こんにちは、ちゃむです。
「潔癖症な黒幕のガイドなんて御免です」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
30話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 愛の代償
「ガイディングに関する法律第1条第2項。エスパーは、ガイドが望まないガイディングを強制してはならない」
「第2条第5項。エスパーとガイドは刻印を行う前に、必ずセンターの担当部署へ届け出て許可を受けなければならない」
「第5条第7項。ガイドは、マッチング率が60%を超えるエスパーが2名以上いる場合、原則として刻印を行うことはできない」
厳粛な法廷に、検事服をまとったエスパーの冷徹な声が響き渡った。
「裁判長。私どもは、被告がこれらの法律に違反した上でガイドと刻印を結んだとして、有罪を主張いたします」
センターにはエスパー、ガイド、そして能力を持たない一般人が共に暮らしている。そのため、センター内で起きた事件は可能な限り内部で処理されるのが原則だった。
特にエスパーが犯罪を犯した場合や、その罪が重大で緊急の対応を要する場合には、『センター緊急裁判』が開かれる。能力を持つ犯罪者は、いつ暴走するか分からない時限爆弾のようなもの。だからこそ、裁判も処分も、センター所属のエスパーたちによって迅速に行われる必要があった。
そして、この緊急裁判に、私は証人として、クロードは被告として呼び出されていた。
センター所属のエスパーの過半数と60%以上のマッチング率を持つことを知りながら、クロードは彼を止めようとしたエスパーたちを力ずくで制圧し、さらに保護要請が出されていたその日に私を連れ去って刻印を行った――。それがクロードの罪状であり、彼が裁判にかけられている理由だった。
「被告、認めますか?」
裁判長からの問いに、クロードは淡々と答えた。
「認めます」
その瞬間、法廷内が一気にざわめいた。傍聴人として参加していたエスパーたちが、一斉にクロードへ非難と罵声を浴びせ始める。
しかし、自分に向けられる無数の刃のような言葉にも、クロードはまったく動じなかった。ただ、一切の揺らぎのない眼差しで前を見据えている。
私は証言台に座ってそんな彼を見つめていたが……やがて胸が痛くなり、どうしても彼をまともに見ることができなくなって視線を逸らした。
クロードはセンターだけでなく、この国の英雄でもあった。
13歳という若さで能力に覚醒し、ガイドもいないまま、数え切れないほどの国家的災害や危機を一人で乗り越えてきた。エスパーたちにとっては憧れの存在であり、ガイドたちにとっては希望の象徴。
そんな彼が今、あらゆる非難を一身に浴びている。
「それでは、証人尋問を始めます。まず、刻印の過程においてガイドに対する強制があったかどうかを確認します」
裁判官の声を聞きながら、私は数時間前のクロードとのやり取りを思い出していた。
『――あなたは望んでいなかった、と証言してくれ』
私の手を強く握りしめながら、クロードはそう頼んできたのだ。
『――嫌です』
『――私の言うことを聞いてくれ、ローズ』
『――それで? クロード様を、ガイドの同意も得ずに無理やり刻印した人間の屑みたいな奴だと、私の口から言えってことですか?』
『――そうすれば、お前は罰を受けずに済む。許可なく刻印するのは犯罪だ、ローズ。互いに同意していたと言えば二人とも処罰される。それなら私一人が罪を負うほうがずっといい』
違う。
私なら被害者を装えば処罰を免れられるかもしれない。けれど、その代わりにクロードは何倍もの非難と過酷な処罰を受けることになる。
『――だから違うんです。クロード様は私に無理やり刻印なんてしていないのに、どうして罰を受けなきゃいけないんですか。無理やりなんてされていないし、そもそも刻印だってしていないって、事実をそのまま話せばいいじゃないですか……!』
『――ローズ』
クロードの表情が険しくなる。私がおずおずと彼の顔色をうかがうと、ようやく彼は表情を和らげ、私をなだめるように言った。
『――……私は、お前が他のエスパーにガイディングされる未来なんて見たくないんだ』
『――……』
『――また泣きそうだな……。全部、お前のせいだ。このおバカ』
涙がこみ上げてきて必死にこらえる私を見て、クロードは困ったように小さく笑った。
『――ローズ。他人が私をどう思おうと、私は少しも気にしない。私に申し訳ないと思うなら、今回だけは私の望むとおりにしてくれ』
「証人は証言台へお進みください」
裁判官の一人が厳かに告げ、私は思考を現実に引き戻された。
足を進めて証言台へ向かう。平静を装おうとしたが、緊張で全身が小刻みに震えていた。
検察官が前に出て、鋭い尋問を始める。
「証人。あなたは自らマッチング率検査を申請しましたね。間違いありませんか?」
「……はい」
実際、検査を申請して保護を要請したのは私ではなくアジルだった。それでも、その事実をここで明かすわけにはいかない。今回の件が大きくなる原因を作った一人とはいえ、彼は私を助けようとしてくれたのだ。今さら彼まで巻き込むわけにはいかなかった。
「証人。検査結果が出た直後、被告は証人を抱え上げ、そのまま姿を消しましたね。間違いありませんか?」
「……はい」
