こんにちは、ちゃむです。
「憑依者の特典」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
156話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 贖罪の巡礼
神々は言葉を失っていた。
沈黙が長引くほど、私の胸の奥はますます熱を帯びていく。何かが何度も喉元まで込み上げてくるような感覚だった。
[『天機を見通す監察官』が長いため息をついています。]
[『天機を見通す監察官』が、主人公はまだ死んでいないと言っています。]
「……え?」
「テシリドが生きているって?」
「本当ですか!?」
気づけば、私は勢いよく立ち上がっていた。
[『天機を見通す監察官』が、「今回の回帰」の主人公はこの程度では死なないと言っています。]
確かに前向きな返答だった。だが、どこか含みのある言い方でもある。詳しく聞き返そうとしたが、その機会は与えられなかった。
[『天機を見通す監察官』が姿を消しました。]
他の神々でもなく、あの監察官様がわざわざ教えてくれるとは思わなかった。心の中で深く感謝しながら、私は考え込んだ。
まずはテシリドが無事だという証拠を探すことにした。幸い、私と彼は亜空間倉庫を共有している。ポーションの数を確認すると、山のように積み上げていたヒーリングポーションがかなり減っていた。
私が眠っている間、テシリドが激しい戦闘を繰り広げていた証拠だ。
(少なくとも、今は生きている……!)
監察官様が職務規定を破ってまで教えてくれた情報を信じるなら、彼の生存はほぼ確実だった。つまり、あの絶望的な戦いはテシリドの勝利で終わったのだ。
一人でSS級ボスを討伐したという事実には驚かされた。私を殺すためにダンジョンの難易度が引き上げられていたのだから、私がダンジョンシンクで離脱した後、難易度が本来の水準に戻ったのだろうか。
もしその推測が正しいなら――。
私は今、テシリドのそばに近づかない方がいい。
特別エンディングを教えてくれた『魔女料理人』の話によれば、これから1か月の間、私とテシリドは命の危機にさらされることになっている。もし世界が再び予想外の方法で私たちを狙い、危険の難易度を私に合わせて調整するのなら、それだけは避けなければならなかった。
となると、生き残る方法は二つ。
一つは、テシリドが自力で生き延びる間、私はここで現実時間の1か月が過ぎるまで待つこと。
そしてもう一つは――。
「精霊様、質問があります。ジャンル変更券って、後からでも適用できますか?」
[『世界を構築する精霊』が質問を担当部署へ転送します。]
[『創造経済管理者』が応答します。「可能です」とのことです。]
返事はすぐにかえってきた。
(なら、あとは足りない資金をどう工面するかだな……)
だが、この空間は私にのんびり考えさせてはくれなかった。
[〈システム〉準備時間が終了しました。5秒後、『安全地帯』は消滅し、あなたは宗教儀式へ自動的に参加させられます。]
「……今度は何なのよ」
宗教儀式に強制参加させるダンジョンですって?
戸惑っているうちに、あっという間に5秒が過ぎた。
ゴゴゴゴゴ――!
私を囲んでいた静かな洞窟が崩れ去る。そして目の前に、まったく新しい光景が広がった。
私は果てしなく続く荒野の道の真ん中に、ぽつんと立っていた。
「ここは……?」
[〈システム〉イベントダンジョン『巡礼者の道』が開放されました。]
名前を聞いただけで、だいたい何をやらされるのか想像がつく。案の定、システムは予想どおりの任務を提示してきた。
【クエスト】『悟りのための巡礼(40日コース)』
あなたは巡礼者の道を歩み、12の関門を通過しなければならない。
巡礼を終えた先には、悟りがあなたを待っているだろう。
成功報酬: ダンジョンからの退場権
失敗ペナルティ: ダンジョンからの退場不可
一連の出来事はあまりに突然だったが、頭の中は比較的冷静だった。状況を整理する。
巡礼を終えるまで、私はダンジョンから出られない。クエストは40日コース。そしてダンジョン内と現実世界の時間比率は2.5倍。つまり外の時間に換算すると、私は16日間も閉じ込められることになる。
(16日間ここで安全に過ごせるとしても、外にいるテシリドは大丈夫なのだろうか……)
だが、今は他人の心配をしている場合ではなかった。
[『世界を構築する精霊』が咳払いをします。]
「精霊様?」
私が首をかしげると、気まずそうなメッセージが浮かび上がった。
[『世界を構築する精霊』が、ダンジョンのシンク率を上げるため、不足していた物語性を補う目的で、ダンジョンの難易度を“ヘルモード”に引き上げたと告白します。]
「……は?」
その時だった。
ガチャリ、ガチャリ――ガシャーン!
