こんにちは、ちゃむです。
「憑依者の特典」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
117話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 堕落者の刻印
「その後、何か面白いことでもあった?」
「一週間ずっと、同じ一日が繰り返されてたよ。」
チュートリアル期間が終わりに近づいた頃、世界の摂理に逆らう災厄が起こった。
一週間にわたるループの繰り返し。
100回目の周回では、次元の裂け目が収束した直後、回帰能力に目覚める前の自分が存在する時空を見つけ出す。
リードは振り返ることもなく、そのまま軍装成形庁・韓服課へと足を踏み入れた。
ちょうどその場所では、月初を記念するための大規模な祭儀が真っ最中だった。
リードは聖化庁のすべての人間と共に、過去の自分を焼き殺してしまう。
数多くの人間の生贄まで捧げ、極限まで誠意を尽くして供物を捧げた儀式だった。
燃え盛る聖化庁・韓服課の中で、100回目の彼は最後の力を振り絞り、神に切実に願った。
――どうか、この回帰が終わりますように。
そしてリードは、回帰能力に目覚める前の自分を殺した。
時間線が分岐する前の時点に介入し、回帰の芽そのものを根本から断ち切ったのだ。
因果の法則が働き、すべての時間線に存在する自分が消滅することを願った。
しかし回帰の世界は、それを許さなかった。
「回帰者にならなかったテシリド・アルジェント」の死を無効へと巻き戻してしまったからだ。
存在が消えるどころか、またしても一日が巻き戻った。
100回目のテシリドは、何か手違いがあったのだろうと思い、再び過去の自分を殺した。
しかし、また一日が巻き戻った。
何かが足りなかったのだと考え、もう一度、過去の自分を殺した。
だが、また一日が戻る。
また殺した。また戻った。また……。
――それを合計七回繰り返した時、リードはようやく悟る。
今の結末は、かつて愚かにも世界を救い続けていた頃と何も変わらないのだと。
リードは嘲笑を漏らしながら、道化の仮面を自ら打ち砕くことを決めた。
世界を救えないのなら、せめて自分だけでも救おう――。
そうもがいていた100回目の足掻きは、こうして終わりを迎えた。
この凄惨な回顧を胸に、リードは口を開いた。
「そうだな……。俺の最後の希望も、結局は世界に踏みにじられた」
乾いた笑いがこぼれ、やがてふっと途切れる。
「世界も救えないし、俺自身も救えない……どうすりゃいいんだ」
「……」
「それで、ふと思ったんだ」
「……」
「俺の救いが“死”と同じものなら――じゃあ、世界の救いは?」
「……」
「もしかして……滅びこそが救いなんじゃないか?」
リードは左手を目の前に掲げた。
すとんと落ちた袖の隙間から、腕の内側に刻まれた聖痕が露わになる。
本来は白であるはずのそれは――。
それは黒く変色していた。
私が堕落者の烙印に目を奪われている間に、彼はゆっくりと五本の指を握りしめる。
「そうだ、それだ。世界を滅ぼせば、この世界に属する俺も一緒に滅びるはずだ」
指の骨が白く浮き出るほど、強く握り締められた拳。
その内側で、何かが粉々に砕け散っていくような錯覚がした。
「気づいてみれば、すごく気分がいい。前から俺、この世界が本当に嫌いだったんだ」
「……」
「俺があれほど足掻いて、何度も救ってきた世界を――今度はこの手で壊せると思うと、たまらなくて……本当に……本当に……」
「……」
「楽しみだ……」
緩やかな曲線を描く唇の上で、赤い瞳が淡く光を帯びた。
「これで回帰は終わりだ。そして俺は、この最後の人生を心から楽しめる気がする」
「……」
「きっちり、完璧に壊してやるさ。これ以上どんな時間線も生まれないように、この世を次元ごと消し去ってやる」
彼は世界と共に滅びるつもりだった。これ以上に華やかで壮大な葬送があるだろうか。
「アイレット・ロデライン」
低く響く声が、私の神経を一瞬で彼へと引き寄せた。
リードが座る方へと視線を向ける。
いつの間にか、狂気を覆い隠した彼が微笑んでいた。
誰かを誘惑するために作られたと言われても信じてしまいそうなほど、整った微笑。
「お前は俺の味方だって言っただろ。だからこっちに来い」
彼は、エスコートでもするかのように手を差し出した。
ここは長い木製の椅子が並ぶ礼拝堂。
