悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す

悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す【86話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。 ネタバレ...

 




 

86話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 聖女の追求

誰かを害そうとするなら――ましてやその相手が最高権力者である皇帝ともなれば、慎重すぎるくらいでちょうどいい。

リリカが狙いを定めたのは、全貴族や兵士たちが一堂に会する「騎士団の閲兵式」が行われる日だった。

一見するとあまりに大胆で、無謀な選択に思えるかもしれない。

フィオステ帝国の象徴は他でもない騎士であり、騎士団はその名に恥じない圧倒的な武力を誇っていたからだ。

『黄金獅子騎士団』『ブルーカル騎士団』『黒鷹騎士団』――。

大陸中にその名を轟かせる名門騎士団が一堂に会するこの日。彼らの戦力がどれほど凄まじいか、そして今日という日が帝国においてどれほど重要視されているかは、わざわざ説明するまでもなかった。

案の定、閲兵式が始まる前から会場のあちこちで火花が散っていた。

互いに向ける笑顔は礼儀正しく見えても、漂う空気は決して穏やかではない。騎士たちの剣は、なにも腰に下げているだけとは限らないのだから。

「ブルーカル騎士団は、新しい制服が本当によくお似合いですね。以前よりずっと見栄えが良くなりましたよ」

一見すると他愛のない褒め言葉だが、その本質は「筋肉が落ちて、鎧のサイズがぶかぶかになったのではないか」という痛烈な皮肉だった。意味を察したブルーカル騎士団長の表情が、一瞬だけ不自然に強張る。

「はは、黒鷹騎士団長殿にそう言っていただけるとは光栄です。日々鍛錬を欠かさず肉体を絞り込んでいる成果でしょう。そちらの騎士団の皆さんこそ、少々制服が窮屈そうですが……実に頼もしい体格ですね。お顔の肌艶も非常に良く見えますよ」

「痩せたのはこちらではなく、そちらの鍛錬不足でしょう。そちらの若い者たちは肉が付きすぎて、ずいぶん怠け者に見えますがね」

黒鷹騎士団長の眉がぴくりと動いた。

「……我が黒鷹騎士団の平均身長は、昨年よりさらに伸びました。成長の止まったご年配の騎士ばかりが集まるブルーカル騎士団には少々理解しづらい話かもしれませんが。背が伸びるたびに制服を新調せねばならず、少々忙しくてね」

「おやおや、お忙しそうですね。まさか今日の閲兵式より大事な予定でもおありなのですか?」

騎士団長たちがさらに激しくやり合う前に、周囲の侍従たちが慌てて仲裁に入った。だが、その張り詰めた空気は、閲兵式を見に来ていた観客の貴族たちにも筒抜けだった。

「ご高齢の騎士様方は、もう剣術の腕前より、お腹の出っ張りの方が目立っているのかもしれませんね」

「新人騎士の実力なら、確実に黒鷹騎士団の方が上でしょう。ブルーカル騎士団は世代交代がうまく進んでいませんから」

人々はそれぞれの騎士団を比較しながら、ひそひそと囁き合っていた。

だが、その最中ですら、この記念すべき日に「何か危険な事件が起こる」などとは、誰一人として想像すらしていなかった。帝国中に名を轟かせる最強の騎士たちが、これほど一堂に会しているのだ。テロを企てる愚か者がいるはずもない――誰もがそう油断していた。

しかしリリカは、だからこそ今日という日が「最適」だと考えていた。

『これだけ最高峰の騎士たちが集まっているんだから、何も起きるはずがない――誰もがそう思い込んでいる時ほど、逆に最大の隙が生まれるものよ』

リリカは、洪河(ホンハ)の一族の拠点を襲撃した際、ただ族長たちの命を奪って恐怖で縛り付けるだけでは終わらせなかった。彼らと長く話し合い、今後の計画についてもすべて協力を取り付けていたのだ。

その過程で、リリカは彼らの呪術を「別の形」で応用できることに気づいた。

『呪術は魔法とは違うわ』

ここに集まった騎士団員のような超一流の実力者ほど、視覚よりも「気配」で相手の攻撃を読み、魔力の流れを感知する。つまり、気感に優れた騎士であればあるほど、魔力とは質の異なる「呪術の気配」には引っかかりやすいのだ。

