こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
179話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 愛が受け継がれる指輪
こうならないようにと、何度も部屋で一人きりで練習した。繰り返し、繰り返し。けれど、その練習が何一つ役に立っていないように思えた。
そして、ついに最後の一言だけが残った。
実のところ、一人で練習していたときは、この最後の言葉だけはどうしても声に出して言えなかったのだ。顔が真っ赤になって鏡をにらみつけるだけで終わったり、恥ずかしさの勢いでベッドに倒れ込んだりしたことも何度もある。
それでも、今は言わなければならなかった。彼女は緊張で震える手をぎゅっと握りしめ、ようやく覚悟を決めた。
少しの沈黙が流れたが、ノアはクラリスを急かすことはしなかった。ただ、驚いたような表情で彼女を見つめているだけだった。おそらく彼は、すでに彼女の気持ちをある程度察しているのだろう。だからこそ、ここではっきりとした告白を聞いたとき、彼はどんな顔をするのだろうか。
「ノア……」
彼女は、やっとの思いで名前を呼んだ。もう、引き返すことはできなかった。
本当に、長い間――胸の奥に押し込めてきた言葉を、いま伝えるしかなかった。
「……好き」
クラリスは、はっきりと口にした。確かに、はっきりと――言ったはずだった。
それなのに、よりにもよって同じ瞬間。深夜を告げる鐘の音が彼女の告白と完全に重なって、夜の街じゅうに響き渡った。
クラリスは思わず周囲を見回した。鐘楼から流れてくるその音は、容赦なく二人の耳元を叩き抜け、暗い夜空のどこかへと溶けていく。耳が、じんとする。
――いや、問題はそこじゃない。
クラリスは、今すぐにでも鐘楼にぶら下がっている鐘に向かって問い詰めたかった。どれほど勇気を振り絞った言葉だと思ってるの!? それを、あんな大音量でかき消すなんて……!
(もう一回、言わなきゃいけないの? え、どこから? どうやって?)
頭の中で、何度も“告白のやり直し”を想像してはみたけれど――こんな馬鹿げた状況、想定しているはずもなかった。クラリスは、唇をきゅっと噛みしめる。だって、さっきのは間違いなく、人生で一番、真剣だったのに。
そのときだった。彼女の思考を遮るように、低く、落ち着いた声がした。
「……聞こえてたよ」
クラリスの心臓が、びくりと跳ねた。
「鐘の音で、全部は無理だったけど……」
ノアは、少しだけ困ったように笑って、続ける。
「でも――肝心なところは、ちゃんとね」
クラリスは、言葉を失ったまま彼を見つめた。夜風に揺れる髪の隙間から、彼の目がまっすぐこちらを捉えている。逃げ場なんて、どこにもない。
……それでも。胸の奥に溜まっていた不安が、じわりと溶けていくのを、彼女は確かに感じていた。こんな事態が起こるなんて、想像したこともなかった。
「……あ、いや……わ、私……」
動揺して、かろうじて声を絞り出そうとしたその瞬間。
彼女の胴と腰に回された腕が、ためらいもなく彼女を強く引き寄せた。クラリスは踏ん張る間もなく身体が引き込まれ、頭がそのまま彼の胸元へと落ちた。
ノアは両腕でクラリスをしっかりと抱きしめたまま、彼女の髪の上に深く顔を埋める。その間から、整えきれない荒い呼吸音が聞こえてきた。
――もしかして……本当に聞こえてた?
