潔癖症な黒幕のガイドなんて御免です

潔癖症な黒幕のガイドなんて御免です【23話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「潔癖症な黒幕のガイドなんて御免です」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【潔癖症な黒幕のガイドなんて御免です】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「潔癖症な黒幕のガイドなんて御免です」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載...

 




 

23話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 伝説のユニコーン

検査官は「5分ほどお待ちください」と言い残して去っていったが、その言葉も虚しく、5分どころか30分が過ぎても結果は発表されなかった。

それでも検査室に集まった人々は、誰一人として席を立とうとはせず、じっとその場に留まり続けていた。沈黙と熱気に満ちた空間のなかで、私はまるで動物園の檻に閉じ込められた猿にでもなったかのような錯覚を覚えていた。

センターは閉鎖的な社会だ。そこにいるエスパー、ガイド、そして一般人をすべて合わせても、せいぜい一つの大学キャンパス程度の規模しか持たない。当然、その中で出会う人間も、そこで起こる出来事もバリエーションは少なく、事件といえばどれも似たり寄ったりのものばかり。そんな変化の乏しい退屈な世界で暮らす彼らにとって、この状況がどれほど刺激的で、極上のエンターテインメントであるかは想像に難くなかった。

何より、名声に反して私生活があまりにも潔白すぎたクロードである。非の打ち所がない国民的英雄でありながら、センター所属の公式ガイドから一度もガイディングを受けてこなかった彼については、これまで無数の陰湿な憶測が飛び交っていた。「彼の屋敷の地下には、専属のガイドが10人ほど監禁されているらしい」などという、怪談めいた噂がまことしやかに囁かれていたほどだ。

そこへ突然、本当に彼から拉致され、監禁され、脅迫を受けていたと主張する未登録ガイドが現れた。しかも、そのクロード本人がこの場に堂々と姿を現し、その告発を事実だと認めるような行動まで取ってしまったのだ。野次馬たちが色めき立たないはずがなかった。

(……あの時、意地を張って家を飛び出さなければよかった)

私は自分の愚かさに目眩がした。アジル先輩があれほど背中を押してくれたとはいえ、もっと慎重になるべきだったのだ。毎回何も考えずに感情任せに突っ走っては失敗して、私は一体今まで何を学んできたというのだろう。

後悔はいつだって遅すぎる。混乱していた頭が冷えていくにつれて、押し寄せてきたのは猛烈な自責の念だった。

私は、取り返しのつかないことをしてしまった。今回の身勝手な告発によって、彼の輝かしい名声には一瞬にして泥が塗られた。これから先、彼がどんな偉業を成し遂げようとも、「かつて無力な未登録ガイドを虐待した前科者」という不名誉な肩書きが生涯つきまとうことになる。それだけではない。センターにはガイド保護のための厳しい規定がある。最悪の場合、クロードは重い処罰を受けることになるかもしれないのだ。

これから、私たちはどうなってしまうのだろう。ガイディングにはひとまず成功した。なら、本当に私が賭けに勝つことになるのかもしれない。そうして私たちは、今度こそ完全に他人同士になってしまうのだろうか。

それとも、もし私が負けたら――その時はどうなる? 本当に、あの生々しい警告の通りに契約を結ぶことになるのだろうか。

だが、何より恐ろしかったのは――どちらの結果になろうとも、もう二度と、私に優しく笑いかけてくれるクロードの姿が想像できなかったことだ。

これまで、彼の意地悪な悪戯やからかいに腹を立てることはあっても、本気で彼を嫌ったことなど一度もなかった。私が怒って追いかけ回せば、彼はいつも楽しそうにそれを眺めていて、最後にはいつだって折れて私をなだめてくれた。私の頭を撫でる大きな手も、満足そうにほころぶ美しい表情も、優しく見下ろす眼差しも――どれも大切な宝物を扱うように温かくて。恋愛に夢ばかり見ていた私が思い描いていた理想の関係そのものだった。

だから、時々……本当に時々だけれど。

(彼は私のことを、本当に愛してくれているのかもしれない)

