こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
149話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 容赦なき裁き
少し前――。
笛の音を合図に飛び立った青い鳥は、神殿の外で待機していた影の騎士団のもとへと舞い降りた。
それは、内部で異変が起きたことを知らせる緊急の合図だった。
その意味を察した騎士たちは、即座に立ち上がる。
「お嬢様を救わなければ!」
今すぐ神殿の中へ踏み込もうとした彼らだったが、入り口を守る聖騎士たちに遮られた。
「お入りいただけません。先ほども申し上げた通り、随行の人数はあらかじめ定められております」
「しかし、今は一刻を争う事態だ! 今動かなければ――」
「それでも規則は規則です。許可なく踏み込めば、我々も武力を行使せざるを得ません」
緊迫した空気が、神殿の外にも急速に広がっていった。影の騎士たちは歯噛みしながら、神殿の奥を見据えるしかなかった。
「……ありません」
「神殿の中で、何かあったのですか? 少々、気がかりでして」
影の騎士と、正門を守る聖騎士たちが言葉を交わしているところへ、静寂を破る慌ただしい足音が近づいてきた。
「何があった?」
「伝令です!」
その瞬間、影の騎士の顔に驚きと喜びが入り混じった表情が浮かび、彼は深く頭を下げた。
馬を飛ばして駆けつけたドゥインが、人々の視線を一身に集める優雅な所作で、鞍から軽やかに降り立つ。その圧倒的な存在感と威圧感に、聖騎士たちは思わず息を呑み、喉を鳴らした。
「エスターはどこへ行った? なぜ、君たちだけがここにいる?」
「定められた人数しか中へ入れないとのことで、ここで待機しておりましたが……先ほど、青い光が立ち上りました。中にいらっしゃるお嬢様に何かあったのではと考えましたが、確認のしようがなく……」
「青い光だと?」
胸騒ぎを覚えたドゥインは、門を守る聖騎士の前へと歩み出た。正面から怒気を隠そうともしないドゥインを前にして、聖騎士は思わず身をすくめ、無意識のうちに半歩ほど後ずさる。
「入るぞ」
「随行は一分につき一名までと定められております」
しかし、新たに神殿を訪れたドゥインを止める理由など、もはやどこにもなかった。
ドゥインはベンに視線を送り、状況を任せるとだけ合図すると、ひとりで素早く正門をくぐり抜ける。
「先に行く」
まだ言葉が空気に残っているうちに、彼は走り出していた。降り続く霧雨さえ振り切るような、凄まじい勢いだった。
その不安な予感は、あまりにも正確だった。
ほどなくして――淡い光に包まれ、地面に倒れ伏すエスターの姿がドゥインの目に入る。
そして、そのエスターを見下ろすように立つ、見知らぬ一人の男がそこにいた。
「どこの馬鹿が、俺の娘に手を出した?」
殺気を帯びた視線に変わったドゥインは、手の甲に血管が浮き出るほど拳を強く握りしめ、そのまま二人のもとへ駆け寄った。
凄まじい速度で目の前に現れた彼は、右脚に全身の力を込め、アルベルトを容赦なく――ドン、と蹴り飛ばした。
「ぐっ! がはっ、ま、待て……!!」
だがドゥインは、アルベルトの悲鳴など意にも介さず、エスターの前に立ちはだかり、揺るぎなく彼女を背に庇った。
「……お父さん? 本当に、お父さんなの?」
エスターは、自分の前を塞ぐドゥインの大きな背中を見つめ、夢ではないかと確かめるように、ぼんやりと目を瞬かせた。
「間に合ってよかった。怪我はないか?」
ドゥインは、うずくまって呻くアルベルトから目を離さぬまま、それでもエスターが心配で、ちらりと振り返った。
