こんにちは、ちゃむです。
「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

36話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 社交界の華③
「ふむ、では私が社交界を揺るがさなければなりませんね。」
「えっ?」
「ユリア嬢があれほど自分に自信が持てないのには、何か理由があるのでは? 私が皆の口をつぐませるようにしなければなりませんね?」
ユリアは思いもよらぬ言葉に一瞬息をのんだ。
「小さい頃からあれほど遠慮がなかった方が……うーん、まあ、とにかく私がユリア嬢を少し失敗させたとしても、もうそれ以上の過度な非難は受けないようにしてさしあげます。二度と!」
プリムローズ公爵夫人が以前よりも社交界によく出てくるようにはなったが、若い未婚令嬢の領域はまた少し異なると言いながら、
ビビアンは両肩を大きく広げて大声で宣言した。
「私のために、そこまで……」
「だって、今日プリムローズ公爵夫人に推薦をお願いしてくれたじゃないですか。その恩も返さないと!」
「いいえ、今日は化粧品の話をしてくださっただけでもありがたかったです。それに、さっき貴族たちにはユネットでないといけないって……」
「いえいえ、私のほうがもっと助けられたと思います。ただ正直に話しただけなんです。ユネットのおかげでしょう?いいものはお互いに共有しなきゃ」
「そう言ってくださるなら、皇女殿下の推薦は私の母にとっても光栄なことですよ!」
声を張り上げていた二人は、やがてくすくすと笑い出した。
再び少しおどけたように口元を緩めたのは、ビビアン皇女だった。
「ユリア令嬢が誤解してる気がするの!社交界での活躍は、令嬢のためだけでなくお兄様のためにもなることなんです。令嬢だけのためじゃないんですよ?」
負担に思わないでというように、少し茶化したような口調。
「私って、見た目よりも野心家なんですか?」
「ええ、そうみたいです。私は殿下の大きな意図を見抜けませんでした。」
「もうわかったから大丈夫です。」
ビビアン皇女は静かに、そしてわずかに微笑んだ。
「本当に、大したことじゃないんですよ。お兄様だけでも私よりたくさんの人に会ってきましたし。お兄様は私よりももっと大変だったと思います。私がこの肌で人に会えないと悩んでいたぐらいですから。」
「……」
「皇女という立場で社交界で私が活躍すれば、今度はお兄様の助けになるんじゃないですか?」
はっきりしていたビビアン皇女の声が、少しだけ弱くなった。
エノックという人物が幼い頃に皇太子になり、どれほど多くの苦労をしてきたのか、ユリアにもなんとなくわかっていた。
「最近お兄様は眠れなくて……」
「眠れないんですか?」
「ええ、でも……お嬢様はよく眠れていますか?」
「横になるとすぐに眠れるくらいには疲れていますけど、大丈夫ですよ。皇太子殿下のお仕事がそれほど重いのか、一度お話を……」
「ううん、お兄様がただ眠れないだけなんです。」
ビビアン皇女の言葉の裏に感じられるニュアンスからは、エノック皇太子に時間がないというより、横になっても眠れなかったようだった。
「まあ、気を使うことがいろいろありますから。」
「皇太子殿下が何かでお困りだとおっしゃっていたことはありますか?」
「…そんなこと、あるわけないでしょう。何も言わないんです。本当は隠そうとしてるのに、側近たちが私に話すからそうなるんですよ。」
お兄様を思うビビアンの気持ちが伝わってきた。
ジキセンやユリアとは違い、心から兄のことを案じる妹だった。
「特に今は夏ですし…。」
