こんにちは、ちゃむです。
「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

101話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 肖像画
ドフィンが皇宮での会議に出席し、家に戻ってきたのはすでに夜遅くになってからだった。
彼は到着するなり書斎に行き、執事のデルバートを呼びつけた。
「それで、子どもたちは何事もなかったか?」
どんなに疲れていても、子どもたちに関する報告を聞かないと安心して眠ることができなかった。
数日間家を空けている間、彼らがどれだけ気がかりだったかは言うまでもなかった。
「はい。ジュディ様は剣術を学ぶのに夢中でお時間が足りないほどで、デニス様はいつものように図書館に籠もっておられました。そして、エステルお嬢様はよく食べ、楽しく過ごしておられました。」
そのほかに貧民街へ行った件があったが、それについてはエステルが自ら話すと頼んだため、報告しないようにとの要請があった。
「そうか。」
ドフィンは子どもたちの近況を聞いてようやく安心し、表情を緩めた。
その間に心配は完全に和らいだ。
追加でいくつかの報告を終えたデルバートが書斎を出ると、前で待機していたベンが中へ入ってきた。
「殿下、少し前に届いた情報をお知らせしたく参りました。」
ベンの表情がただならないものだったため、ドフィンはソファに寄りかかっていた体をゆっくりと起こした。
「何のことだ?」
「昨年追跡を命じられたルシファーをご記憶でしょうか?」
その名を聞いた瞬間、ドフィンの目つきが鋭く変わった。
「見つけたのか?」
以前聞いたことのあるルシファーという男は、エステルを初めて貧民街に連れて行った人物だった。
「まだ発見には至っていませんが、手がかりは見つかったようです。」
ベンは手にしていた紙をドフィンに差し出した。
そこには貧民街で身を隠していたルシファーが、しばらくの間身を寄せていた盗賊団についての情報が書かれていた。
「時期やノパが言っていた特徴とすべて一致しています。特に、酒を飲むと貧民街での所業を自慢していたそうです。」
「それなら確実だ。だが、まだ見つからないのか?」
「はい。その盗賊団が壊滅した後、別の仕事を紹介されて傭兵になったそうです。」
かなり具体的な情報だった。
ある程度の手がかりがつかめたことで、追跡を進めればいずれ捕まえられるのは時間の問題のように思えた。
「傭兵か。まあ、よかった。最後まで追跡を続けろ。」
「わかりました。」
ベンが出て行った後、気持ちが動揺したドフィンは、手元の酒杯をいじりながら机の引き出しを開けた。
そこにはノパから奪い取ったネックレスがシルクに丁寧に包まれた状態で収められていた。
シルクを解くと、細工の精緻なピンクダイヤモンドが現れた。
ネックレスを手に取り、光にかざして眺めていたドフィンは、何か思い出しかけたような、不思議な感覚に襲われた。
『どこかで見覚えがあるな。』
思いもよらない場所でこのネックレスを見た記憶があるようで、ドフィンの眉間にしわが寄った。
「どこで見たんだ?」
そう言いながら慎重に記憶をたどっていると、ノックの音が聞こえ、扉がゆっくりと開かれた。
ドフィンは急いでネックレスを引き出しにしまい、誰の許可もなく入ってきた来客を見つめた。
「お父様、私です。」
扉を開け、そっと顔を覗かせたのはエスターだった。
ドフィンの口元に一瞬、穏やかな微笑みが浮かんだ。
「入っておいで。」
エスターを見るや否や、ネックレスの謎を解明しようとしていた努力は一旦忘れられた。
小走りで部屋に入ったエスターは机の前に立ち、可愛らしく微笑みながら丁寧に挨拶した。
「どうしたんだ?」
「馬車の音が聞こえたので。」
眠れずにうずうずしていたところ、馬車が帰ってくる音を聞きつけ、ベッドから飛び起きたのだ。
会議に行っていたドフィンにノアの消息を聞きたかったが、それを表には出さず、ただ会いたい一心で部屋にやって来たのだった。
そのようなエスターの気持ちを知らないドフィンは、彼女を見つめて微笑んだ。
エスターはお父さんにどう話しかけていいのかわからず、少し戸惑っていた。
「こっちにおいで。」
