憑依者の特典

憑依者の特典【131話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「憑依者の特典」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【憑依者の特典】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「憑依者の特典」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...

 




 

131話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 鏡の城②

アイレット一行が2階と3階を突破し、4階へと到達した頃――王国軍と魔導軍は、すでに混乱の渦中にあった。

両国の連合討伐隊は、迷宮の庭園をどうにか突破したものの、攻城戦で大きく足止めを食らい、ようやく城内への侵入に成功したところだった。

鏡の城は、疲弊した彼らをまるで歓迎するかのように迎え入れた。

まるで待ち構えていたかのように、城の構造を変化させ、部隊を分断していく。

「厄介な状況だな」

「ええ、本当に」

戦力の配分は極めて偏っていた。

よりにもよって、8サークルの大魔導士モリフィス・マルセリオンと、アークマスターのルミナ・レカンドロが同じ場所に集まってしまったのだ。

とはいえ、二人だけではない。

この場に集まったのは計六名。

モリフィスとルミナに加え、王国軍と魔導軍からそれぞれ二名ずつが同行していた。

魔導軍側は、魔剣士一名と白魔法使い一名。

「回復はお前に任せる。無駄な動きはするな、ついてこい」

「わ、私、しっかりします……!だから見捨てないでください、えっと……お嬢様」

きらびやかな金髪ポニーテールの美女――オデリト公女。

そして、くすんだ白金髪の気弱そうな少女は、マルセリオン家の令嬢であり白魔法使いのヒルデだった。

そして王国軍側は――

「……」

「……」

士官学校117期の首席と次席。

ゆるくウェーブのかかった桃色の髪の青年と、片側だけ白金の髪を流した青年が、静かに向かい合っていた。

プリンツとレイウン。

二人は士官学校で6年間も同じ時を過ごしたにもかかわらず、まともに会話を交わしたことがない。

お互いに、無意識のうちに距離を取っていたのだ。

レイウンは、「首席を奪われた小公爵が、力のない平民首席をいじめている」という悪意ある噂に巻き込まれないよう、常に言動に気を配っていた。

一方のプリンツも、レイウンが自分に対して距離を取っていることを察し、それに合わせて互いに関わらないようにしてきた。

その関係が長く続いた結果、士官学校側も「首席と次席の仲が悪い」と判断し、意図的に二人を接触させないよう配慮していた。

しかし今、SS級ダンジョンの中で部隊が分断されたことで、皮肉にも同じ場所に閉じ込められることに。

こうなった以上、協力しないわけにはいかない。

6年間積み重ねてきたぎこちなさを、どうにか解消しなければならなかった。

「……あの、小公爵様」

「……プリンツ卿」

「…………」

「…………」

しばしの沈黙の後、二人は視線で会話の順番を譲り合った。

レイウンの配慮を受けたプリンツが、少し照れたように笑いながら口を開く。

「まだ叙任も受けていないのに、“卿”は大げさです。プリンツ、もしくはプリンツ君でお願いします」

「そうか。では“公子様”と呼ぶのも堅苦しいな……レイウン卿、と呼んでくれ」

「はい、レイウン卿」

「不本意ながら同じ部隊になった以上、頼りにしているぞ。プリンツ……いや、プリンツ君」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

