こんにちは、ちゃむです。
「転生令嬢は治療スキルで異世界のみんなを救おうと思います」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
25話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 傷ついたカナリア
「ねえ、遊ぼう!」
ドンドンッ、と扉を激しく叩く音が静かな廊下に響き渡った。
レオンとイアンが顔を見合わせる。どうやら、ただ事ではないらしい。
「君のウィナービルダー・スノーマン?」
「失せろ!」
「オーケー、じゃあね……」
……いや、このまま帰るわけにはいかない。
「エルサ?」
「私の名前はエルサじゃない!」
「じゃあ何ていうんだ? 教えてくれないなら、ずっとエルサって呼ぶぞ?」
「お願いだから帰って!」
扉の向こうから、感情を抑えきれない悲鳴にも似た叫び声が聞こえてきた。声のボリュームもかなり大きい。
「叫んだら喉を痛めるぞ。静かに話そう。扉を開けてくれ」
コンコン、と優しく扉を叩くと、中から聞こえていた大騒ぎがピタリと止んだ。
私は心の中で三つ数える。イアンとレオンが呆れたような目でこちらを見ていたが、軽く受け流した。これ以上待っていたら、中のお姫様……エブリンの堪忍袋の緒が切れそうだったからだ。
「入ってもいいかい、お嬢ちゃん?」
「誰がお嬢ちゃんよ!?」
「入るぞ。失礼する!」
イアンが「自分の部屋に入るのに『失礼します』もないだろう……」と小声でぼやいた。
「人の気持ちってものがあるんだぞ? お前たち、『アナと雪の女王』を知ってるか?」
知っていたら大問題だ。双子まで転生者ということになってしまう。
案の定、イアンとレオンは「また何を言っているんだ」というように肩をすくめた。
私は二人をその場に残し、エブリンが開けてくれた部屋の中へと足を踏み入れた。
ベッドの上の少女は、相変わらず身を縮こまらせている。
私に続いて入ってきたレオンとイアンの顔を見るなり、露骨に肩を跳ね上がらせた。どうやら誘拐犯(?)である双子の顔を覚えていて怯えているらしい。
「レオン、イアン。謝りなさい」
「俺たちが何を?」
言葉を失ったままの双子を、私は冷ややかに見つめながら言った。
「その怯えきった顔を見ても、どうして謝らなければならないのか分からないというのなら……」
イアンとレオンは気まずそうな顔もせず、平然とした表情で次の言葉を待っている。
……正直、私も言葉に詰まった。
結果だけ見れば、あの子を助けたのは確かに彼らなのだ。それに、私は双子を叱れる立場でもない。ロイドおじさんならともかく、私は親ではないのだから。
「……失望するわ」
精一杯考えて絞り出した言葉だった。我ながら、すこぶる子供っぽい。
まったく、何なんだその決め台詞は。まるで拗ねた子供に「ちゃんと怒って!」と言っているようで、ちょっと恥ずかしくなってきた。
「……」
「……」
文句を言い返してくるかと思いきや、双子は険しい表情のまま黙り込んだ。
そして、少女に向かってぼそりと呟いた。
「……ごめん」
「……悪かった」
予想外に効果抜群だった。
私はエブリンに小声でささやいた。
「本当は双子も謝りたかったみたいだね。すごく……」
「純粋なんですね」
「違いますよ。私もそうですけど、双子だってシャナ様に嫌われるのが一番怖いんです」
「嫌うわけないじゃない」
「それでもです。気にしないでください。シャナ様のことが大好きだから、ああなっちゃうんですよ」
でも、双子がそこまで私を好きだとは思えないんだけど……。
感情表現がストレートな両親やエブリンとは違って、双子は私にちょっかいを出したり、口喧嘩をしたりしながら、気楽な関係で過ごしていた。レイヴンも同じようなものだけれど、双子とは口喧嘩どころか、たまに取っ組み合いの喧嘩までしている。
(……ちょっと待って。私が一方的に殴っていただけだった!?)
