こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
174話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 仮面のない世界
数日後、ノアのもとにクラリスからの返書が届いた。
『ノアへ。
葬儀を無事に終えられたと聞き、安堵しています。もちろん――ああ、師匠はきっとお母様を温かく迎えてくださるはずよ。私はその方に直接お会いしたことはないけれど、ノアから聞いた話が少なくないから、そう言い切れるわ。
私が紙で作った花を一緒に送ったけれど、ちゃんと届いたかしら。本当は生花を送りたかったけれど、魔法使いの城へ向かう途中でしおれてしまったらと思って、そうできなかったの。もしよければ、お母様のお墓の前に供えてくれる? どんな色がお好きか分からなかったから、とりあえず空色で花束を作ったの。他の色はともかく、空色ならきっと気に入ってくださる気がして。
ユジェニに、ノアが悔やんでいたことも伝えておいたわ。でも、それは王子様のために下した決断じゃないから、決して誤解しないでほしい、とも言っていた。それから最近、ユジェニはクエンティンおじさんに少しずつ懐いているの。おじさんは、ユジェニが本当によくやっているって、毎日のように感心しているわ。もしかしたらそのうち――ユジェニがセリデン公爵家で働くことになるかどうかは、まだ分からないけれど。
それから……私を安心させようとしてくれて、ありがとう。まだ自分に選択権があるという事実は嬉しい反面、なぜだかノアに対して申し訳ない気持ちもあるの。あの時、魔法使い団に嘘をつかせてしまったような気がして……。これから先、どうするのが一番いいのか。その答えは、私自身で出すつもりよ。ノアが言ってくれた通り――今回は、本当に私に選択権が与えられたのだから。どちらの道を選ぶことになっても、決めたら、きちんとノアにも話すわね。
……それからね。こんな話をしていいのか分からないけれど。これから話すことは、新しい魔法使い団長には、どうか内緒にしてほしいの。もし知られてしまったら、また魔法使い団と王室の関係が悪くなってしまいそうで……。――分かってくれるわよね?
公爵様が、王宮で密かに保管していた魔法書を私に送ってくださったの。過去に魔法使いたちと交流があるたび、こっそり一冊ずつ抜き取って保管していたものらしいわ。もしかすると公爵様は、私が魔法に強い関心を持ち始めていることに気づいていたのかもしれない。やはり、こんなものを送るべきではなかった気もしていて……手紙を書き直すべきか悩んでいるところ。――秘密、守ってくれるわよね?
これまで私が見てきた魔法使いたちを思うと、新しい団長もきっと王宮に敵対的で、何事にも保守的な人物なんじゃないかと思うの。それでも、その本を読んでいるうちに、なぜかますます魔法に興味が湧いてきたの。正直、何を言っているのか分からない部分のほうがはるかに多いけれど。
想像だけど、ノアならきっとこの手紙を読んで、「僕に聞けばいいのに」と思ったでしょうね。でも、しばらくは「一人で」考えながら――理解しようとしているの。“淑女”って、何でも「一人で」やってのけられるくらい、自立していて、しゃんとした大人の女性のことを言うでしょう? だったら、友だちの家へ行くくらい、当然「一人で」できなくちゃね。
ノアが次の返事に、またあれこれ小言を書き連ねてくるんだろうなって、もう目に浮かぶわ。
……あ、それから。母が遺してくれた言葉、本当は直接会って伝えたかったんだけど、ノアは忙しそうだから仕方ないわね。手紙に書いておくことにするわ。
団長の部屋に掛かっている肖像画の裏を見れば、金庫があるはずだって、母が言っていたの。その中に、大切なものを残してあるそうよ。でも、その金庫は代々、魔法使い団長しか開けられない仕組みらしくて……だからたぶん、ノアが新しい団長さんにお願いしなきゃいけないと思う。どうか、その方がノアの頼みを気持ちよく聞いてくれる人でありますように。
中に何が入っているのか、気になって仕方ないの。前の手紙で、ノアはそれを私に送ってくれるって言ってくれたものね。お母様の大切な品を、私が受け取っていいのか分からない。特に魔法書なんて、この世のどんなものとも引き換えにできない宝物でしょう。本当に、私にくれるの?
