余命わずかな赤ちゃん薬師は天才なのを隠さない

余命わずかな赤ちゃん薬師は天才なのを隠さない【38話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「余命わずかな赤ちゃん薬師は天才なのを隠さない」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【余命わずかな赤ちゃん薬師は天才なのを隠さない】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「余命わずかな赤ちゃん薬師は天才なのを隠さない」を紹介させていただきます。 ネ...

 




 

38話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 復讐のカルテ

しばしの休息。

私は淹れたてのお茶を一口、上品にすすった。

「そろそろ……決着がついた頃かな?」

ふぅ、と息を吐いてから診療を再開すると、待合室から入ってきた最初の患者が、興奮を抑えきれないといった様子で身を乗り出してきた。

「せ、先生! お聞きになりましたか!? 今日、市場で大火事があったそうですよ!」

その顔は、なぜかどこか嬉しそうだ。

「しかも不思議なことに、一つの建物だけが跡形もなく燃えて、隣の建物にはまったく燃え移らなかったそうです……! いやあ、あの燃えた建物の主人というのが、普段から近所の商人や住民、さらには罪もない東方人にまで因縁をつけていた悪党の親玉でしてね。本人は命からがら逃げ出したそうですが、隣の家の人が言うには、腰を抜かして気が触れたみたいになっていたとか。ははっ、やっぱり世の中には天罰ってあるんですねぇ」

「ええ。本当に天罰というものはあるのかもしれませんね」

私は静かに座っているお父様をちらりと見て、思わずくすっと笑った。

――お父様特製の、とびきり強烈な天罰、だけどね。

白叔父様、黒叔父様、そして赤龍商会の会長ジョク・ユンハによる陽動作戦は、どうやら完璧に成功したようだった。

(うまくいくだろうとは思っていたけれどね)

原作小説において、序盤で早々に退場してしまう「黒飛院」は次男である。そして、原作ヒロインの父親である「黒飛龍(おじ様)」もまた、冷徹で極めて有能な能力者だったのだ。

私は、数日前の騒がしいやり取りを思い出して笑みを深くした。

『え、一緒に行くって? そんなことできるの?』

数日前、私はその日もお父様やゲウォンお兄ちゃんと一緒に、診療所へ行く予定だった。

その日はちょうど、発注していた診療所の看板が出来上がる日でもあり、私は朝からとても楽しみにしていたのだ。

ところが、ここ数日ほとんど姿を見せなかった白龍おじ様と黒飛龍おじ様が突然目の前に現れ、「自分たちも一緒に行く」と言い出した。

『えっ、叔父様たち、外出禁止になったんじゃなかったの?』

『こっそり抜け出せばいい!』

『全部末っ子(飛龍)が責任を取るって言ってるしな!』

『えっ!? 何それ!? 頭おかしいの? そんなの通るわけないでしょ!』

小さいお父さん(おじ様)は「こっそり出ればいい」と言い張り、大きいお父さん(おじ様)は「何かあれば小さい方が責任を取る」と言い……。二人とも自信満々に胸を張っていたけれど、そんな適当な理由で本当に大丈夫なのだろうか。

