大公家に転がり込んできた聖女様

大公家に転がり込んできた聖女様【156話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【大公家に転がり込んできた聖女様】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹...

 




 

156話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 幸せな日常

エスターとドゥヒが急いで我が家へと向かっている頃、双子の兄であるジュディとデニスは、誕生日の準備で大忙しの救護保護施設に一足早く到着していた。

「お二方、いかがですか?」

額に大粒の汗をにじませながら使用人たちにテキパキと飾り付けを指示していた執事のデルバートが、駆け寄って二人を迎えた。

「おお、思ったよりいいじゃないか!」

「さすがデルバートだな」

飾り付けに並々ならぬこだわりを持つデルバートが総指揮を執り、腕を振るった保護施設は、帝都の高貴なパーティーホールにも決して引けを取らない、華やかで見事な空間に仕上がっていた。

「デニス様、どの色が一番お嬢様にお似合いだと思われますか?」

デルバートは最後まで悩み抜いていた水色と赤の布を、それぞれ片手に持って尋ねた。エスターが扉から入場し、皆の盛大な拍手を受けながら主役の席へと続く道を歩く――その床に敷き詰める絨毯の選択だった。

「うーん、水色がいいな。透き通っていて明るい感じが、今のエスターによく似合う」

「普通は王道のレッドカーペットじゃない?」

「古臭いよ、ジュディ。今は色なんて関係ないさ」

ジュディは肩をすくめて言い返したが、デニスの鶴の一声により、床に敷く布は水色に決まった。

「お前、今僕に向かって古臭いって言ったな? じゃあ色は大いに関係あるだろ!」

意見を無視されてムッとしたジュディは、横に置かれていた赤い布を手でぐしゃぐしゃにして八つ当たりした。

「最近の流行りはフラワーロードだよ」

デニスはそんな流行も知らないのかという様子で、参考用にとわざわざ持ってきた分厚い本をパラッと開いた。そのページには、物語の中の主人公が歩く道に、色鮮やかな花がいっぱいに敷き詰められている美しい挿絵が載っていた。

「これ、すごくいいね」

「……うん、いいな」

今回ばかりは珍しく意見が一致したデニスとジュディは、顔を見合わせて満足そうにうなずいた。

「畏まりました。では、お嬢様が歩かれる水色のカーペットの上に、瑞々しい花をたくさん敷き詰めておきます」

「頼んだよ。それから、特製ケーキの準備は?」

デニスの問いに、デルバートは絶対の自信をみなぎらせ、誇らしげに胸を張って拳を握った。

「領地内の高名なパティシエを総動員して作らせております。これまでに誰も見たことのないような、超大型の最高級ケーキができあがりますぞ!」

「いいね!」

ジュディはにやっと笑い、デニスに手のひらを差し出した。デニスは仕方なさそうに、ジュディの手に向かって自分の手をパチンと合わせた。

「ところで、お父様とエスターがいつ来るかって話、連絡はなかった? ちょっと遅いよね」

「ちょうど今朝、無事に戻られたとの伝書鳩が届きましたので、午後にはこの領地に到着されると思います」

「そう? じゃあ、もうすぐだね」

頭の中で到着時間を計算していたジュディは、その場に膝をついて靴ひもをきゅっと結び直した。

「ねえデニス、私たち今から馬に乗って迎えに行かない?」

「どこへ?」

「城門までさ。城壁の上からなら、二人が馬車でやって来る様子が一番に見えるはずよ」

「……いいね」

デニスは本来なら、準備が終わればすぐに自室へ戻って静かに本を読むつもりだった。普段は自分の予定が狂うのを極端に嫌う少年だが、エスターのこととなると、何事もなかったかのようにあっさりと予定を変更してしまうのだった。

「じゃあ、どっちが早く着くか勝負しよう! 勝った方が先にエスターを抱きしめる権利をゲットだ!」

「は? 今から走るの? 毎日騎士団で鍛えているあなたの方が圧倒的に有利じゃ……」

「どう考えても私が勝つに決まってるでしょ!」

デニスが呆れたように叫んだが、すでに臨戦態勢を整えていたジュディは、保護所の外へ向かって風のように走り出していた。

「まったくもう……!」

意外と負けず嫌いなデニスは、手に持っていた本を傍らのテーブルに放り投げると、全速力でジュディの背中を追いかけた。

その後、城門で兄たちと無事に合流して屋敷へと戻ったエスターは、泥のようにぐっすりと眠りについた。

翌日からの二日間は、誕生日の準備で本当に目が回るほどの忙しさだった。出来上がった特注ドレスを何度も試着したり、それに合わせる靴や高価な装飾品を選んだりしているうちに、あっという間に二日の月日が流れていった。