そんな風に、自惚れてしまいそうになる夜があった。

勘違いしてはいけないと何度も自分に言い聞かせても、時々は何もかも忘れて、彼の温かい腕の中へ飛び込みたくなった。もし私が、そんな甘い勘違いに溺れる愚かな女になれたなら、真実を知って怯える今の私とは違って、純粋に愛される女性として彼の隣にいられたのかもしれない。たとえそれがいつか覚める夢だったとしても、その記憶はこれからの孤独な人生を支える幸せな思い出になってくれたかもしれないのに。

だけど、現実は残酷だった。

汚れたものを払うように冷たく振り払われた手。体温を感じさせない冷え切った表情。何の未練も残さずに背を向けて去っていった、あの後ろ姿。

頭では、先に彼を騙して告発したのは自分なのだから自業自得だと言い聞かせようとしても、心はどうしても割り切れなかった。恐ろしい言葉で脅された時よりも、力ずくで追い詰められた時よりも、まるで「お前のような汚物には触れるのも忌々しい」と言わんばかりのあの徹底的な拒絶の態度のほうが、ずっと深く、私の胸を切り裂いた。

今回の件で私に深く失望したクロードは、これまで私にだけ見せてくれていたあの特別な表情を、もう二度と見せてはくれないだろう。その事実を自覚した瞬間、喉の奥が詰まって息ができなくなった。最初から何も与えられていなかったのならともかく、一瞬にしてそのすべてを失って、私はこれから平気な顔をして生きていけるのだろうか。

……もし、あの日家を出なかったなら、私は疑心暗鬼になりながらも、まだ彼のそばで幸せな日常を送れていたのだろうか。

次から次へと暗い思考が巡る中、ようやく一瞬の静寂が訪れた。検査用紙を手にした検査官が、部屋に戻ってきたのだ。

唾を飲み込む音さえ聞こえそうなほど、その場にいた全てのエスパーとガイドが息を潜め、検査官の厳粛な動きを凝視していた。しかし、戻ってきた検査官の顔は、幽霊でも見たかのように青ざめ、強張っていた。

「……信じられない結果が出ました」

検査官は震える手で眼鏡を押し上げながら、ゆっくりと口を開いた。

「私どももこの数値を到底納得できず、何度も機械の再検査を行いました。しかし……結果に誤りはありません。バレンタイン様のガイディング能力は……極めて特殊です。今後、学術的な研究によって解明すべき点が数多くありますが、それはひとまず置いておきましょう」

「……」

「まず、バレンタイン様のガイディング波長を精査した結果、当センターに所属する全エスパーの過半数に対し、60%以上のマッチング率を持つことが判明しました」

その一言が放たれた瞬間、検査室にいた全員が激しく息を呑んだ。

一般的に、エスパーとガイドの平均的なマッチング率は30〜50%程度。50%を超えていれば「非常に相性が良い」と評価され、まして60%以上ともなれば、それは「生涯の伴侶」「運命の相手」と呼ばれる領域だ。実際、広大なセンター内を見渡しても、60%以上のマッチング率を持つペアなど指折り数えるほどしか存在しない。

すべてのエスパーが心のどこかで生涯夢見る、奇跡の条件。それゆえに、そのような高適合ガイドはエスパーたちの間で「ユニコーン」と呼ばれていた。存在する可能性はゼロではないが、現実にはお目にかかれない伝説の生き物だからだ。

それなのに、この私がセンター所属エスパーの過半数と60%以上で適合するだと? それではまるで、一軒おきに一人ずつユニコーンを飼っているようなものではないか。あまりにも常識を逸脱した結果に、頭が真っ白になった。

だが、これは悪夢のプロローグに過ぎなかった。

「それだけではありません。70%以上のマッチング率を示すエスパーが三百数十名、さらに80%以上は七十名に達しています」

「え……?」

歴代のエスパーとガイドの歴史において、これまで確認された最高のマッチング率は71%だったはずだ。それなのに、80%以上が七十名もいるという。

その域に達すれば、もはやユニコーンどころの騒ぎではない。まるで翼を広げ、炎を吐きながら天を駆ける伝説の「竜」だ。世界に一匹いるかどうかという話ですらなく、そもそもこの次元に実在するのかさえ怪しいような神話の怪物。

