悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す

悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す【69話】ネタバレ




 

こんにちは、ちゃむです。

「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す】まとめ こんにちは、ちゃむです。 「悪役に仕立てあげられた令嬢は財力を隠す」を紹介させていただきます。 ネタバレ...

 




 

69話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 忘れられない誕生日

錬金術ギルドに泊まることにした私は、宿舎へ案内された。

「一般のギルド員と同じ宿舎ですが、よろしいですか?」

建物を管理している職員がそう言った。

貴族の令嬢だからと気を遣ってくれたのだろうけど……正直、このレベルならもうホテル並みじゃない?

案内された部屋を見て、思わず微笑んでしまった。

そして職員を下がらせた。

硬すぎず、かといって柔らかすぎもしない上質なベッド。

天井が高く、開放感のある部屋。

昼夜を問わず研究に没頭する職員たちのために用意された遮光カーテン。

掃除や洗濯を専門に担当するスタッフもいる。

「部屋の外の設備も悪くなさそうね。」

ギルド員の食事を担う食堂に、常に健康的な軽食が用意されている休憩室。

まだ準備中だけど、図書館までできればかなり充実するはず。

ベッドに横になりながら、私は満足げに微笑んだ。

地方から来た錬金術師たちのために、この建物を丸ごと買い取って。

その後も改装に力を入れた結果、かなり快適な環境になった。

「……私たちも入っていいでしょうか?」

「いや、君たちは近くに住んでいるだろう?」

帝都に住むギルド員たちも入りたがっていたけれど、冗談ではなさそうだった。

「構わないよ。どうせ皆のために用意したものだし。」

「さすが、ギルド長……」

ギルド員の安全のために建物内に中庭まで作って、そこで散歩もできるようにした。

「ここまでしてもらって成果を出さないわけにはいかないよな……分かってるだろ?」

「は、はい!肝に銘じます!」

そんなことを副ギルド長が言っていた気もする。

(まあ、いい動機づけにはなってるみたいだし……)

……これだけやったんだから、欲張りすぎかな――いや、せめて錬金術に没頭できる環境くらいは整えたよね?

ベッドに寝転びながら、ふとさっきのことを思い出す。

エノク皇太子がくれた、あのイヤリング。

(私がこれを着けるなら、殿下も着けていないとダメじゃない?)

対になってる――いわゆる“ペア”の通信イヤリングなんだから。

確か、両方が装着していないと機能しないって言ってたし。

(でもさっき、殿下の耳は塞がってたよね……?)

それだと、いつでも連絡が取れるっていう利点、意味なくない?

――「じゃあ、私も錬金術ギルドに泊まろうかな。」

そして私が言い終わるか終わらないかのタイミングで、エノク皇太子本人も、あっさりと同じことを言い出したのだ。

さっきの皇太子のことを思い出した。

(途中からあまり話してなかった気がするけど……)

副ギルド長のことばかり考えていて、そっちに気を取られていたせいかな。

でも「火傷を負った」と聞いた瞬間、エノク皇太子のことまで気にかける余裕はなかった。

(誕生日を祝おうとして来てくれた人なのに)

イヤリングは、もしかしたらただの口実だったのかもしれない。

次に神殿に行ったときでも渡せたはずのものだし。

それでも――まだ誕生日は終わっていないし、さっき言いそびれたお礼を、ちゃんと伝えたかった。

ちょうど同じ階の宿舎だったはずだし。

(……一度、聞いてみよう)

そう思って、私はベッドから起き上がり、エノク皇太子の部屋の扉を叩いた。

コンコン。

「皇太子殿下……」

「ああ、令嬢?」

するとエノク皇太子は、驚くほど素早く扉を開けた。

「お休みのところ、お邪魔してしまいましたか?」

「そんなはずはありませんよ。」

柔らかな笑みが返ってくる。

その穏やかな表情を見ると、不思議と安心と少しのときめきが同時に胸に広がった。

「殿下とお呼びする間もなく、すぐに開けてくださったんですね……」

「どうぞ、中へ。」

エノク皇太子は扉を大きく開けた。

私は軽くうなずき、部屋の中へ足を踏み入れる。

私と同じように割り当てられた部屋は確かに快適そうだったが、やはり皇宮とは違う。

つまりここは応接室ではなく――より私的な、エノク皇太子個人の空間だと感じられた。

一人きりの男性の部屋に入った――そんな実感が、じわりと胸に広がる。

「……」

急に緊張が込み上げてきた。

こんな遅い時間に、男性の部屋を訪ねてしまったのだろうか。

今、私たちは二人きり――?

