悪役なのに愛されすぎています

悪役なのに愛されすぎています【150話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役なのに愛されすぎています】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介...

 




 

150話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 門越しの温もり

エヴァンは、ほとんど毎日のようにロレッタへ手紙を送り、彼女への切ない想いを綴り続けていた。

その手紙が郵便局を経由するわずかな時間すら惜しく感じるほどで、時間の余裕がある日には自ら公爵家まで足を運び、直接手渡ししようと試みたことさえある。だが、訪問が許されることもなければ、ロレッタから返事が届くことも決してなかった。

実際に顔を合わせられない期間が長引くにつれ、エヴァンは溜息とともに、つい独り言のように「会いたい……」と呟くようになっていった。

やがてその症状はさらに悪化し、魔塔の重要な会議の最中でさえ、ぼんやりと虚空を見つめながら――

「……ロレッタお嬢様に、会いたいです」

などと口走ってしまう始末だった。ちょうどそのとき、エヴァンの膝の上に座って会議に同席していたエコが、驚いて彼の太ももをぎゅっと強くつねってくれなければ、彼は自分がとんでもない失言をしたという事実にすら気づかなかっただろう。

エヴァンは、仕事をしている間だけは気を引き締めなければならないと思いながらも、まるで夢遊病者のように、それを器用に実行できずにいた。ただ、彼女に会いたいという気持ちだけが、時間とともにいっそう深く、激しく募っていくばかりだった。

「申し訳ありません、魔法使い様」

そうして今日もまた、エヴァンは公爵家の鉄門の前で、聞き飽きた執事ハインからの拒絶の言葉を投げかされた。

「お嬢様は、今週もやはりお忙しいとのことです」

執事は、ここ最近ほとんど毎日のように律儀に訪ねてくるエヴァンに対して、酷く申し訳なさそうな表情を浮かべてそう伝えた。

「……そうですか」

「それと――ボルドウィン夫人が、魔法使い様がいらした際には、屋敷の前で立ち止まることも許さず、失礼のないよう丁重にお断りするように、と厳しく申しておりました」

「……ええ、分かっています」

エヴァンは静かにうなずいた。初めて手袋を返しに来たときは、あまりの焦燥感から勢いのまま屋敷へ踏み込んでしまったが、あれ以来、二度と同じ無礼は繰り返さないと心に決めていた。門前まで一方的に押しかけてくるだけで、彼女にとっては十分に迷惑なのだろうから。

