こんにちは、ちゃむです。
「悪役なのに愛されすぎています」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
136話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 答え
ジェレミアの手が魔法陣の上に置かれようとしたその瞬間、ロニの悲鳴が響き渡った。
「ダメぇっ!」
声を上げると同時に、ロニは力なく崩れ落ちたロレッタを抱きしめたまま、必死に訴える姿を見せた。
「ジェレミア、ダメ!やめて!ロレッタはもう、もう耐えられない……!」
それは一緒に死のうという、哀願にも等しい叫びだった。
だがジェレミアは理性を重んじる人間であり、そのような感情的な言葉に耳を貸すことはなかった。
しかし——魔法陣に手を置いた彼の掌には、魔力が宿らなかった。
つい先ほどまで腕と手にまとわりついていた魔力は、いつの間にか彼の中へと引き戻され、渦を巻いていたのだ。
妹を失うという本能的な恐怖が、彼の魔力に揺らぎを与えていた。
「くそっ……!」
割れた窓から強い風が吹き込み、室内で渦を巻き始めた。
『……終わった。』
ジェレミアは発動しない魔法陣に両手を押し付け、歯を食いしばって絶望した。
『ガンッ!』
外から何かが落ちて砕ける音が響き、ドアが勢いよく開かれた。
堪えきれなくなったヒギンスが部屋に飛び込んできたのだろう。
ジェレミアは魔法陣の前に立ちふさがりながら命じた。
「……今すぐ、この屋敷から離れたほうがいい。」
たとえ彼がいかに忠実な使用人だとしても、これから起こる惨状の中で命を投げ出して守る必要はなかった。
「ただし、エヴァンを連れて行け。ヒギンス。」
エヴァンは驚いて、「嫌です、師匠!」と叫んだ。
外では嵐が吹き荒れていたが、ジェレミアはただ固く握った拳で魔法陣を叩きつけるだけだった。
彼の魔力は依然として微動だにしなかった。
「し、師匠……」
「エヴァン、早く行かないで何をしている!」
鋭い声でそう言い放つと、ジェレミアは身体をひねってヒギンスの方を振り返った。
エヴァンを無理にでも連れて出て行くよう叱咤するつもりだ。
「……」
だが、半開きになったヒギンスの口からは一言も発せられなかった。
扉のところで息を荒げて立っていたその人影は、間違いなくヒギンスだった。
だがジェレミアが思い描いていたヒギンスではなかった――。
『メロディ・ヒギンス!』
青ざめた彼女の顔を目にした瞬間、ジェレミアの脳裏に、一度は否定した推測がよみがえった。
『もし、誰かが“存在するだけで”この力を抑え込むことができるとしたら……それは、きっと――。』
……それは、きっと――ロレッタと絶対的な信頼と心を、最も長い時間共有してきた者だけが可能なのだろう。
ジェレミアは震える体を押し上げるようにして立ち上がった。
これまで、そんなことは考えるまでもなく愚か者のすることだと決めつけていた。
しかし、メロディの存在は、彼の心にあった根拠のない希望を完全に打ち砕いた。
ジェレミアはぎゅっと目を閉じ、叫んだ。
「ヒギンス!」
彼の意図を理解したのか、メロディは魔法陣の中央へと駆け出した。
メロディは公爵邸の広間に着くと、しばし足を止めた。
高い場所に吊るされていたシャンデリアが、今まさに広間の中央に落下したのだ。
砕け散ったクリスタルの間には、広間を飾っていた数々の装飾品が無残に倒れ、壊れて散乱していた。
「……本当に……」
メロディはロレッタの覚醒を改めて実感した。
これまでクロードやイサヤから何度も説明を聞いてはいたが、実際に目にするのは初めてだった。
ちょうどそのとき、彼女の背後からクロードとイサヤが駆け寄ってきた。