そしてついに、待ちに待った誕生日当日の朝。

「ふぁぁ……」

まだ少し目が腫れぼったいエスターは、窓から差し込む心地よい朝日を浴びながら、ベッドの上で大きく伸びをした。

「まあ、お嬢様! よくお休みになれましたか? ……って、そのお目はどうされたのですか!」

ちょうど部屋に入ってきてカーテンを開けていたドロシーが、エスターの顔を見て驚いて声を上げた。

「それがね……」

エスターは昨夜の出来事を思い出し、呆れたように優しく首を振った。

今日行われる盛大な誕生日パーティーのために、昨夜は早くベッドに入って目を閉じたのだ。しかし、夜の十二時を過ぎて日付が変わった途端、エスターの部屋の扉がギィとこっそり開いた。

『エスター、生まれてきてくれてありがとう』

最初にやって来たのは、きっかり十二時になるのを部屋の前で待っていたデニスだった。

『えっ……寝てると思ってたのに。私のせいで起こしちゃったかい?』

次に、山積みの仕事の合間を縫って息を切らせてやって来たドゥヒ。

『誕生日おめでとう、エスター!』

そして最後は、すでに一度寝ていたところを跳ね起きて、慌てて駆けつけてきたジュディだった。

愛する家族が一人ずつ順番に部屋を訪ねてくるせいで、エスターは夜中にまともに眠ることができなかったのだ。

「お坊ちゃまたちには、昨夜はお嬢様の睡眠を邪魔しないでくださいって、私からちゃんとお伝えしておいたのに……!」

「でもドロシー、お父様も最初に来たお兄ちゃんたちの後に来てたよ?」

大公殿下まで夜襲に加わっていたと聞いて、ドロシーはぐうの音も出ずにぴたりと口を閉じた。

「ふふ、でも眠れなくても、すごく気分がいいわ」

窓を大きく開け放ったエスターは、部屋いっぱいに差し込む眩しい朝日を浴びながら微笑んだ。少しくらい寝不足でも構わなかった。誕生日という日が、こんなにも世界中から祝福される幸せな日だということを、彼女は生まれて初めて知ったのだから。

「では、最高のお支度を始めましょうか?」

「え、もう?」

「もちろんです。お嬢様はいつもお美しいですが、今日は世界で一番美しくお仕立て差し上げます」

ドロシーに急かされたエスターは、眠そうな目をこすりながら浴室へと向かった。

温かい浴槽に浸かりながらうとうとし、その後、侍女たちの手で丁寧なマッサージを受ける頃には、すっかり眠気も消え去って顔色も薔薇色に明るくなっていた。

そのまま部屋に戻ると、今度は衣装室の責任者であるドロレスが、大勢の侍女たちを引き連れて待ち構えていた。

「お嬢様はもともとお肌が透き通るように大変お綺麗ですので、お化粧は本来の美しさを活かして軽めにいたしますね」

ドロレスの指示のもと、エスターの柔らかな肌の上を侍女たちの手が手際よく動いていく。顔を整えられ、同時に髪を結い上げられる心地よさに、思わず再びまどろんでしまいそうになった、その時だった。

「お嬢様、まだお眠いようでしたら、少しお休みになりますか?」

「ヴィクター様! お嬢様がお支度なさっている間は、男性は外でお待ちくださいませと言ったでしょう!」

エスターは、護衛騎士のヴィクターとドロシーが扉の向こうで言い合っている騒がしい声を、ぼんやりと聞いていた。その微笑ましいやり取りを聞いて、エスターはくすくすと声を立てて笑った。

「二人とも、すごくお似合いだと思うな」

「えっ!? お、お嬢様、私が生涯をかけてお慕いしているのはお嬢様お一人だけです!」

「まあヴィクター様、何をおっしゃっているんですか! あんな乱暴者と私が、お似合いだなんて滅相もありませんわ!」

強い否定は強い肯定とも言う。ドロシーとヴィクターが顔を真っ赤にして照れている様子は、見ていてなんだかとても心が温まるものだった。

「お嬢様、髪が整いました」

「お化粧も終わりましたわ」

鏡を覗き込むと、エスターの髪はふんわりと品よくまとめられ、高い位置で華やかに結い上げられていた。細い絹のリボンが、彼女の耳元でやさしく揺れている。

「では、いよいよドレスをお召しになりますか?」

エスターがそっと両腕を広げると、侍女たちは細心の注意を払いながら、ハンガーにかけられていた純白のドレスを彼女の身体へと着せていった。

「窮屈なところはございませんか?」

「うんとね、ぴったり」

「素晴らしい……! 私が魂を込めて作ったものですが、本当にお美しくて言葉が出ませんわ……!」

ドロレスは深く感動した声で、両手を合わせて言った。

エスター自身も、これまで過去の人生で着てきたどの高級なドレスよりも、今回新しく仕立ててもらったこのドレスが一番気に入っていた。本物の宝石がびっしりと精巧に散りばめられたスカートは、彼女が身体を動かすたびに朝日の光を反射し、まるで光り輝く滝のように美しく広がった。