少し不安ではあるけれど……ノアがくれるというなら、私は何でも喜んで受け取るつもり。でも、もし気が変わって、やっぱり私には渡したくないと思ったとしても、恨んだりはしないわ。だから、返事を待つね。
一番目の友だち、
クラリス
――追伸。ベルビルさんのインタビュー第2弾が出たから、一緒に送るね。ノアが切り抜いてくれたなら、本気でうれしいわ。』
「うん」
ノアは封筒の中に残っていた新聞の切れ端を、丁寧につまみ上げた。
『勉強は基礎書中心に。運動と休息を十分に。修道院での生活は大きな助けになる』
そう書かれた大きな文字の下には、言い訳めいた言葉がびっしりと並んだ、インタビュー全文が記されていた。ノアは目を細め、それを無理やり読み終えると、席を立った。
――「団長の部屋に掛けられた肖像画」。
彼は背後を振り返る。美しいクリーム色の大理石の壁、その中央には、金縁で縁取られた肖像画が掛かっていた。それを取り外すと、そこには本当に小さな金庫が姿を現した。
少し調べてみると、基本的には保存魔法が施された品であるらしい。
ノアは、そっと金庫の上に手を置いた。
――カチリ。
錠がひとりでに外れ、手を触れただけで扉が開く。金庫の中に収められていたのは、手のひらにすっぽり収まるほど小さな、木製の箱だった。丁寧に磨かれた表面には、ある芸術家が刻み込んだかのような、規則正しい文様が走っている。そして側面には、「A」と「NO」という文字が小さく刻まれていた。――その箱を作った工房の名である。
それは、指輪か、あるいは誰かの髪飾りのようにも見えた。ノアは、この美しい小箱の中には宝石が入っているのだろうと予想した。母が直接書き残した魔法書ではないという点は少し残念だったが、鉱物であること自体は悪くない。母の鉱物であればきっと多くの知恵を宿しているはずだし、クラリスの助けを借りれば、その話をすべて聞くこともできるだろうから。
どんな鉱物なのだろう? 彼は理由もなく期待に胸を躍らせながら、木箱のふたをかちりと開けた。
「……」
そしてしばらく、その場に立ち尽くしたまま、中をじっと覗き込んだ。
「……これは……」
鉱物だった。それも、美しい淡い桃色のダイヤモンドだった。宝石について詳しいわけではないノアにも、今、手の中にあるものが――とてつもなく高価な品であることだけは、はっきりと分かった。
彼は窓辺へと歩み寄る。精緻に研磨された小さな表面から、砂金のような光が、魔力を帯びて零れ落ちていた。
箱の中には、もう一つ別の鉱石も収められていた。どうしても、淡い紅色のほうに先に目を奪われてしまい、ノアはそればかりを見つめていたのだが――もう一つは、深い青色の宝石だった。種類までは判別できないが、大きさも形も、研磨の施され方も、紅色のダイヤモンドとまったく同じ。
「つまり……これは……」
母が遺してくれた“財産”と考えていいのだろうか。宝石は確かに資産だ。そう捉えるのも、あながち間違いではない。
ただ一つ、問題があるとすれば――それは、この宝石の“形”だった。どれもこれも、いかにも高価そうな宝石でありながら、すべて金で作られた輪が付けられている。
――いわゆる、「指輪」だったのだ。
それでも、ここに指輪が残されていたということは――。
「ああ……」
ノアは、なぜか腑に落ちるように、母の置かれていた状況が分かった気がした。少し飛躍しているかもしれないが、間違ってはいないと思えた。
おそらく、彼女が戦争へ向かうことを決めた時、父はすでにこの世にはいなかったのだろう。だからこそ、二人の想いが込められた指輪をこんなにも美しい箱に収め、共に残したのだ。これだけは、決して引き離されないように。
それは、とても悲しい事情だった。だが一方で、ノアはどこか誇らしい気持ちも覚えていた。
彼は長い間、自分は「母の過ち」という呪いを背負って生まれた、出来損ないの子だと思い込んでいた。しかし、それは真実ではなかった。彼は、この宝石以上に、二人が深く、確かに愛し合っていた証だったのだ。それに気づいただけで、ノアは以前よりも、ずっと自分に自信が持てるようになっていた。不思議なものだ。
彼はふと嬉しくなり、箱の中から指輪を取り出してみた。サイズを見る限り、淡い紅色の宝石は母のもの、青い宝石は父のものだったのだろう。陽光にかざすと、青はどこか母やノア自身の髪色を思わせる色合いを帯びていた。
――だとしたら。両親は互いを思い浮かべながら、それぞれ相手の色を宿した宝石を選び、分け合って身につけていたのだろうか。
