こんにちは、ちゃむです。
「利用され長女はもう我慢しません」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
26話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 隠された悲哀
「えっ……?」
ラディスは背筋がぞくりとするのを感じ、一歩後ずさって固く閉じた石門を見上げた。
閉ざされた石門は、まるで巨大な岩壁そのものだった。門全体はねばつく毒液が染み出した灰色の苔に覆われ、その上には蔦植物が頑丈に絡みついている。この場所に門があることを知らない者が立ち寄れば、ただの岩壁にしか見えないだろう。
「まったく、あの二人は……!」
舌打ちしながら、ラディスは腰に差していた錆びた剣を抜いた。石門の隙間に剣先を差し込もうとしたが、まったく入らない。石門は驚くほど頑丈で、その隙間は貝殻のようにぴたりと噛み合っていた。一方、彼女の剣は黒い錆の塊に覆われた、ただの鈍い鉄くずでしかなかった。
二度、三度と試した末に、ラディスは門をこじ開けるのを諦めた。彼女は剣で石門を何度も激しく叩きつけた。だが、石門はびくともしない。
「はぁ……!」
ラディスは剣を打ちつけた反動で落ちた錆の塊に手を触れてみた。指先に魔力を集めて石門を押してみたが、まったく反応は返ってこない。まるで大地そのものを押しているような感覚だった。
「これ、普通の石じゃないわね?」
正体は分からないが、この石門も古代魔法の遺跡の一部なのだ。だから普通の岩のように砕くことはできないのかもしれない。難しい表情で石門を見つめていたラディスは、苔が剥がれ落ちた場所に深く刻まれた傷跡のようなものがあることに気づいた。
「これは……?」
目を細めてそれを見つめていたラディスは、遠くから聞こえてきた不気味な鳴き声に、はっとして周囲を見回した。
「ああ、もう……」
彼女は下に着ていた柔らかなシャツを裂き、それで口と鼻を覆った。そして、いつ何が飛び出してきても対応できるよう、錆びた剣をしっかり握り直した。
(本当に嫌な場所ね)
ラディスは心の中でため息をついた。もちろん、魔物の森の大半も危険な場所ではあった。だが、魔物たちも生き物である以上、禁域を除いた地域は生き物が生存できる環境だった。
しかし、禁域は違う。
霧をかき分けながら歩いていたラディスの目に、新たな影が映った。ラディスは足を止め、それを見つめた。
「魔界樹……!」
禁域の中心にあり、すべての魔物の根源となる樹。全身が白樺のように真っ白なその木は、一目見ただけで人の目を奪うほど異様な存在感を放っていた。十人の大人が手をつないでも囲みきれないほど太い幹は、まるで宙に浮かんでいるように見える。しかしよく見ると、宙に浮かぶ幹の下には無数の根が伸び、幹を支えていた。泥地に生えるマングローブのように、根が空中へ露出しているのが魔界樹の特徴だった。
「うっ……毒々しい」
魔界樹から溢れ出る強烈な魔気のせいで、目が焼けるように痛んだ。ラディスは目を細めながら、手にしていた籠を地面に置いた。
魔物たちは魔樹の根元付近に卵を産む。一見すると卵を捨てているようにも見えるが、魔物の卵は母親の体温ではなく、魔樹の根から流れる魔力を吸収して成長するのだ。なんとも不気味な生態だった。
「はぁ……」
口元を覆った布の下で、ラディスは深くため息をついた。彼女は魔物たちのためを思って卵を返しに来たわけではない。自分で言ったとおり、ゴルスが犯した過ちを、ゴルス自身の手で償わせるために来たのだ。それなのに、ゴルスは反省するどころか、逆に彼女を罠にはめて逃げ出してしまった。
(本当に救いようのない奴ね)
後頭部はまだズキズキと痛んでいた。だが不思議なことに、ゴルスへの怒りよりも、それに気づけなかった自分自身が情けなく思えた。
『私はまだ過去に囚われていたんだ』
その気づきは、彼女の心を少し落ち着かせた。
「もう過ぎたことは考えないようにしよう。むしろ後頭部を殴られたおかげで目が覚めたと思えばいい……」
ラディスはそう自分に言い聞かせた。彼女は魔界樹の近くに卵を置いたあと、石門へ戻り、門を開ける方法を探すことにした。
『もし、どうしても門が開かなかったら?』
本気で破壊すれば開くかもしれない。だが門を壊してしまえば、その通路を通って魔物たちが外へ出てしまう可能性がある。
「それなら……歩いて出るしかないわね。何日かかるか分からないけど」