もしかすると、私の知らないうちに相当ひどいことをしてしまっていたのかもしれない。あとで必ず謝ろう……。
「ねえ、お嬢ちゃん。スープは全部飲んだんだね。えらいえらい」
「……食べないと逃げられないから」
「閉じ込めているわけじゃないよ?」
「だったら今すぐ私を外に出して!」
「それは駄目。まだ体が回復していないんだから」
「それでどうして監禁じゃないの!? この部屋はいったい何なの? 窓も開かないし、ドアだって開かないじゃない!」
……まあ、この部屋は少し特殊だからな。一箇所からでも出られなければ、監禁や拘束と言われても仕方がない。
両親がここにいなくて本当によかった……。
「これは、その……」
私は少女を見つめた。
綺麗に体を洗ってもらったおかげで、その顔立ちはずっとはっきりして見えるようになっていた。
窪んだ目元、くすんだ淡い金色の髪、そして細い首筋は、彼女がどれほど酷い栄養不足だったかを物語っている。今にも折れてしまいそうなほど細い足首には、まだ奴隷の刻印が痛々しく残っていた。
(お母様が言っていたように追跡できる類の印ではないそうだし、あの魔族が見つけたのも偶然らしいけれど……)
あの謎の声を聞いたことだけは、誰にも話していなかった。
……とはいえ、この子を一人で外へ出すわけにはいかない。風が吹いたら飛ばされてしまいそうなくらい痩せているのだから。
「一時保護ってことだ」
「……何それ?」
「ちゃんと食べて、もう少し体に肉がついたら、その時はいつでも送り届けるよ」
その時、エブリンがワゴンを押して部屋へ入ってきた。
焼きたてのパンや様々な料理、新鮮なサラダにジューシーなステーキまで、豪華に並べられている。
「……っ!」
食欲をそそる芳醇な香りに圧倒されたのか、少女の瞳が大きく見開かれた。
かすかに揺れる瞳。エブリンの助言は、どうやら完璧に的を射ていたらしい。長い間飢えていた子なら、このごちそうを断れるはずがない。
「何が好きか分からなかったから、とりあえず全部持ってきたの」
まるでバイキングのように豪華なラインナップだ。
「この中に一つくらい、あなたの好みがあるでしょ!」
「そ、そんなの……必要ありません……」
「まずはパンから食べる? 焼きたてだから温かくて、柔らかくて香ばしいよ。それともステーキ? でも胃に負担がかかるかもしれないから、お肉は後のほうがいいかなって思ったんだけど……エブリンは『獣人の胃袋なんて分かりません』って言うし。エラも私も反省したんだから。レオン、イアン、そこに突っ立ってないで手伝って!」
「どうして俺たちが、こんな小間使いみたいなことをしなきゃならないんだ……」
「え? あなたの話なんて聞きたくないんだけど……」
「嫌なら出ていけ」
「やる」
「出ていけ」と言ったのはレオン、「やる」と答えたのはイアンだった。
レオンは苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、手際よく食事の支度を手伝い始めた。なんだかんだ素直じゃないか。
「だ、誰が人間の作った物なんて食べるもんか……!」
「さっきスープは全部飲み干していたよな?」
「……」
「毒なんて入っていないよ。信じられないなら……」
今はもうお腹いっぱいだけれど。
「レオンが一口先に食べてみせるから!」
「俺が!?」
エブリンとイアンは容赦なく、レオンの前にも食事を並べていった。レオンはぶつぶつと文句を言いながらも、付き合ってくれている。
「美味しそうでしょ、レオン!」
「さっき昼飯を食べたばかりなんだけど!?」
文句を言いながらも結局は頼まれたことを全部やってくれるのが、レオンの長所だった。イアンが比較的繊細で真面目な性格なのに対し、レオンは大雑把だが後腐れがない。だからこそ、よく弄られるのだ。
「お嬢ちゃん、はい」
「正気? 食べないって言ったでしょ!?」
本音では、今にもよだれが垂れそうな顔をしている。
「パンよりお肉のほうが好きなの?」
「……食べないって言ってるでしょ……」
「このステーキを見てごらん。肉汁たっぷりだよ。私が子供の頃なんて、味付けもされていない肉を食べさせられて、どれだけまずかったことか……」
「……」
(今も十分子供じゃないか)という冷ややかな目で見つめるのはやめてほしい。人にはそれぞれ事情があるのだから……。
「じゃあ、私が食べてもいい?」
「その子が食べないなら、私に食べさせて。はい、あーん」
「レオン、お前は手も足もないのか?」