小さな椅子を引っ張ってきて、エスターを自分の隣に座らせた。
そうして近くにいる彼女をじっと見つめながら、最近の出来事について尋ねた。
「お兄ちゃんたちとは仲良くしてた?」
「はい。あっ!この前、お兄ちゃんたちと領地の南の方に行ってきました。そこに貧民街があったんですけど……。」
椅子が高くて足が床に届かないエスターは、ぶらぶら揺らしながら一生懸命に話していた。
ドフィンはそんな彼女の姿を微笑ましく見守りながら、徐々に表情が柔らかくなっていった。
エスターが言及した場所は、神殿が運営する救護施設のある地域だ。
最近は災害が頻発しており、その地域にまで気を配る余裕はなく、直接足を運んで見回る時間も取れていなかったのだ。
神殿に救護金を送ることで代わりにしていたが、話を聞いてみると全く関心がないわけにはいかないようだった。
目を細めていたドフィンはまず表情を和らげ、エスターを褒めてやった。
「次は私も直接行ってみなければならないな。よく頑張ったね。」
誰にも命じられていないことを、エスターと双子たちが自主的に行ってきたことが感心され、彼は頭を撫でてやった。
エスターはドフィンの手の温もりを感じながら、少し恥ずかしそうに微笑んだが、慎重にノアに関することを尋ねてみた。
「皇太子は決まったのですか?」
同時に頭を撫でていたドフィンの手がぴたりと止まり、その指が硬直した。
誰が皇太子に選ばれたのかが気になったのではなく、ノアがどうなったのか知りたがっていることは当然の推測だった。
「まだだ。第七皇子が支持を多く得たが、やはりその資格について議論が多くてね。」
エスターの目が大きく見開かれた。
「それではどうなるのですか?」
「わからないな。とりあえず保留状態だが、すぐに公文が下りるだろう。」
とっさにエスターの表情も深刻になった。
一連の出来事がうまく解決していないように感じられたのだ。
その変化を見逃さなかったドフィンが目を細め、しばらく彼女を見つめた。
「ノア皇子が心配か?」
「え?そ、そんなことありません。」
エスターは誰が見てもぎこちなくなるほど顔を赤らめ、目をそらしながら話題を変えようとした。
ちょうど机の上に書類が乱雑に積まれており、その中に神殿と関係するものが目に留まった。
「帝国を守る契約と……誓いの約束?」
「何だ、これが解釈できるのか?」
「解釈ですか?ただ読めるだけですが。」
反応が思ったより強くないエスターは、自分が何か間違ったことをしたのではと思い、再び紙を見直した。
よく見ると書かれているのは普通の文字ではなく、古代文字だった。
東側の境界地帯で破壊された石に刻まれていた文字と同じものを見つけ、そのまま写したものだった。
誰も解釈できなかったため、神殿に依頼しようとしたが、それをエスターが読んで驚いて言った。
「あ、私、その古代文字解釈できますよ。」
エスターは顔をドフィンに向けて説明した。
古代文字を自由自在に解釈するのは、聖女が持つ能力の一つだった。
そのため、この古代文字が神殿に起源を持つものだと推測されているのだと言った。
神殿は歴代の聖女を通じて得た資料を研究し解釈する方法を洗練するのに聖女ほどの時間を必要としていた。
「そうか、解釈が必要だから神殿に送ろうとしていたのに……。」
神殿に送らなくても解釈できるという言葉にドフィンが感謝すると、エスターはすぐに助けようとやって来た。
「隣で書いてあげますね!」
時間が遅いし、無理をしなくてもいいと言われても、エスターは何枚か動かしながら一生懸命書き始めた。
眠気をこらえ、助けようとする彼女の気持ちがありがたく、ドフィンはにっこりと笑った。
「優しい娘だ。」
隣で一生懸命書くエスターの顔にかかった髪を手で払いながら時間を確認した。
すでに深夜12時を回り、もう休ませなければならないと感じた。
目が覚めないよう注意深くエスターを軽々と抱き上げ、書斎を出て3階の部屋へそっと運んだ。
エスターは深い眠りに落ち、ベッドに寝かされていることにも気づかなかった。
「良い夢を見てね。」
ドフィンは月明かりが眠りを妨げないよう、窓のカーテンをしっかりと閉め、隣に座って彼女の寝顔を見守った。
すると、足元で何かが動く気配がした。
確認してみると、白い蛇が彼の足元にいた。
