憑依者の特典

憑依者の特典【126話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「憑依者の特典」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【憑依者の特典】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「憑依者の特典」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...

 




 

126話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 117回目

アイレットは、命を脅かされていた事実など、すっかり忘れている様子だった。

その間に呼吸と心拍が落ち着いたアイレットは、テシリドの顔色を注意深くうかがいながら尋ねた。

「プレゼント……大丈夫?」

「うん。」

「本当に?気に入らないのに無理してるんじゃないよね?」

「うん、本当に気に入ってる。ありがとう。」

「よかった。」

「それと、他のこともありがとう。」

「他のこと?」

満面の笑みを浮かべながら、彼は穏やかな声で答えた。

「助けてくれて。」

「……え?」

「助けてくれて、って言ったんだ。」

「あ、びっくりした。何て言ったのかと思ったよ。なんで急に?」

「うん、急に。」

冗談のようなやり取りのあと、テシリドはフロッピーディスクを目の高さまで持ち上げて、しげしげと眺めた。

「古そうだね。」

「それ、新品はなくて中古しかなかったの。もともと30回くらい使えるらしいんだけど、残り回数が……」

「当ててみようか?」

「うん?」

「14回。」

「うわ、どうしてぴったり当てたの?」

彼は答えなかった。

代わりに表情をきりっと引き締めて、口を開いた。

「これを今使って死んだら、またこの場所、この瞬間に戻ってくるのかな?」

かすかに瞳が揺れる。

今度は本気で想像している人の目だ。

「また君とこのアーティファクトについて話して、それから君は残り回数が14回じゃなくて13回だって知って驚いて、僕は自分だけが覚えている時間のことを君に打ち明けて……そうなるのかな?」

「……」

「そう、なるのかな?」

「……」

彼女の沈黙が重くのしかかった。

テシリドはほどなくして、答えを聞くのを諦めた。

「ごめん、アイ。」

「……どうして?」

「余計な話をしてしまった。」

テシリドは遠くを見るような、どこか虚ろな表情で言った。

「無理だって分かってる。君はこの17回目にしか存在しないんだから。」

「……」

「たとえどこか別の次元に17回目の時空があったとしても、そこに君はいない。」

仮定を語る口ぶりとは裏腹に、彼の言葉には確信がこもっていた。

アイレットは気づいていない様子だが、彼にとって17回目は今回が初めてではなかったのだ。

この世界に憎まれ、回帰し続ける運命に疲れ果てて彷徨った最初の17回目。

狂気のまま自ら命を絶つために越えてきた二度目の17回目。

そして、贖罪を求められ、力を失い、ついに転落することになった今の17回目。

その中で、アイレット・ロデラインが存在するのは、今の時間線だけだった。

すべての時空を通して、アイレット・ロデラインは唯一の存在。

そうして彼は、三度目に迎えた17回目で、ようやく彼女と出会ったのだ。

手の中にセーブポイントを握りしめ、長い年月を振り返ると、呪いのように深い虚無が押し寄せてくる。

目の前の彼女は、このセーブポイントがどのように六回使われたのかを知らないのだろう。

滅びすら答えではないと悟り、すべての意志を失ってしまったときの出来事だ。

カトレヤ通りでのことだった。

魔王と五人の英雄は、彼を殺すことも生かすこともできない状態にして、無限の牢に閉じ込めた。

それがすべての始まりだった。

手際よく、しかも卑劣な手段で集めてきた材料を使い、彼らは奇妙な装置を作り上げた。

そして彼に無理やり永生の水を飲ませ、セーブポイントを強制的に作動させた。

セーブとロードを繰り返した、十六回の人生。

それを終わらせたのが彼女だったが、当の本人はそんな凄惨な時間線の存在をまったく知らない。

知らないのが当然だ。

そして、知らないままでいい。

彼女の目の前にいるのは、善良で誠実な17回目なのだから。

……すでに死んだ17回目の体を借りた、117回目ではないのだから。

だから彼は、彼女に自分の不幸を見せつけて、同情や憐れみを乞いたくなる衝動を、今日も必死に押し殺した。

テシリドは会話の終わりを告げるように、フロッピーディスクを大事そうに胸元へしまい込んだ。

「アイ、本当にありがとう。今の気分なら、世界だって救えそうだ。」

「そ、そう?」

「うん。」

本心だった。

自分が世界を救うあいだ、彼女が自分を救ってくれる気がしたから。

自分を――死なせてくれる気がしたから。

 



