憑依者の特典

憑依者の特典【134話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「憑依者の特典」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【憑依者の特典】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「憑依者の特典」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...

 




 

134話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 絶望のアリア

「……っ!」

返事はなかった。

まあ、言い返せないだけだろう。

鋭く放った一撃に押され、リリトの身体は壁際まで吹き飛ばされる。

「受けるだけかと思った?甘いわよ!」

背中が壁にぶつかる直前――その瞬間、彼女から先ほどとは違う“気配”が立ち上った。

空気が張り詰める。

ぞくりと、肌が粟立つ。

――アイレット。

言わなくても分かる、アグネス。

リリトの斧が大きな軌道を描き、魔力を叩きつけてくる。

ドォンッ!

爆発を紙一重でかわし、私は後方へ跳んだ。

同時にセレネスをまっすぐ構え直す。

オーラを一気に引き上げる。

迫ってきた魔力の奔流は、私のオーラに触れた瞬間、霧散した。

「はぁっ、はぁっ……」

体勢を立て直したリリトが距離を取り、荒く息をつく。

その中に――カラン、と。

斧の刃先が床を擦る、わずかな音が混じった。

下がった切っ先。

乱れた呼吸。

削がれた集中。

それだけで十分だった。

リリトは、全力を込めた一撃を放とうとしていた。

「いいわ、やってみなさい。」

私は即座に攻撃の結界を展開する。

銀色に輝く聖なる力で周囲を守りながら、自分のオーラも一気に引き上げた。

――この一撃で決着をつける。

右腕をまっすぐ伸ばし、鞭のようにしなる黒い剣を頭上に掲げる。

リリトが叫んだ。

「死ね、断罪の執行官!」

斧が振り下ろされると同時に、空気を裂く轟音が響いた。

私もまた、黒き剣を振り下ろす。

しなる剣身が大蛇のように伸び、リリトを絡め取るように襲いかかる。

――ドォォォン!!