ノアは、紅色の宝石を指先で転がしながら見つめた。
「……どうして母さんと僕は、こんなにも紅色に惹かれるんだろう」
もちろん、それも彼の推測にすぎず、確かなことではない。
――けれど。
「この指輪を、あの子に渡せば……もう少し、詳しい話が聞けるかもしれないな」
そう考えたノアは、しばしその場で立ち止まった。
何かがおかしかった。彼は、先ほど頭に浮かんだ言葉をゆっくり反芻した。
「……つまり、俺が……少女に指輪を渡すってことか?」
ぱっと顔が熱くなった。
「い、いや、そういう意味で渡すわけじゃないぞ!」
ノアは慌てて自分を叱った。顔を赤くするような話ではない。あくまで、クラリスに“母が残した鉱石”を託す、それだけのことだ。彼女は、この宝石に込められた意味を理解できる、唯一のゴーレムマスターなのだから。
「でも、指輪を渡したら、クラリスも俺に別の下心があるって誤解……いや、それはないか」
ノアは自嘲気味に笑った。クラリスは、彼に対して理性的な関心すらほとんど持っていない。そんな誤解をするはずがなかった。むしろ――「わあ、宝石が二つもある!」などと、無邪気に喜ぶに違いない。楽しさに任せて、彼女たちとの会話に夢中になってしまいそうだ。
「それに、あの少女は……」
ノアは、できることなら思い出したくなかった時間を、無意識に掘り起こしてしまった。彼が衝動のままに想いを告げた、あの日。その時、クラリスはこう言ったのだ。
――特別な人がいる、と。
「…………」
いったい、誰のことなのだろう。クラリスの周囲にいる人物を片っ端から思い浮かべてみたが、その中にこれだと確信できる存在は見当たらなかった。
ただ一つ、はっきりしているのは――その男についてノアが知っていることは、たった一つだけだ。クラリスが死を目前にしていると知りながら、それでも彼女の意思に従い、何もしないと答えた人物である、ということ。
「どうして、あんな頼りない人を好きになるんだ…………本当に、最悪だ」
ノアは、理由も分からぬまま、なぜかクラリスのことを羨ましく思っていた。
――だがすぐに、そんな卑屈な嫉妬心を抱いた自分を、強く戒めるのだった。
ともあれ、名も知らぬその人物がクラリスの意図をよく汲み取ってくれたようで、結果的には良かったのかもしれない。相手は彼女の衝動的なところも、せっかちな性格も、すべて楽しそうに受け止めてくれるだろうから。何かと小言から入るノアとは、そこが違う。
彼は指輪を再び箱に戻した。
「わあ、団長! これ見てください!」
突然扉が開いたため、ノアは驚いて反射的に指輪の箱をローブの内ポケットへ滑り込ませた。
彼のもとを訪れたのは、灰色のローブを着た九歳ほどの少年だった。少し前に孤児院から、魔法使いの塔へ連れて来られた子どもである。
孤児院では子どもたちを番号で管理していたため、少年は独特の張りのある声でこう名乗った。
「僕は十三です! 名前はないけど、性格はめちゃくちゃいいんですよ!」
きちんとした挨拶を交わし、魔法使いとしての生活が始まった。
新たな団長となったノアは、身体をすくめるようにして立つ、ひどく痩せた少年を温かく迎え入れた。
少年は目をきらきらと輝かせ、ノアの被っている猫の仮面を見つめ――
「うわ、すげえ!」
そう叫ぶなり、勢いよくその仮面を引っ張った。
少年はノアの仮面を自分の顔に当て、無邪気に楽しそうに笑った。ノアは片手を伸ばしたまま、呆然とその仮面を見つめていた。
やがて仮面が外れ、露わになった彼の素顔へ、無数の視線が一斉に突き刺さる。この場に集まった魔法使いたちは、もはや少年ではなく、ノアだけを見ているようだった。
ノアは、その瞬間の羞恥を忘れない。不特定多数の前で、素顔を晒すことになるとは……。
「ねえ、その仮面ちょうだいよ! 本当にかっこいい!」
少年はそんなことまで言いながら、ノアに――こうして成り行きのままに、彼は否応なく、心優しいその少年の師となることになった。人に教えることに慣れていないとはいえ、少年が何度もノアのもとを訪ねてくる以上、どうすることもできなかったのだ。
彼は腹をくくり、少年を引き受けるという決意を込めて、その子に名を与えた。
「ヨナ。」
その名は、ノアにとって特別な意味を持っていた。幼い少年にこれほど重みのある名を授けたのは、彼がこの地に根を下ろし、穏やかに生きていってほしいと願ったからだった。同時にそれは、師であるヨナ・アストがノアに遺した、すべての精神的な遺産を、この少年に託すという彼自身の覚責の表れでもあった。
