姉さんのことを姉さんって呼ばないで、何て呼べって?」
「はぁ……。」
竜たちは人間とは違い、血縁に執着しない。
成人すると、完全に独立した存在となり、親だろうが兄弟だろうが姉妹だろうが、そういったことには一切関心を払わないのが普通だった。
しかしカデリナは少し違っていて、ラビナに対して少し甘いところがあった。
「わかった。好きにしなさい。」
「そうしようと思ってたの。」
「一体何しに来たの?」
「アロンのことで相談したいことがあって。」
「アロン」という名前が出ると、ラビナの表情が少し和らいだ。
アロンは今や数少ない幼竜であり、幼竜はすべての竜にとって大切で愛される存在だからだ。
『はぁ。私も無意識に可愛いと思ってしまうんだよな。』
もともと竜たちには「子供を可愛がる」という概念はない。
もともとそういうものだったのだ。
これはすべてカデルリナのせいだった。
『カデルリナに惑わされないで。しっかりしろ。』
ラビナは咳払いをしてから尋ねた。
「なに?思春期なの?」
「竜にも思春期ってあるの?」
「人間としての経験を多く積んだ竜たちは、思春期のようなものを経験することもある。」
ラビナの目が細められた。
カデリナと似たような竜ではあったが、カデリナよりもずっと穏やかで温かみのある印象の彼女は、しばらくの間カデリナを見つめていた。
「なぜそんな目で見ているの?」
「私が知っている竜の中には、200年くらい思春期を過ごした子もいたよ。人間で言うと『15歳病』ってやつで、その竜は200年間15歳病にかかってたの。あっちへ行ったりこっちへ行ったりで死ぬかと思ったわよ。あらゆる人間の大軍の中に紛れ込んで活動しなきゃいけなかったし。いや、今も活動してるわよ。」
カデリナは小さく咳払いをした。
「昔の話をいつまでしてるの?それに、言葉に言葉を重ねて、姉さんがあの大公ノルの話をしたってことは、結構面白かったんじゃない?なんだったっけ?北部大公ロベナだったっけ?」
「ねえ正直、最後はどうあれ『黒炎竜』って名前、まだ気に入ってるの?」
「………」
「恥ずかしくないの?」
「……それ、なんで恥ずかしいの?」
みんなが恥ずかしいって言うからそうなのかなと考え中ではあるけど、実は心の中ではまだよく理解できていなかった。
彼女はいまだに「最後の終息と破壊と透明の黒炎竜」という異名がけっこう気に入っていたのだ。
「まだ自分がこの世で一番強いって思ってる?」
「……それ、本当なの?」
「………」
「私を止めようって古竜が三匹も出てきたけど、結局私にボコボコにされてさ…… んぐっ!」
ラビナはカデルリナの口を塞いだ。
「それ自慢にならないから、お願い!どうして200年も……いや、500年もその病気を患っているなんて、どこに行っても私の弟だなんて言わないで。恥ずかしいから。」
知恵の竜ラビナは、自分の弟に関するすべてを把握していた。
カデリナがいまだに『15歳病』から抜け出せていないことも。
幼少期の人間としての経験があまりにも濃すぎて、竜としてのアイデンティティがやや揺らいだまま成長してしまった事実も。
「それでも、少しは大人になったわね。」
正直なところ、カデリナが道端で突然火を吹き出してもおかしくない状況だった。
それでも、カデリナは依然として落ち着いていた。
ラビナがため息をつきながら尋ねた。
「それで?アルンには何か問題があるの?」
「アルンがハニービーソーリーの人生を覚えているんだ。それも、とてもたくさん。私はその記憶を消したはずなのに。」
「何?頭おかしいの?」
ラビナは姿勢を正して座った。
対極にある二匹の竜が話を交わし始めた。
「それで?アルンをただ放り出したって?」
「そうしたら竜のアイデンティティが揺らいだとき、責任取るつもり?あんたみたいになるまで放っておくって?」
そう言いかけて、いったん言葉を飲み込んだ。
知恵の竜ラビナは目を閉じ、長く考えた。
「私はお姉ちゃんが言う通りにする。」
カデルリナは恐ろしいが純粋なところのある妹(?)だった。
そしてラビナはカデルリナのその純粋さが嫌いではなかった。
本当に嫌いだったら、カデルリナとの関係を続けなかっただろう。
「アルンは母親であるあなたをだまそうとするほど、目的意識がしっかりしている。普通の竜たちとは違う。ほとんどの竜は、人生の目的を持っていない。ただ流れに任せて生きているだけだ。彼らはそんな存在だった。」
「そういう竜たちは、大体は自分の子が無鉄砲で無謀なことをしても、人間だと思い込んで跳ね回っていたそのバカな子も、結局は竜としてのアイデンティティを失うことはないってわけ。」
「……じゃあ、そのまま放っておいても大丈夫ってこと?」
「一応ね。でも私がちょっと見守ってあげようと思ってる。」
「どうやって?」
「直接会ってみる必要があるわ。ラーちゃんとイザベルに。」
「本当?お姉ちゃんがそれをしてくれるの?」
ラビナは「ふうーっ」と深いため息をついた。
「最初からそれを頼みに来たみたいだしね。」
「えへへ、お茶入れたの?」
世界を恐怖に陥れたあの黒炎竜は、姉の前ではいつも妹だった。
500年前もそうだったし、今もそうだ。
「お願いね、お姉ちゃん。愛してる。」
カデルリナはラビナの背後に回って、ラビナをぎゅっと抱きしめた。
ラビナの全身に鳥肌が立った。
「お願い!離れて!」
「離れられるもんならね。」
ラビナはもがいたが、力では完全にカデルリナに勝てなかった。