 

私とテシリドは、現実時間で翌日の明け方になってようやく宮殿へ戻ることができた。

アッシュは、公爵が命じれば文句ひとつ言わずに動く、優秀な人材だった。

無駄にタウンハウスで待っていて、どうしてこんなに遅くなったのかと小言を言うようなこともなかった。

私の指示通り、何度も公王城へ足を運び、私の名を伝えていたようだ。

……だが、祖父とエドが彼を城内へ通すかどうかは、また別の問題だった。

怪しげな暗殺者は、正門で入口カットを食らっていた。

そのため彼は一晩中野宿をし、私とテシリドが戻ってきたときに一緒に城へ入るしかなかった。

なんだか申し訳なくて、アッシュの給料を少し上げてあげようと、心の中で自分と約束した。

私はぐっすり眠り、日が高く昇った頃に目を覚ました。

遅めの昼食をとろうとダイニングルームへ向かう途中、予想どおりレックスが付きまとってきて私を困らせた。

「外泊はなさらないとおっしゃっていましたよね、殿下。」

「世の中、思いどおりにはいかないものね。」

「苦しい言い訳ですね。」

「大目に見てください。それに警戒する必要はありませんから、ご安心を。この件はテリーが証明してくれます。」

さりげなくテシリドに話を振った。

案の定、レックスも気難しい公爵の護衛を相手にするのは骨が折れると感じたようだった。

対戦相手が決まるやいなや、話題を変えた。

「それだけではありません。」

「まだ何か?」

「身元もはっきりしない不審者を騎士団に入れるおつもりだとか。」

「報告は受けているわ。」

「神聖教の殿下の騎士団です。身元が確認された人物のみを選び、厳格な手続きを経て任命すべきではありませんか。」

「傭兵なんだから、少しくらい大目に見てよ。」

「そこが問題なのです。臨時雇用では不安が残ります。」

「じゃあ正式に雇う?」

「それもなりません。双剣使いは聖騎士にはふさわしくありません。」

「……ああ、はいはい。個人的な好みはよく分かったわ。私の好きにするから。」

軽く手を振った。

うちの兄ですら、レックスみたいに小言は言わないのに。

(ああ、そういえばプリンツに会いたいな。)

そのとき、向こう側からエドが廊下を横切って急ぎ足でやって来るのが見えた。

いつも余裕のある老紳士とは思えないほどの足取りだった。

「神聖卿、大変です。」

「何があったの、エド補佐官?」

「ここで立ち話をするより、公爵閣下の執務室へご一緒ください。閣下にもご報告しなければなりません。」

「その必要はない、エド。私が来た。」

ちょうどそのとき、祖父が現れた。

「何事だ、エド?」

祖父はヒスペンル公爵らしい威厳ある表情で、厳かに問いかけた。

張り詰めた空気の中、エドが口を開く。

「現在、応接室に来ているロミナ・レカンドロ侯爵からの伝言です。」

その名を聞いた瞬間、そこにいた全員の視線が揺れた。

ロミナ・レカンドロ。

彼女は士官学校の校長であり、ベンチェス王国最強の人物。

あの怪物がわざわざ直接来て伝えるほどの知らせなら……。

「ハデイル王子殿下とセレスティド王女殿下が、SS級ダンジョンシンクに巻き込まれたとのことです。これを受けて、ビンチェスター王国は各国に兵力支援を要請しました。」

ああ。

今日だったか。

流れが動いた。ビンチェスター王国に混乱をもたらすための。

一度、深く息を吸ってから私は言った。

「準備しましょう。全員、エルペハイム帝国へ――今すぐ帰還します。」

 



 