ラディスは拳ほどの大きさの魔物の卵を魔樹の根元へ適当に転がし、何度もため息をついた。そして最後に、淡く光る卵を手に取ろうとした、その瞬間――
「……!」
ラディスは反射的に頭上へ手を伸ばした。
◇ ◇ ◇
「副隊長……!」
肩まで血で濡れたラズロが叫んだ。
「おかしいです。調査隊はどこへ行ったんですか?」
すると、頭に包帯をぐるぐる巻いたティエリが鋭い口調で言った。
「分からない」
「え?」
「私たちは騙されたのよ。これは……罠だ!」
ティエリは勢いよく振り返り、テスを睨みつけた。
「テス、その手紙はどこで手に入れたの?」
テスは青ざめた顔でしどろもどろに答えた。
「調査隊の従者が届けてくれたんだ。調査隊はもう禁域へ向かったって……」
「従者? 誰のこと?」
「名前は……フレッドだったかな? はっきり覚えてないけど、とにかく調査隊の従者だよ。私がぼんやりしてると思った? 手紙を受け取ってすぐ調査隊が泊まっていた仮宿舎も見に行ったけど、もう誰もいなかったんだ!」
それまで黙っていたメリクが口を開いた。
「もしかしてアルフレッドか? ロドリック家の分家出身のあの若い従者か?」
「……!」
ロドリック家の名が出た瞬間、ラディスは思わず息をのんだ。奥歯がきしむほど強く歯を食いしばる。この中で、ロドリック家がロベルトの行く先々で執拗に妨害を仕掛けていたことを知らない者はいない。だが、ロベルトが庶子であり疎まれているという理由だけで、このような惨状まで引き起こせるだろうか。そんなことは、よほど大胆でなければできないはずだった。
(……いや、その判断を今下すべきじゃない。まずは状況を確認しなければ)
ラディスは周囲を見回した。彼女は隊員たちを率い、王室調査団の足取りを追って禁域へ入った。王室調査団の最終目的地と聞いていた魔樹の近くまで来たものの、調査団の痕跡はまったく見つからなかった。ここまで来る間に、隊員たちの半数以上が大小さまざまな傷を負っていた。
しかも、この先は禁域の中でもさらに奥――魔界樹の領域だった。
ラディスは決断を下した。
「追跡は中止する。撤退だ!」
その瞬間――
突然、ラズロの体が宙へと引き上げられた。
「ぎゃあっ!」
◇ ◇ ◇
魔界樹の幹からは無数の枝が伸び、霧の中に蜘蛛の巣のような影を落としていた。だから気づかなかったのだ。その影の中に、本物の蜘蛛の糸が張り巡らされていたことに。
『あの時と同じだ!』
ラディスは、自分の首筋へと垂れ下がってきた蜘蛛の糸を素早くつかんだ。
ボッ――と、彼女の手から炎が噴き上がる。手が先に動き、視線がその後を追った。頭上では、真っ白な霧と蜘蛛の巣のような影の中から、人の指ほどの太さの糸が垂れ下がっていた。
糸はラディスがつかんだ部分から勢いよく燃え広がっていく。やがて空中で「パチンッ」という音が響き、焼き切れた糸が地面へと落ちた。ラディスは、燃えながら縮れていく糸を冷静な目で見つめた。あの日、ラズロを絡め取ったのと同じ蜘蛛の糸だった。
「……私って、本当に運がないわね」
心の底からそう思った。
どうしてここまで運が悪いのだろう。魔界樹を守る魔物は数多く存在する。精霊の力を操るエルフ、怪力で矢を放つケンタウロス、不死身のゴーレム――。だが、その中でも群を抜いて最も危険なのが、このアラクネだった。
ラディスは顔を上げ、頭上を見上げた。息が詰まるほど濃い霧の中に、黒い影が浮かんでいる。
「お前が……お前が私の隊員たちを……!」
命を落とした隊員たちの顔が、走馬灯のように脳裏をよぎる。その瞬間、ラディスは抑えきれない怒りに飲み込まれた。それは一度命を落とし、二度目の人生を得た今でもなお、決して乗り越えられない傷だった。
自分を責めながら、あの日のことをどれほど長い間思い返したことだろう。罠を見抜けなかった自分の愚かさを責め、命を落としていった隊員たちを思い浮かべ、自らの無力さに歯を食いしばった。
二度目の人生が始まってから、彼女は十六歳の自分に向かって「あれは起こらなかった出来事だ」「これからも決して起こらない出来事だ」と何度も言い聞かせ、自分を励ましてきた。意識して考えないよう努めていたのだ。この禁域へ来て、アラクネと遭遇するまでは。
錆びた剣を握る手に力がこもった。いや、力だけではない。マナまでもが剣へと流れ込んでいく。マナを注がれた剣がかすかに震えているのを、握る手を通して感じた。
――ビシッ!
