こんにちは、ちゃむです。
「転生令嬢は治療スキルで異世界のみんなを救おうと思います」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
24話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 長い夢
「……うちの娘は、説明するのが面倒だという理由で人を気絶させたのか?」
父は感心したように呟いた。
いや、違う! 感心するところじゃないってば!
「まあ、説明するのは大変ですからね。双子揃って誘拐されたうえ、目を覚ましたら見知らぬ場所だったのですから」
母も「これ以上合理的な方法はなかった」と理解を示している。こっそり皿の隅へ追いやっておいたセロリを、私のそばに寄せてくれたベイリーまで深々と頷いていた。……うわ、セロリ嫌いなのに。
「次からは無駄に力を使わず、首筋を軽く打って気絶させる方法をお教えしますね」
「……気持ちだけ受け取っておくよ、ベイリー」
まるで私がクロロホルムを染み込ませたハンカチで鮮やかに気絶させたみたいな言い方はやめてほしい。
別に気絶させようとしたわけじゃないのだ。パニック状態になっていたから、落ち着かせようとして寝かせただけなのだから。
(……でも、否定はできないかな……)
結果だけ見れば、口を塞いで強引に意識を飛ばしたのと大差ない。急に申し訳なくなってきた。
「だから、エラ。パンとスープを用意してくれる?」
「『だから』をつければ何でも説明がつくわけではありませんよ」
「……ですからシャナ様、私は毒見役ではありません」
エラはきっぱりと言い切った。言うべきことはハッキリと言う性格なのだ。
「その子に食べさせるのですね? かなり長い間飢えていたようですから、しばらくはスープしか口にできないと思います。用意してまいりますね」
「ありがとう」
私は牛が反芻するように、もそもそとセロリを噛んだ。……まずい。前世からずっと、香りの強い野菜は苦手だった。大嫌いだ。
朝食はできる限り家族全員で囲むのが我が家の決まりだった。両親は朝が早く、毎日規則正しく起きている。
リアの話では、貴族で朝早く起きるのは珍しいらしい。
(貴族って何をして暮らしてるんだろう? ほとんど仕事もしないで朝寝坊してるのかな……?)
父も母も忙しいのは知っているけれど、特定の職に就いているようには見えなかった。
母は魔法使いたちと交流しながら個人研究をしているみたいだし、父は毎日のように人に呼ばれて会合へ出かけている。上級貴族として様々な会議に出席しているようだし、近衛騎士団長と最も親しい一方で、ほかの騎士団とも広く交流があるようだった。
(結局、人と会って遊んで暮らしてるだけなんじゃ……)
貴族とはみんなこんなものなのだろうか。貴族は働くことを恥だと考える――そんな話をどこかで聞いた気がする。父もそうなのだろうか。
――もっと後になって知ることになる。父は貴族会議の主要メンバーであり、ウェントワース家当主という立場だけでも十分に多忙だったのだと。けれどこの頃の私は、父のことを「ただの無職(ニート)」にしか見ていなかったのだ。
前世ではいつもお金が必要で、健康なのに働かない人間なんて考えられなかったから……。
「シャナ? どうしてそんな顔で私を見ているんだ?」
「……なんでもないよ」
(あっ……私までつい、ニートを見るような目で見ちゃった。視線を感じ取ったのかな……)
「食べ終わってから話しなさい」
母がじろりと私をたしなめた。私はこくこくと頷き、急いでもぐもぐと食べ物を噛んで飲み込んだ。
「レイヴン殿下が入学されたら、シャナも退屈になりそうね」
「いえ、全然。むしろその方がいいです」
「シャナは勉強が嫌いなのかい?」
父が穏やかに尋ねてきた。いや、そんなの当然じゃないですか。
「好きではないですね……」
「じゃあ、レイヴン殿下は?」
なんでそんなことを聞くのだろう。
意図が分からず両親を見つめたが、二人は何事もないように食事を続けている。私は首をかしげながら、素直に答えた。
「好きじゃないです……。たまに話すくらいですし」
「そうか。知らない人よりはマシ、ということかな?」
父は昔から妙にレイヴンに好意的だった。とはいえ友達なのだから、他人と比べるのも変な話だけれど。
そんなに気に入っているなら、自分が勉強友達になればいいのに。……失礼な人だな。
「そうですね。でも、レイヴンは知ってみると優しい人ですよ」
「『でも』と『知ってみると』がついて、初めて成立する『優しい人』なのね」
「かわいそうで見ていられないくらいになったら、軽く叩いても怒らないですし……」
