憑依者の特典

憑依者の特典【147話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「憑依者の特典」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【憑依者の特典】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「憑依者の特典」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...

 




 

147話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 悪夢

何でも分かったと答えた後、私は寝室へ案内された。

ドアを開けて中に入ると、二十代後半ほどの男がソファにもたれかかるように座ったまま、私を迎えた。

「おお、来たか」

ヴィンチェスター王家の象徴である薄い金髪に、整った顔立ち。さらに八重歯を見せた自信満々の笑み。まさに絵に描いたような王子様だった。

以前、ボスの部屋の天井にぶら下がって振り子運動をしていた挙げ句、派手に気絶した人物と同一人物とは思えないほど、想像もできないほど別人のようだった。

「聖女、ようやく顔を合わせられたな」

本来なら身分の序列があるはずだが、相手の方から気さくに話しかけてきた。私は少し考えた。

――ある神様が言っていたではないか。「サイダーの一口目の爽快感を味わうためには、たまにはサツマイモを食べるのも悪くない」と。

だから、私は敬語を使うことにした。

「はい、王子殿下。ご用件は何でしょうか?」

「恩人に挨拶をし、それから明日の宴会に必要な物を渡そうと思って来たのだ」

いかにも大した用事があるかのように、尊大な仕草で指を鳴らす。すると侍女たちが大きな箱を運んできて、私の前で開いて見せた。

中に入っていたのは、目を見張るほど豪華なドレスときらびやかな宝石の数々だった。

(うわ、ルパンだ)

しばらくドレスを眺めていた時だった。自信に満ちた王子様の声が鼓膜を震わせた。

「聖女に似合うドレスを用意してみた。これを着て私の手を取り、一緒に宴会場へ入場してくれると嬉しいのだが」

「それは……」

「明日の宴会で、私があなたのパートナーになろうと思うのだ。どうだ?」

いや、そこは「私があなたのパートナーになってあげる」という言い方だろう。

ハデイルは、神聖教の人間である私が自分を支持しているように周囲に見せたいらしかった。

私はまず、ドレスの箱の蓋をパタンと閉めた。

「ご用意いただいたことには感謝いたしますが、結構です。私は神聖教の代表として出席する立場ですので、式典にふさわしい祭服を着る予定です」

「王宮の宴会に祭服とは、なんとも堅苦しい……」

〈黙れ。創造神様が用意してくださったものだぞ〉

【『世界を救う創造神』が、もはやこれ以上付け加える部分のない完璧な装いを、再びあなたに押しつけようとしていることに笑いを禁じ得ません】

脳内の声をスルーしつつ、私も少し目を細めながら口を開いた。

「不足のない装いですのでご安心ください。それに私は特にエスコートを必要とする立場ではありませんし、仮にエスコートを受けるとしても、別の方にお願いしてください。王子殿下のお気持ちだけ頂戴いたします」

