悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す

悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す【85話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。 ネタバレ...

 




 

85話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 禁忌の契約

皇太子宮へと戻ったエノク皇太子は、先ほどまでユリアと話していた古代の魔法書を再び机の上に広げた。

それは帝国の現在の魔法体系とはまったく異なる視点で記された、古い書物だった。そこにはプロムローズ公爵家に伝わる祝福の力だけでなく、帝国内の少数民族『洪河(ホンハ)一族』に受け継がれる呪術についても詳しく記されている。

【警戒せよ。彼らは生まれつき、他者に好意を抱かせる力を持つ――】

【その力をさらに強めれば、人を隷属させることすら可能となる。呪術のような形で、相手の精神へ干渉するのだ】

『……とはいえ、全員がそんな呪術を使えるわけではないらしいな』

単にその一族が美貌や卓越した話術に長けているからそう語られているだけなのか、あるいは本当に精神を支配する特殊な呪術が存在するのか。書物によって記述はまちまちで、曖昧かつ抽象的な部分も多かった。学術書というよりは、実際に呪術を目にしたという者たちの証言や、誇張された噂話、根拠の薄い怪談めいた内容まで混ざっている。

『それでも、リリカ・プロムローズが無意識に何らかの呪術を使っている可能性は極めて高い』

これまでの社交界や公爵家の中で、彼女があまりにも自然に人々へ溶け込み、盲信させていたことを思い返せば――なおさら確信に変わる。

エノクは、その一族に関する別の報告書を脳裏に思い浮かべた。

『人の好意を操る類の呪術――正体は不明だが、それが最も危険だと記されていた』

だが、別の文献では腹痛を引き起こしたり、徐々に体を衰弱させたりする呪いについても語られていた。もしかすると、まだ見ぬ他の本にも洪河一族についての記述があるかもしれない。

エノクの机の上には、すでに本が山のように積まれていた。呪術について一文でも触れている本を、片っ端から集めさせたのだ。皇族しか入れない秘密書庫には、神殿が「禁書」として指定した本まで存在していた。

今のエノクの姿をイバフネ教の者が知れば、卒倒するか激怒するだろう。だが、フィオステ帝国が彼らに振り回される気は毛頭なかった。面倒事を嫌って表向きは話を合わせているだけで、本心から神殿の言いなりになる理由などどこにもないのだ。

【影に潜み、再びお前の首を絞めるだろう。……だが、誰もが強大な呪術を扱えるわけではない】

【それを扱える者は多くない。実際に目にしたという証言がほとんど残っていないほど、希少な力だった】

【生命を燃やす奇妙な力は確かに存在する。だが我々は、その正体を解明できていない】

【彼らに魅入られた者は、生涯終わることのない悪夢を見るという】

「だいたい……こんな感じか?」

エノクは生命力ではなく、自身の魔力だけでその呪術を再現できないか試してみた。使う力が違う以上、同じ結果にはならないだろう。だが、彼が本当に知りたかったのは別の部分だった。

――もし、その呪術に対抗する術があるとするなら、どうすればいいのか。

『人の生命力を使う、か』

呪術とは、魔力でも神聖力でもなく、人間の生命力を代償にする禁忌の力。もちろん資料が少なすぎて、これすら単なる推測に過ぎないのかもしれないが……。

エノクは、自分の意思で生きたいと強く願っていた。

皇帝ジェステラドの価値観に縛られるのではなく、自ら選び、自ら行動する人生を。

ユリアのそばにいて、エノク自身が大きく変わったことがあるとすれば――それは、誰かが「無理だ」と笑うようなことでも、ユネトや医薬産業、さらには社交界での立場さえ覆せるかもしれないと本気で考えるようになったことだった。

『どうせ無駄だ』と最初から決めつけ、悲観して何もしないより、たとえ失敗するとしても挑みたい。エノクは、この心境の変化こそが、ユリアから受け取った最高の贈り物だと思っていた。

* * *

一方、リリカは守護神の脚を失ってからというもの、本当に崖っぷちに立たされていた。もはや、外部の冷ややかな反応を見て見ぬふりすることなどできなかった。

イバフネ教は、かつての威光を急速に失いつつある。

「……あの女を、本当に聖女と呼べるのですか?」

いつの間にか神殿内では、リリカへの批判が公然と交わされるようになっていた。彼女へ向けられる言葉は日に日に辛辣になっていったが、それを咎める者は誰もいない。

「……私の過ちでした」

リリカは静かに悟っていた。今さら何を弁明したところで、誰も耳を貸さないだろう。下手に反論すれば、余計に反感を買うだけだということも。

だからこそ、彼女は最後の切り札を使うことにした。

「最近、皇宮では『神官はもう必要ない』という声が出ていると聞きました」

リリカがそう切り出すと、周囲の神官たちが顔を見合わせた。

「それが、誰のせいだと思います?」

もちろん、リリカ一人だけの責任ではない。ユネトの急成長が最大の原因だった。だが、今回の武闘大会で神殿が威信を失わなければ、皇帝もここまで簡単に神殿を切り捨てることはできなかったはずだ。