「メロディ嬢。」
「メル。」
メロディは返事をする代わりに、二階へと続く階段へ駆け出した。
『ロレッタ……!』
この屋敷で暮らす間に何度も登ったはずの階段が、今は妙に長く感じられた。
息が喉の奥まで詰まり、吐き出すように荒い呼吸をしながら、ようやく彼女は二階の廊下へと辿り着いた。
廊下の向こう側でメロディを見つけたヒギンス夫妻は驚いたが、彼女の切迫した様子に足を止めることなく、彼女はそのまま進んだ。
これまでどこにいたのか、誰も問う者はいなかった。
ただヒギンス夫妻は、メロディが通るべき扉を開けてやるだけだった。
メロディは両肩で激しく息をしながら、ジェレミアの部屋へと踏み込んだ。
「……」
彼女の目に飛び込んできた光景は、まさに地獄だった。
砕け散った窓、無残に荒れ果てた部屋、そして新鮮な絶望に包まれた人々。
原作で見た光景と少しも違わない、いや、むしろさらに凄惨な――。
「あ……」
こんな未来を望んで、公爵家に来たわけではなかった。
『ロレッタが幸せでありますように。ただ、それだけを……』
心から祈ってきた。
ロレッタのおかげで、彼女自身の人生がそうなってきたように。
メロディは長い間、自分の心に禁じてきた胸の奥に沈めていた思いが、再び浮かび上がってきた。
『私、何もしてこなかった……。いや、してこなきゃいけなかったんじゃないか?』
これまでロレッタの人生を少しでも幸せにしたいと願い、ここまで来たのは、結局メロディ自身が変わりたいという欲望だったのかもしれない。
誰かのために行動することで、自分自身がより素敵な人間になれた気がしていたからだ。
「ヒギンス!」
その時、ジェレミアの叫びが響いた。
その切迫した声が、不思議と彼女の背中を押した。
余計なことは考えず、ただロレッタのもとへ――。
「ロレッタ……!」
メロディは魔法陣の中央へと駆け込んだ。
すると、公爵とロニの腕の中で体の温もりを失っていたロレッタの唇が、かすかに動いた。
「メ……」
乾ききった白い唇から、息よりもか細い声が漏れた瞬間、メロディは力が抜けたように膝から崩れ落ち、彼女をぎゅっと抱きしめた。
「……ロレッタ。」
メロディは震える腕の中に顔をうずめた。
少女の身体はあまりにも冷たく、まるで触れれば砕けてしまいそうなほどだった。
「私が悪かった……私が……」
いつの間にか溢れた涙が視界を滲ませる。
「私の思いどおりに変えようとしたのがいけなかったんだ……」
メロディはロレッタを抱いたまま震える手で、そのふっくらとした頬をそっと撫でた。
「あなたは、一人でもきっと幸せになれた……。間違っていたのは私、全部……ごめん、ロレッタ。」
メロディの頬を伝って落ちた涙が、ロレッタの顔と喉元を伝って、涙が途切れることなく流れ落ちた。
深い後悔の中で、メロディはただひとつの願いを胸に抱いた。
――この世界のページをめくり戻し、もう一度、第一章からやり直せたら。
公爵がロレッタを連れてきて、メロディの未来と行く先を案じてくれた、あの瞬間に。
『それで、将来はこの村の医者になるつもりなのか?』
あの質問をもう一度されたなら、今度こそ迷わず答えられる気がした。
……ロレッタと共にいない未来を。
「メロディ。」
か細い手がメロディの頬に伸びてきた。
涙を拭おうとしたのだろうか。
しかし力のないその手は宙を震わせるだけで、やがて床にストンと落ちてしまった。
メロディはロレッタの手を取り、自分の頬に当てた。
その冷たい手がほんの少しだけ温もりを取り戻したとき――ロレッタはかすかに微笑んだ。
「ロレッタ、メロディのこと好きだもん。」
それは……まるで、メロディが思い出しかけていた第1章の瞬間と同じ。
