こんにちは、ちゃむです。
「転生令嬢は治療スキルで異世界のみんなを救おうと思います」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
26話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 闇診療所の甘いポーション
「一体何なの……あの子は」
リリーは、すっかり冷めてしまったステーキを見つめた。
冷めてもなお艶やかで、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。それなのに、さっきまで抑えるのが大変だった食欲は、嘘のように消え去っていた。
(あの人が差し出してくれたお肉は、あんなに食べたかったのに……)
不思議なことだった。
(あの人は悪い人には見えなかったけれど……ジェイクは無事かな?)
(私なんてもう放っておけばいいのに、リリーは……)
少女は警戒するように膝を抱え、さらに身を縮こまらせた。
「少しお邪魔してもいいかしら?」
「……もう勝手に入ってきたくせに」
「ちゃんとノックはしたわよ。でも聞こえなかったみたいだったから。あなたも女の子だし、うちの主人よりは私のほうが話しやすいでしょう?」
扉を開けて入ってきたのは、見覚えのない女性だった。
上品な雰囲気をまとった細身の女性で、先ほどの少女(シャナ)によく似た、美しい顔立ちをしている。だが、どこか柔らかい印象のシャナとは違い、ぴんと張り詰めた糸のような緊張感と圧倒的な威圧感を漂わせていた。
リリーは思わず息を呑み、さらに小さく体を丸める。
「緊張しなくていいわ。サナがお前を大事にしている以上、誰もお前に危害は加えたりしないから」
「……」
「お前の身の上は少し調べさせてもらった。最後はハイズ伯爵家に売られ、そこから逃げ出したそうね。その前にもあちこちを転々としていたとか……。勝手に調べて悪かったわね」
「どうせ、悪いとなんて思ってないくせに」
「まあ、その通りだな……」
リリーは否定しなかった。
貴族というのは、皆こういうものだと知っていたからだ。自分勝手に振る舞い、他人の尊厳を踏みにじってもまったく気にしない存在。――もっとも、それは貴族に限らず、人間という生き物がみなそうなのだ。
人を傷つけ、利用し、最後には命を奪っても、少しも罪悪感を抱かない。
表情からは何一つ感情が読み取れなかった。
「足首にある奴隷の刻印は、誰に付けられたの?」
「……知ってどうするつもりかは知らないけれど。まさか、素直に答えると思ったわけ?」
「素直に話してくれるなら、それが一番助かるわ。私は娘のおもちゃを壊したくないの」
「……っ」
リリーはごくりと唾を飲み込んだ。
穏やかな口調で微笑んではいるものの、その笑顔をそのまま信じられるほど愚かではない。この相手には反抗しても無駄だ。あの緑色の瞳は、自分を目的を果たすための「道具」程度にしか見ていない。
過酷な環境の中でも生き延びてこられたのは、誰よりも強い生存本能があったからだ。生き残るために息を潜め、好機を待つ術を彼女は知っていた。
「……そうよ。伯爵についていた魔法使いに見つかって、刻まれたの」
「ふむ、なるほど……。まずはハイズ伯爵家から徹底的に調べる必要がありそうだな」
「……もういいでしょ。私のことは放っておいてよ……」
「怖がらせてしまって悪かったわね。……私が来たことは、サナには秘密にしておこうか?」
リリーは膝の間に顔をうずめ、小さく頷いた。
ただ、あの恐ろしい人が早くいなくなってくれることだけを願って。
……そう思えば、何だってできた。
「ありがとう。それから、ごめんなさいね」
大きな大人の手が、優しく頭を撫でた。
扉が閉まる音がしてから、リリーはようやくそっと顔を上げる。
どうして謝るの?
何に感謝しているの?
「……一体、何なの」
さっきまで鋭く追い詰めてきたのに、まるで平然と幼い子供をあやすように接するあの人は、いったい何者なのだろう。あれほど清潔で整った姿をしているのに、逆らえばいつでも殺すと言わんばかりの殺気を放っていた人が、奴隷の烙印を押された自分に、今度は自然に謝罪の言葉を残して去っていく。
――あの人はいったい、何者なのだろう。
「私、一体どこへ連れ込まれたっていうの……?」
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「じゃーん!」
マリアはその場でくるりと一回転した。
白いガウンがふわりと綺麗に広がる。ベイリーに頼んで作ってもらった、特注の医師用白衣だった。
お医者さんといえば、やっぱり白衣に聴診器。私はそういう定番に弱いタイプなのだ。
「すごいよ、マリア! すごく賢そうに見える!」
「ちょっと待ってください、サナ様。それじゃあ、普段の私はどう見えているんですか?」
「……そういうことじゃなくてね?」
「うん?」
「可愛いふりをしても無駄ですよ。ちゃんと説明してください!」
こういう時のマリアは、驚くほど頑固だった。
「マリア、サナ様をあまり困らせないであげなさい」
「でも、ベイリー様……」
「普段の聡明な君らしくないぞ」
「……っ」
ベイリーの言い方はちょっと厳しすぎる。私はそこまで深く考えて言ったわけではなかったのだ。
マリアが本気で拗ねてしまいそうだったので、慌てて口を挟んだ。
「もっと! もっと賢そうに見えるって意味だよ!」
「そ、そうですか……?」
普段のマリアは可愛くて明るいけれど、時々すごく天然なところがある――なんて本音は、墓場まで持っていくつもりだ。
「俺たちも、この服は結構気に入ってるけどさ」
レオンがボソッと呟いた。
レオンとイアンは、オレンジ色のつなぎ作業服を着せられていた。遠くからでもすぐに見つかりそうな、鮮やかな発色が特徴だ。
イアンは半ば無理やり着せられたようで、あまり乗り気ではなさそうな顔をしている。
「……恥ずかしいよ」
「どうして? すごく似合っててかっこいいじゃない!」
私の拙い説明だけでも、ほぼ完璧に再現してしまうベイリーの裁縫の腕前は本当にすごい。
私が迷いなく褒めると、不機嫌そうな表情を隠しきれなかったレオンとイアンの頬が、わずかに朱に染まった。……可愛いとこあるんだから。
「本当に……?」
「もちろん! 私は嘘なんてつかないよ。すごくかっこいいし、それに……その、可愛いし……」
「『可愛い』はいらない」
そこがお前たちの一番の魅力なのに!