彼が座る席と、私が座る席の間には、通路一つ分の距離があった。
「こっちへ来て、俺の手を取れ。俺と一緒に来い」
「……」
だが、その隔たりはまるで越えられない河のように感じられた。
差し出された手を見ないふりをして、彼とまっすぐ視線を合わせる。
「ヒーラーが必要なの?」
「さあな。いれば便利だろうけど、絶対に必要ってわけじゃない」
「……どうして?」
「世の中には、必要じゃなくてもそばに置いておきたいものってあるだろ」
彼はもう一度言った。
「お前が俺の隣にいてくれたらいいのに、アイレット・ロデライン」
「……」
胸にぶつかる本音に、息が詰まる。私は唇を開き、自分が息を止めていたことに気づいた。
「テシリド・アルジェント」
私の声にも、彼と同じ重みが宿っていただろうか。
リードの視線は、突き刺さるようにまっすぐ私に向けられている。
「私は――世界を壊そうとしているあなたの味方にはなれない。でも」
私は彼に向かって手を差し出した。
「もし、もしも……」
「……」
「たとえわずかな可能性でも、回帰を断ち切る別の方法があるかもしれないなら……私と一緒に探してみる気はない?」
「……」
私たちは互いに手を差し出したまま、相手がその手を取ることを願った。
しばらくして、返ってきたのはかすかな笑い声だった。
「一緒にやろうっていうその“努力”の中には、世界を救うことも含まれてるんだろ?」
「……」
「わずかな可能性、ね」
否定はできなかった。
千年ものあいだ希望をすり減らしてきた彼にとって、私の言葉はただの綺麗事に聞こえたかもしれない。
次の瞬間、彼が怒りを露わにする――そう思った。
けれど。
「アイレット・ロデライン。そんなもので俺を止めようとするなら、もっと早く現れるべきだったな。せめて94回目が終わる前には」
「……」
「どうする?お前の存在と世界の救いを天秤にかけて取引するはずだった俺は、もうとっくに死んでる」
「……」
「それなのに、どうして今さら現れた?」
彼は先に手を引いた。
「残念だよ、アイレット・ロデライン」
「……」
予想通りだった。
世界の滅びだけを目的にした100回目のテシリド。
彼には説得も、妥協も通じない。
それでも、私は。
「もう一度考えて、テシリド」
「……」
「私の手を取って」
「……」
私は力を込めて言った。
「まだ遅くない」
彼の瞳がわずかに見開かれる。滑らかな虹彩の奥に、鮮烈な光が宿った。
「面白いな。もう千人以上殺しておいて、それでも“遅くない”って言うのか?」
その声音に滲むのは、紛れもない狂気だった。
「ああ、そうか……お前は何も知らないんだな。こんな堕ちきった背教者を抱きしめようとするなんて――この時間線の未来は、相当終わってるらしい」
事実だった。
ここは、100回目の彼が介入を始めた“17回目の時間線”。
ここで終末が訪れるその瞬間までに、彼が殺す人間の数は、もはや天文学的なものになるだろう。
彼が喜ぶような話をわざと壊してみせても、私は動揺しなかった。
むしろ、彼の興味をさらに引き寄せた。
「未来が気になる?」
私は知っている。
世界の未来も――あなたの未来も。
[世界を救う運命が微笑みます。]
[魂を裁く天秤が静かに揺れます。]
[天機を司る監察官が目を開きます。]
テシリドの目がわずかに見開かれた。
それが確かな答えだ。
私はその期待に応えることにした。
「この回で――」
言葉を吐き出し、口をきつく閉ざした。
かすかな隙間から本音が漏れないよう、全力で抑え込む。
[世界を救う運命は成就しないと告げられています。]
[天機を司る監察官は、軽挙妄動を慎むよう警告しています。]
「あなたは――」
あなたはこの世界を滅ぼすことになる。そして、その代償を払うことになる。
何度も世界を救ってきたことなど一切考慮されることなく、たった一度の滅亡の責任を背負い、凄惨で無残な結末を迎えるだろう。
世界の敵として断罪され、討伐対象となり、そして五人の人間を“英雄”へと押し上げる存在になる。
そして、生きても死んでもいられない状態へと堕ち、終身刑を宣告されることになる。
理不尽にも101回目を待たされる、救いのない原作の結末。
そこで私が見たあなたの最期を、どう表現すればいいだろうか。
失敗、だと?
いや――そんな言葉では到底足りない。
「あなたは……」
無意識に、ぎり、と歯を食いしばる。
[天機を司る監察官が、今すぐやめろと強く警告しています!]