そう心の中で思いながら、クラリスは抱き寄せられる力がさらに強くなるのを感じた。まるで、自分に属するすべてが一つ残らず、彼に包み込まれているかのようだった。
「……聞こえなかった、と思ってた」
彼のローブの上に唇を寄せたまま、小さくそう呟くと、ノアは首を横に振った。
「聞こえたよ。はっきりと」
どうして聞こえたのだろう。声はあんなにも――鐘の音があまりに大きくて、きっとすべてをかき消してしまったのだと思っていたのに。
「……よかった」
クラリスはそう呟きながら、さらに一歩、彼へと身を寄せた。胸元に頬を預けると、すぐそばから、少し早まった鼓動が伝わってくる。
――どくん、どくん。
その音が、やけに愛おしい。ノアが自分の告白を心から喜んでくれているように感じられて、胸が温かくなった。
「好きだよ、クラリス」
頭上から落ちてきたその言葉に、彼女の喉がきゅっと鳴る。髪の隙間で動くる彼の唇がくすぐったくて、クラリスは思わず腕の力を緩め、顔を上げた。
「……うん。私も好き、ノア」
真正面から見つめて言ったその一言に、彼の顔がみるみる赤く染まっていく。
「……なるほど。だから、保全魔法を作った理由が分かった気がする」
ぽつりと零したその言葉に、彼自身がはっとして、すぐに慌てて付け足した。
「い、いや。もちろん、だからといって君を――」
言いかけて、言葉を止める。クラリスは小さく笑った。
「いいよ。でも……少しだけ、嬉しい」
彼女はそう言って、もう一度、そっと彼の胸に額を預けた。夜風に揺れる塔の上で、二人の影は、いつの間にか重なっていた。
「そんな無茶なことをしようって話じゃないわ。分かってる、ノアが私の時間を止めるなんてできないことくらい。……でも、私がどれだけ未来を望んでいるかは、知ってるでしょう?」
彼はすぐに、はっきりと頷いた。
「うん。正直、最近は一人でしか未来を思い描いてなかった。でも、これからはまたノアと一緒に話せる気がして……少し、嬉しい」
「もちろん私は……あなたと、ちゃんと前を向いて未来の話をしたい」
もう堪えきれない、と言わんばかりに、彼はクラリスの髪の上にそっと口づけた。くすぐったさに、クラリスは思わず声を立てて笑った。
「……ねえ。実は、私の中でいくつか決めてることがあるの。でも、ノアが嫌だと思うかもしれないから……軽い提案くらいに思って聞いてね」
「い、今ここで?」
ノアが少し驚いたように問い返すと、クラリスはまた自分が先走ってしまったことに気づいた。どう考えても、こういう話は改めて、別の日を選んで、きちんと話すべきだった。
……どうやら、彼女は本気で“その先”の話をしているらしい。
「ごめん。俺、恋人と付き合うのが初めてで……こういう段取りとか、正直よく分からなくて」
そう言った瞬間、『恋人』という言葉にノアの身体がびくっと跳ねた。否定しなかったのが、せめてもの救いだろう。だが、心臓の方はまったく落ち着いていない。
「……普通に話してください。どうせ私は、ノアの話を聞くのが好きですし。それに……一緒に考えるのは、もっと好きですから」
「……そ、そう?」
クラリスはくすっと微笑み、また少しだけ背伸びをして、彼を真っ直ぐ見上げた。
「最近まで、すごく悩んでたんです。でも――私たちの結婚式は、やっぱり修道院がいいなって思って」
「…………?」
ノアは、完全に自分の耳を疑った。
「セリデンの屋敷も候補には入れてたんですけど……でも、あそこは――私がノアを“ちゃんと意識し始めた”場所ですから」
言い切るような声だった。ノアは反射的に、クラリスの肩に添えていた手を離し、半歩ぶん距離を取った。困惑と動揺が、隠しきれず表情に滲む。
「……ま、待って。えっと……い、今の話、進みすぎじゃないかい……?」
「え?」
クラリスはきょとんと瞬きをしてから、すぐに思い至ったように小さく笑った。
「あ。安心してください。今すぐ、って意味じゃないですよ?」
「……っ」
その一言に、ノアは分かりやすく肩の力を抜いた。
「ただ――」
クラリスは一歩前に出て、今度は逃げ道を塞ぐように、そっと彼の手を握る。
「好きな人と一緒にいる未来を、考えるのは……悪くないでしょう?」
ノアは答えられなかった。握られた手の温もりが、じんわりと伝わってくる。胸の奥で、さっきよりもずっと強く、心臓が脈打っていた。