魔族たちの間で特に人気が高いとされるSS級魔界領地――“勇者たちの死体が埋められた童話の地”。

そこは共同墓地、怪樹の森、棘の茂みの森、迷宮庭園、魔法の城という五つの区域に分かれた広大な領地だった。

別名、フェルヘムステイン公爵領。

フェルヘムステインは、数千の使い魔と数百の使用人、さらには数十の高位魔族の眷属を従える、由緒ある大貴族の公爵だった。

だが今日、その地で異変が起きた。

長い年月を経て、ついに当主が交代したのだ。

ゴロゴロ……。

一人の男の頭が床を転がった。

髪は暗い紫色で、腫れた目は血走っていた。

まるで被害者と性別だけを入れ替えたかのような外見の女が、冷ややかに歩み寄った。

「片付けて。」

彼女はアナシア・フェルヘムステイン公女だった。

いや、たった今、自ら父を殺して爵位を継いだのだから――今やアナシア・フェルヘムステイン公爵と呼ぶべきだろう。

アナシアは、“雪の女王”エメラニアを堕とし、「千年氷城」を奪い取った悪魔でもある。

氷城攻略の際、アイレットとテシリドは“追憶の鏡”を完成させ、最終ボスであるアナシアを呼び出して討伐しようとした。

だがアナシアは別件の急務を理由に、ダンジョンを強制的にクローズして去ってしまった。

その事件から数か月後、“氷の公女”は“氷の公爵”となり、その外見もすっかり様変わりしていた。

公女時代のアナシアは、二つに分けた紫色の髪をした10代半ばの少女だったが、今は長い髪に黒いドレスをまとった、妖艶な20代の女性の姿になっていた。

急激に増した力に伴う変化だった。

「城を新しく整え直さないとね。正直、お父様の趣味は古臭すぎたわ。」

彼女の後ろに並んでいたサキュバスメイドたちが、上品に微笑みながら答えた。

「はい、アナシア様。」

「どこを見てもアナシア様の鏡が映るようにいたします。」

「闇市で落札なさったアナシア様の大切なコレクションも展示いたします!」

漆黒の公爵城は、これまで“魔法の城”と呼ばれていたが、これからは“鏡の城”と呼び変えたほうがよさそうだった。

「そうだ、改装が終わったらアナシア・フェルヘムステインが公爵位を継いだって魔界に知らせて。招待状も配って。」

「招待状ですか?」

「公爵位を継いだんだから、宴を開かないとね?」

「パーティー!最高です!」

執事長であるサキュバスの女王を筆頭に、メイドたちが忙しなく動き始めた。

 



 