「……それが判断基準なのかい?」
それ、結構大事なんですよ。軽く叩くと、本を読んでいても「いたっ」とちゃんと反応してくれるのだ。
「だってイケメンですから。多少かわいそうでも許せます」
「…………」
「あ、もちろんお父さんの方がずっとかっこいいよ」
父は満足そうに鼻を鳴らした。
「エブリン、マリア。ただいま!」
「お帰りなさいませ」
エブリンが柔らかく微笑みながら私を迎えてくれた。
足首まで届く栗色のスカートに白いエプロン、綺麗に後ろでまとめた黒髪が、彼女の落ち着いた雰囲気を引き立てている。
……可愛い。
エブリンは耳と尻尾を上手く隠していた。
本来なら出して暮らすのが自然な姿なのに、差別の激しい人間社会で生き延びるために身につけた技術なのだろう。私はそれが少し悲しかった。
「うん。じゃあ、これからエブリンとマリアは食事に行っておいで」
「私は大丈夫ですから、マリア先生が先にどうぞ」
「それじゃあ行ってきますね。シャナ様、お大事になさってください」
マリアは察しよくエブリンの首根っこを掴み、そのまま部屋の外へ引っ張っていった。私は余裕たっぷりに手を振って二人を見送る。
私とあの子を二人きりにするのが心配だったのだろう。でも、そんな理由で食事を抜いていたら、エブリンが倒れてしまう。
(どうせもうすぐ、レオンとイアンが押しかけてくるんだし……)
ベッドの上の子は、まだ目を覚ます気配がなかった。
私はエラが用意してくれたブロッコリースープを、ベッド脇の小さなテーブルに置いた。自分で運ぶと言ったのに、エラはわざわざ部屋の前まで持ってきてくれたのだ。
『シャナ様にお任せしたら、きっとこぼしてしまいますから……』
そう笑いながら言われると、何も言い返せなかった。
「まあ、そのくらいならいいか。冷める前に食べてくれたらよかったんだけど……」
まだ起きないのかな?
私はベッドによじ登り、目を閉じて静かに眠っている少女(?)へ近づいた。
「起きた?」
「……」
「よく眠れた? 寝心地は悪くなかった? あっ、もしかして私がベッドに上がってきたせいで起こしちゃった? ごめんね、起こすつもりじゃなかったんだけど……」
私は慌てると、つい早口になってしまうタイプだった。
「お腹が空いてるんじゃないかと思って、ブロッコリースープを持ってきたの。私もさっき飲んだけど、おいしかったよ。ほら、寝る前に食べた方がいいと思うから。あ、冷めてもおいしいよ」
「…………」
「……じゃあ、私はもう行くね」
野生動物と遭遇した時って、距離を取って目を逸らすんだったっけ? それともまっすぐ見つめるんだったっけ?
平静を装ってはいたけれど、内心はかなり焦っていた。私まで動揺したら、この子はもっと不安になる。だからできるだけ自然に振る舞わないと。
自然に……。
自然にベッドから降りるのって、どうやるんだっけ?
右足から下ろすのが自然? それとも左足? 足が先? 手はベッドにつく? つかない?
自然な動作が分からなくなってきた。足の裏にじんわりと汗が滲む。
あ、そうだ。説明しなきゃ。
「不安にさせたくなくて言うんだけど、本当にあなたを誘拐したわけじゃないからね? 傷つけるつもりも、閉じ込めるつもりもないの。私の友達が……」
「……」
「ちょっと驚かせちゃったとは思うけど、あの子たちが不器用で、少し強引なやり方を使っちゃって……」
「……」
冷や汗まで流れてきた。
「強引な手段を取ったのは……その、ごめんなさい。あなたが眠っている間に……『君に何かあったら』と思って……」
双子はその子を心配して連れてきたわけじゃない。私に言いつけられたことをやり遂げて、手柄を立てようという下心でいっぱいだったのだ……。
胸がちくりと痛む。あまりに言い訳がましくて、自分で聞いていても苦しかった。結局は保身であり、嘘なのだから。
こんな時は、素直に謝るしかない。
「うちの子たちが悪かったの。ごみなさい」
「…………」
「とりあえず、病気は全部治してあるから……」
「……嘘だ」
深く落ち着いたしゃがれ声だった。叫ぶ時はよく通る声だったのに、静かに話す声は低くかすれている。黒い瞳が私を冷ややかに見つめていた。
「……嘘じゃないよ。ほら、もう熱もないでしょ?」
「俺は獣人だ」
「知ってる」
「……獣人には魔法も神聖力も効かないことも知らない子どもなのか?」
「私、できるもん! すごいでしょ!」
わあ……と元気よく両手を広げてアピールしてみたけれど、「お前が?」と言いたげな、さらに呆れた視線が返ってきただけだった。
「……痛むところはない?」
「…………」
「顔色は悪くなさそう。よかった……治りそう? 起きたならスープを飲もう。おいしいよ」