「では証人。刻印が行われたあの夜のことですが、その刻印は被告による強制だったのですか?」
不安に駆られ、私は思わずクロードへ視線を向けた。
今からでもすべてを話してしまいたかった。刻印なんて実際には行われていないこと。私たちはまだ何一つ法律を犯していないことを。
私を「共有しよう」としてクロードを止めたあのエスパーたちには腹が立つ。けれど、刻印していないと明かした瞬間、あんな不快な出来事がこれからどれほど増えるのかと思うと恐ろしくもあった。
それでも、クロードがやってもいない罪で犯罪者にされることとは別問題だ。そんなの耐えられない。
涙をこらえる私に、クロードは揺るぎない眼差しを向けた。
――自分のことは気にしなくていい。言うべきことを言え。
そう語りかけるように。
もしかすると、今回こそ彼の望みどおりにして、私は被害者のフリをするべきなのかもしれない。そもそも、ここまで事態が大きくなったのは、私が彼を信じきれず衝動的に動いてしまったせいなのだから。
でも……。
『――私は耐えられる』
彼は私を責めることも、何かを改めろと求めることもなかった。ただ、私に合わせるために自分が変わると言ってくれた人だ。それなのに今度は、自分のせいだとまで言って、すべてを背負おうとしている。
「証人、答えてください。刻印の過程で、被告から少しでも脅迫や強要を受けた事実はありますか?」
「……」
「証人?」
私は強く唇を噛み締めた。
――もう、知らない!
私がいつから、あの人の言うことを大人しく聞く良い子になったっていうのよ。
「……いいえ」
「……?」
「クロード様は、そのようなことは一切していません。刻印しようと言ったのは私です」
私がきっぱりと言い切ると、検察官は思わず言葉を失った。傍聴席にいたエスパーたちからも大きなどよめきが上がる。けれど私は構わず、自分が言うべきことを一つひとつ口にしていった。
「私、内気なんです。だからクロード様に、私と刻印してくださいってお願いしたんです。ガイディングの適合率を調べて、一番相性の良いエスパーと必ず刻印するって決めていました。その相手がクロード様なら刻印して、違う人なら諦めようって。でも、ちょうどクロード様との適合率が一番高かったんですよ? 本当にびっくりしました。だから、あれこれ悩むこともなく、その場ですぐに『お願いします』って言いました」
離れた場所に座るクロードがガラにもなく額を押さえたのが見えた気がしたが、私は見なかったことにした。
その後も検察官は何度も私に質問を重ねたが、私は一貫して「脅迫も強要もなかった」「刻印を望んだのは私だ」と答え続けた。
「ローズ・バレンタインさん。あなたはセンターの職員です。センターに届け出もせずエスパーと刻印することが重大な犯罪であると、知らなかったはずはありません。違法だと知りながら、それでも刻印したのですか?」
「はい、そのとおりです!」
「証人……それは自慢になりませんよ」
「立場を入れ替えて考えてみてください! もしあなたがガイドだったとして、相手がお金持ちで、イケメンで、色気もあって、しかもとびきり強いエスパーなんですよ!? おまけに適合率まで高い。そんな人がいるのに、わざわざ他のエスパーを選びますか? 私は他の中途半端なエスパーをガイディングしたくなかったから、『早く刻印しましょう』って自分からお願いしたんです。私が、私から!」
私の証言があまりにも率直すぎたのか、傍聴席のエスパーたちから一斉に不満の声が上がった。もちろん、そんな文句を気にする私ではない。
結局、第一の罪状についての尋問はそのまま終了した。
席へ戻ると、じっとこちらを見つめる視線を感じた。振り向くと、クロードが何とも言えない複雑極まりない表情で私を見ていた。
ふん、だから何よ。あなたに合わせて考えを変えるつもりなんてない。私は私の好きなようにするんだから。
「文句ある?」とばかりに反発してみせると、クロードはついに私を止めるのを諦めたのか、小さく苦笑した。どうやら怒ってはいないらしい。
ともかく、そうして第二の罪状についての審理が始まった。今度はクロードが証言する番だった。
「被告。センターに届け出をせず刻印した行為は、他のエスパーがそのガイドと刻印する機会を奪う重大な犯罪です。そのことを理解していましたか?」
「理解していました」
クロードは悪びれる様子もなく答えた。そのうえ、「それで?」と言わんばかりに、わずかに首をかしげてみせる。検察側はその傲慢な態度に不快感を隠せず、表情を曇らせた。
「ローズ嬢がガイディング適性検査を受けるずっと以前から、被告がローズ嬢と親しく行動を共にしていたことは、センター内でも広く知られていました。ローズ嬢がガイドだと、ずっと前から知っていたのですね?」
「知っていました」
「では、ローズ嬢がガイドであることを知りながら、センターには意図的に隠していたことになりますね」
「口が曲がっても、言うことだけは真っすぐですね。末端のエスパーですら気づいていた事実を、センターだけが最後まで見抜けなかった。それで、その無能さまで私の責任だとでも言うんですか?」
だらしなく腰掛けた姿勢。挑発するような口調。人を見下したような視線。三拍子そろった「まったく反省していない」としか思えない態度に、法廷の空気は一気に冷え込んだ。
いや、普通なら頭を下げて謝る場面でしょう!? それなのに、どうしてわざわざ挑発するようなことを言うのよ!