そうして数日後、“鏡の城”でアナシアの公爵位継承を祝う宴が開かれた。

壁も天井も一面が鏡張りの大広間で、華やかな衣装に身を包んだ魔族たちが舞を披露している。

優雅な動きではあったが、床を引きずる鎖の音が不穏さを際立たせていた。

魔族たちを縛る手枷と足枷。

彼らは糸で操られるマリオネットのように、鏡の中から伸びた鎖に繋がれていた。

これこそが魔界における主従関係。

魔族が眷属を持つということは、自分より弱い他の魔族を力でねじ伏せ、奴隷のように従わせることを意味していた。

アナシアは椅子に腰かけ、冷ややかな表情で舞踏会を眺めていた。

「はぁ……」

ため息混じりの声に、サキュバスの女王がそっと様子をうかがう。

「どこかお気に召しませんか、アナシア様?」

「気に入らないように見える?会場の端を見てごらん。」

「えっ……あっ!眷属たちが踊りを全然合わせられていません!すぐに足を切り落としてきます!」

踊っていた奴隷の眷属たちが、ひどくもつれたり足を滑らせたりしていたのだ。

「馬鹿ね、そうじゃないわ。」

「えっ、では何が問題なのか教えてください。」

「会場に客がいないのよ。いるのは全部、眷属ばかり。魔界中に招待状をばらまいたのに、どうして祝いに来る者が一人もいないの?」

「……」

その瞬間、サキュバスの女王は優雅な所作も忘れ、顔色を失った。

彼女の手首や足首にも、他の眷属たちと同じように鎖がつけられている。

長くアナシアに仕えてきた彼女は、アナシアがどんな魔族かを誰よりもよく知っていた。

生まれてわずか150年で、実の兄弟姉妹を皆殺しにし、父すら手にかけて公爵の座に就いた存在。

しかも「魂を賭けて戦おう」などと言い出す好戦的な性格ゆえ、彼女と関わること自体を避ける魔族も少なくなかった。

(狂ってるのか?継承祝いの贈り物として、自分自身を奴隷として差し出せっていうのか……)

サキュバスの女王が内心で毒づいているあいだ、アナシアは本気でがっかりしていた。

「ああ、カロペイオス様は来てくださると思っていたのに。」

「サナラクの魔王がわざわざこんな所に来るわけが……あっ!きっとお傷つきになりますよ、アナシア様!」

「ええ、傷ついてるわ。だからこそ反応はきちんとしてほしいの。」

「はい。」

「本来なら、今日はカロペイオス様に黒紫のサイン会を贈って求婚するつもりだったのよ。」

「ロマンチックですね、アナシア様。」

「でも全部台無し。カロペイオス様は来ないし、黒紫のサイン会もない。」

少し前、ジブリテ侯爵の闇市で黒紫のサイン会が出品されたという噂が、魔界中に広まっていた。

そのためアナシアも、千年氷城に自ら足を踏み入れて奪ってきた戦利品まで手放し、血眼になって駆けつけたのだが――偽物だと判明した。

「ジブリテ侯爵め、よくも偽情報で私を愚弄したわね!」

アナシアの怒りがグランドホールを満たした。

それに呼応するかのように、奴隷の楽士たちの奏でる音楽が崩れ、引き伸ばされた不協和音へと変わっていく。

そのときだった。

ギィィィィィ――

グランドホールの扉が、左右に引き裂かれるように開いた。

「お、お客様……?」

「客って?」

「本当に?」

サキュバスの女王をはじめ、眷属たちは信じられないという表情で固まった。

一方、アナシアは両手を握りしめ、目を見開いた。

(まさか、カロペイオス様……?)

ドン!

完全に開いた扉が重々しい音を立てる。そこから一人の影が、ゆっくりと姿を現した。

「ひっ……!」

「はっ……!」

闇そのものをまとったような美青年が一歩踏み出した瞬間、会場の空気が魔族たちを押し潰すように圧し掛かった。

まるで見えない無数の手が、喉元を締め上げ、肩を押さえつけているかのようだった。

魔族たちは息を詰まらせ、思わず膝を折る。

その威圧に耐えられたのは、ダンジョンの主であるアナシアだけだった。

「ま、魔王様……」

予想をはるかに上回る存在が姿を現した。

「いい夜だな、フェルヘムステイン公爵。」

低く響く声が、鼓膜だけでなく心臓と魂までも揺さぶった。

「あ……」

アナシアは震える身体を無理やり引きずり、彼のもとへ歩み寄る。

「もしかして……あなたが……私の思っているあの方、でしょうか?」

「そうだ。」

「ああ……。お目にかかれて光栄です、混沌の王よ。」

彼を見上げるアナシアの頬は紅潮していた。恍惚とした瞳の奥には、狂気じみた期待が宿っている。

剣士シルヴァン、魔術師ヘルカイオに続き――彼女にとって三度目となる栄光だった。

彼を迎えた者は皆、我を失うほどの魅了に囚われた。

かつては無名の彫刻家にすぎなかったシルヴァンの遺作は、闇市で連日最高値を更新し続けた。

また、かつてC級ボスに過ぎなかったヘルカイオは、一気にSS級へと格上げされた。

ならば、今なおSS級である自分はどうなる?

(もしかして、魔王になれるかもしれない……!)