「私は大丈夫です。でも、他の随行の方々が……怪我を」
「どういう状況だ?」
「司祭服を着た集団が、突突然うしろから襲ってきました。……私を攫おうとしていたみたいです」
“誘拐”という言葉を聞いた瞬間、ドゥインの眉間に深い皺が刻まれた。
「それなら、本人から直接聞くしかあるまいな」
ドゥインは、静かに、だが抑えきれぬ怒りを宿した目で、地面を這うように逃げようとしているアルベルトの傍へと歩み寄った。
『大公が、直々に出てくるとはな……。そんなことが分かっていれば、今回の件は絶対に引き受けなかっただろうに。ちくしょう、ついてない。ブラウンズめ……』
土を爪で掻きながら必死に距離を取ろうとしていたアルベルトは、背後から迫る圧倒的な気配に気づき、はっと目を見開いた。
彼はすでに――エスターが「お父さん」と呼ぶ声を聞いた、その瞬間から、全身を小刻みに震わせていた。
帝国でも敵なしと謳われるドゥインは、たとえアルベルトであっても、すでに満身創痍の状態で太刀打ちできる相手ではなかった。
「まさか、俺の娘を狙っておきながら、生きて逃げられるなんて甘い希望を抱いているんじゃないだろうな?」
ドゥインは力を加減し、アルベルトの手が砕け散らない程度に、しかし逃げられないほどの力で、その手を強く踏みつけた。
「ぐっ……」
アルベルトは歯を食いしばり、苦痛に呻いた。
(みんなどうした? まさか全滅か? ……それでも、生きて帰らなきゃならない)
ドゥインが現れた以上、アルベルトがエスターを連れ去る術は、もはや存在しなかった。任務が失敗したなら、せめて命だけでも持ち帰らなければならない。
その時、ジュディとデニスも、他の騎士たちを引き連れて駆けつけてきた。
「え? エスター、どうして一人で……倒れてる? ……あの人のせい?」
デニスは、嬉しそうに駆け寄ってきたかと思うと、床に座り込んでいるエスターを見て表情を一変させ、すぐさま彼女を支えて立たせた。
「……あの野郎が、やったのか?」
状況を一目で察したジュディは、歯を剥き出しにして肩を回し、剣の柄に手をかけた。その仕草だけで、ただならぬ危険が漂う。
「お兄ちゃんたちも、一緒に来てくれたの?」
エスターはこの状況にもかかわらず、どこか安堵したように微笑んだ。
けれど――攫われるかもしれない、という恐怖から解放された反動だったのだろう。張り詰めていた緊張が切れ、目の奥に堪えていた涙が、じわりと滲んだ。
「ちょ、ちょっと……エスター、泣いてるぞ」
デニスの言葉に、ドゥインとジュディが同時に振り返る。
「……本当か?」
「こいつのせいだな」
涙の効果は、想像以上だった。
「指を何本かへし折ったくらいで、口が利けなくなると思うな」
怒りが頂点に達したドゥインは、今度こそ容赦せず、アルベルトの手をぐっと、全力で踏みつけた。
「ぎゃあっ!」
アルベルトは折れ、ねじ曲がった指を抱え込み、悲鳴を上げた。
さらにドゥインが別の場所を踏みつけようとした、その瞬間――エスターが切羽詰まった声で彼を呼び止めた。
「お父さん、ノアと一行を助けに行かなきゃ。まだ戦っているはずよ」
ノアの肩をかすめた剣のことを思い出し、胸に申し訳なさが込み上げた。その瞬間、エスターの瞳に溜まっていた涙が、意志とは無関係に、ぽとりと床に落ちた。
「あ……」
驚いたエスターは、慌てて手で目元をぬぐった。
……出た。
意図したわけではなかったが、エスターの頬を伝って零れ落ちた涙を見た瞬間、ドゥインの殺気が完全に爆発した。そばにいたベンと騎士たちは、エスターが無事だと確認して一瞬ほっと息をついたものの、その禍々しい気配に気づいた途端、びくりと身を強張らせた。