「えっ?」
「あ、ああ。ただ…私も兄も夏が好きじゃないんです。」
何か他にもあるように感じたが、ユリアは深く追及せず、ただ黙ってビビアンの話に耳を傾けた。
「母と兄が亡くなったのが、ちょうどこの季節だったんです。」
何も言わなくなったビビアンは、それが気に入った。
『やっぱり良い人だわ。』
エノック皇太子を目的にビビアンに近づいてきた令嬢は一人や二人ではなかった。
彼女たちの共通点は──自分といるときはさほど関心を示さないが、皇太子の話題になると目の輝きが変わるということ。
「何を話していたのですか?」
そしてその瞬間、エノック皇太子が会話に加わった。
考え事にふけっていたビビアンは、突然現れたエノック皇太子を見て、目を大きく見開いた。
「気配もなく現れるなんて?」
「君があまりにも考え事に没頭していたのでは?プリムローズ令嬢、もしかして驚かせてしまいましたか?」
兄妹のあいだに挟まれるような形になったユリアは、すぐに話題を変えた。
「今日の建国祭の儀式は、もうすべて終わったのですか?」
「はい。第一部も第二部も、すべて終了しました。」
他の社交の集まりとは違って、建国祭は彼が直接取り仕切るべきことが多く、ビビアンのそばにずっといるわけにはいかなかった。
また、エンゲージメントの相手がそばにいるというのも、別の意味合いがあるということだ。
「ビビアンのそばにいてくれて、ありがとう。」
「助けられたのは、むしろ私の方です。」
ユリアがビビアン皇女の復帰を助ければ、そのビビアン皇女が関心をユネットに向けてくれる。
お互いにとって得になる関係だった。
ユリアの返事を聞いたエノックは、静かに笑った。
「私がそばにいても大丈夫でしょうか?」
ユリアは、エノック皇太子が以前の会話を覚えていたことに気づいた。
自分の評判のせいで、エノック皇太子のそばにいることがつらいと感じていたから、気遣ってくれているのだ……。
『二人きりじゃないし、大丈夫よ。誰が見ても妹に会いに来たっていう状況なんだから。』
ユリアがそう考えると、エノック皇太子も心の中で安堵のため息をついた。
まさに今、ユリアと二人きりではなかったのが幸いだった。
『これからは、まず質問してから確認しないと。』
髪に手を伸ばそうとしたその時、まだ触れてもいないのに、ユリアはとても慌てた様子を見せた。
謝って、そしてその謝罪を受け取ったはずなのに──。
まるでウサギのように驚いたその様子が頭から離れなかった。
そしてどこか少しばかりぎこちない雰囲気を感じて……それもまた奇妙に思えた。
「まあ、そんなことまで聞くの?」
ユリアと親しくなったビビアンがいてくれてよかった。
さっきのような気まずい空気にはならないはずだから。
『…以前はビビアンとフリムローズ嬢が二人きりのときの方がもっと気まずかったのに。』
こちらへ来る途中に見た二人は、まるで昔から仲が良かったかのような和やかな雰囲気だった。
『さっき二人でいるのを見たときよりも、もっと親しそうに見えたわ。』
むしろユリアと頻繁に会っていたのは自分なのに、という話だ。
エノック皇太子は事業を準備するなかでユリアとどれほど会っていたのか、深い話をどれだけ交わしたのか――。
誰かに押しつぶされたかのように、ビビアンの気分は重くなった。
『くだらない考えね。』
そのとき、他の夫人たちと挨拶を交わしていたプリムローズ公爵夫人が戻ってきた。
「ユリアが来てたのね。私がいない間に、皇女殿下のお世話をしてくれてたの?」
プリムローズ公爵夫人は先ほどもエノック皇太子と話をしていた。
先ほどとの違いは、今回はユリアが一緒にいたという点だった。