「じゃあ、その分もっとかっこよさを倍増させようね!」
「……なんだか、うまく丸め込まれた気がするけど……まあ、いいか」
レオンとは違い、イアンはそう簡単には納得してくれなかった。なかなか手ごわい相手だ。
そして私とエブリンは、マリアとお揃いのデザインでサイズ違いの白衣を羽織った。
エブリンは完璧に着こなしているし、正直、私も結構似合っていると思う。来週、聴診器さえ届けば完璧だ。
(伊達メガネでもかけようかな……?)
鏡に映る私は、少し興奮して頬を赤らめていた。
でも、これってなんだか……病院ごっこをしているみたいですごく楽しい。
衣装をきれいに着てみると、かえって遊びのように見えてしまうのはなぜだろう。
それでも、マリアだけは比較的真剣な表情をしてくれていたので安心した。私は上着を脱いで、丁寧にハンガーへとしまう。
(いよいよ、次の週か……)
最初は双子の妙なこだわりから始まった話だと思っていたけれど、よく考えてみると、これは私にぴったりの仕事だった。正確には、この「謎の能力」にぴったりだった。
この力の正体が何なのかはまだ分からない。けれど、与えられた力を最大限に生かすことが大切なのだ。
これほど有効活用できるなら、手先の器用さを鍛えるために泥遊びばかりしていた頃より、よっぽど価値がある。
この力なら獣人も治療できるし、エブリンの身体だって治せた。感染症だって、比較的簡単に防ぐことができるはずだ。
すべての病人を救うことはできなくても、目の前で苦しんでいる人を助けられる。そう思うと、胸の奥から熱いやりがいが湧き上がってきた。
当面はマリアを名目上の医師として前面に立てることになるだろう。でも、私が成長すれば、いずれは自分自身で堂々と診療できるようになるはずだ。まずは貧民街の感染症を抑えられれば、毎年亡くなる尊い命も確実に減っていく。
さらに、皇后陛下やリリーに邪悪な呪いをかけた魔族を妨害することもできる。
(レイヴンが学院へ行ったら、一日中寝てのんびり過ごそうと思っていたのに、どうしてこんなことになっちゃったんだろう……)
とはいえ、幼稚園児の本分といえば、食べて、寝て、排泄して、走り回って遊ぶことだろう。最後の「走り回る」を除けば、ほとんど赤ん坊と変わらない生活のはずなのに。
でも、互いに抱き合って震えながら、縋るような目で私を見つめていた獣人の子供たちを思い出すと、どうしても放っておくことなんてできなかった。
私は、子供や弱者にはどうしようもなく弱いのだ。
小さくて可愛いものには、無条件で甘くなってしまう。
すぐに全てを救うことはできなくても、今、自分にできることから始めよう。そう心に決めたからこそ、予定より少し早く病院を開くことにした。
それにしても、行き当たりばったりな割に、不思議と形にはなってきている。
代理医師はマリア。
救急隊員は双子。
看護師はエブリン。
共通点は、全員が医療の資格なんて持っていない素人だということ。
ははっ、見事に誰一人として資格がないじゃない!
(どうせ無許可の闇診療所なんだから、今さら気にしたって仕方ないよね!)