「……俺たちの末っ子の目から涙を奪ったってんなら、あの男は少なくとも、血の涙くらいは流してもらわねぇとな」
デニスは露骨に嫌悪をにじませた表情で、アルバートを容赦なく睨みつけた。
ジュディは指を鳴らして拳をほぐすと、まだ戦闘が続いている方角へと駆け出していく。
「じゃ、先に行く」
もちろん、連れてきた二十名ほどの影の騎士たちも一緒だった。
――全部、終わりだ。
このまま捕まれば、どんな目に遭うか分からない。ドゥインの放つ圧倒的な殺気に晒され、アルバートは皮膚がひりつくのをはっきりと感じていた。
死を覚悟し、アルベルトはゆっくりと目を閉じた。これから受けるであろう過酷な拷問を思えば、今ここで楽に死ねるなら、そのほうがまだましだった。
――ブラウンズ大公に捕まったのは想定外だったが、任務は失敗だ。せめて部下たちは、生きて逃げ延びていてくれ。
アルベルトは任務失敗時に備えて、常に舌の裏に隠し持っていた毒薬を噛み砕いた。苦しみもなく、一瞬で命を奪う猛毒。薄い膜に包まれたそれを、歯で破った。
――こいつらの思い通りには、ならない。
そして毒が回り、死が訪れるのを待った。通常なら、数秒で終わるはずだった。
「……何だ?」
だが、いくら待っても毒は回らなかった。それどころか、身体は次第に軽くなっていく。折れていた指の激痛すら、いつの間にか消えていた。
驚き、思わず目を見開いたアルベルトは、ゆっくりと顔を上げた。
アルバートは、いつの間にか感覚を取り戻している自分の指先に気づいた。
「……まさか、死ぬつもりだったのか?」
それを見下ろしていたドゥインは、鼻で笑うと、アルバートの胸元の服を掴み、乱暴に引き裂いて、その切れ端を口の中へと押し込んだ。
「くだらねぇこと言ってんじゃねぇ。俺の娘の聖力が桁違いすぎてな――死にたくても、そう簡単には死ねねぇんだよ」
誇らしげですらある口調に、アルバートは声も出せず、喉を鳴らすことしかできなかった。
ほんの少し前――。
エスターはアルバートを注視し、彼の顔色が変わるのを察した瞬間、迷いなく聖力を彼へと流し込んだのだった。アルバートが聖水を飲んで毒を解いたのを見たことで、逆に――毒を使えば命を奪える可能性がある、という考えが一瞬、脳裏をよぎったのだ。だが、重要な証言を引き出す前に、相手を死なせるわけにはいかなかった。
「……っ、ぐ……ふ、ふふ……」
喉奥で、アルバートがかすれた笑いを漏らした。
アルベルトは声も出せず、喉を詰まらせたまま、乾いた笑いを漏らした。
――聖力がどれほど優れていようと、死にかけの人間をここまで回復させるだと? 自分が聖女でもあるまいし。
最後の手段として飲んだ毒ですら死ねない現状が理解できず、彼は正気を失いそうだった。
「ちっ……無駄なところまで治りやがったか」
ドゥインは戻ってきたアルベルトの手を見て、落ち着いた様子で、同じ箇所を再び踏みつけ、確実に骨を折った。
「うぐっ!!」
そのとき、先ほどの悲鳴を聞きつけた聖騎士団の数名がようやく駆けつけてきた。
「何事ですか?」
普段なら、もっと早く駆けつけていたはずだった。しかし今日は、ラビエンの試験の日。あちこちで人が集まり、私語に夢中になっていたせいで、神殿の最高戦力であるはずの彼らの対応が完全に遅れてしまったのだった。
「だ、大公殿下ではありませんか……?」
ドゥインを認識した聖騎士たちは、はっと息を呑み、慌てて深く頭を下げた。
「殿下、どうかご説明を。悲鳴を聞いて駆けつけましたが……殿下が暴力を振るわれたのですか? そして、そこに倒れている方は一体――」
「まったく、役立たずな護衛団だな。だから神殿の中を、あんな鼠どもが好き勝手に走り回る」