「お嬢様にお会いしたくて来ただけです。屋敷の方々にご対応を求めて来たわけではありませんから。では、失礼いたします」

「……エヴァン様。明日も、また来るつもりですか?」

ハインの問いに、エヴァンは寂しげに、けれど確かな光を瞳に宿して微笑んだ。

「はい。ハイン様にはご迷惑でしょうが、それでも構いません。今はこうして、遠くからお屋敷を眺めているだけでも……僕にとっては、とても幸せですから」

「……そうですか。なら、お好きにしなさい」

エヴァンは愛おしそうに公爵家の黒い鉄柵をぎゅっと握りしめ、短く微笑むと、そのまま静かに踵を返して去っていった。

ハインは、彼の背中が完全に見えなくなるまで遠ざかるのを見届けてから、かぶっていた執事の帽子をぽんと脱ぎ捨て、門の陰に向かって声をかけた。

「お嬢様。いくら我が公爵家から終生の雇用を約束されているからといって、魔塔の優秀な魔法使いに、私への愚痴の役目を押しつけるのは困りますな」

ぶつぶつと小言をこぼすその声に応えるように、次の瞬間――門の石壁の陰から、ロレッタがひょいと恥ずかしそうに顔を覗かせた。

「……だから、ハインにだけ特別にお願いしているんじゃない」

「一、二回で終わると思っていましたよ。執事である私が、お嬢様の代わりにエヴァン様のお相手をするのがどれほど荷が重いか、ご存じでしょう?」

「ご、ごめんなさい……」

ロレッタが真っ赤な顔で小さくなって謝ると、ハインは気まずそうに、へらっと笑ってごまかした。

「まあ、私でなければ、どなたがお嬢様の内密の可愛いお願いを引き受けるというのです?」

「ええ、いつも本当に感謝しているわ」

ロレッタは回廊を駆け下りると、少し前までエヴァンが切なげに触れていた、あの黒い鉄の手すりの上にそっと自分の小さな手を重ねた。

冬の厳しい冷え込みのせいで、手すりはひどく冷たかった。けれど、彼が確かに触れていたその場所には、まだ微かな、愛おしい温もりが残っているような気がした。

「こんな寒い日は、お茶くらい飲んでいってもよかったのに。毎日毎日こうして頑固にやって来て、エヴァンが風邪でもひいたらどうするのよ……?」

「おやおや、そこまで心配なさるなら、お嬢様が直接あの方にお茶を出してくださればよかったのに」

ハインの意地悪な指摘に、ロレッタは弾かれたように叫んだ。

「そ、それは絶対に嫌よ!」

「どうして、そんなに頑なに恥ずかしがっていらっしゃるんです?」

「恥ずかしいんじゃないわ。私はまだ腹が立っているのよ。――だってエヴァンに、『もう僕を好きでいないでほしい』なんて、あんな残酷なことを言われたのよ?」

「……ええっ!?」

ハインは大げさに目を見開き、いかにも初めて聞いたという調子でわざとらしく声を上げた。

「そんなひどいことを言う人がこの世にいるのですか? あんなにお嬢様に一途だったのに……これは本当に失望ですね!」

「…………」

「最低の男じゃないですか。もう二度とお嬢様のそばにも近づけないように、警備を強化しておきましょう」

「エヴァンをそんなふうに悪く言わないで!」

「では、お嬢様にそんな悲しい言葉を向けた相手を、私に褒めろとでも言うのですか? それはさすがに無理ですよ」

ロレッタはハインから視線を外し、寂しげに手すりを見つめた。

「……仕方なかったのよ。エヴァンだって、あんなこと本当は言いたくはなかったはずだもの」

ハインはようやくその険しかった表情を和らげ、静かに、しかしどこか噛みしめるように言った。

「やはりお嬢様の最高の長所は、そうして相手の事情を汲み、迷いなく前へ進ませてくださるところでしょうね」

「……それって、本当に私の長所なのかしら? エヴァンは、私のそういう押し付けがましい一面を、ただ厄介なものとしか思っていなかったみたいだけど」

「誰が何と言おうと、最高の長所ですよ。それを理解できないのだとしたら、あの魔法使い殿はこの時代きっての愚か者ということになりますな」

「もう、エヴァンのことを愚か者なんて悪く言わないで。私が傷つくわ」

「ご心配なく」

執事は、しばらく外していた帽子を軽く持ち上げて被り直しながら、にこりと温かく笑った。

「私から見ても、あの方は、お嬢様のその長所を誰よりもいちばんよくご存じのように思えます。さすがは、あのジェレミア・ドレン様を師に持つ魔法の天才ですからね」

ロレッタはハインの「エヴァンは天才」という真面目な言葉に、張り詰めていた心が解けて思わずぷっと吹き出してしまった。だが、執事と目が合った途端、慌てて表情を引き締め、そっと恥ずかしそうに視線を伏せた。

彼女の胸の奥に深く沈んでいた悲しい感情は、ハインの優しいお調子に付き合ううちに、いつの間にか温かく押し込められていた。

・・・

一方、エヴァンは今日も公爵邸の前で全ての気力を使い果たし、引きずるような足取りで魔塔の自室へと戻ってきた。

すると、薄暗い部屋の奥で、意外な人物が彼を待っていた。

――もっとも、長期の出張に出ていた師であるジェレミア本人が、物理的に戻ってきたわけではない。エヴァンを迎えたのは、彼が愛弟子を案じて残していった、高精度な伝言魔法だった。

【エヴァン】

虚空に、ジェレミア特有の淡い緑色の美しい光で描かれた、大きな文字がふわりと浮かび上がる。

それを見つけたエヴァンは、疲れも忘れて慌ててその前へ駆け寄った。

「師匠!」

エヴァンの声に反応するように、緑の光は四方へと鮮やかに散り、やがて新たな文字列を宙に形づくっていく。

【睡眠と食事は?】

古代魔法王オウェインが定めた、師弟間の厳格な伝統だと言われても、ジェレミアがエバンの生活習慣をこうして気にかける理由には、いつも変わらぬ深い家族のような温度があった。ジェレミアは、遠い地にあっても、エヴァンがきちんと人間らしく生きているのかを、常に呼吸をするように案じているのだ。

