憑依者の特典

憑依者の特典【145話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「憑依者の特典」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【憑依者の特典】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「憑依者の特典」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...

 




 

145話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 家内平和のための宿願祈祷

国務院長であるカルレア・ギルレット枢機卿が、静かに進み出た。

「神聖卿殿下は、熾烈な戦いを終えてようやくご帰還なさったばかり。この場は議論を交わすにふさわしい席ではございますまい」

「ご配慮に感謝いたします、カルレア枢機卿殿下」

私が軽く会釈を返すと、周囲のあちこちから感嘆の吐息が漏れた。

ベザリウス枢機卿とデカル枢機卿もまた、厳かな咳払いで周囲をたしなめ、騒がしかった場を静まり返らせる。

カトレア・チュ・ギョンは、ちょうど私と目が合ったのを機に、先ほどの会話を続けることにしたようだった。

「質問がございます、チュ・ギョン殿下」

「どうぞお話しください、神聖国の皇女殿下」

最初に投げかけられたのは、いささか攻撃的な問いだった。

「王宮から届いた知らせが気になっておりまして。セレステ王女殿下はご無事でしたか? 最後にあまりにも急いでいたものですから、つい彼女を放り投げてしまったことが、ずっと引っかかっていたのです」

「肩の骨にひびが入ったそうですが、適切な治療を受けられたと伺っております、殿下」

「……もう少し優しく投げればよかったですね。何はともあれ、ご無事で何よりです」

そして、本命は二つ目の質問だった。カトレアは何気ないふうを装って尋ねる。

「それで……そちらの侍女であるビアンカ・ギルレテの様子はいかがですか?」

「ビアンカは……」

カトレア・チュ・ギョンは、わずかに目を細めて答えた。

「現在は回復に向かっており、心配には及ばないと、セレステ王女殿下を通じて報せを受けております」

「本当に……本当によかったです」

まだ話したいことは山ほどあったが、場所を改めるべきだろう。

ちょうどその時、カトレア・チュ・ギョンが適切な話題を切り出してくれた。

「それから、ビンチェスター王室からお伝えしたいことがございます」

「何でしょうか?」

「今回の討伐と救出について、神聖国の皇女殿下に直々に感謝を伝えたいとのことです」

「つまり、王宮へ来てほしいということですね」

「その通りです」

ここで、デカルが短く咳払いをして口を開いた。

「いつも通り、予算は十分に執行いたします。最近のビンチェスター王室は動向が穏やかではありませんので、神聖国の皇女殿下にも一度、現地の様子を見てきていただきたいのです」

現在のビンチェスター王室は、まさに王位継承争いの真っ最中。波乱に満ちた権力闘争が予想されていた。

「動向を見てほしい」というよりは、「第三王子リガレスを牽制してほしい」という意図の方が強いのだろう。

――まあ、行くしかない。

原作でもビンチェスター王宮は、ひたすら喉に詰まるような“サツマイモ”ばかりが転がっている、とんでもないエピソードの舞台だったのだ。

「ビンの椅子が良い」って、一体何なんだ。

『行って片付けてやるわ。あのサツマイモどもを!』

「分かりました。近いうちに訪問日程を決め、お伝えいたします」

[『天機漏洩監察官』が、予想される強力な原作破壊に額を押さえています。]

[『世界を救う英雄』が「やりたいことは全部やれ」と言ってあなたを励ましています。]

[『魂を裁く天秤』が、期待に満ちた眼差しを向けています。]