リリカは冷ややかに言った。

「エノク皇太子の顔に泥を塗るような真似をしなければ良かったんですよ」

他の神官たちは皇宮から締め出されたことへ不満を漏らしていたが、リリカはむしろ当然の報いだと思っていた。

「私がこれまで起こした問題なんて、比べものにならないくらい大きな成果をこれから出して見せますわ」

「ずいぶん簡単に言うのですね」

一人の神官が鼻で笑ったが、リリカは動じない。

「何だかんだ言っても、皇帝陛下が以前のようではなくなっているのは事実です。最近では外にも――」

「確かに、最近表に出て活動しているのは皇帝より皇太子のほうですね。そのせいで、皇帝陛下を直接その目で見た者も減っている」

リリカを快く思っていない者たちですら、彼女の言葉には耳を傾けざるを得なかった。そこには、彼らが喉から手が出るほど欲していた情報が含まれていたからだ。

やがて何人かが、真剣な面持ちで問い返した。

「……つまり、それが何だと言うのです?」

「最近、皇帝と皇太子が激しく対立したという話を耳にしました。この状況で、もし皇帝陛下が亡くなれば、誰が真っ先に疑われると思います?」

「それは……」

「実の息子まで手にかけたのが皇帝だという話は、すでに広く知れ渡っていますよね?」

リリカは口元を歪め、不気味な笑みを浮かべた。

「考えてみてください。――これは、私たちにとってむしろ最高の好機になるかもしれないんですよ?」

* * *

結局、リリカは神殿の僧侶たちと手を組むことになった。そこにもう、迷いはなかった。

リリカが次に向かった先は、洪河一族の隠れ住む住処だった。

「リ、リリカ……!?」

「私がここへ来るなんて、思ってもみなかったでしょう?」

洪河一族もまた、リリカを利用しようと企んでいた。だが、守護神の脚まで失い、ここまで事態が悪化するとは想定していなかったのだ。危険を感じ取った彼らは、再び拠点を移そうと荷をまとめていた。だが、その一歩手前でリリカが現れた。

「う、後ろにいる連中は……何者だ」

「ああ、気にしないでください」

リリカは柔らかく微笑んだ。

「私の護衛です。帝国語も分からないので、私たちの会話の内容なんて理解できませんわ」

そう言うものの、とても安心できるような相手ではなかった。素人目に見ても、一人ひとりから異様な威圧感と血の匂いが漂っている。リリカは今回の件のために、確実に動かせる兵力を用意していたのだ。

それは外国人の傭兵たちだった。神殿が裏仕事をするとき、自分たちとの関係を悟られないよう密かに雇っている凄腕の者たちだ。

「さあ」

帝国語の分からない彼らに向かって、リリカは手振りだけで冷酷に指示を出した。

すると傭兵たちは一斉に洪河一族を取り囲み、音もなく剣を抜いた。

「ひっ……!」

「そんなに急いで、一体どこへ行こうとしていたのかしら……? 本当に気になりますわ」

「そ、それは……!」

「分かってますよ。前に私が忠告したのに、またヤコブを誘拐した件でしょう?」

その言葉に、一族の顔色がまたたく間に変わった。だがリリカは、なおも美しい笑みを崩さない。

「でも、許してあげるのは今回だけです。――今ここで、私に協力するなら」

リリカは傭兵たちに囲まれたまま、ゆっくりと一歩を踏み出し、洪河一族へと歩み寄った。そして、その長い脚で容赦なく、目の前の男の腹を思いきり蹴り上げた。

――ドカッ!