[世界を救う運命が、必死にやめろと叫んでいます!]
[魂を裁く天秤が、口を閉ざしました。]
「破滅する。――無残に」
呪いにも等しい予言を吐き出した、その直後。
「ぐっ……!」
圧倒的な神性が、内側から身体を押し潰すように襲いかかった。
一瞬で押し潰された内臓が、血を逆流させる。
ごぼり、と手の隙間から真っ赤な血が溢れ落ちた。
[天機を司る監察官が激怒し、胸を打ち据えます。]
[世界を救う運命が、深く嘆きます。]
[魂を裁く天秤が、悲しげな表情を浮かべます。]
私は慌てて力を振り絞った。
だが、神聖力はまったく応じなかった。
[〈システム〉“天機漏洩”のペナルティを受けます。]
[〈システム〉あなたの三大力が封印されます。残り時間:23時間59分。]
[〈システム〉超越スキル『神聖降臨(視界遮断)』が封印されます。残り時間:23時間59分。]
力が完全に抜け落ちた。
「まったく……アイレット・ロデライン」
柔らかな声が耳元に落ちる。
「優しいな。禁忌に触れた未来を、わざわざ教えてくれるなんて」
「……」
「ありがとう。やっぱりお前は、俺の味方だ」
その穏やかな微笑みに、思わず期待を抱いてしまう。
――もちろん、愚かなことだった。
「いい参考になったよ。おかげで、もっと徹底的にこの世界を壊せそうだ」
「……は」
あまりの虚脱に、私は思わず額に手を当てた。
――わかっていた。やはり説得など、無意味な試みだった。
100回目のテシリドの渇望は、世界を滅ぼさない限り決して満たされない。
たとえこの先に自分の救いがなかったとしても、彼は迷わず世界の滅びを選ぶだろう。
それは、彼を欺き、裏切り、利用し尽くした世界が積み上げた報いでもあった。
正当で、抗えない復讐だ。
……そう、正直に言えば、読者だった頃の私は100回目の彼を肯定し、応援していた。
それなのに――なぜ私は、この世界、この回帰の中で、彼の前に立ちはだかっているのだろう。
混乱する私の耳元に、彼の声が落ちてきた。
「何万、何十万、何百万と殺して――そのあとでまたお前に会いに来よう。そのとき、お前が同じように手を差し出すのか、それとも違う目で俺を見るのか……楽しみだ」
彼はゆっくりと立ち上がる。
「この17回目の虫けらのような時間線で、お前に何ができるのか――見届けてやる」
「……」
「いい話だったよ、アイレット・ロデライン。夜も更けた、もう休め」
同じような時刻。
石畳の床に、冷たくも重みのある足音が響き渡る。
頭のてっぺんから足先まで、神の恩寵に包まれているかのような銀髪の美青年が、聖化庁の廊下を歩いていた。
きちんと整えられた制服が物語るように、訓練を受けた騎士である彼の歩みには、節度と気品が備わっていた。
彼こそが、“17回目”のテシリド・アルジェントだった。
いつの間にか大理石からカーペットへと変わった床が、心地よい足音を吸い込んでいく。
それほど間もなく、テシリドは目的地へと辿り着いた。
彼が立ったのは、とある枢機卿の執務室の前だった。
コン、コン、コン。
彼のように整ったノックの音が響く。
「あっ、テシリド様」
扉が開き、顔を出したのは市中担当の見習い修道女だった。
テシリドは手本のように礼をとり、柔らかく微笑む。
「こんばんは、シスター。遅い時間に失礼しますが、カトレア枢機卿に少しお目通りいただけるとお伝えいただけますか?」
「はい!少々お待ちください!」
慌てて去っていく少女の顔は、ほんのりと赤く染まっていた。
彼は多くの女性の心をときめかせる容姿と品格を備えた騎士であり、それも無理はない。
さらに回帰を重ねるごとに、彼はより洗練され、優雅さと気高さに加え、どこか超然とした雰囲気までも纏うようになっていた。
魅力を感じずにはいられない存在だった。
やがて少女が、はにかんだ笑みを浮かべて顔を出す。
「どうぞ、お入りください」
軽く礼をして感謝を述べると、彼は足を踏み入れた。
案内された先は個人書斎だった。
ぎっしりと詰まった神学書の棚に囲まれた空間には、重厚で静謐な空気が満ちている。
書類に目を通していたカトレアは、テシリドを見るとふっと視線を上げ、眼鏡を押し上げた。
「テシリド卿、どうぞお掛けください」
「お時間をいただき、ありがとうございます、枢機卿」