ハデイルの目元がぴくりと引きつった。

「聖女は国賓だ。王家の王子である私がエスコートするのが相応しいのではないか? もう一度考えてみてくれ」

「その国賓の選択を尊重していただければ幸いです」

ここまで言えば引き下がると思った。ところが。

「王妃から、リガレスのエスコートを受けろと言われたようだな」

いや、違うけど。

何かと突っかかってくるハデイルのせいで、場の空気が妙にこじれていく。しかも彼は、私にご丁寧な忠告までしてくる始末だった。

「第三王子はエルフェハイム公国を憎んでいる。あいつに力を貸すのは賢明な判断ではないと忠告しておこう」

誰でも知っている話を、さも重大な秘密であるかのように語るのだから恐れ入る。

「ドレスは置いていく。気が変わったらそれを着て、明日私の部屋へ来るといい」

そう言い残し、拒絶を受け入れられない未熟な態度を見せながら、王子は部屋を後にした。

〈何あれ。むかつくんだけど〉

アグネスがぶつぶつ文句を言っている間、侍女たちは私の顔色をうかがいながら、ドレスと宝石の入った箱をそのまま置いてそそくさと立ち去った。

すると、先ほどの侍女が慌てて私のもとへ引き返してきた。どこか嫌な予感がした。

「し、神聖教猊下!」

「どうしたのですか? 今度は第三王子でも来たのですか?」

「さすが聖女様です! その通りです」

「……ああ、そうですか」

だが、侍女の話はそれで終わりではなかった。

「その方ではございません、神聖教猊下」

「はい?」

「正確に申し上げますと、聖剣の主様が先にいらしておりました。現在、お二人とも応接室でお待ちです」

「……一緒にですか?」

「はい、猊下」

「……」

私の表情が自然とこわばるのを感じた。

これはまずい。

前の十六回目の周回で、テシリドはリガレスのせいでかなり苦労させられていた。それだけではない。十六回目の最後もまた、リガレスの手によってもたらされたのだ。

テシリドは豪雨の降りしきる荒野で、リガレスの剣に胸を貫かれたまま、孤独と苦痛の中で最期の息を引き取った。

顔を合わせれば険悪になることが目に見えている二人だった。このまま放っておくのは危険すぎる。

「し、神聖教猊下!?」

背後からの声を余所に、私は慌てて応接室へと向かった。

勢いよく扉を開けると、張り詰めた空気が一気に押し寄せてくるような気がした。

沈黙の中で向かい合う二人の姿が見えた。

「……」

「……」

ソファに腰掛け、挑発するような笑みを浮かべる白金髪の少年――リガレス。

そして大きな窓の前に立ち、無表情のまま視線を向けているテシリド。

二人は応接室に入ってきた私に気づかないほど、お互いを牽制することに神経を集中させていた。いったい何があったというのだろう?

緊張で手のひらが少し汗ばむのを感じた、その時だった。

【『魂を裁く天秤』が面白くてたまらない様子です】

【『クリシェ美食家』は刺激的な展開に興奮を隠せません】

テシリドがアイレットを訪ねてきたのには、理由があるような、ないようなものだった。

明日の宴会について相談するという名目で、彼女の顔をもう少し見ていたかったのだ。息が詰まりそうなほど窮屈なこの王宮で、かろうじて安らげるのは彼女のそばにいる時だけだったから。

だが、到着してみると状況は良くなかった。

「えっ……いえ、神聖教猊下がハデイル王子殿下と寝室にいらっしゃると?」

「は、はい。テシリド卿……」

「……」

「と、とりあえず応接室でお待ちください」

侍女たちは、自国の王子が、それも淑女の寝室に無断で入ったという無礼さに気まずそうな様子だった。そのため、テシリドに対しても、寝室に聖女と王子が二人きりでいるわけではないことを知らせようとして――それをすっかり忘れていた。

テシリドの表情はあまり良くなかった。だが、侍女たちを困らせるわけにもいかず、彼は静かにソファへ腰を下ろして待つことにした。

微動だにせず、背筋を伸ばして正面を見据えるその美丈夫の姿は、否応なく人目を引いた。大きな窓から差し込む陽光が、銀髪の上で冷たく砕け散る。

今のテシリドは、光の表現に長けた画家が魂を込めて描き上げた聖なる芸術作品のようだった。頭の先からつま先まで清らかな純白に包まれた絶世の美男子。まさに噂に名高い聖剣の主であり、神の寵児、そして神聖教の男だった。

ちなみに最後の肩書きは、つい最近追加されたものである。

思いがけず眼福にあずかることになった侍女たちは、このまま美しく静かな平和が続いてほしいと願っていた。しかし残念なことに、その平穏は長くは続かなかった。

「神聖教猊下にお会いしたくて参りました」

「……リガレス王子殿下、お目にかかれて光栄です」

第三王子リガレスは、異母兄に続いて、アイレットに用があると言ってやって来た。

テシリドは客人の立場だったため、本来なら王族と同席するわけにはいかなかった。彼は侍女たちが困惑する前に察し、ソファから立ち上がると窓辺へ移動した。

「これは私が席を奪ってしまった形になりましたね」

「お気になさらないでください」

その後に訪れたのは、気まずく居心地の悪い沈黙。そして、テシリドを露骨に観察するリガレスの視線。

「……」

何とも言えない不快な空気が応接室を満たした。時間が経つにつれ、テシリドの眼差しは次第に鋭さを増し、その表情はますます冷え込んでいった。

彼はこれまでの周回での経験から、これから起こることをある程度予測していた。

敵意を向ける理由が毎回ころころ変わるハデイルとは違い、リガレスの悪意には妙な一貫性があった。テシリドが聖剣の主であること――つまり、教国を代表する存在であり象徴でもあること。それだけで彼は、いつもリガレスの憎悪の標的になっていた。