「ぐっ、げほっ……!」

細身のリリカとはいえ、急所を正確に蹴り抜かれれば無傷では済まない。蹴られた男は呼吸もままならず、苦しげに床へうずくまった。その容赦のない光景に全員が怯える中、一人が恐る恐る口を開いた。

「きょ、協力なら今までも……」

「そういうのじゃないわ。“本当の協力”よ」

リリカは、洪河一族がまた自分を裏切って逃げ出す可能性を考え、完全に支配するための条件を突きつけることにした。

『洪河一族なんて、いつ私を裏切って逃げ出すか分からない。あいつらは欲深くて打算的だ。状況次第じゃ、平気で私を売るかもしれない』

それでも、リリカは彼らを見捨てるつもりはなかった。ただの協力者ではなく、完全に自分の手駒として引き込む必要がある。

「ヤコブが病気を移した件。あれ、“生贄契約”の術式でしょう? あなたたちの使う呪術については、もうかなり調べてあるのよ」

洪河一族の術には、常に「生贄」が必要だった。魔法のように堂々と使える力ではない。病を他人へ移すような、陰湿で忌避されるべき術。人々から嫌悪されるのも当然のものだった。

「呪術を使うには、代償が必要なんでしょう? ヤコブだって、人を純粋に治療できるわけじゃない。ただ“生贄になる相手”へ病を移せるだけ――そういう術だった」

そして、洪河一族が常に集団で行動しているのも、その呪術の特性が理由の一つだった。

「――じゃあ、あの人にしましょうか」

リリカが冷たく指差した先にいたのは、洪河一族を率いる族長だった。

「ま、待て!」

彼女が指を向けた瞬間、族長は青ざめた。だが、すでに完全に包囲された状況では逃げ場などない。

「お、俺は……!」

恐怖に染まっていた顔が一瞬で凍りつく。族長は懐から何かを取り出そうとしたが、すべて想定済みだったリリカは冷ややかな目で見下ろしていた。

「余計な真似はやめなさいって言ったでしょう?」

神殿の裏仕事を請け負い、呪術術師狩りにも慣れた傭兵たちの動きは素早かった。族長が何かを仕掛ける前にその腹へ一撃を叩き込み、そのまま短剣で手首を深く切り裂く。

「ぎゃああっ!」

「痛い? でもね、裏切られた私の方がもっと痛かったのよ」

要求をどんどんエスカレートさせ、前回の魔族討伐ではヤコブ誘拐まで企てたのも、この族長だった。

『洪河一族自体は必要。でも、こいつだけは放置できない』

リリカは悲鳴を上げる族長を見下ろしながら、冷酷に命じた。

「続けて」

リリカが“次に何をするか”を淡々と指示すると、それを聞いていた一族の顔から完全に血の気が引いた。

凄惨な悲鳴が辺りに響き渡る。命令を受けた傭兵たちは、一族全員の目の前で、族長を容赦なく処刑した。その光景は、荒事に慣れた洪河一族ですら心を完全に折られるほど残虐なものだった。

「や、やめてくれ……!」

ガタガタと震える彼らに向かって、リリカは聖女の微笑みを向けた。

「あなたたちも、いつ“生贄”にされる側になるかもしれないってこと。ちゃんと理解して?」

洪河一族が異様なほど族長へ絶対服従していた理由。それは「契約」だった。ヤコブの術と同じく、生贄側の同意を必要とする類の呪術。族長は一族全員から「いつでも呪術の生贄にできる」という同意を取り付け、それを盾に彼らを支配していたのだ。

「でも、その族長はもう死んだ。……今なら契約も消えたんじゃない?」

「お、幼い頃からずっと縛られてきたのに、そんな急に……」

「どんな呪術に使われるかも分からないまま、従えって言われ続けてきたのよ!」

リリカは、彼らの心にある恐怖と不満を利用して、洪河一族を完全に掌握するつもりだった。彼女は多くを語らない。ただ、軽く顎をしゃくった。

――バキッ!

再び、逆らった男が引きずり出され、容赦なく殴りつけられた。年齢も性別も関係ない。子どもも老人も、その目の前の暴力を見て完全に怯えきっていた。結局、洪河一族はリリカに従うしかなかった。

「族長がお前たちの首輪を握っていた時だって、大した問題にはならなかったでしょう?」

「……」

「つまり、私を裏切らなければいいだけの話よ。違う?」

リリカは洪河一族の力を利用し、恐ろしい計画を企てていた。普通の魔法や武術では、皇宮の結界や騎士たちに気づかれる危険がある。だからこそ、未来の皇帝候補を確実に始末するには、誰にも知られていない“特殊な力”で喉元を刺す必要があった。

「あなたたちがどんな呪術を使えるのか、全部見せて」

呪術は魔法のように堂々と人前で使える力ではない。だが同時に、それは最大の利点でもあった。

「それだけ人に知られていないってこと。ずっと隠され続けてきたんだから」

単体では大したことには見えないかもしれない。だが、神殿が裏から支援した力と豊富な資金まで加わればどうだろう。この呪術を長期戦で使うつもりはない。ただ一度、決定的な瞬間に利用するだけだった。