規則違反だと本館に知られたら、間違いなく面倒なことになる。下手をすれば、今私が必死にやっている活動にまで悪影響が及びかねない。

それに、脱走防止用の「追跡用の香り」のせいで、外へ出ると一瞬で居場所を感知されてしまうはずだった。

『私もおじ様たちと一緒にお出かけしたいけれど、ルールだから駄目なんだよ』

私がそう言って宥めようとすると、二人は一瞬で顔を輝かせた。

『えっ! 俺たちと一緒に行きたいって言ってくれたのか!?』

『いや〜、困ったなあ。お姫様がそんなに「一緒にお出かけしたい」ってお願いしてくれるなら……!』

……この人たち、一体どうしたのだろう。

いつも以上に大げさに喜ぶ様子を見て、私は思わずジト目を向けてしまった。

『ちびちゃん。外出禁止はまだ解除されてないけど、追跡の件は解決してきたから問題ないぞ?』

『え?』

何が理由かは分からないが、二人はもう追跡用の香りの影響を受けないらしい。だから、こっそり外へ出ても誰にも気づかれないのだという。

どういう経緯かは分からないけれど、ここ数日間姿を見せず、本館へ乗り込んでいたことと関係があるようだった。ゲウォンお兄ちゃんに視線で尋ねてみても、彼自身も詳細を知らないらしく、困った顔で首を横に振るばかりだった。

それでも迷った末、潜入作戦に「水の能力」が必要だったため、今回は黒飛龍おじ様だけについて来てもらうことに決めたのだが……。

問題は、置いていかれることになった白龍おじ様の反応だった。

『なんで俺だけ仲間外れなんだ! 仲間外れだ! もう床に寝転んで泣いてやる〜〜っ!』

『分かったから起きて! 子どもたちの前で恥ずかしくないの!?』

『恥ずかしい!』

『……恥ずかしいです、お父様』

実の息子であるゲウォンお兄ちゃんにまで冷ややかな目で見られながら、駄々をこねる大の大非凡人。

ともあれ、そんな騒動を経て、おじ様たちも自由に外出できるようになったのだ。後で聞いた話では、追跡を担当している管理者のところへ直接出向き、うまく話をつけて解除してもらったらしい。

(……本当に「話し合い(物理)」で解決したのよね……?)

私が考え込みすぎていたのだろう。

その日、お父様は私の思考を察したように、低い声でこう囁いてくれた。

『考えがあるようだから、そのままにしておこう。もし正体がばれそうになったら、私が始末してやる。見つからなければいいだけの話だろう?』

『……その「始末」が、どうして「この世から消す」という意味に聞こえるんだろう?』

『うん? 必要ならそうしてやるぞ』

『いや、違う違う違う!』

ともあれ、結果的には大成功だった。

赤龍商会の会長ジョク・ユンハは間違いなく有能な人物だが、彼女の組織はまだ発展途上だ。配下の中には、シニオン家が送り込んできた高位の使者を一対一で制圧できるほどの実力者は、まだいなかった。

(せっかく使える“超一流の駒”が目の前にいるんだもの。使わない手はないわよね)

だからこそ、お父様も、白龍おじ様も、黒飛龍おじ様も全員巻き込んだのだ。

こうして、私のアドバイスの元、おじ様たちはユンハと共に陽動作戦を進めることになった。

役に立つとは思っていたけれど、彼らの仕事ぶりは予想を遥かに超えていた。

初日にアジトへ潜入していた密偵を見つけ出して捕らえ――もちろん、二度と表舞台に立てないよう「処理」したのは言うまでもない。

さらに、カニンと手を組み、組織的に粗悪な薬草を混ぜて売りさばいていた不正商人たちも、大勢まとめて一網打尽にしてしまった。

『ははっ、昔やってた暗殺任務に比べたら、ずいぶん簡単だな』

『おい、物足りないぞ。まだ敵はいないのか? もう少し叩きのめしてもいいんだろ?』

……有能すぎて、本人たちが退屈しているという点を除けば、これ以上ない完璧な働きだった。

なんというか、前世の国家情報機関の超エリート工作員が、その辺の路地裏のチンピラを片っ端からモップがけしているような感覚だ。

おかげで、あっという間に片が付いた。私一人でこそこそ動いていたら、一か月はかかっていただきに違いない。

(この人たち、全盛期はいったい裏で何をしていたのかしら……)