低いテーブルを挟み、テシリドはカトレアの正面のソファに端正な姿勢で腰を下ろした。
見習いの修道女は茶を出すと、空気を読んで静かに下がっていく。
カトレアが単独で応対するつもりであることを察したのだろう。
もともと気配りの利く人物だった。
室内には、かすかな緊張が漂っている。
はっきりと感じ取れる。
カトレア・ギルレットは、テシリド・アルジェントを警戒していた。
一方で、当のテシリドはまるで普段通りだった。
カップの持ち手を指先でなぞりながら、どこか楽しげに微笑んでいる。
先に口を開いたのはカトレアだった。
会話はごく平静に始まる。
「――それで、どのような用件でしょうか?」
「個人的に気になることがありまして、お訪ねしました。大したことではないので、少しお恥ずかしいのですが」
「“大したこと”と言うものほど、本当に取るに足らないことはそう多くないものだよ」
「そうですか」
「むしろ心配だな。せっかく来てくれたのに、私に答えられる質問かどうか」
「ご心配には及びません。生死を経験した方なら、誰でも答えられるような問いですから」
カトレアの前で、テシリドは相変わらず絵に描いたような微笑を浮かべていた。
「率直すぎましたか?」
「少しな」
厳密に言えば、それほど驚くべき話ではなかった。
カトレアが“生死の境”を経験した人物だと見抜いたのと同様に、テシリドもまた――だからこそ、彼女の能力に気づかないはずがなかった。
ましてや、さまざまな時間線を渡り歩き、数多の経験を積んできた回帰者である彼なら、なおさらだ。
ただ問題は――彼が回帰者として積み重ねてきた“時間”にあった。
彼の脳裏に浮かぶ数値。
それは、下手をすればカトレア自身よりも彼のほうが、彼女のことをよく知っているのではないかという疑念を呼び起こす。
圧倒されたカトレアは、自然と身を強張らせた。
目の前に置かれた茶器を前にしても、乾いた喉を潤す余裕すらない。
やがて、テシリドが口を開く。
まるで口に含んだ茶の香りのように穏やかな声音で。
「年を重ねた方ならお分かりでしょう。月日が流れるほど、自分の正確な年齢を数えるのが難しくなっていくものです」
「それに私は、時間の感覚が鈍るどころか、麻痺してしまうほどの境地に至っていまして。ですので――」
彼の結論は。
「私は、いくつに見えますか?」
「……」
彼女は小さく息を呑んだ。
長い沈黙。
固く結ばれた唇は、ついに答えを紡がないまま――テシリドは困ったように、かすかに笑みをこぼす。
「そんなに驚くほどの数字でしたか?」
「……」
「まあ、桁はとっくに一つや二つは増えているでしょうし」
「……」
「それでも、まだ五桁には届いていないはずですがね……」
「……」
「ああ、やはり計算がうまくいかないようですね。途中で本来の寿命さえ歪められてしまいまして。とはいえ――生死眼をお持ちのカトレア枢機卿なら、せめて桁だけでも教えていただけると助かるのですが」
老女の唇がかすかに震えた。
「あなたは……いったい、どのような人生を歩んできたのですか?」
カトレアがようやく言葉を絞り出した、そのときだった。
テシリドの表情が、ゆっくりと消えていく。
何も映していないかのように乾ききった顔で、彼は前方を見つめていた。
正面を向いているのに、そこには何も映っていない――そんな瞳。
それはまるで、世界の終わりを幾度も見てきた者のようだった。
「さあ……人生、ですか。これを人の生と呼べるのかどうか……」
「もちろん、自分の犯した罪の報いを受けたのだと言われれば、否定はできませんが」
「……別の時間線で、罪を犯したのですか?」
「ええ。大罪を犯しましたよ。せめて人間らしくいられた、最後の時間線で」
「その後は……?」
「ああ、そういえば」
枢機卿を前にしても、悔いる様子はない。
言葉を切ったテシリドの視線が、静かにカトレアへ向けられる。
「私を裁くにあたって、“生死眼”が大いに役立ったそうですね。私が回帰者であると見抜いたあなたが、非常に重い終身刑を下したと聞いています」
どんな物語にも、語られない後日譚があるものだ。
物語の外側から来たかのような、底知れない眼差しがそこにあった。
