公爵邸の囚われ王女様

公爵邸の囚われ王女様【149話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【公爵邸の囚われ王女様】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

149話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 叶わぬ願い

アルステアは、どうにかしてノアに罪悪感を植え付け、恐怖から彼自身が命を絶つよう仕向けようとしていた。

ノアが怯え、追い詰められることを期待して。

だが実際には、ノアが「少女は強い」と一言告げただけで、一切動揺を見せなかったため、アルステアのほうが、わずかに面食らった様子を見せた。

そんな反応が返ってくるとは、まったく想定していなかったのだろう。

「少女は、死なない」

ノアは、きっぱりと言い切った。

正直に言えば――こうして語る彼女の心に、恐怖がまったくなかったと言えば嘘になる。

だが、クラリスはゴーレムマスターだった。

自らの居所を隠すこともでき、出自の異なる無数の石を、瞬時に自分の味方へと変えてしまえるほど、強大な資質を生まれながらに持っている。

ノアは、彼女の才能が極限まで開花することを望んではいなかった。

けれど――それは、もはや叶わぬ願いだった。

極限の状況に投げ込まれたとき、クラリスはきっと気づく。

自分の内に宿る力に、限界など存在しないということを。

今は……そう信じるしかなかった。

ノアは、あらかじめ放っておいた追跡の光に意識を割きながら、同時にアルステアの動向を鋭く見据える。

その瞬間、ノアの掌から風を孕んだ魔法が解き放たれた。

アルステアは即座に地を踏みしめる。

隆起した硬い地面が盛り上がり、魔法と正面から激突した。

――パァン!