「……っ!?」
冷たい鉄の感触が、手首と足首をきつく締め付けた。手錠と足枷から伸びた鎖は、巨大な何かに繋がっている。
その先にあったのは、時空を操るような神器などではなく――大人の背丈ほどもある重厚な大理石の彫像だった。
私はしばらく、それを無言で見つめた。天使が抱える十字架を模したその彫像は、芸術作品としては実に見事だった。試しに鎖を引いてみる。
……とてつもなく重い。
だからこそ、こういう時に役立つ切り札を発動した。だが――
[〈システム〉警告。『女王の権能』はこの対象には効果がありません。]
宗教儀式には数多くの制限が設けられていた。こんなものを自力で引きずりながら巡礼しろというのか。
しかし、難易度上昇による追加要素は、この鎖だけではなかった。
ヒュオオオオオ――!
突如として吹き荒れた猛吹雪が、視界を真っ白に染め上げる。このままでは凍傷どころか失明しかねない。瞬く間にまつ毛は凍りつき、まぶたの縁には霜が張った。
ここまで来ると、ダンジョンの外よりも中の方が安全だったのではないか――そんな考えすら頭をよぎる。
(私……本当にここで40日間も生き延びられるの?)
[『均衡を司る読者』が、久しぶりに見事なバランス調整だと満足げです。]
「はぁ……」
どれだけ泣き言を言ったところで、ダンジョンが事情を汲んでくれるわけではない。一度足を踏み入れた以上、従うべきはダンジョンのルールのみ。
私は覚悟を決め、インベントリから防寒装備をありったけ取り出した。
毛皮のマント。厚手の手袋。マフラー。耳当て。防寒ブーツ。全身を厳重に包み込み、ようやく吹雪に対抗できる格好を整える。
そして、大理石像に繋がった鎖を両手で強く握りしめた。
ぎりっ――。
重い。想像以上に重い。それでも歯を食いしばり、一歩を踏み出す。
「はぁ……はぁ……」
[『世界を構築する精霊』が、自分はあなたを苦しめるためにこのダンジョンを作ったわけではない、と弁明します。]
一歩一歩が重く、そして苦しい。まるで世界そのものを背負いながら、贖罪の道を歩くような気分だった。
――これが、いつも世界の重荷を一人で背負っているテシリドの気持ちなのだろうか。
(16日間、絶対に生き延びてよ。テリ)
私はテシリドの顔を思い浮かべ、頭の片隅ではジョブ変更券の値段を計算しながら、黙々と歩き続けた。
どれほどの時間が経っただろう。思っていたより早く、第一の関門へとたどり着く。
吹雪が少し弱まり、視界が開けた先に――巨大な関門がその威容を現していた。
この関門を突破する方法は単純だった。門番を倒すこと。
予想どおり、豪華な鎧に身を包んだ老人が前へと歩み出てきた。その身から放たれる気配は尋常ではない。どこか人間離れしているとは感じていたが、その直感は正しかった。
〈ようこそ、異端の聖女よ〉
霊的な響きを帯びた声。言葉遣いからして、秩序教団に属する聖職者なのだろう。私は相手を見つめ、目を細めた。初対面のはずなのに、なぜか見覚えがある。
――スッ。
その時、老人が抜き放った剣が私の目を引いた。それは、テシリドが持つ聖剣リブラとまったく同じ形状の剣だった。
「まさか、あなたは……」
驚く私を見て、老人は感慨深げにうなずく。
〈気づいたようだな。いかにも。我が名はバルクス・オドレン。伝説の聖剣の主であり、『厳正なる秩序と善』教団の聖人名簿に名を刻んだ十一人の一人……〉
「魔女狩りの英雄! イレオネおじいちゃん!」
魔女狩りによって数百人を虐殺したオドレン家の汚点。その名を口にした瞬間――老人の皺だらけの顔がぴくりと引きつった。
キィィィン!