衝撃的な報告が立て続けに飛び出し、検査室は完全にコントロールを失って騒然となった。

最も激しく動揺していたのは、言うまでもなくそこにいたエスパーたちだった。60%を超えるガイドと出会うことすら天文学的な確率であることを、彼らは身を以て知っている。それなのに、自分たちの中の相当数が、70%、あるいは80%を超える未知の快楽を伴うマッチング率で、この目の前の小柄な少女と適合する可能性があるというのだ。

それは彼らにとって、突如として天から「おめでとうございます! 伝説の賞品に当選しました」という通知が届き、家に帰ったら玄関先で本物の竜が大人しく待っている、と言われるようなものだった。

興奮に狂ったエスパーたちは一斉にどよめき始め、我先にと検査官へ質問を浴びせかけた。さっきまではクロードの顔色を窺って死んだように静まり返っていた者たちも、今や極上の麻薬を目の前にして、世界最強の男が同じ空間にいることすら忘れてしまったかのようだった。

しかし、検査官が畳みかけるように放った次の言葉は、彼らの狂熱をさらに一階層上の次元へと引き上げた。

「しかも……90%以上のマッチング率を示すエスパーが、三名いるのです」

「…………」

凄まじい静寂が訪れた。検査室は一瞬にして、水を打ったように静まり返る。

気がつくと、室内のすべてのエスパーたちの視線が、一斉に私へと注がれていた。私のような一般人には到底理解しきれないほどの、ドロドロとした暗い欲望を剥き出しにした目で。

ふと、昔見たドキュメンタリー番組の映像が脳裏をよぎった。重度の麻薬中毒者の人生を追った番組だ。激しい禁断症状にのたうち回っていた彼が、ついに暗闇の中で一欠片の薬物を見つけ出した、その瞬間。あの時の彼の目は、まさに今、私を見つめるエスパーたちと同じ濁った光を宿していた。

ぞくり、と背筋から頭のてっぺんまで悍ましい戦慄が駆け抜ける。私は本能的に身を縮め、防衛本能を尖らせた。

たとえ正式なガイドとして登録されたとしても、一人が1日にできるガイディングの量には限界がある。そのため、定期ガイディングを割り当てられるエスパーは、多くても二十人に満たないのが通例だ。つまり、いくら60%や70%が優秀な数値であっても、80%以上のマッチ率を持つ上位陣の中でも、ごく一握りの特権階級だけにしか私から直接ガイディングを受ける権利は与えられない。

じゃあ、その選別から漏れた、狂気にとらわれた残りの大勢のエスパーたちはどうする? 順位が低いからとおとなしく諦めるだろうか。

……そんなはずがない。彼らはきっと手段を選ばず、法を犯してでも、私を拉致して自分だけのものにしようとするはずだ。センター中の女性エスパーに手を出しまくる好色なオスカーならともかく、地味に生きたい私にとって、こんな四面楚歌の状況は少しも歓迎できなかった。こんな恐ろしい奇跡、私には到底――。

「こ、これは本当に、人類の歴史における奇跡としか言いようが……ああっ!?」

突然、検査官の体がふわりと宙へと浮き上がり、それ以上言葉を続けることはできなくなった。

「……誰だ」

いつの間にか検査官の目の前まで音もなく歩み寄っていたクロードが、地獄の底から響くような声で低く唸った。

「い、いったん下ろしてくださ……っ!」

「誰だ。その90%以上のマッチ率を持つエスパーは、誰だと聞いている」

しかし検査官は恐怖のあまり窒息しかけ、手足をバタつかせるだけでまともに答えることができなかった。短気なクロードは、用済みとばかりに検査官を放り出すと、彼が持っていた検査結果の用紙を乱暴に奪い取った。

冷酷な目で書類のページをめくるクロードの口元に、ふっと、かすかな笑みが浮かぶ。

そして次の瞬間、彼の血のように赤い鋭い視線が、まっすぐに私へと向けられた。

私は本能的に悟った。

(……終わった)

理由は分からない。けれど、私はもう死んだも同然だ。

クロードが怒りに満ちた、地響きを立てるような足取りで私のほうへ歩いてくる。その姿を見た瞬間、先ほどまで恐怖していた他のエスパーたちの存在なんて頭から完全に吹き飛び、ただ眼前の男への恐怖だけで脳内がパニックになった。当然だ。クロードは、この場にいるエスパー全員が束になってかかってきても塵にされる、世界最強にして最凶のエスパーなのだから。