『仕事の話をしていると、つい遅くなることもあるし、時間なんて気にしていなかったのに……』

腕も足もこわばる。

体に入った力を抜こうとしながら、私はなんとか口を開いた。

「大した用事ではないのですが……その……皇太子殿下のお耳が、先ほど塞がっていなかったことを思い出して……」

「ああ。」

エノク皇太子は、自分の耳にそっと触れた。

やはり、私の記憶は間違っていなかった。

舞踏会に出席するたび、よく耳飾りをつけていた私とは違い、エノク皇太子の耳には何の装飾もなかった。

「令嬢にしていただくつもりでした。それから後で着けようかと。皇太子宮へお戻りください。」

「私が着けて差し上げましょうか?」

反射的に言葉が飛び出した。考えるより先に。

エノク皇太子の瞳に、驚きの色が浮かぶ。

「令嬢が?」

「はい。ちょうど錬金術ギルドで必要な物は一通り準備されていますし。」

私は、以前自分で着けたことがあると付け加え、多少は自信があることも伝えた。

「正直、他人が耳飾りを着けるのを見ると、少し不安になるんです。手をきちんと洗っていなかったり、消毒していないこともありますし……」

だからこそ、私が直接やる方が気が楽なのだ。

特に耳を開けた後は、エノク皇太子に軟膏を塗らなければならないという話も、私は付け加えた。

「でも……騎士の方々はあまり開けたりなさらないのですか?」

「傷みたいなものではありませんから、大丈夫ですよ。」

どうせ片側だけですし、とあっさりした返事が返ってくる。

常につけていることを想定して作られたものらしく、幸いにもその耳飾りは派手なものではなかった。

「では……」

私は一歩踏み出し、椅子に座るエノク皇太子へとゆっくり近づいた。

そして、続く彼の行動に、思わず息をのむ。

「……」

――今の状況が、はっきりと意識された。

夜だからか、明るくはない。

ほのかに灯る明かりと、ゆっくりと襟元のボタンを外すエノク皇太子の指の骨ばった動きだけが目に入る。

……本来、耳に穴を開けるのにシャツのボタンを外す必要なんてないのに。

なのに、そのゆったりとした所作を、なぜか止めることができなかった。

ただ、その瞬間、息をするのが苦しくて――そうしているだけだった。

すぐに露わになったのは、無駄のない引き締まった首筋。

私とは違い、はっきりと浮かぶ鎖骨、喉仏、首から顎へと続く強いライン。

――男だ。

同じ剣を使う者でも、やはり体つきはまるで違うのだと実感する。

エノク皇太子の目元が、わずかに細められた。

それは余裕というより――どこか、からかうような気配を帯びている。

明かりが暗くて助かった。

でなければ、私の顔がどうなっていたか分からない。

私の瞳が大きく揺れてしまったに違いない。

「……では、お願いします。」

――いや、女性の前でそんな無防備な顔を見せるなんて、どういうおつもりなんですか……。

何も悪くないはずのエノク皇太子に、八つ当たりしたくなってしまう。

思えば以前、ユネットの店舗候補を探して遅くなった日や、日が沈んだ湖畔の公園を歩いた時も、どこか似たような感覚を覚えた気がする。

暗がりの中で見るエノク皇太子は、少しだけ――危うく見える。

「……首、声のせい?」

昼間は穏やかで端正に見えるのに、こういう時だけ、低く落ち着いた声と、どこか気を許したような表情が際立つ。

――それが、他の人には見せない顔だと分かってしまうから。

『私、エノク皇太子のこういうところに弱いのかも……』

どうしてか、少し泣きたくなった。

――落ち着いて。耳に穴を開けるんだから、手が震えたらだめ。

なんとか平静を保とうとしたけれど、別の問題に気づいてしまう。

今、私がやるべきことって――このくすぐったく揺れるエノク皇太子の髪を、かき上げないといけないってこと……?

「……」

ほんの一瞬ためらった、そのとき。

エノク皇太子が、不思議そうに私を見上げた。

「見えにくいですか?」

「い、いえ。大丈夫です。」

――変に意識しすぎないで。

私はすぐに手を伸ばし、エノク皇太子の髪をそっとかき上げた。

指先に伝わるのは、さらりとした手触り。

それに、ふわりと漂うほのかな香り。

そんな感想は無理やり押し殺しながら。

私は耳たぶをしっかりと押さえた。

自分の体温が伝わってしまいそうなくらいに。

じっとしていたエノク皇太子の体が、わずかに震えたのが分かる。

他の部分はしっかりしているのに――ああ、この人も、こういうところは柔らかいんだ。

そんなことを考えてしまって。

「……これも、耳に穴を開ける工程に入っているんですか?」

エノク皇太子が、先ほどより低い声で尋ねてきた。

「え、あ……血行をよくした方がいいと思って……」

「……そうですか。」

短い沈黙のあと、どこか落ち着いた返事が返ってきた。

深く息を吐いたようにも聞こえた。

――もしかして、気分が悪いのだろうか。

あ、私……さっきから耳たぶ、触りすぎたかも。

自分だって、耳をいじられるのってくすぐったくて苦手なのに。

「皇太子殿下も、耳が敏感な方ですか?」

できるだけ穏やかに、気遣うように尋ねる。場を和ませるように。

けれど――エノク皇太子は、ふいに顔を上げた。

「それは、どういう意味で……」

「大丈夫ですよ。私に全部お任せください。」

……照れているのだろうか?