「まだここにいたのか。」
エスターがこの蛇を飼っていることは知っていたが、久しぶりに間近で見ると少し驚いた。
「庭に蛇の家でも作ってやるべきかな。」
エスターの隣で寝ようとベッドを這い上がる蛇を見て、ドフィンは何度も押し戻した。
首を掴んで外に放り出そうかと思ったが、エスターがこの蛇をとても大事にしていることを思い出し、なんとか我慢した。
蛇が彼にじっと目を合わせながらエスターのそばに戻ろうとする様子を見ていると、また別の音が聞こえてきた。
ため息をつきながらベッドの下を見てみると、小さな子猫がいた。
「えっ?また増えたのか?」
動物にはあまり興味がないドフィンは、驚きながらつぶやいた。
「動物園でも作るつもりか?」と言いながら子猫を抱え上げると、エスターの毛布を整え、彼女が目を覚まさないよう注意深く足元に置いて部屋を出た。
そして階段を下りようとしたその時、彼はふと振り返り、3階の奥の部屋に目を向けた。
驚いたことに、その瞬間ドフィンの頭の中で、書斎で見つけた首飾りを思い出し、それが胸をかすめた。
「アイリーン?」
それはドフィンの妻であったアイリーンの遺品を思い起こさせる何かだった。
「そんなはずはない」と思いながらも、彼は再び足を踏み出し、奥の部屋に向かった。
アイリーンに関する物を保管している部屋は、鍵でいつも閉められていた。
彼は常に持ち歩いている鍵でその部屋を開けた。
カチャッ。
長い間、開かれなかったその部屋は、アイリーンを思い出さないようにと避けていたため、埃が溜まっていた。
ドフィンは舞い上がる埃を払いながら、時が止まってしまったかのような部屋の中をゆっくりと見回した。
薄暗い光に照らされた彼の視線が、壁に大きく掛けられたアイリーンの肖像画の前で止まった。
いくつかの年代の肖像画が掛けられている中、10代の頃のアイリーンの肖像画の前でドフィンは足を止めた。
「見間違いじゃなかった。」
肖像画を見つめるドフィンの目は激しく揺れていた。
肖像画の中でアイリーンが身に着けていた首飾りは、ノファから奪われたものと同じだった。
自分が持っているものと全く同じネックレスが掛けられていた。
直接持っているのを見たことはないが、この肖像画でちらっと見た記憶が蘇ったのだ。
混乱したドフィンは拳を握りしめながら壁を見つめた。
「これは一体どういうことだ?」
ノファによると、エスターの首には最初からネックレスが掛かっていたという。
さらに、最初に神殿でエスターを見たとき、アイリーンに似ていると考えなかったのか。
「もしかして……キャサリン?」
ドフィンは長い間忘れていたアイリーンの妹、キャサリンを思い出しながら、躊躇するように部屋の中を歩き回った。
両親を失ったアイリーンにとってキャサリンは唯一の血縁だった。
そのため二人はお互いを深く愛し合い、ドフィンも過去にはキャサリンをとても可愛がっていた。
キャサリンが茶店を開きたいと言ったので、ドフィンが直接資金を提供して店を開くのを手伝ってあげた。
しかし、結婚もしないままキャサリンは妊娠し、その相手が誰なのか話さず、アイリーンは困惑していた。
子供を持ったキャサリンはある日突然姿を消してしまった。
子供の父親と共に去ったのだろうと考えられたが、アイリーンがその出来事でどれほど苦しんだのかは誰も知らなかった。
その後、悲しみに沈んでいたアイリーンは世を去り、ドフィンにとっては辛い記憶として心の奥に封じ込めたものだった。
アイリーンに似たエスター。
妊娠したまま姿を消したキャサリン。
そしてこのネックレスまで。
関連性がないと思っても次々と思いが巡り、ドフィンは混乱し、額を押さえて考え込んだ。
エスターとの因縁が思ったより深いのではないかという考えが浮かんだ。
「アイリーン、君は知っているのか?」
ドフィンは久しぶりに向き合うアイリーンの肖像画をそっと撫でながら、切ない眼差しを向けた。
時間がかなり経っても、アイリーンに対する気持ちはそのままだった。
「心配しないで。明らかにすべき真実があるなら、必ず解き明かしてみせる。」
ドフィンは固く決意した表情でアイリーンに誓った。
彼はルシファーという男を探し出し、キャサリンの行動についても徹底的に調査することを決心した。





