こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
168話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 真実への処刑台
大王妃アメルダを先頭に、セファス王国の軍勢が後に続いた。
そのすぐ後ろには、幼い子どもを抱いた人々が列を成していた。赤子を抱える者たちの手や腕には、無意識のうちに力がこもっている。さらにその後ろを歩く子どもたちも、保護者の衣の裾や手を強く握ったまま、誰一人として泣き声を上げなかった。
アメルダや王宮の騎士たちが、彼らに対して直接的な脅しをかけたことは一度もない。しかし、ゴーレムが弱き者たちを選び分け、別に連れ出して――その意図は、幼い子どもでさえ察せるほど、あまりにも露骨だった。
逃げ出させぬために周囲を固める兵士たちの表情も、決して明るいものではない。そもそもセリデンの民は、これほどまでに厳重な監視を受ける理由など持っていなかった。それでも、何かを疑わずにはいられない――そんな空気が漂っていた。だが、そうした疑念を口にすれば最後。背後を固めるアメルダ直属の騎士により、その場で即座に処断されることは明白だった。だから彼らは、声なきまま、不自然な沈黙を保って進み続けるしかなかった。
北側の村の入口には、巨大な門が大きく開かれていた。
兵をすべて下がらせたため、門前に立っているのは、マクシミリアンとライサンダーの二人だけだった。かつて拉致され、王都に囚われていたライサンダーは、あの頃よりもはるかに健康そうな姿で、しっかりとその場に立っている。
「おお……おお……我が息子……! 無事でいてくれたのだな、陛下……」
震える声でそう口にした大王妃の瞳には、安堵と、言葉にしきれぬ感情が溢れていた。彼女は馬から降り、ライサンダーのもとへ歩み寄ると、彼を強く抱き寄せた。
短い再会の時間が過ぎると、彼女は今度はマクシミリアンを敵意のこもった眼差しで見据えた。
「王族として、どれほど恥ずべき行いをしたかわかっているのですか? 魔導士よ、敵国の王女に流され、何の罪もない弟を誘拐するなど!」
マクシミリアンは反論しなかった。――正確には、反論できなかった。
彼の目の前には、セリデンの子どもたちが立っていた。クラリスよりもさらに小さく幼い子どもたちの背後で、アメルダ直属 of(の)騎士たちが剣を構えている。この状況で、いったい何を言えるというのか。
彼の沈黙を肯定と受け取ったのだろう。後に続く兵士たちはもちろん、セリデンの民までもが、声を潜めてざわめいた。
「誰一人傷つくことなく戻れたのは、不幸中の幸いです。ですが――先に申し上げたとおり」
アメルダの瞳が、鋭く細められた。
「その狡猾な王女を、私は決して許しません。王家の血を引く者をたぶらかし、このような――娘を生むだなんて……。その子一人の存在で、王室の歴史がひっくり返る可能性があるとは思わなかったのですか?」
彼女が片手を高く掲げた。その合図を待っていたかのように、兵士が太鼓を強く打ち鳴らす。
天と地を揺るがすかのような轟音が、次第に速度を増し、そして――唐突に、ぴたりと止んだ。
一瞬、辺りを支配したのは短い沈黙。
「王女を処刑せよ!」
誰かが喉を裂くような声で叫んだ。次の瞬間、再び鬨の声が上がり、人々の心と思考を乱暴にかき乱していく。
「王女を処刑せよ!」
今度は、騎士たちが声を揃えて叫んだ。
「王女を処刑せよ! 王女を……!」
兵士だけではない。容易く煽られた一部のセリデンの民までもが、拳を振り上げ、同じ言葉を叫び始める。
「王女を処刑せよ!」
その場には、幼い子どもたちの泣き声が混じっていた。理性を失った大人たちが吐き出す、行き場のない殺意と恐怖の中に。
恐怖が、彼らを突き動かしていたのだ。気づけばその集団は、もはや兵士と避難民ではなく、処刑を見物する群衆へと姿を変えていた。
人々は町の奥へ、雪崩を打つように流れ込んでいく。庭園を踏み荒らし、北の城壁に沿ってしばらく進んだ先――自分たちが何を求め、なぜここまで走ってきたのか、民も兵も理解してはいなかった。ただ一方で、ここで立ち止まれば、自分や家族に何が起きるかわからない。そんな本能的な恐怖だけが、彼らを前へと押し出していたのかもしれない。
「いたぞ! あそこに王女がいる!」
先行して馬で駆けていった者が引き返し、そう叫んだ瞬間、歓声はさらに膨れ上がった。
「王女を殺せ!」
「セファス王家に栄光を!」
理性を失った叫び声と、次々に重なる怒号が、人々に考える暇を与えぬまま、処刑台へと駆り立てていく。
処刑台は、崩れ落ちたゴーレムの正面に設けられていた。北の城壁と同じほどの高さに築かれた、その――処刑台の上には、ただ一人の少女が立っていた。
風に揺れる淡い桃色の髪。
それを目にした瞬間、意味も分からぬまま「処刑」を叫び続け、ここまで押し寄せてきたセリデンの人々は、はっと我に返ったようだった。
彼らは、その少女を知っている。
清廉なセリデン公爵が、まるで実の娘のように大切に連れていた子だ。だからといって、彼女が町の中を自由気ままに歩き回っていたわけではない。人前に姿を見せることは多くなかったが、たまに顔を合わせれば、控えめに微笑み、「こんにちは」と、少し照れたように挨拶をしてくれる――そんな少女だった。
雪がひどく降った日には、公爵と並んで毛皮のついたふかふかの外套を身にまとい、村へ足を運んだこともある。屋根や道に積もる雪を、家々が潰れぬよう一軒一軒、黙々と一緒に雪かきをして回った。空から降る雪は執拗なほど止むことなく、それでも少女は弱音一つ吐かず、小さな手で必死に雪を掻き続けていた――。
それが白いガロウと必死に渡り合っていたというなら、あの少女は彼らにとっての戦友だったはずだ。そんな子が……一体、どんな罪を犯したというのか?