「そうそう、これはレイナ皇女殿下からの直々の贈り物ですわ。パーティー直前までサプライズにしておこうと思いまして」

ドロレスは急いで、上品なベロア調の箱を取り出した。中には、エスターの小ぶりな頭飾りにちょうどいい、繊細な細工のティアラが入っていた。

「これを皇女様が……? 後で必ず、丁寧にお礼をお伝えしないといけませんね」

手先の器用な侍女が、エスターの美しい髪の上にそっとそれを飾った。

エスターはあらかじめ合わせておいたアクセサリーと靴まで全て身につけ、少し考えたあと、自分の机の引き出しを開けた。

「ネックレスは……お母さんのじゃなくて、私の、これにする」

ノアから贈られたあの特別なネックレスで仕上げをしたエスターは、鏡に映る完璧な姿を見つめながら、満足そうに微笑んだ。

長く感じていた支度の時間も、いざ始まってみればあっという間に過ぎていった。エスターはドロレスと支度を手伝ってくれた全ての侍女たちに丁寧にお礼を伝えると、そのままゆっくりと階段を下りた。

一階の居間でそわそわしながらエスターの登場を待っていたジュディとデニスが、彼女の姿を見るなり同時に駆け寄ってきた。

「わあ……! うちの妹、最高に綺麗だよ!」

「うん。今日に限っては、間違いなく帝国で一番綺麗だな」

「ええ? そこまでは……」

「いや、私もそう思うぞ。我が娘が、このオスティン帝国で――一番綺麗だ」

いつの間にこんなにも饒舌で親バカになったのか分からない、ドゥヒの最上級の褒め言葉まで聞きながら、エスターは四方に大きなガラス窓がついた、デルバート公爵家の豪華な馬車へと乗り込んだ。

そして驚いたことに、馬車が屋敷を出て保護所へ向かう道のあちこちには、領地中から集まった領民たちが隙間なく集まり、エスターの行列を今か今かと待ち構えていたのだ。

「こんなにたくさんの人がいるの、初めて見た……」

以前、ジュディやデニスの誕生日の際にも盛大な行列はあったが、今日の規模はそれよりもはるかに多い人数だった。エスターは少し恥ずかしそうに頬を染めながらも、自分に向けて温かい歓声と祝福を送り続けてくれる人々に、窓から小さく手を振って応えた。

「それだけ、うちの妹がみんなから深く愛されているってことさ。この保護所で、誰よりも一生懸命に働いていたのを、領民たちはみんな知っているからね」

「そうだな。エスターが、あの恐ろしい伝染病からみんなの命を救ってくれたんだし」

ジュディとデニスの誇らしげな言葉に、ドゥヒも静かに深くうなずいた。

「テレシアで一番愛されているのは、他でもない私の娘だ」

「お父様、エスターは我が家の福の子です。いや、テレシアだけじゃなく、オスティン帝国全体の『福の子』ですよ」

家族からの絶え間ないお褒めの言葉に、顔がカッと熱くなってこれ以上聞いていられなくなったエスターは、小さな手で顔をパタパタとあおぎながら顔を上げた。

窓の外の、雲一つないどこまでも澄み切った青空を見上げていると、不思議と緊張が解け、気持ちが少し楽になった。

(私も、みんなを祝福してみようかな)

避けられない主役の座なら、いっそこの幸せな状況を全力で楽しもうと決めたエスターは、馬車の窓から両腕を外へと広げた。

彼女が右手にそっと聖力を集めると、その純粋な光に呼応するかのように、風に乗って道に撒かれていた大量の花びらが一斉に宙へと舞い上がった。そして、大勢の人々の間を優雅にくるくると舞い踊りながら、まるで美しい「花の雨」のように領民たちの上へと降り注いだ。