二人はぎこちないながらも礼を交わし、ぎくしゃくした空気を少しだけ和らげた。

その後、一行はロミナとレカンドロの後に続いて移動を開始する。

通路を進んだ先には部屋が一つ。

アイレットたちの時と同じく、夢魔の少女とその従者が待ち構える“中ボス部屋”だった。

「ん?」

ただ、少し様子が違った。

二体の夢魔は戦闘態勢ではなく、忙しそうに作業をしていた。

鏡で覆われた壁の一角に、暗幕カーテンを取り付けていたのだ。

彼女たちは敵意のない、どこか気の抜けた声でぼやく。

「忙しくて死にそうなんだけど、何?」

「主人様に言われた仕事、早く終わらせないといけないのに……」

「ちょっと待ってて。ここの鏡、見えないようにカーテンだけ閉めてから相手してあげるから……」

――もちろん、勇者たちは待たなかった。

「ギャッ!」

「ぐあっ!」

下級夢魔たちは、モリフィスの吐き出したキメラの火炎ブレスによって、一瞬で灰と化した。

オデリテが部屋の中を見回し、眉をひそめた。

「道がありませんの?」

「鏡の城ですし、鏡に仕掛けがあるはずです、オデリテ公女」

ロミナは、部屋の中央にぽつんと浮かんでいる鏡に気づいた。

それは先ほど倒した夢魔たちを、手錠と足枷で拘束していた鏡でもあった。

ロミナを中心に、一行は自然と鏡を囲むように集まる。

すると、鏡がすぐに反応した。

正面に映っていたロミナ・レカンドロの姿が歪み――まったく別の人物の姿を映し出す。

そこに現れたのは、端正な顔立ちの中年男性だった。

誰もが訝しげに見つめる中、ロミナが小さく咳払いをする。

「私の夫ですわ」

「まあ、とても素敵な方ですね」

「ありがとう、オデリテ公女」

モリフィスは元々研究者気質だったこともあり、魔法の鏡に興味を示した。

「結婚相手を映す鏡、というわけか」

時間が経つと、レカンドロの背後にいた部下の姿はふっと消えた。

次に前に出たのは、興味津々で顔を突っ込んでいたモリフィスだった。

しかし――しばらく経っても、鏡は何も映さない白紙のままだった。

それを見て、モリフィスは肩をすくめる。

「どうやら私は、この先も独身のようだな。ここ200年と同じく」

「200年……あ、はい」

ロミナは「誰が選ぶんですのよ」と言いたげな顔で、妙に納得したように頷いた。

そんな中、モリフィスはふとオデリテの方へ視線を向けた――。

彼はオデリテに手招きした。

「さあ、来てごらん。わしの可愛い孫娘よ。大魔法使いである祖父が、お前の未来の伴侶を見せてやろう」

「……はい、お祖父様」

この場にはモリフィスの孫娘は二人いたが、彼は庶子であるヒルデのことは眼中になかった。

結局、祖父の強い勧めに逆らえず、オデリテは鏡の前へと歩み出る。

「ん?」

「え?」

「どういうこと?」

鏡に映っていたのは――他でもない、オデリテ自身の姿だった。

その瞬間、鏡の正体が一気に怪しくなる。

「もう一度、よく見てみなさい」

「きゃあ……っ!」

オデリテは隣にいた異母妹の腕をぎゅっと掴んだ。

その様子に王国側の騎士たちは顔をしかめたが、彼女は気にも留めない。

すると、鏡の映像が再び変化する。

ヒルデの場合はさらに奇妙だった。

人物でも空白でもなく、“映像”が映し出されたのだ。

地面に座り込んでいるヒルデ。

そして顔の見えない誰かが手を差し伸べ、彼女を立たせる――そんな断片的な光景だった。

「ふむ、これは判断がつかんな」

まだ何人か試していない者がいる。

「プリンツ君も、鏡の前に立ってみなさい」

「はい、レカンドロ卿」

プリンツが鏡の正面に立つと――鏡は、一人の人物を映し出した。

「ほう……」

「ふむ……」

鏡に映ったのは、青みがかった黒髪に赤い瞳を持つ貴族の令嬢だった。

冷ややかで気品ある無表情がよく似合う女性。

だが、プリンツと視線が合った瞬間――その表情はふっと柔らぎ、氷が溶けるように優しく微笑んだ。

その破壊力は抜群だった。

「えっ、あの、その……いや、その……」

普段は冷静なプリンツの顔が、一瞬で真っ赤になる。

「大丈夫か、プリンツ君?」

レイウンが声をかける一方で、魔導国側の面々は「誰だあれは」という視線を遠慮なく向けていた。

その時、ロミナが鏡の中の人物に気づく。

「……ああ、セルスティード王女殿下の側仕えね。ビアンカ・ギルテ伯爵令嬢だったかしら」

「は、はい……」

「なるほど。確かプリンツ君は、ギルテ伯爵家の推薦で士官学校に入ったと聞いているわね」