「……それなりに、ちゃんとやってますよ」

エヴァンは文字に向かってそう答えながら、嘘をついている子供のように、どこか気まずそうに視線を逸らした。

【それなりに、か。】

ジェレミアがピシャリと要点を指摘すると、エヴァンは気まずそうに頭をかいて笑って誤魔化した。もう成人した立派な男だというのに、いつまでも子供のようにこんな会話を交わすのが、少し面映ゆく、けれど温かかった。

【年齢に関係なく、魔法使いにとって睡眠と食事は力の源だ。抜かりなく取るように。】

高速で宙を走る光の文字は、瞬く間に現れては消えるのを繰り返していく。

【ロレッタが僕に手紙をよこした。】

「……!」

エヴァンは息を呑んだ。

【定期実験には、お前ではなく私が代理で魔塔に来た方がいいと、彼女の文字で書いてあった。】

「そ、それは……」

エヴァンは、ロレッタとの間にあった決定的な亀裂をどこまで師に話すべきか分からず、しばし言葉に詰まった。

「僕が至らないばかりに、師匠にまでご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません」

【迷惑ではない。ただ、お前がどれほど傷ついているかを心配しただけだ。】

「ご心配をおかけして、すみません……」

【お前を心配するのは、私の師としての特権だ。だから――】

緑の光は、よりいっそう輝きを増して、エヴァンの目を真っ直ぐに見つめるように文字を紡いだ。

【無理をするつもりか?】

エヴァンは、ジェレミアの光の文字に向かって、涙を堪えるようにきゅっと顎を引き上げた。

「もう、これ以上引き下がるつもりはありません。お嬢様から逃げることも、諦めることも、絶対にしません。どうか、許してください……師匠」

【君なら、そう答えると思っていたよ。】

「……すみません」

【なぜ謝る?】

エヴァンは、以前ジェレミアから手渡された、大切な忠告を思い出していた。

『私は、お前が自分で正しいと思った道を選べると信じている』

魔法使いが、愛する存在を完全に所有したいという狂気の本能〈ピシス〉の結末へと、自らの意志で歩み寄ることは、魔導の学術的に見れば決して正道とは言えない破滅の道だ。それは、誰の目にも明らかだった。

「師匠は……僕が破滅へ向かうのではないかと、違う安全な答えを望まれているはずです」

【お前が正しいと思う道を進め、エヴァン。私は、その茨の道を歩むお前をあらゆる災厄から守るために、この生涯の加護を授けたのだから。】

「……師匠」

エヴァンは、喉の奥がきゅっと熱く詰まるのを感じながら、その偉大な名を小さく呼んだ。

【近いうちに行われる定期実験についても、お前にすべて任せよう。実験体である彼女を、魔法使いとして最も大切に、優しく扱う方法については、きちんと覚えていると信じている。】

「全部覚えています。師匠に教えていただいたこと、すべて……!」

【それから、エヴァン。】

「……はい」

【ロレッタ・ボルドウィンは、お前が思っているよりずっと強い女性だ。聡明でもあるし、それに……本当に、目が眩むほど可愛い。】

ジェレミアは、思わず自身の本音が漏れたのが師として恥ずかしかったのか、【本当に可愛い】という部分に、慌てて二重線を引いて不器用に消してしまった。

【いずれにせよ、魔法使いと実験体が完全に信頼し合わなければ、まともな実験は成り立たない。己の心を偽るな。】

「肝に……命じます。本当にありがとうございます、師匠」

【では、良い報告を待っている。】

その温かい一文を最後に、文字を形作っていた美しい淡緑の光は、サラサラと音を立てるようにしてエヴァンの黒い髪と肩のあたりに静かに落ちて――

一つ、また一つと、その光の粒子は静かに薄れて消えていった。

「……師匠」

エヴァンは、ほとんど消えかけたその愛おしい残光をそっと両手で壊さないように包み込み、しばらくの間、その上に愛おしそうに己の頬を寄せていた。

本来、温もりなど宿るはずのない純粋な魔法の光が、こうして確かなぬくもりを帯びて感じられるのは――その輝きの奥に、ジェレミアの偽りのない真心までもが、わずかに混じっていたからに違いなかった。