「おお……! さすが、我らの“光の子”だ!」

「聖女様! 生まれてきてくださって、本当にありがとうございます! これからもずっと、私たちのそばにいてください!」

エスターが主役の待つ保護所に到着するまで、人々の鳴り止まない歓声と愛に満ちた祝福の声は、途切れることなくどこまでも続いた。

保護所に着いたエスターは、宴が正式に始まるまでの間、しばらくの間、一般の参列者から身を隠すことになった。

神官たちが普段使っていた空き部屋もあったが、彼女はまだ聖花が綺麗に咲き誇っている大温室へと足を向けた。

「はあ……どうしてこんなに緊張するのかな」

これまで何度も人生を繰り返してきたとはいえ、パーティーの主役としてこんなにも祝福されたことが一度もないエスターは、そわそわして落ち着かず、温室の中を何度も歩き回った。

そのとき、温室の外から突然、ドタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。まるで男たちが小競り合いをしているかのような物音に驚き、エスターは慌てて外の様子を見に駆け出した。

「どうかしましたか?」

そっと白い扉から顔をのぞかせてみると、そこにはセバスチャンとジュディが子供のように取っ組み合いになっていた。

「セバスチャンお兄様?」

「うん! 僕だよ、エスター!」

ようやくジュディの拘束から解放されたセバスチャンは、ぱっと顔を輝かせ、にこっと満面の笑みを浮かべてエスターの方へ駆け寄ってきた。

「ジュディの奴が、僕を中に入れてくれなくてさ」

セバスチャンは、後ろに隠し持っていた見事な大輪の薔薇の花束をエスターに差し出した。

「お誕生日おめでとう、エスター」

「わあ……! すごく綺麗。ありがとうございます、セバスチャンお兄様」

ドレスアップしてさらに美しく大人びたエスターの目をまともに直視できず、セバスチャンは耳を真っ赤にして少しぎこちなく身を縮こまらせた。

「そ、その……今日のダンスのパートナーって、もう決まってる?」

特に自分が踊ることなど考えていなかったエスターは、きょとんとして小首を傾げた。

「今日はダンスがメインの夜会じゃないので、特に決まったパートナーはいりませんよ?」

「そ、そうなんだ……?」

「はい!」

ジュディがわざわざ体で止めに入らなくとも、エスターの本人気づかぬ冷たい壁に阻まれたセバスチャンの表情は、一瞬にしてすっかり暗く落胆したものになった。

「お兄様、大丈夫ですか? 急に顔色がすごく悪くなりましたけれど……」

「う、うん……大丈夫……」

大好きな花束を大事そうに抱えたエスターの姿は、今日に限ってはさらにセバスチャンの「理想の聖女」そのものだった。セバスチャンは、悔し涙を浮かべた目でエスターの神々しい姿を必死に網膜に焼き付けた。

「セバスチャン、僕の妹に変なくだらない下心を抱かないでって言ったでしょ? ほら、もう行くよ」

「ちょっと待てよジュディ! 今日はジェニーも連れてきたんだ。挨拶くらいさせてくれよ」

セバスチャンは、一歩後ろで侍従に預けていた小さな妹の手を引いて戻ってきた。

エスターの聖力のおかげで、今では支えがなくても一人でしっかりと歩けるようになったジェニーは、セバスチャンの大きな足の後ろに恥ずかしそうに隠れながら、エスターをじっと見つめた。

「もう、立派に一人で歩けるようになったのね。ジェニー、私のこと覚えてる?」

エスターが優しく屈み込むと、ジェニーは丸い目をパチパチさせ、やがて思い出したように顔を輝かせた。

「……! きれいなおねえちゃん!」

ジェニーはぽっちゃりとした両腕をいっぱいに広げ、抱っこしてほしそうにしながらエスターを見てにこにこと笑った。きらきらと輝く純白のドレスが気に入ったのか、それともエスター自身のことが大好きなのか分からないまま、ジェニーはタタタと駆け寄ると、エスターのドレスのふんわりとした裾の中にすっぽりと入り込んでしまった。

エスターはそんなジェニーのあまりの愛らしさにどうしていいか戸惑い、後ろにいたジュディも口元を優しく押さえて笑いをこらえた。温室の中をちょこちょこと楽しそうに歩き回るジェニーの無邪気な姿を見ているうちに、エスターの心の緊張も、いつの間にか少しずつほぐれていった。

しばらくして、エスターは皆を一度外に出し、再び一人で静かな温室に残った。

そのとき、コンコンと静かなノックの音が響き、扉を開けたドロシーが、皇太子ノアが面会に訪れたことを伝えてきた。

「すぐにお通しして」

エスターは嬉しそうにドアの方へと歩いていき、彼を迎えに向かった。

木製のドアを開けると、そこには見違えるほど立派な正装に身を包んだノアが立っていた。

「来たの、ノア?」

「うん。ちょうどいい時間に来られたかな?」

自分の身体に完璧に仕立てられた最高級の礼服に身を包み、いつもは無造作な金髪まできちんと整えたノアは、今日という日のためにかなり気合を入れて準備してきたのが一目で分かるほどだった。

