こんにちは、ちゃむです。
「監禁王子のメイドとして生き残る方法」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
51話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 作戦決行前
その日も夜明け前に目を覚ましたアルバートは、机に向かって座り、メルシーの愚痴に耳を傾けていた。
「魔塔はまだ自分たちの味方だと思っているのか、まったく……」
杖から聞こえてくるメルシーの疲れ切った声に、アルバートは彼女の目の下に濃い隈ができている姿を思い浮かべ、小さく笑った。
「兵力を集めているそうですよ。はぁ……魔法使いたちをまとめるのが本当に大変なんです」
「ドラゴンが見せた悪夢が、それほどまでに生々しかったということだろう」
ドラゴンが死ぬときに放たれる力は絶大だ。エプネン侯爵の悲惨な最期を目の当たりにしたドラゴンなら、その最大の後ろ盾であり、力の源でもあったローストラトゥの最期も、同じように凄惨であることを望んだはずだった。
「いよいよ明日です。明日の朝五時、殿下がいらっしゃる塔へ向かいます」
時はあっという間に過ぎ、ついにローストラトゥと対峙する時が訪れた。アルバートは手にした杖をくるくると回す。決戦を目前に控えた人物とは思えないほど、その佇まいには余裕があった。
「塔へ着いたら、作戦を説明するんだったな?」
「いいえ。私たちを完全には信用していないようで、詳しいことはほとんど話してくれませんでした。予想どおりではありましたが」
正気を失い、多くの兵士や貴族を引き連れている王ではあるが、それでも敵と味方の区別くらいはついているようだった。かつて魔塔は彼に犬のように忠誠を尽くしていたが、今は違う。これまでローストラトゥはメルシーを脅して魔法使いたちを利用してきたものの、決して一線は越えなかった。魔法使いたちに頼りすぎれば、裏切られたときの痛手も大きくなると分かっていたからだ。
アルバートは静かに頷いた。もともと疑い深い男なのだから、それも予想していたことだった。
「お前の任務は、塔を開くことだけというわけか」
「はい。現時点では、その予定です」
魔法使いたちは現在、翌日の出発時刻をできる限り早めるため、魔塔を出て王宮に滞在していた。メルシーの声の向こうから、兵士たちの騒がしい足音や怒号が聞こえてくる。悪の元凶である王子を討つのだと、彼らは崇高な任務に赴く英雄にでもなったかのように士気を高めていた。
「こんなに大勢の兵士を連れていくなんて、恥ずかしくないんでしょうか……」
「狂人とはいえ、これは単なる恐怖心だけが理由じゃないな。俺を徹底的に利用するつもりか」
これほど多くの兵力を投入する理由は、単にアルバートを攻撃するためだけではない。それだけ多くの人間に、彼の最期を見せつけるためだ。見る者が多ければ多いほど噂は大きくなり、あっという間に広がっていく。
「やはり、人というものは簡単には変わらない」
王宮にいた頃も、現王はいつも彼を貶めることばかり考えていた。虚栄心にとらわれ、周囲に「アルバート王子は完全な怪物だ」と思わせようとしていたのだ。結局のところ人間の本質はそう簡単には変わらない。ローストラトゥも例外ではなかった。しかし、ローストラトゥがここまで大々的に動いてくれたおかげで、敵の戦力を削ることができたのも事実だった。
「明日は私も戦うことになりますけど、どうすればいいですか?」
「奴らが直接俺を捕まえに来ることはない。兵士では狭い塔の中に入りきれないから、代わりに魔法使いたちを送り込んでくる。その時、お前が中へ入れ」
メルシーはアルバート陣営にとって最も重要な戦力の一人だ。堂々と彼を助ける姿を見せれば、兵士たちの格好の標的になってしまう。だが、「アルバートを連れ出す」という名目で塔の中へ入れば話は別だ。塔の中では外からメルシーの姿は見えないため、彼女はその間にリアムが王宮へ入り込めるよう、時間を稼ぐ役目を担うことになっていた。
「決して怪しまれないように行動しろ」
「はい、それくらいはお任せください!」
メルシーは胸を叩きながら力強くうなずいた。
「わあ、塔の中ってどんな造りなんだろう。ずっと気になってたんですけど――ようやく中を見ることができますね!」