・・・

「わざわざ遠くまで使いを出して、出張中で忙しいジェレミアを、次回の実験のために呼び戻す必要なんてあったの?」

ロレッタとメロディの定期実験日の朝。

兄のロニは早くからロレッタの部屋を訪ね、どこか不満げに、過保護な性質を隠そうともせずそんな言葉を漏らした。

「え、ええと……仕方なかったのよ」

ロレッタは不満げに頬を膨らませ、視線を落としながら小さく答えた。

実験となれば、どう足掻いても魔力の媒介として手首や額が汚れる。それを思い出したのか、彼女は無意識に自分の手をぎゅっと握りしめた。それでも――ジェレミアの不在が続くことに、ロレッタは思った以上に落ち着かなくなっていたのだ。

本当は、あの高圧的で不器用な魔法使いエヴァンに、自分の汚れた手首や額を差し出さなければならない状況を想像するだけで、心臓が破裂しそうなほど恥ずかしかったのだ。しかも、あんな酷い振られ方をした今でも、彼のことが変わらず狂おしいほど好きだなんていう情けない事実を、彼に直面して知られたら……。

「だ、だから今日はジェレミアお兄様がわざわざ来てくれるんでしょう? そうなんでしょう?」

ロレッタは両手を胸の前で祈るように組み、切実そうに尋ねた。

ロニは少し前に、ジェレミアから「私は今回の実験には行かない。エヴァンにお前の代わりに全てを任せる。ただし、ロレッタには君の前に私が姿を見せるつもりだと嘘をついておいてくれ」という内容の手紙を受け取っていた。だが、その本当の内容を、怯えるロレッタに共有することは決してしなかった。

「まあ、そうだな」

ロニは腰に手を当て、妹を安心させるようにほどよくうなずいた。

「ジェレミアが来るって言ってたから、心配ないさ」

「ああ、本当によかった……! どうしてそれをもっと早く言ってくれなかったの? 私、昨夜からどれだけ不安だったか分かる? 心配でほとんど眠れなかったのよ!」

実験において、被験者の睡眠不足は魔力の安定にとって致命的だった。だから彼女は、常に完璧な状態で臨もうと努力してきたというのに。

「ええ、まあ。直前まであなたをからかいたかっただけよ。――でもね、もうすぐジェレミアが来るって言うんだし、そんなに心配しなくていいわ。とりあえず……まずはそのだらしない寝間着から、まともな服に着替えたほうがいいんじゃない?」

「なんでよ? ジェレミアお兄さまと寝間着のまま気楽に実験したことなんて、幼い頃から一度や二度じゃないでしょう?」

「そ、それは……ちょっといくら何でも気が緩みすぎじゃないの!?」

「実験は、リラックスして楽にやるものよ」

「だったら、せめて上に何か羽織りなさい! お嬢さまが裸足でペタペタと廊話を歩き回らないで!」

「お姉ちゃんたら、いつも私を子ども扱いするんだから」

「分かっているわよ!」

ロニは気が気でない様子で、部屋の衣装棚からいくつもある分厚いショールを引っ張り出すと、ロレッタの細い肩にぐるぐるとミノムシのように巻き付けてしまった。

「……ほら。こんなに不便にされたら、余計に実験に集中できないじゃない」

ロレッタが肩からずり落ちかけたショールをつまみ上げたその瞬間、ロニは慌ててそれを拾い、再び彼女の肩へと、今度はさらに念入りに重ねていく。まるで、大切な妹を外の危険から逃がすまいとするかのように。

「おい、お前……! あいつが、男になったあいつが、今の君を一体どんな破廉恥な目で見るかも分からないっていうのに……!」

「え?」

「いや、違うわ! 風邪が怖くないのかと言っているのよ! まだ子どもなのに、怖いもの知らずでそんな薄着をして!」

ロニはロレッタを、雪だるまよりもさらに分厚くモコモコに着込ませてから、ようやく満足したように親指を立てた。

だが、ロレッタは一分と耐えられず、彼が無理やり重ね着させた窮屈な服の中から、スルリと抜け出してしまった。

「なにするのよ、お姉ちゃん!」

ロニのヒステリックな叫び声が公爵邸の工房の二階まで響き渡った、まさにその時――魔塔の神秘的な紋様が美しく描かれた一台の馬車が、工房の正門をくぐり、玄関前へと静かに走り込んできた。