私は思わず、彼の顔を軽く支えて正面を向かせた。

こんな大胆なことをしているのは、きっと彼の体に走る緊張が、そのままこちらにも伝わってきたから。

相手が動揺していると、逆に自分が冷静になることってあるでしょう?

――今が、まさにそれだった。

「……」

ほら、やっぱり。

今もエノク皇太子の顔が赤くなっている。

思わず口元がゆるんだ。

(ああ、耳を開けるのって緊張するよね。そんなに驚かなくてもいいのに)

――それならなおさら、私は落ち着いた様子でいないと。

エノク皇太子は椅子に座っていて、私はその前に立って見下ろしている。

だから余計に、彼の大きくなった瞳がよく見えるのかもしれない。

(こんな機会、そうそうないし)

「それでは、開けますね。よろしいですか?」

「……はい」

視線をそらしたまま、小さく返事が返ってくる。

私とは目が合わない。

その様子が、かえって――少しだけ、可愛く見えた。

「……さっき、目がぷるぷるしてたの、ちゃんと見えてましたよ。可愛かったです、殿下。」

……あれ、ちょっとやりすぎたかな。

さっきは耳たぶを触るどころか、思いっきり顔まで掴んじゃったし。

(でも、大事なところだし。失敗して傷つけたら困るし……)

そう言い訳しながら、ふと意識してしまう。

私の手は比較的大きい方だけど――それでも、彼の頬をすっぽり包めた。

すっきりした顔立ちなのに、触れると意外と柔らかい。

まるで、耳たぶみたいに。

(……また触ること、あるのかな)

――いやいや、今は集中。

私は姿勢を整えて、落ち着いた声で告げた。

「少し、ちくっとしますよ」

そのまま――ピアッサーを押し込んだ。

耳に小さな穴が開いた。

思ったより、あっけない。

あれだけ準備していたのに――一瞬だった。

「もう終わりましたよ」

ほっと息をつく。

失敗もなく、きれいにできた。

私はエノク皇太子の表情をそっと窺った。

まだ少し熱が残っているようで、なんだか可愛らしい。

そのまま、できるだけ穏やかに微笑む。

「これで、連絡が取れない時間はなくなりますね」

いつでも繋がれる。

どこにいても、声を届けられる。

……それを、私が彼の“耳”に刻んだというのは、少しだけくすぐったいけれど。

不思議と、胸が満たされていく。

「そんなに痛くなかったですよね?」

「ええ。あなた、お上手ですね」

素直な言葉に、思わず笑みがこぼれた。

エノク皇太子は、どこかぎこちない様子で首筋をなぞるように手を動かした。

「ギルドで作られた軟膏を、こまめに塗ってください。そうすればすぐに安定します。今日のために用意したものではありませんが……役に立ってよかったです」

そう言って、私はもう一度、軽く微笑んだ。

「改めて……誕生日のお祝い、ありがとうございます」

小さく頭を下げる。

ふと、耳元で揺れる感触に気づく。

そこには、彼のものと対になる――形違いの、同じ意匠のピアスがあった。

「大人になってから、誕生日に誰かから贈り物をいただくのは……母以外、初めてかもしれません」

ぽつりと漏らす。

特別で、あたたかくて。

だから、余計に胸に残る。

「私のことを考えて……必要なものを選んでくださったんですよね?」

その気持ちが、嬉しい。

こういう――何気ないけれど、誰かと分かち合う時間が。

これからも続いていけばいいと、自然に思えた。

エノク皇太子が、こんなふうに特別にしてくれる時間を――できれば、私だけが知っていたい。

「最高の誕生日でした」

心からそう言って、私は精一杯、いちばん綺麗に笑った。

その笑顔を見た彼の瞳が、ふっと揺れる。

さっきまで少し赤らんでいた頬に、また血色が戻ってきて。

そして――何かを決めたように、その表情が引き締まった。

「私も……同じでした」

「え?」

思いがけない言葉に、思わず聞き返してしまう。

どうして、ここでギルドの話が――?

戸惑う私をよそに、エノク皇太子は続けた。

それまで下げていた視線を、ゆっくりと持ち上げて。

彼はもう一度、ゆっくりと顔を上げた。

椅子から立ち上がると、私が開けたばかりの耳元で、ピアスが小さく光を弾く。

「何かあれば――我慢せずに、必ずお伝えください」

「……」

思わず言葉を失う。

その一言の重みが、胸にすっと落ちてきた。

「あなたを想う気持ちは、決して他の誰かに向けるものではありません」

まっすぐに向けられた視線。

いつもより低く、静かに響く声。

冗談でも、軽口でもない。

ただ、確かに――伝えようとしている。

「これから先で、きちんと証明してみせます」

その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。

……ああ、そうだ。

あの日は、少し不思議な一日だった。

予想もしなかった出来事が重なって、

気づけば――一生忘れられない誕生日になっていた。

 



 

 

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