同じ手は二度と通じないだろう。だが、一度きりの初見殺しなら――確実に通用する。

皇宮から少し離れた森の中に、ひっそりと佇む別荘。

工事が途中で止まり、今は半ば廃墟のようになっている建物の中で、リリカは隣にいる者たちを見回しながら口を開いた。

「……あの時は言えなかったけれど。遅くなったわね。今までありがとう」

だが、誰からも返事は返ってこなかった。

それも当然だった。リリカが声をかけた相手たちは、皆すでに口を封じられ、光に満ちた生贄の魔法陣の上で全身を拘束されていたからだ。

魔法陣の中心で、洪河の一族はただ震えることしかできなかった。血走った彼らの瞳には、言葉では表せないほどの激しい怨念が宿っている。一度見たら夢にまで出てきそうな、凄まじい呪詛の視線だった。

何十もの凄惨な敵意を一身に浴びながらも、リリカは平然としていた。

「沈黙は肯定って言うでしょう?」

むしろ応援されているかのように、彼女は愛らしくにこりと笑った。

この建物は、増築のために工事を始めたものの、予算不足で中断された場所らしく、人通りが極めて少ないため選ばれた。建物自体はほとんど完成していた段階で止まっていたため、崩落するような危険はない。

――もっとも、どのみち問題にはならなかった。どうせここにいる生贄たちは、全員今から死ぬのだから。

「あなたたちの尊い犠牲は忘れないわ」

リリカは神殿の傭兵を引き連れて現れたその瞬間、洪河の一族全員の命を奪う術式をセットしていた。

あの襲撃の夜、刃を突きつけられて従うしかなかった洪河の一族は、しばらくの間、すべてを失ったような絶望に沈んでいた。だが、冷静に考えてみれば、そこまでリリカを恐れる必要もないはずだと彼らは高を括っていたのだ。

リリカにできることといえば、「命令に従わなければ殺す」と脅すくらいしかないのだから。一族全員が死ねば、リリカ側にとっても手駒を失う損害になる。だから無茶な命令はできないはずだ、と。

そもそも、公爵家の令嬢として何不自由なく温室で育った少女に、それ以上の残酷な真似ができるはずがない。

だが、リリカは彼らの想像を遥かに超えて冷酷だった。

ある日、リリカは一族のうち数人だけを呼び出し、平然とこう告げたのだ。

「ここであなたたちが犠牲にならなければ、その代わりに、あなたの恋人を、子どもを、親をここへ連れてきて生贄にするわ」

その言葉は残虐そのものだった。だが、彼女はまるで極上の慈悲を与えているかのような優しい口調で、それを“選択肢”として提示したのだ。

「どうせあなたたちの命は、今はすべて私が握っているもの」

洪河の一族は、結局のところ、社会の底辺で行き場を失った者たちの集まりだった。ゆえに社会に馴染めない代わりに、身内への情は異様なほどに深い。リリカが呼び出した者たちは、その中でも特に家族愛の強い者たちだった。

リリカは、彼らが「自ら犠牲になるしかなくなる唯一の弱点」を、正確に突いたのだ。

「……あなたたちだけで終わらせましょう。私もこれ以上、無意味に残酷なことはしたくないのよ」

必要なら、その言葉が本当だと今すぐ証明してもいい――。

そんな脅迫を含んだ優しげな微笑みに、彼らは結局、愛する家族を守るために自分自身の命を差し出すことを選んだのだった。

リリカには、彼女に絶対服従を誓うジャコブがいた。彼は、彼女に忠誠を誓う前から――引き続き洪河の一族と共に暮らし、呪術の特性をリリカに流し続けていた。やはり、ジャコブが教えてくれた呪術のノウハウは絶大だった。

「じゃあ、よろしくね」

リリカは振り返り、魔法陣の鍵を握るジャコブににこっと笑いかけた。

すべて準備は整っていた。彼女に残された最後の役目は、華やかな表舞台に立つことだけだった。

自分の一族を地獄の炎に投げ込んででも、リリカを王座へ押し上げようとするジャコブの目は、完全に狂気に満ちていた。彼は迷いなく術式を発動させると、リリカの乗った馬車が向かった、閲兵式の行われる皇宮へと足を運んだ。