だが、深淵に引きずり込まれそうになる自分を自覚し、カトレアはかろうじて意識を保つ。
「まあ、恨み言を言うつもりはありませんので、ご安心ください」
彼は再び、何事もなかったかのように本題へと戻った。
「ただ、純粋に気になるのです。――あの奈落の中で、私は一体どれほどの時間を閉じ込められていたのでしょうか?」
リードとの対話を終えたあと、私はしばらく建物の外を歩いた。
……いや、一人ではない。
〈アイレット、大丈夫?〉
「ポーションを飲んだので、もう平気です」
アグネスも一緒だ。
[“世界を構築する運命”が時限爆弾でもないのに、どうして血なんて吐いてるんだ、と困惑しています。]
[“天機漏洩監察官”が、信徒の管理もまともにできないのかと、“世界を構築する運命”を責め立てます。]
[“世界を構築する運命”が、お前も信徒を育ててみろ、それが思い通りにいくと思うなよ、と愚痴をこぼします。]
[“均衡を司る独裁者”が、前回の神罰ペナルティを拒否したあたりから様子がおかしくなったのではないかと、遅れてきた思春期を疑っています。]
[“魂を裁く天秤”が、あなたが逸れていくたびに必ず主人公が現れていたことを思い出し、また都合のいい恋に落ちるのではと心配しています。]
温かい小言と皮肉を交えながら寄り添ってくれる神々もいる。――なんとも頼もしい人生だ。
〈ところでさ、さっきから神聖力とオーラが……〉
「一日経てば元に戻るはずです」
〈リードの前で、ちょっと危なかったよ〉
[“天機漏洩監察官”が、初犯だからといって一日で済ませたが、再犯すれば刑罰は指数関数的に重くなるだろうと警告しています。]
SS級の難易度なのに、ただの民間人に成り下がるなんて。
――本気で、二度とやらないと心に誓った。
そのときだった。
[“万象の混沌を監視する瞳”が瞳孔を震わせ、慌てて開発本部長を呼び出します。]
[“世界を構築する運命”が険しい表情で緊急会議の招集を宣言します。]
[“均衡を司る独裁者”が首を傾げながら、会議室へと足を向けます。]
[“試練の迷宮を築く建築家”が緊張した面持ちで会議室へ入っていきます。]
[“天機漏洩監察官”が特別権限を行使し、堂々と後から入室します。]
[“魂を裁く天秤”がこっそり忍び込もうとして、入口でしっかり止められます。]
どうやら、前に報告していたバグの件らしい。
新参の神々が引き上げたせいか、夜の聖皇庁の庭園はやけに静まり返っていた。
夏の花々を眺めながら、遠回りして自室へ戻ろうとした、そのとき――向かいの建物から出てきた一人の人物と、偶然目が合う。
「テリー?」
「やあ」
さっき出てきた建物は、彼の宿舎とは少し離れている場所にあった。
私は一歩踏み出して、彼に近づきながら問いかける。
「どこ行ってたの?」
「会う人がいてさ」
「誰?」
「カトレア枢機卿。……で、君は?教皇とは何もなかったのか?」
「……」
一瞬、言葉に詰まる。
「教皇と会ってきたんだろ?」
彼の声音には、わずかな焦りが滲んでいた。
余計な心配をさせたくはない。
「いや、まあ……会ったよ。言ってた通り、特に問題はなかった」
「……そうか」
作り笑いで、彼の瞳に残っていた疑念を拭い去る。喉がひりついた。
〈アイレット、リードは……〉
「アグネス」
私は微笑みを崩さないまま、言葉を遮る。
「あとでね」
〈……あ、うん〉
――これで、不自然じゃないはず。
私と彼は並んで歩き出した。
宿舎の方向は違うのに、彼は当然のように私と同じ道を選ぶ。
「どうして?この時間に、私の部屋に来るつもり?」
枢機卿たちが聞けば、きっと眉をひそめるような言い方だった。
悪戯のつもりだったけれど、相手はあの生真面目な聖騎士だ。
返ってくるのは、やはり素っ気ない答えだけ。
「送ってあげようと思って」
「そうね。あなたには親切でいる義務があるものね?」
七つの美徳と、七つの大罪。
――ああ、つまらない。
すぐに興味を失い、石畳の道をぼんやりと歩いていた、そのときだった。
「義務だからじゃない」
「じゃあ?」
「私がそうしたいから」
「……」
思わず足が止まる。
夜風が、私たちの間をゆっくりと通り抜けていった。
頭の中が、ふっと空白になる。
小さくこぼれた笑い声が、静寂を破った。
「……動揺してるね」