霧の中に淀んだ空気を切り裂く音が響いた。それはアラクネが放った蜘蛛の糸だった。その速さは矢のように鋭く、強度は鋼鉄に匹敵し、しなやかさは鞭以上。しかも、一度絡みつけば引き剥がすことすらできない強い粘着性を持っていた。かつて、この糸によって何人もの仲間を失ったのだ。
(でも、今は違う!)
ラディスは迷わず、緑色の塊が付着した剣へマナを流し込んだ。剣の表面にこびりついた塊から、火花が散るのが目に見えるほどだった。荒っぽいやり方ではあったが、他に手段はない。これは前世の戦いで身につけた知識だった。蜘蛛の糸に対しては、炎こそが最大の弱点なのだ。
「はあっ!」
猛獣の鋭い爪のように、ラディスの剣が霧を切り裂きながら前方へ振り抜かれた。
霧の中から伸びた蜘蛛の糸が剣に絡みつき、甲高い音を立てた。偶然の産物ではあったが、剣に錆とともに付着していた黒い物質は非常によく燃えるものだった。そこへ本来燃えやすい蜘蛛の糸まで巻き付いたことで、まるで油を注いだかのように炎は激しく燃え上がる。
剣風とともに炎が大きくうねり、熱気と風が濃い霧を吹き払った。もはやアラクネは、霧の中に潜む影ではなかった。
「ギャアアアアッ――!」
蜘蛛の糸による攻撃は通じないと判断したのか、アラクネは糸を伝って一気に地上へ降りてきた。
「……っ!」
その魔物の姿を目にしたラディスは、思わず息をのんだ。一度遭遇したことのある魔物だったが、改めて見ても恐ろしい姿だった。
まるで馬車ほどもある巨大な蜘蛛。巨大な頭部には無数のぎらつく眼が並び、その奥から突き出した顎には、人の胴体など容易く真っ二つにできるほど鋭い牙が生えていた。鋭い鉤爪のような先端を持つ四対八本の脚は、まるで鋼鉄の柱のようだった。
しかし、アラクネで最も恐ろしいのは、蜘蛛の頭部の後方にあるものだった。そこには人間によく似た上半身が生えており、悲鳴を上げているのはその人型の頭部だった。
「きゃあああっ!」
前世でもそうだったが、アラクネはその人型の腕で一本の長い枝を握っていた。魔界樹の枝だ。
アラクネはあれでゴーレムたちを操り、指揮官として戦う。魔樹の枝の上から油断した敵を蜘蛛の糸で吊り上げ、捕らえきれなかった敵はゴーレムを操って始末するのだ。前世のラディスはその戦い方を知らなかったからこそ敗れた。だが、今回は違う。
「そんな暇は与えない!」
ラディスは地面を蹴って跳び上がった。アラクネは自ら飛び込んでくる獲物に向かって蜘蛛の頭を突き出し、毒を帯びた巨大な牙を剥く。ラディスは手にした魔界樹の枝を、そのままアラクネへ向かって投げつけた。
「これでも食らえ!」
「きゃあああああっ──!」
ほんの一瞬、注意を逸らすつもりだったが、その効果は予想以上だった。アラクネは悲鳴を上げながら大きくのけぞり、ラディスを捕らえようと広げていた八本の脚を一斉に引っ込めてしまう。人型の上半身も動揺したのか、慌てて蜘蛛の頭部のほうを振り向いていた。
その隙をラディスは見逃さなかった。蜘蛛の頭へ飛び乗ると、剣を全開で振り抜く。
剣が大きな弧を描き、墨のように黒い血が噴き上がった。同時に、魔界樹の枝を握っていたアラクネの腕が宙を舞う。
「きゃあああっ──!」
片腕を失ったアラクネが絶叫した。だが、ラディスは止まらなかった。
彼女は全力で剣にマナを注ぎ込む。剣が悲鳴を上げるように激しく震えているのが伝わってきたが、構わなかった。彼女は渾身の力を込め、目の前の巨大な蜘蛛の頭へ向かって剣を振り下ろす。
ギギギギィッ!!