その瞬間、アナシアの頭の中からカロペイオスに求婚する考えは、きれいさっぱり消え去った。

混沌の加護を受け、魔界の頂点に立つ――その欲望だけが、強烈に燃え上がる。

カロペイオスは、伴侶ではなく――支配すべき存在になったのだ。

そのとき、リードが威圧を引き締め、魔族たちの呼吸をようやく取り戻させた。

唐突な問いが、アナシアへ向けられた。

「公爵。」

「はい。」

「私の顔を見て、何を思う?」

「え?それはもちろん……」

アナシアの頬が、さらに赤く染まる。

「これほど美しくも禍々しく、退廃的で高貴で、神聖さすら泥に引きずり落としたような存在……。あまりの尊さに、目がくらみそうです。」

まったく遠慮のない賛辞だった。

周囲に控える彼女の眷属たちも、同じような感覚を抱いているようだった。

魔族たちはリードから目を逸らすこともできず、顔を赤らめることも忘れて、息を詰めていた。もっともなことだった。

彼はこの世に混沌をもたらす万悪の支配者。魔族として、畏怖し崇めずにはいられない存在だった。

彼らは混沌の魔王が与えるものであれば、侮辱や軽蔑、嫌悪でさえも喜んで受け入れた。

それは魔族に刻み込まれた、一種の本能のようなものだった。

もっとも、そうした狂信的で盲目的な崇拝は、リードにとってどうでもいいことだった。

「見抜けないか。」

「え?」

「もういい。」

そのとき、サキュバスのメイドたちが本能を抑えきれず、うっとりとした表情で崩れ落ちそうになっているのが見えた。

アナシアは即座に動いた。

「きゃあ!」

鎖が彼女たちを鏡の中へと引きずり込み、掃き捨てるように消し去った。サキュバスの女王でさえ例外ではなかった。

アナシアは城の主らしく、ただ一人の客をもてなした。

「至らぬ点の多い宴ではございますが、どうかお楽しみください。」

「確かに、あまりにも粗末だな。」

「……っ!」

「せいぜい人間の舞踏会の真似事が関の山か。」

アナシアは羞恥に顔を歪め、慌てて弁明した。

「も、もう少々お待ちください。本番は夜の宴にございます。日付が変われば、すべてが一変いたします……」

だが、それもまたリードの趣味ではなかった。

「フェルムステインは由緒ある大魔族の公爵家だろう。伝統に従う気はないのか?」

「伝統……とおっしゃるのですか?」

「昔から魔族は王子や王女をさらって、勇者たちを誘き寄せてきただろう。」

「おお……!」

アナシアをはじめとする魔族たちがどよめいた。

――王族の誘拐!

古くから生きる存在のせいか、その発言には妙な重みがあった。

だが問題もあった。アナシアは気まずそうに指先をもじもじさせる。

「そ、それは確かに昔ながらのやり方ではありますが、今は時代も違いますし……そう簡単にうまくいく方法でもなくて……」

「心配はいらない。」

リードが言い切った、その直後――会場の片側に巨大なゲートが出現し、悲鳴とともに数十人の人間がなだれ込んできた。

あまりにも唐突なダンジョンシンクに、魔族たちは息を呑んだ。

「これが混沌の権能……!」

突然見知らぬ場所に放り出された人間たちは、混乱しながらも即座に戦闘態勢を取った。

「まさか、ダンジョンシンクだと!?」

「この魔力、尋常じゃない!」

「王子殿下と王女殿下をお守りしろ!」

十人にも満たない騎士と侍女たちが円陣を組み、周囲を警戒する。

その中心にいるのは、白金の髪を持つ二十代ほどの男女だった。

リードはアナシアに目を向け、淡々と言う。

「君の“目”を少し借りてみた。好きに扱ってみるといい。」

「……随分と“古典的”なやり方ですね?」

「そうだ。あくまで古典的に、だ。」

そう答えながら、リードは恍惚とした笑みを浮かべた。

その代わりに、混乱をもたらす操り人形へ向けて微笑みを投げた。

彼は自ら出口のゲートを開き、背を向ける。

「宴が始まれば、また来よう。公爵。」

「はい。どうぞご覧くださいませ、混沌の主よ。」

 



 

 

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