視界を閉ざしてもなお、衝撃のすべてがはっきりと伝わってきた。

私のオーラが、リリトの魔力と正面からぶつかった。

――そして。

キィィン――

甲高い音を立てて、弾け飛ぶ。

澄みきった響きとともに、鞭のようにしなる剣から放たれた白い光が一点を貫いた。

魔力を切り裂いた私のオーラは、そのままリリトの胸――心臓を貫通する。

激しい衝突音が重なった直後、あたりは嘘のように静まり返った。

「……」

私はゆっくりと目を開ける。

視界の中心にいたのは――微動だにしないリリトだった。

その背後の床と壁には、まるで巨大な爪で引き裂いたかのような、私の攻撃の痕跡が深く刻まれている。

そして、アグネスが静かに状況を説明した。

〈攻撃が直撃する寸前、鎌を盾にして威力を分散させたようね〉

「なかなかやりますね。」

〈ええ、相当な実力よ。でも……〉

カラン――

リリトの手から、巨大な鎌が床へと落ちた。

気づけば彼女は元の姿に戻り、その場に膝をついている。

「あなたの勝ちよ、断罪の執行官。」

「……」

当然の結末に、返す言葉はなかった。

サキュバスの女王の身体が、足元からゆっくりとガラスのように砕け始める。

儚く、美しく――崩れながら、彼女は天井を見上げた。

「アナクシア様……」

濡れた瞳で、彼女は高みにいる“誰か”を見つめた。

紫がかった唇から、かすかな声がこぼれる。

「カルペイオス……あのガキは、本当に……」

サラサラと――次の瞬間、リリトの肉体は一斉に砕け散った。

粉となったそれは、跡形もなく空中へと溶けていく。

[スキル]『女王の怪力』

サキュバスの女王が持つ三つの力――魅力、精力、そして怪力。

その中でも最後の「怪力」の真髄を引き出したものだ。

一時的にリリトと同等の力を発揮できるようになる。

――久しぶりに、かなり使えるスキルを手に入れた。

これでもう、力勝負で遅れを取ることはないだろう。

私はドロップ品の回収を終え、セレフェンスを鞘に収めた。

そして、その場を後にした。

「みんな無事?」

見慣れた顔ぶれがこちらを見て、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。

その中で、私はプリンツに向かって手を振る。

「お兄ちゃん、久しぶり。」

ようやく我に返ったプリンツが、矢継ぎ早に問いかけてきた。

「本当にアイレットなのか!?どういうことだ!?なんでお前がここにいる!」

「今回、神聖騎士団が各国代表として参加するって話、聞いたでしょ?」

「ああ……」

「それ、私なの。」

「はあ……!?」

父に似た淡い空色の瞳を、大きく見開いていた。

私はプリンツに向かって、軽く笑みを浮かべながら説明を続けた。

神聖降臨を使えることは、母と祖父しか知らなかった。

前の休暇で父には打ち明けたけれど、兄には会えなくて伝えられなかったのだ。

「これまでずっと屋敷の中にいて、神聖降臨を使う機会がなかったの。だからお父さんやあなたにも話せなかったんだ。」

本当は“神熱病”のペナルティを隠したかったのが大きいけれど、そのあたりはうまくぼかした。

「ちゃんと活動を始める前に話しておきたかったのに、できなくてごめんね。あまり気にしないでくれると嬉しいな……。ねえ、お兄ちゃん、聞いてる?」

「……俺の妹が聖女で……しかも神聖騎士……?」

「……」

うん、完全に処理落ちしてる顔だ。

「お兄ちゃん、ちょっと落ち着いて。」

「妹がいきなり教国の聖女って言われて、平然としてろって無理だろ……?」

「そりゃ驚くよね。でもちゃんと聞いて。まだ大事な話があるの。」

「え、まだあるのかよ……?」

私は一呼吸おいて、さらっと続けた。

「実はね、私たち王族みたいなものなんだよ。」

「……は?」

「お兄ちゃんと私、ヒスフェル公国の孫なんだ。」

「…………は?」

完全にフリーズした。

目が死んでる。

その様子を見かねて、レイウィンが横からフォローに入る。

「つまり、神聖騎士はヒスフェル公国の血筋でもあるってことだ。だから教国と公国、両方の代表としてここに来ているってことだよ。」

「……」

プリンツがぱちぱちと目を瞬かせた。

どうやら頭が追いついていないらしい。

私は軽くため息をつきながら、さらに説明を続けた。

「今さらだけどさ、毎年の収穫祭の時に屋敷に来て、チルメンを食べていったおじいちゃんいたでしょ?あの人。」

「……ああ。」

「その人がヒスフェル公王だったの。」

「……」

完全に沈黙。

でもここで止めるわけにはいかない。

「ヒスフェル公王と公女の関係が悪くて、公女が家出した話、有名でしょ?」

「……まあ、聞いたことはある。」

「その公女が、うちの母さん。」

「……」

今度はまばたきすら止まった。

完全停止。