お父様なら何となく知っていそうだし、今度、ちゃんと聞いてみよう。

「これで、こいつらも終わりね」

すべては今日で終わる。

最後に決定的な証拠書類を手に入れたら、あとはユンハの炎の能力で、痕跡ごとすべてを焼き払う。それが最初からの計画だった。

おじ様たちが使った雷や水の能力の痕跡を消すために大火事を起こしたわけだが、目的はそれだけではない。

違法な偽薬の製造工場、高級薬草に粗悪品を混ぜる加工場、さらにはこの街に感染症を広めようと大規模な準備を進めていた彼らの生物兵器の拠点――。そういう諸悪の根源を、すべてまとめて灰にする必要があったのだ。

「雷を操る能力者なんてそう何人もいないし、お父様たちの正体が特定されるのは避けたほうがいいもんね」

この一件で、赤龍商会は大きく飛躍するだろう。三大商会よりも早いスピードで、この黒林の覇者へと登りつめるはずだ。

「そうすれば、私は一生、薬草を無料で手に入れられるってわけ。ふふふ……」

「お姉ちゃん(ユンハ)、三度目の人生では恩返しするね。今世では骨までしゃぶり尽くしてあげるから……!」

そんな邪悪な独り言を呟きながらほくそ笑んでいると、すぐ近くから低い声が届いた。

「楽しそうだな」

「うん?」

顔を上げると、お父様が頬杖をつきながら、私をじっと見つめていた。

「いや、その……全部うまくいったから」

正直、自分の損得なんてどうでもよかった。

原作で悲惨な運命を辿ったウンドクおじさんやジョク・ユンハが、この人生では苦しまずに済む。それが何より嬉しかった。

『私の運を全部あげるから、どうか幸せになってね』

本気で、あの人たちの味方になりたかった。前世で小説を読んでいた時、「もし私がこの人たちの味方だったら、どんな結末を迎えられただろう」と何度も考えたほどだから。

「それにしても、お父様だけ白おじ様や黒おじ様みたいに外を飛び回れないなんて、退屈じゃない?」

「……私はあいつらのような狂犬じゃないし、そのつもりもない」

兄も弟も立派な戦闘狂(狂犬)に育て上げた張本人であるお父様は、私の頭をこつんと軽く叩いた。

「家と、あの木だけは絶対に離れてはいけない――そんな強迫観念にずっと縛られていた。……だが、お前がいるからもう大丈夫だ」

それは、聞き捨てならない大事な手がかりだった。

お父様の家と、お父様が最初に出会ったあの木。

それは、過去のお父様にとって一体どんな意味を持つ存在だったのだろう。

「ここでは、本当にいろいろ学ばせてもらった」

「学んだ?」

お父様は診療所の扉の方へ視線を向けた。

ちょうど休憩時間で、ゲウォンお兄ちゃんとタク・ミンジェも休ませるために外へ出したところだった。あちこち走り回っていたラオンも、ポムポムも、今は静かに眠っている。

お父様は静かに口を開いた。

「子どもを連れて来る親が多いな」

子どもは、大人とは治療法も、服用する薬の量も違う。

「みんな、それぞれのやり方で大切に育てているのだな」

子どもの診察は気を遣うことが多いから、小児をきちんと診られる医者は決して多くない。中には、子どもの診察そのものを面倒がって断る医者や薬師もいるほどだ。

「ずいぶん学んだようだな。これからも人の役に立てるよう努力しなさい」

「うん」

お父様が何を言っているのかはよく分からなかったけれど、とりあえず私は素直にうなずいた。そのうち思い出すことがあれば、それでいい。

「お父様、もしかして……」

私は少し声を潜め、恐る恐る尋ねた。

「お母様のことは、覚えていないの?」

いつもより柔らかだったお父様の表情が、一瞬で曇った。

「覚えていない」

しまった、と私はすぐに後悔した。

「……」

「自分が結婚していたことすら、覚えていないのだ」

――アリン。

記憶の中の、今の冷徹なお父様とは違い、穏やかに笑っていた若き日のお父様の姿が脳裏に浮かんだ。

重苦しくなりかけた空気を察し、私はすぐに話題を変えることにした。

「お父様……」

「それはそうと、お前は最近、楽しそうに見えるな」

「え?」

「薬を作り、人を治療する。それはそんなに楽しいことなのか?」

私が? 楽しそうに?