決戦の日を迎えたというのに、メルシーの様子には緊張感が微塵もなかった。それは、アルバートが塔に入った瞬間から着々と準備を進めてきたからこそだった。アルバートは目を細めて尋ねた。
「幻覚魔法は?」
「準備万端です♪」
メルシーは笑顔で答えた。悪夢を見せる魔法とは異なるが、人を惑わせる幻覚魔法は、彼女が最も得意とする系統だった。魔法使いはそれぞれ、育った環境や才能によって得意分野が異なる。
アルバートは、ローストラトゥが王城へ気を回せないよう、彼をこの塔に釘付けにするつもりだった。現王は、兵士たちに加え、王城直属の三つの騎士団のうち、最上位の近衛騎士団である「イーグル騎士団」を率いて塔へ向かっていた。残る二つの騎士団は王宮の守備に当たっている。
ローストラトゥは名君と称えられた先王の威光を受け継いでおり、先王が特に重用していた各騎士団の戦力は決して侮れないものだった。リアムの私兵たちは精鋭ではあったが、数では圧倒的に劣っている。他の貴族たちにも協力を求めていたものの、「アルバートが本当に塔に監禁されている姿を自分たちの目で確認できなければ協力できない」と、多くの貴族は保留の姿勢を取っていた。
結局は、速さと知略の勝負だった。
アルバートはあらかじめリアムに、王宮の地下通路についての情報を渡していた。足りない兵力は作戦で補うしかない。魔法使いたちとリアム、そしてシュバルトは王宮へ向かう。メルシーを除けば、魔塔で最も優秀な魔法使いであり氷結魔法を得意とするアイシと、炎魔法を得意とするフィオリがリアムを支援する予定だった。
つまり、この場所でローストラトゥと3万人の兵士を相手にするのは、メルシーとアルバートの二人だけということになる。
「私は横で見ているだけでいいんですよね?」
ロゼには「塔のほうにも兵力を配置する」と説明していたが、それはほとんど嘘に近い話だった。今回の反乱において最も重要なのは二つ。
-
王宮を完全に制圧すること
-
ローストラトゥの首を討ち取ること
ローストラトゥを討つには、それだけの正当な理由が必要だった。アルバートは、王が流した悪評に対抗するため、自らの過去を公にしていた。彼が外へ流した噂は広まり続け、ついには王都にまで届くほどになっていた。まだローストラトゥ本人の耳には入っていないようだが。
「私は塔でアティアス様と一緒に見学していますね、殿下。殿下が魔法を使われるところを見るのは久しぶりですから」
メルシーの言葉に、アルバートは腕を組んだまま軽く笑い、うなずいた。その表情に恐れはまったくなかった。
「お前にも仕事はある」
「どうせ殿下お一人で全部できるんでしょうに」
「恐怖に怯えている者たちの命まで、わざわざ奪いたいとは思わない」
「……そういうことか」
もし圧倒的な力でローストラトゥを討てば、他の貴族たちは二度と彼に逆らおうとは思わなくなるだろう。いや、たとえ逆らったとしても、制圧する自信はあった。だが、恐怖に震えているだけの罪なき者たちの命まで奪うことは望まなかった。どうせこれから多くの血が流れる。だからこそ、減らせる命はできるだけ救いたかった。アルバートは根がとても優しい人間なのだ。
「はい、分かりました」
メルシーは素直にうなずいた。彼女の幻覚魔法なら、一度に大勢の人間を無力化することができる。
「では、アティアス様はどうされるんですか?」
「お前と一緒に塔の中にいるのが、一番安全だろう」
「あとで出てくるよう合図を送るんですよね」
「そうだ。それと、お前も証言してくれ。俺がここにいた間、どれだけロゼに助けられてきたかを」
塔の中で最初にメルシーと接触するのは、アルバートではなくロゼになる。大勢の人が集まる場だ。アルバートは、この機会に集まった人々をロゼの証人に仕立て上げるつもりだった。計画は順調そのもので、不安要素も見当たらない。
「あまりにも順調すぎて、逆に不思議なくらいですね……」
魔塔で起きた反乱も、決して簡単なものではなかった。途中で裏切り者が現れ、各地で激しい戦闘が繰り広げられた。……だが、それよりはるかに大規模な今回の戦いは、まるで一方的な制圧で終わってしまいそうな予感がした。たった一人の、アルバートという存在のために。
「それだけの準備をしてきたからな」
アルバートは顎に手を当て、ゆっくりと息を吐いた。努力が必ず結果に結びつくとは限らない。それでも彼は、いつだって努力以上の成果を生み出してきた。それこそが、アルバート・グレイの最も恐ろしいところでもあった。