私の左右に二列の槍が出現し、整然と並ぶ。
〈異端の聖女よ。死を覚悟してかかって来るがいい〉
・
・
・
大真理のバイブルからアイレットの近況を聞くにつれ、テシリドの表情は何度も目まぐるしく変わった。驚き、怒り、そして心配――。
感情が次々と浮かんでは消えていく。長い沈黙の末、ようやく彼はいつもの冷静な表情を取り戻した。
「歴代の聖人たちが試練を受けた場所とはいえ……」
彼女の強さを信じてはいる。だが、理性と感情は別問題だった。テシリドには、ただ彼女の無事を祈りながら待つことなどできなかった。
冷え切った表情のまま、彼はバイブルへ視線を向ける。
「次の質問です」
〈何が知りたい?〉
「アイレット・ロデラインを救う方法は?」
実のところ、テシリドは状況を決定的に誤解していた。
彼は長年の壮絶な体験から、一つの結論にたどり着いていた。世界は再び、彼から大切な人を奪おうとしている――と。
彼はこれまで幾度となく命を狙われ、大切な人々はいつも裏切りや喪失という形で彼のもとを去っていった。だからこそ確信していたのだ。世界がまた彼女を奪おうとしているのだと。
自分を殺そうとしたレヴィアタンは倒した。残る脅威は、彼女を連れ去ったダンジョンシンクだけ。
だからこそテシリドは尋ねた。ダンジョンシンクから彼女を救い出す方法を。
どうやってダンジョンへ侵入し、どうやって彼女を連れ戻すのか。必要な情報を一度に聞き出せる、最も効率的で重要な質問だったはずだ。
しかし――返ってきた答えは、テシリドの予想とはまるで違っていた。
大真理のバイブルが提示した解決策は、ダンジョンシンクへの介入などではなかったのだ。
〈最低でも五十万ゴールドを集めなければならない〉
それは、彼女に課された「ジャンル変更(名前変更)ペナルティ」を解除するための条件だった。
「……何ですって?」
あまりにも俗っぽく、現実的な答えに、テシリドは思わず言葉を失った。
金を稼げ、だと? いったい何の話だ。どうしてそんな結論になるのか理解できなかった。
冗談のような話だった。だが、その言葉の出所は大真理のバイブルだ。神々が意図的に隠そうとしている内容でなければ、質問者の認識をはるかに超える領域の真実まで教えてくれる。だから軽く受け流せるはずもなかった。
テシリドの表情は真剣そのものになった。彼は思考を激しく巡らせ、バイブルの答えから少しでも多くの情報を引き出そうとした。
そして思い返せば、以前にも似たような話を聞いたことがあった。
アイレットとともに人魚のダンジョンで薬草を採りながら話していた時のことだ。
『生まれつき背負った呪いがあるの。解呪するには、少なくとも百万ゴールド、多ければ数百万ゴールドを現金で支払わなきゃいけないらしいのよ』
『呪い? どんな呪いだ?』
『私が愛した人は、絶対的な力によって理不尽な死を迎えるの。そして私も後を追うように死ぬ』
その時の会話が、不気味なほど今の状況と重なった。
「まさか……」
テシリドは胸の奥で何かが激しくざわめくのを感じた。動揺と混乱で、まるで冷静になれなかった。
今起きている出来事は、自分に向けられた世界の悪意や殺意だけが原因ではないというのか。
――アイレットが生まれながらに背負った呪いが発動した結果だと?
そして、その呪いが発動するための条件とは――「彼女が愛した人」という部分に他ならない。
「……」
ある一筋の可能性が、一瞬で彼の脳裏を支配した。
テシリドの胸が大きく波打ち、荒い呼吸が漏れる。何度深呼吸しても、その動揺は収まらない。自分の心臓が壊れたのではないかと思うほど激しく脈打っていた。
焼けつくような渇きと、胸の奥から込み上げる熱の正体が分からなかった。彼は熱くなった手のひらで顔を覆い、そのまま額から顎先までゆっくりとなぞった。
まさか――本当に?
(僕を……?)