話題を変えてくれたのはありがたいけれど、ずいぶん唐突な質問だった。

「楽しい、というよりは……」

よく分からない、というのが本音だった。

そもそも、私が医学の知識や技術を必死に身につけたのは、前世で医者や薬師の一族の中で生き延びるためだった。そうして生き残るために縋りついた技術が、三度目の人生では「家に帰るための手段」になっただけ。

「うん」

それでも……。

「好きだよ」

私を見て、心から喜んでくれる人たちを見るのが好きだった。前の人生では、私の周りにはそんな人は一人もいなかったけれど。

「私を見て喜んでくれる。それが嬉しいんだよ」

私は過去の寂しい記憶を頭の隅に追いやりながら、何気なく答えた。

「患者さんは、私に悪口も言わないし、憎んだりもしない。殴ったりもしないから」

それを聞いたお父様は、なぜか見る見るうちに不機嫌そうな顔になった。

その時だった。

ビュウゥッ!

診療所の前髪が大きく揺れるほどの強い風が、室内を吹き抜けた。突然の風に、私は思わずパチパチと目を瞬かせる。

お父様の手から、ずっしりと重い何かが私の手へと握らせられた。

「筆と紙を持ってこい」

「え?」

それは、どう見ても大人用の、太くて大きな毛筆だった。三歳児の小さな手には大きすぎる。

「順番に書け。お前に悪口を言った相手、憎んだ相手、そして最後に……お前を殴った相手だ。最後の項目は、一匹残らず必ず書け」

私は呆然とした。

――これ、一体どういう状況なの?

「復讐を望むのは当然のことだ。それはお前の権利だからな」

急にそんなことを言われても困る。

もちろん、その通りだ。三度目の人生で私を罠に嵌めて苦しめ、死に追いやった「黒大尉」や帝国の一味を、私は決して許すつもりはない。

「ふふ、お父様。ちゃんと父親らしいことをしたのは、これが初めてかもしれないね」

私はうつむいたまま、思わず吹き出してしまった。

「じゃあ、それまでは父親らしいことをしてなかったってこと?」

お父様は珍しく返事に少し詰まり、何かを一生懸命思い出そうとするように視線を泳がせた。

「さあな。はっきりとは覚えていないが……そうじゃなかったか?」

おかしな人だ。少し前には、私が生まれた日のことを覚えていると言って私を驚かせたくせに。

本当に大らかな人だ。記憶を失っているのだから、多少ぎこちないところがあっても仕方ない。私はそう思っていた。

(よし、それならそれとなくヒントを出してあげよう)

「じゃあ、ここで私を守っている理由は何? お父様」

「……雇われた護衛としての義理、だろう」

義理、ね。

どこの護衛が、担当医のプライベートや過去の恨みまで気にするのよ。

あなた、記憶を失う前からそんな調子だったなら、お母様との恋愛は相当苦労したでしょうね。

私はぷっと頬を膨らませた。

「ふん。そんなに部下扱いされたいなら、好きにすれば?」

そう言って首を横に振り、筆を机の上にコトッと置いた。せっかく点数を稼げるチャンスなのに、本当に鈍いんだから。

その瞬間、ふわり、と私の体が宙に浮いた。お父様が私をひょいと抱き上げたのだ。

「私、そんなに鈍感じゃないのだが」

顔を上げると、いつの間にか私たちは至近距離で見つめ合っていた。不器用で優しいお父様の顔には、あからさまな不満の表情が浮かんでいる。

「私、何か悪いことした?」

「いや、してないぞ?」

お父様は眉をひそめた。

「だが、そのしかめっ面、スクブ(ゲウォンお兄ちゃんの父)にそっくりだ」

きっとお互いに「全然似てない」と言い張るのだろうけれど。

お父様は、私を抱き上げたまましばらくじっと見つめ、それからポツリとぼやいた。

「やっと私は最下級騎士まで昇進したというのに、また平隊員に戻るのか。悲しくて、これでは護衛などできそうにないな」

「じゃあ、ゲウォンお兄ちゃんとタク・ミンジェに護衛を頼めば?」

「…………」

私たちを包む風が、にわかに激しさを増した。

何? 不満だっていうの?