「話すべきことは、もう終わったようだな」
必要な話をすべて終えたアルバートが通信を切ろうとしたその時、メルシーが何かを思い出したように口を開いた。
「あ、今回の件が終わったら、一度牢獄へ行ってきます」
メルシーは固く拳を握りしめた。彼女の脳裏には、牢に囚われている父の姿が浮かんでいた。正確に言えば――かつて父だった男だ。人としての良心を捨て、魔法使いとしての禁忌さえ忘れ、ローストラトゥの犬のように生きてきた男。娘の嫌悪に満ちた視線にも耐えられず、ただ逃げ続けてきた男。
「終止符を打つ時が来たんです」
彼女が魔塔の主となった時、本来なら前魔塔主の処分は即座に行われるべきだった。しかし、それは今まで先延ばしにされていた。メルシー自身も、そんな自分に驚いていた。もう残っていないと思っていた情が、わずかに顔をのぞかせたのだ。かつて自分に愛情を注いでくれた人だったから。
メルシーは考え込んだ。
――自分の手で、あの男の首を斬ることができるだろうか。
アルバートは彼女に機会と時間を与え、メルシーはその時が来るのを静かに待ち続けた。そして、ついにその時が訪れたのだ。彼女は悟っていた。人はそう簡単には変わらない。あの男も同じだった。このまま生かしておけば、いつかまた自分の命を狙ってくるだろう。
だから彼女は、完璧な復讐を果たす。実の父に、自分が必死に守り続けてきた腐敗した世界が崩れ去ったことを思い知らせるために。
反乱は成功し、父が幽閉していた王子は塔を脱出し、ローストラトゥを討ち取った。そして――あなたがあれほど忠誠を尽くしてきた王は、もうこの世にはいないのだと。
「……それでも、できるだけ苦しまずに死なせてあげるのが、せめてもの情でしょうね」
「首を斬るのが一番手っ取り早い。だが、必ずそうする必要はない。苦しませたいなら、肋骨を一本ずつ折っていけばいい」
「今まで受けた仕打ちを思えば、そうしたくもなりますけど……」
家族の話をしているというのに、二人の声には何の感情も籠もっていなかった。それが彼らにとっては、ごく自然な会話だった。
アルバートはふとロゼのことを思い出した。
「家族というものは……こんなにも理解しがたいものなのか」
ロゼは、家族を失うことは耐えられないほど辛いことだと言っていた。その感情を理解できないからこそ、ロゼがドラゴンのために契約まで結んだ理由も分からないのかもしれない。
「……え?」
メルシーはアルバートの言葉の意味が分からず、小首をかしげた。アルバートは目を細め、淡々と答えた。
「誰かにとっては、大切な存在にもなれるものなんだな」
長いまつ毛がふわりと揺れた。ロゼの話をしていて、そういえば聞くべきことを思い出した。
「エプネン侯爵と黒魔法は?」
「あ、そうでした。ちょうどいい機会だったので、お屋敷をこっそり調べてきたんです。でも、どうしてご存じなんですか? かなり上手く隠されていたのに」
「見た」
それ以上説明する気はないと言わんばかりに、アルバートは先を促した。これ以上聞いても答えてはくれないと分かっていたメルシーは、小さく肩をすくめて報告を続けた。
「エプネン侯爵は、自分の魔力を高めるために、子どもたちを生贄として捧げていたようです。何度か試みたものの、途中で諦めたみたいですが」
ローストラトゥの命令を受けたメルシーは、「ちょうどいい機会だ」と喜んで侯爵邸を捜索したのだった。以前、牢でアルバートに会った際、「エプネン侯爵は黒魔法と関わっているかもしれないから調べろ」と言われていたこともあり、彼女自身も気になっていたのだ。
その結果、メルシーはエプネン侯爵が魔法で隠していた祭壇を発見した。黒魔法使いと通じていたことを示す決定的な証拠であり、その祭壇には生々しい血痕が残されていた。
「ですが、それだけです。ほかの証拠はすべて消されていました」
見つかった証拠はそれだけだった。エプネン侯爵と通じていた黒魔法使いの存在を知る者は、誰一人生かされていなかった――そう言ったほうが正確だろう。アルバートは後腐れのない仕事を好む。事件がいつまでも迷宮入りするような状況は好まなかったが……これほど徹底して痕跡を消している黒魔法使いなら、すでに死亡していると考えるのが妥当だった。
『これでロゼとつながる手がかりは、もうなくなったな』
