大公家に転がり込んできた聖女様

大公家に転がり込んできた聖女様【120話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【大公家に転がり込んできた聖女様】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「大公家に転がり込んできた聖女様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹...

 




 

120話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 大きな決断②

執務室を出たエスターは、ノアがいるという庭園へまっすぐ向かった。

そこは、練習用の水盤が噴水に作り替えられた庭園だった。

「ずいぶん待たせたわね。」

執務室に少しの間いただけのつもりだったが、どうやら1時間も経っていたらしい。

時間が過ぎてしまい、気が急いてきた。

「ん?」

ところが、ノアが待っているという庭の奥に入ったとき、思いがけない光景を目にして足を止めた。

広い芝生の上で、ノアがゴロゴロと転がっていたのだ。

本当に体を丸め、完全に横になって転がっている。

一体何をしているのかと思い、ゆっくり近づくと、一人ではなく目の前のチーズと遊んでいた。

「なにあれ。ぷっ。」

エステルは思わず吹き出しそうになり、慌てて口を押さえた。

なぜ横になっていたのかは分からないが、枝先に葉がついた木の枝をチーズの前でひらひら揺らしていた。

木の葉を掴めず、少しだけ後ろ足で立ったチーズに、ノアは揺れる枝に向かって足先で軽く蹴っていた。

皇太子となったノアが、あんな姿で猫と遊んでいるのは、可愛らしくもあり滑稽でもあった。

エスターに気づいたチーズが耳をぴんと立てた。

そして勢いよく跳ねてノアの背を飛び越え、堂々とエスターのもとへ歩いてきた。

チーズに飛びかかられたノアは「うわっ」と声を上げて振り返ったが、エスターを見つけてぱっと笑顔になった。

「エスター!」

嬉しさを隠そうとしたが、不意に思い出したのか、気まずそうにしながら立ち上がった。

乱れた髪を撫でつけ、乱れた服を直すうちに、二人の距離は自然と近づいていった。

「ずっと待たせた?いや……これからは敬語を使わないとですね。皇太子になられたと聞きました。おめでとうございます。」

「いや、やめてくれ。二人きりの時は、これまで通り気楽に過ごそう。な?」

ノアの表情があまりにも切実で、断ることができなかった。

それに、エステルもこれまでノアと過ごす時間があまりにも居心地よかったせいか、尊敬語を使うのもぎこちなく感じた。

「そうかな。」

そっと、普段のように言葉を置きながら、エステルはノアの顔へと控えめに手を伸ばした。

ノアが無意識のうちに頭にくっつけた木の葉を取ってやるためだった。

突然エステルの手が触れると、ノアは驚いて小さく跳ね、後ずさりした。

「え?」

「これ付いてたから。取ってあげようと思って。」

エステルは自分の指先に摘んだ木の葉を見せて、くすっと笑った。

「僕はまた……」

ノアは、さっきまで緊張していた自分が馬鹿みたいで恥ずかしくなり、視線を逸らして辺りをきょろきょろ見回しながら、別の木の葉をエステルに差し出した。

そして、さっきエスターが引き抜いた髪の毛の跡に、また別の葉っぱが貼り付いていた。

「ここにも付いてる。」

「……?また?」

少し前にも木の葉が絡まって手で取ったが、いくつも引っ付いているのを全部取ってあげるほど、エスターの手は軽くなかった。

「なかなか取れないね。」

ノアはそんなエスターのよそよそしさを少し残念に思い、自分で木の葉を取ってひらひらと宙に放った。

二人はそれをきっかけに明るく笑った。

久しぶりに会ってぎこちなかった空気は、すでに消えていた。

「元気だった?誰かにいじめられたりしてない?」

にこやかながらも曇った表情を見て、ノアはすぐにエスターに何かあったのだと察した。

『ラビエンヌだな。』

今エスターに影響を与えられる人物は、その人しかいなかった。

ラビエンヌ以外にはいなかった。

「誰かが君をいじめたら、僕に言って。僕はもう皇太子なんだから。」

「いや、大丈夫だったよ。」

カリードを送り出したものの、まだラビエンヌが堂々と自分を傷つけようとしたわけではない、とエステルは言葉を濁した。

エステルがただ笑って流そうとすると、ノアはぐっと真剣な目をして近づいてきた。

「エステル、僕はいつだって君の味方だよ。」

その言葉に合わせて見つめたノアの黒い瞳は、やはり変わらず綺麗で、エステルの頬は自然と赤らんだ。

「今は君のそばに心強い家族がいるのはわかってる。でも忘れないで。僕もいつだって君のそばにいるから。」

何も言っていないのに、自分の心を見透かすようなノアを前に、エステルは胸がじんわり温かくなった。

「私が君を治療してあげて負担に感じているなら、気にしなくても大丈夫。君に使った力なんて大したものじゃないから。」

もし以前のエスターなら、それだけの力を使えば問題になったかもしれないが、今は力が有り余っていてどうということもなかった。

ノアに力を分け与えたあとも何の支障もなく、むしろ最近は力がさらに強まっていた。

「そう見えた?」

ノアはつれない顔をしながらも、控えめに感情をにじませた。

「ただ好きだから。君が好きだから、何でも助けてあげたいんだ。」

わずかに震える声に、ノアの誠意が感じられて、エスターの胸も不意に高鳴った。

「ありがとう。私も君が好きだよ。」

エスターが言う「好き」は、もちろんノアのそれとは少し違う意味を含んでいた。

