こんにちは、ちゃむです。
「私が主人公(ヒロイン)だと思ってたのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
51話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 甘い誘惑の影
「たかが子ども一人を丸め込むのが、そんなに難しいの?」
皆が去り、二人きりになると、イザベル皇妃は声を荒らげた。怒りを抑えきれない様子で、同じ言葉を何度も繰り返している。聞いているだけでうんざりするほどだったが、今のゼルダに必要なのは言い訳ではなく謝罪だった。
ゼルダは深く頭を下げた。
「申し訳ございません。」
「謝れば済む話だとでも? はぁ……今日、私がどれだけ恥をかかされたと思っているの。」
イザベル皇妃の叱責に、ゼルダはさらに深く頭を垂れた。
ゼルダは肩を落としていた。今日の出来事は、最初から最後まで予想外の連続だった。ゼルダこそが一番動揺していたのだ。
最初にイザベル皇妃から提案を受けた時は、簡単なことだと思っていた。若い男を一人手玉に取るくらい、難しくないと思っていたからだ。自分の前には輝かしい未来が待っていると信じていた。だが、甘く見ていたルチアーノ皇子が、先ほど自分に向けたあの視線は忘れられないほど鋭かった。
「私があなたを選んだ理由を忘れないでください。」
イザベル皇妃の穏やかな眼差しには警告が込められていた。
――あなたは代わりの利く駒にすぎない。代役などいくらでもいる。
その意味を悟ったゼルダは、不安げに下唇を噛み締めた。
「はい、覚えております。」
イザベル皇妃の信頼を失うような真似だけは、絶対にできなかった。
今回の件は、ゼルダにとって二度とない好機だった。パーカー家は伯爵家の娘ではあったものの、名ばかりの貴族だった。領地は荒れ果て、一族に有能な者もおらず、貧しく権力もない。貴族とは名ばかりで、誇れるものは何一つなかった。近隣の男爵家からさえ見下されるほどだった。
(平民相手にしか威張れない、取るに足らない家門……。)
ゼルダは、そんな自分の家が大嫌いだった。だからこそ、いつも華やかな首都で暮らすことを夢見ていた。しかし、貧しい領地で育った彼女にとって、それは叶わぬ夢だった。首都へ遊びに行くことさえ、パーカー家には贅沢だったのだ。
――ゼルダ、今度首都へ行くんだけど、一緒に行かない?
そんなゼルダにチェルシーが持ちかけた誘いは、とてつもなく魅力的だった。
チェルシーは隣領・ソファ子爵家の娘だった。ゼルダとは同い年で、よく一緒に過ごしていたが、「親友」と呼べるほどの関係ではなかった。ゼルダは、子爵家というだけで自分を見下すチェルシーのことが嫌いだった。チェルシーは、自分より家格は少し上でも無能なゼルダが、自分の前で縮こまる様子を見るのを楽しんでいた。
だからこそ、一緒に王都へ行こうというチェルシーの誘いにも裏があった。
「私と一緒に行くんだから、旅費や宿代は心配しなくていいわ。どう?」
チェルシーは恩を着せるために同行を提案した。ゼルダも、それが見下すための誘いだと分かっていた。それでも王都を見てみたかった。この息苦しい田舎から抜け出してみたかったのだ。
「ありがとう、チェルシー。本当にあなたしか頼れる人がいないわ。」
――ほら。いつかパーカー家も首都で暮らす日が来るわ。
ゼルダはプライドを捨て、チェルシーの誘いを受け入れた。多少笑われるくらいなら耐えられる――そう思っていた。
――知り合いがパーティーを開くの。あなたも連れて行ってあげる。
――本当に? ありがとう!
首都のパーティーなんて、どれほど華やかなのだろう。ゼルダは胸を躍らせた。
――きっとあなたも楽しめるわ。
だから、そのチェルシーの笑みが嘲笑だったことに、当時の彼女は気づけなかった。
チェルシーに連れられて行った貴族のパーティーは、とても豪華だった。同年代の若い貴族たちが集まり、会場では演奏家たちが生演奏を披露し、高級な料理もふんだんに振る舞われていた。それは、ゼルダがずっと夢見ていた世界だった。
あの頃は、世界がまるで輝いて見えた。華やかな王都での暮らしに胸を躍らせていた、あの頃――。
「ところで、あの子は誰? 初めて見るけど。」
「ゼルダ・パーカーっていうの。チェルシーについて来たのよ。」
「パーカー? そんな家名、聞いたことある?」
「どこかの男爵家?」
「服の裾を見てよ。ずいぶん擦り切れてるじゃない。」
「チェルシー、あんな身分の低そうな子と付き合ってるの?」
「まあまあ、そんなこと言わないの。あの子、一応は伯爵家の娘なのよ。」
「えっ? 伯爵家? なのに、あんなみすぼらしい格好をしてるの?」
同年代の令嬢たちの遠慮ない笑い声が響き、ゼルダの体は小刻みに震えた。恥ずかしさで、消えてしまいたい気持ちだった。ゼルダはこれほどの屈辱を味わったのは初めてだった。耐えきれず、その場を離れた。
ゼルダが思い描いていた首都は、こんな場所ではなかった。恥ずかしさで涙があふれ、庭園で一人泣いていた、その時――。
――どうしてこんな場所で、一人で泣いているのですか?