「エノック皇太子殿下、いかがですか? うちのユリア、事業の方はうまくいっていますか?」
プリムローズ公爵夫人は席を外していたついでに、軽い調子で様子を尋ねただけだったが──
「これ以上なく順調です。おかげさまで私も多くを学ばせていただいています。」
エノック皇太子は彼女の言葉にすぐさま応じた。
極端な感情を表に出すことは、貴族にとって推奨されることではなかった。
何十年も公爵夫人として過ごしてきたにもかかわらず、彼女の表情がこれほどまでに揺らぐとは。
『…ユリアが誰かに褒められるのなんて、もう何年ぶりかしら。』
いくつかの不運な出来事により、ユリアは激しい非難を受けてきた。
彼女はそんなに粗雑な人間でもないのに。
プリムローズ公爵夫人は、自身の驚きをあまり出さないよう努めながら、口を開いた。
「皇太子殿下がお褒めになるなんて。たぶん私を気遣っておっしゃってくださったんでしょうけど、やっぱりうれしいですね。」
「いえ、本心からです。プリムローズ令嬢は尊敬に値する方です。」
「……」
プリムローズ公爵夫人は、その言葉に思わず言葉を失った。
彼女は今、自分が聞いた言葉をもう一度反芻した。
『今、私のことを“尊敬”してるって言った…?』
母の表情を見守っていたユリアは、遠慮のないエノック皇太子の賛辞に驚いて彼をぱっと見返した。
『皇室の上層部を率いる皇太子殿下が、ここまで絶賛してくださるなんて。』
それにしても、男が女に対して「尊敬している」と言うのは極めて稀なことだ。
その言葉を聞いて、ユリアの頬は赤くなった。
しかし、決して悪い気分ではなかった。
しかもその言葉を一緒に聞いていたのが、他ならぬ母だったということもあった。
その間、プリムローズ公爵夫人は、ユリアを取り巻くいくつかの状況のせいで内心複雑だっただろう。
たとえ彼女が態度に出していなかったとしても。
「いやぁ…お兄様、ユリア令嬢って本当に仕事ができるんですね。他人をこんなに褒めるなんて、見たことないです。」
そこにビビアン皇女も同意するように、エノック皇太子が軽々しく褒め言葉を口にする性格ではないと付け加えた。
「ユリア令嬢は素晴らしいんです。私ももちろんそう思っています。」
事業を始めてから、ユリアは以前よりも笑顔の多い日々を送っていた。
化粧品の成分配合を最終決定した日、ユネットの化粧品によって効果を得たという話を聞いた日、社員たちが教育を受けながら誇りを感じる姿を見た日――
だが、断言できるのは、今ほど幸せな時はなかったということだった。
「…そう言っていただけて感謝します。私もエノック皇太子殿下から多くのことを学んでいます。ご一緒に働けて幸せです。」
エノック皇太子のように、プリムローズ公爵夫人を感動させるような立派なことは言えなかった。
それでも… ユリアにはユリアにできることがあった。
『よくはわからないけど…エノック皇太子殿下、前よりもお疲れのように見える。』
もちろん、相変わらず整った輪郭と澄んだ緑の瞳はやわらかく輝いていた。
整った外見そのままだったが、彼女はエノック皇太子をよく見ていたからこそ感じ取れたのだった。
『あの方、眠れていないんじゃないかな…』
ユリアは思いにふけった。
「いや…とても近づけそうにないわね?」
チャンスをうかがってユリアに近づこうとしていた貴族の令嬢たちは嘆いた。
ついさっきまでユリアとビビアン皇女、二人だけだったのに、
他の貴族たちの挨拶が終わった比較的落ち着いた時間を見計らって近づこうとしたところだった。
けれど… そのタイミングでエノク皇太子があんなふうにどっしりと陣取っているなんて、誰が想像しただろう?