錆びついた剣身が鉄板のように硬い甲殻を切り裂き、不快な音が辺りに響いた。握る手が引き裂かれそうなほどの衝撃だったが、ラディスは決して止まらない。これは復讐だった。アラクネに命を奪われた隊員たちのための――!
漆黒の血が噴水のように噴き上がり、蜘蛛の頭部は宙へと舞った。
「ギャアアアアアッ――!!」
足元では、首を失った蜘蛛の巨体が激しくのたうち回っていた。だが、まだ終わりではない。ラディスは素早く身を翻した。アラクネには二つの頭があり、どちらか一方でも生きている限り、もう一方は何度でも再生する。蜘蛛の頭を斬った今、次に狙うべきは人型の頭部だった。
【……ロノス──!】
「……!」
人型の上半身へ突進しかけたラディスは、その声に思わず足を止めた。
「きゃあああ……!」
【元に……元に戻して……!】
人型の上半身は、ラディスを見て叫んでいるのではなかった。アラクネは残った一本の腕を必死に動かしながら、蜘蛛の体を操ろうともがいていた。
その視線の先には、先ほど牙に弾き飛ばされ、地面へ転がったあの光る卵があった。
切断された首の断面に立ったまま、ラディスは一瞬、呆然とした。
(何……? 今の言葉が……私に聞こえた?)
【クロノス……!】
アラクネはふらつきながら、その卵の方へ歩み寄った。そして前脚を折り曲げ、身をかがめようとする。だが頭を失ったせいで身体をうまく制御できず、巨大な体をそのまま地面へ叩きつけた。
ドォン!
切断された首の断面から甲殻が砕け、真っ黒な血がどくどくと流れ出す。前脚の一本も不自然な方向へ折れ曲がっていた。だが、アラクネはまるで気にも留めていないようだった。
【元に……元に……】
アラクネは残された一本の人間の腕で、光り輝く卵を胸に抱きしめた。そしてラディスには目もくれず、黒い血を流しながらどこかへ歩き始めた。
「……一体、何なんだ?」
ようやく冷静さを取り戻したラディスは、その魔物の姿を改めて見つめた。
アラクネは、以前見た時とはまるで別物だった。かつては鎧のように黒光りしていた蜘蛛の甲殻は光沢を失い、あちこちがひび割れて欠けている。人間の上半身も同じだった。以前は若く美しい女性の姿をしていたのに、今では髪は真っ白に変わり、肌は今にも崩れ落ちそうなほど乾ききっていた。しかも、切り落とされた蜘蛛の頭部はもはや再生する気配すら見せない。
【巣へ……巣へ……】
ぐらついていた前脚の一本がぽきりと音を立てて外れ落ちる。それでもアラクネは前へ進み続けた。その魔物が向かっているのは、魔界樹の幹の根元だった。
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かつてのトラウマと宿敵との遭遇:罠によって禁域の奥地へ追い込まれたラディスは、前世で仲間たちを奪った極めて危険な魔物「アラクネ」と遭遇する。
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復讐の果たしと壮絶な死闘:過去の無力さを払拭するようにマナと炎を駆使して戦い、巨大な蜘蛛の頭部と片腕を叩き斬って因縁の相手に復讐を果たした。
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アラクネの謎と異様な行動:倒されたはずのアラクネはラディスを無視し、光る卵を胸に抱きしめながら「元に戻して」「巣へ」と呟き、朽ちかけた身体で魔界樹の根元へと這っていった。