こんにちは、ちゃむです。
「私が主人公(ヒロイン)だと思ってたのに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
37話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- キンちゃん
鳥を連れて屋敷へ戻ると、乳母が目を丸くして出迎えた。
「お嬢様、それは何ですか?」
「これから私が育てるの」
「鳥を飼うんですか? 急にどうしたんです?」
「成り行きで育てることになったのよ」
誰も私を止められなかった。もちろん、両親も少し心配そうな表情を浮かべていた。
「エスピン、急に鳥を飼うなんて、どういうことだ?」
「お父様、これは金の卵なんです」
「……え?」
「金の卵が割れて、中からこの子が生まれたんです。だから私が育てないと」
私が大切に保管していた金色の卵の殻を見せると、二人はひどく困惑した様子だった。
「そ、そうなのか?」
「本当に孵化したのか……?」
両親は、私がどれほどその金の卵を宝物のように大切にしていたかを知っている。だからこそ、頭ごなしに否定はしなかった。
「はい。ただの金の塊じゃなくて、本物の卵だったんです。あんなに愛情を注いできたのに……私の金の卵が……!」
最後は心の底から嘆きがこみ上げた。中身はぎっしり詰まった純金だと思っていたのに、残ったのはただの殻だけだったのだから。
「そ、そうか。鳥を育てるんだな。だが、しっかり面倒を見なさい。命を育てるというのは、それだけの責任が伴うのだからね」
「……だからね」
私があまりに熱弁するので、父は慌てて許可を出しつつも、きっぱりと釘を刺した。
「はい、ご心配なく! 本当に、本当に大切に育てます!」
金のフンをするかもしれないんだから、もちろん大事にするに決まっている。
突然増えた新しい家族のために、乳母は忙しく動き回った。
「部屋を暖かくしますね」と暖炉に火を入れ、ゆりかごのような大きなかごに柔らかな布を敷いて、その上へそっと鳥を寝かせた。鳥はひどく眠いのか、頭をこくりこくりと揺らしていた。
(私のせいで無理やり殻を破って出てきちゃったからかな……)
まだちゃんと目も開けられない様子に少し心配になったが、医師が大丈夫だと言っていたので、とりあえず信じて様子を見ることにした。
それでも、生まれてから数時間も経つと、最初より羽毛が少しふわふわになり、だんだんとピンク色のひな鳥らしい姿になっていった。それにしても不思議だ。金の卵はハンドボールほどの大きさだったのに、どうして中からこんなに小さな子が生まれたのだろう。これもロマンスファンタジーの世界の法則なのだろうか。
そんなふうに熱心に観察していると、乳母が戻ってきた。
「餌と水を持ってきましたよ」
乳母は、ジャムを入れるときに使うような小さな器にきれいな水を入れ、ゆで卵の黄身をつぶした特製の餌を用意してくれた。
(乳母がいなかったら、私はまともに世話もできなかったわね)
鳥のための準備を終えた乳母は、その小さな羽を見つめながら言った。
「さあ、今度はお嬢様が食べさせる番ですよ?」
(乳母にとって、あの鳥と私は同じ扱いなのかしら……)
そんな妙な疑問が頭をよぎったが、素直に乳母に促されて食事を済ませ、部屋に戻ってきた。戻ってきても、鳥はまだすやすやと眠っていた。
「ところで、その鳥はどうやって拾ったんですか? 急だったのでびっくりしました」
両親には説明したが、乳母にはまだ詳細を話していなかった。乳母はこの世界で私がいちばん信頼している人だ。だから、隠さずにすべてを打ち明けた。
「その鳥、あの金の卵から生まれたの」
「えっ?」
「そのままの意味よ。金の卵がパカッと割れたら、中からこの鳥が出てきたの」
「あれ、本物の金じゃなかったんですか?」
乳母は目を丸くした。
ほらね。やっぱり他の人が見ても、あれは金にしか見えなかったのだ。ルチアノがおかしかっただけじゃなく、あの卵そのものがかなり奇妙だったのだ。
「そう。本当に金だったのに、鳥が出てきたのよ」
「それって、まるで魔法みたいな話ですね?」
「だから私も、この鳥は絶対に特別な存在なんじゃないかって思ってるの」
私が愛読していた原作『陛下、執着しないでください!』には、そんな特別な鳥は登場しなかった。でも、憑依ものの物語に本編未登場の新しい設定が追加されるなんて、よくあることだ。しかも、この鳥には誕生の秘密まである。隠しキャラクターで間違いないだろう。
「特別な存在、ですか?」
「うん。ちょっと耳を貸して」
私は近くへ来るよう手招きし、乳母の耳元で小さな声でささやいた。
「伝説の鳥――そんな存在なんじゃないかな?」
乳母は再び目を丸くしたが、すぐにくすっと優しく笑った。
「まさか、そんなこと……」
そんな表情を浮かべながらも、「お嬢様はいいですね。伝説の鳥まで手に入れて。今日はもう遅いですし、この辺でお休みください」と、私をなだめるようにベッドへ促した。
どうやら乳母は、この出来事を「ちょっと不思議なファンタジー」くらいに受け止めているようだった。まるでサンタクロースを信じる子どもの夢を壊さないようにしている大人みたいな顔だ。乳母は本当にいい人だけど、たまに私を子ども扱いしすぎる。
(ふふっ。明日になれば、乳母もそんなこと言ってられなくなるわ)
鳥が金のフンさえしてくれれば、私の言葉を信じるしかなくなるのだから。みんな驚いて、私をうらやましがるに違いない。
(鳥って一日に何回フンをするのかしら? そうしたら、一日に手に入る金の量はどれくらいになるの……?)