お父様の表情が、獲物を狙う猛獣のように鋭くなる。

「……あいつら、今日から気絶してしばらく動けない予定なのだが」

わあ、部下の気絶するスケジュールまで勝手に決めてある。

「……お父様、何を望んでるの?」

お父様は口元をわずかに緩めると、もう一度私の手に筆を握らせた。

「早く書け」

「嫌」

筆をめぐる不毛な押し問答が始まった。もちろん、私が勝てるわけがない。

ずるい! 魔力を使うなんて! 三歳児相手に大の大人が本気になるなんて、本当に大人げないんだから!

「最初の名前は、一番お前を苦しめた奴……いや、その男の姓から書こう。さあ、書いてみな」

「もう、なんなのよ!」

「復讐心は誰にでもある感情だ。お前が健やかに生きられるよう、私がきれいに昇華させてやろう」

いや、ちょっと待ってください。頼んでもいない血みどろの復讐を、勝手にデリバリーしないでください。

「書かなくてもいいよ」

「私が優しいからか?」

何を都合のいいことを言っているの。

私は笑いもしないまま、筆で机をコトコトと軽く叩き、そのまま筆先をお父さんの鼻先に向けた。

お父様の口元が、にやりと不敵に吊り上がる。

「書かなくても、復讐は私が直接やるがな」

これが、私が三度目の人生において、私を騙し、裏切り、最後には殺した連中をわざわざ自分から探そうとしない理由の一つだ。

どうせ私を苦しめた連中は、それぞれの私利私欲のために勝手に動き、自滅の道へと突き進んでいく。だから、こちらから探さずとも、いずれ必ず向こうから会いに来ることになるのだ。

「今度こそ、あの名門一族の連中は私が絶対に許さない。皇太子もだ!」

一番会いたくない、そして必ず報いを受けさせたいその男は、今頃きらびやかな皇宮でふんぞり返っているのだろう。

お父様は腕を組み、不機嫌そうな様子を隠そうともしなかった。

「では私は、これから退屈する一方じゃないか」

そこが問題なの!?

私は心の中で呆れ返り、苦笑した。

「だからこそ、だよ」

私は筆を置き、お父様の大きな指を軽くつついた。

感情に合わせてくるくると変わるお父様の表情を見ているだけで、退屈なんてしなかった。

「心配しないで。退屈する暇なんてないから! これから先、お父様が大活躍する場面は山ほどあるんだからね」

「まるで、これから起こることをすべて知っているみたいな言い方だな」

「……それなら」

「うん?」

私はお父様の指を小さな手できゅっと握り、にこりと笑った。

「私が、たくさん問題を起こしてあげる」

私は胸を張って、堂々とトラブルメーカー宣言をした。

お父様、わざわざ過去の復讐相手を探さなくても、私を守る理由なんてこれからいくらでも作ってあげる。この国でこれから流行するいくつかの伝染病や、様々な陰謀を治療していくだけで、あっという間に時間は過ぎていくのだから。