――ああ。どうやらこれは、とんでもなく“幸せな困惑”らしい。
彼は顔で彼女の両肩を挟むようにして言った。
「どうして、どうしてそれから計画するんだ? 今すぐは、もっと生産的なことが……」
「いや、生産的なこともあるよ」
クラリスは安心させるように言葉を付け加えた。
「やっぱり子どもは五人がいいな!」
「……!」
「数が割り切れないから四人にしようかと考えた時期もあったけど、やっぱり五人がいい。なんだか安定感があるわ」
ノアは今にも泣きそうな顔をしていた。今回も、何かを間違えて踏んでしまったようだった。
「あ……こういう話、ちょっと嫌?」
「ち、違う、嫌なわけじゃない!」
「じゃあ、どうして?」
「ううん、違うんだ。分かったよ。とりあえずその部分については、ちゃんと考えておく」
「もちろん、ノアが望む意見があるなら別に聞くよ。こういうことは、お互いの合意で決めるものだから。ノアは何人がいい?」
「……僕は」
ノアは、まだ熱の残る手で彼女の肩から白い腕をなぞるように触れ、そのまま、ためらいがちにクラリスの手を取って引き寄せた。握られた指先は、いつの間にか彼の腰元へと導かれ、距離は息が触れるほどまで近づいていた。
「……君が、ひとりいればいい」
そう囁くと、ノアは目を閉じ、そのまま指先に口づけた。それは軽く触れて離れるようなものではなかった。想いを確かめるように、確信を刻み込むように――深い呼吸が指の間を通り抜け、彼の感情がそのまま伝わってくる。抱きしめる腕に、決して手放さないという意思が、はっきりと宿っていた。
その口づけに、クラリスの胸は満ちていく。
――選んだのは、私。
そう思えた瞬間、今まで気づかずにいた空白が、音もなく埋まっていった。与えることばかりに慣れていた彼女が、初めて「求められた」と実感したからだ。
胸の奥に、温かいものが灯る。それはきっと、ずっと気づかないふりをしていた――彼女自身の孤独だったのだろう。そして今、その場所には、確かに彼がいた。
「考えてみたら、私も……ノアさえいればいい気がするわ」
ノアはゆっくりと目を開けた。首を少し傾けて見上げた彼と視線が合った、そのとき。手の甲に触れていた唇が、そっと動いた。手でふさがれて音にならなかったその告白は、不思議なほど、クラリスの全身にはっきりと伝わってきた。
* * *
二人は狭い階段を下り、並んで手をつないだまま廊下を歩いた。
ノアの手を握ることには慣れているはずなのに、今日はなぜか、いつもとはまったく違う感覚だった。誰かに見られたら、思わずどこかに隠れたくなるような、少しの照れが混じった気分。
けれどそれは、ノアとの関係が恥ずかしいからではなかった。なぜか、他人の前で愛情を誇示しているような――そういうわけではなさそうだったが。
「あ、そうだ」
クラリスは、つないだ彼の手を落ち着きなく前後に揺らしながら、言葉を投げた。
「ノア。私に、何か言うことない?」
探るような、どこか強い視線を向けられて、彼はそっと目を逸らした。胸の奥を突かれたような、そんな表情だった。
「え、ええと……」
しばらく沈滅したあと、ノアは慎重に口を開いた。
「……もしかして、知ってた?」
「正直に言うと、今日の午前中までは知らなかったわ」
クラリスは少し拗ねたように唇を尖らせる。
「慢でも、魔法使い団が城門を越えて入ってくる様子を見たら、さすがにね。どんなに鈍い私でも、気づかないわけないでしょ」
ノアは魔法使い団の代表として最前列に立ち、ライサンダーとヴァレンタインを正式に迎え入れていたのだ。
「それは……わざと秘密にしてたわけじゃないんだ」
そう言いながら、彼は困ったように、けれど誠実な声で続けた。彼は少し困ったように、彼女の薄い空色の髪を指でいじった。
「もちろん分かってるわ。直接会って話してあげたかったんだよね。ノアは本当に優しい」
「……あ」
彼の反応は、どこかおかしかった。
「ん? 違うの?」
「に、似てはいるけど! いろいろ事情があって……」
「事情?」
彼は一度クラリスの手を離して、ポケットの中を探った。がさごそと物音を立てたかと思うと、彼女の手の上に小さな木箱をそっと置いた。
「早く言えなくてごめん。……俺、魔法使い団の団長になったんだ。だから、どうしても忙しくて」
「全然、出世とは思わないよ。だって言ったでしょ。すべての鉱物はノアのことが好きなんだから。それより、この箱は何?」