新しい名で呼ばれると、少年は跳ねるように転がるのをやめ、照れくさそうに笑った。その名を嫌がらなかったことに、ノアはほっと胸をなで下ろす。
「団長じゃない。師と呼びなさい。」
「えへへ。師匠。」
「何の用だ?」
「あ、手紙です。手紙が届きました。入口で、僕が受け取ってきました」
少年はノアのもとへ小走りに近づき、両手で手紙を差し出した。褒めてもらいたいのだろう。そう察したノアは腰を落とし、目線を合わせると、昔師にしてもらったように、優しく少年の頭を撫でてやった。少年は、へへっと照れたような笑みをこぼす。ここ数日で、すっかり情も移ったのか、なかなか愛らしく思えた。
「ありがとう」
ノアが礼を言いながら手紙を受け取ると、少年はぱっと顔を上げ、憧れを隠しきれない眼差しで、彼の仮面を見つめ始めた。
「…………」
この前の一件で、きつく叱られて以来、勝手に仮面を持ち去ることはなくなったものの――それでも、被りたくて仕方がない様子は、ありありと伝わってくる。
「…………あまり、いい癖じゃないな。それでも欲しいのか?」
「はい! かっこいいです!」
ヨナは両拳をぎゅっと握りしめ、声を張り上げた。
「ぼくは師匠の弟子ですから。師匠と同じ仮面をつけて、北の魔物たちと戦います!」
「その覚悟は立派だが……本当に仮面をつけなければならないのか?」
「仮面はかっこいいです! 背が高く見えますし!」
「だが、そんなふうに仮面をかぶしてまえば、この世界をきちんと見ることができなくなる……」
そこまで言いかけたノアは、ふと口を閉ざした。幼いころ、師からかけられた言葉が脳裏によみがえったのだ。
『お前が顔を隠すことを勧めはしない。だが、せめて世界だけは、まっすぐに見なさい。』
これまで仮面は、ノアが顔を上げて生きるために欠かせないものだった。だが今は、仮面がなくとも顔を上げられる気がしていた。それでもなぜか、言い知れぬ気恥ずかしさが胸に残っていた。そのため、彼は今もなお、自分自身を仮面の内に隠していた。――そのほうが、ずっと楽だからだ。
素顔をさらせば、自分の表情の一つひとつが相手に伝わってしまう。感受性の鋭い人間であれば、その奥に潜む感情まで見抜いてしまうだろう。
「……正直なところ、仮面っていうのは、臆病者が被るものなんだ」
彼は、ゆっくりと仮面を外した。
「でも、師匠は臆病なんかじゃありません!」
少年がすぐさま言い返し、ノアは気まずそうに笑った。
――彼は、臆病者だった。今でも、仮面なしで生きていく未来を思うと、胸が締めつけられるほどに怖くなる。
「だからこそ……そうならないように、努力するしかないんだ。俺も、いい見本にならないとな」
次の瞬間、仮面は短い炎に包まれ、あっという間に燃え尽きて、跡形もなく消え去った。
「……あ」
少年のことは惜しかったが、それでもノアの胸には、どこか晴れやかな気分が残っていた。
「それにしても……少し前までは、いったいどんな手紙が来たんだと、あんなに騒いでいたのに……」
ノアは、ずっと手にしたままだった手紙を、ようやく見下ろした。
セファス王室の紋章が押された金色の封筒で、開いてみると、中には招待状が入っていた。
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亡き母の遺品と自身の秘密
ノアはクラリスからの手紙をきっかけに、魔法使い団長の部屋の金庫から亡き母の遺品である「桃色と青のダイヤモンドがついた一対の指輪」を見つけ出します。その存在から両親の深い愛を感じ取ったノアは、自分自身に自信を持てるようになり、その指輪をクラリスに託そうと考えます。
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新たな弟子「ヨナ」との出会い
団長となったノアのもとに「十三」と呼ばれる孤児の少年が訪れ、ノアは彼を弟子として引き取り、亡き師の名である「ヨナ」を授けます。ヨナとの関わりを通じて、ノアは指導者としての覚悟を固めていきます。
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仮面を捨て、素顔で生きる決意
ノアの仮面に憧れるヨナとの会話の中で、自分自身が感情を隠す「臆病者」であったことに気づいたノアは、素顔で世界と向き合う決意を固めて仮面を燃やし、手元に届いたセファス王室からの招待状を開きます。