少し年上の男性が近づいてきて、優しく声をかけた。
――あなたは……?
――泣いている淑女を放っておけない、ただの通りすがりですよ。
ゼルダは美しい容姿の持ち主だった。家柄のせいで見下されることは多かったが、同年代の男性たちからは少なくない好意を寄せられていた。だからこそ、チェルシーはゼルダをより嫌っていた。二人はたびたび比べられる存在だったからだ。そしてチェルシーは、「ゼルダは男を誘惑するのが得意なのよ」――そんな噂まで流していた。
「一人にしておいてください。」
「こんなに美しいお嬢さんが、そんな悲しそうに泣いているのに放ってはおけません。何があったのか話してくだされば、私がお力になります。」
事情も知らずに優しい言葉を並べる男に、私は苛立ちを覚えた。
「私のみすぼらしい格好を見れば分かるでしょう?」
パーティーだからと、精一杯きれいな服を着てきたのに、散々笑いものにされた。こんな服など、破り捨ててしまいたいくらいだった。
「そんなことが問題なのですか?」
あまりにも他人事のような口ぶりだった。私は惨めでたまらず、この男の顔を見るのも嫌になって、早くどこかへ行ってほしいと言い返そうとした、その時――。
「一緒に来てください。私が解決して差し上げます。」
――え?
「服が問題なら、新しい服を買えばいいだけでしょう?」
最初は、男性が自分をからかっているのだと思った。しかし、男性が連れて行った先は衣装店で、彼はためらうことなく、美しいドレスを買い与えてくれた。首都で流行しているというドレスは、まるで自分のために仕立てられたかのように体にぴったりと合っていた。
柔らかな最高級の生地、華やかなデザイン。夢にまで見た世界へ足を踏み入れたようで、ゼルダの胸は高鳴った。幸せだった。これでもう、誰にも見下されることはない。
――もう泣く必要はありませんよ。
まるでゼルダの心を見透かしたかのように、男性は優しく尋ねた。ゼルダは、とても自分では手の届かない高価な服を見つめながら――。
世話を焼いてくれる姿は頼もしかった。少し年上なのもあって、より落ち着いて見えた。
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「ハビ・ネイス伯爵です。」
「まあ、伯爵様でしたのね。私はゼルダ・パーカーです。」
「お会いできて光栄です。」
ネイス伯爵はゼルダの手を取り、その手の甲に軽く口づけをした。
「私も光栄です。」
ゼルダは柔らかな笑みを浮かべた。この男が純粋な善意だけで助けてくれているわけではないことは分かっていた。ならば、自分もこの男を利用すればいい。もう二度と、パーティーであのような屈辱を味わわないためなら、どんなことでもするつもりだった。
ゼルダも最初は、ネイス伯爵は既婚者だと思っていた。しかし、付き合いが続くうちに、そうではないと気づかざるを得なかった。その事実を知ったとき、ゼルダは激怒した。
――ご結婚されていたんですか?
――ああ、まあね。でも気にしなくていい。
――どうして気にしないでいられるんですか?
――妻とは政略結婚なんだ。私が愛しているのは、ゼルダだけだよ。
最初から結婚していることを隠したまま、愛を囁いていた。その事実は、あまりにも不誠実で嫌悪感を抱かせるものだった。もともとゼルダも彼を愛していたわけではない。それでも、騙されていたことには強い怒りを覚えた。こんな状態で愛を語られても、滑稽でしかなかった。
最近、ネイス伯爵が自分に夢中になっていることは知っていたが、傷ついた自尊心を癒やすには十分だった。だが、自分を騙していた相手なのだから、罪悪感など抱く必要はなかった。ゼルダは、彼から引き出せるものはすべて手に入れようと決めた。むしろ都合が良かった。ネイス伯爵には妻がいたため、この関係を隠しやすかったからだ。
不倫関係になってからは、ネイス伯爵はゼルダの望みを何でもかなえてくれた。チェルシーの顔色をうかがう必要のない生活は、とても満ち足りたものだった。
「あなた、急にお金持ちになったみたいだけど、どうしたの?」
「ただ、支援してくれる人ができただけよ。」
チェルシーは疑いの目を向けたが、ネイス伯爵は慎重だったため、決定的な証拠は何一つ見つからなかった。
そんなふうに王都での暮らしを楽しんでいたゼルダは、やがて人生最大の好機を手にする。ネイス伯爵の紹介で出席した、とあるパーティーで――。
誰にも知られてはいけない場所へ案内された。そこで、一人の気品ある女性と対面した。
――あなたがゼルダ・パーカー?