クラリスは、彼が差し出した可憐な箱をその場でじっと見つめるだけで、すぐには開こうとしなかった。
「……お母様が残されたものなのね。あなたが話してくれた、あの場所に」
その言葉とともに、クラリスの表情は自然と引き締まる。魔法使いとしての矜持が、無意識のうちにこの箱を“軽々しく扱ってはならないもの”だと告げていたのだろう。やがて彼女は、そっと息を整え、慎重に箱を開いた。
中には、淡い桃色と澄んだ空色――それぞれ異なる宝石を抱いた二つの指輪が、寄り添うように並んでいた。いや、もしかすると、これは二つではなく、“ひとつ”と呼ぶほうがずっと自然なのかもしれない。
クラリスは、磨き上げられた滑らかな表面に、そっと指先を触れた。その瞬間、低く、やさしい声が響いた。
――この指輪は、深い愛のために作られた。
だが、一度も使われることはなかった。それは残酷な運命のせいだったという。
あまりにも近い距離で、幼い日々を共に過ごした男女。兄妹のように、家族のように育った二人は、やがて互いを想う気持ちが変わったとしても、その一線を越えることはできなかった。
――だから、この指輪は眠り続けた。語られぬ想いを抱いたまま。
その意味が何であったのかを悟るまでには、ずいぶん長い時間がかかった。その頃にはすでに、二人がそれぞれ背負うべき運命の道はあまりにもかけ離れてしまっていて、どう言葉を交えばいいのかさえ分からなかった。
二人をつないでいたものは、数通の手紙と、何度か綴られた長い友情の記録だけだったが、それらが続くことは、事実上もうなかった。
それでも、偉大な愛情は二人の間に立ちはだかる数多くの運命を乗り越え、ついには二人を同じ場所へと導いた。長い時間をかけて育まれた想いは深く、愛が芽生えるのにも、それほど時間は必要なかった。二人はすぐに結婚を決めた。
幸福の絶頂と呼ぶにふさわしいその時、運命は今回もいたずらを仕掛けてきた。
「……事故が、あったみたいね」
クラリスは宝石をそっと撫でた。長い眠りから目覚めた二つの宝石は、真っ先にその主の身を案じていた。当時のアデルは、完全に心が壊れてしまっていて――この指輪の収められた箱を抱きしめながら、何度も、何度も泣いたのだという。
小さな輪に過ぎないその指輪では、彼女が失ったかけがえのない主を、抱きとめることすらできない。それがたまらなく悔しく、胸が張り裂けそうだったのだと。
そして、北方から魔物の群れが押し寄せているという報せとともに、王家から「協力を乞う」との正式な要請が届いたのも、ちょうどその頃だった。
「……ノア」
クラリスは、宝石に向けていた視線をゆっくりと上げ、彼を見つめた。
「あなたのお母様は、とても高潔な方よ。本当に……誇りに思うべき人だわ。あの方は……」
言葉は、そこで途切れた。宝石から流れ込んでくる、あまりにも濃く、深い感情に呑まれ、クラリスの胸は締め付けられるように痛んだ。
「ノアを抱えたまま、それでも戦場へ向かったのは……ただ悲しみから逃れるためなんかじゃない」
彼女は、確信をもって続ける。
「守るためよ。あなたと、この国と、未来そのものを――」
宝石は静かに光を宿し、語られなかった決意と、失われた愛を、今もなお伝え続けていた。
――そして、その尊い想いは、確かに今、二人のもとへと受け継がれている。
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決死の告白と互いの想いの成就:クラリスは鐘の音にかき消されそうになりながらも勇気を出してノアに愛を伝え、ノアもそれに応えて深い抱擁と口づけを交わし、二人は晴れて恋人同士となった。
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未来への誓いと団長就任の報告:将来の結婚式や家族像について率直に語り合い未来を誓い合う中、ノアは自身が魔法使い団の団長に就任したことをクラリスに明かした。
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受け継がれる悲哀と高潔な指輪:ノアから手渡された母の遺品である小さな木箱には、悲劇的な運命によって一度も使われなかった2つの指輪が収められており、そこに込められた母の高潔な愛と決意がクラリスに伝わった。