「ああ……」
ようやく少しだけ実感が湧いてきた。だが、それでも冷静さを取り戻すにはかなりの時間が必要だった。乱れた表情は、何度も深呼吸を繰り返してようやく隠せる程度になる。
テシリドは必死に思考を整理した。今は浮かれている場合ではない。まずは、バイブルが示した解決策を実行する方法を考えなければならなかった。
五十万ゴールド――。その莫大な金額をどうやって集めるか。
彼がその問題について真剣に頭を悩ませていた時だった。
〈最後の質問は何だ?〉
大真理のバイブルが、静かにそう問いかけた。
「……」
テシリドは息を呑んだ。それまで考えていた問題を脇へ置き、意識を最後の質問へ集中させる。
長い沈黙の後、バイブルが催促する。
〈愚かな人間よ。知りたいことを言え〉
「知りたいこと……」
彼はその言葉をゆっくりと反芻した。
実のところ、ずっと気になっていたことがあった。真理のバイブルにも何度となく尋ねたが、ついに答えを得られなかった問い。
――回帰を止める方法。
大真理のバイブルなら、その答えを知っているだろうか。
期待よりも、むしろ諦めに近い感情が胸を満たしていた。今回も望む答えが得られないのではないか。そう思いながらも、彼はわずかな希望を捨てきれなかった。今日になって初めて、自分の人生にも光が差し込む可能性があると知ったのだから。
胸の奥に残る希望をかき集め、彼は勇気を振り絞って口を開く。
「どうすれば……」
言葉を発しかけた瞬間、過去の回帰で交わした問答が脳裏をよぎった。
18回目の人生で、彼は自分が回帰を繰り返す理由を尋ねた。返ってきた答えは――『世界を救うため』。
19回目には、世界をどう救うのかを問うた。『三魔王を討伐し、最後のダンジョンで封印された混沌の悪魔を再び封じれば世界は救われる』――。
18回目の人生でそう聞かされてから、80回目までは神の代弁者として忠実にダンジョン攻略法を尋ね続けた。しかし神にも世界にも裏切られた。
そして89回目の人生で、彼は再び「真理のバイブル」を訪れた。その後は何度も何度も、回帰を止める方法について問い続けた。だが、それは質問というより懇願に近かった。
これほどまでに人生を浪費し、惨めにもがき続ける結末を見せれば、自分の悲痛な願いが一度くらい神に届くかもしれない。そう思っていた。だが違った。
本当に意味のある質問をするようになったのは、すべてを悟った99回目の人生に至ってからだった。彼は世界が滅びる理由――すなわち真実を問い続けた。
そして幾度もの回帰を重ね、地獄の底まで見てきた117回目の今。
ついに尋ねようとしていた。
長年抱き続けた願いを叶える方法。
――「死」。
そして、この時間軸で新たに芽生えた願いを叶える方法。
――「アイレット・ローデライン」。
その二つを同時に満たせるかもしれない、たった一つの問いを。
彼はついに口を開いた。
「……どうすれば、私は幸せになれますか?」
その言葉を発した瞬間、体の奥から熱いものが込み上げてきた。まるでその一言を吐き出すために、腹の底を焼き、胸を焦がし、喉を締めつけられていたかのように。
そうだ。
この時間軸で最後に世界を救い、平穏な場所で歳を重ね、愛する人と手を取り合いながら人生を終えられたら――どれほど幸せだろう。
彼が望むものは、ただそれだけだった。
豪華な栄光でも、神の座でもない。ごく平凡で、穏やかな人生。人間らしい人生。
だが、そんな願いは単純に混沌の悪魔を封印して世界を救うだけでは叶わない。かといって、世界そのものを滅ぼし、回帰の仕組みを破壊したとしても叶わない。
それを誰より理解しているからこそ、深い無力感が胸を締めつける。
「……はは」
重苦しい気持ちをごまかすように、彼はわざと声を出して笑った。乾いた笑い声が虚しく空間に響く。
彼は続く言葉を飲み込んだ。どうせ「そんな方法はない」と告げられるだけだと思ったからだ。もしそう宣告されたら、自分はこれからどう生きればいいのか。
いっそ何も知らなかった頃に戻れた方が幸せではないか。再び回帰し、永遠の憂鬱に身を沈め続けるのも悪くないかもしれない――。
そんな諦めに沈みながら、世界で最も弱い人間として、床の隙間から見える黒い虚無をぼんやり眺めていた。
その時。
不意に、得体の知れない存在の声が響いた。
〈改宗すればよい。〉
「……」
彼は言葉を失った。