「え、ええ……」

主席らしからぬ歯切れの悪い返事に、ロミナは思わずくすりと笑った。

「だいたい分かったわ。この鏡が何か。――バレンティナ公爵にも見せれば、確信できそうね」

プリンツは解放されたように後ろへ下がり、入れ替わるようにレイウンが騎士らしい足取りで前に出る。

この時、まだレイウンは知らなかった。

自分もまた、プリンツと同じような反応をすることになるとは。

鏡が、再び揺らぐ。

次の瞬間――映し出されたのは“映像”だった。

「おっ」

「……ほう?」

そこに現れたのは、風になびく桃色の髪。

そして剣で魔物の攻撃を受け止めている、一人の女性の後ろ姿だった。

それに対する人々の反応は様々だった。

「え……なんで……」

当のレイウン本人は、まったく予想していなかったのか戸惑いを隠せない。

「本当に立派な騎士ね」

ロミナは、レイウンの美化された記憶から映し出された映像に感嘆した。

「どこか見覚えがあるような……」

「どこで見たのかしら……」

プリンツとオデリテは、わずかに目を細めながら考え込む。

「……」

「……」

モリフィスとヒルデは、なぜか瞬きするのも忘れたかのように、ただじっと鏡を見つめていた。

やがて、プリンツがぽつりと疑問を口にした。

「もしかして、あれって私の……」

「そ、それって……!」

動揺したレイウンは、とっさにプリンツの言葉を遮ったが、うまく説明を考える余裕はなかった。

そのとき、ロミナがあっさりとした一言で場を収めた。

「称賛に値する騎士ね。記憶に強く残るのも当然よ」

「……はい」

「まあ、とにかく答えは出たわね。この鏡は……」

ロミナが状況をまとめようとした、その瞬間だった。

モリフィスが何かに取り憑かれたかのように鏡へと歩み寄り、表面にそっと手をなぞる。

「大公様……?」

「モリフィス様?」

オデリテとロミナが呼びかけるが、彼にはまるで届いていないかのようだった。

映像の制限時間が終わり、鏡は再び新たな対象を探して映し出そうとした。

ちょうど正面に立っていたのはモリフィスだった。

「……っ」

「……えっ?」

ついさっきまで白紙しか映していなかった鏡が、今度はピンク色の髪に猫耳と尻尾が生えた少女の姿を映し出した。

モリフィスの頬がわずかに赤くなる。

「……飼いたいな」

それを見て、キメラたちは嫉妬に満ちた声で鳴き、周囲の人々もじりじりと距離を取っていった。

社会的な非難の視線が、モリフィスの背中に突き刺さる。

しばらくして我に返ったモリフィスが振り返り、問いかけた。

「レカンドロ侯爵、なぜそんな目で私を見るのです?」

「どんな目に見えますか?」

「……研究室に半年も放置されていた、危険な魔法廃棄物を見るような目だな」

ロミナは否定しなかった。代わりに、先ほど途中だった鏡の話へと戻した。

「ともかく、この鏡は理想の姿を映すみたいね」

ドドドドドッ!

正解を告げるかのように壁が開き、新たな道が現れる。

「鏡の用途を当てれば道が開く……そういう仕掛けか」

これまで自分の理想像をまったく自覚していなかったレイウンは、複雑な表情を浮かべた。

一方で、プリンツの顔色は明らかに優れない。

モリフィスが鏡の真正面に立っていたせいで、先ほどからずっと“あの姿”が映り続けているからだ。

もしこれがただのダンジョンのギミックでなければ、プリンツはとっくに叩き壊していただろう。

ロミナが小さくため息をついた。

「さっさと移動しましょう」

「私はもう少しここに残る。侯爵、先に行ってくれ」

「……まあ、お好きにどうぞ」

ロミナは呆れた様子で他の者たちを引き連れ、先に進んでいった。

モリフィスは鏡から離れ、やがてその場にはオデリテだけが残った。

「そんなに気に入りましたか?そろそろ正気に戻ってください、大公殿下」

「待て、姪よ。まだこの部屋でやることがある」

いつの間にか、モリフィスの表情はどこかうっとりとしたものに変わっていた。

彼は先ほどモンスターたちが途中まで取り付けていたカーテンのある壁へと歩み寄る。

「さっきから、どうもここが気になってな」

「それで……?」

オデリテはようやく、何かが引っかかるような違和感を覚えた。

窓もない壁に、わざわざカーテンを取り付けているのが不自然だったからだ。

「侍女長の命令でやっているとは言っていたが……ここに隠すべき何かでもあるのか?」

シャララッ!