私は苦笑しながら肩をすくめる。

「本当はね、母さんが自分で話すまでは秘密にするつもりだったんだって。でも今の状況じゃ、隠し通すのは無理だからさ。」

少しだけ言葉を柔らかくする。

「だから……ちょっとだけ、おじいちゃんの権力借りた。」

「……え?」

プリンツの焦点がふっと揺れた。

「あれ、オーバーヒートしてる?お兄ちゃん、大丈夫?ちゃんと聞いてる?」

<……あとで改めて説明した方がよさそうね、お兄さんには。>

「そうですね。はぁ……兄さんも本当に。」

私は魂が抜けたようにふらつくプリンツの体を、壁にもたれさせておいた。

出生の秘密を知ったばかりの兄に、少し頭を整理する時間を与えることにして、私は先ほど言葉を交わしたレイウィンの方へ向き直る。

にこりと微笑んで、軽く挨拶した。

「お久しぶりです、バレンタイン小公爵。」

「あ、ああ……その、うん。久しぶりだな。」

レイウィンは少し気まずそうに視線を逸らしながら、ぎこちなく挨拶を返した。

「うちの兄と違って、小公爵様はあまり驚いていないようですね?」

「オムスクリアのダンジョンで君の実力は見ているからな。あれほどのデュアル覚醒者が、ただ者のはずがないと思っていた。」

「あは。」

「正直、ヒスフェル公王の孫っていうのも十分驚きだけどね。当時、君と知り合いの公爵がいるって聞いた時、まさかそれがヒスフェル公王だとは思わなかったよ。」

「はは。」

私が軽く笑っていると、レイウィンは何かに気づいたようにハッとした表情で尋ねてきた。

「もしかして……あの時、私は君に失礼なことをしていなかったか?」

「いえ。自然な対応でしたし、無礼だなんて全く思いませんでしたよ。むしろ、マナーがしっかりしているなって思ったくらいです。」

「そ、そうか……よかった。あの……もし望むなら、今からでも敬語で話すようにする。」

「本当ですか?できるんですか?」

「できる。」

ぐっと拳を握るその様子が妙に真剣で、思わず笑いそうになったが、そこはぐっとこらえた。

レイウィンはあまり冗談が通じるタイプではないのかもしれない。

「いいですよ。兄の友達なんですから、気楽に話してください。」

「……それでも。」

「私にもですか?」

「うむ。そ、その……“小公爵様”ではなく、レイウィンと呼んでも構わない。」

そこへ、ようやく立ち直ったプリンツが会話に割って入ってきた。

「二人って前から知り合いなの?どうやって?」

先ほどまでの衝撃はどこへやら、すっかりいつもの調子に戻っている。

レイウィンが説明を始めた。

「騎士の修行旅の途中で、S級ダンジョンに挑んだことがあってな。その時に――君の妹に助けられたんだ。言ってみれば……その、恩人というか。」

プリンツの目がキラリと光った。

「ちょっと待て、レイウィン。」

「どうした、プリンツ?」

「それってもしかして……さっきの“あれ”か?」

「さっき?」

「ほら、あの鏡で見てた相手……」

「っ!?い、いや、それは……!」

レイウィンの顔が一気に真っ赤に染まり、しどろもどろになる。

「え、何それ?」

思わず私が口を挟むと、

「いや、その……あれは本当に大したことじゃないんだ!気にするな!」

と、必死に否定した。

……これは絶対、何かある。

[『魂を審判する天秤』が両手で顎を支えながら興味深そうに眺めています。]

そのとき、私はさっきまでの会話よりも別のことに意識が向いていた。

(なに、この二人……?)

普段は他人と距離を置くタイプのレイウィンが、ためらいもなく右手でプリンツの口を塞いでいる。

こんな遠慮のない接触が成立している時点で――どう見ても、ただの知り合いじゃない。

「……二人、ずいぶん仲がいいんですね?」

「……」

「……」

その一言で、空気がぴたりと止まった。

次の瞬間――レイウィンがはっと我に返ったように手を引っ込める。

「す、すまない、プリンツ。少し取り乱した……」

「大丈夫です。それより後でちゃんと聞かせてください、レイウィン。さっきの“鏡に映っていた人”の話。」

「……ああ、分かった。」

レイウィンは観念したように小さくうなずいた。

けれど、そのやり取りの最中――プリンツの雰囲気が、どこか違っていた。

いつもの柔らかさが消え、妙に張り詰めた空気をまとっている。

(……あれ?)

さっきまであれだけ動揺していたのに。

今はむしろ、冷静すぎるくらいだ。

一方で、本来なら魔法に堂々と向き合うはずの小公爵は、どこか弱みでも握られているかのように見えた。

(……何これ。二人、ただの友達じゃないでしょ。)

[『均衡を司る独裁者』が、実はプリンツが不良グループの元締めだったのではと疑っています。]

[『魂を審判する天秤』が、兄という存在は多面性を持つものだから合理的な疑いだと頷いています。]