「プリムローズ公爵家から来られたのですね」

皇宮の正門前では、網の目のように厳重な検問が行われていた。

エノク皇太子と皇帝の衝突以降、皇宮の警戒レベルは引き上げられていた。相手がどれほど名門のプリムローズ公爵家であっても、徹底的な調査を行うその姿勢は、さすが現皇帝の統率力というべきか。一度入宮するたびに、尋常ではない時間がかかる。

「問題がなければすぐに終わる調査ですので、少々お待ちください」

何もしていないのに、まるで犯罪者のように何度も厳重なボディチェックを受けさせられるせいで、並んでいる貴族たちは一様に気分を害しているらしかった。皇帝には直接文句を言えないため、末端の守衛騎士に理不尽な八つ当たりをする光景も珍しくない。

だが、リリカは近づいてきた若い騎士に、怒るどころか、むしろどこまでも優しく微笑みかけた。

「お疲れさまです、騎士様。大変なお仕事ですね」

「あ……は、ありがとうございます!」

リリカは洪河の一族から、呪術をもっと巧みに、 shadow に隠れて扱う方法を学んでいた。

これまでは『ジャコブのように、完全に自分に溺れている相手でなければ効果はない』『一度に一人程度を洗脳して操るのが限界だ』と考えていたのだが――。

『ほんの少しの間だけでいいじゃない』

骨抜きにして操るまでの洗脳は無理でも、自分に好意を抱いた相手を「一瞬だけ激しく恍惚とさせ、思考をぼんやりさせる」程度なら、初対面の人間相手でも容易に可能だと知った。

「確認いたします。リリカ・プリムローズ公爵令嬢でお間違いありませんか?」

横暴な貴族ばかりを相手にしていたせいか、リリカの優しい態度に若い騎士の顔がぱっと明るくなる。

「はい、私がリリカ・プリムローズです」

リリカは相手の目をまっすぐに見つめ、極上の笑みを浮かべた。

短いといえば短い、ほんの一瞬の視線合わせ。

だが、それだけで十分だった。

騎士の表情が、一瞬でぼうっと緩む。リリカはその決定的な隙を見逃さず、すれ違いざまにその手で、騎士の胸元へ素早く「呪術の種」を植え付けた。

今日の騎士団の叙任式には、皇太子エノクも出席していた。

彼はフィアスト帝国の次代の皇帝となる人物であり、帝国の最高戦力である騎士たちに目を配り、その忠誠を繋ぎ止める役目を怠るわけにはいかなかった。

いつものように、集まった貴族たちと社交的な挨拶を交わしていたその時、会場の片隅でひそひそと話す人々の不穏な声がエノクの耳に届いた。

「聖女……いや、リリカ・プリムローズ令嬢が来ているのか?」

リリカもまた、今日の式典に出席していたのだ。

こうした騎士団の叙任式では、古くから神殿の最高位の神官が参列し、「折れぬ精神と強靭な肉体で騎士道を貫け」という祈祷文を読み上げる慣習がある。神の加護のもとで、騎士の誕生を祝うのだ。

実際に神聖力を発揮して肉体的な効果を与えるわけではないが、神官から祝福の言葉を受けること自体が、騎士たちにとって最大のステータスであり名誉だった。

しかし、今回の叙任式では、皇太子エノクとジェステラ皇帝が事前に示し合わせ、神官の出席を完全に「禁止」していた。全面的に神殿と対立する意思を、全貴族の前で示すためだ。それは同時に、ユリアと共に進めている医薬事業を今後も国策として支持し続けるという、強力な意思表示でもあったのだが……。

エノクは、リリカが「聖女」としてではなく、ただの「プリムローズ公爵令嬢」という私的な立場でこの場に訪れていたことに気づいた。

聖女としての立場を剥奪され、締め出されたも同然の場に来るなど、プライドが傷つくのは明らかなのに、わざわざ。

「どういうつもりだ? 何をしにここへ来た」

「侍女の足すら治せなかっただの、本人への悪評が散々言われている最中なのに、よくもまあ皇宮にまで来られたものだわ。叙任式は華やかとはいえ、絶対に来なければならない場所というわけでもないのに」