ドゥインは心底うんざりしたという目で聖騎士たちを一瞥し、舌打ちした。
「俺の娘が、神殿の中で襲われた。――この男は、俺の手で取り押さえた」
「な……! あり得ません。神殿に、外部の者が侵入できるはずが……」
アルバートに視線を向けていたエスターが、ゆっくりと顔を上げ、はっきりと言った。
「最初は、聖騎士の服を着ていました。正門を通っていないのなら……内部に手引きした人が、いるはずです」
「聖騎士服、だと……」
ドゥインは眉間に深い皺を刻み、低く唸った。
「その上で誘拐未遂。……随分と舐められたものだな、この神殿は」
彼の視線が、鋭く聖騎士たちを射抜く。
「覚えておけ。俺の娘に手を出した以上、ただで済むと思うなよ」
重く、しかし確かな殺気がその場を支配した。
「他にもありますか?」
聖騎士たちは、自分たちだけでは対処できない事態だと悟り、激しく動揺した。
「はい。あっちに、もっとたくさんいます。お父さん、私たちもひとまず行きましょう」
ノアや護衛たちの状態が気がかりだったエスターは、ドゥインの手を引き、最初に襲撃を受けた場所へと駆け出した。
騎士団長を呼びに行こうとしていた聖騎士たちは、互いに視線を交わし合い、とりあえずエスターの後を追った。
幸いにも、戦いが始まった場所に到着した頃には、ジュディと影の騎士たちが合流し、状況はすでに収束していた。
「父上、全員集めました」
影の騎士に劣らぬ腕前で楽しげに剣を振るっていたジュディは、にやりと笑いながら、一か所に集められた襲撃者たちを指さした。
エスターは、同行していた一行が全員無事であることを確認し、胸をなで下ろしながらノアの姿を探した。
「ノア!」
ノアは傷が開いて相当きついのか、木に背を預けて荒い息をついていた。エスターの姿を見て、ほっとしたように目を細める。だが、その奥には強い怒りの色も滲んでいた。
「……無事でよかった」
「ノア……!」
エスターは駆け寄り、思わず彼の前に膝をついた。
「すごく痛いでしょ? ちょっと待って、今――」
「それより」
ノアは低く言い、エスターの手首を掴んだ。
「どこに行ってたんだ。俺がどれだけ心配したと思ってる」
責めるような声音に、エスターは息を詰まらせる。
「一人で行くなって言っただろ。危険だって……お前が傷ついたらどうする」
「ノア……」
言い返しようとした、その瞬間だった。ノアは治療を待つ間もなく、近づいてきたエスターを強く抱き寄せた。
「っ……!」
不意に引き寄せられ、エスターはノアの胸に顔を埋める形になる。腕の力は弱々しいのに、必死に離すまいとしているのが伝わってきた。
「……ほんとに、無事でよかった」
その声は、震えていた。
「ち、治療しなきゃ……。傷、開いてる」
エスターは慌てて身を引こうとしたが、ノアは一瞬だけ、さらに強く抱き締めた。
「少しだけ……このままでいさせて」
そう言ってから、力が抜けたように腕が緩む。エスターはそっと彼の背に手を回し、静かに頷いた。
「……うん。でも、すぐ治すから」
ノアは小さく笑った。
「命令だぞ、聖女様」
張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らいだ。
エスターの顔は真っ赤になったままだった。しかしノアは、エスターをすぐには放さず、ぎゅっと抱き締めたまま、ようやく落ち着いて呼吸ができる程度までそうしていた。
「無事で……本当に良かった」
一段と低くなったノアの声は、かすかに震えていた。その震えに続く深いため息から、エスターはノアがどれほど自分を心配していたのかを、はっきりと感じ取った。