当然、最初に親しくなった友達として好きだという意味だった。

けれども、こうして言葉にして口に出しただけでも大きな変化だった。

「じゃあ、侍女たちは?」

「もちろん好きだよ。」

「じゃあ、護衛騎士は?」

「ビクター?ビクターも好きだよ。」

「そうだと思った。」

ノアは深いため息をついた。

「好き」と言ってもらえたことで思わず声を上げそうになったが、意味はそういうことだったのか。

ただ周囲の人たちと同じように「好きだ」と言っているだけでは満足できなかった。

ふとノアの頭に浮かんだのはセバスチャンの姿だった。

もしセバスチャンと同じ扱いを受けるのだとしたら、そんなのは嫌だ、と胸がつまった。

「でも、そのセバスチャンって公爵様よりは僕の方がいいでしょ?」

「セバスチャンお兄様?」

突如出てきたセバスチャンの名前に、エステルは目を丸くした。

エスターが困ったように笑うと、ノアは距離を置かれるのではと心配になった。

「僕の友達は君だけなんだ。君は僕以外にも友達がたくさんいるの?」

少しでも存在の重みを伝えようとする策略だった。

たった一人の友達なら、なおさら大切にしてほしかった。

「いや。私も友達は君しかいないよ。」

慌てたエスターは、手を振りながら必死に答えた。

「じゃあ、公爵令息は友達じゃないから、僕のほうが特別ってことだよね。」

「……そう、かな?」

エスターはなんとなくそれを否定できなかった。

まるでノアの魔法にかけられたような気分だった。

ノアはセバスチャンに勝ったという事実だけでも満足そうに、ぱっと笑顔を見せた。

陽光を浴びた彼の顔は、きらきらと輝いて見えた。

そしてエスターが言葉を繰り返すのではと恐れ、ノアはそばに置いてあった鞄を急いで手に取った。

ノアは小さな声で言った。

「君にあげたいものがあるんだ。」

かばんの中には、丁寧に包装された手のひらほどの大きさの箱が入っていた。

横には淡いピンク色のバラが三輪飾りとして添えられており、開けるのが惜しいほど美しい包装だった。

エステルは包装が傷まないように細心の注意を払いながらリボンをほどき、箱の蓋を開けた。

そこには――手袋が入っていた。

「手袋……?」

思いがけない贈り物に驚いて取り出してみると、シルクで作られているのかとても柔らかかった。

軽やかでありながらも丈夫そうな質感だ。

さらに特別なのは、他の手袋と違って指先の部分が半分だけ覆われており、着けたままでも動きやすそうに作られている点だった。

最近は、予期せぬときに突然現れる痣に困っていたエステルにとって、それを隠すのにまさにぴったりの品だと感じられた。

思いがけない贈り物に感動したエスターは、目を輝かせて尋ねた。

「どうして手袋を思いついたの?」

「たまたま見かけたんだけど、君によく似合いそうだと思ってさ。気に入った?」

「うん。私にちょうど必要だったの。すごく大事に使うね。ありがとう。」

淡いベージュ色に、特別な形と素材。

すべてが気に入った。

エスターはさっそく手袋をはめてみた。

とても軽くて、はめていることを忘れるほど心地よかった。

「ちょっと見せて。」

ノアが手袋を確かめるふりをしながら、エスターの手に自分の指を絡めてきた。

「ぴったりみたいだね。」

「……うん。」

不意を突かれたエスターは思わず目を丸くしたが、必死に平静を装いながらそっと手を引き抜き、話題を変えた。

「そうだ!イカ墨を買ったんだけど、今日は泊まっていくんでしょ?」

エステルは言った。

「お父様が大丈夫なら、今度の夕食を一緒に食べようって。」

「本当?」

思わず振り返ったノアの手が驚きで宙に止まった。

「うん。でも断られるかもしれない。私のお父様や兄たちは、あなたをあまり歓迎しないかもしれないから。」

「でも、心配してくれるのは嬉しいよ。」

茶化しながらもそう言うノアを見て、エステルの目には涙が浮かんだ。

「あなたが不便に感じるんじゃないかと思って……。でも父も兄たちも、冷たく見えても本当はとても優しい人たちなの。」

「そうだろうね。」

家族の話をするエステルの声には、以前よりもずっと愛情がこもっていて、その響きを耳にしたノアは思わず温かい笑みを浮かべた。

政治の場では恐ろしいほど冷酷だと知られるドフィンでさえ、エステルをここまで変えてしまうのか――ノアは胸を打たれていた。

エスターは、ノアが本当に誠実で良い人だと信じていた。

そして自分を食事の席に招待してくれたことを、前向きに受け止めた。

何より、ノアが自分の隣にいてくれる。そのことだけで今は十分幸せだった。

「私は食べるの大好き。この機会にちょっと得点稼ぎ、ってところかな。」

「ん?」

「なんでもないよ。」

最後の言葉はノアが小声でつぶやいただけだったので、エスターにはよく聞こえなかった。

「じゃあ、奥様に伝えておくね。」

そう言うと、もう急いで話すこともなくなったようで、エスターはノアの皿にのっていたチーズを取ってのせてあげた。

そして部屋に戻る準備をした。

見ている人の目が多く、ノアと長く一緒にいるのは少し気が引けたからだ。

やはり家の中だからか、父や兄も…二人の間に気まずさが漂っただろうか。

「じゃあ、またね。」

「うん、また会おう。」

ノアはチーズと一緒に遠ざかっていくエステルの後ろ姿を名残惜しそうに見つめた。

「でも、同じ家にいるんだからまた会えるのは嬉しいな。」

久しぶりに交わした会話はあまりに短く感じられたが、それでもまた会えるという事実だけで心が満たされ、ノアの笑みは消えなかった。

 



 

 

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