私は気が気ではなく、ハラハラしながらクロードの様子を見守った。
「それとも違いますか?」
検察側は勢いづき、興奮を隠せない表情でまくし立てた。
「被告は、自分の行為がセンターの秩序をどれほど乱すものか、まったく理解していないようですね。センター所属のエスパーには、ガイディングを受ける権利があります! ガイドはエスパーよりもはるかに人数が少ないのです。たった一人のガイドとの刻印でさえ、慎重に慎重を重ねて行われるべきなのです!」
「……」
「ガイディング法第5条第7項では、『ガイドは、適合率60%を超えるエスパーが二人以上いる場合、原則として刻印してはならない』と定められています。それほどまでに、適合率60%を超えるガイドは、すべてのエスパーにとって夢のような存在なのです。しかも、このガイドはセンター所属エスパーの過半数と適合率60%を超えていました! これが何を意味するか、お分かりですか?」
「……」
「そのガイドは、本来ならすべてのエスパーが平等にガイディングを受けられるよう、共有されるべき存在だったのです……!」
その瞬間、検察官の言葉は途切れた。
――ドォンッ!!
爆発のような轟音が法廷に響き渡る。クロードの前に置かれていた頑丈な大理石の机が、そのまま真っ二つに砕け散ったのだ。
机が崩れ落ちる中、ポケットに手を突っ込んだまま足を組み、気だるげに座るクロードの姿勢は微動だにしない。砕けた机とクロードの顔を交互に見比べた検察官は、顔を真っ青にした。しばらく言葉を失っていたその表情は、やがて恐怖から怒りへと変わる。
「……な、なんという無礼な……!」
「次は、お前の頭だ」
クロードは殺気立った声で唸った。また好き勝手なことを言うなら、次は本当に頭を叩き割る――そんな露骨な脅しに、検察側は思わず肩を震わせる。
その場を収めたのは裁判長だった。
「まあまあ、落ち着いてください。被告。法廷で異能を用いて相手を威嚇する行為は、判決にも悪影響を及ぼしかねません。どうか自重してください」
その言葉を聞いたクロードは鼻で笑い、気だるそうに椅子の背にもたれかかった。裁判長は深くため息をつく。
「これ以上の尋問は意味がなさそうですね。検察側、最後の意見を述べてください」
「……尊敬する裁判長。ご覧のとおり、被告は自らの罪を認識していながら、まったく反省の色を見せておりません」
検察官はクロードのほうをまともに見ることもできず、視線を逸らしたまま硬い口調で述べた。
「以上の理由から、被告に対し懲役10年の厳罰を科すよう求刑いたします」
その言葉は、まるで胸を強く打ちつけるように響いた。
まったく予想外だったわけではない。ガイドとの刻印は、センターが最も厳しく管理している事項なのだから。許可を得ない刻印によって、エスパーが数年以上の実刑判決を受けることは珍しくない。ましてや、反省の態度すら見せず、あれほど挑発的な態度を取っていたのだから。
裁判を傍聴する前から、私が一番心配していたのもこのことだった。
『――クロード様、このまま本当に刑務所へ入ることになったら、どうするんですか……』
『――ローズ、そんなことにはならない』
『――どうしてクロード様にそんなことが分かるんですか!』
クロードが刑務所に入るなんて、あまりにも似合わなくて、思わず涙が込み上げてきた。潔癖症がひどく、家の外では顔以外の肌を絶対に見せない人なのに、囚人服一枚だけを着せられ、狭くて汚く、しかも他の受刑者までいる刑務所生活なんて、どうやって耐えるというの。
私は本気で心配していたのに、当のクロードは口元をゆるめて笑うだけだった。
『――ローズ、お前が思っているより、お前のエスパーは優秀だ』
『――もう、何を言ってるんですか……』
『――センターが、ようやく現れた刻印ガイドを、何年も刑務所に閉じ込めておくような愚かな選択をするはずがない』
『――……』
自分の実力を誰よりも理解しているクロードらしい言葉で、相変わらず自信満々だったが、確かに一理あった。