敵意を抱くきっかけも単純だった。ただ目に入った、その瞬間から敵対が始まる。彼が生きてきたすべての周回において、一度の例外もなく。

不思議な話だった。一目見た瞬間に恋に落ちる運命的な愛でさえ、ここまで一貫して作用することはないだろうと思えるほどに。

もっとも、テシリドはその理由を深く追究することはとうに諦めていた。こうして長く生きていても、なお理解できない領域があるというのは不思議なことだったが、別に構わなかった。どうせ世界は彼への好意で回っているようなものだ。そこに、あからさまな強制力に突き動かされている人間が一人増えたところで何だというのか。

ともあれ、テシリドの予想では、そろそろリガレスが絡んでくる頃だった。彼はうんざりしたような表情を浮かべそうになるのを堪えながら待った。

案の定、それほど時間も経たないうちにリガレスが口を開いた。

「テシリド・アージェント。聖剣の主だそうだな」

「はい」

「聞けば聖養院の出身だとか」

「はい」

「それなのに、身寄りのない孤児の出だったそうじゃないか」

「はい」

「そんな境遇だった者が、聖皇庁の庇護のもとで聖剣の主にまで成長したとは。実に感動的な話だ。君はまさに……」

「……」

「教国の傑作だな」

テシリドは眉一つ動かさずに思った。

(――うんざりする)

正確に数えたことはないが、何度も繰り返されてきたお決まりの会話だった。この次は聖養院の低い身分をあげつらう話になるはずだ。

だが、彼の予想は完全に外れた。

「神聖教猊下とは、どういう関係なんだ?」

「……」

テシリドを反応せざるを得なくさせる言葉だった。ぼんやりと宙に向けられていた視線が、はっきりと焦点を結び、リガレスへ向けられる。

すると、まるでその瞬間を待っていたかのように、リガレスが続けた。

「どうせなら親しい仲だったら面白いのにな」

「……」

挑発的に口元を歪めながら放たれたその言葉の意図は明白だった。リガレスの悪意は、これまでとは少し違う方向へ向こうとしていた。

「……」

「……」

テシリドとリガレスが、張り詰めた空気の中で互いを探るように睨み合っていた、その時だった。

「テリー」

――アイレットの声が響いた。

応接室に現れたアイレットは、真っ先にテシリドの姿を認め、その名を呼んだ。

優しい気遣いの滲む声が耳に届く。だが、この瞬間のテシリドには、それがむしろ拷問のように感じられた。リガレスが聞きたがっている答えを、自ら与えてしまうことになるからだ。

理性では分かっていた。彼女が自分にとって特別な存在だという気配を、リガレスの前で見せてはいけないことを。

それでも今さら、アイレット・ロテラインに対して無関心なふりをすることは、テシリドにはできなかった。

「……アイ」

結局いつものように。声の震えだけでも分かるほど深い感情を込めて、彼は彼女の名を呼び返した。

メッセージウィンドウが騒がしくなった。

【『魂を裁く天秤』が、あなたの逆ハーレムに兄弟丼要素が加わる可能性を発見し、大興奮しています】

【『世界を救う創造神』が、「創造神教は一夫一妻制を教義に釘付けにしておくべきだった!」と叫んでいます】

【『クリシェ美食家』が、刑事訴訟法はあるのかと目を輝かせながら尋ねています】

神様たちの会話は今日に限って妙に騒がしい。私はそれを無視することにして、リガレスを迎えた。

「第三王子殿下にお会いできて光栄です。ドレスはお持ちにならなかったのですね?」

「ハデイル兄上はドレスを贈ったようだな。神聖教を利用して教国を味方につけようと必死らしい」

自然な流れで私の異母兄を貶したリガレスは、侍女たちに命じた。

「お茶を持ってこい」

ずいぶん勝手なものだ。

「座れ、神聖教」

私に向かって顎をしゃくるリガレスを見ていると、思わず笑いそうになった。片方の口角だけを吊り上げようとする口元の癖まで真似していたら、ついそんな気分になってしまったのだ。