猛暑が去った、夏の終わり。

テシリドをはじめとする銀彩騎士団は、アイレットを護衛しながらビンチェスター王国へと向かっていた。

『ビンチェスター……』

テシリドは遠い昔へと記憶を遡らせ、かすかに残る断片を掘り起こしてみた。

埃を払うようにして現れた色あせた記憶の輪郭――しかし残念なことに、そこに良い思い出は一つもなかった。

どこへ行っても歓迎されないテシリドだったが、ビンチェスター王室の仕打ちはその中でも特にひどかった。

第一王子ハデイルと第三王子リガレスは、まるで「テシリド・アルジェント」という存在そのものが許せないかのように振る舞った。

敵対するだけならまだしも、それを理由にあらゆる悪事を働き、友好的なふりをして近づいては最後に裏切った。

さらに、できるだけ関わらないように努めた時でさえ、二人の王子は彼を見逃さず、必ず排除しようと執拗に迫ってきたのだ。

あらゆる時間軸を貫いて続く、底知れない敵意と悪意。

理由は毎回違った。あるいは、理由すら存在しないこともあった。

彼がどんな行動を取ろうと因果関係など無視され、結末はいつも同じ――二人の王子のどちらか、あるいは両方から命を狙われる結果に行き着くのだ。

到底理解できなかった。だから、ある周回からは理解することを諦めた。

ただの天災のようなものだと思えば、いくらか気が楽だった。

『今回も同じだろう』

卑劣な暗殺か、執拗な濡れ衣か。

あらゆる手口を経験し尽くしていたため、もはや新しい何かが起きるとも思えない。

だからこそ、感慨も緊張もなかった。

長いまつ毛の奥で、海のように青い瞳から静かに光が消えていく。ただ、このうんざりする時間が早く過ぎ去ることだけを願っていた。

誰も応えてくれないと分かっていながらも、テシリドは長年の習慣どおり、虚空へと祈りを捧げた。

――その時だった。

「親子鑑定を提案します!」

大会議場に響き渡ったアイレットの威勢のいい叫びが、彼の意識を強引に引き戻した。

『……一体、どういう状況だ?』

初めて遭遇する、予想外の展開。

その場面に立ち会うことになった彼の瞳に、久しぶりに鮮やかな生気が戻った。

遡ること少し前、アナクシアを討伐して得た戦利品の分配でのこと。

銀彩騎士団は「十分の一税(収益の三分の一を教団へ納める義務)」が免除されていたため、戦利品は私たち五人で自由に分けることになった。

最も大きな恩恵を受けたのはヘスティオだった。

戦利品として出たスキルブックの大半が支援職向けだったため、それらを選り分けてヘスティオに譲ったのだ。

「えっ、本当に全部私がもらっていいの? アイレットは?」

「私はもう全部習得したから」

「おお、これぞ聖女!」

「早く覚えるように」と念を押すと、ヘスティオは何度も力強くうなずいた。普段の刺々しい態度がどこかへ消え失せた様子は、なかなか面白い。

さらに見てみると、スキルブック以外にも彼女に渡せるものがあった。

「そうだ、ヘスティオ。これも」

【アイテム:反射の鏡】

攻撃を反射できる結界アイテム。ただし、5階位以下の魔法、または神聖力スキルにのみ有効。使用後は再充電が必要。

近接戦で使うには向いておらず、私たちの中で5階位以下の攻撃にも脆いのはヘスティオだけだった。

「鏡はちゃんと見るんだぞ、ヘスティオ」

「うん!」

「団長、サポーターばかりひいきしてません?」

「社会的配慮ということにしておこう、イペル」

テシリドにも大きな収穫があった。

【スキル:讃嘆者の偽神(パッシブ)】

タンク専用スキル。ボスに対するヘイト(脅威値)を増加させる。

鑑定結果を説明すると、ヘスティオとアッシュがテシリドを振り返り、口々に言った。

「これ、テシリドに絶対必要だったやつじゃない?」

「おめでとうございます、テシリド兄さん」

それまで無関心だったテシリドの態度が、その時ばかりは一変した。彼の瞳が、久しぶりに陽の光を浴びたかのようにきらりと輝く。

「どうでもいいものは全部覚えたから、あまり期待してなかったんだけど……」