貴族たちの冷ややかな囁きは、もっともだった。リリカを見つめるエノク皇太子の目が、不審そうに細められる。

――いや、違う。何か目的があるはずだ。

騎士団の叙任式が本格的に始まろうとした、まさにその時。

リリカは周囲の視線を浴びながら、まっすぐエノク皇太子の前へと歩み出た。

「皇帝陛下が神官たちの謁見を拒否していると伺いました。まさか皇太子殿下まで、神殿と皇室の間を取り持つことを拒んでおられるのですか?」

あまりにも真正面から切り込まれた政治的な文句に、その場にいた全員が鋭く息を呑んだ。しかも場所は皇太子のすぐ目の前。見守っている有力貴族たちも大勢いる。

ただでさえ空気が危ういと察していたプリムローズ公爵は、顔を青ざめさせて即座にリリカのもとへ駆け寄った。

「な、何を言っているんだ、リリカ! 控えなさい!」

出席しただけでも十分に目立っていたのだ。本来なら、ここでは息を潜めて静かにしているべきだった。

ただでさえ『魔族討伐で同行した実の兄の足すら治せず、切断に追い込まれた無能な聖女』という噂が広まっている最中だ。なぜわざわざ自分から騒ぎを起こすのか、父親である公爵にも理解ができなかった。

「はは……皇太子殿下、申し訳ありません。うちの娘がまだ未熟なもので……」

公爵がリリカの腕を引いてその場を退こうとしたが、リリカの動きはすぐに止められた。

「フィアスト帝国が物質文明に傾倒し、神官たちを軽んじている現状を、私は非常に憂慮しております」

リリカはその場に立ったまま、エノクへの追及を止めない。

緊迫した沈黙が流れる中、エノク皇太子は落ち着いた様子で口を開いた。

「一つだけお尋ねします。あなたは本日、聖女としてここへ来られたのですか? それとも、帝国の令嬢として来られたのですか?」

それは、「プリムローズ公爵令嬢として来たのなら、身の振り振る舞いを弁えるべきだ」という、遠回しながらも鋭い牽制だった。

「神官の入場は公式に禁じています。ですから、もしあなたが聖女として来られたのであれば、入場自体が認められないはずですが」

つまり、「この辺で大人しく引き下がり、騒ぎを大きくしないでほしい」という、エノクなりの最後の配慮でもあった。

それでもリリカは不敵に食い下がった。

「せめてこの場で、聖女として騎士たちへ祝福の言葉だけでも述べさせてください。これまでずっと行われてきた由緒正しき儀式ではありませんか。それすら拒絶なさるということは、まさか神聖力そのものを軽視しておられるのですか……?」

ここまで公衆の面前で挑発されてしまえば、エノク皇太子もこれ以上、優しさを見せる必要はなかった。

「そのような神殿の権威失墜を憂う暇があるのなら、令嬢にとっては今、お兄上の世話をなさる方が大切ではありませんか?」

エノクの氷のような言葉が突き刺さる。実の兄の足が切断されたばかりだというのに、そんなことよりも騎士団の前で祝辞を述べたいなどと言い出すのか。

「私ならそうします。人前での役目も大切でしょうが、やはり家族こそ最も大事ではありませんか?」

――あなたのせいで兄上はあんな状態なのに、それでも権力に執着するのか。

そんな意味を含んだ言葉だった。

リリカの顔が屈辱でかっと赤くなると、それを見た周囲の貴族たちが一斉にざわめき始めた。

「他はともかく、今回はエノク皇太子殿下の言う通りだと思うわ。自分も同行していたのに、お兄様の足が切断される事態になったばかりでしょう? 今さら何を考えているのかしら。令嬢はそこまで愚かな方ではなかったはずだけれど」