医者になるかと先生に聞かれてメロディが悩んでいたとき、ロレッタは彼女の腕の中で小さな声でそう囁いてくれたのだ。
「どうして……わかったの?あのとき、わたし――」
思わずこぼした問いにも、ロレッタはいつものようににこりと笑って答えた。
「だって、ロレッタはお姉ちゃんだから。」
少しずつ意識が戻ってきたのか、ロレッタの瞳は先ほどよりもはっきりと輝きを取り戻していた。
「ねぇ、ロレッタ。わたし――」
「メロディ。」
メロディの頬に添えられたロレッタの指先が、かすかに震えながら動いた。
まるで、上に向かって何かを差し伸べるような仕草だった。
「……ロレッタのこと、好き?」
今回も、かつてと同じ質問が返ってきた。
この問いへの答えは、メロディ自身の運命を……そしてロレッタの運命までもを根底から変えてしまうものになる。
だからこそ、メロディは容易に言葉を選ぶことができなかった。
「ロレッタのこと……好き?」
涙を含んだ問いが再び響いた瞬間、彼女たちの周囲を渦巻いていた旋風が、痛ましいほど激しく唸り始めた。
風は周囲に散らばっていた紙片やガラスの破片を巻き込み、高い天井まで舞い上がる。
室内の装飾品や絵画はもちろん、大きな家具までがガタガタと震え、揺れ始めた。
メロディはロレッタを胸の中へと深く抱き寄せた。
ただ、彼女を傷つけたくない――その一心で抱きしめただけだった。
だが、こうして互いが近くにいることで、抑えきれない本心が自然とこぼれ落ちてしまったのだ。
「うん」
かすかに喉を鳴らしながら返されたその言葉に、間近にいたロレッタの瞳が一瞬まん丸に見開かれた。
「……好き。好きだよ」
メロディはロレッタの顔に自分の額をそっと寄せ、短く息を吐いた。
ただ「好き」という一言だけでは、ロレッタに対する自分の想いをすべて表現することはできない。
ロレッタは、メロディのすべての時間を愛しいものに変えてくれた存在だったのだ。
「……好き。大好き。ロレッタ。」
それでも彼女は何度も何度も繰り返し、想いを伝えようとした。
やがてメロディの背中に、ロレッタのか細い手がそっと触れた。
その瞬間、二人を包んでいた荒れ狂う風が、嘘のようにぴたりと止まった。
舞い上がっていた物たちもすべて、まるで最初からそこにあったかのように静かに元の位置へと戻っていった。
メロディはゆっくりと顔を上げ、周囲を見渡した。
「……」
あたりは一瞬にして静まり返った。
メロディはロレッタの姿と、その周囲の風景をゆっくりと目に焼き付けるように見つめた。
先ほどまで、すべてを呑み込んでしまいそうだった風の気配は、もうどこにも感じられなかった。
メロディはこの突然の静寂が何を意味するのか……なぜか直感的に理解できた。
まるで原作で見た場面のようだった。
ピシスで決意を固めたロレッタのもとへ、男性主人公のオーガストが近づいたとき、まさにこのような出来事が起こったのだ。
「えっ、どうして……?」
ロレッタに安らぎをもたらし、この穏やかな沈黙を共有するのは、本来メロディではない。
それはロレッタと“お互いに好意を伝え合う”ことになった、オーガストの役目のはずだったのに……。
「メロディ。」
ロレッタが名を呼ぶ声に振り向くと、彼女はどこか安心しきった柔らかな表情で、穏やかに笑っていた。
「私たち、今でもお互いが好き……そうでしょ?」
「……あ。」
ロレッタが口にした結論に、メロディは短く息を呑んだ。
なぜ、今の今まで気づけなかったのだろう?
「うん。」
メロディは込み上げてくる嗚咽をこらえながら、ロレッタの額にそっと口づけた。
ピシスで決意を固めたロレッタに本当に必要だった人は──
「私たちは、お互いが好き。」
もしかすると、この物語の始まりの時点から、すでにその答えはメロディで決まっていたのかもしれない。