「いえ、そんなこと言わないでください。」

私は小さく首を振った。

うちの兄は優しい人だ。そんなことをするはずがない。

……たぶん。

「お兄ちゃん、小公爵様にちゃんと優しくしてあげてね。すごく気を遣ってくれてるんだから。」

「え?あ、ああ……」

「小公爵様、うちの兄をよろしくお願いします。」

「え?いや、むしろこちらこそ……」

どこかぎこちない二人の友好(?)関係を、私は仲裁してあげた。

本音を言わないタイプ同士だし、今後も大きな問題にはならないだろうと楽観していた。

――その時、首飾りが震えた。

〈アイレット、右の隅に少し注意を向けて〉

「……あ。」

一瞬そちらに視線を向けると、部屋には私とプリンツ、レイウン以外にもう一人いた。

振り返った先――毛布にくるまったまま倒れている少女がいた。

「大丈夫?」

「……」

「この子、誰?」

強い魔力を至近距離でまともに受けた衝撃は大きかった。

下手をすれば、その一撃で首が飛んでいてもおかしくなかったほどだ。

「白魔法師様、もう大丈夫です」

「ヒルデ嬢、もう終わったから落ち着いて」

心配そうに声をかけるプリンツとレイウンの言葉で、状況を把握する。

「白魔法師ヒルデ・マルセリオン……あなたね」

マルセリオン家で虐げられ、オデリット公女に搾取される悲運のヒロイン。

第17回の時間軸では、ヘルカイオンとの決闘で命を落とす運命だったが、私が積極的に原作を崩したことで、生き延びたらしい。

〈え?この子もマルセリオンなの?〉

私はその問いに含まれた否定的なニュアンスを、短く否定した。

「この子は、少し違うの。」

周囲に疑念を抱かせないため、それ以上の説明は控えた。

アグネスは先入観を捨てたのか、ヒルデを観察しながら言った。

〈ふむ。このヒルデという子、かなり強い神聖力を持っているわね。7級くらいはありそう〉

さすがアグネス。戦闘力測定器いらずだ。

ちなみに“白魔法師”というのは本物の魔法使いではなく、神聖力を覚醒させた魔導士を共和国でそう呼ぶだけの名称だ。

教団にヒーラーを奪われないための目隠しのようなものらしい。

私はため息をつき、考え込んだ。

(この子、どうしよう)

まともに動ける状態ではなさそうだ。

一緒に連れていくのは無理だし、食料だけ置いていくのがいいだろうか。

「ん?」

袖が引っ張られる感触があった。

視線を落とすと、ヒルデの震える手が見えた。

「す、捨てて行かないでください……」

「……」

「す、少しだけ……少しだけ時間をください……。ちゃんと、しっかりしますから……」

……ああ、そうだった。忘れていた。

ヒルデは勘が鋭い。

特にオデリットと関わる年代の女性に対しては。

そして、私はちょうどその範囲に入る。

私は空間インベントリに手を差し入れた。

取り出した手には、チョコレートやキャンディー、キャラメルなどのお菓子が山ほど握られていた。

それをヒルデに差し出した。

大きな少女をまるで子ども扱いしているようで、少し気が引けた。

けれど今の私には、これ以外にうまいやり方が思いつかなかった。

「食べて。甘いものを食べると、少しは楽になるわ」

「……」

しばらく私の手の中をじっと見つめていたヒルデが、ようやくおずおずと口を開いた。

「……あ、ありがとうございます……」

両手をそっと差し出して、私からお菓子を受け取る。

その間、ゆるんだローブの袖の隙間から、細く痩せた手首が覗いた。

(この子、まるでまともに食事も与えられてないみたいに痩せてる……。秩序教団でも、ここまでひどくはないはずなのに)

まったくその通りよ、アグネス。見ているこっちが腹立ってくる。

〈魔導共和国でも白魔法師の待遇が良くないって聞いていたけど……これはひどいわね〉

マルセリオン家で虐げられてきた上に、こんな状態だなんて。

ここまで聞いて、ふと考えが浮かんだ。

(この子、連れて行く?)