まさか答えが返ってくるとは、夢にも思わなかった。それだけでも十分に衝撃的だったが、その内容はさらに常識外れだった。
「……何だって?」
〈改宗せよ。信仰する神を変えればよい。〉
聞き間違いかと思い反射的に聞き返したが、返ってきた言葉は変わらない。つまり、本当にそういう意味だった。
――改宗。
その言葉はテシリドの価値観そのものを根底から揺るがした。
人間の精神を縛る世界観や信念は強固だ。まして彼は「厳格な秩序と善」の教団に属する聖騎士。生まれてからずっとその教えの中で生きてきた。
神に利用され、裏切られ続けてなお、彼は無意識のうちにその枠組みから抜け出せずにいたのだ。だからこそ、「厳格な秩序と善」以外の神を信じるという発想自体、一度たりとも真剣に考えたことがなかった。
だが今――その絶対だと思っていた認識の枠組みが、音を立てて崩れ始めていた。
「この世界に、他にも神がいるというのか……?」
もし大真理のバイブルがそう語るなら、それは事実なのだろう。
衝撃で思考は揺らぎながらも、テシリドは必死に新たな真実を受け入れようとした。『厳格な秩序と善』以外の神格。そう聞いて真っ先に思い浮かぶ存在は一つしかない。
「……混沌の悪魔を信仰しろということか?」
口にした瞬間、自分でも違う気がした。だが答えを考える暇はなかった。
重々しい音を立てて大真理のバイブルが閉じられ、彼を縛っていた鎖が再び巻き付いていく。
〈三つの質問権はすべて消費された。これにて接続を終了する。〉
宣告とともに、空間を埋め尽くしていた無数の書物がゆっくりと床へ沈み始めた。巨大な図書館が崩れ落ちるように沈んでいき、テシリドは退路を急がなければならなかった。
大真理のバイブルの三つの質問権を使い切ることは、ダンジョンのボスを倒して攻略を完了したのと同じ意味を持つらしい。このままでは魔界の廃棄場へ落ちてしまう。脱出する以外に選択肢はなかった。
彼は崩れかけた本棚の階段を駆け下りる。幸いにも、その先には現実世界へ戻るための出口ゲートが開いていた。
シューーッ……!
ゲートをくぐった彼は、再び魔塔の最上階へと帰還した。
流星群のように光が降り注ぐ高い天井。古びた書物で埋め尽くされた本棚。見慣れた光景が彼を迎える。
しかし現実へ戻った後も、彼の心は混乱したままだった。あまりにも多くの常識が覆された。砕け散った価値観の破片を、どう繋ぎ直せばいいのか分からなかった。
だからこそ、思考に没頭していたテシリドは、その気配に気づくのが遅れた。
コツ、コツ――。
「……!」
自分の足音と寸分違わぬ足音が重なる。
反射的に振り返った先には、思いもよらない人物が立っていた。相手は圧倒的な威圧感を放ちながら問いかけてくる。
「なぜお前がここにいる?」
「……」
鏡に映したかのように、自分と同じ顔を持つ黒髪の男。
その姿を見た瞬間、テシリドは手のひらに冷たい汗が滲むのを感じながらも、自嘲気味に苦笑せずにはいられなかった。
(レヴィアタンを倒しただけでは終わらないのか)
本当に、人生というものはそう簡単に楽をさせてくれない。
世界はテシリド・アルジェンテを殺すために――ついに、彼自身(もう一人のテシリド)を送り込むに至ったのだ。
重要ポイントを3つにまとめました。
-
アイレットの無事判明と「試練の道」開始
テシリドが生きてSS級ボスを倒したことを知り安堵したアイレットだが、現実時間16日間(ダンジョン内40日)のヘルモードダンジョン『巡礼者の道』へ強制参加させられ、重い石像を引っ張りながら第一関門の門番と対峙する。
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テシリドの誤解と「愛」の自覚
アイレットを救う手段を尋ねたテシリドは、大真理の聖書から「五十万ゴールド集めろ」と言われ困惑する。しかし、過去のアイレットとの会話を思い出し、今起きている事態が「彼女の呪い(=愛した者が死ぬ)」によるものだと悟り、彼女が自分を愛していることに気づいて動揺・歓喜する。
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最後の質問と「もう一人の自分」の登場
「どうすれば幸せになれるか」という問いに、聖書から「改宗せよ(信仰する神を変えよ)」と予想外のアドバイスを受けたテシリド。脱出して魔塔へ戻った直後、彼の目の前に自分と全く同じ顔をした黒髪の男が現れる。