私は幸せな捕らぬ狸の皮算用をしながら、深い眠りについた。
朝になると、ぱちりと目が覚めた。
私は勢いよくベッドから飛び起きると、真っ先に鳥の様子を見に行った。昨日あんなに弱々しかったのが嘘のように、ひな鳥はふわふわの愛らしい羽毛に包まれていた。
「ピッ!」
まるで私に気づいたかのように、鳥が嬉しそうに鳴いた。
「わあ! 元気になったんだね!」
「ピピピピッ!」
鳥は私のほうへよちよちと近寄りながら、小さな羽をぱたぱたと羽ばたかせて鳴き声を上げた。
(本当に私のことが分かるの?)
こうして見ると、本当にものすごく可愛かった。
そんな感動に浸っていた私は、ふと、かごの中に残されたある痕跡を見つけてしまった。胸いっぱいだった幸福感が一瞬で砕け散り、現実から目を背けたくなる。
(そんなはずない。これは夢よ。私はまだベッドの中で寝ているんだわ……)
そう思って、自分の頬を思いきりつねってみた。涙が出るほど痛い。
その瞬間、込み上げてくる絶望を抑えきれなかった。
「うわぁぁん!」
私はとうとう大声で泣き出してしまった。
「お嬢様! どうなさいました!?」
私の泣き声を聞きつけた乳母が、驚いて部屋へ駆け込んできた。まだ眠っていると思っていた私が、床に座り込んで大号泣しているのを見て、乳母は慌てふためいた。
「お嬢様、いったいどうして泣いているんですか? このユモに話してください。ね?」
「うぅぅ……鳥がフンしたの! フンしちゃったのぉ! うわぁぁん!」
乳母が用意してくれたかごの中には、鳥がした「フン」がしっかりと鎮座していた。きっと夜明け前に目を覚まし、たっぷり餌を食べたのだろう。そのあまりにも生々しい普通のフンを見た瞬間、私の希望に満ちた夢は木端微塵に砕け散ったのだ。
「お嬢様、それがそんなに感動的だったんですか? 鳥はもともとフンをするものですよ」
乳母の盛大で温かい勘違いに、私はさらに泣き崩れた。
「うぅぅ……違うのぉ……。うぇぇん……ただのフンが……フンが出ちゃったのぉ……」
金のフンを期待していたのに、これは何なの!? 私は悲しすぎてたまらなかった。床をポカポカと叩きながら泣きじゃくった。
「ピッ?」
自分がフンをした張本人だというのに、鳥は無邪気に首をかしげている。
「ひどいよぉぉ!」
私はしばらく泣きながら、自分がどれほどあの鳥に期待していたのかを乳母に訴え続けた。
「ひっく、ひっく……!」
「つまり、その鳥は特別な生まれ方をしたから、フンも特別に『金』になると思っていた、ということですか?」
最後まで私の支離滅裂な話を聞いた乳母は、実にあっさりと要約してくれた。
「うぅっ、ひっく……そうなの。金のフンをすると思ってたのにぃ……。私の金ぇぇぇ!」
乳母はそっと額に手を当てた。呆れているのは分かっている。でも、私は大真面目に期待していたのだ。
(ヒロインなんだから、それくらい特別なボーナスが一つくらい起きてもいいじゃない……!)