「ま、待って、待ってください、クロード様! 話し合いましょう、ね?」

「……」

「と、とりあえず適切なソーシャルディスタンスを保って、理性的に……!」

だが、半ば正気を失い、瞳に狂気の炎を宿したクロードに、そんな怯える小動物の説得が通じるはずもなかった。

一瞬にして私の目の前まで距離を詰めた彼は、私が座っているパイプ椅子の肘掛けを両手でガシリと掴んだ。

ぐらり、と視界が大きく傾く。

あまりにも軽々と、椅子ごと私の体が宙へと持ち上げられた。かと思えば――。

「きゃあっ……!」

ドンッ!

後ろへひっくり返った椅子が、けたたましい音を立てて床へ倒れ込んだ。私は床に叩きつけられないよう、必死に椅子の肘掛けにしがみつく。クロードは倒れた私を見下ろすように、そのままぐっと身を低くした。圧倒的な体格差と筋力差。私は息を呑み、小刻みに震えることしかできない。

気づけば私は、床と、倒れた椅子と、彼の巨大な体躯の間に完全に閉じ込められていた。しかも、反射的に身を引こうとした私の顎を、彼の冷たい指先がガチリと掴み、乱暴に上を向かせる。

身動き一つ取れなくなった私の視界のすべてを塞ぐように、彼は奪い取った検査結果の用紙を目の前に突きつけた。

「目があるなら見えるだろう、ローズ・バレンタイン」

「ひ、ひぃっ……」

私は他の人の結果を見る余裕なんて、1ミリも残っていなかった。ただ、マッチング率順に並べられたデータの一番最上段、第1位の欄にデカデカと印字されたその名前に、完全に思考を奪われた。

【 クロード・ラインハルト —— 97.83%

「……今回は、私の勝ちだ」

ぎり、と奥歯を噛みしばりながら、彼は吐き捨てるように言った。

至近距離で、狂気を帯びた真っ赤な瞳と視線が火花を散らす。私は恐怖のあまり引き攣りながら思った。この男、あとで誰もいない屋敷に私を連れ帰って、本当に骨まで噛み砕いて食べてしまうんじゃないだろうか……?

私の顎をつかむ彼の指に、ぎりっと強烈な力がこもる。あと少しでも加減を誤れば、私の脆弱な骨など粉々に砕け散ってしまいそうだった。

「た、助けてください……」

涙目で震えながら絞り出した私の声は、それだけだった。しかし、それは火に油を注ぐだけで、全く助けにはならなかった。私がその言葉を口にした途端、クロードの額にドクドクと青筋が浮かび上がったからだ。さらに機嫌を損ねたクロードが、獣のように低く唸る。

「誰が、お前を殺すと言った」

……あれ?

殺すなんて言われたこと、あったっけ? じゃあ、この男は私に一体何をするつもりなんだっけ?

恐怖で脳が完全に機能停止したその瞬間、私の身体が突然ふわりと宙に浮いた。気が付くと、私は米俵か何かのように、無造作にクロードの逞しい肩へと担ぎ上げられていた。

「こ、怖いです! 高すぎます……! 下ろして!」

「黙れ」

容赦なく言い放たれたその極低温の一言で、私はふと我に返った。そういえば、さっきまで私は何を絶望していたのだっけ。……いや、違う!

「あれは無効! 今の検査は無効だから!」

「……」

「だって97%なんて数値、人類の歴史であり得るわけないでしょ! コンピューターのバグよ、故障よ! 再検査! もう一回最初から検査して! 私は絶対に認めないから!」

こんなデタラメなこと、確率論的にあり得るはずがない。私がこれまでガイディングしたエスパーは、生涯でクロードただ一人なのだ。それなのに、数千人もいるセンターのエスパーの中で、そのクロードが私とのマッチング率第1位の、しかも97%超えだなんて。私たちは三流の恋愛小説の主人公でもないのに、そんな運命的な設定があるわけがない。

「クロード様が裏で何か細工をしたんでしょ! 検査官を脅したとか! それとも機械を脅迫したとか……ひゃっ!」

その瞬間、私はあまりの衝撃に、脳天に雷を落とされたかのように全身をびくりと硬直させた。肩に担がれたまま必死にもがいていた私のお尻を、クロードが衆人環視の中で、容赦なく思い切りスパンと叩いたのだ。

「……いっ、ちょっと! このバカ! 何するのよ!」

降ろして! 誰か助けて!