――はい。失礼ですが、どちら様でしょうか?
戸惑いながらも、ゼルダは丁寧に応じた。目の前の女性が、一目で権力を持つ人物だと分かったからだ。そして、その判断は正しかった。
――あなたが従うべきお方よ。
そうしてゼルダは、イザベル皇妃と対面した。
――私に何を望まれるのでしょうか?
イザベル皇妃の望みは一つだった。
「ルチアーノ皇子と婚約できるようにしてあげる。その代わり、彼を誘惑しなさい。」
ゼルダも首都で暮らすうちに耳にしていた。ルチアーノ皇子は皇室から見放された皇子。一歩間違えれば命を落としかねない立場だが、うまく立ち回れば、すべてを手に入れることもできる――。ゼルダは、もっと大きなものを手に入れられる機会があると知った。ネイス伯爵など比べものにならないほどの好機だった。
ゼルダは迷うことなく、ネイス伯爵を捨てる決意をした。
――仰せのままに。
イザベル皇妃の後ろ盾を得て、ゼルダは完璧な「皇太子の婚約者候補」として装いを整えた。しかし、ルチアーノ皇太子と初めて顔を合わせた場で、思わぬ壁にぶつかる。
「相手が皇太子妃にふさわしくない理由がある、ということです。」
自分に振り向いてくれるどころか、こんな意味深なことを言われるとは。ルチアーノ皇太子は、何かに気付いているに違いない。
「ルチアーノ皇太子に疑われないよう、今後の言動には十分気を付けなさい。」
イザベル皇妃の瞳には冷たい光が宿っていた。彼女も何かを知っているようだった。
「はい。気をつけます。」
「気を引き締めて、ルチアーノ皇子をしっかり籠絡しなさい。」
「承知しました。」
「もう下がりなさい。」
イザベル皇妃の許可を得て、ようやく宮殿を後にすることができた。長々と説教を聞かされ、屈辱的で腹立たしい。皇宮で見下される自分も嫌だったし、自分を拒絶するルチアーノ皇子も嫌いだった。自分を嘲笑ったベティという女も、親しげな顔をしながら内心では軽蔑していたデミアンという男も。
そして、純粋そうな表情でルチアーノ皇子の世話を焼いている――エスピンと親しくしていたというだけで――。誰もが私に怒りの矛先を向けていた。
抑え込んでいた怒りが今にも爆発しそうだった。歯を食いしばり、全部壊してしまいたい衝動に駆られていた、その時――。
「何だか、ご機嫌が悪そうですね。」
少し気になっていた男性が近づいてきて、私に声をかけた。見た目も整っていて、身なりからして裕福そうな人物だった。
「……何でしょうか?」
ゼルダは怒りをぶつけそうになるのを必死にこらえ、問い返した。皇太子の婚約者候補という立場では、感情をあらわにするわけにはいかなかった。先ほどの一件もあったばかりで、なおさら慎重になる必要があった。
男性はにこやかに微笑んだ。
「遠くから見ていても、気分が優れないご様子でしたので。」
「そうですか?」
「気分転換には、買い物が一番ですよ。」
男の言葉に、ゼルダはあきれた。こんな腹立たしい時に、どうしてそんな場違いなことを言うのだろう。イザベル皇妃はゼルダの後ろ盾ではあったが、自由にお金を使えるわけではなかった。ゼルダが何にお金を使ったかはすべて報告されるため、好き勝手に買い物などできなかったのだ。
「まさか、あなたが買い物までさせてくれるんですか?」
そう思って半ば投げやりに尋ねた。
「お嬢様がお望みでしたら。」
男は丁寧に答えた。ゼルダは疑うような目で彼を見つめたが、冗談を言っている様子ではなかった。
「あなたのお名前は?」
まるでその質問を待っていたかのように、男は微笑んだ。
「シオン・ウィードです。気軽にシオンとお呼びください。」
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イザベル皇妃の叱責とゼルダの焦燥
お茶会での大失態によりイザベル皇妃から冷酷な叱責を受けたゼルダは、代わりの利く「駒」にすぎない自身の立場と、ルチアーノ皇子の鋭い洞察力に強い恐怖と焦りを覚える。
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過去の屈辱とネイス伯爵との関係
名ばかりの貧しい伯爵家で育ち、首都の貴族社会から冷遇・嘲笑されてきたゼルダは、自尊心を満たし華やかな生活を手に入れるため、欺瞞を承知の上でハビ・ネイス伯爵を利用してきた過去が明かされる。
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皇妃の庇護と新たな誘惑者シオンの登場
イザベル皇妃の後ろ盾を得て人生の好機を掴んだはずのゼルダだったが、計画の暗雲や周囲への怒りに満ちた宮殿の帰り際、自由に買い物を提案する謎の男シオン・ウィードに声をかけられる。