こんにちは、ちゃむです。
「余命わずかな赤ちゃん薬師は天才なのを隠さない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
42話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 名乗りの正当性
フック家――この都市で最も尊崇を集める、名門の治療師一族である。その傘下には数多くの医師や薬師が名を連ねていた。表向きは清廉潔白で高貴、優雅な威厳を保つ名家として知られているが、その実、内部はとうの昔から腐敗しきっていた。
もともとこの一族は、絶対的な強者のカリスマによって統率されていた。医師や薬師の世界における「強者」とは、言うまでもなく圧倒的な治癒能力を持つ者を指す。
かつて、最初に西大陸へ渡った黒家門の当主黒亜華(ヘイアファ)は、人知を超えた神通力を有していた。水を操って傷病者を癒やすだけでなく、死者さえ蘇らせるという噂が真しやかに広まるほどだった。彼女が戦場に現れれば死者も重傷者も出ないと言われ、その絶大な力で完全に救われた人々は魅了され、まるで影のように付き従ったという。今なお黒家門が誇る栄光は、彼女によって築かれたと言っても過言ではない。
さらに彼女の傍らには、東大陸の守護神である「龍」が共にいたという伝説まで残されている。それだけではない。治癒能力者でありながら風を操り、雷すら呼び寄せたという逸話は、今も広く語り継がれていた。
「門閥貴族ってやつね」
友人から聞いた話を思い出す。原作において、ヒロインであるフク・アアンは伝説の治療師フク・アファによく似た容姿をしていると言われていた。その上、卓越した治療能力を持つことから、彼女こそが後継者と目されていたのだ。
話をもとに戻そう。フク・アファがこの地に根を下ろして以来、代々、圧倒的なカリスマと治療能力を兼ね備えた者が当主の座を継いできた。現在の当主フク・モランも例外ではなかったが――
「十年前、皇帝が病に倒れた時、治療に失敗した」
その出来事を境界線として、フク家は表向きの体裁を保ちながらも、静かに衰退の道を歩み始めたのである。だが、その事実を外部に悟られぬよう、彼らは水面下でなりふり構わぬ手を打ち続けていた。
何よりも彼らは、西大陸に住む東洋人を自分たちと同等の存在とは認めていなかった。彼らの勢力が強まれば、この大陸における東洋人への差別はさらに苛烈になるかもしれない――そんな恐怖が広がっていたが、現実はまさにその通りとなった。
「だから原作では、ヒロインが大活躍することになったんだ」
内部から腐敗したこの一族には、原作ヒロインが成長して改革を起こすまで、自浄作用すら期待できなかったのだ。つまり――
『自分たちが認めない天才は、受け入れようとすらしない』
私が執拗な嫌がらせを受けていた理由も、まさにそこにあった。黒家門は、すでに政治的な駆け引きと派閥争いの温床と化して久しい。医師や薬師たちの実力も、全体として衰退の一途をたどっていた。先代当主のような圧倒的カリスマを持つ天才が現れない現状では、「次の当主は治癒能力ではなく、最も政治力のある者が継ぐだろう」とまで噂されていたほどだ。
「フク家は、誰彼構わず家名を名乗ることを許しておりません」
二周目、三周目の人生でも、私はこの市場で医院を開こうとしたことがある。そしてそのたびに、徹底的な妨害に遭った。
『あの者はフク家公認の医師ではありません! 無許可営業です!』
一度ならず二度、三度と同じ目に遭えば、さすがに学ぶ。三周目では味方となってくれる武人もいなかったため、その時は黙って引き下がるしかなかった。
だが、今は違う。
「どうして私が無許可営業扱いなのです?」
父の腕に抱かれたまま落ち着いて尋ねると、動揺を見せたのはむしろ武士の方だった。名前は……サン・ゴンミンだったか。
「ここではお答えできません」
「まあ、そう言われるとは思っていましたけれど」
「こちらへお越しいただき、事情聴取を行います」
有無を言わせぬ武士の口調に、抱きかかえられている父の体にぐっと力が力が入るのが分かった。私は「大丈夫だよ」と伝えるように、父の体を軽く叩く。
(まだだよ、お父さん。まだその時じゃないわ)