乳母はため息をつき、ハンカチで私の涙顔を優しく拭いてくれた。それでも滝のように涙が流れ続けるので、乳母は私の両肩をしっかりとつかんだ。
「お嬢様、何か勘違いなさっているようです」
(どうして? 生き物が金なんて出せるわけがないって言いたいの?)
違う。この子は特別なんだから。
「生まれ方自体が特別なんだから、金のフンをする可能性だってあったのにぃ! うわぁぁん!」
無理やりこじつけた話じゃない。ちゃんと筋の通った仮説だったのだ。ロマンスファンタジーのロジックなら、十分にあり得る話ではないか。
私がまた大泣きしようとすると、乳母はしっかりと私を抱き留めた。
「お嬢様、落ち着いてください。泣くのはもうやめて、一度よく考えてみましょう」
「うっ、な、何を?」
「その鳥は、どうやって生まれたんですか?」
「私が落としちゃったから……」
あのときの「バキッ」という不吉な音は、今でも忘れられない。本当に心臓が止まるかと思ったのだから。
「……はい?」
「落としてしまったら、殻が割れて生まれたの」
「そんなことがあったんですか」
私は金の卵から鳥が生まれたことは話したけれど、どういう経緯で孵化したのかまでは説明していなかったので、乳母は目を見開いた。
(そんなことより大事なのは、金のフンをしなかったことなんだけど! うぇぇぇん!)
私がまた泣き出しそうになった、そのとき――乳母が絶妙なタイミングで口を開いた。
「つまり、その鳥は、生まれる前はどこにいたんですか?」
「どこって……金の卵の中……!」
その瞬間、電流のようなひらめきが頭をよぎり、私は思わず目を見開いた。すると乳母はにっこりと勝利の微笑みを浮かべた。
「そうです。金の卵から生まれたんですよね? でしたら、その鳥が大きくなって卵を産んだら、一体何になると思いますか?」
「き、金の卵……!?」
「はい。金のフンではなく、金の卵を産むはずです」
「――っ!」
私は、自分の考えがいかに浅はかだったかを深く反省した。当然、最初に思いつくべきは「金の卵」だったのだ。最初に「金のフン」という目先の利益に飛びついてしまったせいで、より高価値な可能性にまったく気づかなかった。
「ユモ、尊敬する! 本当にすごい! 天才!」
乳母は思わず吹き出した。
「これで、もう泣きませんね?」
私は乳母の手からハンカチを受け取り、涙でぐしゃぐしゃになった顔をごしごしと拭いた。
「うん!」
「よかったです。元気を出してください。そして、その子が金の卵を産む日まで、大切に育てましょうね」
「そうだね! 乳母の言うとおり、金の卵を産むまで一生懸命育てる! ……あれ? でも、この子ってオスなの? メスなの?」
もしオスだったら、一生かかっても卵は産めないではないか。また泣きそうになった私に、乳母は優しく言った。
「お嬢様が大切に育てれば、たとえオスでも、いつかつがいを見つけて金の卵を産み落とすようになりますよ」
「……!」
「さすが乳母! 天才!! もっと大事に育てなきゃ!」
こうして、我が家の「金のフン騒動」はひとまず大円団を迎えた。
「ピッ! ピッ! ピッ!」
少し落ち込む時間はあったものの、この鳥が特別な存在であることに疑いはなかった。
「まあ、お嬢様の後をずっとついて歩いているんですね」
「うん。私が飼い主だって分かってるみたい」
本当にその通りで、ピンクの鳥は私の後ろをちょこちょこと熱心について歩いていた。それとも、私を親だと思って刷り込みでもしたのだろうか。とても賢くて、私の言葉もちゃんと理解しているようだった。
「静かに」
そう言うと、さっきまで「ピーピー」と騒がしく鳴いていた鳥はぴたりと静まり返り、こてんと首をかしげた。言葉を理解しているのでなければ、こんな芸当はできない。
「おとなしくしていてね」
私は鳥を持ち運び用のかごへ入れ、そのままお出かけの準備をして皇宮へと向かった。
「ルチアノ、ハリソン、おはよう!」
「来たの?」
「お待ちしておりました、エスピン嬢」
ルチアノは勢いよく椅子から立ち上がり、私を迎えてくれた。
「その鳥は?」