キメラがカーテンをくちばしでつまんで引き裂くと、隠されていた壁の内側が露わになった。

オデリテは、無数の鏡の中から一つだけ異質なものを見つける。

「……絵?」

視線の先にあったのは、どこか不気味な人物画だった。

黒髪の美しい貴族の令嬢が、椅子に拘束されたまま、疲れ切った様子でぐったりと項垂れている。

「いや、これは絵じゃない。鏡だ」

その令嬢が、ゆっくりと顔を上げて、モリフィスとオデリテの方を見つめた。

オデリテはその異様さに思わず息をのんだが、モリフィスはむしろ興味深そうに眺めていた。

「鏡の中に人を閉じ込めているのか。牢獄の鏡とは……実に面白い」

学者らしい好奇心に、彼の目がわずかに輝く。

そのとき、オデリテの脳裏にある考えがよぎった。

(この人……さっき“平民生徒の理想像”として映った女性に似ていない?)

黒髪の貴族令嬢――確か、ビアンカ・ギルレットと呼ばれていた少女だ。

そして彼女は、第一王女セレスティードの側近だと聞いている。

(王女が引き起こしたあの“シンク”に巻き込まれて行方不明になったなら……彼女がここにいてもおかしくない)

オデリテが鏡の中の人物の正体と価値を推し量っている間、モリフィスは手のひらで鏡の縁をなぞり、内部の構造を探っていた。

狂気じみた研究者気質に加え、今や猫耳少女にときめく趣味まで露呈した変人ではあったが――少なくとも今は、その異常な探究心が頼りになる場面でもあった。

大魔法使いだった。

その名にふさわしく、鏡の作動原理を瞬時に見抜いていた。

「究極スキル級以上の拘束と解放魔法を使えば、それがそのまま鏡の作動式に置き換えられる構造か」

「では私でも使えますか……?」

「それはたぶん無理だな。第八階位以上の魔力か神聖力にしか反応しない仕組みのようだ」

そう言い終えると、モリフィスはキメラたちに向かって手を振った。

ヘビやリス、猫が入り混じったキメラたちは鳴き声を上げながら、壁に埋め込まれた鏡を引き剥がそうと必死に取りつく。

その様子を見て、オデリテが不思議そうに首をかしげた。

「持ち帰るおつもりですか?」

「ああ。この鏡は価値がある」

「どのような用途があるのですか?」

「聖女を誘拐でもするおつもりですか?」

「本気でそうなさるのですか?」

「レカンドロ侯爵、ずいぶん愚かなことをおっしゃる。この大公は、聖女誘拐のような重大事を軽々しく口にする方ではない」

「あ、はい……」

オデリテは、いつも通り聞き流すことにした。

モリフィスは大陸における五大強者の一人だ。

いまや“八サークルの狂人魔法使い”が魔法師を守る、と一言放つだけで、あらゆる争いから責任逃れができるほどの存在だった。

今回も例外ではないだろう。

いつものように問題児が騒ぎを起こすのを放置しつつ、転がり込んでくる利益だけ拾い、騒動を面白がって眺めていればいい――そんな話だった。

一方その頃、鏡の中ではビアンカがようやく顔を上げた。

鏡の内側と違い、外の音は遮断されていない。

彼女は、聖女を誘拐しようとする彼らの会話をすべて聞いていた。

今にも気を失ってもおかしくない状況だったが、それでもビアンカは歯を食いしばり、モリフィスとオデリテを見据える。

そのか弱い貴族令嬢らしからぬ気丈さに、オデリテは感嘆し、モリフィスはどこか愉快そうに微笑んだ。

「まるでウサギのように可愛い目だ。なら、それに見合う可愛い“餌”にもなってくれるだろう?」

本来なら、モンスターに見つかればすぐ命を落とすような弱い侍女を、わざわざ引きずり出すなど常識外れの行為だ。

しかしモリフィスは、ビアンカを利用して聖女をおびき寄せるつもりだった。

彼にとっては、実に理にかなった“餌”の選択だった。

――もっとも、それが良い結果をもたらすかどうかは、まだ誰にも分からない。

キメラたちはついに鏡を壁から引き剥がすことに成功した。

大魔法使いにとって、亜空間を扱う魔法は基本中の基本。

モリフィスはインベントリを開き、監獄の鏡を収納しようと手をかざした――が。

「これは……」

「何か問題でも?」

「亜空間が満杯だ。お前が余計なものを詰め込んだんだろう、イングの娘よ」

「少しは整理なさってください」

「無理だな」

 