信じられなかった。
ドン!
太鼓の音が鳴り響き続ける。処刑を叫ぶ声は、少しも衰えていないようにも思えた。だが、町の人々の本心と、今まさに起きている現実との間には、明らかなズレが生じ始めていた。
* * *
町の空気の変化を、誰よりも早く察したのは、他ならぬアメルダだった。彼女は生まれ持った勘で、今回もまた「時間を引き延ばしてはいけない」という事実をはっきりと悟る。奥歯を噛みしめた彼女は、崩れ落ちたゴーレムの方へと向かった。
巨大な岩が視界に入った瞬間、彼女の脳裏に浮かんだのは、その下に保存されているという夫の遺体だった。それは、彼女の人生にただ一つ残された不安。あの場所に触れぬよう、急いで土を掘り返し、すべてをかき混ぜて曖昧にしてしまわなければ――そうしなければ、エレオノールが再び悪夢の中から這い出してくるような気がしてならなかった。
クラリスを殺すことは、その最初の一歩にすぎない。マクシミリアンを葬るよりも、彼女を先に消す必要があったのには、確かな理由があった。あの子は、エレオノールに「似ている」などという生易しいものではない。まるで、その存在そのものが彼女だった。血のつながりがあるかどうかなど関係ない。ただ、常にアメルダの行く手を阻む存在である――それだけで十分だった。
――あの子さえいなければ。
そうすれば、ライサンダーとバレンタインは、再び自分だけの可愛い息子に戻る。マクシミリアンを追い詰め、崩れ落とす計画も、何の障害もなく進んでいだろう。すべては、あまりにも整然と、あまりにも都合よく――。
たとえキノ侯爵が彼のために力を貸してくれなかったとしても、すでに王をさらうだけの戦力を手に入れてしまったマクシミリアンを、いったい何で守るというのか。運がよければ、公爵夫人は生き延びられるかもしれない。だが、彼女が身ごもっている胎児は、生まれると同時に必ず命を落とすだろう。そうなれば、王家に残るのは、彼女とその息子たちだけだ。そのときになれば、心置きなく、またゴーレムを掘り起こすことができる。誰からも妨げられることはなく、軽率に疑われることもない。
アメルダはゴーレムのそばに降り立ち、はっとして背後を振り返った。いつの間にか、青ざめた顔で処刑台を見上げる町の人々の姿が目に入る。それを見た瞬間、彼女の胸はさらに焦りで満たされた。
彼女は片手を高く掲げる。
「もっとだ! もっと声を上げろ! お前たちの王をさらった張本人が、今まさに目の前にいるぞ!」
彼女の命令に応じ、兵士たちの怒号はさらに膨れ上がり、その声は北の城壁を越え、街の外にまで轟いていった。
「王女を処刑せよ!」
「グレジェカイアの残党を処刑せよ!」
そのとき、背後から静かな足音が近づいた。
「大王妃殿下」
声をかけたのは、セリデン公爵夫人だった。
ブリエルは、誇らしげに突き出た自らの腹部を撫でる。まるでそこに、王家の血が宿っているとでも言いたげに。その仕草に、アメルダは思わず剣を抜き、その腹を切り裂いてしまいたい衝動を必死に抑え込んだ。
そんな内心など知る由もなく、ブリエルは微塵の警戒も見せず、彼女に歩み寄り、頭を垂れる。
「ただいま、司祭様がこちらへ向かっております。もう少しだけ、お待ちいただけませんでしょうか?」
「準備は滞りなく進めるよう、はっきり命じたはずよ。公爵夫人にとって、私の命令はそれほど軽いものだったかしら?」
冷え切った声が、刃のように空気を切り裂いた。
「そのとおりです。実は町の司祭様も、避難民の中にいらっしゃいました。少し前に状況をお伝えしましたので、すぐに聖水を用意して、こちらへ向かわれるはずです」
アメルダは、そんな手続きなど無視したかった。だがこれは、王室の名のもとに正式に執り行われる処刑だった。判決文を読み上げ、司祭の祈りを捧げる──その最も基本的な手順を省くことはできない。
「……わかりました」
アメルダは仕方なくうなずき、侍従に天幕と椅子を用意するよう指示した。侍従たちが公爵邸へと走っていく中、アメルダはブリエルへと視線を向けた。
彼女の表情は、何ひとつ変わらない。あの痩せ細った幼い頃を思えば、こんな場で癇癪を起こしてもおかしくはないのに。
「……あ」
その瞬間、アメルダの中にひとつの気づきが走った。もしかすると、ブリエル・セリデンは──クラリスという存在を……子どもが特別好きというわけでもない――それは、彼女自身が一番よく分かっていた。