単なる同情だけじゃない。

私だってヒーラーだけど、戦闘に集中する場面では回復役がもう一人――いや、有能なヒーラーがいれば助かる。

しかもヒルデの価値は「神聖力7級」程度に収まるものじゃない。

この子は“負担無効”に近い特性を持っている。

どれだけ回復を重ねても、反動や消耗を気にしなくていい。

正直、喉から手が出るほど欲しい人材だ。

「ヒルデ。」

「はい?」

「あなた、もしよければ――ここを出る気はない?」

「え……?」

「……ごめん、今のは忘れて。」

勢いで言ってしまって、すぐに取り消した。

ヒルデはこれまで一度も、自分の人生を選ぶ機会なんて持てなかったはずだ。

軽く投げていい話じゃない。

ヒルデの表情もだいぶ落ち着いてきたし、そろそろ移動の準備をした方がいい。

私は皆に向き直った。

「はい、みんな。ちょっと集まってください。」

「うん。」

「……」

「はい。」

「中ボスは倒したから、この部屋はもう安全よ。みんなはここに残って、アナシアが決闘を終えるまで待ってて。」

「アイ、お前はどうするんだ?」

プリンツとレイウンが真剣な表情でこちらを見る。

「私は騎士団のみんなと合流して、ボスを倒しに行くよ。」

「ボスを倒すって?騎士団は何人いるんだ?」

「私を入れて五人。」

「は?何を言ってるんだ……!」

「そんな少人数でどうする気だ!?危険すぎる!」

レイウンはプリンツの言葉を遮るように、感情をあらわにして叫んだ。

私とプリンツが驚いて見つめると、彼ははっとして口をつぐみ、慌てて頭を下げた。

しかし内容自体にはプリンツも同意している様子だった。

「私もそう思う。キメラ研究家は危険だから外すとしても、レカンド侯爵とは合流して一緒にボスを倒した方がいいんじゃないか?」

「いいえ。」

私はきっぱりと言い切った。

「今、私の騎士団は危機的状況にあるの。時間がない。それに何より、あなたの案には問題があるわ。」

「問題?何だ?」

「キメラ研究家とレカンド侯爵を見つけて合流するのは難しい。二人は今、簡単には抜け出せない場所に閉じ込められているはずだから。」

原作通りなら、モリフィスとレカンド侯爵は聖域の地下にある“鏡の中”に閉じ込められているはずだ。

助けに行ったとしても、鏡の中では彼らが自力で脱出するのを待つしかない。

彼らの顔を見て挨拶を交わす頃には、私の一行の生死すら保証できない状況になっているだろう。

そもそも私はアナクシア討伐に来ているのであって、レカンド侯爵やキメラ研究家の戦力を借りるつもりはない。

だから時間の無駄はしたくない。

私は三人を順に見渡しながら口を開いた。

「お兄様、小公爵様、ヒルデ様。これから私はダンジョンの主、アナクシア・ペルヘムステインを討伐しに行きます。」

あちこちから生唾を飲み込む音が聞こえた。

「さあ、一緒に行きたい方は今すぐ手を挙げてください。特別に連れていってあげますよ。」

 



 

その時、アイレットのドッペルゲンガーと共にいる騎士団は順調に塔を登っていた。

「お前は……!ぐあああっ!」

部屋を守っていた悪魔の一体が一瞬で引き裂かれる。

突破は容易だった。

アイレットの姿を奪った存在こそ、このダンジョンの主だったからだ。

主に絶対服従する魔物たちが、彼女を攻撃できるはずがない。

現在の一行の位置は“鏡の城”最上階――7階。

すぐ先がボスルームだ。

先頭に立つアイレットのドッペルゲンガー、つまりアナクシアは、今まさにうっとうしい“害虫”を仕留めようとしているところだった。

『あと少し……もう少しで到着だ。』

新たに整えられた彼女のボスルーム、第四魔王の玉座の間。

そこへ入ることを想像するだけで、快感に全身がぞくぞくと震えた。

今、アナクシアと共にいる四人の愚かで哀れな人間たちは、自分たちが彼女の配下だと固く信じているに違いない。

そんな状況で、彼らがボスルームに到着し、そこにボスがいないと気づいたら?

そして彼女が悠然と玉座の間を横切り、王座に堂々と腰掛けたとしたら?

さらに、傲然と彼らを見下ろしながら仮面を外し、その正体を明かしたら?

その一連の流れの中で、人間たちはどんな表情を浮かべるのだろうか。

「はあ……想像するだけでたまらない!」

極度の興奮に、アナクシアの瞳孔は縦に細く裂けた。

断罪の執行官もいない、たった四人の人間の男たちなど、アナクシアにとっては脅威にもならなかった。

それでも顔立ちはそこそこ整っているし、玩具のように弄んで遊ぶくらいの価値はある。

その中でも、ほんの少し混沌悪に似た雰囲気を持つ銀髪の聖騎士は、特にじっくり壊してやる価値がありそうだった。

本物の混沌悪には到底できないような、下劣で卑劣な行為をこれでもかと浴びせて、徹底的に壊してやろう。

そしてその後、断罪の執行官が到着したら、褒美のように男たちの死体を一つずつ投げてやればいい。

どうせ罵声と悲鳴は、この魔界で最高の“音楽”なのだから。

『断罪の執行官よ――お前が喉を潰して絞り出す絶望のアリアを、リード様に届けてやろう!』

 



 

 

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