エプネン侯爵の悪事はおのずと裁かれるべきだ。だが、彼女の師匠だったかもしれない黒魔法使いの行方が分からないのは、むしろ都合がよかった。ロゼが黒魔法使いだったという事実さえ明るみに出なければ、それでいい。アルバートはメルシーの報告を静かに聞き終え、安堵の息をついた。すべてが順調だった。
メルシーとの通信を終え、窓の外を見ると、まだ月が夜空を照らしていた。カーテンの開いた窓から、淡い月明かりが差し込んでいる。アルバートはベッドの片隅で眠るロゼのもとへ歩み寄った。
「よく眠っているな」
ベッドで眠ることには慣れていないと言っていたのが嘘のように、今ではそこが自分の居場所であるかのようにぐっすり眠っていた。ついさっきまであれほど緊張していたのに、彼女が眠りにつくと、部屋の空気もすぐに柔らかく解けてしまった。
アルバートはベッドに横になった。隣から聞こえる規則正しい寝息が耳を満たす。横向きで眠るロゼの背中に、そっと額を預けた。
「お前は、私の笑顔が好きだと言ったな」
私は、お前のすべてが好きだ。言葉では言い表せないほど、そのすべてが。
色のない私の人生を、少しずつ色づけてくれるお前が好きだ。契約書を持って現れた日、「あなたには絶対に触れません」と言い放ったあの表情も、愛らしい笑顔も、一緒に食事をして、本を読みながら過ごした穏やかな時間も、全部が愛おしかった。
塔へ連れてこられた瞬間は、もう二度と幸せにはなれないと思っていた。「あの女」の言葉を信じた自分が愚かだったと感じ、塔を出たらローストラトゥに復讐することだけを決めていた。それだけが、暗闇の中で生きる支えだった。
――ロゼ・アティオスが、その態度を完全に変えるまでは。
その後、彼女が変わってから、この場所はアルバートにとって唯一の安らぎであり、救いとなった。塔での生活は、生涯を支配してきた悪意や欲望から彼をほんのひととき解放し、そして彼女は、人生の意味とは何かを気づかせてくれた。自分が本当に幸せだった瞬間がいつだったのかを思い出させてくれたのだ。
ここで一生を過ごせないと分かっていながらも、そう願ってしまうほどに。
『……そして、思い出させた』
ロゼと過ごした時間は、心の奥底に忘れていた記憶を呼び覚ました。一度思い出し始めた記憶は、次第にはっきりと鮮明になっていく。アルバートは、失うものしか残っていなかった幼い頃に出会った、一人の女性を思い出した。生きる理由を見失っていた自分の手を握り、「人生には生きる価値がある」と教えてくれた女性を。
「あなたはきっと幸せになれる。だから、生きて――あなたの人生は……」
「……だから、人生には生きる価値があるんだ」
笑顔は澄み切った空のように明るく、話し方や性格は今のロゼに酷似した女性だった。
アルバートは、ベッドの横の床で丸くなって眠っている子ドラゴンを思い浮かべた。「ハヤン(白)」なんて可愛らしい名前は、あいつにはまったく似合わなかった。幼い頃の記憶が残っていたことのほうが不思議なくらい、あの記憶は鮮烈だった。もしかすると、記憶を消す魔法でもかけられていたのではないか――そんな疑いさえ浮かぶ。
ぼんやりとした記憶をたどっていたアルバートは、やがて考えるのをやめた。どうせ、その女性もドラゴンと共に去ってしまった人なのだから。
「……だから、ドラゴンが嫌いなのかもしれないな」
もし彼女がドラゴンの契約者でなかったなら、あんなふうに跡形もなく消えてしまうことはなかっただろう。もしかすると、ロゼは数々の試練を乗り越え、あの頃の自分に会うために現れたのではないか――。そんなロマンチックな錯覚すら覚えた。だが、現実主義者の彼はすぐに思い直す。
最初から、ロゼとあの女性は別人だった。
『私には、あなた一人だけで十分だ』
アルバートは、ロゼの頬にかかる髪をそっとかき上げた。彼の唇が、その柔らかな髪に触れる。同じ場所にいながら、思うように触れられないのはひどく苦しかった。眉をひそめたアルバートは、小さく苦笑する。
それでも、こうして一緒にいられる時間なのだ。これから先、塔を出るまであと二週間。そして、その後の一か月。それが、ロゼに与えられた最初で最後の猶予期間だった。
「これくらいなら、長く待たせることにはならないだろう」
彼のささやきは、ロゼの耳元へ静かに落ちた。ロゼの体がわずかに身じろぎする。
安堵の息をついたアルバートは、ロゼから少し距離を取って横になった。これ以上近づけば、愛しい彼女を起こしてしまうかもしれないから。