「え? 何だって?」

「いや、何でもない」

前回の戦闘でも、アナクシアが私を攻撃しようとして、彼が間に入って苦労していたのだ。これでヘイトを奪われることもなくなると思うと、ずいぶん気分が良いのだろう。

スキルを吸収し、満足そうに微笑む彼の顔を眺めていた、その時だった。

首飾りが微かに震えた。

〈ふふ、敵いませんね、アイレット〉

やっぱりアグネスも私と同じことを考えていたらしい。

不思議そうにこちらを振り向くテシリドへ向かって、私は両拳を握ってみせた。

「頑張るわ」

「……?」

「あなたのボスヘイトを奪うために」

奪い取ってやるわ、そのヘイト。

「……お願いだから、そんな努力はしないでくれ」

テシリドは困ったような顔で言った。よほど切実だったのか、その声には少し哀願するような響きが混ざっている。

[『魂を裁く天秤』が、「世界一の美男子のお願いなのだから聞いてあげよう」と言っています。]

何を言っているんですか。美男子のヘイトだからこそ奪い甲斐があるというのに。

だが、なぜか私の口は素直に答えていた。

「分かったわ」

「ありがとう」

その時、アッシュが様子をうかがいながら、スキルブックの一冊へそっと手を伸ばした。

「これは僕がもらうのがちょうど良さそうですね。ふむ」

「おいおい、どこで咳払いなんかしてるんだ、末っ子」

「申し訳ありません、ヘスティオ兄さん」

アッシュが手に取ったのは、二刀流武器の熟練度を高めるパッシブスキルだった。

「傭兵らしい選択だな。分配を狙っていたのか……」

「持っていけ、アッシュ」

「本当ですか?」

「ええ」

無表情だったアッシュの顔がぱっと明るくなった。そして私を見ながら、感激したように言う。

「ありがとうございます、姉さん。これは姉さんが覚えてもよかったのに、譲ってくださるなんて」

〈分かってるじゃない。この子、本当に察しがいいわね。気に入ったわ〉

良い教官に恵まれたおかげで、私はほとんどの武器を両手で扱うことができた。時には二刀流の剣を使うこともあったし、アッシュの言う通りだ。

「いいのよ。私が覚えたところで、そこまで効率がいいわけでもないし」

「姉さん……」

「アイレット……」

私の意図を勝手に良い方向へと解釈したアッシュとヘスティオは、その寛大さにひどく感動していた。だが、イペルだけは騙されなかった。

「もっと良いものを狙ってるんだろ?」

〈ちっ、鋭い奴〉

こうして、持ち主の決まっていない戦利品は最後の一冊となった。やはり一番良い物は最後に公開されるものらしい。

そのスキルを確認した瞬間、その場にいた全員がどよめいた。

「うおおっ!」

「ほおっ!」

【スキル:満開の剣(パッシブ)】

オーラマスター専用パッシブスキル。空間認識力とオーラ運用能力が向上し、戦闘中に使用できるオーラブレードの数が増加する。

私の逃走、生存、勝利。そのすべての数値を引き上げてくれる極上のスキルだ。

見た瞬間に確信した。

『これは絶対に手に入れなきゃ!』

このスキルブックの価値は計り知れない。当然、私を含めたオーラ使いたちは互いに顔色をうかがい合った。

「……」

「……」

最初にアッシュが両手を上げた。

「まあ、僕はさっき二刀流スキルをもらいましたから、辞退します」

「やっぱりうちの末っ子は気が利くな」

イペルがアッシュの肩を叩いて褒めちぎっていると、私はわざとらしく咳払いをして注目を集めた。

「ふふん! 尊敬する団員の皆さん、注目してください。私が神聖国の皇女であり、銀彩騎士団長として、最も公平な方法を提案しましょう」

「急に改まって肩書きを並べ始めたぞ?」

「静かにして聞け、イペル」

「分かったよ。それで、その方法とは?」

「一番最初にオーラマスターになった者が手に入れることにしよう!」

私は目をぱちぱちさせながら、高らかに宣言した。

[『世界を救う英雄』が、賢明な判断だと言いながら拍手しています。]