炸裂する大地。

四方へと土煙が巻き上がり、視界が一気に白く染まる。

その瞬間、ノアは何かに足首を取られた。

「……!」

地面を利用した拘束魔法。

即座にノアの正面へと飛び出したアルステアは、鋭い剣先をノアの喉元へ突きつける。

まるで強烈な歓喜に打ち震えているかのような、歪で奇妙な笑みを浮かべながら。

「……本気だったんだな」

死の恐怖よりも、その思いが先に胸をよぎった。

だからといって、失望したわけでも、深く傷ついたわけでもなかった。

ただ――少しだけ、奇妙だった。

ノアは、刃を突きつけられた男を静かに見返す。

そこには、微塵の恐れもない。

刃先は、ノアの喉を貫かなかった。

アルステアは、かろうじて保たれた距離のまま、荒く乱れた呼吸を吐き出しているだけだった。

ノアは、ひとつの結論に至った。

「魔法使いアスト。――君には、俺を殺すことはできない」

刹那、彼の身体が、わずかに強張った。

すぐさま再び憎悪の仮面を貼り付けたが、ノアはその一瞬を、はっきりと見逃さなかった。

「黙れ!」

「単に、俺が君より強いから――なんて話じゃない」

アストは今、鋭く研ぎ澄まされた剣を、ノアの喉元へと突きつけている。

今すぐにでも斬り裂きたい衝動が、握りしめた手のひらから伝わってくるほどだった。

それでも、彼は動かなかった。

その“踏み込めない距離”を保ち続ける姿から、ノアは確かに「恐怖」という感情を読み取った。

何に対する恐怖なのかまでは、分からない。

だが、ひとつだけは明白だった。

彼が、ノアを“直接”殺せないのであれば、取るべき道は、ひどく単純になる。

「……魔法使いアスト」

ノアは、静かに名を呼んだ。

瞬間、噴き上がった炎がアルステアの顔面へと襲いかかった。

彼が床に崩れ落ちると同時に、ノアの足首を縛っていた魔法も解けていく。

この隙を逃さず、ノアは彼の顔へと手を伸ばした。

濃く染まった赤い魔力が、指と指の間をぬめるように這い回る。

「少女を送った座標は?」

「今さら心配になったのか?ああ?」

「私は少女を心配しなかったことなど一度もない。答えなさい。私は君を簡単に殺せる」

「……あの子は、もう死ん――ぐっ!」

小さな赤い光がひとつ、彼の肩へと飛んだ。

アルステアが咄嗟に展開した防御魔法も、まるで意味をなさない。

肉が焼け焦げる、耐えがたい臭いが広がった。

アルステアは自分の肩を押さえたが、逆にその手に熱が移り、火が噴き出した。

「ぐあああっ!」

ノアが、たった一度、指先を動かした。

それだけで、すべては終わった。

アルステアは床に膝をつき、荒い呼吸を繰り返しながら、憎悪に濁った目でノアを睨みつけた。

「この……怪物……!お前さえ……お前さえいなければ……!」

彼は、力なく垂れ下がる右腕の肩を掴み、歯を食いしばりながら毒づく。

「俺が“団長”になれたはずだった!お前の母親が……あんな出来損ないさえ産まなければ……!忌々しい……!」

腐り落ちた骨には、もはや治癒魔法すら作用しない。

彼はふらつく脚で立ち上がろうとし、しかしすぐに体勢を崩した。

「団長の後継者として選ばれたのは、俺だったはずだ……!お前が現れてからも、ずっと……!あの座は、俺のために用意されたものだったんだ……!」

叫びは次第に嗚咽へと変わり、やがて彼は、支えを失った人形のように、ゆっくりと崩れ落ちた。

 



 

17年前、北方城壁。

サイファス王家と魔法師団は、城壁を越えて人間の領域を侵した魔物との戦いに勝利した。

魔法師団を率いていた団長「アデル・シネット」は、少なくとも十体以上の巨大なゴーレムを同時に操れるほど、才能と魔力に満ちあふれた女性だった。

空色の髪をなびかせ、ゴーレムを従えて彼女が姿を現すたび、サイファス王国軍の兵士たちは「勝利の女神が降臨した」と歓声を上げるほどだった。

そうして協力の末にもぎ取った勝利を前に、その場にいた誰もが、今後は魔法師団と王国の間に築かれる友好関係を、何よりも大切にしていくことになるだろうと信じていた。

その場にいた二十歳のアルステアも、同じ考えを抱いていた。

彼は当時、現世代の若き魔法師の中でも群を抜いた才能を持ち、いずれは魔法師団長の座に就くと期待されていた人物だった。

もちろん、現団長はまだ若く、彼の番が回ってくるまでには、相応の時間が必要だった。

だが――誰よりも強いと謳われるアデル・シネットを、彼は心から敬い、そして密かに憧れていた。

彼女の時代を、もうしばらくこの目で見届けるのも、決して悪くはない。

そう思えるほどには。

ただひとつ。

彼には、どうしても譲れない願いがあった。

――彼女の「認め」。

誰よりも強いと称されるアデル・シネットが、自分を認め、「私の後を継ぐ魔法使いだ」と、そう呼んでくれること。

父の心配も反対も押し切って、この戦に身を投じた理由も、突き詰めればそれだった。

功績さえ挙げれば。

戦果を示せば。

彼女からの評価を得るのも、きっと容易くなるはずだ。

その日は、魔法師団と王国軍が撤収を控えた、最後の夜だった。

これまで節約してきた酒も肉も、すべて持ち出して、皆が思い思いに宴を楽しんでいる最中――アルステアは、理由もなく胸の奥がざわつくのを感じながら、ふと、アデルの姿を探していた。