私は彼の望み通り、向かい側のソファに腰を下ろした。そして口を開く。

「分かった、分かった。とりあえずここはあなたの家だしね」

「……」

「何をそんなに驚いているんだ? リガレス王子。あなたと私は国際的な序列では同格だ。神聖教の猊下が、たかが王族と同等の立場だということを知らないのか?」

【『均衡を司る読書家』が、「お母さんは元気にしているのか?」という質問を期待していたため失望しています】

【『クリシェ美食家』が、取り返しのつかない兄弟喧嘩の火種を投げ込んでみようとけしかけています】

しばらく目を見開いていたリガレスだったが、やがてフッと吹き出した。

「教国の偽善者どもとは違うようだな」

「そうか? なら今度は王子が私に好印象を与える番だぞ」

視線がぶつかる。私は、このままリガレスの敵意がテシリドではなく私へ向かってくれればいいと思っていた。だが、リガレスは予想以上に冷静だった。

「教国は私を牽制するために、あなたを寄越したのだろう?」

「そういう依頼は受けている」

「ハデイル兄上であれ、セルレスティド殿であれ、私に力を貸す気はないのだろう。だが結局のところ、決めるのは私の母上だ」

「末の王子殿下。その言い方だと、貴族たちからの支持が少々足りていないように聞こえるが?」

リガレスの好戦的な性格と教国への敵意を知る貴族たちは、彼を支持しなかった。これはリガレスにとって大きな弱点だった。だからこそ神経質に反応すると思っていたのだが、意外にも彼は平然としていた。

「そんな問題なら、簡単に解決する方法がある」

「どんな方法だ?」

聞き返しながらも、嫌な予感がした。まさかこいつ――。

「名門で影響力のある家門の令嬢と結婚すればいい。それで十分だろう」

「……ああ、そうか」

「実際、今まさに候補を探しているところだ。うまくいけば王妃陛下も喜ばれるだろう」

両手を組み、顎を乗せたリガレスは、私を値踏みするようにじっと見つめた。不敵な笑みを浮かべながら、その若い王子は私を挑発した。

「私も悪くないだろう?」

「聞いていないが」

「悪くないと言っている」

私の好みなど尋ねることもなく、リガレスは本題を切り出した。

「そろそろ私が何を言いたいのか分かっただろう」

「……」

「和平を提案するつもりだ。あなたと私の政略結婚という形で」

……ああ、神よ。

【『魂を裁く天秤』が大興奮しています!】

【『クリシェ美食家』が大興奮しています!】

〈ねえ、テシリド? 大正夫?〉

アグネスの言葉を聞いて、背後に立つテシリドの様子が心配になった。だが今は目の前の問題に集中しなければならない。

私はリガレスに向かって皮肉っぽく言った。

「お母様に言われたのか?」

「礼儀を身につけろと。未来の義母になる方だからな」

「それは私が判断することだ。ともかく、否定はしないんだな。母親に言われたことは」

「それでも否定しないのか。“義母”という言葉を」

「さあな?」

なぜだろう、背筋に少し冷たいものを感じる。

〈ねえ、テシリド……?〉

早くこの会話を終わらせた方がよさそうだった。そういう意味では、私はリガレスに好きなだけ話させることにした。

「聖女様らしく、平和のために尽力してくれると信じている。しかも私が皇太子になれば、あなたにとっても悪い話ではないだろう?」

「……」

そうだな、好きなだけ続けろ。

「エルフェハイム公国とヒスペリル公国には、近いうちに正式な書簡を送るつもりだ」

「……」

私はお茶でも飲んでいよう。

「心配するな。愛情は与えられなくても、夫としての義務はきちんと果たす」

「……ゴホッ」

その瞬間だけは、危うくお茶を吹き出しそうになった。すると、それまでどこか芝居がかった態度だったリガレスの視線が、ふと真剣なものへと変わり、私ではなく少し横の方向へ向けられた。