私ではなく、かごの中の鳥に興味津々のようだった。私は今にも飛び出しそうな鳥をそっと押さえながら、かごを二人の前へ差し出した。
「ピッ?」
鳥が何か言いたげに鳴くと、ルチアノは目を丸くした。
「もう動けるんだな」
「元気になったみたい。家では元気いっぱいに走り回ってたよ」
「健康になったなら何よりですね」
「不思議だ……」
ハリソンとルチアノは興味津々で頭を突き合わせ、鳥をじっと観察した。生まれたばかりの鳥は確かに神秘的で愛らしく、見入ってしまうのも無理はなかった。
「ピピッ!」
しかし、鳥は「あんまりジロジロ見るな」と言わんばかりに不満そうな声を上げた。二人は苦笑しながら、一歩後ろへ下がった。
「鳥の正体は分かったの?」
二人とも魔獣学に熱心だから、もしかしたらと思って聞いてみた。
「まだ分からないんだ。鳥類図鑑を一通り調べたが、見つからなかった」
「神秘生物図鑑も確認しましたが、該当する種は載っていませんでしたね」
本当に私のために調べてくれたみたいだ。私はかごに入れて持ってきただけなのに。
「うーん、まだ正体は分からないんだね。もう少し調べてみないと……」
少し気まずくなって話を締めくくろうとすると、「がっかりしないで」とルチアノが私を気遣うように声をかけてくれた。
「そんな簡単に見つかるようなら、特別な鳥じゃないだろう?」
「そうだね。私の鳥は特別なんだから、簡単には正体が分からないはず!」
私はルチアノの言葉に、現金にも素直にうなずいた。
「ところで……」とハリソンが口を開いた。
「ん?」
「いつまで『鳥』って呼ぶつもりですか? 飼うなら名前を付けないのですか?」
そう言われてみれば、動物を飼うなら名前が必要だ。私は腕を組み、かごの中の鳥をじっと見つめた。
「ピピピッ!」
鳥は、抱っこしてほしいと言わんばかりに甘えた声を出す。
「よし、決めた」
「名前を決めたのか?」
「『キンちゃん』にするわ」
「…………」
ルチアノとハリソンは、無言で私を見つめた。
「……まさか、金の卵から生まれたからか?」
「正解!」
私が胸を張ってそう答えると、ルチアノは何とも言えない、微妙な表情になった。
「だが、今のこの子の色は金色じゃないだろう」
ルチアノの言うとおり、かつて黄金に輝いていた殻とは裏腹に、生まれたキンちゃんの羽毛はピンク色だった。正確には、イチゴミルクのような淡く愛らしい色合いだ。
「ピンクとかイチゴミルクより、『黄金』のほうがロマンがあっていい名前じゃない?」
(本当にネーミングセンスがないな……)
そんな生暖かい目がルチアノから向けられていたが、私は気にしない。
「キンちゃん。あなたもこの名前、気に入ったでしょ?」
「ピッ!」
私が名前を呼ぶたびに、キンちゃんはちゃんと嬉しそうに返事をした。
「ほらね。この子も気に入ってるでしょ?」
そう言ってルチアノを見上げると、彼は諦めたように深くため息をついた。
「飼い主がそう決めたなら、仕方ないな」
こうして、その特別な鳥の名前は満場一致(?)で「キンちゃん」に決まった。
月日はあっという間に過ぎた。
キンちゃんが私の家族になってから、もう二か月が経っていた。
不思議なことに、キンちゃんは少しも大きくならなかった。最初はひよこみたいだったから、そのうちニワトリのように成長するのかと思っていたけれど、どうやら違うらしい。このままずっと、この手のひらサイズのままなのだろう。
(そのうち脱皮でもして、伝説のフェニックスへと姿を変えるんじゃないかしら)
実は不死鳥だった――なんて展開が待っているかもしれない。そんな都合のいい想像をするだけで、思わず笑みがこぼれた。
「キンちゃん、おいで」
「ピッ!」
少し離れたところで遊んでいた小さなピンク色の鳥が、羽をぱたぱたさせながら私のもとへ一直線に飛んできた。そして、ふわりと私の肩へ器用に降り立つ。
「いい子ね!」
「ピッ!」
私に褒められると、キンちゃんは得意げに胸を張った。もう確信している。キンちゃんは天才だ。最初は少し母親のような気持ちで「うちのキンちゃん」と思っていたけれど、ただ賢いというレベルではなかった。キンちゃんは本当に、人の言葉を驚くほどよく理解していたのだ。初めて会う人がみんな驚愕するほどに。