「だって私は、か弱くて守ってあげなきゃいけない、天才名医なんだからね?」

「自分でよく言うな」

「事実だもん、事実」

私は、お父様に「専属護衛」としての自覚をしっかりと持ってもらうことにした。

「聞いたら心配になるでしょ? 世の中は危険がいっぱいなんだから。護衛さんがちゃんと守ってくれないと困るの」

「その代わり、どれだけこき使われるかは分からないけれどね。ふふ。でも、タダで働かせるつもりはないから」

私は企みを胸の奥に隠し、ぱちりと可愛らしく瞬きをした。

今起きているカニンの一件なんて、まだほんの序の口。これからが本番なのだ。

「この件には、シニオン家が絡んでいるわ」

お父様が、フードの奥で目を細めた。

シニオン。

初代皇帝がこの国を建国したとき、八番目に加わったという由緒正しき戦士の一族。

薬草産業への執着が異常なほど強く、その強欲さで知られる名門家門だ。後には優秀な医師たちを強制的にさらうようになり、黒林の滅亡を裏で画策する最悪の勢力でもある。

三度目の人生で私が命を落としたとき、冷酷に見下ろして嘲笑っていたのも、あのシニオンの連中だった。

(シニオンは、この国でも指折りの名家。だけど――)

『三度目の人生では成功したかもしれないけれど。今回は、そうはいかないわよ』

彼らはカニンを隠れ蓑にして、多額の資金と人員を投じた計画を進めていた。偽薬の製造や感染症の拡散準備に費やした莫大な費用を考えれば、自分たちの手駒(カニン)が潰されたからといって、このまま黙って引き下がるはずがない。

幸いにも、今回お父様とおじ様たちが、シニオンがカニンと裏で繋がっている決定的な証拠を持ち帰ってくれた。

その証拠は、後々最高の切り札として役立つだろう。

だが、今すぐ使うのは悪手だ。

(これから私たちの『主人公』は、もっともっと成長する。その時まで、大切に温存しておけばどれだけ効果的か……)

私は楽しげに鼻歌を歌った。

あんたたち、前世から本当に気に入らなかったのよ。

「私が死ぬとき、嬉しそうに笑ってたものね」

言いたいことは全部言った、とばかりに机をポンと叩く。

「はい、診察の時間ですよ、お父様」

「まだ話したいことがたくさんありそうだが?」

「ないない、もう十分! その代わり、これから悪い人を懲らしめる仕事は、全部お父様にお願いするからね」

「……頼まれることになるのか?」

「もちろん! お父様だから頼むの。後でお手伝いをお願いしたら、絶対に断らないでね!」

お父様は少し不満そうな顔をしながらも、素直にこっくりとうなずいた。

「……まあ、お前をそんなふうに『他人を頼るしかない子』にしてしまったのは、情けない父親である私の責任だ。ちゃんと覚えておく」

なんだか、窓の外を遠い目で見つめるお父様の横顔が、少しだけ寂しそうに見えた。

「……そう思っていたけれど、それは私の思い違いだったのかもしれないな」

その呟きは、風に乗って、静かに診療所の空気に溶けていった。

 



今回のエピソードの要点は以下の3点です。

  1. カニン薬局の火災と「天罰」の噂

    作戦の翌日、診療所を再開したビユのもとに、カニンの薬局が謎の火災で全焼したという知らせが届きます。周囲は「天罰だ」と喜び、ビユはお父様(白龍)たちの陽動作戦が完璧に成功したことを確信して密かに微笑みます。

  2. お父様とおじ様たちの「お留守番破り」と大活躍

    外出禁止のはずだった白龍と飛龍おじさんですが、管理者と「話し合い(物理)」をして追跡の香りを無効化し、こっそり同行していました。彼らは持ち前の圧倒的な隠密・戦闘能力で密偵や不正商人を一網打尽にし、ビユの計画以上の大成果を上げます。

  3. シニオン家への反撃準備と、父娘の不器用な約束

    回収した証拠を切り札として温存し、黒幕であるシニオン家への報復を誓うビユ。そんなビユの過去の苦しみ(前世の未練や傷)を察したお父様は、不器用ながらも「悪口を言った奴や殴った奴の名前を書け、私が直接復讐してやる」と、父親らしい(?)獰猛で温かい約束を交わします。

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