 

そんなやり取りの最中、別の報告が飛び込んできた。

「勇者たちが、かなりの勢いで城を登ってきています、リーダー」

場面は変わり、アナクシアは貴賓を迎えている最中だった。

鏡の城の最上部――尖塔の展望台。

壁も窓も存在せず、屋根を支える六本の柱だけが立つ空間。

そこからは魔界領の絶景が一望できた。

大理石で築かれた柱と、高く広がる天井。

広大に開けた青い空のような落天(らくてん)。

その中心に、すべての悪を統べるかのような威圧感を放ちながら座す、黒髪の美男子がいた。

ここは今や、魔神の神殿と化しているかのようだった。

本来なら、貴族は跪き頭を垂れて謁見するべき場。

しかしアナクシアは、恐れもなく混沌の悪と視線を交わし、対峙する栄誉を享受していた。

二人の周囲には、大小さまざまな鏡が宙に浮かんでいる。

それらはアナクシアが召喚した監視の鏡であり、城内に侵入した複数の勇者たちの動きを映し出していた。

リードは視線だけで鏡を動かした。

そしてわずかに紅い唇を歪め、アナクシアに問いかける。

「怖いか?」

アナクシアは、その問いの意図をすぐには理解できなかった。

「えっと……私が、勇者たちを、ですか?」

「そうだ」

「……怖いわけがありません」

少しだけ気分を害したように、彼女は淡々と答えた。

混沌の悪に対する自分の評価が、その程度に見られているのかと感じたからだ。

「彼らの目の前で、公女と王子の悲鳴を引き出すことを思えば……むしろ愉快です」

「そうか」

リードの返答は短く、そして冷ややかだった。

彼は、アナクシアなどに興味を向けてはいなかった。

その無関心さに、アナクシアは内心ほくそ笑む。

これぞ混沌の悪――そう思えたからだ。

しかし、ふとリードの表情を見た瞬間、彼女は気づく。

無関心なのではない。ただ、自分に向けられていないだけだと。

リードの視線は、ある一枚の鏡に釘付けになっていた。

瞬きすら忘れたまま、その中の光景を執拗に見つめている。

常に退屈そうで、世界のすべてを見飽きたような目をしていた彼がここまで執着する存在がいるなど、想像もしていなかった。

(いったい誰が……?)

混沌の悪の視線を、あそこまで独占できる存在とは。

興味を抑えきれず、アナクシアもそっと鏡を覗き込む。

そこには、確かに“納得できる人物”が映っていた。

「断罪の執行官――リード様の興味を引くのも無理はありませんね」

鏡に映っていたのは、剣を振るう桃色の髪の聖騎士だった。

「興味深い……」

リードはその言葉を、味わうようにゆっくりと口の中で転がす。

やがて静寂のあと、ぽつりと呟いた。

「……その程度の言葉では足りないな」

では何と呼ぶべきか。

魔族の本能に訴えかけるような欲望か、あるいは執着にも似た感情か。

アナクシアは一瞬、純粋な好奇心に駆られた。

しかし賢明な領主である彼女は、それを押し殺し、代わりにふさわしい提案を口にする。

「すぐにこちらへ連れて参りましょうか?」

「……」

「ご命令をいただければ、リード様に献上いたします」

穏やかな勧めに、リードの視線が一瞬だけ冷えた。

だが――

「アナクシア・フェルヘステイン」

「はい、リード様」

「勇者たちを迎える準備をしに行くべきではないのか?」

低く落ち着いた声に、逆らえぬ命令の重みが滲む。

アナクシアはふっと微笑んだ。

それで十分な答えだった。

「もちろんでございます、リード様」

彼の言葉に従う。

ちょうどいい。準備すべきことができた。

領主として、来訪する貴賓をもてなすための“特別な催し”を考えるには。

アナクシアは丁寧に一礼し、宙に浮かぶ鏡たちとともに静かにその場を後にした。

リードは神殿を思わせる尖塔の展望台に、一人残った。

魔界の空に夕暮れが差す。

赤く染まる大地をしばらく見下ろしていた彼は、やがて静かに目を閉じた。

長い歳月に疲れたのか、彼の瞳には常に倦怠が宿っていた。

 



 

 

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