「妙ですね。こんなに人が集まっているのに」
フェイマンの時のように、無邪気な子供のふりをするつもりは毛頭なかった。私は武士をまっすぐに見つめた。
「勝手に私を誘拐犯扱いしておいて、今度は説明もなしに『ついて来い』と言うのですか?」
「手続きです。理由はここではお話しできません」
「ああ、聞いている人たちがどう勘違いしようと、知ったことではないのですね?」
「何をおっしゃっているのか分かりません」
「本当に、都合のいいお仕事ですね」
私は父の服の裾を軽やかにつまんだ。
「お父さん、お願いします」
これまで行動を共にしてきた甲斐あって、父は言葉にせずとも私の意図を即座に察してくれた。もちろん、本当に「お願い」したわけではない。
「武人さん。あの人たち、少し頭を冷やした方がよさそうですね」
父はニヤリと不敵に笑った。
「仰せのままに」
その瞬間――その場にいた武士たち全員が一斉に宙へと放り投げられた。先頭で威張り散らしていたサン・ゴンミンの顔が、瞬時に歪み、羞恥と困惑で真っ赤に染まる。
「な……何をするつもりだ!?」
「…………」
「黒家の正式な武士を攻撃するとは! それはすなわち黒家への攻撃とみなされる! 本家も黙ってはおらんぞ!」
風に巻き上げられ、宙吊りになったサン・ゴンミンが手足をバタつかせて叫ぶ。私は平然と彼を見上げ、にっこりと微笑んでみせた。
(だから何?)
医師や薬師は、もともと戦闘能力を持たない。黒亜華ほどの多才な能力者は、原作ヒロインが登場するまでは現れない手筈なのだ。それにもかかわらず、黒家でも、ひいては帝国全体においても、武士は薬師や医師より下の存在として扱われていた。
「なぜ私がそう言い切れるか、分かりますか?」
「私の名前は、フク・ビユよ」
・
・
・
武人たちは名家と契約を結ぶ。その内容は「担当する医師や薬師の命令に絶対服従すること」。たとえ理不尽な命令であっても従わねばならず、自ら契約書に署名捺印するのだ。
なぜそのような苛絶な契約が存在するのか。この大陸がもともと戦乱の絶えない土地だからである。戦争で生計を立てる者が多い一方、治療師は極めて希少だった。当然、戦に伴う疫病や怪我の発生率は非常に高い。そうした状況下でフク家に所属した武人は、契約終了後も「フク家での就労経歴」という大きな恩恵を受けられる。治療を優先的に受けられる権利が得られるのだ。
このように、武士に比べて治療師の数は圧倒的に少なく、かつ黒家に所属するという絶対的な立場がある。そのため黒家の当主は、配下の武士たちの生死すら左右する権限を握っていた。
「私が自分の名前を看板に掲げるのに、一体誰の許可が必要だというの?」
つまり、この武士の行動は、私という存在そのものを軽視していることに他ならない。もちろん、私と父が冷遇されている立場であることは確かだ。それでも、ここまでの事態を計画・実行するには、当主かそれに準ずる権力を持つ黒家の人間による指示があったはずである。
父が誰であるかを知りながら襲ってきたのだ。父を執拗に狙っている事実に気づかないほど、私は鈍くはない。
「……勝手に看板へ黒家の姓を付けたのだ!」
「そう、私の名前よ。だから、どうして私が無許可営業になるの?」
あまりにも都合のいい言い分に、思わず笑いがこみ上げてきた。本当に愚かだ。まさかこんな展開になるとは予想もしていなかったのだろう。
(フク家の名前を持ち出せば、相手が怯むとでも思っていたのね)
私は心の中で不敵に口元を歪めた。
「こ、この者は……フク家から追放された者ではないか!」
サン・ゴンミンは顔を大きく歪め、甲高い声を張り上げた。私は眉ひとつ動かさず、むしろ満足そうに微笑む。
「今、ご自分で証明してくださいましたね。私がフク家の人間であると」
「……!」
捨てられただの何だのと罵られようと、痛くも痒くもない。事実なのだから。
「詭弁だ!」
周囲の群衆がザワザワとどよめく。だが、結局のところ人々にとって重要なのは家名ではなく、医師としての本物の実力だ。それに――
「捨てられた人間だろうと何だろうと、私は一度たりとも家名を捨てられたことなどありません」
私は胸に手を当て、胸を張って言い切った。
「私は黒家の人間。姓が『黒』であることに変わりはありません」