「それでも、致命傷なら神聖力に頼るしかないじゃない……」

「聖女なんて、持ち上げすぎだったのかもしれないわね」

しばらくして、刺すような陰口を浴びたリリカは、深く息を吐いてようやく冷静さを取り戻した。

「……いつか皇太子殿下も、再び神を求める日が必ず来るでしょう。その日を、どうか覚えておいてくださいませ」

今の言葉は、先ほどのように感情をむき出しにしたものではなかった。どこまでも慈悲深く、哀れむような、「聖女」としての穏やかな声だった。

「まもなく叙任式が始まりますのに、騒ぎを起こしてしまい申し訳ありませんでした。私はしばらく休憩室で祈りを捧げております」

リリカは結局、自分が一歩引く形で、優雅にその場を去っていった。

「神殿に身を置いてまだ日が浅いと聞いていたが……思った以上に信仰心が強いようだな」

なぜわざわざ自分に不利な状況を作ってまで直談判したのか理解できず、人々は首をかしげた。ひとまず話が収まり、プリムローズ公爵もようやく安堵の息をついた。

――計画通り。ちょうどいい具合に、最高の騒ぎを起こせたわ。

リリカがあんな無謀な行動を取ったのは、ただの激情や薄っぺらい信仰心からではなかった。

『神官としての自分』が、皇族から不当に冷遇されているように見せる必要があったのだ。

皇族に対して神官である自分が公然と対立する姿を見せ、その直後に大事件が起きる――それが、神殿を復権させるための理想のシナリオだった。

ともかく、リリカは先ほどの一件で、「重傷者が出た時には、やはり神官が必要だ」という話題を世間に植え付けることには成功していた。

兄を治せなかったことで個人としての力量は疑われたが、どうせ避けられない話なら、今ここで出てしまった方が都合がいい。

その方が、後から“どんでん返し”が起きた時、より強烈な反動になるのだから。

さらにリリカは、最後の会話の中で、自分がこれから「休憩室」にいることもさりげなく周囲へ印象づけていた。

事故が起こる前にやるべきことは、すべて終えている。休憩室にいるとなれば、自身のアリバイも完璧だった。

皇帝を狙うにしては、あまりにも周到で完璧な準備。

今日のリリカの計画は、一つとして破綻していなかった。

誰も知らないことだが、この一連の出来事の鍵を握るのは、先ほど彼女が正門前で術をかけた「あの若い騎士」だった。

今はただ、体調が悪い程度にしか見えない。だが実際には、時間が経てば発動する時限式の呪術に侵されていた。

魔力を持たない者たちは、その危険性にまったく気づけない。現皇帝は強固な権力基盤を築いていたため、これまで暗殺未遂すらほとんど起きなかった。だからこそ、危機管理は比較的甘い。

しかも、皇宮騎士になるほどの強靭な人間が、自らの生命力を燃料として燃やし尽くすのだ。さらに、そのエネルギーは裏の別荘の魔法陣で繋がれた「洪河の一族の命」まで巻き込むことになるのだから――。

呪術は、確かに魔法や剣術ほど強大な力ではない。

それでも、数十人の命を代償にしたその爆発の規模は、相当なものになるはずだった。

――さあ、爆発の後、皆どんな顔をするのかしら。

ユリアに向ける時とはまるで違う、冷たく鋭いエノク皇太子の表情が脳裏に浮かぶ。

あの高慢な顔が、絶望によってどんなふうに崩れ落ちるのか。

リリカは込み上げる笑いを堪えきれず、唇を押さえながら、休憩室へ向かう廊下で小さく肩を震わせた。

 



 

 

  • リリカの冷酷な計画と完璧なアリバイ工作

    リリカは、全騎士団が集まる閲兵式こそが最大の隙を生むと睨み、暗殺計画を始動。洪河の一族の愛する家族を人質に取り、彼ら自身を生贄の魔法陣へ縛り付けます。さらに、自分が「休憩室」にいることを周囲に印象づけ、完璧なアリバイを用意します。

  • 皇宮の検問突破と「呪術の種」の植え付け

    厳重な検問の中、リリカは若い騎士に極上の微笑みを見せて一瞬の隙を作り、時限式の「呪術の種」を胸元へ植え付けます。この呪術は、騎士自身の生命力と、別荘で生贄となる洪河の一族の命を燃料として燃やし、大爆発を起こす仕掛けでした。

  • 皇太子エノクへの挑発と神殿復権へのシナリオ

    叙任式の場で、リリカはエノク皇太子に対して神殿の冷遇を公然と批判・挑発します。エノクから兄の足の件を持ち出され屈辱を受けながらも、あえて対立構造を周囲に見せつけることで、爆発事件の後に「やはり神官(重傷者を治す力)が必要だ」と思わせる破滅のシナリオを完成させます。

 

 

 

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