「……心配かけて、ごめん」
もちろん、ノアの安堵は長くは続かなかった。四方から、冷たい視線が突き刺さってきたからだ。
「だ・い・じょ・う・ぶ・で・す・か、陛下?」
とりわけ抑揚のないドゥインの声が、すぐ横から飛んできた。ノアは思わず、エスターを抱きしめていた腕を慌ててほどき、気まずそうな笑みを浮かべた。
「はは、そうですね。大公が助けに来てくださって、本当にどれほど心強かったことか」
「まったく、きちんと治療しないとな」
エスターは、父の視線をなんとなく肌で感じ取り、慌ててノアの肩の傷から先に治療を施した。そして他にも負傷者がいるからと、一人でそそくさとその場を駆け去っていった。
ドゥインの気だるげな視線をそのまま受け止めることになったノアは、へらりと笑って、どうにか話題を変える。
「俺たちも、あちらへ行きましょうか?」
「そうですね」
エスターが懸命に聖力を使ったおかげで、負傷した一行は全員、きれいに治療を終えることができた。幸いにも死者や致命傷を負った者はいなかったが、それはひとえに護衛たちの実力が抜きん出ていたからにほかならない。
「隊長!」
ドゥインに押さえつけられているアルバートの姿を見て、彼の部下の一人が叫び声を上げ、駆け寄ろうとした。だが、影の騎士に蹴り飛ばされ、床を大きく一回転することになった。
(……全員捕まった、ということか。あいつらは、仲間を見捨てて逃げるだろうが……)
アルバートは、部下たちと遠くから視線を交わし、虚しく希望を抱いた。金のためだけに動くギルドだとしても、長年共に働いてきた仲間たちは大切だった。こうなった以上、生き残った部下たちを守るためにも、アルバートは軽率な行動を取ることができなくなっていた。
「これでいいか? あいつらが神殿と関わりのある人間なら、こちらも責任を問いやすくなるが」
ドゥインの言葉に、聖騎士はごくりと唾を読み込み、慌てて首を縦に振った。
「全員、初めて見る顔です。我々の騎士団でも確認の取れていない者たちです。断じて違います。すぐに上へ報告してまいります」
「残りの話は、私の秘書としろ。こいつは私が連れていく」
「そ、それは……しかし神殿の内部で起きたことですし、隊長は我々が――」
「よく言ったな。だが神殿の内部で起きた事件だ。もし私が来ていなければ、娘は攫われていたところだぞ。お前たちは目撃者だ。神殿には、この件について責任を取るべきだと、はっきり伝えておけ」
ドゥインの冷ややかな蒼い眼差しに聖騎士は圧倒され、深く頭を下げた。
「こいつを除いた残党は置いていく。問題ないな」
「承知しました」
聖騎士たちのうち数名が、急ぎ大神官を呼びに駆け出していった。その様子を見送りながら、神経質そうに髪をかき上げたドゥインは、ベンへと振り返る。
「ベン、後始末はお前に任せる」
「承知しました」
ドゥインは一行を半分に分け、処理に当たる人員だけを残して引き返した。
アルバートがその後ろへ引きずられていくと、神殿に残された彼の部下たちが騒がしく叫び声を上げた。
「大将! 俺たちのことは気にしないでください! 死んでも構いません!」
「そうです! どうせその覚悟で来たんです! 大将だけでも、どうか逃げてください!!」
それを聞いたベンは顔をしかめ、彼らの後頭部を順番に強く叩いた。普段はドゥインの配下の中でもっとも理性的で温厚なベンだったが、
「大事なうちのお嬢さんを狙うなんて……この罰当たりどもが」
エスターをさらおうとした者たちに、情けをかける気など一欠片もなかった。
「ぎゃっ!!」
結局ベンは、神殿に事の次第を知らせに向かう間も――ギルド員たちの上げる悲鳴は、なかなか途切れなかった。