彼は、彼女が自分を見つけて声をかけてくれるのを待っていた。

もし彼女が功績を称えてくれるなら、今しかないと思ったからだ。

だが、王と話があると言っていた彼女は、どれほど重要な議題を交わしているのか、かなりの時間が経っても王の天幕から姿を現さなかった。

この事実を気にしているのは、どうやらアルステアだけのようだった。

今日は魔法師はもちろん、兵士や騎士たちまでもが酒に酔いしれ、厳粛な場ではなかったのだから。

このままでは、もしかすると団長に会えないまま終わるのではないか――そんな不安がよぎった、そのとき。

クォン。

大地が崩れ落ちるような轟音が響き渡った。

その場にいた兵士たちは歓声を上げた。

それがゴーレムの足音だと分かっていたからだ。

あの巨大な魔法生命体に命を救われた者は数知れず、

彼らにとって、戦いの最後の夜をゴーレムと共に過ごせることは、何よりも喜ばしいことだった。

ドン、ドン。

ゴーレムは、宴が開かれている広場へ向かって、躊躇いもなく突進した。

兵士たちは酒瓶を高く掲げ、陽気に手を振っていたが――

「え、え?」

異変に気づいたのは、ゴーレムの足音が十分に近づいてきたにもかかわらず、止まるどころか、むしろさらに速度を上げて突進してきた、その瞬間だった。

「ま、待て!」

「おい!誰か団長様を呼んでこい!」

騎士はもちろん、その場にいた魔法使いたちも、突然迫ってくるゴーレムを前に、ただ呆然と立ち尽くすばかりだった。

ドンッ!

巨大な足が、祭りの一角に灯されていた焚き火を踏み潰した。

「ぎゃっ!」

誰かがその足の下敷きにでもなったのか、耳を裂くような悲鳴が夜気を切り裂いた。

ドン、ドン、ドン!

ゴーレムは何のためらいもなく、魔法師や兵士たちを踏み潰しながら進んでいった。

ようやく酔いが覚めた騎士たちが剣を手に取り、ゴーレムの後を追った。

だが、あまりにも不運なことに、この巨大な存在が向かっている先には、彼らの王がいた。

「全員、剣を抜け!陛下を守れ!」

しかし、すでに遅すぎた。

ゴーレムは一瞬で高く跳躍し、巨大な身体で王の天幕を丸ごと押し潰した。

ドォン!