自ら墓穴を掘ったことに気づいた男は言葉を失い、その顔色はみるみる青ざめていく。
「そ、それは……頼む、そのような言葉で人々を惑わさないでくれ! 黒家の直系の方々がお黙りになっているはずがない!」
「……です! 今すぐ調査を受けていただきます!」
私は腕を組もうとして途中でやめ、首を傾げてみせた。
「私も直系の一族です。あなたに命令を下しているのがどこの誰かは知りませんが、私にお願いすることはできても、命令する権利はありません」
そう言って、不思議そうに相手を見つめる。
「えっ、もしかして……頭が足りないのですか?」
ふと、後ろで静観している何番目かの叔母らしき人物へ視線を向けた。
「私たちを甘く見て、こんな愚かな方を寄こしてくださりありがとうございます、とでも申し上げればよろしいかしら?」
(この人たちをけしかけたのは、たぶん私ではなく……お父さんの兄弟ね)
もちろん私自身も目障りだったのだろう。自分たちが後ろ盾になっている孫でもない者が、広い市場で頭角を現し始めたのだから気に入らないに決まっている。
彼らに私を直接追い詰める意図まではなかったはずだ。しかしこの場所に入ってきてからというもの、彼らは終始父を観察し、探りを入れ続けていた。
『父の反応をずっと見ていた』
(よかった……)
『どうにかして父を刺激し、暴れさせるつもりだったんだ』
もし父がここで怒りに任せて動いてしまったら、取り返しのつかないことになっていたはずだ。
しかし数分後、私は早まって安心したことを激しく後悔することになる。
「ハッ、子供のくせに何が分かる! この××の娘が、この××めが!」
**ドゴッ!!**
風に乗って星になるほど吹き飛ばされる人間は何度も見てきた。だが、その場において素手で思いきり殴り飛ばす光景は、まったく次元の違う話だった。
初めて知った。その風が、どれほど恐ろしい鳴動を轟かせるのかを。
**ドォン――!!**
大地に巨大な亀裂が走る。風圧の塊だけで、地面が割れたのだ。
私は呆然とその惨状を見つめるしかなかった。直撃を受けて吹き飛ばされたサン・ゴンミンは、微動だにせず埋もれている。
「……よくも」
(……え?)
なぜだろう。私は凄まじい風に巻き上げられ、一人だけ宙に浮いていた。ただ目をぱちぱちとさせることしかできない。
少し離れた場所では、地面に叩きつけられて半分埋まっているサン・ゴンミンの首を、父が静かに踏みつけていた。後ろ姿しか見えず、父が今どんな顔をしているのかは窺い知れない。
その時、父がゆっくりと振り返り、私をちらりと見た。
――ヒッ、と息が詰まる。
その赤い瞳は、不気味なほどぎらりと狂気を宿して輝いていた。私は金縛りに遭ったように、ただ呆然と見つめることしかできない。
父が、地の底から響くような低く唸る声を出した。焦点の定まらないその瞳とは裏腹に、声だけが妙に冷ややかに落ち着いており、それがかえって背筋の凍るような恐怖をあおった。
「……こんな扱いを受けるために、契約したわけではない」
(……契約?)
なんの契約? まさか、私とのあの約束(契約)のこと……?
いや、それよりも――
「お父さん……?」
(あなたが前に出ちゃだめなのに……。こんなの、絶対だめ……!)
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腐敗したフク家と少女の追及:特権と派閥争いで腐敗した名門治療師一族「フク家」の武士から「無許可営業だ」と不当な妨害を受けるが、少女(フク・ビユ)は持ち前の理屈と正論で相手の矛盾を突き、返り討ちにする。
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武士たちの挑発と真の狙い:妨害の裏には父親の兄弟(叔父・叔母たち)の差し金があり、彼らの真の目的は少女を追い詰めることではなく、父親を刺激して暴走・失脚させることだった。
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父親の覚醒と暴走:武士の罵倒に激怒した父親が圧倒的な風の力で相手を粉砕してしまい、その狂気を孕んだ赤い瞳と異様な言動を目にした少女は事態の悪化に絶望する。