私が網にかかった魚のようにジタバタと暴れても、クロードは重戦車のようにビクともせず、全く意に介さなかった。だが、このまま素直に彼の屋敷へ連行されるわけにはいかない。私の手足の安全と、何より純潔のために。

私は藁にもすがる思いで、逆さまになった視界のまま辺りを見回した。こんなに大勢の人間がいるのだ。誰でもいいからお願い、このイカれた最強の男を止めて。

私の切実な祈りが、奇跡的に届いたのだろうか。

未練など微塵もなく、私を担いだまま出口へと背を向けて去っていこうとしていたクロードの前に、精悍な制服を着た治安隊が再び立ちはだかった。

一瞬にして、狭い検査室の中は、私を捕獲したクロードと、それを包囲する数十人のエスパーたちとの緊迫した対峙状態へと移行した。

治安隊長が、肩の痛みに耐えながら悲痛な声を張り上げる。

「クロード様! いくらあなたであっても、このような公の場での暴挙は断じて許されません!」

「そうだ! よく言った、隊長……!」

私が逆さのまま快哉を叫ぼうとした瞬間、突然伸びてきた彼の手によって、容赦なく口元をガバッと塞がれた。私の声をぴしゃりと物理的に封殺したクロードは、向かい合う治安隊の面々へ、冷酷極まりない視線を向けた。

「失せろ」

地を這うようなその一言の威圧感に、真正面から対峙したエスパーたちは恐怖に息を呑み、本能的に身体を震わせた。それでも、彼らは私という「至高の果実(竜)」を前に、容易には引き下がらなかった。

「た、たった今、検査結果を聞いたばかりではありませんか! マッチング率60%以上のエスパーが、すでにこのセンターの半数を超えているのです! 80%以上の適合者だけでも70人以上いる。それが何を意味するのか、同じエスパーであるクロード様ならよくご存知のはずだ……!」

じり、とクロードが一歩前へ踏み出した。

「な、何を……」

「それを、私が知る必要があるのか?」

「…………」

「もう一度聞く。その程度のゴミのような事実を、この私が知る必要があるのか?」

大柄な体格と、周囲の空気を歪めるほどの圧倒的な質量を持つ威圧感。それらを併せ持つクロードに真正面から睨まれ、その精神的重圧に耐えられるエスパーなど、この世界にどれほどいるだろうか。治安隊長はすでに視線を合わせることすらできず、額からは滝のような冷や汗が流れ落ちていた。

それでも――彼は国のため、そして自身の欲望のために、必死に言葉を絞り出した。

「あ、あなたがどれだけ力で脅そうと無駄です! ガイディングは、命を懸けて国のために尽くすエスパーたちの正当な権利だ! それほど人類の至宝たる優秀なガイドであれば、当然センターに所属するすべてのエスパーが平等に利用できるよう、共有財産として管理されるべき――!」

しかし、その男が言葉を最後まで言い切ることは、永遠に叶わなかった。

次の瞬間、治安隊長の身体は目に見えない爆発的な衝撃波によって天井近くまで一瞬で吹き飛ばされ、そのまま重力に従って床へと猛烈な勢いで叩きつけられた。

ドォン――!