[『天機漏洩監察官』が、見え透いた下心に呆れ、首を横に振っています。]

[『均衡を調律する独奏家』が、「結局そのスキルをあなたが手に入れると言っているのを、別の言い方で表現しただけでは?」と首をかしげています。]

『ええ』

今さら否定しても仕方ない。その通りだ。それが狙いだった。

だって、ここでオーラマスターになれる可能性が一番高いのは私なのだから。

イペルはまだオーラエキスパート上級。そしてテシリドは私と同じオーラエキスパート最上級ではあるが、原作によれば彼がオーラマスターになるのは40話以上先のことだった。

『まだまだ先の話なんだから!』

テシリドは肩をすくめながら言った。

「そうだな、アイ。君が持っていけ」

「本当に?」

思いがけない優しい言葉に、私は顔を輝かせて満面の笑みを浮かべた。

「私の意思は? まだ諦めてないんだけど」

「最上級に先になったのは君だろう?」

「ぐっ……」

その一言でイペルは黙り込み、『満開の剣』は私のものになった。私はスキルブックを両手で大事そうに抱え、インベントリへ丁寧にしまう。オーラマスターになった瞬間に使うためだ。

戦利品の分配が終わると団員たちを帰し、私はテシリドと二人きりになった。

残っているのは、細々とした素材アイテムを換金し、その利益を騎士団だけでなくヒルデ、レイウン、プリンスたちにも分配する実務処理だ。

有能な副団長が、帳簿をつけながら提案してきた。

「アイ、今後はこういう事務仕事を任せられる行政補佐官を一人置いた方がいいんじゃないか?」

「行政補佐官か……」

賛成だ。経営や会計を処理してくれる人材が必要だった。

ちょうど、心当たりのある人物が一人いる。討伐隊の人員管理や資金管理など、さまざまな事務業務を手伝ってくれると、幼い頃の私に約束してくれた人。

――私の友人、ビアンカ・ギルレテだ。

「それはいい考えね。今回王国へ行ったら勧誘してみるわ」

「当てがあるのか?」

「うん。本当に優秀な人材だから、期待していいわよ」

[『万象の混沌を監視する瞳』が、取り出していたニンジンをかじりながら喜んでいます。]

[『均衡を調律する独奏家』が、それをなぜ食べるのかと尋ねています。]

[『万象の混沌を監視する瞳』が、目に良いからだと答えています。]

まあ、気に入っているならそれでいい。けれど正直なところ、私もビアンカのことを思い出すとかなり気分が良くなった。

「しばらくの間、頑張ってくれ、テリー」

「分かった」

二人で頭を突き合わせながら帳簿の整理を終えた、その時だった。

[『世界を救う英雄』が、深刻な表情で開発本部の緊急会議を招集します!]

「ん? 開発本部の緊急会議?」

[『天機漏洩監察官』が、今度は何の問題が発生したのかと尋ねています。]

[『魂を裁く天秤』が、開発本部の終わらないトラブル処理に頭を抱えています。]

[『創造経済管理者』が、どうかアイテム複製や課金通貨複製のバグではありませんようにと祈っています。]

[『世界を救う英雄』が、それは違うと手を振っています。]

英雄様がいる開発本部で、一体何が起きたのだろうか。

[『世界を救う英雄』が、「まもなくビングァンリ国の会長が訪問する予定だ」と報告します!]