「キンちゃん、お父様のところへ行こう」
「ピッ! ピッ! ピッ!」
今日が何の日なのか分かっているように、キンちゃんは嬉しそうに鳴きながら羽をぱたぱたさせた。私も足取り軽く、父の執務室へと向かった。
「お父様、来ました!」
「来たか」
今日はなぜか、父の様子がいつもよりよそよそしかった。
「何かあったんですか?」
「いや、別に」
「でも、お父様、何だか機嫌が悪そうですけど……」
私が心配して甘えるような声を出しても、父の硬い表情は変わらなかった。
「うちの娘は普段はなかなか顔を見せないくせに、この日になると決まってやって来るんだな」
(あっ、お父様、拗ねてるわ)
よりによって今日という日に。私は父のそばへ駆け寄ると、その大きな手をぎゅっと握りしめた。
「お父様、最近あまり会いに来られなくて、寂しい思いをさせちゃいましたか? ごめんなさい」
できる限り反省しているような、潤んだ表情を浮かべる。
「悪いとは思っているんだな?」
(うわっ、本気で拗ねてる……)
これは、あれを使うしかない。私は父の胸に勢いよく飛び込んだ。
「ピッ!」
キンちゃんが驚いたように鳴いたが、今はそれどころではなかった。必殺の娘の甘え攻撃である。
「お父様、大好きです!」
一瞬驚いて固まっていた父だったが、すぐに表情を崩した。
「くっ……可愛い、私の娘……!」
そう言うと、骨が折れそうなくらいに私をぎゅっと抱きしめ返してくれた。
「ピピピッ!」
キンちゃんが潰されそうになって不満げに鳴いたが、父は私を離さなかった。うちの父は、典型的なロマンスファンタジーの「娘溺愛パパ」だ。最初は冷たくて攻略しなければならないタイプではなく、最初からフルスロットルで娘を溺愛しているところが特徴である。
「お父様は?」
「もちろん、エスピンがこの世でいちばん可愛くて、大切な娘だとも」
『お父様を扱うのがいちばん簡単なんだから』
これでお父様の機嫌はすっかり直ったようだ。私は一歩下がり、お父様の名残惜しそうな表情を見ながら、そっと手のひらを上に向けて差し出した。
――別名、「お小遣いください」のポーズ。瞳はできるだけウルウルとキラキラに輝かせて。
お父様は私の視線の意図を瞬時に察したのか、あらかじめ懐に用意していた分厚い小袋を取り出し、私に差し出した。
「さあ、今月のお小遣いだ」
「ありがとうございます!」
私は素早く小袋を受け取り、もう一度お父様をぎゅっと抱きしめた。
「大切に使います!」
そして、そのまま自分の部屋へダッシュで駆け戻った。勢いよくベッドの上へ飛び乗ると、私は小袋をひっくり返した。お父様からいただいた金貨が、ざらざらと心地よい音を立ててベッドの上にこぼれ落ちる。
「わあ、こんなにたくさん!」
お父様は私の物欲(?)をよく分かっているだけあって、いつも十分すぎるほどのお小遣いをくださる。家の事業もうまくいっているようで、本当に安心だった。
金貨。いつ見ても私を幸せにしてくれる魅惑の金貨。私の幸福が、そのまま物理的に積み重なったようだった。
「ピッ! ピッ! ピッ!」
キンちゃんも興奮した様子だった。短いお尻を振りながら金貨の周りをくるくると回り、まるで嬉しくてダンスを踊っているようだ。そして、金貨を一枚、小さなくちばしでカチカチとつつくと、その上にちょこんと座り込んだ。まるで「これは私のもの!」と主張しているようだった。
「キンちゃん、それが気に入ったの?」
「ピッ!」
キンちゃんは、自分が座っている金貨は自分のものだと言わんばかりに、お尻でしっかりと押さえ込んだ。そして「近づくな」と言うように全身の羽をぷっとふくらませる。私は少し考えてから、ニヤリと笑った。
「よし、それはキンちゃんにあげるわ」
「ピピピピピッ!」
私の言葉を完全に理解したキンちゃんは、歓喜の鳴き声を上げた。普段、私がお金を他人に無償で配るような人間ではないのに、キンちゃんにだけは特別だった。
『ふふ、その分、将来たっぷり稼いできてくれるからね!』