「あ! ジェレミアお兄様が到着したみたい!」

ロレッタは嬉しそうにその場から勢いよく立ち上がり、一階へと駆け出そうとする。ロニは慌てて近くに置いてあったマフラーを掴み、必死の形相で彼女の後を追った。

「ちょっと、待ち切れなくて突っ走るんじゃないわ、ロゼッタ! いいから私の言うことを聞きなさい! 今そんな格好で無防備に突っ走ったら、一生後悔することになるわよ!」

「ふん! どれだけそう言われてもお姉ちゃんの大げさな言うことなんて、もう信じないもん!」

「はしたないにも程があるでしょ! 爆発に巻き込まれたみたいに髪はボサボサだし、腕も脚も丸出しで……いったい男を前にして何のつもりなのよ! お願いだから、せめて靴下くらい履きなさい! 本当に子どもなんだから!」

「面倒くさいなぁ。自分の家の中でまで、そんな窮屈な服を何枚も重ね着して過ごさなきゃいけないわけ?」

「……本当に、私はちゃんと警告したからね!? 後でどんなに文句を言われても、私は絶対に知らないから!」

ロニは鋭い視線を向けたまま、悔しそうにきく唇を結んだ。

ロレッタは一瞬だけ、姉のただならぬ迫力にためらうように足を止めたが、「ふん」と小さく鼻を鳴らすと、そのまま踵を返し、嬉々として一階の応接室へと階段を降りていった。

ひとり二階の廊下に取り残されたロニは、壁にもたれかかるようにして片手で額を押さえ、深く重いため息を吐き出した。

「……ジェレミア。どうして私に、あんな残酷な嘘をロレッタにつかせたのよ……。あいつが来ただなんて知ったら、あの子は……」

静まり返った廊下に、その心配に満ちた独り言だけが、冷たい空気に溶けて消えていった。

「まあ、いいわ」

ロニはふと、ジェレミアが以前くれた賢い助言を思い出した。――『時に、魔法使いを荒療治で前へ進ませるためには、あえて障害をすべて取り払い、現実と正面衝突させる何か良いきっかけが必要なのだ』と。

「……それに、ロレッタは爆発に巻き込まれたみたいなあのボサボサな髪型のままでも、世界一可愛いから、何を着ていても問題ないわね」

そう冷静に考えてみると、たしかにその通りだった。いや、間違いなく我が妹は宇宙一可愛い。もし、これからやってくる魔法使いエヴァンが、その妹の愛らしさにほんの少しでも不満そうな顔でも見せようものなら、その時はボルドウィン公爵家の最高に高い壁に、あいつを二十日間くらい逆さまに吊るして放置してやっても文句は言わせないわ。

ロニはそう自分を納得させると、不敵な笑みを浮かべ、妹の後を追ってゆっくりと階段を下りていった。

 



 

 

  • エヴァンの執念の門前通いとロレッタの複雑な本心

    エヴァンはロレッタに会いたい一心で毎日公爵家を訪ねるも門前払いされるが、ロレッタは実は門の陰からその姿を見守っており、ハインを相手に「手酷く振られたからまだ怒っているけれど、彼の体調が心配」という複雑な恋心を覗かせていた。

  • 師ジェレミアの愛の伝言とエヴァンの不退転の決意

    魔塔に戻ったエヴァンは、師ジェレミアが残した温かい伝言魔法を通じ、次回の定期実験を代理として一任される。エヴァンは破滅の道(本能〈ピシス〉)を恐れず、ロレッタからもう逃げずに向き合うことを師に誓った。

  • 兄ロニの策略と実験直前のから騒ぎ

    定期実験の当日、兄ロニは「ジェレミアが来る」という師からの優しい嘘をそのままロレッタに伝え、エヴァンを警戒して妹を雪だるまのように着飾らせようとするが、ロレッタはボサボサ髪の寝間着同然の姿のまま、嬉々として出迎えに階段を駆け下りていった。

 

 

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