[『魂を裁く天秤』が歓喜しています。]

[『創造経済管理者』が青ざめています。]

どうやらビングァンリ管理局の最高責任者が開発本部を訪問するらしい。問題は、今の状況だった……。

『えっ、局長が来るの?』

[『試練の魔天楼建築家』が、嫌な記憶を思い出し、頭を抱えています。]

[『均衡を調律する独奏家』が、震える手で非常食を探しています。]

[『万象の混沌を監視する瞳』が、目をぎゅっと閉じて現実逃避しています。]

[『世界を救う英雄』が、「家出した息子を探しに行くべきなのに、なぜこちらへ来るんだ」と嘆いています。]

[『天機漏洩監察官』が、慌てて『世界を救う英雄』の口を塞ぎました。]

続いて監察官は英雄様を引きずって――いや、お連れして会議室へ向かい、他の開発本部の神々も後に続いたため、チャット欄は一気に静かになった。

私は残った審査本部長と事業本部長に尋ねた。

『軍団長……じゃなくて、会長様の神名は何なんですか?』

[『魂を裁く天秤』が、あまりにも多すぎて何と呼ばれるか分からないと言っています。]

どうやら神名というのは、功績に応じて増えていく称号のようなものらしい。ちょうど私がビングァンリチャットコミュニティで使っているニックネームみたいなものだ。

神界についてのちょっとした知識を得た、その時だった。

「アイ」

「ん?」

低く落ち着いた声には、不思議と人を引き込む力があった。私は考え事をやめて彼を見た。そこには真剣な表情を浮かべた美青年がいた。

「『満開の剣』のことだが、秋のうちに習得できるようにした方がいい」

「秋のうちに?」

「ああ」

今は夏の終わり。つまり彼の言葉は、「一季節以内にオーラマスターになれ」という意味だった。

その瞬間――

〈え? あなたもまだなっていないのに、今のアイレットにそれをやれって堂々と言うつもり?〉

「……」

「……」

場の空気が微妙に凍りついた。

「アグネス」

〈ゴホン!〉

どうしてそこで、うちのテシリドを追い詰めるような方向に察しが良くなるのだろう。

返事の代わりに空咳が返ってきた。テシリドは少し戸惑ったような、照れたような様子で、手で口元を隠しながら咳払いをする。銀髪の隙間から見える耳が真っ赤になっていた。

「あ、ああ、その……そういうことになるのか……」

「いやいや、テリー! 気にしなくていいから!」

私は彼の肩を軽く叩いて慰めた。そして、気まずい空気を変えようと真面目な話題に戻したテシリドの言葉を受けて、会話を続ける。

「言いたいことは分かるわ。秋に行われる『悪魔の大祝祭』に備えるなら、今よりもっと強くならなきゃいけないってことでしょう?」

「ああ、その通りだ」

理解してくれて助かる――そんな感謝のこもった眼差しと、小さなうなずきが返ってきた。

アグネスが疑問を口にする。

〈悪魔の大祝祭?〉

私は視線でテシリドに説明を促した。

「魔界には千年ごとに、三つの月が同時に昇る日が訪れる」

ねじれた半月、血を流す満月、溶け落ちた三日月。それぞれの月は魔王を象徴している。

「その日に開かれる悪魔たちの祭典を『バルプルギスの夜』と呼ぶ。そしてその時、人類には災厄が降りかかるのです」

〈どんな災厄が起きるの?〉

「それは……」

テシリドは眉をひそめ、言葉を選ぶように口を閉ざした。隠すべきことなのか、あるいはどう伝えるべきか迷っているのか。

沈黙が長くなりそうだったので、私は代わりに話を引き継いだ。

「各国の首都でバーストとシンクが同時に発生するんです」

今回は特に、混沌の魔王リードが動いているだけに、その規模はさらに大きくなるだろう。それだけではない。

『これまで私はリードの計画を何度も妨害してきた』

だが皮肉なことに、私がリードの企みを阻止するほど、逆にリードの破壊行動を加速させてしまう。原作第17話で起きた災厄よりも、一段階上の大災害が広がるかもしれないのだ。