エブリンには、病院のマスコットにでもなってもらいたかった。病院の看板に、可愛いエブリンの肉球スタンプを押しておくだけで、最高の宣伝になるんじゃないだろうか……。
いや、それは単純に私が可愛い肉球スタンプを見たいだけか。
「ところでサナ様。サナ様がいらっしゃらない時は、どうやって診察すればいいのですか?」
「適当にそれっぽい紙に何か書いているふりをして、お薬を渡してあげればいいよ」
「それ、お医者さんの定番のやつですね」
紙に何かを猛烈に書き殴っているのに、患者には絶対に読めない文字。もちろん本職のお医者さん同士なら読めるのだろうけれど、私にはただの暗号にしか見えなかった。
それでも、なぜか患者はみんな納得してしまう不思議な説得力があるのだ。
堂々と振る舞っていれば、いかにもそれらしく見えるものだ。だからこそ、意外と誰も疑わない。マリアは度胸があるから、きっとうまくやってくれると信じている。
「お薬も扱うんですか? 薬剤師ギルドは黙っていないと思いますけど……」
「ギルドに所属して正式に営業するわけじゃないんだから、個人で楽しむ範囲なら大丈夫じゃないかな?」
「帝国の薬剤師は全員、薬剤師ギルドへの所属が義務付けられています。だから、私たちにはお薬を卸してくれないはずです」
「ああ、お薬なら私が作るから大丈夫だよ」
「「「「え?」」」」
マリアとベイリー、それに双子とエブリンが、一斉に目を丸くした。
「よく見ててね」
私は両手を広げ、その手のひらの上にスライム状の魔力を集めた。
以前、皇后陛下を治療したときに分かったことだが、私の魔力スライムは固体化することもできる。濃度を調整するのは難しくなかったけれど、固体化にはそれなりの集中力が必要だった。
しかも、一度固めても長く維持できず、私から一定以上離れたり時間が経ったりすると消えてしまうため、なかなか実用的な活用方法が見つからなかったのだ。
ところが最近、母と一緒に進めている魔力研究の過程で、このスライムを水に綺麗に溶かし込むことに成功した。
この特製薬液なら、私の手を離れて遠くへ運ばれても、時間が経っても治癒効果がしっかりと持続する。
母はとても複雑そうな表情で「これって……聖水……?」と呟いていたけれど、違う違う。これはれっきとした万能ポーションです。
テーブルの上に置いてあった水の入った瓶に、固形化した粘土状の薬をそっと溶かすと、一瞬だけまばゆい光がきらめいてスッと消えた。
「これで本当にお薬になるんですか?」
「わあ……すごい!」
「早く褒めて! もっと褒めていいんだよ!」
これは我ながら大発明の名案なのだから!
「すごいですね、サナ様……。なんだか、だんだん何でもできるようになってきましたね」
マリアが少し呆れたように、しかし楽しげに笑った。
「これって、『万能』というには、あまりにも一つの分野に特化しすぎた能力じゃありませんか?」
「謙遜もなさるんですね」
「本当に万能な人なら、少し走っただけで息切れしたりしないし、ライトの魔法を数回使っただけでバタッと倒れたりもしないよ」
体力も魔力もからっきしなのに、正体不明の治癒能力だけは桁違いに優れている。もし私がゲームのキャラクターだったら、間違いなく「防御力ゼロのガラスのヒーラー」だ。どれだけ優秀な癒やしの力を持っていても、一発殴られたら終わりじゃ意味がない。
イアンは私が作った薬の瓶を手に取り、香りを嗅いだり、ほんの少し舐めてみたりしてから首をかしげた。
「これ、すごく甘い味がするね?」
「うん。不思議なくらいお砂糖みたいに甘くなるんだよね……」
「前から思っていたけれど、この能力は便利すぎる」
イアンは真剣な表情で、出来上がった薬水を一口飲み干した。もちろん、健康な人間が飲んでもただの甘い水にしか感じない。
「もし僕が強大な権力者だったら、どんな手を使ってでも君を無理やり手元に囲い込もうとするだろうね」
「物騒なこと言わないでよ」
「それくらい危険な才能ってことさ。致命傷を負っても一瞬で治せるし、どんな病気でも治療できるし、おまけに極度の疲労まで完全に回復させられる……」
「もし殺したい敵がそんな力を持っていたら、本当に厄介だよね」
「だから物騒な例えはやめなさいってば!」
人のことを、まるでおとぎ話に出てくる「不老不死の秘薬」みたいに扱うのはやめてほしい。
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そして、穏やかな週末の朝。
「サナ、お見合いの話が来たよ」
朝食の席で、私は口に含んだばかりのオレンジジュースを、盛大にブーッと吹き出した。
要点を3つにまとめました。
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母親によるリリーへの接触
シャナの母がリリーのもとを訪れ、奴隷の刻印やハイズ伯爵家について静かに聞き出します。圧倒的な威圧感を見せつつも、最後には優しく頭を撫でて去っていく謎めいた行動に、リリーは混乱と恐怖を覚えます。
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無許可の「闇診療所」の準備
マリアの白衣や双子のつなぎ姿など、医師ごっこのような衣装を整えるシャナたち。資格のない素人たちによる特製診療所の準備が進む中、シャナの「スライムを水に溶かした甘い万能ポーション」のチート級の能力が明らかになります。
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突然の「お見合い」フラグ
医療改革や今後ののんびりとした生活に思いを馳せていた週末の朝、朝食の席で父から「お見合いの話が来たよ」と告げられ、シャナは飲んでいたジュースを吹き出してしまいます。