クロードはこの世界で唯一のS級エスパーではない。それでも、クロードという存在は間違いなく唯一無二だった。原作ゲームでクロードが暴走した際、攻略対象だったS級エスパーたちが次々と命を落としたのも無理はない。他のS級エスパー全員が力を合わせても太刀打ちできなかったのだから、それ以下のランクでは比べることすらできない。
だが、少なくとも一人で百人分の働きをするような人材であるクロードを、センターはこれまで十分に活用できていなかった。ガイディングアレルギーを抱えるクロードはガイドを拒み、センターも暴走の危険を抱えた彼に必要なものを与えられなかったからだ。
事態はここまで大きくなってしまったが、本当はセンターも、クロードが刻印ガイドを得ることを、おそらく本人以上に望んでいたはずだ。それが、誰にも制御できない彼を制御できる唯一の手段になるのだから。
あえて例えるなら――競走馬として超一流の血統なのに、それを子ども向けの乗馬体験で使っているようなもの、だろうか。
『――私はこれまで、ガイディングを受けられず暴走の危険性が高いという理由で、多くの任務から外されてきた。むしろセンターは、刻印ガイドから安定してガイディングを受けられるようにして、それを理由に私をこれまで以上に働かせるつもりだろう』
『――……』
『――せいぜい罰金刑が関の山だ』
あまりにも自信満々に言い切るので、話しているうちに私まで少し納得しかけてしまった。
そう、たとえ求刑が懲役10年だったとしても、最終的な判決は結局、罰金刑程度で済むはずだ。クロードなら、お金はいくらでもあるのだから。そう自分に言い聞かせ、不安を必死に押し込めた。
双方の最終陳述が終わると、裁判官たちは評議のため一度退廷し、しばらくして判決を携えて戻ってきた。センターの緊急裁判は、その日のうちに判決が下される。分かっていたはずなのに、胸が締めつけられるような緊張感が走った。
厳かな声で裁判長が判決文を読み上げ始める。
「被告は、無許可での刻印が重大な犯罪であることを理解していながら、ガイドを独占したいという衝動を抑えられず、結果として刻印を行った。よって、その罪は重い」
大丈夫。私はそっと拳を握りしめた。無罪になるとは最初から思っていない。重要なのは量刑だ。
「しかし、被告は覚醒以来、長年にわたり適合するガイドを見つけられず、ガイディング薬剤に頼ってきたこと。また、そのような困難な状況にありながらも、これまでセンターおよび国家に多大な貢献を果たしてきたこと。さらに、被告を刻印ガイドから引き離して刑務所へ収監・隔離するよりも、刻印ガイドによる安定したガイディングを継続させ、センターおよび国家への貢献を継続させるほうが公益にかなうと判断し、以上の事情を総合的に考慮した結果――」
――よかった!
全身の力が抜けるほど張り詰めていた緊張が、一気にほどけた。
ここまで丁寧に情状酌量の理由を並べるということは、つまりクロードを刑務所へ送るつもりはない、ということだ。クロードの言うとおり、せいぜい罰金刑くらいで済むのだろう。クロードほどの資産家なら、罰金など実質的には無罪同然だ。
……そう思っていた、次の瞬間だった。
「――被告に、二千億ベルクの罰金刑を言い渡す」
「えっ!?」
最後の悲鳴を上げたのは、私だった。
二千億ベルクですって!?
契約では週5日・52時間勤務。けれど実際には休日出勤も夜勤も当たり前で、しかも手当らしい手当もない。そんなブラックなセンター職員として一年間必死に働いても、年収は一万ベルクにも届かない。その仕事を一生続けたって到底稼げない額が、二千億ベルク!?
センターで働いていた頃は、『百万円でも空から降ってこないかな。そうしたら今すぐ辞表を出して豪華客船で世界一周旅行でもするのに』なんて馬鹿みたいな夢を見ていたけれど……二千億ベルクは次元が違いすぎる。
センターの年間予算だって五百億ベルク程度のはずなのに、二千億ベルク!?