「それでも、婚約者としてあの騎士を連れてくるつもりはないだろうな」

【『クリシェ美食家』が、不穏な話題に興奮しています……】

「いい加減にしろ。返事は明日するから、もう帰れ」

「そうだな」

こうしてようやく、リガレスは部屋を後にした。

はあ、本当にとんでもないものを見せられた。私はあからさまにうんざりした表情のまま、彼が出て行った扉の方を見つめていた。

その時だった。

トン、と私が座るソファの背もたれに、誰かの手が置かれる感触がした。

振り返ろうとした瞬間、頭上に影が差した。テシリドはソファの後ろから身を乗り出し、私を見下ろしていた。

「テリー?」

「……」

無言で見つめてくるその顔は、陰になっていて暗く見える。引き結ばれた唇からは、言葉にできない苦しさが伝わってきた。

しばらくして、ようやく彼が口を開いた。

「計画」

「……」

「計画があるって言って」

まるでその後に「お願いだから」と続いてもおかしくない口調だった。

「もちろんあるよ」

私は即座にうなずき、わざといつもより大きく首を縦に振った。

「ただ、さっさと諦めて帰ってもらおうと思っていただけ。ちょっと変わった王子様だから、適当に相手をしていれば終わると――」

「ないよ」

「……そう?」

そこでようやくテシリドは緊張が解けたように、ため息混じりの息を吐いた。

「私も……」

「あなたも?」

「……いや」

私はソファで体の向きを変え、背もたれに腕を預けたままテシリドを見つめた。

「私だけを信じて。もうこれ以上、王宮の人たちがあなたを苦しめないようにするから」

「それができるのか?」

「うん」

「どんな計画なんだ?」

「うーん、天機漏洩になるから、あなたには直接説明できないかな」

「そうか」

主人公だけが知らず、全体を俯瞰する視点でしか知り得ない真実に関わることだからだ。どうせ明日になれば分かることだと思い、私はテシリドの肩を軽く叩いた。

だが、彼の立場になって考えてみると、少し胸が痛むのも事実だった。

「もしかしたら、あなたはその結果をあまり気に入らないかもしれないけど。それでも、こうすることでこれから先は苦しまなくて済むはずだから……これでいいの」

「……」

海のように青い瞳に疑問の色が浮かぶ。私が漏らした意味深な言葉を彼が追及する前に、私は話題を変えた。

「それより、何の用で来たの?」

質問を受けると、彼はしばらく言葉を選ぶように黙り込んだ。

「……舞踏会は初めてだと言っていただろう。もしかしたら、私に手伝えることがあるかと思って」

十七回目の人生を送る私は、王宮の舞踏会に二度参加した経験がある。

「うーん、手伝えることね」

胸を張って語れるほどではないが、それなりの経験はあった。

「……必要なかったか」

必要ないと言えば、彼はきっと気まずく思うだろう。

「いや、ちょうどよかった。明日の舞踏会に着ていく衣装の組み合わせで悩んでいたの」

「衣装の組み合わせ?」

「うん。私の聖女の正装にはバフが付きすぎているのよ。魅力、喜び、威厳、カリスマの上昇効果があるせいで、人に威圧感を与えてしまわないか心配で」

「別の服を着るつもりなのか?」

「いや。正装の下にモンマイの革製ハーネスを身に着けて、喜び・威厳・カリスマの効果だけでも下げようかと思ってるの。どう? 悪くない考えでしょ?」

「それ……服の下に着ける、あれ……か?」

「うん」

「……そうしたら、魅力は何倍になるんだ?」

「五倍くらい?」

「……」

「実際に着てみるから、見てくれる?」

テシリドは口元から顎先まで手でなぞりながら、小さく答えた。

「……ああ」

神殿長との面会を終えたリガレスは、その足で王妃ラビオサの私室へ向かった。

応接室では、すでに彼の母親が小さな調度品のように美しく菓子を並べ、彼を待っていた。

「仰せのとおりにいたしました、母上」

「よくやりました。座りなさい、息子よ」

「……」

リガレスは聞こえなかったかのように、その場に立ち尽くしていた。

「どうしたのです。母の言葉に従わないなんて珍しいことね、リガ」

そこでようやくリガレスは席に着いた。息子の杯に酒を注ぎながら、ラビオサ王妃が尋ねた。

「それほど気が進まないのですか」

「エルペハイム公国との和平など、守られるはずのない約束です」

「まだ……」

「ええ。まだ兄上が生きて戻ってきておりませんから」

「……」

酒が杯からあふれた。ラビオサ王妃は、息子のぎこちない言葉の奥にある憎しみと自責の念を見て取った。

「リガ、私の息子」

「神殿長が何か企んでいるようなので牽制が必要だとおっしゃいましたね。ですが、本当にそこまでする必要があるのでしょうか?」

王妃は用意していた答えを静かに口にした。

「神殿長が王室のことに執着し、介入してくるようになると厄介なのです。しかも、その狙いが読めない状況ならなおさら。私たちは先手を打たなければなりません」

「和平がそのための手段だというのは、納得できません」

「リガ、この母は復讐のためにあなたを王にしようとしているのではありません」

「どうしましょう、母上? 私は復讐を果たすために王になろうとしているのですが」

「……」

「母上、王妃殿下。この王国で最も高貴なお方。ですが私は、エルペハイム公国を許すことができません。あの者たちが兄上に何をしたのか、ご存じでしょう」

リガレスは固く握り締めた拳に力を込めた。

異母兄レミニンの話が出るたびに、あの日々の悪夢が鮮明に脳裏によみがえるのだった。

「私は決して忘れません」

 



 

 

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