耳を聾するほどの凄まじい轟音が響き渡り、私は塞がれた口の奥で、悲鳴すら上げられずに身体をすくませた。たった一撃。触れもせず、ただ能力の余波をぶつけただけで、治安隊長は床に転がったまま意識を失い、ぴくりとも動かなくなった。

しかし、クロードの暴挙はそれだけでは終わらない。彼は床に倒れ伏した治安隊長の無防備な首筋を、無造作に、自身の重厚なブーツの底で踏みつけた。

「ぐっ……!」

気を失っているはずなのに、首の骨を圧迫された治安隊長の口から、苦しげな血の混じったうめき声が漏れる。

「……もう一度言ってみろ。誰を共有するだと?」

クロードの瞳に宿る光は、完全に一線を越えた狂気そのものだった。この男は今、これだけ大勢の目撃者がいる公の場の中心で、本気で同胞のエスパーを一人、文字通り踏み殺そうとしている。

隊長を一瞬で無力化された治安隊も、周囲を取り囲んでいた他のエスパーたちも、その圧倒的な「本物の怪物」の殺気を前に恐怖で完全に蛇に睨まれた蛙となり、誰一人として止めるために動くことすらできなかった。

当然だ。正気を失い、独占欲に狂った世界最強のクロードを、力ずくで抑え込める存在など、この世界のどこを探しても存在しないのだから。

「もう一度言えと言っただろう……」

ギリッ、と踏みつけられた足元から、人間の骨が軋み、砕けかける嫌な音が室内に響き渡る。

「ク、クロード様!」

私は塞がれていた手から無理やり口を引き剥がすと、逆さまの体勢のまま、できる限り強く彼の首にしがみついて叫んだ。

「か、帰りましょう……! お願いだから、もうやめて! お、お怒りなら、その怒りは私にだけ向けてください。これは、私たち二人の問題ですから!」

「…………」

「お願いします……帰ろう、クロード……」

私は半ば泣きそうになりながら、彼の背中に向かって必死に懇願した。

もちろん、私一人の力でこの暴走する怪物をどうにかできる自信なんて、微塵もありはしない。けれど、力で彼を止められないという点においては、そこにいる大勢のエスパーたちも、脆弱な私も全く同じなのだ。むしろ彼らが正論を吐いてそこに居座り続けることがクロードを余計に刺激し、凶暴化させているだけで、何の助けにもなっていなかった。

だったら、これ以上彼が誰かを殺して完全な大罪人になってしまう前に、二人きりになれる静かな場所へ連れて行かれたほうが、まだ生存確率が高かった。

問題は――完全に理性を失い、獣と化した彼が、私の必死の言葉に耳を貸してくれるかどうかだったが。

「…………」

スッ、とそれまで治安隊長の首筋を無慈悲に圧迫していたブーツの底が、静かに離れた。

怒りと殺意で激しく上下していた彼の強靭な胸板も、私の静止の言葉を受けて、ようやく少しずつ落ち着きを取り戻していく。

私を肩に担ぎ直すと、クロードはもう二度と後ろを振り返る必要もないというように、迷いのない足取りで歩き出した。狭い検査室をぎっしりと埋め尽くしていた無数の見物人たちは、今や恐怖のあまり悲鳴を押し殺し、モーセの十戒のように慌てて左右へと分かれて道を開けた。

……え?

嘘、本当に私の言うことを聞いてくれたの?

あまりの物分かりの良さに少し驚き、胸をなでおろしかけた――その瞬間だった。

「その言葉、のちほどたっぷりと責任を取ってもらう」

「…………」

耳元で、頭の芯まで凍りつくような、低く陰鬱な声が囁かれた。

私はそれ以上暴れるのを諦め、絶望と共に大人しく目を閉じた。

(……神様。いっそ思い切り怒鳴ってくれたほうが、まだ命の保証がある気がするのですが……)

 



 

 

 

 

  • 主人公の驚異的なマッチング率の判明

    検査の結果、主人公はセンター所属エスパーの過半数と60%以上、さらに70%や80%を超える「伝説級」のマッチング率を持つ極めて特殊なガイドであることが明かされ、検査室は欲望に駆られたエスパーたちで騒然となったこと。

  • クロードとの「97.83%」という運命的な結果

    混乱のなか、クロードが強引に奪い取った書類には、彼とのマッチング率が「97.83%」という圧倒的な1位の数値で記載されており、激昂したクロードによって主人公は強引に連れ去られそうになったこと。

  • 理性を失ったクロードの暴走と主人公の懇願

    主人公の共有を主張する治安隊長をクロードが力ずくで叩きのめし、踏み殺そうとしたため、主人公が「二人の問題だから私にだけ怒りを向けて」と必死に懇願したことで、クロードは殺るのをやめ主人公を担いだままその場を去ったこと。

 

 

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