こんにちは、ちゃむです。
「公爵邸の囚われ王女様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

107話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 日常
週末が終わり、首都学院は再び日常に戻っていた。
クラリスは一つの朗報を聞いた。
それは、今朝早朝の掃除の罰がこれで終わるということだ。
彼女と友人たちは神父の前で、「もう二度と成績を下げません!」と声を揃えて誓い、あの恐ろしい罰から解放されることができた。
朝の運動と食事が終わった後、部屋から勉強道具を持って廊下に出ると、彼女は思いがけない人物と鉢合わせた。
それはエイビントン・ベルビルだった。
どうやら彼は、クラリスが出てくるのを待っていたようだ。
「……?」
彼は今日も誘惑を堪えた表情を浮かべながら、クラリスに黄色い蜜入りの籠を差し出した。
「神父様から。」
「……私に渡すようおっしゃったのですか?」
「いえ、神父様が私にくださったものです。これは私のものです!」
「ええ、どうぞおいしく召し上がれ。」
「い、いや!受け取れということです!」
「……。」
クラリスは蜂蜜がかなり好きな方だったが、エイビントンから渡されるものをどうしても受け取りたくなかった。
何となく気が進まなかったのだ。
それなのにエイビントンは、大きな蜂蜜籠を抱えながらよだれが出そうな様子でごくりごくりと唾を飲み込んでいた。
「食べたいんじゃないのですか?」
「そ、それは、食べたいさ!でも……後で食べるよ。だって、僕たちは……友達だから!うわっ!言っちゃった!なんてこった!」
「……。」
クラリスは呆れた目で彼を見つめた。
なぜかその蜂蜜を食べたら自分の体に悪い影響があるような気がしてならなかった。
「今すぐ私の友情の証を受け取るんだ!受け取れよ!」
彼は恥ずかしげもなく、他の試験生たちがチラチラと彼を見ているにもかかわらず、クラリスの後ろをずっとついてきて蜂蜜の籠を差し出し続けた。
ついに我慢できなくなったクラリスは足を止め、彼を振り返った。
彼はしぶしぶ凍ったような蜂蜜を再び差し出し、クラリスはその籠を軽く押し返しながら最大限険悪な表情を作った。
「絶対に受け取りません!どこか行ってください!本当にもう!」
その激しい反応に驚いたのか、彼はその場で一瞬立ち止まった。
「食べ物をあげると友達になれる……いや……なれるんだよね……?」
彼の独り言のような呟きにクラリスは返事をせず、階段へ向かって立ち去った。
それでもなぜか気になり振り返ってみると、エイビントンがまだそこに立ち尽くしているのが目に入った。
そのそばを通り過ぎる試験生が数人いたが、彼に声をかける者はいなかった。
むしろ、密かに眉をひそめたりする者たちばかりだった。
「コホ。(あれを可哀そうだと思うのは、彼自身だね。)」
髪の間から漏れ聞こえるように聞こえた呟きに、クラリスは少し驚きつつも、早足で階段を降りていった。
「可哀そうじゃない。全然可哀そうじゃない……。」
自習室の前で偶然ユゼニーに会った。
クラリスが何度も「可哀そうじゃない。」と呟いているのを見ていたのか、ユゼニーは少し奇妙そうな目で彼女を見ていた。
「えっと、ベルビルさんのせいなんです。」
クラリスは慌てて弁解した。
「しきりに友達になろうとしてくるんです。」
「……エイビントンのことですか?」
ユゼニーの目が一瞬揺れた。
クラリスの言葉が簡単には信じられない様子だ。
「はい、私に蜂蜜のバスケットを渡そうとしたんです。先生に受け取ってきたと言いながら。」
「エイビントンのことですか?」
「そうなんですって。昨日は出入り名簿で私の名前を探すのを手伝ってくれたとか言うんですよ?」
「あのエイビントンが!?」
クラリスは激しく扇子を握りしめた。
少し考え込んだユゼニーは、真剣な表情でこの状況を説明できる唯一の答えを出した。
「エイビントンが勉強をすごく頑張ったとか……?」
「ああ、それは知ってます。」
クラリスは、以前にクエンティンから首都院に関する話をよく聞いており、その中には勉強に没頭しすぎて変わった人になったという話も含まれていた。
「以前は雨が降るたびに突然首都院を去るような人もいたって……。理由もなくローブを着たまま走り回る修道院生もいたとか。中庭の小さな池にインクを投げ込んで遊んでいた生徒もいたらしいです。」
そんな伝説が予想以上に多様だったようだ。
ユゼニーも扇子を握りしめながら他の例を伝えた。
「夜通し部屋にこもって騒いでいた修道院生もいたと聞きました。」
ちょうどその時、蜂蜜の籠を抱えたエイビントンがそそくさと階段を下りていくところだった。
ユゼニーとクラリスは同時に彼を見つめた。深い感慨が込められたまなざしで。
「どれだけ熱心に勉強してきたんだか……。」
しかし、彼が扇子を拾い上げてクラリスの方を見つけると、二人の目が一瞬大きく見開かれた。
その直後、全身に鳥肌が立つようなぞくっとする感覚を覚えた。
「ユ、ユゼニー!じゃあ私は失礼しますね。今日はいい一日をお過ごしください!」
慌ただしく挨拶を済ませたクラリスは急いで姿を消した。
幸いにも、自習室から逃げ出せたのは幸運だった。
その道を歩きながらも、彼を探そうとしていた矢先だった。
「ノア!」
クラリスは彼の冷たい腕を掴んだ。
「少女?」
振り返った彼を見ると、クラリスに近づこうとしていたエイビントンが、なぜかノアを発見した途端に動揺して立ち止まっていた。
ノアを恐れているような様子だった。かわいらしい猫の仮面をつけたノアがなぜ怖いのか分からなかったが、とにかくそう見えた。
今、ノアの手の中で揺れているあの赤い光のせいだろうか?