ならば、それ相応の備えが必要だった。

「テリーの言う通りよ。今よりもっと強くならなければならないわ。力を貸してください、アグネス」

地獄の特訓を重ね、ときには仲間たちと模擬戦も行った。SS級チートによる穏やかな日々を送るうちに、一か月以上の月日が流れていた。

そしてついに、王都を訪問する日がやって来た。

教国の国格を示すという名目もあり、私は見栄えを整えるため、聖騎士の制服の上からクラミスのマントを片方の肩に掛けた。幸い、今は猛暑もひと段落しており、それほど暑くはない。

聖剣の主であるテシリドをはじめ、銀彩騎士団の団員たちとともに聖皇庁の中央へと向かう。

「兄貴、今日はいつも以上に格好いいっすね」

「アッシュ、お前もな」

今日はアッシュも、いつもの黒革の装いではなく、聖騎士の制服に身を包んでいた。

互いに褒め合いながら外へ出ると、ビンチェスター王室から派遣された者たちが私たちを待っていた。

「お迎えに参りました、神聖卿殿下」

どこかぎこちなさを隠したような、丁寧な声が二つ重なる。見ると、そこにいた二人の男性騎士には見覚えがあった。

「おお、レイ兄さん」

「隣にいらっしゃる方は、団長のお兄様ですよね」

「お二人とも制服が変わりましたね?」

士官学校の制服ではなく、王室騎士の制服を身にまとったプリンツとレイオンだった。どうやら、私たちを正式に王宮まで案内する役目を任されたらしい。

「リンツ兄さん!」

顔見知りが迎えに来てくれたことが嬉しくて、私は軽い足取りで近づき、プリンツの肩をぽんと叩いた。

ぺしっ!

「ぐはっ!」

「もう、お兄ちゃんったら。神聖卿殿下ともなれば、もう立派な貴人なんだからね。それにしても、ついに正式に騎士になったのね。偉いぞ、うちの長男! これから出世して家門を盛り立てよう!」

「……もうお前が全部やり遂げてる気がするけどな」

「おいおい、弱気なこと言うなよ。ヒスペリル公爵家の孫が、そんな調子でどうするの。祖父上に会う時は背筋をしゃんと伸ばしておきなさいよ」

「あ、ああ……」

ひとしきり兄妹のやり取りを終えると、私はプリンツを団員たちのもとへ送り出した。前回は戦闘の真っ最中で、ゆっくり話す余裕もなかったのだ。だから今こそ、お互いに積もる話をする絶好の機会だった。

その間に、私はレイオンへ向き直る。右手を差し出し、握手を求めながら挨拶した。

「またお会いしましたね、バレンシュタイン子爵様」

「……再びお目にかかれて光栄です、アイレット」

なぜか少し緊張した様子で、彼は私の右手に合わせるように自分の右手を差し出した。だが、そこでちょっとした事件が起きた。

『……ん?』

〈あれ、見て?〉

レイオンは私の手を取ると、その手の甲を上へ向けさせ、そのまま口元へ運ぼうとしたのだ。

『何だ? 手の甲にキスでもするつもりか?』

呆然としていると、その間にテシリドがすっと一歩前へ出た。

「バレンシュタイン子爵様、少々行き過ぎかと思います」

「そ、そうだろうか? すまない、アイレット。ついレディとして接してしまった」

レイオンは気まずそうに手を引っ込めた。私は軽く手を振る。

「大丈夫ですよ。手の甲にキスされるのは初めてだったので、ちょっと驚いただけですから」

「そうか? 初めてだったのか?」

なぜか彼の表情が嬉しそうに和らぐ。

「ええ。手のひらにキスされたことはありますけど」

「……誰に?」

何だろう、この微妙な顔色の変化は。

[『魂を裁く天秤』が面白がって、もっと聞け、もっと掘り下げろと囃し立てています。]

天秤様も相変わらずだ。

『子爵様みたいな善良な方をからかうのはよくありませんよ』

そう思った、その時だった。

[『魂を裁く天秤』が、自分が面白がって見物していたのは子爵様ではなく、主人公の反応のほうだったのだと誤解を訂正します。]

 



 

 

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