セリデン公爵の血を引く正統な後継者が、今まさに自分の腹の中にいるというのに、マクシミリアンは、血のつながりすらない幼い少女の命を守ろうと、必死に抗っている。その姿を、不快に思う者もいるだろう。――いや、むしろ、そう思う者のほうが多いに違いない。
「少し……遅いわね」
そう呟きながら、ブリエルはつま先を浮かせ、まるで司祭の到着を心待ちにしているかのような素振りで辺りを窺った。
なぜだろう。それが、妙に可笑しかった。
あの少女が死んだあと、公爵夫妻はいったいどんな顔をするのだろう。それでも妻を愛していると言っていたマクシミリアンの心は、果たして変わるのか。それとも――彼もまた、完全に壊れてしまうのだろうか。少し前のライサンダーのように。
アメルダは、司祭の到着を焦がれるように待つブリエルの姿を、マクシミリアンにも、ぜひ見せてやりたいと思った。
「推測しても仕方ありませんし、少し待ちましょう」
今や、アメルダの方が以前よりも落ち着いていた。
「それならば、大王妃陛下」
ブリエルは彼女の前へ進み出て、穏やかな笑みを浮かべた。
「少しの間、私と一緒に崩れたゴーレムを見に行きませんか?」
こんなときに?
そう思ってブリエルを見返すと、彼女が肩をすくめ、周囲の視線を意識していることに気づいた。
「こちらを見ている人が多くて、落ち着かないでしょう?」
アメルダはうなずいた。
「そうですね」
「こちらです、陛下」
ブリエルは、少し前に兵士たちが掘り下げた穴の方へと向かった。妊娠中の彼女でも無理なく降りられるよう、木の板で階段が組まれており、足取りも難しくないよう配慮されていた。
それは、彼女がこれまで見てきた中で、最も下劣な光景だった。
アメルダは、彼女の背後について歩いた。
――こんなものだったのか。
王宮の中庭、降伏の証として掲げられた巨大な王の彫像。その残骸よりもなお巨大な岩が、彼女の視界を覆い尽くしていた。この場所については、報告も命令も数えきれないほど耳にしてきた。けれど、こうして自分の目で確かめるのは、これが初めてだった。
――こんな途方もないものが、自ら動き、彼女の夫を押し潰したというのか。
ゴーレムを実際に目にしたことのない彼女には、到底信じがたい話だった。
「何度見ても……神秘的ですね」
隣で、ブリエルが無言のまま硬い岩肌にそっと手を当てた。
「こんな、どこにでもありそうな石に……命が宿るなんて……」
そのとき、遠くから慌ただしく近づいてくる人影が見えた。年老いた侍女だった。
「陛下。どうやら、邸内の臨時治療所に――」
言葉は、そこで途切れた。
「少し問題が起きているようです。よろしければ、しばらく侍女の話を聞いてから戻ってきても構いませんか?」
「そうしてください」
アメルダはうなずき、再び崩れ落ちたゴーレムの方へと向き直った。いつの間にか耳を覆いたくなるほど騒がしかった群衆の怒号は、ほとんど聞こえなくなっている。
彼女は慎重に手を伸ばした。手のひらと、ざらついたゴーレムの表面との距離が少しずつ縮まるにつれ、なぜか心臓の鼓動がさらに速まっていった。
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王女クラリスの処刑を巡る、群衆の扇動とセリデンの民の戸惑い
大王妃アメルダが幼い子どもたちや民を厳重な監視下に置きつつ進軍する中、兵士や騎士たちの煽りによって「王女処刑」の過激なコールが巻き起こる。しかし、処刑台に立つ少女が、かつて自分たちと雪かきを共にした心優しいクラリスだと気づいたセリデンの民は、その現実に戸惑いとズレを感じ始める。
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アメルダの焦燥と、クラリスを排除しようとする冷酷な執念
民の空気の変化を察したアメルダは、処刑を急ごうと焦る。アメルダにとってクラリスは、かつて自らの行く手を阻んだエレオノールそのものの姿に見えており、邪魔な彼女を消し去ることで、マクシミリアンを失脚させ、自身の息子たちを完全に手元へ取り戻そうと目論んでいた。
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ブリエル公爵夫人の時間稼ぎと、ゴーレムの足元への誘導
マクシミリアンの妻ブリエルは、身重の体でありながらも冷静さを保ち、「司祭の到着を待つ」という名目で正式な手続きを求め、処刑の時間を引き延ばす。さらにブリエルは、アメルダを言葉巧みに先王エレオノールの遺体が眠るという「崩壊したゴーレムの穴」へと連れ出し、さらなる時間稼ぎを試みる。