鼓膜が破れそうな轟音とともに、濃い土煙が巻き上がる。

「……」

誰も、言葉を発することができず、動くことすらできなかった。

この異様な出来事を、いったい誰が、どう説明できるというのか。

長い沈黙を破ったのは、ある騎士の、短い呻き声だった。

「魔法使いたちが、俺たちを裏切ったんだ!」

その叫びと同時に、鋭い金属音が四方から響き渡った。

剣が鞘を抜ける音――それは、もはや疑いようのない敵意の合図だった。

つい先刻まで、同じ酒を酌み交わし、肩を並べて笑っていたはずの魔法使いたちへ、兵や騎士たちの剣先が向けられる。

「ふざけるな!」

魔法使いたちの中でも冷静さを保っていた一人が、仲間を庇うように前へ出て叫んだ。

「ゴーレムは主の危機に反応する存在だ!間違いなく、お前たちが団長殿に何かしたからだろう!」

だが、その言葉はもはや届かなかった。

互いを信じられなくなった二つの集団の間に、深く、そして冷たい溝が生まれるのは、一瞬の出来事だった。

そんな混乱の只中にあっても――アルステアだけは、崩れかけたゴーレムへと走っていた。

中にアデルがいる以上、ゴーレムが無差別に内部を破壊するはずがない。

その読みは外れず、彼は砕けた岩の隙間から、かろうじて呼吸を続けるアデルの姿を見つけ出した。

「団長!」

彼は瓦礫の隙間に腕を差し入れ、両腕で必死に掘り起こした。

「……ああ」

彼を見つけたアデルは、力なく笑った。

かすかに安堵の色が浮かんでいる。

「君が……来てくれてよかった、小さなアスト」

「しっかりしてください!今すぐ治癒魔法を……!」

彼が懇願するように差し出した両手に、微かな熱が触れた。

「……それは」

赤子だった。

人の手ではほとんど感触を確かめられないほど、小さく、か弱い存在。

その赤い命は、アデルが命懸けで守り続けてきたものだった。

彼女は、自分自身よりも先に、その子を差し出していた。

「あなたが先です!あなたこそが、歴史上もっとも偉大な団長なのです!」

アルステアは反射的に彼女の手首を掴もうとした。

だが、アデルはそれを制し、そっと彼の手に赤子を預けた。

「いいえ……小さなアスト」

俯いたまま、彼女はかすかに微笑んだ。

その瞬間になって初めて、アルステアは気づいた。

――彼女の胸元、心臓のすぐ傍に、剣が深く突き立っていることに。

「その称号は……この子のためのものになるわ」

命の灯が消えゆく中、それでもア델は最後の力を振り絞った。

彼女は小さなゴーレムをひとつ生み出し、赤子の胸の上にそっと乗せる。

「本当は……私が守ってあげなきゃいけないのに。だから……お願い。あなたが、私の代わりにこの子の傍にいて」

彼女の言葉を受け取った赤いゴーレムは、穏やかな魔力をたたえたまま、赤子の心臓の近くへと吸い込まれていった。

「ゴーレムを破壊しろ!殿下は、まだ中におられるぞ!」

兵士たちの叫びが飛ぶ。

その声に、アデルははっとしたように身を震わせると、赤子を抱いたアルステアの手を、力の限り押し返した。

――行きなさい、と。

言葉にせずとも、その想いは確かに伝わっていた。

「行け!」

その瞬間、アルステアは赤子を抱いたまま、ゴーレムから大きく距離を取っていた。

ドンッ。

直後、ゴーレムの内部から半透明の球体が広がり、わずかな隙間を残していたゴーレムは、硬く、完全に封じられた。

「保存魔法……?」

仲間や友の死に疑念が生じた際、魔法使いたちは必ずこの魔法を使い、現場をそのまま保存してきた。

「魔法使いシネット……あなたはいったい、何のために……」

遅れて駆けつけた騎士たちは、ゴーレムに剣を突き立て、槌で打ちつけたが、完全に固まった重厚な岩は微動だにしなかった。

呆然とゴーレムを見つめていたアストは、ようやく腕の中へと視線を落とした。

小さな子どもは、いま何が起きたのかも分からぬまま、静かに眠っていた。

「この子が……」

その称号は、この子のためのものになるわ。

「……ふざけるな」

では、アルステアは何になるというのか。

これまで彼がアデルの背を追い続け、敬意と想いを捧げてきたのは、彼女に“認められる”ためだった。

それなのに――。

彼女が認めた存在は、泣くことと眠ることしかできない、あまりにも幼い命だった。

「笑えない冗談だ!」

彼は歯を食いしばり、喉を裂くように叫んだ。

「この子が……歴史上、最も偉大な団長になるって?こんな、真っ赤な怪物が……!」

その瞬間、腕の中の赤子を抱く手に、思わず力がこもる。

「……あり得ない」

強く握りしめられた衝撃に、眠っていた赤子はびくりと身を震わせ、甲高い泣き声を上げた。

「……あり得るはずがない」

どれほど優れた魔力を宿して生まれたとしても――彼は、そう言い切るしかなかった。

たとえゴーレムであろうと、魔法を理解していない状態であれば、一般人と何も変わらない。

このまま殺してしまえば、それで終わりだった。

そもそも、この子が生まれたことを知る者は誰もいない。

周囲は、ゴーレムを持ち上げようとする者、互いに攻撃し合う者、そしてどうにかこの混乱を収めようと走り回る者たちで、完全な混沌に陥っていた。

心臓から湧き上がった切実な冷気の魔法が、白い煙となって彼の指先から立ちのぼる。

触れたものすべてを一瞬で凍らせるほど、強力な力だった。

彼は長く伸ばした指を、ためらいなく赤子の顔へと近づけた。

巨大な魔物さえ打ち砕く魔法だ。

こんなにも幼く、赤ん坊のような存在など、一瞬で凍りついて死んでしまうはずだった。

「誰が素直に引き下がると思っ……え?」

しかし、その柔らかな肌に彼の指が触れた瞬間――驚くべきことに、赤子の顔から赤い魔法が――それは、はっきりとした“反撃”だった。

「な、なに……っ!?」

魔法の理すら理解していないはずの赤子が、どうしてこんなことを――。

動揺のあまり、反射的に手を引いた、その瞬間。

彼は気づいてしまった。

アデルが赤子の中に仕込んでいた、あの小さなゴーレムの存在を。

そして、理解した瞬間に――絶望が押し寄せる。

自分が決して敵わない魔法使いの力が、この幼い命の内側に、確かに“眠っている”のだと。

赤子を殺すために放った、あの鋭く冷たい殺気は、歪むことなく反射され、アルステア自身の頬を、容赦なく切り裂いた。

 



 

 

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