手も足もあるレオンは、文句を言いながら一人で普通に肉を切って食べ始めた。
私は食べやすい大きさに切ったお肉をフォークで刺し、少女の目の前でゆらゆらと揺らしてみた。
少女はチラリとこちらを見る。
肉を左へ動かすと、視線も左へ。
右へ動かせば、瞳も右へ。
そして、自分が思わず食べ物を目で追ってしまったことに気づいたのか、はっとしてギュッと目を閉じた。
……か、可愛い。
「絶対に食べない……!」
「本当に? 本当に食べないの? どうしよう……お嬢ちゃんが食べてくれない……」
「……」
「食べきれなかったら、全部捨てることになるのに……」
「子供じゃないって言ったでしょ!?」
「じゃあ、名前を教えてくれない?」
「人間なんかに教える名前はないわ」
「名前を教えてくれたら、この料理を全部あげる!」
案の定、「何を言っているんだ」というような冷たい視線が返ってきた。
食べ物を餌に名前を聞き出そうなんて、世間知らずのお坊ちゃんの発想だということくらい私にも分かっている。
けれど、下手に説得するより取引を持ちかけるほうが、この子には効果的なはずだ。人間嫌いの警戒心を解くのに、無条件の親切はかえって怪しまれるだけだから。
「損はしない取引だよ? 本当に美味しいから!」
「……部屋から消えてくれるなら」
「うん、うん。食べてくれるなら何でもしてあげる」
ここは私の部屋だけれど、しばらくの間は両親の寝室かエブリンの部屋で寝ればいい。もう新婚でもないんだから少しくらい邪魔しても大丈夫だろう。何年も経つのに、弟や妹の一人も増えていないのだし。
躊躇っていた少女は、私と双子、それからエブリンにしか聞こえないくらい小さな声でボソリと言った。
「……リリー」
「綺麗な花の名前ね」
「……」
「安心して食べて。また来るから」
私はレオンに目配せをした。
無理やり口へ食べ物を放り込まれていたレオンは、その合図を見逃さず、未練なくフォークを置いた。「吐きそう……」とぶつぶつ文句を言うレオンの背中を、イアンが軽くさすってやっている。
(野生動物を手なずける時は、焦らず少しずつ距離を縮めることが大事だ……)
昔、生活に余裕がなかった頃、家の近くの野良猫に餌をあげていたことを思い出すのは少し失礼かもしれない。けれど、今の状況はまさにそんな感じだった。
パタン、と扉を閉めると、エブリンはしばらく見えない扉の向こうを見つめるように視線を漂わせていた。
「エブリン? リリーと話がしたいの?」
「……いえ、かわいそうだなって思ったんです」
「ん?」
「人を信じられない気持ちは、私にも分かりますから……」
エブリンはふっと優しく微笑んだ。
「私はリリーより人を見る目がありますから。だから大丈夫ですよ」
自慢げな表情だ。
「本能のまま、目の前に見えている真実を受け入れれば楽になれるのに。残念ですね。リリーには、シャナ様を見抜く目がまだないみたいです」
「誰もがあなたみたいに、本能だけで生きているわけじゃないんだから」
「……また私と話したいって?」
レオンがすかさず突っ込んだ。
するとエブリンは、とっさに私の視界を手で遮りながら、容赦なくレオンの足を踏みつけた。
「いっ……!」
「うるさいわよ、レオン」
私はエブリンの意図を察して、聞こえなかったふりをした。イアンも同じように黙っている。
……別に、気を遣ったわけじゃないけれど。
要点を3つにまとめました。
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双子の謝罪とシャナへの信頼
シャナの「失望するわ」の一言にショックを受けた双子(レオンとイアン)は、素直にリリーへ謝罪しました。シャナに嫌われることを恐れる双子の姿に、周囲との深い絆が伺えます。
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豪華なごちそうと名前の取引
栄養失調のリリーを助けるため、シャナはごちそうを前に「名前を教えてくれたら全部あげる」と取引を持ちかけます。葛藤の末、少女は「リリー」という名を明かし、食事を取り始めました。
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野良猫を懐かせるようなアプローチ
焦らず少しずつ距離を縮めるシャナの態度や、同じ獣人としてリリーの孤独に寄り添うエブリンの温かい視線など、リリーの頑なな心をほぐすための優しさが描かれています。