それが何なのかは分からなかったが、ノアが人に危害を加える魔法を使うわけではないので、何か別の無害な魔法であることだけは明らかだった。
「彼女をなぜ追いかけているんですか?」
「友達になりたいらしい。」
「……ベルビルのことですか?」
「うん、彼が私に蜂蜜の籠を渡そうとしたんだ。」
「ベルビル?」
「うん、昨日出入名簿で私の名前を探すのを手伝ってくれたって?」
「えっ、あのエイビントン・ベルビル?」
クラリスは冷たい視線を彼に送りながら、軽く肩をすくめた。
「ユジェニがそう言ってたけど、勉強しすぎてそうなったのかもね。」
「確かに、魔法騎士団にも似たような例があったよ。雷雨が鳴る夜ごとに外に飛び出して行く者たち。」
「それって……本当に気味悪いね。絶対に見たくないよ。」
「学問への情熱って時々怖いものね。だから、少女も常に休息と勉強のバランスを大切にしないといけないのよ。」
「うん、そうだね。でも、ノア。」
クラリスは彼をじっと見つめ、一瞬考え込んだあと、慎重に質問を投げかけた。
「もしかして……私、何か間違えた?」
クラリスがそう尋ねたのは、ノアの行動が普段と違うことが原因だった。
今日は最後の朝の清掃がある日だったのだ。
しかし、彼は今までとは違い、クラリスと一緒に移動することはなかった。
朝食後もなんとなく一人でどこかへふらっと行ってしまい……。
別にノアがクラリスと常に一緒にいるべき理由はなかった。
けれども、こうして突然行動が変わったのは、クラリスが何か間違ったのではないかと思わせて、気がかりだった。
「う……」
彼も何か引っかかることがあったようだった。
悩むように仮面をいじる姿が見えた。
「しょ、少女が悪いわけじゃないよ。ただ、少し居心地が悪いだけで……。」
「でも言って。ノアが居心地悪いと感じるなら、私も気をつける必要があると思うから。」
「本当に違うよ。絶対に違う。」
「それでも……。」
ノアがクラリスを不快に思うなんて、それはあまりにも胸が痛む話だった。
クラリスがためらいながら何も言えずにうつむいていると、彼はクラリスの前に片腕をそっと差し出した。
「……?」
ひらりとたなびくローブの下には、白いリボンが結ばれていた。
「あ。」
それはノアとクラリスの友情を象徴するもの。
つまり、ノアは自分が何も変わっていないと伝えたかったのだろう。
『何か……言えない事情でもあるのかな?』
クラリスは友達として彼の話を聞いてみたいという気持ちが湧いたが、それを抑えた。
『私だって、自分の話をノアにすべて伝えているわけじゃないもの。』
彼に話せない秘密があったとしても、クラリスにとってノアはとても大切な存在だった。
おそらくノアも同じ気持ちなのだろう。
「これ以上は聞かないけど、どうしても辛くなったら言ってね?」
「うん、分かったよ。ところで、少女は勉強に向かう途中なのかい?」
「そんなところだけど、今はノアに話したいことがあるの。」
「僕に?」
クラリスはコケをいじりながら、一度周囲を見回した。
自習室の近くには多くの学生が集まり始めていた。
つまり、秘密の話をするには適切ではない環境だということだった。
「ノア、私の部屋に行かない?」
「……!」
突然息を呑むノアに、クラリスはくすっと笑った。
「もし私の部屋が嫌なら、私がノアの部屋に行ってもいいけど?」
「ど、どちらもあまり良い考えじゃない気がするよ。」
「でも、静かに話すにはそれしか方法がないよね。」
しばらく無言のまま熱心に考えていたノアは、「やはり正直ではありませんね。」といいながら、そっと苔をいじった。
「それよりも外を散歩しながら話すほうがいいと思います。首都院の外は人が少ないので、話すには適しているでしょう。」
「うん、そうしよう。」
静かに話せる場所ならどこでもよかったため、クラリスはさっと苔を手から離した。