「そのドレス、すごくよく似合っているよ。……なんだか、まぶしすぎて真っ直ぐ直視できないな」

「もう、からかわないで」

「本当だよ」

「……ノア、あなたも今日は、すごくかっこいいよ」

エスターとノアはお互いの完璧な姿を褒め合いながらも、急に恥ずかしくなってしまい、しばらくの間、まともに目を合わせることもできずにぎこちなく視線を泳がせた。

「……あ、僕があげたあのネックレス、今日つけてくれてるんだね」

先に我に返ったノアは、そっとエスターとの距離を詰めると、彼女の白い首元に光る細い鎖を見て、少し照れたように、けれど嬉しそうに目を細めた。

「今日の特別な服に、一番合いそうだと思ったからつけてみたの」

「うん、すごくいい選択だ。お前にとてもよく似合っている」

ノアは満足そうに笑いながら、ずっと背中に隠していた、深紅のチューリップの美しい花束を前に差し出した。

「はい。誕生日おめでとう、エスター」

「きれい……! ありがとう、ノア」

エスターが花束を受け取ってにっこりと微笑むと、ノアは素早く周囲を見回し、テーブルの上に置かれた別の大きな花束を見つけた。

「あの薔薇の花、誰がくれたの?」

「セバスチャンお兄様が、お祝いにって」

「……またあいつか」

ノアはむっとした様子で眉をひそめると、セバスチャンの大きな花束を、できるだけエスターの視界から遠ざけるように自分の足の先でぐいぐいと部屋の隅へ押しやった。

「ねえ、エスター。前に僕と皇宮の庭で約束したこと、覚えてる?」

「どんな約束だっけ?」

「次に夜会があったら、一緒に踊ろうってやつさ。今日、僕があなたの最初のパートナーになってもいい?」

ノアは許しを乞うように、捨てられた子犬のような潤んだ瞳でエスターをじっと見つめた。

「どうしよう、ノア。今日はお父様とお兄ちゃんたちと、形式的に軽く踊るくらいで終わる予定なんだけど……」

「そうなんだね……」

ノアのどこか寂しそうな、あからさまに落胆した表情がどうしても気になり、エスターは自分の小さな小指を彼に向かってそっと差し出した。

「その代わり、今日が終わって、次の本格的なパーティーの時は……絶対にあなたと一番に一緒に踊ろう」

「……約束だよ?」

エスターの指に自分の指を優しく絡め、ノアは先ほどまでの不機嫌さが嘘のように、とても満足そうに幸せに微笑んだ。

その時だった。

ドロシーが再び、トントンと静かにドアをノックした。

「お嬢様、そろそろ主役のご入場の時間でございます」

「あ、もうそんな時間……」

ドロシーの声を聞いたノアは、「それじゃあ、私は先に行って会場で待っているね」と言い、去り際にエスターの耳元へと顔を寄せ、急いで囁いた。

「パーティーの途中で、もし退屈になったり疲れたりしたら、こっそり裏の庭園に出てきて。二人だけで、ゆっくり話したい大切なことがあるんだ」

「二人だけ? ……うん、わかったわ」

エスターは、ノアが一体自分に何を話すつもりなのかをあれこれと考えながら、彼から手渡されたチューリップの、ほのかに甘い香りを愛おしそうにそっと吸い込んだ。

 



 

  • 1. 盛大な祝福と「福の子」としての愛

    エスターの誕生日に向け、公爵邸の家族や使用人、そして領民たちが総出で華やかな準備や歓声で彼女を祝福し、彼女が人々から心から愛されている存在(福の子・光の子)であることが描かれています。

  • 2. 家族や周囲の人々との心温まる交流

    前夜遅くに一人ずつ部屋を訪れて祝福した父や兄たちをはじめ、身支度を手伝う侍女たち、挨拶に訪れたセバスチャンと幼いジェニーなど、周囲の人々のエスターに対する深い愛情や温かいやり取りが描写されています。

  • 3. 皇太子ノアとの特別な約束と絆

    ノアから贈られたネックレスを身につけて現れたエスターに対し、ノアはチューリップの花束を贈り、次のパーティーでのダンスの約束を交わすとともに、宴の後に「二人だけで話したいことがある」と庭園へ呼びかけます。

 

 

 

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