「私にお金なんてない」
「え?」
「私を売ったんだろう? もう歌えないから、俺は一銭も稼げない。……どうやって俺が“カナリア”だと知って捕まえたのかは知らないが、翼は引き裂かれて、喉まで潰されてしまったんだ」
「…………」
「治せるはずなんてない……。まあ、治せたとしても……それで、お前は俺から何を得たいんだ?」
苦しそうに身を起こしたその子は、鋭い視線で私と周囲を見回すと、皮肉っぽく笑った。
「……ああ、お貴族様のお嬢さんの慈善ごっこか? 自分より恵まれない哀れな人間を助けて優越感に浸りたいのか? お前みたいな奴は何人も見てきた。『優しい子だ』って褒められたいだけなんだろう?」
「……」
「跪いて靴でも舐めれば満足か? 『助けてくれてありがとうございます』って泣いて感謝でもしてほしいのか……!」
――うるさい。
私はスプーンで彼の頭をコツンと軽く叩き、驚いて開いた口へ、熱々のスープを素早く流し込んだ。
もっと詰め込んでもよかったけれど、喋れば喋るほど傷口が開きそうだったのでやめておいた。勢いで口を開けたまま固まっている表情が、妙に可愛らしかった。
「ちょうど冷めて、熱くないでしょ?」
「な、何をするんだ……!?」
「とりあえず食べて。食べないと回復もしないよ」
悲鳴を上げようと再び開いた口に、容赦なくもう一度スプーンを差し込む。
うん、叫ぶたびにブロッコリーの香りがする。なんだか爽やかな罵倒だな……。
「何するんだよ!?」
「食べて生きてもらおうとしてるだけ……」
「え?」
「味はどう? 塩加減は大丈夫?」
「ねえ、あんた、頭おかしいの!?」
「あっ、チャンス」
また口を開けたので突っ込むと、ちゃんともぐもぐと食べた。
おお……お札を吸い込む自動販売機みたいだ。
「おい!!」
「ん? 飲み込んだ? はい、あーん」
ベイリーやエラ、マリアに離離乳食を食べさせてもらった時って、こんな気持ちだったのかな。少しだけ母性が芽生えそうだった。
「人から強引に食べさせられたものを、誰が素直に飲み込むんだ!?」
「あ、ブロッコリー嫌いなの?」
「……お前、どこかおかしいんじゃないのか?」
「頭がいいってよく言われるんだけど……セロリよりはマシじゃない?」
私の周りの人たちはみんな身贔屓が激しくて、客観性に欠けている。だから本当のところは分からないけれど、この世界の基準なら案外まともな方かもしれない。
「今すぐ私をここから出して。人がくれたものなんて一口も食べない! 安心させて薬を飲ませるつもりなんだろう? そんなの分かってる、私は今すぐ……はぁっ……!」
言いかけたところで嫌な記憶が蘇ったのか、彼の呼吸が急激に荒くなった。
「人間なんて二度と信じるものか……! 俺をさらって、家族を殺して、翼を折って……弟や妹たちを鳥かごに閉じ込めて飢え死にさせた! 力さえあれば、全員殺してやる……!」
激しい憎しみを向けられると、さすがに言葉が出なかった。
「悪夢だって? 眠って目が覚めれば全部終わるとでも思ってるのか!? ふざけるな、これは終わらない! もし全部夢だったっていうなら……今頃妹は、俺の隣にいるはずなんだ……!」
「夢なのは、こっちだよ」
「……何?」
「こっちの世界を夢だと思えばいいの。少し長い夢を見ているだけ。死んだら終わる夢」
どちらが夢でも、そんなことはどうでもいい。
「忘れることはできなくても、前を向かなきゃ生きていけないよ。君まで死ぬつもりなの?」
「……あなたに何が分かるんだよ……」
私もそうだった。
母が亡くなり、父まで亡くなった、あの時――。
私はそれ以上の言葉を飲み込み、まだたっぷり残っているブロッコリースープをテーブルに置いた。
「生きたいなら、全部食べて」
「…………」
初めてのお客さんは、どうやら長期入院患者になりそうだった。
今回の物語の要点を3つにまとめました。
-
シャナの思い込みと両親との朝食
多忙な父を前世の感覚から「ただの無職(ニート)」と思い込んでいたシャナ。朝食の席で両親からレイヴン殿下との関係について探られつつ、マイペースに会話を交わします。
-
双子が連れてきた「カナリア」との遭遇
目を覚ました獣人の少年(元・歌姫カナリア)は、人間に家族を殺され翼と喉を潰された辛い過去から激しい人間不信に陥っており、シャナの助けを「慈善ごっこ」だと激しく拒絶します。
-
強引なスープの給餌と生きるための言葉
叫ぶ少年の口へ容赦なくスープを放り込んで食べさせたシャナ。「この世界を長い夢だと思えばいい」「前を向かなきゃ生きられない」と静かに告げ、生きたいならスープを全部食べるよう言い残して部屋をあとにします。