「……それなら、皇帝を殺すことだってできるわ」

リリカの瞳が、暗がりの中で不気味にギラリと光った。

***

その頃、ユリアもまた洪河一族の調査を進めており、この数日間で掴んだ成果をエノクへ報告していた。

「プロムローズ公爵家の使用人や騎士たちから聞いた証言です」

彼らは、ユリアが公爵家を出た後も、密かに彼女のために動いてくれていた。

「リリカが治療を行えなかった時、人々はある共通点に気づきました。……彼女のそばに、いない時です。特に、“ジャコブ”という使用人がいない時に、治療が失敗していると」

「ジャコブ……」

「いつも彼女の傍に控えている使用人です。ジャコブの体調が悪かった日があって、その日は予定されていた治療をすべて取り消したそうです」

「そこまで一使用人を最優先するなんて、確かに不自然極まりないですね」

エノク皇太子の方にも、大きな成果があった。

「洪河一族の秘密の居住地と、そこへ行く方法を突き止めました」

一族の居場所を探るのは容易ではなかった。彼らはちょっとした外出すら油断せず、まるで常に戦時中であるかのように他人の視線を警戒していたからだ。夜遅くに移動したり、人のいない明け方に動くのが彼らの基本だった。それ以外の時間では、周囲に人が多く行き交う時間帯に紛れ込む形で動いていた。

だからこそ――最近、その鉄則から外れて怪しい出入りが増えている者が急増していることが、エノクは気にかかっていた。普段なら、秘密裏に少人数だけで移動するはずなのに。

「どうして最近、あんなに出入りが増えているんでしょう?」

「借金を抱えた人、病人、家庭内暴力に苦しむ人……。理由は様々ですが、一族は今、精神的に切羽詰まった人間を大量に集めているそうです」

なぜ、そんな人々が必要なのか。疑念はますます深まっていく。

そして、それとは別に――ユリアにはどうしてもエノクへ伝えたいことがあった。

「その……皇帝陛下と激しく争ったと聞きました」

エノクが皇帝にこれほど真っ向から逆らったのは、これが初めてだった。しかも、ただの口論ではなく、皇宮中に噂が広まるほどの大きな衝突だ。

「……正直、今のユネトの薬の価格はかなり安いです。全部とは言いませんけど、少しくらいなら値上げしても――」

ユリアにとって値上げは嬉しいことではなかったが、それでエノクが窮地に立たされるのなら、ある程度は妥協する必要があると考えていた。

ユリアの表情から強い心配が伝わったのか、エノクはふっと目元を和らげ、優しく答えた。

「大丈夫です。あの程度で満足される方ではありませんから」

「それなら、皇帝陛下は……」

「私が説得します」

問題の大きさに比べれば、あまりにもあっさりとした、頼もしい返答だった。

「ユリアと出会って、私にもようやく“自分の意思”というものが生まれました。皇太子として、いえ……将来、皇帝としてやりたいことができたんです。すべて、ユリアのおかげですよ」

「殿下……」

公爵家を出た自分がエノクに救われたように、エノクもまた、自分によって癒やされていてほしいとユリアは願った。互いが互いの不完全な部分を支え合う――そんな関係でありたかった。

「洪河一族が、最近いつもとは違う不穏な動きをしています。ですが、具体的に何を企んでいるのかまでは分からなくて……」

ユリアはそう言うと、懐から丁寧に包まれた小瓶を取り出した。

「念のため、これを持って行ってください」

「これは……?」

「どんな時でも、エリクサーなら絶対に役に立つと思いますから」

ジキセンには決して渡せなくても、心から信頼するエノク皇太子になら、ユリアは惜しみなく何でも与えることができた。

 



 

 

  • エノクの心境の変化と呪術の研究:

    エノクはユリアとの出会いを経て「自分の意思で生きる」と決意し、リリカが無意識に用いている可能性が高い洪河一族の「生命力を代償にする呪術」の対抗策を禁書などから探り始めた。

  • リリカによる洪河一族の武力掌握と暗殺計画:

    神殿内でも孤立し崖っぷちに立たされたリリカは、神殿の外国人傭兵を率いて洪河一族の隠れ家を強襲。反抗的な族長を容赦なく処刑して恐怖で一族を完全支配し、その呪術を利用して皇帝を暗殺する計画を企てた。

  • ユリアの調査報告とエノクへの贈り物:

    ユリアはリリカの治療に謎の使用人「ジャコブ」の存在が不可欠であること(治療の正体が病の移し替えであること)を突き止め、不穏な動きを見せる洪河一族を警戒して、エノクに万能薬(エリクサー)を託した。

 

 

 

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