「ビビアン皇女殿下と親しいと思ったら、今日はユリア・プリムローズ令嬢ともずっと一緒にいるみたい。となると、エノック皇太子殿下とも…。」
「終わったわ。下手に皇太子殿下の隣に行こうものなら、比較されて見劣りしてしまうわ。」
「はぁ…。私は正直言って、社交界の花?それをなぜ貴族令嬢の中から選ぶのかわからないわ。もうエノック皇太子殿下ってことでいいじゃない。」
「ふふっ、外見もセンスも能力も、劣っているところは一つもないわね。」
自然と社交界の華を囲んで、取りとめもなく進んでいた会話の流れが穏やかに整えられていった。
本来ならビビアンが現れて、横にユリアがいるのだから、また一悶着あってもおかしくなかったが。
それを気にしてピリピリしていたのかもしれない。
二人のそばに座る前、エノック皇太子は貴族のグループ一つ一つに挨拶をして言葉を交わしていたのだ。
「建国祭のように意義深い式典に来たのだから、皆が敬虔な心で先代皇帝陛下を思ってくれれば嬉しい。帝国の貴族として。」
そんな言葉をさらりと、押しつけがましくなく伝えられるのも見事だった。
内容的には「無遠慮に馴れ馴れしく近づくな」という意味が明らかだったが…。
特に、相手が皇太子であれば、ただ率直に言ってもよかっただろうに。
頼むようでいて、でも哀願するような感じもなく。
ちょうど節度を保ちながら、誰に対しても笑顔を見せるその姿は、実に印象的だった。
その話し方と態度は、エノック皇太子を未来の皇帝候補として見る貴族令嬢たちにも通用した。
「はぁ、同じ男が見てもカッコいいな。」
「魔獣討伐の時、直接最前線に出て戦ったって思うと……正直剣もあまり振れない貴族令息たちはもう何も言えないだろう。」
「私は、あの魔獣討伐に参加してた!いやあ、あの時の皇太子殿下の姿を見てどうやってときめかずにいられる。しかもまだ成人してない年齢だったのに!」
皆の視線を集めていたのはエノック皇太子であり、たしかに貴族の令嬢と共にいる姿を見せていたが、それでも“皇太子妃候補”という言葉はさすがに出しにくい雰囲気だった。
しかし今日は、ビビアン皇女の社交界復帰とユネットに関する大きな話題があった。
エノック皇太子が挨拶してまわる中で和やかになった雰囲気の中、ユリアを冷たい目で見る者はいなかった。
けれど、そんな和やかな空気の中でただ一人、浮いていた者がいた。
リリカだった。
『いくら血筋だけとはいえ、どうして? ユリア・フリムローズがあの皇太子殿下と一緒にいるのに、なんで誰も何も言わないのよ?』
百歩譲ってビビアン皇女までならまだしも、エノック皇太子までが寛大に接しているのは納得がいかなかった。
リリカはその様子を見て、内心穏やかではなかった。
『以前だったら、あの悪女と皇太子殿下が親しいなんて噂にならなかったはずなのに!』
そして、その点こそが…リリカの心を最も苛立たせる部分だった。
以前よりもユリアの評判が良くなっている証拠だから!
『私だって久しぶりに社交の集まりに来たのに。』
誰もリリカには関心を示さなかった。
せいぜい数人だけが憐れみの視線を送ってきただけだ。
『貴族の令嬢だからってそうだとしても…私を慕っていたあの子たちまで私を無視するなんて?』
顔が熱くなった。
ビビアン皇女までが復帰し、常に彼女に敬意を表していたユリアまでもが、社交界で安定した立場を築いてしまったら、一体どうなってしまうのか…
「まるで昔みたいに、社交界で皆が羨んでいた“白百合”と呼ばれ、愛されたあの頃とは……!」
「リリカ?」
「私、体調が良くなくて。先に帰らせていただきます。」
宮殿で最も華やかなホール。
豪華に輝くシャンデリアの明かりの下、皆が微笑み、喜びに包まれた夜。
しかしそこに、リリカの居場所はなかった。
『いつまであんな風に笑っていられるか、見ものだわ。』
リリカは、自分が近づきたいと願っていた皇族たちが、まるで何もなかったかのようにユリアと語らっている姿を見つめていたが、すぐに体を反らした。

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