五千億ベルクもあれば、首都中の土地や建物を丸ごと買えるんじゃないかというほどの大金だ。その途方もない金額を、実際には刻印すらしていない「偽りの刻印」の代償として支払えというの!?
「二千億ベルク!? 冗談でしょう!?」
ガタン、と椅子を蹴飛ばすように立ち上がった。
どうして無断で刻印し、しかも反省の色すらない人間にたかが罰金刑だけなのかと抗議していたエスパーたちの視線が、一斉に私へ向けられた。
「私は認めません!」
刻印していないと明かせば済む話だ。死んでも、そのお金だけは払わない。それに、少しくらい他のエスパーをガイディングしたって何だというのよ! ガイドなんだから、結局は誰かをガイディングすることになるんでしょう!
「証人、何か言いたいことがありますか?」
「あります! たくさんあります! 私とクロード様は実は……!」
実際には刻印なんてしていないんだから、その罰金は払えない! そう真実を明かして判決に異議を唱えようとした、その時だった。
むぐっ、と誰かに勢いよく口をふさがれた。
もちろん、いつの間にかそばへ来ていたクロードが、自分の手で私の口を押さえたのだ。絶対に真実を明かさせるつもりはない、という強い意志が伝わってくる手つきだった。
口をふさがれた私は、さらに必死にもがき始めた。当たり前でしょう! このままじゃ、二千億ベルクを払う羽目になるんだから!
釣り上げられた魚のように暴れて抵抗すると、クロードは今度は私の腰までガシッと抱き寄せ、力ずくで押さえ込んできた。
クロードと力比べをして勝てるはずがない。結局、私は彼の腕の中にすっぽりと拘束され、身動き一つ取れなくなってしまった。
「ローズ、頼む……!」
「んーっ……! んんーーっ!」
見てよ! 私にはまだ言いたいことが山ほどあるのに!
体は動かせなくても、塞がれた口で必死に抵抗の声を上げ続けると、法廷内の人々も次第に異変に気づき始め、ざわめきが広がっていった。さっきまで怯えて縮こまっていたガイドが、なぜ急に目の色を変えてあれほど暴れているのか、不思議に思ったのだ。
そのとき、裁判長が助け舟を出すように口を開いた。
「被告、ガイドを放してください。何か言いたいことがあるようです。話を聞いてみましょう」
「んんーっ!」
そう、その通り! 実は私たち、契約なんてしていません! 他のエスパーが十人でも百人でも真面目にガイディングしますから、どうか罰金だけは取り消してくださいって、ちゃんと頭を下げてお願いするつもりなんです!
燃えるような視線でクロードを見上げると、彼の顔にははっきりとした敗北感が浮かんでいた。
「被告、ガイドを放してください」
「…………」
「被告!」
「……裁判長。重大な申し上げたいことがあります」
クロードは深いため息をつき、ようやく口を開いた。すでに判決が下された後だけに、彼の一言は法廷に大きな波紋を広げた。ざわめくエスパーたちを静めながら、裁判長が問いかける。
「何ですか。その重大なお話というのは?」
「私はセンターに入って以来、半生をガイディング薬に頼って生きてきました。一度として、まともなガイディングを受けたことはありません。暴走寸前だった私が、ようやくガイドから人生で初めてのガイディングを受けました。そのガイドが他のエスパーの手に渡ることなど、到底耐えられませんでした。どうにかしてでも独占したかったのです。だからこそ、正式な手続きを踏まず、契約を強行したことを認めます」
法廷に響くクロードの告白。
その言葉は、この裁判で彼が口にした中で最も誠実で、最も偽りのないものだった。
――それでも。
私が本当に聞きたかった言葉は、それじゃなかった。
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裁判の罪状とクロードの覚悟
無断でローズと「刻印」した罪に問われたクロードは、ローズを処罰から守るために自分一人が悪者になる嘘の証言を望み、法廷でも不遜な態度を貫いてすべての非難を背負おうとした。
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ローズの反論と想定外の判決
クロードを守りたいローズは彼の指示を無視し、「自分が望んで刻印した」と主張して強制罪を否定。刑務所収監は免れたものの、国家貢献度を考慮された結果、二千億ベルクという天文学的な罰金刑が言い渡された。
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二人のすれ違いとクロードの告白
実際にはまだ刻印していないため、大金を払うくらいなら真実を話して他のエスパーをガイディングすると暴れるローズと、それを力ずくで止めるクロード。クロードは「彼女を独占したかった」と本心を告白するが、それはローズが本当に求めていた言葉ではなかった。